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「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI」にて。国体という枠組みで行われたeスポーツ大会に感じたこと
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国体という枠組みのなかで,文化プログラムとしてeスポーツを採用しようという試みで,47都道府県から代表選手が出場し,各種目で優勝を巡っての競争を繰り広げた。
eスポーツという言葉もだいぶ浸透してきた昨今,果たして「国体でeスポーツ」という試みはどれくらい上手くいったのだろうか。その模様をレポートしたい。
なお本稿は「国体という枠組みにおけるeスポーツはどうだったのか」という点に注目しており,各競技で実際にどのような試合があったのか,については特に論じないことを前もってお断りしておく。
選手を応援しやすい大会
筆者が最初に,そして最も強く受けた印象は「とてつもなく大きな大会だな」という点に尽きる。
都道府県対抗といった国体の仕組み上,北海道から沖縄までの47都道府県から各1チームが参加。さらに,大会ホストである茨城県は2チーム出場できるので全48チームが試合に出場することになる。
今回の大会は「グランツーリスモSPORT」「eFootball ウイニングイレブン 2020」「ぷよぷよeスポーツ」の3種目を使用。出場選手数の上限は,一般の部で「GTスポーツ」が2名,「ウイイレ2020」が5名(控え2名含む),「ぷよぷよeスポーツ」が1名で,さらに別枠の少年の部の選手を加えると,各県の選手団は軽く10人を超えていた。
参加選手の合計は公式発表で600人超とのことであるが,ここ最近を振り返っても“参加選手が600人を超えるeスポーツ大会”はそれほど多くないであろう。つまり「国体でeスポーツ」という試みは,その第1回からして壮大な挑戦だったと言えるのだ。
その上で筆者の感想から述べてしまうと「国体でのeスポーツという試みは,とても素晴らしい大会を作り上げた」という一言になる。
600人もの選手がいるがゆえに,開会式における入場行進は筆舌に尽くしがたいレベルで気だるい進行となったりもしたが,大人数がゆえの鈍さは“ほぼ”開会式に留まっており,実際に試合が始まると進行は非常にキビキビしていた。
最近のeスポーツシーンでは明白な減少傾向にあるとはいえ,まだまだ見受けられる「観客にとっての異様なインターバルの長さ」は,あまり感じることはなく,大型モニタを用いた実況解説もしっかりと行われ,ショウとしても必要十分に完成されていたと言えるだろう。
また,何より素晴らしいと感じたのは「国体」という枠組みが持つ「応援のしやすさ」だ。
eスポーツに限ったことではないが,スポーツ競技を応援するというのは,実は簡単なことではない――。いや,はっきりと断言してしまえば,それはとても難しいことである。
理由は明確で,例えば野球やサッカーといったメジャーなスポーツにおいてすら,「ルールを知らないと応援するどころではない」という問題が発生するからである。
またこの延長線上にある問題として,“その競技を普段から応援している人”にとってみれば「まれに見る良い試合」であればあるほど,“初見の人”にとっては「意味不明な試合」になりがちという課題もある。具体的には,野球において完全試合が成し遂げられようとしているところを観戦するにあたり,野球のルールをまったく知らない人は,その凄さを理解しにくいといったことが挙げられる。
これがマイナースポーツとなると,話はもっと悲惨だ。
筆者は学生時代にフェンシングを嗜んでいたが,この競技には「フルーレ」「エペ」「サーブル」といった3つの種目がある。フェンシングに興味のない人であれば,種目が3つあることも知らないのではないかと思ったりもするのだが,そのうち2つは非常にルールが難しく,観客どころか競技者側からも「今のは自分の得点だろ!?」と審判に向かって言いたくなるシーンが発生するくらいである。
実際のところ,マイナースポーツがマイナーである大きな理由のひとつは「ルールのわかりにくさ」にあると思う。ことさら,「競技を映像で見る」ことが一般化した時代が始まってからは,どちらが有利なのかもすぐには分からない競技は,多くの人からは愛されにくいといった状況に陥っているのではないだろうか。
eスポーツはマイナースポーツ寄りの立ち位置にあると感じている。最終的な勝敗はわかるものの,種目となるゲームそのもののシステムやルール,選手によるプレイの立ち回りは,そのゲームをプレイしていないと分かりにくいからだ。
また,応援のしづらさの原因として,選手の情報が驚くほど表に出てこないことが挙げられる。例えば将棋の場合,ルールの難度や局面を理解するためのハードルが若干高くても,「話題の○○四段と××七段の対戦です」ということになれば,どうやら四段のほうが現状での評価としては「弱い」ということになっているらしい,ということが判別できる。
だがeスポーツにおいては,しばしば「ディフェンディング・チャンピオン」といったあたりが解説の限界で,視聴者は選手に対する情報不足からどちらを判官贔屓していいかすら分からないことがほとんどだ。
これらの要因を踏まえると,eスポーツは応援しにくい側面を持ち得る競技であることがわかる。
さらに,「eスポーツ普及のためにはスター選手が必要」という言葉はよく耳にするが,野球にしても将棋にしても,その分野におけるスター選手が盛り上げてきたのはあくまで野球や将棋といった競技そのものだ。「イチローの活躍によって“球技”の人気が高まりました」なんてことはあり得ない。
eスポーツにおいてもこれは同じで,「ストリートファイターV」といった格闘ゲームのスター選手が活躍することで「League of Legends」などのMOBAが盛り上がる,というのは無理があるし,MOBAが盛り上がったからeスポーツ全体が盛り上がる,とか言い出すのも非常にセンシティブな物言いだ。
事実,筆者は複数種のゲームがプレイされる国際大会を取材したことがあるが,参加選手をして「僕は○○というゲームのことはよく知らないので,いまやってる○○の実況を見てもピンとこないんですよ」と言われることは多かった。
つまりプロゲーマーでさえ,自分が遊んでいないゲームの勝敗に関心を持つことは困難なのだ。ましてや,そこでただのいちゲームファンが,自分が知らないゲームを専門とする,まるで知らない選手個人に興味を持って,「応援」したり「観戦」したりするというのは,あまりにも道のりが遠いのではないだろうか。
だが,国体という枠組みが利用されることで,応援のハードルは驚くほど下がった。つまるところゲームや選手個人とは無関係に,自分の思い入れのある「県やその代表」を応援すればいいのだ。
一般論で言えばそれは自分の出身県ということになるだろうが,人によっては自分の親しい友人の出身県だったりもするだろう。あるいは自分が好きな芸能人の出身県ということだってあり得る。そのすべてが複合して複数の県代表を応援するという可能性もあるし,素晴らしいことに,そこには正解も義務もない。
例えば「ぷよぷよeスポーツ」に好きな選手がいるとしよう。その選手が国体に“埼玉県代表”として出場していたとする。そしてその選手を応援しに,茨城までやってきた本人は“北海道出身”で“神奈川在住”だとしよう。
この場合,会場を訪れたその人物は「ぷよぷよeスポーツ」以外の競技であっても,埼玉県や北海道,神奈川県を応援したい気持ちになる可能性が高いわけだ。
そして「このチームを応援する」と決めてしまえば,そのゲームがどんな定石で動いているか,そしてその選手がどれくらいの技量を発揮できているかにかかわらず,自分が応援するチームや選手の勝敗に一喜一憂できる。
推しの選手がいなくとも,そしてプレイしたことのないタイトルであっても,応援している都道府県が勝てばうれしく感じるだろうし,ミスをすれば残念がりながらも「ほかの種目が頑張れば……」と希望を繋いだりするわけで,それはとても素敵なことに感じられる。
これまでも,主観的な思い入れを持って応援できる外側の仕組みをeスポーツ大会に持たせようという試みは多数見てきたが,今回の茨城国体はこの仕組みが特に上手く機能しているように感じた。
また国体という枠組みでなくとも「都道府県の代表が競い合う」という構造であれば,都道府県対抗駅伝や甲子園といった先人もいるわけで(事実「スプラトゥーン」は「甲子園」を名乗る大会を開催している),参照できる成功例が多いのも魅力だろう。
今後の日本におけるeスポーツシーンを考えるにあたって,茨城国体のケースはひとつの参照例として注目されて良いものであったと言える。
「初の大会」だったから良いが……
とはいえ問題点が目につかなかったわけでもない。個人的に「これは将来的に厄介な問題になりそうだなと」感じたのは、競技タイトルを持つIPホルダー側の負担だろう。
まずそもそも,国体という構造はとにかくコストがかかる。原則として全国すべての都道府県で予選を行わねばならないわけで,この段階で必要となるマンパワーは相当なものとなる。
そしてIPホルダーとしては、このすべての予選会に対し手を抜くことができない。
もちろん会場の規模その他で多少の差が出ることはあるだろうが,「とある県では予選大会を彩るデコレーションや什器が設置され,ノベルティも配布されていたが,とある県ではそういうものがまるでなかった」ということになれば,このSNS時代において致命傷になりかねない。
また,大会の運営などからある程度の補助が得られるのだから大丈夫だろう,と安易に片付けることも難しい。というのも複数の会社のタイトルを使って予選会をする以上,会社間で一定の競争が発生することは避けられないからだ。
「Aというタイトルの予選会のほうがBというタイトルの予選会より盛り上がっていた」といった情報が積み重なってしまうことを嬉しく思うIPホルダーはいないだろう。
当然ながら,本戦ともなればこの競争はさらに加熱し得る。
今大会で言えば,セガの注ぎ込んだリソースは傍目にも圧倒的で,完全にひとつのショウを作り上げていたように感じた。これが可能だった背景には「ぷよぷよeスポーツ」が個人戦であり,出場する選手が比較的少なかったからという事情もある。
これは,試合の規模や進行スケジュールに余裕があり,その分ショウとしての作り込みに力を割けたのではないだろうかと推測する。
そのような状況があった以上,次の国体でもeスポーツが採用された場合,他社には負けられないといった意識は間違いなく高まるだろうし,それは試合のルールにも影響を及ぼし得るのではないだろうか。
そして,このようにして必然的に嵩んでいくであろうIPホルダー側のコストに対し,「国体でeスポーツ」というトピックが持つインパクトは急激に弱まっていくことが容易に予測できる。
茨城大会は,eスポーツに対するメディアの注目度の高まりがあっただけでなく,「日本初」という分かりやすく強いニュースバリューもついてきた結果,驚くほどの報道陣が詰めかける大会となった。
だが次にどこかで同じ試みがなされるときには,もはやそれは「日本初」ではない。どうしてもニュースバリューは低下せざるを得ないし,3回目,4回目と続くにつれてさらに価値は低下していく。これはもう,そんなものだとしか言いようがないのである。
そうなってきたとき,果たしてIPホルダーは(より正確に言えばIPホルダーのステークスホルダーたちは)どこまで「国体の競技となることによるPR効果」を認め続けられるのだろうか?
国体でeスポーツ,という意欲的で価値ある試みが,IPホルダーにとって血を吐きながら走り続けるマラソンに成り果ててしまう可能性は,そこまで低くくないと思うのだが,「ならばIPホルダが競争しない(できない)ようにしましょう」という簡単ながら最悪の解決法をとるわけにもいかないので,なかなか難しい課題のように感じる。
この他にも,暴力的な表現を持つゲームが採用されていないことや,次回大会では別のゲームが正式種目になるかもしれないといった「競技の継続性が不透明」など気になる点も多いが,個人的には上に挙げた「IPホルダーが消耗しないか」という部分が今後の大きな課題になるのではないかと思っている。
スポーツを「緩く」楽しむために
「労力はかかるが相応の価値がある」という感想を持った本大会だが,良かったと思った点に大会以外の要因がある。これは偶然であると思うのだが,会場近くのつくばセンター広場で「つくばクラフトビアフェスト」が開催されていたのである。
このイベントは,その名の通りクラフトビールの屋台が立ち並ぶ大人向けのものだったが,子供向けの屋台やイベントも併設されており,ファミリーで参加している姿も多かった。
繰り返しになるが,この2つのイベントは(おそらく)連携していたわけではない。だが,どうしても「内向き」のイベントになりがちなeスポーツ大会の近くで,このような一般向けでゆったりとした雰囲気を持つイベントが開催されているというのは,全体の空気をだいぶ良くしていたように思う。
「ゲームは遊んで楽しむもの」であるがゆえに,eスポーツ大会は応援する側であっても,モニターに映し出されるゲーム画面を見つめることに集中しがちだ。つまり選手も観客もゲームがその中心にあって,それ以外のことに目が向きにくい。
筆者はこの空気を国際的なeスポーツ大会でも経験していて,サイドイベントやフードコートが驚くほど閑散としているという風景を何度も目にしてきた。
けれど,スポーツを観戦する・応援するというのは,本来はもっと「緩い」ものではないだろうか。事実,プロ野球であれば,球場で飲むビールや限定フードをメインで楽しむといったことも珍しくない。
そういった総合的なエンタテイメントとしてeスポーツを育てていくというのは,長期的な発展においては非常に重要なポイントとなり得るであろう。
スポーツもゲームも,しょせんスポーツであり,しょせんゲームだ。だからこそ必死になってプレイすることや技術を磨くこと,勝ち負けに一喜一憂すること,そしてそれらを我が身のように応援することが,エンタテイメント足り得る。
この距離感を上手く作っていけるかどうかは,意外と早い段階でeスポーツにとっての大きな課題となるかもしれない――。そんなことを感じさせられる茨城国体だった。
「グランツーリスモSPORT」公式サイト
「eFootball ウイニングイレブン 2020」公式サイト
「ぷよぷよeスポーツ」公式サイト
「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI」公式サイト
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