インタビュー
Aiming椎葉社長インタビュー。業界の名物社長は,スマホ業界の過去と未来をどう捉えているのか
e-Sportsは,ゲームの地位向上に力を貸してくれる
椎葉氏:
まぁ古くからの会社は,ゲームを作ることに長けていても,新しいゲーム会社に比べて挑戦する気持ちが弱いといえるかもしれません。
4Gamer:
はい。
椎葉氏:
一方で新しい会社は,ビジネスセンスに長けていて挑戦する気持ちは強いけど,ゲームについての意識や経験が弱いわけです。
僕らAimingがIT/ベンチャー系に近しいところは何かというと,挑戦するという意識を持っているところです。でも本質的なものとして,昔からの「ゲームを丁寧に作って売ってます」という職人気質も持っている。ちょうど中間くらいにいるんじゃないかとは自負しているんです。
4Gamer:
そういう会社ってあまり多くないですよね。やっぱりどっちかに偏っちゃう。まぁそれは仕方のないことなんですが,いまは「そこそこビジネスセンスがあって,そこそこ挑戦する気概があって,職人気質も持っている」という会社がゲーム業界の足元を固めていく時期なのかもしれません。
椎葉氏:
やたらに難しいこと言いますね(笑)。
4Gamer:
すみません(笑)。でも好むと好まざるとに関わらず,昔ながらのやり方はもう通用しない気がしますし,かといっていまどきの“意識高いイケイケIT系”みたいな人達があんまり幅を効かせるのも,長期スパンでゲーム業界を見たときに,あまりよろしくない気がしてますし。
椎葉氏:
なるほど。もうちょっとミクロな話にすると,日本のゲーム業界って,もっとビジネス的にもゲーム作り的にも,一人ひとりの考え方が強くなっていかないと,世界規模の激しい競争に勝っていくのは難しいと思うんですよ。
いま言ったような両方の人達の考え方をつなぐ役割を,僕らはやっていければいいと思ってるのですが。
4Gamer:
その両者の考え方をつなごうと思ったとき,難しいのって実は「既存の業界側」だったりしません?
椎葉氏:
最近はやっぱりだいぶ変わってきてる……かな? でも世界的に成功した大手のゲーム会社って,どうしても閉鎖的というか封建的というか,そういう感じに見えるんですよね。
そんな中,セガネットワークス(現セガゲームス)さんはゲーム会社然としていない,ベンチャー投資みたいな考え方もあるしプラットフォームを世界に作ろうとしていたり,古き良きセガの伝統なのかやっぱりちょっとほかとは違う。
あとスクウェア・エニックスさんは,持ってるIPを日本に限らず至るところで思いきり使って,スマホでも成功してますよね。大手の会社もいろんな取り組みを広げて,新しい世代のゲームビジネスとちゃんと融合していかないと難しいですよね。
4Gamer:
でも,いままでの成功体験のイメージをチェンジさせるのってなかなか難しいと思うんです。
椎葉氏:
そうですねえ。やっぱり新しい形での成功者が出ないとそこはね。
萩原氏:
例えばe-Sportsなんかは,ゲーム業界の地位を上げる1つの手だと思うんですけど。
4Gamer:
そこは私も同意なんですが,いまこの瞬間の話だけをするならば,本質が深く考えられないままになんとなくみんなが議論してる状態というか……。単なるバズワードになっちゃってる感ありますよね。
萩原氏:
あぁまぁ確かに……。
椎葉氏:
ほかのスポーツと同じくらいの価値を持って見られるようになれば,ゲームの地位もかなり向上すると思うんです。ゲーム業界の中にいる身としてはもちろん支援していこうと思っていますが,ゴールは結構先なんじゃないかと感じます。
4Gamer:
あと意外にこれメーカーさんの反応が鈍いんですよね。現状の運用システムだと,直接メーカーさんにキャッシュインしないからですかねえ。
椎葉氏:
自分達に直接うま味がないとしても,「損して得する」というか,投資としてやってもいいんじゃないかと思うんですけどね。
萩原氏:
儲からないといっても,それでゲームを知ってもらってプレイヤーが増えれば,それが業界の発展につながり,ひいては収益につながるわけですからね。
4Gamer:
でも今ひとつノリが悪いのです。気持ちは分からなくもないですが。
椎葉氏:
周辺は盛り上がっているんですけどねえ。
4Gamer:
ハードウェアメーカーさんとかですね。あと広告代理店さんもそれなりに盛り上がってます(笑)。
椎葉氏:
YouTubeやニコニコ動画,Twitchといった動画配信もそうですね。せっかく周りが盛り上げてくれてるのだから,ゲームメーカーも頑張ろうよって思います。例えば広告を出すときに,広告費の一部を大会を開催するお金にしてもいいんじゃないかとか。
4Gamer:
e-Sportsに関しては,スマホゲーム界隈の方が反応が良いですよね。
椎葉氏:
それがまさに先ほど話した「新しいことに挑戦したい」というIT/ベンチャー系の気質なんだと思います。逆に言うと,それがなんだか分かってなくても,新しいことや面白そうなことならやってみたいって思うんです。
4Gamer:
限度があるとはいえアリですよね。
椎葉氏:
チャンスがありそうなものは思い切ってやろうという発想は,本当に彼らのいいところです。
やはりコンシューマ機は「制約」が厳しい
4Gamer:
比べると,やっぱりコンシューマ大手は,一部を除いてちょっと動きが遅いかもしれません。
椎葉氏:
考え方と仕事の仕方でしょうね。大手の偉い方って,何十年もこの業界にいて,積み上げてきたそのやり方がありますよね。なかなか新しいことに挑戦しようという方向には行かない……というか行けないですよね。
和田さん(和田洋一氏)のシンラ・テクノロジー・ジャパンの件は,新しい取り組みがなかなかうまくいかないという事例になるんですかね。
4Gamer:
あれも,あまりに唐突感があるので,きっと裏で何かあったんだろうなぁとは思いますが,それにしたって,お金出してる人達も,もうちょっとだけ耐えてあげてもいいのに,と思います。新しく立ち上げた,まったく新しいビジネスで,2年で結果出せって言われたら,大概のものはキツい。
椎葉氏:
ゲーム関係は,新しい投資をしようという気持ちがねえ……。
萩原氏:
VRにはあるんですけど。
4Gamer:
VRって,確かに実際に体験するとめっちゃ面白いですし未来も発展性も感じるテクノロジーなんですが,狭い意味での“ゲーム業界”の話として捉えた場合は,いままでの何かを一変させるようなムーブメントにまではならないような気がしてるんです。
椎葉氏:
なるほど。
4Gamer:
なんていうか,VRが大きなムーブメントになるのはおそらく間違いないと思うんですが,それは既存のゲームの文脈とは違う部分で発展するものであって,コンシューマゲームの救世主にはならないのかもしれないなぁ,と。
椎葉氏:
そもそも普通のお客さんが新しいハードウェアを買ってまでゲームをするんだったら,いまのコンシューマだってもっと売れてますよね。
萩原氏:
コンシューマのソフト売上が2000億円を切ったこの時代に,あれこれ機器をつないで頭にかぶって……って,ちょっと厳しそうですね。
椎葉氏:
そこでモチベーションが重要なんだよね。高ければやるし。
萩原氏:
モチベーション高い人はいくらであっても関係ないですからね。
4Gamer:
VRって既存の据え置き機以上に“場所と状況の制約”が厳しい気がするので,いっそゲーセンとかに置くのがいいと思うんですよね。体験すれば――酔う酔わないとかはあるにせよ――絶対面白いものなので,普及に弾みもつくだろうし。
椎葉氏:
確かに「機動戦士ガンダム 戦場の絆」みたいな筐体になったら面白そうですね。ゲームではなくて,アミューズメントパークのアトラクションとしての見方をすれば産業規模としては大きいんですし。
4Gamer:
しかしゲームの周辺機器として考えると,そこまでのモチベーションがある人ってやっぱりちょっとそこまで多くはなさそうです。
椎葉氏:
ええ。でも世界のマーケットの流れとして,スマホのおかげで底辺……っていうと言葉が悪いな,「今までゲームを遊んでなかったのにプレイするようになった人」は一気に莫大に増えて,全体的には豊かになってるんです。
萩原氏:
ゲーム機買ってまでは遊ばないけど,スマホでなら,ね。
4Gamer:
おっしゃるとおりかと。そう考えると「Gear VR」って割といい線ついてるのかも……。
椎葉氏:
そのスマホの中から,よりモチベーションが高い人が生まれるはずなんです。でも,いまあるコンシューマ側の問題は,ゲームに興味を持った人がコンテンツを触る仕組みが少なすぎるんですよね。
4Gamer:
「基本無料」の世界から来た人達は,そもそもゲーム機で数万円払って,さらに周辺機器にお金がかかって,そのうえソフトは有料です,と言われるとなかなか厳しいものがあるでしょうね。……そういう流れがいいか悪いかは置いておくとして。
椎葉氏:
そう,ハードルが高すぎるんです。基本無料が当たり前の感覚だと,ゲーム機買おうとなっても「いや4万円はちょっと……」となるわけで,そりゃそうでしょうと思います。
萩原氏:
子供にはクリスマスとお年玉という最大の武器がありますけど,大人にはないですしね(笑)。
サンタは無敵だよ? 何を頼んでもちゃんと持ってくるし(笑)。
うちの小学生の子供は,サンタの存在を半分疑いながらもまだギリギリ信じてる年齢なんだけど,こないだサンタへのお願いで書いていたのが「僕のiPadのマインクラフトに,○○と△△のMODを入れておいてください」(笑)。
4Gamer:
それ,どうしたんですか。
椎葉氏:
iPadのマインクラフトにはMODが入らないので,サンタはAndroidタブレットにマインクラフトをインストールしたものをプレゼントしてた(笑)。
4Gamer:
デジタルネイティブすごい……(笑)。
椎葉氏:
僕らの親の世代にはそもそもゲームがなかったから,嫌悪感とまではいかないにしても「好ましくないもの」だというのがありましたよね。いまの子供の親は,ゲームをしてきた僕らの世代なので,それよりはまだ理解はあるでしょう。社会的には少子化という課題がありますが,とはいえ総合的に見るとゲーム業界は悪くないと思うんです。
4Gamer:
このあとのやり方次第だということですね。
椎葉氏:
やはりSteamみたいなやり方が正しい……正しいというか,いろんな人がトライしやすいという面があるので,ほかのことについてもそういう方向にいかないかなぁ,と思いますね。
萩原氏:
コンシューマもPS4やXbox Oneに至るまで,そもそもメーカー側が基本無料や配信に前向きじゃなかったですよね。Xboxの時代でさえ,基本無料がNGに近い状態で。ここへきてようやく変わりましたが,それでも開発側に理解ある人が少ないんじゃないかと思います。
4Gamer:
それは,やっぱり認めづらいというか,嫌悪感があるんですか?
萩原氏:
なんでコストかけて作ったゲームをタダで配るのっていう。
椎葉氏:
昔コンシューマ業界の売上が落ち込んだとき,パチンコ/パチスロがそれを救ったこともありましたが,そのときのゲーム業界側もパチンコ/パチスロ業界に嫌悪感がありました。
PS2が落ち込んだときには,iモードから始まってiアプリ,そして勝手サイトが盛り上がっていて,それが新しい収入として成り立っていたのですが,それでも「モバイルに行く」ってのは,当時は「左遷される」っていう感覚がありましたからね。
萩原氏:
「こんな表現力が低い端末で開発しなくちゃならんのか……」と。
ゲームの学校は,ちゃんとナマの知識を教えるべき
椎葉氏:
もうずいぶん前の話ですが,ある大手ゲーム会社に勤めていた人が,オンラインゲームを作りたいから独立しようとしたそうです。それで周りについて来いと声をかけたけど,来たのは年配の方の一部だけ。若い子も,「就職が難しい中でようやく大手に就職できたのに,なんでわざわざ辞めなきゃいけないんですか」って感覚なんですよ。古い人間とはまた違う感覚で,そういう挑戦をしたくなくて。
4Gamer:
まぁ言い分は分からなくもないですが,若さは有効に使ったほうがいいと思うんです。それが分かるのは歳がいってからですが……。
椎葉氏:
上の人は新しいやり方が受け入れられないんですよね。どうしても下に見ちゃうし,今さら無理だ,ついていけない,ともちょっと思っている。若い子は若い子で,一生懸命就職活動してどうにか入れた会社を,なんで辞めなきゃならんのだという,それぞれの世代でチャレンジしない要因があるんです。
4Gamer:
でも若い子は若い子で「FFみたいなゲームを作りたいんです!」って力説してスクエニを受けるらしいので,なんかそれはそれで少しだけ心配にもなりますが。
椎葉氏:
そう,それ。僕専門学校で,毎年10〜20校くらい講義をしているんです。多いところで200人くらい集まるんですけど,そこではまず「どうしてゲームの仕事に就きたいと思って専門学校に入学したのか」と聞くんです。FFのようなタイトルで,端っこのほうのテクスチャを延々と描きたいの? モンスターのHPの調整とかしたいの? そうじゃないよね? って。
4Gamer:
キツいですが,おっしゃりたいことは分かります。
椎葉氏:
「俺が作ったゲームはこれだ」っていうのをやりたいがために,この業界に入ろうと思ったのが最初なんじゃないの? と。そう話すと,その場は共感したり,頑張らないといけないと思ったりしてくれるんですが……。その気持ちを継続できる人が大きくなって,本物になるんでしょうけど,それは100人中1人いるのかという。
4Gamer:
やっぱり,そういう話されるんですね。
椎葉氏:
めっちゃしますね。なんなら先生にまで突っ込み入れますし。「先生最近どんなスマホゲームやっていますか? 基本無料は? オンラインゲームの技術勉強しましたか?」って聞くんです。まぁほとんどの人はやってるはずないんですが。
4Gamer:
教える側がそんななのか……。
椎葉氏:
生徒はこれからのゲーム業界に入っていくのに,なんで先生が必要なことを勉強してないのかホント分かりません。Aimingにインターンに来てほしいくらい。
4Gamer:
でもそれじゃあ,確かにちょっと生徒がかわいそうですね。信じて学んでるのに。
椎葉氏:
昔は,日本のゲーム業界の経験者が,先生になって地方にいたりしたんです。いまはすっかりそういうのも減ってしまっていて。何かの悪い冗談かと思うんですが,専門学校を卒業した人がそのまま先生になったりするんです。
4Gamer:
……現場経験ゼロで何を教えるんですか?
椎葉氏:
教えられたことを教えるんですよ。
4Gamer:
縮小再生産……?
萩原氏:
というか現場経験のないコピーが出来ていくだけなんです。
椎葉氏:
「一緒に働かせてください」と,先生がAimingにインターンにくる学校もあるんですよ。ちゃんと学校の予算で宿泊先も決めて2週間くらい。すごい感動しました。いい学校だなぁと素直に思いましたね。
4Gamer:
でも実は大学レベルでも,サイエンスとしてゲームのことを教えてるところってまだまだ少ないですしね。
萩原氏:
まだ色物的扱いなんですかねえ。
椎葉氏:
CEDECの「PERACON(ペラコン)」やTGSの企画コンテストに出すことを重視している大学もありますが,それって本質ではなくて,表面的な触り心地だったり,耳に優しいことを教えるだけで終わったりしてるんです。
学生達はそれを一生懸命やっているんですが……正直に言うと,その学校の子はみんな,面接で接するととても「薄っぺらい」話が多かったりします。
萩原氏:
もちろん学生は悪くないんですよ。教える側の問題です。
椎葉氏:
将来を担う人材育成がそんな状態ですからね。
……勝ち負けって表現してしまうのもなんですが,日本のゲーム業界全体が世界的に勝つためにはどうしたらいいか,それぞれの人が考えていると思うし,全員が一緒に何かを……ということではないですが,もうちょっと「何か方法があるんじゃないか」と,それぞれが考えないといけないですね。
4Gamer:
業界全体をどう底上げしていくのかっていうことですね。
萩原氏:
自分の事だけでせいいっぱいの人が多すぎて。
4Gamer:
でもスマホ会社なんか――御社もそうですが――あれだけ儲かってるわけですから,ほかのことを考えたり、行動したりしたっていいんじゃないですかね。
椎葉氏:
Klabさんなんかは,成功して上場して,その瞬間から海外展開を始めたりして,さらなる成功のためにどんどん投資します。すごいですよね。
4Gamer:
それでまたちょっとヤバくなったりとか。でも挑戦する姿はかっこいいですよね。
椎葉氏:
ええ。gumiさんなんか,GREEで成功してダメになって,そこで早くから大きな赤字を続けながらもネイティブアプリに挑戦し始めて,その中からブレイブ フロンティアで復活した。挑戦する数が多いから,失敗があっても復活が叶うんですよね。IT/ベンチャー系の人達は,そのあたりのマインドがすごく高い位置にあって美しいと思うんです。
4Gamer:
gumiの「挑戦>失敗>復活」は,自ら公式サイトで述べているくらいですし。
萩原氏:
以前の韓国はベンチャーブームで,会社を作ってオンラインゲームを作って,それが当たって大きくなったら上場するなり,大手に高額でM&Aされたりで,小さい会社も,若い人達も大成功! みたいなのをさんざんやっていたわけです。でもそういう夢のある業界であったからこそ,有能な人間もオンラインゲームに参入してきてたわけですよね。
4Gamer:
日本もそれくらい派手な成功者を打ち出すっていうのはどうですか。“ひっそりお金持ち”なのが美徳だからちょっと難しいかな……。
椎葉氏:
クリエイターからそういう人が出てほしいと思いますね。出来れば,現場から若手が。ゲーム業界を見ていて思うのは,若くて新しい成功者ってホントにいないんだ,ということです。僕ら40代ですら若手ですから。
40代は若い人?
もっと気軽にゲームを見せられる場が必要
4Gamer:
ちょうどこないだ襟川さん(コーエーテクモゲームス襟川陽一氏)ともその話をしました。なぜか我々40代が「若い人」扱いだと。老舗の商店街の青年会じゃないんだから。
椎葉氏:
そうなんですよ。会社としても,無理矢理にでも若い人にチャンスを与えないと。
萩原氏:
成功体験という話だと,セガで働いてた若いころに上の方がフェラーリとか高級車に乗って出勤してくるところを見ていたりして,どうすればああいう風になれるんだろう,と思っていたわけです。いまそういうのはないですね。
4Gamer:
金銭的成功って,見て分かりやすいからいいですよね。
椎葉氏:
ここ最近何かを成し遂げた有名ゲームクリエイターって,コンシューマだと20代どころか30代にすら全然いないんですよ。
4Gamer:
任天堂さんなんかも「スプラトゥーンは初めて若手に任せたプロジェクトだ」っておっしゃってましたが,年齢を調べたら僕と同じくらいの40代なんですよね。でも,その上を見ると,それこそ宮本さんや襟川さんみたいな世代になっていて,その間もまたいないんですが。
椎葉氏:
挑戦がしづらいんですよね。まぁさっきからちょこちょこ話題に出ているようにマインドもあるかもしれませんが,そもそもちょっとしたゲームを出すところがない。
4Gamer:
インキュベーションファンド(※)とか,なんか動いてないんですかね? 御社もちょっと噛んでるようですが。
※インキュベーションファンド:会社の創業期に投資して育成(incubate)することをミッションに据えるベンチャーキャピタル。単にお金を投資するだけではなく,経営指導や方針策定などにも関わることが多い。
椎葉氏:
いやもう……よく知らないです(笑)。
4Gamer:
ちょ,ちょっと(笑)。
椎葉氏:
投資家達はもうゲームセクターに興味ないかもしれません。
4Gamer:
まぁ確かにそうですね。彼らなりの見切りの良さといいますか。ちょっと前までは「なんかいい投資先ない?」「儲かりそうなとこない?」と至るところで質問されましたが,最近は誰も言いません。
椎葉氏:
昔は僕のところにも,「あのゲーム会社はどうなんですか?」という問い合わせが山ほどきたものですけど,いまはほとんどなくなりました。
4Gamer:
いまやヒット率が悪いからですかねえ。その割には開発費も高騰してるし……。
でも,例えばセールスランク100位っていっても,結構な売上はあるわけじゃないですか。そういうのをもっとちゃんと表に出さないと,なんか凄く(金銭的に)将来性のない業界に見えちゃう気がするんです。やっぱり投資家的には「セールスランク50位って……ねえ?」みたいな。50位だって3〜5億円くらいいくのに。
椎葉氏:
いやまぁそういう問題もそうですが,それよりもっと本質的な部分で,コンシューマも含めて,いろんなところでいろんなゲームを,もっと気軽に出せる仕組みみたいなものがないと,今以上に閉鎖的な業界になっていきますよね。巷で騒がれてる「インディーズ」だって,やっぱり日本は少ないですから。
4Gamer:
そんな用語で呼ばれなくても,昔から在野の武将としていろんなところにいるんですけどね……。自分のHPで公開するだけで,ひっそり末永くみんなに愛されてる,みたいな。
萩原氏:
でもそういう状況だと,例えばベトナムの「Flappy Bird」(フラッピーバード)みたいなのが出てこないですよね。Google PlayはまだしもApp Storeは出すのがホント大変で。
4Gamer:
出したとしてもその先もありますが。
萩原氏:
そうなんです。ゲームを前向きに探してない人に,どうやってリーチさせるかというプロモーションはほんと難しくて。
「ヴァリアントレギオン」(iOS / Android)なんか,初速ちょっと悪そうでしたよね。
萩原氏:
地道にやってきました! 常に「昨日よりも良くしよう」という感じで。
椎葉氏:
さっきの話じゃないですけど,僕らはちょっと悪いからってサービス終了にはしないんですが,お客様がそれを分かっていてくれているのも,なんとかやっていける要因だと思うんです。「スマホでゴルフ! ぐるぐるイーグル」(iOS / Android)なんかも,売上はトントンくらいですが,長く楽しんでいただいてます。
4Gamer:
いや,あのゴルフ良くできてますよ。
萩原氏:
親切に出来すぎてて,なかなかお金を払っていただく場所がないんです(笑)。
椎葉氏:
まぁやる前からそんな気はしてたけど……(笑)。
例えばログレスって,いまダメージが何百万とかになっていてインフレ気味なんです。でもダメージの数字とか敵のHPなら増やしていけるじゃないですか。ゴルフってどこをどうやってもそれが無理なんですよね。今まで200ヤードだったものが400ヤード飛ばせるようになると,途端におかしくなっちゃう(笑)。ゴルフゲームって成長性にすぐ限界がくるんですよね。
4Gamer:
そりゃあそうですよね。ゴルフがテーマだと,アバター以外の課金が思いつきません。
椎葉氏:
すでに「スカッとゴルフ パンヤ」の成功があったので,プレイヤーの母数は結構広く取れそうだし,課金の金額は低くても,新しいコースを出すくらいならできるんじゃないかな……と思ったんですが。
4Gamer:
「ですが」ということは。
椎葉氏:
想像以上にお金を払ってもらえないんです(笑)。
4Gamer:
確かにあのゲームでお金払うシーンがイメージできません……。
椎葉氏:
「800ヤード飛ぶようになった!」って,じゃあそのとき1コース何ヤードあるんだよってなりますよね(笑)。
別にゲームがカブってもいいんじゃない?
より面白くすればいいだけ
4Gamer:
さて,なんか雑談みたいな話でずいぶん時間を費やしてしまいましたが……。御社の新作についても聞かせてください。とりあえず先日ティザーが公開された「トライリンク 〜光の女神と七魔獣〜」(iOS / Android)からなんですが,こちらの制作って順調ですか?
萩原氏:
はい。頑張って作っています。頑張ってローンチして,そこからさらによくします。Aimingらしさを出すというか。
4Gamer:
ティザー見た感じ,結構大きい作品っぽいですが,何人くらいで開発してるんでしょうか……というか,いま開発って何ライン動いているんですか?
萩原氏:
ええと……10ラインくらい動いていますね。
4Gamer:
10!?
萩原氏:
あ,いや。すでにローンチ済みで運営しているものも含んでいるので。新作ラインという話だと,5,6ラインっていう感じですかね。
4Gamer:
創業当時って,確か全部で3,4ラインでしたよね。
……で,今年は全部で何本出すんですか?
椎葉氏:
きたきた! それを言うとあとで僕が怒られるんです(笑)。でも……うーん,そうですね,確実に3本はクリアできますね。
4Gamer:
断定したし,書いても大丈夫そうですね。
椎葉氏:
なにせ去年リリースするはずだったタイトルがあるので(笑)。よっぽどなことがない限り3本は出ます!
萩原氏:
って,去年も同じようなこと言っていたんですけどね……。
椎葉氏:
え。うんまぁそうか……。自社開発1タイトル,海外から2タイトルはさすがに固いと思います。
4Gamer:
トライリンクと,年明け早々に発表していた「TORCHLIGHT」(トーチライト)(iOS / Android)と……。
椎葉氏:
もう一つも間もなく発表できると思いますよ。もう1本くらい自社開発のゲームを発表できる……はず。
(※編注:インタビュー後の2016年1月26日に「天天伝奇」が発表された。参考リンクは「こちら」)
4Gamer:
最後が“はず”になってますよ。
椎葉氏:
出てくるはずだという気持ちを強く持っている次第です(笑)。
萩原氏:
真面目な話,もちろん出そうと思って頑張っていますが,市場の問題とか,出来た時点でのクオリティが市場平均と比べてどうかとか,いろんな見えづらい問題もありますからね。
4Gamer:
トライリンクは,すでに結構なクオリティに仕上がってるように見えますね。
椎葉氏:
あれは,MMOをもっとカジュアルな遊びにしたいという思いで作っていて,チーム対戦なんかも最初から入れてます。まさにいま話したような理由で実は伸びていて,作っているうちに市場がどんどん変わってきて,追いつくように直し続けた結果がこのタイミングなんですね。でもおかげで,見た目を含めて恥ずかしくないレベルにまで持ってこれたかなと。
萩原氏:
ここから先はお客様の評価次第ですからね。
椎葉氏:
そう。ログレスだって出すころはあんまり自信なかったし。ローンチしてからどれくらいのスピードでお客様に気に入ってもらえて,こちらがそれに応えてより良くしていけるかが重要です。
4Gamer:
先ほどのモチベーションの話で言うと,カジュアルとコア,どのへんがターゲットですか?
椎葉氏:
“ログレスよりちょっとカジュアル寄り”にしたいと思っています。
萩原氏:
ログレスはちょっと難しすぎかもしれません。武器の組み合わせなんか,カードゲームのデッキ組んでる気分になります……。
4Gamer:
でもユーザーさんが長く遊んでくれると,どうしたってゲームそのものの方向性が上級者志向になっちゃうのは仕方ないですよね。そういう意味では,「新しい木」を隣に植えたほうがいいのかも。
あと新年早々発表されてたトーチライトなんですが,これって「ヴァリアントレギオン」とかなりカブりませんか?
椎葉氏:
うん,カブりますね。
4Gamer:
うん,って(笑)。
椎葉氏:
いろんなゲームをローンチして,その中では作ってるゲームと似たようなものもあったりするけど,あんまり気にしないんです(笑)。それぞれのゲームが,より良いものになればいいだけだと思うので。確かにトーチライトはヴァリアントレギオンとカブるかもしれませんが,もしヴァリアントレギオンのスタッフがトーチライトを「面白いな」と思うなら,それより面白いゲームを作ればいいだけの話で。
ゲームオン時代からそうなのですが,それぞれに良いところがあるんだったら,似てても別にオッケーじゃない? という。もう他社さんの話なのであんまり言うのもアレですが,例えば「SiLKROAD Revolution」,
「C9(Continent of the Ninth)」,「SUN(Soul of the Ultimate Nation)」って,ちょっとプレイした感じでは全部似たような感じなんですよね。でもそれぞれに面白い部分があって伸びていく可能性があるんだったら気にしません。
4Gamer:
じゃああんまりそういうところにはこだわらずに,開発もローカライズも進めていく,と。ローカライズ作品に関してもまだ何か出るんですよねきっと。
椎葉氏:
もちろん10本とか出来るわけじゃないですけど,とくに何本っていう目標も決めず,良いゲームがあればやりたいなと。「やる」って言っても,じゃあそれ誰が作業すんの? っていう話にいつもなるんですけど(笑)。
4Gamer:
ありがちです……。
中国マーケットは,「玉石混交」の
「玉」を見つけるのがとても大変
4Gamer:
ちなみにその「良いゲーム」って基準はどのあたりなんですか?
椎葉氏:
向こうでヒットしてるかどうか……はあんまり関係なくて,「日本で当たりそう」という部分でしょうか。
4Gamer:
とくに国にもこだわらず?
椎葉氏:
そうですね。やってみたら面白いっていうのが一番重要です。
4Gamer:
割と前向きに中国系の作品に目をつけて動いているのはさすがです。中国モノってなぜかあまり脚光を浴びませんが――まぁ理由は分からなくもないですが(笑)――結構凄いのがいっぱいありますよね。
萩原氏:
濃いゲームもたくさんありますよねえ。
椎葉氏:
でもゲームリテラシーとかユーザーの層が違うので,遊びとしてそのまま日本で通用するのかというと……どうだろう。
4Gamer:
全体的にまだまだ「こなれてない」のも事実ですし,ちょっとなんていうか……「え?そんだけ?」という感じもありますが,力業で押し込んでくる技術力とコンテンツ量は,なかなかのものがあると思います。
椎葉氏:
そうですね。向こうは全体的にユーザー層が若いのでアクション性が高い作品が受けているのですが,日本のユーザー的には,ちょっと面倒な操作は相当面白くないと無理だと思うし。
4Gamer:
でもあれだけあるから,「光るもの」も多いのでは。
椎葉氏:
確かに数はたくさんあるんですが,「玉石混交」の「玉」が限りなく少ないんです(笑)。砂の中から砂金を探すというか,東京ドームのどこかに隠したピンポン玉を見つけるくらいというか。
4Gamer:
それだけ苦労して見つけて持って来るときに,御社はほとんど手を入れないですよね。中国はビジネスモデルが日本と全然違うので,さすがにその部分だけはやる必要があると思いますが。
椎葉氏:
そうですね,僕らはあまり直さないです。
萩原氏:
ゲームオン時代からそうです。
4Gamer:
「直さなきゃいけないくらいなら持ってこない」ということですか?
椎葉氏:
ちょっと違うかな。「ここを変えたら,もっと良くなるな」というのはありますが,「ここを変えないとダメだ」というくらいのものだったら,最初からやらないほうがいいんです。
萩原氏:
あまり多く口出しして変えてもらっても,実は売れる保証とかってどこにもないんですよね。
4Gamer:
挙げ句,元々持っていた面白さも損なわれる可能性もありますね。
椎葉氏:
オリジナル作品でも,ちょっとした変更で全然つまらなくなってしまったりすることって普通にありますしね。僕は,サービスにこぎつけるまでマイルストーンみたいに要所要所をチェックする係なんですが,「いやこれ面白いね。一番最初のプレイでこの感じだったら,絶対面白くなるよ」って言ったものが,次のプレイのタイミングには「なにこれ? なんで?」ってなっちゃうこともあります。だから何かを根本的に変えるのってちょっと怖いんですよね。
4Gamer:
でも逆もあり得ますよね。変えたら一発で急に面白くなる,みたいな。
椎葉氏:
……一番最近だとログレスかな。あの作品は,サービスインの1か月くらい前にクローズドβテストを1回実施したんですけど,そのCBTからサービスインまでの1か月で,戦闘システムが“セミオート”になったんですよね。その1か月で変えました。
4Gamer:
以前のシステムは評判が悪かったとか?
椎葉氏:
それも若干はありますが,むしろCBT後は「オートにしたら楽しくなるだろうから,オート戦闘システムを入れてくれ」という意見が結構多かったんです。でも僕としては「自分で操作して面白いというのを作らなきゃダメだ。ここで完全オートにしちゃったら負けだ」と思っていたので,それだけ皆さんからいただく「オートのほうが良い」という意見を受け入れつつ,いい落としどころがないかなと考えてまして。
4Gamer:
操作をフルオートに! って確かになんか思考停止で逃げてる感ありますよね。それはそれでコアゲーマーの戯れ言なのかな。
椎葉氏:
いややっぱりそういう部分ってちょっとあると思います。なので「確かに全部手動だと面倒臭い。でもフルオートはダメだ。というわけでセミオートだ」と(笑)。
4Gamer:
そこだけ聞くと安直にも聞こえますが……。
椎葉氏:
まぁ確かにそうかも(笑)。「HELLO HERO」(iOS / Android)を遊んで,なるほどと思った操作感を覚えてたんですよね。ログレスにもいいと思ったので「じゃあその方向でよろしく」と開発に話したときは「なんですかそれ?」と言われましたが,実際にはすごく良くなりました。いやあ,1か月でなんとかなるものですね。
日本のMMORPGは
ウルティマ オンラインがダメにした?
4Gamer:
しかしAimingは,その成り立ちやメンバーからしてもオンラインゲームに強い会社なので一度聞いておきたかったんですが,日本でのMMORPGって,そもそも「1500円」という足かせを付けられた時点で「苦しいビジネス」にしかなれなかったと思うんですよ。今度リチャード・ギャリオットに会うときに,ぜひそれは文句言わなくてはいけないと思ってるんですが(笑)。
椎葉氏:
言わんとしてることは分かります。
4Gamer:
そのときのなんかこう,苦しい感じをいまでも引っ張っていて,「MMORPGはどうせ儲からない」みたいな風潮が根強くて,物好きな――褒め言葉です――会社しかやってくれなくて,いまだになんかメインストリームに上がり切れなかった感じがあります。戦場がスマホに移っても,御社とかアソビモとか,本気でやってくれる会社って片手で数えるくらいしかない。
椎葉氏:
そう。おっしゃるように,そもそもウルティマ オンラインが9.99ドルなんていう値段で始めてしまったのが問題です。
4Gamer:
ホントに……。当時の為替レートでそのまま換算して「1500円」で日本のサービスが始められてしまって,そこでMMORPGの月額課金の相場が決まりました。
椎葉氏:
あれはアメリカとヨーロッパが最初からターゲットだったから,広く薄く利益を得るビジネスでOKだったんですよねえ。
4Gamer:
ええ。なので日本国内のサービスとして何か立ち上げようと思ったら,そのプライシングはそもそも厳しいに決まってるんです。なのでリネージュIIが「3000円」というプライスを打ち出したときに「おお,これはよい」と思いました。
椎葉氏:
韓国は月額3万ウォン,大体当時のレートに物価の差まで考えると……5000円くらいのイメージかな? 月額それだけ取れてれば,そりゃあ利益も出ますよねえ。
萩原氏:
日本だと毎月コンシューマゲーム1本買ってる計算ですね。
椎葉氏:
でもゲームオン時代に韓国の開発会社とミーティングをすると,彼らはそこの違いが分からないんです。だから「なんでもっと儲からないんだ。なんでもっと広告しないんだ」って言われ続けてました。
4Gamer:
たぶん当時の日本の会社はどこでもそう言われてたと思うんですが,どうやってそれをしのいでたんですか?
椎葉氏:
牛乳パックかなぁ。
4Gamer:
……牛乳パック?
椎葉氏:
「1リットルの牛乳パックって,韓国ではいくらですか?」と。「日本だと,大体1500円じゃあ8本くらいしか買えないんですが,韓国はいかがでしょう?」と。
4Gamer:
……なるほど(笑)。
3万ウォンなら,30本とか,もしかしたらそれ以上買えるわけです。その言質が取れればそれで十分です。「ね? 分かってくれましたよね?」って(笑)。ビジネスとして日本の月額定額がいかに厳しいかということを理解してもらうために,僕はこれをパワポのプレゼンで作りました。
4Gamer:
牛乳パックの絵がプレゼン資料に並んでたわけですね。
椎葉氏:
ゲームオン時代の「ミュー 奇蹟の大地」のときは,月額2000円以上にしようと言って反対されましたが,その時も牛乳パックで(笑)。結局値上げできなかったんですけどね……。
4Gamer:
1500円定額がスタンダードだったので,2000円って高く聞こえましたよね,当時。
椎葉氏:
そう。30日2000円だから割高感があるのであって,じゃあ「40日2000円」にしようって(笑)。
4Gamer:
正しいんですが,ある意味メチャクチャだとしか言えない(笑)。
椎葉氏:
まぁそうですね(笑)。確かにめちゃくちゃな発想かもしれないけど,2000円は絶対譲らない,って頑張ってたんですが。
4Gamer:
それはなんでボツに?
椎葉氏:
月ごとの売上がブレちゃんですよね……。
4Gamer:
あぁそうか! 30日刻みじゃないからか(笑)。
椎葉氏:
そう。40日区切りだと,3か月に1回売上がない月が出ちゃうんですよね(笑)。これが,当時上場審査中だったゲームオンではとても難しいと。
既存のゲーム業界の常識が崩壊したいま,
メーカーはどのように戦っていけばいいのか
4Gamer:
しかしゲームの戦場に「スマートフォン」が追加されて,月額固定課金という美しいビジネスモデルは遠く過去のものになりつつあります。こんな短いスパンにいろんなことが起こってるのがスマホゲーム界隈ですが,今後ってどうなっていくんでしょう?
椎葉氏:
例えばこれまでのゲームの歴史を見てみると,PS1だとピーク時のマーケット規模が6000億円で,PS2登場直前で3000億円に落ちて,そこからまた5000億円に上がって,また落ちて……を繰り返してます。まぁ毎回毎回,落ちて上がっての繰り返しですよね。
4Gamer:
登った階段は必ず降りることになりますからね。
椎葉氏:
そう。ところがスマホは「専用のハード」がいらないので,そういう意味では,これまでのように市場が大きく落ち込むことはないと思うんです。以前までのゲーム業界だと,半分くらいまで落ちるのは割と一般的でしたが,そこまではいかないだろうな,と。日本のゲーム市場で大きいのはスマホだという状況は,しばらく続くんじゃないでしょうか。
4Gamer:
ビジネスの規模としても,ですか。
椎葉氏:
うーん,そうですね……。ゲーム業界全体として考えたら,ハードウェアなり配信方法なりで,何か新しいものが出てこざるを得ないでしょうね。ソフトウェアの提供方法が配信になっていくことは間違いないでしょう。有名IPとか有名タイトルはパッケージでも売れるので,パッケージ+プラス課金とかのハイブリッドでもいいでしょうけど。
4Gamer:
でも世の中の大半はそういう作品じゃないですからね……。だから「配信」だというお話なんでしょうけど。
椎葉氏:
パッケージで流通に乗せて売るってなると,無名な会社の無名なタイトルは,そもそも初期オーダーが入らないから出せないんですよね。それでも出したいと思ったら,もう配信という手段しかありません。そんな中,次にどんなビジネスモデルが登場するのか,まだちょっと見えない感じがします。だから当面は,スマホ向けにやるしかないんじゃないかなぁ。
4Gamer:
しかもスマホになって「カジュアルユーザー」がゲーム業界にドッと押し寄せてきて,何がアリで何がナシなのか,ますます混沌として分かりづらくなった気がするんですよね。業界のコモンセンスが――それがいいものだったのか悪いものだったのかは置いておいて――大きく崩壊したというか。
椎葉氏:
ニンテンドーDSもそうでしたが,結局カジュアルユーザーは一番最初に飽きてやめていっちゃうんですよね。数は膨大ですが。なので僕らとしては,そこだけに向いていては厳しいところがあると思っています。そういうとき,巨大なIPを持っているところはもちろんですが,僕らみたいにちょっとコア向けのゲームを作っているところの方が安定感あると思うんですよね。
4Gamer:
そこはそのとおりだと思います。ブレないというか。
椎葉氏:
とはいえ,今後どうなるか誰も予想がつかないタイミングに差し掛かっているので,僕も何も確証ないですけど(笑)。作り手としても,この2,3年は暗中模索ですね。
4Gamer:
まさに切り替わりのタイミングですからね。
萩原氏:
何が当たるかホント分かりません。
4Gamer:
カジュアルユーザー……といっても示す範囲は結構広い気はしますが,「短い時間」で「小さなアクション」をして「小さな成功体験」をもらえて,その小さな環世界が繰り返されるものなんかは,割と好まれてる気がしますよね。ツムツム(LINE:ディズニー ツムツム iOS / Android)とか。
椎葉氏:
確かに,小さい成功がお客様のモチベーションと合致していれば。何かをしている感はどうしても必要で,そのバランスですよね。
4Gamer:
それよりカジュアルな人に遊んでほしいと思ったら,もう揃わなくても消えちゃっていいと思うんですよね。
椎葉氏:
それはまた思い切った(笑)。
4Gamer:
あと僕みたいな世代は,いくらゲームが好きだといってもそろそろゴッツい作品をプレイするのがツラくなってきましたし,そういう人達がスマホでゲームやることも多いと思うんです。
椎葉氏:
あぁ,そこは分かります。ログレス作ってるときから「ラグナロクオンライン」を意識してましたし,古くからMMOを遊んできた世代を狙ってました。
4Gamer:
スマホに流れた人達が,落ち着く先があるといいんですが。
時の流れに惑わされず,面白いゲームとは何かという
普遍的テーマを大事にしたい
萩原氏:
しかし喫茶店とかでお茶してると,サラリーマンのおじさんが2人で「ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス」(iOS / Android)の話をしているのを聞いたりしますよ。「俺今これやってるからお前付き合え」って。大人がスマホで共通のゲームの話をする時代になったんですね。
4Gamer:
こないだ僕は東京駅で「今から僕10連回すから,課長もやりましょう」「お,おう」っていう,割と無茶な会話を聞きました(笑)。
萩原氏:
3DSやPS Vitaの時代ではちょっとなかった光景ですよね。みんなが持っているスマホだからこそできることで,そういう意味でも今後ますます広がる可能性はあると思います。
椎葉氏:
確かに落ち込んだりはしないと思うけど,体力勝負になっていくだろうなぁ,とは思う。
4Gamer:
Aimingとして,そこについて何か,ここは気をつけようとか,こういう方針でいこうとか,そういうのってありますか?
椎葉氏:
繰り返しですが,なによりブレることのないように,というのが基本方針です。いろいろなことにチャレンジしていくというのも打つ手の一つではありますが,やっぱり「面白いゲームを作る地力」が必要だなと。
4Gamer:
地味ですが大事なことですね。
椎葉氏:
このあとの市場がどうなるかは分かりませんが,どんな形であろうとも,ゲームには「入力」があって,そこに対しての何らかの「表示」があるわけです。根幹はそこで,そこをいかに真面目に考えるかであって,そこさえ外さなければ,市場がどうであってもあんまり関係なく対応できるわけです。そういう普遍的なところを大事にしていきたいですね。
4Gamer:
変にあさっての方向に前向いたり,浮ついた感じがしたりしない姿勢がいいですね。
椎葉氏:
社長が年始から「この業界は今年キツい。大変な時代がくるぞ」って言ってるような会社ですから(笑)。と同時に「今後厳しい話がどんどん出てくると思うけど,自分の芯となる面白いゲームを作る力をつけておけば,次に何か市場が伸びるタイミングできっと新しい成功をつかめる」とも話します。
ブレずに面白いゲームとは何なのか,どういうものなのか,どうやったら作れるのか……ということを中心に,今年1年突き詰めていこうと話してます。
4Gamer:
ある意味ピュアに「ゲーム屋」的な発想ですね。
椎葉氏:
自分がそういう生き方してきちゃったから(笑)。今さらほかのやり方できない,みたいなとこもあるんですけど。
萩原氏:
僕たちは他人の尻を追っかけるのが嫌いなので,僕らは僕らの強みでいこうと。
4Gamer:
どこかに一本「幹」がないとツラいですよね。周りに流されながらあれこれやってると,周辺環境なんかが大きくブレたときに,ダイナミックに影響されますし。
萩原氏:
ひたすら自分を磨くしかないと思うんですよね。それがいいんだ,って言ってくれるお客様とつながって,真摯に良いゲームを作り続けることが重要で,結果としてそれがブランドの向上にもつながるので。
椎葉氏:
ただ,それだけを続けるには我慢もすごく必要なんだよね。
4Gamer:
水を張った洗面器にどれだけ顔入れてられるかっていう勝負ですからね。まぁでも最近は戦い方も変わってて,1回表にホームラン打ったら勝負終わりですけど……。
椎葉氏:
それがいいか悪いかは分かりませんが,何も起こらないよりは,変化のある業界の方が面白いと思います。どこまでも付き合いますよ!
萩原氏:
お金持ってて強いIP持ってる会社しか勝てないんだったら発展しないですけどね。
椎葉氏:
いまそうなりつつあるのがちょっとね……。そうじゃなかった時期もあったわけで。
4Gamer:
戻りますかね?
椎葉氏:
新しいものが出てくれば,揺り戻しがあると思いますよ。
4Gamer:
じゃあそれを期待しつつ,雌伏の1年を過ごす椎葉さんからユーザーさんに向けてメッセージはありますか?
椎葉氏:
いや雌伏じゃないですから。ちゃんと3本出しますから(笑)。
ええと,お客様に対してですか……。きっと皆さん,不満に思うこともあるはずです。それを解消して,さらなる要望に応えるため,自分達なりにこれからもより良いゲームを一生懸命作りますし,いまあるゲームをより良くしていくし,「Aimingは昔に比べて良くなったね」って言われるように,精一杯頑張っていきます。
4Gamer:
言動の割には意外と普通でしたね。
椎葉氏:
根が真面目なんです(笑)。
あと業界に対してなんですけど,悲観的なことを言う人も多いですけど「下がったら上がる」と考えてほしいです。そして僕みたいな(経営者としての)立場なら,会社としてどう新しいトライをするかを考えて,ゲーム制作に関わる人達は,次に何が“来る”のかということと,そのときに自分が活躍できるような準備をしておきましょう。
そういうことをみんなが考えられたら,きっと業界全体が良くなるはずです。
4Gamer:
上がったら下がる,下がったら上がる。
椎葉氏:
今までも,下がったあとに新しい成功を作ってきてるので,またそれが出来ることを証明します。それに向けての準備もすっかりやれてますから。
――2016年1月14日収録
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