レビュー
Polaris世代第1弾となるコスパ重視のGPU,その絶対性能を探る
Radeon RX 480
(Radeon RX 480リファレンスカード)
RX 480は,「Polaris」マクロアーキテクチャ,そして第4世代「Graphics Core Next」(以下,GCN)アーキテクチャとなる「GCN 1.3」を採用する初のGPUだ。GLOBALFOUNDRIESもしくはSamsung Electronicsの14nm FinFETプロセス技術を用いて製造される初のRadeonということで,消費電力と製造コストの低減も期待でき,実際,北米市場におけるメーカー想定売価はグラフィックスメモリ容量4GB版で199ドル(税別)からと,かなり安価なのがセールスポイントになっている。
では,そのインパクトはどれだけのものがあるだろうか。AMDからリファレンスカードを入手することができたので,気になる性能と消費電力をさっそく確かめてみることにしたい。
Polaris 10コアを採用するRX 480
カード長は244mmで基板だけならわずか180mm
RX 480は,「Ellesmere XT」とも呼ばれる「Polaris 10」コアを採用するGPUで,シェーダプロセッサ「Stream Processor」を2304基統合する製品だ。GCNアーキテクチャにおいて,シェーダプロセッサは64基がひとかたまりとなって,キャッシュやレジスタファイル,スケジューラ,テクスチャユニットなどと演算ユニットたる「Compute Unit」を構成するため,演算ユニット数で言うと,2304÷64=36基となる。さらに,Compute Unitは9基ごとにやはりひとかたまりとなって,ジオメトリプロセッサやラスタライザ,それに4基のレンダーバックエンドとともに集まって,“ミニGPU”的な「Shader Engine」を構成する仕様だ。
ブロック図は下に示したとおりで,いかにもGCNアーキテクチャのGPUという雰囲気がある。
プロセスルールの微細化によって公称典型消費電力は150Wにまで下がっている点や,L2キャッシュが2MBへと増強を果たした点などが主なトピックと言えるだろう。
AMDのパートナーであるカードメーカー各社が採用するGPUクーラーの冷却能力次第で,リファレンスカードよりも短い全長の製品が出てくる可能性は十分にあるだろう。
いま話題に挙がったクーラーは2スロット仕様で外排気型。どことなく「Radeon R9 Fury X」を彷彿とさせるデザインだ。
GPUクーラーの取り外しは許可されていないため,基板がどうなっているのかや,GPUパッケージそのもの確認はできないのだが,基板の背面側を見る限り,電源部は6+1(もしくは3+1)フェーズ構成のように見える。
なお,外部出力インタフェースはDisplayPort 1.4
ドライバはRadeon Software Crimson Editon 16.6.2を使用。DirectX 12やVRのテストも実施
今回,RX 480の比較対象としては,先ほど表1でその名前を挙げたR9 390XとR9 390,R9 380X,GTX 980,GTX 970を用意した。ただし,R9 390X搭載カードとして用意したTul製「PowerColor PCS+ R9 390X 8GB GDDR5(AXR9 390X 8GBD5-PPDHE)」と,R9 380XカードのTul製「PowerColor PCS+ R9 380X Myst. Edition 4GB GDDR5(AXR9 380X 4GBD5-PPDHE)」はメーカーレベルで動作クロックが引き上げられたクロックアップモデルであるため,MSIのオーバークロックツール「Afterburner」(Version 4.3.0 Beta)を用いてリファレンスレベルまで動作クロックを下げて用いるので,この点はあらかじめお断りしておきたい。
クーラーの性能が異なるため,リファレンスカード相当の性能が完全に得られるわけではないというか,多少なりとも高いスコアが出るはずだが,ここはやむを得ないものとして話を進める。
グラフィックスドライバだが,Radeonでは,AMDがRX 480のテスト用として全世界のレビュワー向けに配布した「Radeon Software Crimson Editon 16.6.2」を用いる。Display Driverのバージョンは「16.20.1035-160617a-303613E」なので,「Radeon Software Crimson Edition 16.6.1 Hotfix」の「16.20.1025-160602a-303160E」と同系統で若干新しいドライバといったところだろうか。
一方,GeForceのテストには,テスト開始時の公式最新版となる「GeForce 368.39 Driver」で,こちらはテスト時に最新バージョンとなるものだ。
そのほかテスト環境は表2のとおりとなる。
テスト方法は基本的に4Gamerのベンチマークレギュレーション18.0準拠。ただし。AMDはRX 480のDirectX 12環境における性能の高さをアピールし,また,没入感の高いVR体験を得られるとも謳っているため,DirectX 12世代のタイトルを用いたテストとして「Ashes of the Singularity」(以下,AotS)と「Total War: WARHAMMER」,VR関連のテストとして「SteamVR Performance Test」も実行することにした。
いま挙げた3本のテスト方法だが,まずAotSではゲーム側にある標準のベンチマークモードを利用する。描画負荷のプリセットは「Standard」と「Extreme」を用いる点は「GeForce GTX 1080」のレビュー記事と同じだ。なお,StandardとExtreme両プリセットの詳細は,以前実施したAotSのテスト記事を参照してほしい。
このツールでは,「Low」「Medium」「High」「Ultra」という4つのプリセットから選択して実行することになるのだが,今回はMediumとUltraをチョイスした。なお,ベンチマークモードは,「The Empire」と「Greenskins」の戦闘シーンを利用したもので,テストが終わると,シーン中のフレームレートの推移と平均フレームレートを表示する仕様となっているため,テストを2回実行し,2回の平均値をスコアとして採用することにした。
テスト解像度は,AMDがRX 480を「Beyond HD Gaming」用と位置づけているため,1920
なお,テストにあたっては,CPUの自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」を,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している。これは,テスト状況によってその効果に違いが生じる可能性を排除するためだ。
ドライバの最適化がまだ足りていない印象を受けるが,テストによってはR9 390Xを超えることも
以下,いずれのグラフも,基本的にはRX 480を一番上に置き,その下には比較対象のRadeon,GeForceをいずれもモデルナンバー順に並べているが,グラフ画像をクリックすると,より負荷の高いテストにおけるスコア順に並び替えたもう1つのグラフを表示するようにしてあると紹介しつつ,テスト結果を順に見ていこう。
グラフ1は「3DMark」(Version 2.0.2530)の結果となる。RX 480のスコアはR9 390の約97%,GTX 980の88〜92%程度,GTX 970の101〜105%程度というところに落ち着いている。AMDもNVIDIAも3DMarkに対しては十分な最適化が済んでいるという前提に立つと,RX 480は前世代におけるハイクラスGPU並みのポテンシャルを持つ可能性が高いということになりそうだ。
続いてグラフ2,3は「Far Cry Primal」の結果である。メモリ性能がスコアを左右しやすいFar Cry Primalにおいて,RX 480は,512bitメモリインタフェースを持つRadeon R9 390シリーズにやや置いていかれるが,一方で同じ256bitメモリインタフェースを持つGTX 980に対して90〜95%程度とスコア差を詰め,「High」プリセットの2560
Polaris世代におけるメモリ周りの最適化効果は確かにあると見ていいのではなかろうか。
「ARK: Survival Evolved」(以下,ARK)のスコアをまとめたグラフ4,5では,なんといっても「Low」プリセットにおけるGeFroce GTX 900シリーズの圧倒的なスコアが目につく。
なので,今回のテスト結果がRX 480のポテンシャルをどこまで反映したものなのかについては疑問も残るが,RX 480のスコアはR9 390Xに対して78〜104%程度,R9 390に対して99〜112%と,低負荷状況では上位陣を“喰う”結果を示した。高負荷環境ではメモリ周りの絶対的性能差が影響してくるものの,GPUコアのポテンシャルだけで話をするなら,RX 480はR9 390Xを上回っている可能性がありそうである。
ARKにおける推測を裏付けるような結果となったのが,比較的メモリ負荷の低い「Tom Clancy’s The Division」(以下,The Division)のスコアだ(グラフ6,7)。
ここでRX 480は,対R9 390Xで94〜102%程度と,かなりいい勝負に持ち込み,対R9 390では104〜112%程度と全テスト項目で上回るスコアを示した。対GTX 980は99〜102%程度とほぼ互角,対GTX 970なら108〜112%程度のスコアなので完勝と言っていいだろう。
条件次第で,GTX 980と互角に立ち回ることができるというのはなかなか感慨深い。
「Fallout 4」の結果がグラフ8,9となる。Fallout 4だと,「中」プリセットの2560
グラフ10,11は「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)の結果である。FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチはいわゆるGameWorksタイトルであり,GeForceに最適化されていることもあって,Radeon勢は分が悪い。RX 480はGTX 970の87〜92%程度という状況だ。
一方,Radeon同士の比較だと,面白いことにRX 480はここまでの傾向と異なり,より高い負荷条件である「最高品質」でR9 390を上回り,逆に「標準品質(デスクトップPC)では後塵を拝した。ARKと同じくドライバの最適化不足が後者で露呈しているのだろうか。
なお,取得した総合スコアで言えば,RX 480は,最高品質の1920
FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチのスコアを平均フレームレートで見たいという人のため,グラフ10’,グラフ11’も用意したので,興味のある人はこちらも参照してほしい。
次にグラフ12,13は「Project CARS」の結果である。本作に対するRadeon Softwareの対応はこれまでも十全でなかったのだが,残念ながら16.6.2ドライバでもその状況は変わっていないようだ。GeForceの2製品とは,はっきり言って勝負になっていない。
ただ,「ほぼ最適化されていない可能性が高い」という条件で,RX 480が比較対象のRadeonに対して優勢という点は注目しておく必要があるだろう。やはりRX 480というGPUが持つポテンシャル自体はRX 390X以上という理解でいいのではなかろうか。
ここからDirectX 12タイトルの出番である。
グラフ14,15にスコアをまとめたAotSだと,全体的にRadeonが優勢。RX 480はGTX 980の96〜104%程度というスコアを示して互角に立ち回り,GTX 970に対しては有意なスコア差を示している。
Radeon同士で比較すると,RX 480はR9 390Xの83〜86%程度,R9 390の91〜93%程度で,「RX 480において,DirectX 12タイトルにおける性能が際立って向上した」印象は受けない。GCNの時点でGPUアーキテクチャとしては十分に最適化済みということなのだろう。
もう1つのDirectX 12テストとなるTotal War: WARHAMMERのテスト結果がグラフ16,17だ。
ここではどちらかというとThe Divisionと同じような傾向が出ている。RX 480は高負荷なUltraプリセットでGTX 980と互角以上に立ち回り,GTX 970に対しては8〜20%のスコア差を付けた。Ultraプリセットの2560
性能検証の最後はSteamVR Performance Testだが,スクリーンショットを見ると,RX 480はValveの示す指標の最上位「レディ」に入った。
ただ,スコアとしての平均忠実度は7.4で,R9 390の8やGTX 970の7.8と比べると若干下回った。「プレミアムなVR体験ができる」という謳い文句や,実装された新機能などから,さぞかし従来製品や競合製品を圧倒するスコアが出るのかと期待していたのだが,その点ではやや肩すかし感が否めない。
RX 480における消費電力の低さは立派。一方でGPUクーラーの冷却性能と静音性はいまひとつ
RX 480における大きな特徴の1つが消費電力の低減にあることは本稿の冒頭でもお伝えしたとおりだが,実際の消費電力値はどの程度なのだろうか。ログの取得が可能な「Watts up? PRO」を用い,システム全体の消費電力を測定してみよう。
テストにあたっては,ゲーム用途を想定して,無操作時にもディスプレイの電源がオフにならないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時とした。
その結果はグラフ18のとおり。アイドル時はR9 390Xのみ突出しているが,ほかは横並び。ではアプリケーション実行時はというと,RX 480はR9 390より115〜164Wも低く,GTX 980と比べても5〜30W程度低い。対GTX 970は−21〜+13Wなので,互角と言っていいのでなかろうか。
GeForceにはPascalアーキテクチャがあるので,仮にRX 480対抗のGPUが出てくるとどうかという不安もなくはないが,何はともあれ,ようやく第2世代Maxwellと消費電力あたりの性能で勝負できるGPUが登場したとは述べてしまっていいだろう。
最後に,GPUの温度も念のため確認しておきたい。ここでは3DMarkの30分間連続実行時点を「高負荷時」とし,アイドル時ともども「GPU-Z」(Version 0.8.9)からGPU温度を取得することにした。テスト時の室温は約24℃。システムはPCケースに組み込まず,いわゆるバラックの状態に置いてある。その結果がグラフ19だ。
GPUによって温度センサーの位置や取得タイミングがバラバラで,かつ,搭載するGPUクーラーも異なるため,横並びの比較にはあまり意味がない。そのため,RX 480リファレンスカードが搭載するGPUクーラーの冷却性能を見る程度に留めたいが,端的に述べて,リファレンスカードにおけるRX 480の温度はアイドル時,高負荷時とも高め。とくに高負荷時の87℃というのは,これから迎える夏場を考えるとやや不安になるレベルである。
AMDは世界のレビュワーに対し,「RX 480は3DMarkのFire Strike実行時にGTX 970リファレンスカードより動作音が低い」という資料を開示しているのだが,そこには,ファン回転数が55%を超えると,GTX 970よりも動作音は大きくなるというデータが載っていたりするので,今回の結果は「さもありなん」といったところか。
リファレンスクーラーの性能には,あまり期待しないほうがいいかもしれない。
性能と消費電力はとても魅力的。あとは国内価格がどうなるか
リファレンスカードに搭載されるGPUクーラーの冷却能力と動作音は残念であるものの,これはカードメーカー各社オリジナルのカードが出てくれば解決するだろう。そのとき,リファレンスデザインより小さなカードが登場する可能性にも期待したい。
懸念点は2つ。1つは,ベンチマーク結果でも明らかになったドライバの最適化不足で,もう1つは国内価格だ。とくに後者は,搭載カードの北米市場におけるメーカー想定売価はグラフィックスメモリ容量4GB版が199ドル(税別)で,同8GB版は239ドル(税別)なのだが,日本市場に登場する予定となっているそんな後者の店頭価格が,当初,税込で3万2500〜4万円弱になりそうだという点を押さえておく必要があるだろう。
ドル円相場が円高に振れている――原稿執筆時点の2016年6月29日17:00現在で1ドルは約102円――ことを踏まれるに,税込で3万7000円以上だと高すぎると言わざるを得ない。
パートナー各社のオリジナルデザイン搭載版カードが出揃い,実勢価格で3万円前半にまで下がってきたとき,RX 480は,価格対性能比,そして消費電力対性能比の両方で,2016年下半期における有力な選択肢の1つになるはずだ。
※2016年7月14日追記:
グラフィックスメモリ容量8GB版RX 480の北米市場におけるメーカー想定売価が239ドルだと明らかになりましたので,本文をアップデートしました。
AMDのPolarisマクロアーキテクチャ紹介ページ
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Radeon RX 400
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