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[CEDEC 2020]「大規模eスポーツ製作における各社の知見」聴講レポート。取り組み事例や運営手法など,さまざまな意見交換がなされた
モデレーター:
ディー・エヌ・エー ゲーム・エンターテインメント事業本部ゲーム事業部マーケティング統括部 統括部長:齋藤亮介氏
パネリスト:
ディー・エヌ・エー ゲーム・エンターテインメント事業本部ゲーム事業部 エグゼクティブ・プロデューサー:杉山晃一氏
アリカ 代表取締役社長:西谷 亮氏
バンダイナムコスタジオ 第1スタジオ第2プロダクション プロデューサー/ゲームディレクター:池田幸平氏
バンダイナムコエンターテインメント 第3IP事業ディビジョン ニュービジネスプロダクション esports課 esportsプロデューサー:安田イースポーツ氏
Cygames 専務取締役:木村唯人氏
格闘ゲームはどの時点からeスポーツを意識し始めたのか
ディスカッションの最初のテーマは,「格闘ゲームはどの時点からeスポーツ(競技)を意識し始めたのか? また,競技として捉えてからの開発やゲーム設計に変化はあったのか?」。
かつて「ストリートファイターII」の開発を手がけた西谷氏は,同タイトルのリリース当時の日本にはゲームの対戦文化がなかったことを指摘する。とくにアーケードゲームでは1台の筐体を使って見知らぬ人と隣り合わせで対戦しなければならなかったので,極めてハードルが高かったと説明した。ただ,「ストリートファイターII」の対戦自体は面白かったため,小さなゲームセンターなどのコミュニティでは対戦が盛り上がっていたのだが,それを持って一般的に流行っていたとはとても言えない状況だったようだ。
西谷氏が格闘ゲームを競技だと意識し始めたのは,1993年に東京・両国国技館でゲーム大会「ストリートファイターIIターボ チャンピオンシップ'93 IN 国技館」が開催されたときだという。この頃にはアーケード版の「ストリートファイターII」シリーズでも対戦が盛り上がっていたが,西谷氏はその立役者としてプレイヤー同士が向かい合わせで座る対戦台の登場を挙げた。なお,この対戦台を誰が発案したのかは,西谷氏も把握していないとのことだ。
「ストリートファイターII」シリーズを競技だと捉え始めると,西谷氏は競技性も担保しなければならないと考えるようになったという。具体的にはキャラクター間の強さのバランスを,それまで以上にきちんと調整するようになったとのことだ。
また,格好よさやフィニッシュしたときの気持ちよさなどのエンターテイメント性にも,より配慮するようになったという。ただし,当時は使えるメモリの容量が少なかったため,凝った演出を作れなかったようだ。
グローバルで競技シーンを活性化するために,開発面で注力していることと
続いてのテーマは,「グローバル向けに『鉄拳7』の競技シーンを活性化するために,ゲーム制作側として注力していることは何か?」。
「鉄拳7」の開発プロデューサー兼ゲームディレクターを務めるナカツ氏こと池田氏は,「上達に向けたプレイサイクル」と「観戦する人を意識した仕様」の2つを挙げた。
上達に向けたプレイサイクルはプレイヤー向けの施策で,具体的にはプレイの上達をサポートする仕様を実装した。それらの仕様のうち「MY REPLAY & TIPS」は,プレイヤーの対戦リプレイ映像からプログラムが改善点や上達ポイントを検知し,「もっといい空中コンボができる」「この技をガードしたら反撃できる」といった情報を知らせてくれるというもの。この仕様の設計には,池田氏が前職で格闘ゲームの攻略映像を制作していたときの手法を応用したという。
さらにはTIPSで得た情報をもとに,プレイヤー自身が練習できる「確定反撃練習」なども用意し,自分の成長を実感できるプレイサイクルをゲーム内で完結させているとのことだ。
観戦する人を意識した仕様は,競技シーンを盛り上げるにあたって必須だと考え,「鉄拳7」の開発初期段階から意識していたという。その意識は「レイジアーツ」と「スーパースロー演出」という形で実現した。
レイジアーツは,キャタクターの体力が少ないときに繰り出せる一発逆転の大技だ。加えて3D格闘ゲームは技数が多く,展開も早いので,詳しくない人が観戦しても何が起きているのか理解できないケースも多い。そこでレイジアーツに時間停止を伴うカットイン演出を入れ,分かりやすく盛り上がる瞬間を作ったわけだ。
スーパースロー演出は,お互いの体力がギリギリの状態で攻撃が交差すると,リアルタイムで発生する。これは「盛り上がる瞬間をプログラムで先読みし,リアルタイムで演出を入れられないか」という,「鉄拳」シリーズ総合プロデューサーの原田勝弘氏が10年以上にわたって温めていたアイデアを実現したもの。リアルスポーツではできない,ゲームおよびeスポーツならではの演出により,プレイヤーと観戦者の間で手に汗握る瞬間を共有できるのである。
eスポーツタイトルのグローバル展開に求める共通項
3つめのテーマは,「『TEKKEN World Tour』などの経験から,eスポーツタイトルのグローバル展開に求める共通項は何か?」。
バンダイナムコエンターテインメントのeスポーツ展開を担当する安田氏は,「eスポーツは競技である前にゲーム。そのゲームが大好きな人達が1か所に集まり,プレイする人と観る人に分かれて盛り上がっている状態を作るために欠かせないのが,コミュニティの熱量」と回答する。そのため同社では,ワールドツアーを企画する際に,「eスポーツというキーワードをフックにして,コミュニティベースで盛り上げるにはどうすればいいか」を考えるという。
例えば「TEKKEN World Tour 2019」では,バンダイナムコエンターテインメントに申請すれば,企業やコミュニティ,あるいは個人が主催する大会でもワールドツアーのランキングポイントを獲得できる「DOJO」システムを採用した。このシステムにより「鉄拳7」の熱量の高いコミュニティが,パキスタンやペルー,コートジボワールといった,日本ではあまり馴染みのない国や地域でも形成されていることを把握できるようになったという。
さらに大きな大会や海外の大会に参加しなくとも,グローバルランキングにエントリーできるということで各コミュニティが盛り上がり,結果としてワールドツアー自体の盛り上がりにも貢献したとのこと。安田氏は,今後このシステムをもっとブラッシュアップしていくとし,とくに大会主催者へのリスペクトを強くしていきたいと話していた。
なお,このシステムを悪用してランキングポイントを不正に獲得するプレイヤーも出てくるのではないかという疑問も浮かぶが,安田氏によると相応のチェックは当然しているものの,基本的には性善説のもと運用していたという。
具体的には規模の大きい大会ほど獲得できるランキングポイントが多くなるのだが,そのぶんレギュレーションなどのチェックも厳しくなるとのこと。中には,コミュニティ同士の横のつながりにより,不正をしている人たちの話が安田氏らのもとに届くケースもあったそうだ。
また,仮にトップランクに入るようなプロプレイヤーが不正をしたとしても,それがバレたら競技人生が終わってしまうため,そんなバカなことはしないだろうというのが安田氏らの見解である。
コンシューマゲームとモバイルゲーム,それぞれのeスポーツに求められるもの
4つめのテーマは,「クロスプラットフォームのゲームが増えているが,コンシューマゲームやモバイルゲームなどでeスポーツタイトルとして求められるものや見せ方に,どのような違いがあるか?」。
コンシューマゲームとモバイルゲームの双方でeスポーツを手がけてきた杉山氏は,大前提として操作系インタフェースの違いを挙げた。つまりコンシューマゲームはコントローラで操作するため,ネットワークなどほかの環境条件を考慮に入れなければ,基本的には全員が同条件でプレイできる。一方,モバイルゲームは端末に搭載されたタッチパネルで操作するため,操作性は端末のレスポンスや性能に依存する。
したがって操作性の観点から見ると,フレーム単位の入力やクイックレスポンスが求められる格闘ゲームやシューターなどは,コンシューマゲームのeスポーツタイトルに向いていると言える。
逆に,精密な操作やスピードを求められないデジタルカードゲームやストラテジーなどは,モバイルゲームのeスポーツタイトルとしてもプレイしやすい。また,画面上のさまざまなポイントにアクセスしなければならないゲームも,モバイルゲームのeスポーツタイトル向きだという。
以上のことから杉山氏は,「ゲームは遊ぶ人のユーザーエクスペリエンスが重要。その意味でeスポーツタイトルには,いかに快適に遊べる環境を提供できるかが求められる。観る人のことを考えるのはその次」との見解を示した。
また,eスポーツタイトルの見せ方に関しては,観る人を「そのゲームをリアルタイムで熱心にプレイしているプレイヤー」「自分もそこそこプレイしつつ,他人のプレイ動画を楽しむプレイヤー」「そのゲームをまったくプレイしてない視聴者」という3つのカテゴリーに分けて説明した。それぞれのカテゴリーが求める要素は違い,とくにプレイヤーと視聴者では大きく異なるという。
また,前提として視聴者はプレイヤーよりも圧倒的に多いとし,そのため,視聴者がパッと見て面白いと感じる環境を作り出せなければ,大きな盛り上がりを作ることは難しいと杉山氏は語った。
加えて杉山氏は,「カメラが主観によるほど情報量が少なくなり,全体で何が起きているか分かりにくくなる。逆に俯瞰になるほど情報量が増えて全体が分かりやすくなるが,プレイヤーが何をやっているのか分かりにくくなる」とし,「最近は観戦モードを実装しているeスポーツタイトルも増えているが,動画コンテンツとして昇華させるためには,カメラなどの調整がポイントとなる」とも話していた。
観戦モードや大会での見せ方に施された工夫
5つめのテーマは,「eスポーツに必須の観戦モードや大会での見せ方にどのような工夫がされているのか?」。
「Shadowverse」を手がける木村氏は,「デジタルカードゲームだと,格闘ゲームなどと比較すると動きが少ないので地味になりがち」として,同タイトルでは「カード使用時のエフェクト」「進化演出」「観戦モードの実装」の3点でeスポーツを意識していると説明した。
「Shadowverse」では,対戦中に戦況を変えるようなスキルが発動したとき,一瞬プレイを止める派手なエフェクトが入る。これには,「鉄拳7」の演出と同じく,観ている人に「ここで盛り上がってください」と呼びかける効果がある。
また,一定の条件を満たすと発動する「特殊召喚」のエフェクトも,プレイヤーや観ている人に爽快感を与えるように作っているという。これらのエフェクトは長すぎるとプレイのテンポを崩すため,慎重に時間を決めているそうだ。
進化演出は,ゲーム的に重要なシステムであるカードの進化をより印象づけるために施した演出だという。プレイヤー各自のリーダースキン(キャラクター)のアニメーションをメインに据えており,ゲームにとってもプレイヤーにとっても特別な瞬間であることをアピールしている。
観戦モードは,観戦者が対戦を観戦できるのはもちろん,戦っているプレイヤー2人の手札やバトルログなどさまざまな情報にアクセスできるようにしているため,実況・解説者がプレイの状況を把握しやすい。
また,対戦で使われている言語にかかわらず,観戦モードで使っている端末の言語に変換されるので,翻訳を挟むことなく世界大会を多言語でサイマル放送できるという。
社内でのeスポーツの位置付け
6つめのテーマは,「積極的にeスポーツ展開を行うパブリッシャー内での,eスポーツの位置付けはどうなっているのか?」。
安田氏は,「パブリッシャの本質は面白いゲームを作り,それを顧客に届けて楽しんでいただくこと」とし,「そこに売上を伸ばす,長く楽しんでいただく,DLCの販売を伸ばす,IPを拡大するなどいろんなミッションが付随するが,『鉄拳』シリーズではそれらすべてをひっくるめてeスポーツと呼んでいる」と説明する。
バンダイナムコエンターテインメントでは,これまでeスポーツをプロダクション事業に入れていたのだが,2020年度からは新規事業寄りの位置付けになったとのことで,「各社,いろんな考えのもと試行錯誤している段階なのではないか」との見解を示した。
木村氏は,開発段階から「Shadowverse」をeスポーツとして位置付けていたとし,大会を開催して,それに参加する人と観る人がいて初めてカードゲームとして完成すると説明する。
また,同タイトルのリリース時は,eスポーツを掲げるモバイルゲームは少なかったため,業界全体を盛り上げられることをやりたい,プロプレイヤー施策にも取り組んでいきたいと考えて,これまで展開してきたという。
逆に予想外だったのは,同タイトルのおかげでeスポーツ関連の職業に就けたという人が多かったことだそうで,素直にうれしかったと木村氏は感想を述べていた。
そのほか,パブリッシャが自社タイトルのeスポーツの大会を開催する方向になっていくのか,それとも別のオーガナイザーが開催していくのかという話題には,安田氏が「ゲームの属性による」と回答する。
すなわち格闘ゲームであれば,コミュニティが大会を開催する文化がすでに存在するため,仮にパブリッシャが全部やると言い始めると確実に摩擦が生ずる。安田氏は,「コミュニティやサードパーティに盛り上げていただくことは今後も続く。我々はそこに介入するのではなく,どうやればもっと盛り上がっていただけるか,楽しみたいという人をどうやって増やすかというアプローチをしなければいけない」と語った。
木村氏はデジタルカードゲームが比較的新しいジャンルであり,そこまでコミュニティ文化が強くないことに言及し,自分たちが監修する大きな大会と,コミュニティによる中小規模大会の両軸で展開していきたいと話していた。
日本のパブリッシャ・デベロッパがグローバルeスポーツで進出すべきジャンル
最後のテーマは,「日本のゲームパブリッシャ・デベロッパは,どのようなジャンルでグローバルのeスポーツシーンに勝負を挑むべきか?」。
このテーマは,グローバルでeスポーツと言えばMOBA,FPS,バトロワが主流だが,日本のパブリッシャ・デベロッパはこれらのジャンルがあまり得意ではないという背景に基づいたものだ。
西谷氏は,「こだわらずに,できることは何でもやるべき」としつつ,「個人的には好きな格闘ゲームで挑みたい。日本人は格闘ゲームを作るのが得意という傾向も感じるので,得意な部分を伸ばすのもいい」と語った。
池田氏は,「日本発祥の格闘ゲームを続けていかなければいけないと思うので,挑戦し続けたい」と意気込みを見せた。その一方で,「世界的にシューターが流行っているのは事実なので,企業として日本人が作る新しいシューターの形も模索していかなければならない」とし,西谷氏と同じく,強みを伸ばしたり,新しいものに挑戦したり,流行っているのものをしたりと,やれることは何でもやるべきだと話していた。
杉山氏は,マーケティングの観点から競技人口の多いジャンルにフォーカスするべきだとする。その一方で,「受け入れられるにはジャンルが流行った瞬間に追いつくスピード感を持つか,その流行を凌駕する独自性を持ったものを出せないと勝てない。日本人はそこが苦手」とし,「日本人が得意な細かいチューニングを活かせる格闘ゲームやRTSが向いているが,最終的には作りたいゲームがあればそれを昇華させるべき」という見解を示し,ディスカッションをまとめた。
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