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西川善司の3DGE:赤と緑のケンカ再び。NVIDIAが「Navi」の特徴や「Radeon Software」の新機能に反論する
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印刷2019/06/15 00:00

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西川善司の3DGE:赤と緑のケンカ再び。NVIDIAが「Navi」の特徴や「Radeon Software」の新機能に反論する

画像集 No.002のサムネイル画像 / 西川善司の3DGE:赤と緑のケンカ再び。NVIDIAが「Navi」の特徴や「Radeon Software」の新機能に反論する
 E3 2019において,プロセッサメーカーとしてはAMDの存在感が際立っていた。E3会場にあるのは非公開のミーティングルームのみで,巨大なブースを構えていたわけでもないのに多くのゲームファンから注目を集めたのは,新世代CPUである「Ryzen 3000」シリーズと,新世代GPUの「Radeon RX 5700」シリーズを発表したためであろう。
 しかも,これらの新CPUと新GPUは,ソニーの次世代ゲーム機と,Microsoftの次世代ゲーム機「Project Scarlett」に深く関わるものなのだから,注目を集めるのも当然だ。

Tony Tamasi氏(Senior Vice President of Content and Technology,NVIDIA)
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 そんなAMD一色という空気感の中,E3 2019に参加していた技術系ジャーナリストたちは,急遽,NVIDIAに呼び集められた。
 NVIDIAとしては,Radeon RX 5700シリーズの性能や「Radeon Software Adrenalin Edition」(以下,Radeon Software)における新機能の紹介で,「いかにNVIDIA製品よりも優れているか」と比較されたことが我慢ならなかったのだろうか。
 説明を担当したNVIDIAのTony Tamasi氏は,「誤解を解くために,万能な通訳(Universal Translator)になろう」と述べたうえで,AMDによる一連の発表に対する反論を展開した。本稿はその内容をまとめたものになる。
 なお,AMDの発表に関する記事をまだ読んでいないという人は,以下を参照してほしい。

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 北米時間6月10日,AMDは,E3 2019のタイミングに合わせて,独自の新製品発表イベントを開催。それに先駆けて,メディア関係者向けの事前説明会も行った。本稿では,事前説明で開示されたAMDの次世代GPU「Navi」に関する詳細をレポートしよう。

[2019/06/11 09:00]
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 既報のとおり,AMDは,「Navi」アーキテクチャを採用する新型GPU「Radeon RX 5700」シリーズを発表した。それに合わせてAMDは,Naviをリリースするタイミングで,Naviを含むRadeon GPUで利用できる新機能を提供すると予告していた。本稿では,詳報では説明できなかったNaviの新要素と,Radeon向けの新機能を紹介しよう。

[2019/06/13 17:47]


反論1:AMDのTDPは,GPU単体のTDPにすぎない


 まず,Tamasi氏が「用語における定義の違いが誤解を生む」と前置きして説明したのは,「TDP」(Thermal Design Power,熱設計消費電力)の定義におけるNVIDIAとAMDの違いだ。
 NVIDIAでは,製品発表で公開するTDPは,常に「グラフィックスカード全体のTDP」であるという。言うなれば,「Total Graphics Power」(以下,TGP)というところか。それに対して,AMDが発表するTDPは,GPU単体での値であり,これをNVIDIAの値,すなわちTGPと比較するのはフェアではないと言うのだ。

 実際,AMDが「Radeon RX 5700 XT」(以下,RX 5700 XT)の競合製品と定義している「GeForce RTX 2070」の場合,TGPは175Wであるものの,GPU単体のTDPは120Wである。RX 5700 XTのTDPは180Wであるため,NVIDIA製品のほうが消費電力あたりの性能で勝る,というのがTamasi氏の主張だ。

AMDのTDPはGPU単体の値。一方,NVIDIAは,TGPの意味でスペックを表記していた,だから公平な比較ではないという
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 NVIDIAのTDPが,実際はカード全体の値であるTGPだとすれば,必然的にGPU単体の消費電力より大きい値となる。カード全体の方が値は大きくなるため,ユーザーに与える印象はあまりよくない。
 ならいっそ,NVIDIAもAMDのようにGPU単体のTDPを公表すればいいとも思えるが,あえてこのような方針にしたのは,ユーザーがGPUのアップグレードとともに電源ユニットを買い替える場合に,何W仕様の製品を買えばいいかの目安とするためだとTamasi氏は主張する。
 「ぜひとも,レビュアー諸君はベンチマークやゲームを動かして,PC全体での消費電力を測定し,我々と競合のどちらが電力あたり性能に優れているかを計測してほしい」とTamasi氏は述べていた。


反論2:AMDの言う「Game Clock」は,NVIDIAのブーストクロックである


 Radeon RX 5700シリーズの事前説明会で,AMDは,Radeon RX 5700シリーズの動作クロックに,3つの動作モードがあることを明らかにした。
 ひとつは「Base Clock」(ベースクロック)で,基本となる動作クロックだ。2つめは「Boost Clock」(ブーストクロック)で,継続して動作するかどうかはともかく,AMD自身が動作保証しているオーバークロック時のクロックになる。
 Radeon RX 5700シリーズで,AMDが新たに発表した3つめの動作モードは「Game Clock」(Game Clock)と呼ばれている。Game Clockは,ベースクロック以上,ブーストクロック未満のクロックで,ゲームを動作させるのに適した動作モードである。言うなれば,継続動作しても問題の起こらないオーバークロックモードといったところか。

AMDが発表したRadeon RX 5700シリーズの主なスペック。クロックが3つあり,その中央にGame Clockがある
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 これに対してTamasi氏は,「AMDが新しいモードと主張する『Game Clock』は,我々がすでに提供しているブーストクロックのことである」と反論した。
 AMDのブーストクロックはピーク時のクロックであり,継続的にそのクロックでGPUを動作させられるものではないと,Tamasi氏は指摘する。「継続的に利用できないのであればそれは“ブースト”クロックではなく,もはや“バースト”クロック(Burst Clock,破壊寸前のクロック)ではないか」と,口調もなかなか辛辣だ。

AMDのブーストクロックは,継続利用できない動作クロック(non sustainable clock)であるとTamasi氏
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 さらにTamasi氏は,「彼らのいうGame Clockが,継続的に使用できるオーバークロックモードという意味ならば,我々のブーストクロックは,すでにそれであり,GeForceユーザーはそれを使うことができる」と主張する。
 ここまでのNVIDIAの主張を,分かりやすくにするとこうなる。

表 NVIDIAの主張する同社とAMDにおけるクロック表記の違い
NVIDIA AMD
ベースクロック ベースクロック
ブーストクロック Game Clock
オーバークロック状態 ブーストクロック

 NVIDIAとしては,「我々のブーストクロックは,すでにAMDのGame Clockである」と主張をしているわけだが,間接的には,「GPUにおける理論性能値の計算に,AMDは持続的に使用できないオーバークロックモードを用いているのは不公平だ」と主張しているとも言えよう。AMDもNVIDIAも,理論性能値はブーストクロックで計算したものを使っているからだ。


反論3:NVIDIAは「Image Sharpening」相当機能をすでに提供済み


 AMDは,2019年7月にリリース予定のRadeon Softwareにおいて,低負荷な超解像処理機能「Radeon Image Sharpening」(以下,Image Sharpening)を実装すると予告した(関連記事)。
 Image Sharpeningの実態は,Compute Shaderで実装されたポストエフェクト処理「Contrast Adaptive Sharpening」であり,オープンソースのシェーダーライブラリ「FidelityFX」に含まれることをAMDは明らかにしている。

 さて,これらに対するNVIDIAの反論はシンプルで,「うちはそれ,もう実装済みだよ」である。
 具体的には,GeForceユーザー向け無料ソフト「GeForce Experience」の追加機能としてNVIDIAが2018年2月にリリースした「FreeStyle」のことで,リアルタイムでゲームグラフィックスにポストエフェクトをかける機能がImage Sharpening相当の機能を含んでいる,というわけだ。

PC版「ARK: Survival Evolved」を使ったFreeStyleのデモ画像
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上の画像で左端にあるメニューの一部を拡大してみた。この「Sharpen」が,Image Sharpeningに相当する機能であるという
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 Tamasi氏は,「我々のFreeStyleは,超解像処理以外にもいろいろな機能を有しており,まるでInstagramにおける『フォトフィルター』のように,さまざまなエフェクトを用意している」と主張する。
 NVIDIAとしては「超解像フィルタを実装したくらいで,偉そうにするな」といったところか。

FreeStyleは,フォトモード機能「Ansel」でも利用でき,超解像フィルタだけでなく,多種多様なポストエフェクトフィルタを利用できる
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反論4:NVIDIAは「Anti-Lag」相当の機能を何年も前に実装している


 AMDは,Image Sharpeningと同様に,7月リリース予定のRadeon Softwareで,「Anti-Lag」と称する操作遅延低減機能を提供することを予告している。

 これに対するNVIDIAの反論もシンプルで,「うちはそれ,4年も前からやってるんですけど!」というものだ。具体的には,「NVIDIAコントロールパネル」の「3D設定の管理」にある「Maximum pre-rendered frames」(※日本語では「レンダリング前最大フレーム数」)が,Anti-Lagに相当するものではないか,というのがNVIDIAの主張である。

スライドの右側にある「Maximum pre-rendered frames」が,Anti-Lagに相当するとNVIDIAは主張する
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 この設定は,「GPU側でフレームを何枚までバッファリングするか」を意味するものだ。選択できる値は,事実上のオフになる「3Dアプリケーション設定を使用する」以外に,バッファリングさせるフレーム数を1〜4の間で選べる。

レンダリング前最大フレーム数の設定画面
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 現代的なゲームプログラムでは,あるフレームを画面に表示中に,別のフレーム描画をオーバーラップで処理しておくことで,CPUのプログラム実行とGPUによるグラフィックス描画を並列化する仕組みを採用していることが多い。表示中のフレーム以外に,描画対象となる表示前のフレームが1枚あるレンダリングシステムはダブルバッファ法,2枚ある手法はトリプルバッファ法と呼ばれ,フレームレートを安定させることに役立つ。

 ただ,描画先となる非表示バッファの枚数が増えると,プレイヤーからの入力処理を反映したフレームが実際に表示されるまでの遅延時間は長くなってしまう。描画が完了しても,フレームはすぐに表示されないからだ。非表示バッファの枚数とは,実質的に「表示の順番を待つフレーム行列の長さ」に相当する。なお,ここで言う遅延とは,プレイヤーによる入力が発生してから,その結果が映像に反映されるまでの時間を意味する。
 そういう場合に効果があるのが,レンダリング前最大フレーム数の設定である。非表示バッファの枚数をゲームが正しく動作する範囲で減らせば,遅延を減少させられるのだ。

 NVIDIAによる表向きの主張は,「GeForceユーザーの皆さん,Anti-Lag的な機能はすでにあるので使ってください」であろう。しかし,その裏側には,「Anti-Lagなんて,うちはも前からやってましたけどね」という反論を含んでいるのだと思われる。
 ただ,レンダリング前最大フレーム数の設定に相当する機能として,Radeon Softwareにも「Flip Queue Size」(フリップキューサイズ)という設定があるので,Anti-Lag≒レンダリング前最大フレーム数の設定というNVIDIAの主張には誤解があるのか,AMD側がこれらとは異なるアプローチの,もしくは発展系の遅延短縮手法を実現したという可能性もありそうだ。


赤と緑のケンカは,意外と勉強にもなる


 今回の一件は,AMDやNVIDIAが肝いりの新製品を出したタイミングで時々行う「仲良くケンカしな」的なお話である。肝いりの製品を発表するときは,競合叩きに陥りやすく,叩かれた側も黙っていられず反論してくるわけである。

 ただ,このケンカ,ゲーマーにとっては意外と勉強になることもあるので,ありがたい面もあるのだ。一方の売り文句を闇雲に信じてはならないという戒めにもなり,AMDやNVIDIAが持つ技術の理解にもつながる。
 たとえばTDPの話は,自作PCにおける電源ユニットや冷却システムの選定に役に立つだろう。AMDの公称TDPは,GPU単体の値だということであれば,公称値にゲタを履かせてパーツ選定をするのがよさそうだと考えればいいのだから。
 Image SharpeningとAnti-Lagの一件については,「GeForce Driverにそんな機能あったっけ?」という感じで,存在すら意識していなかったドライバ設定に興味を持つ機会になるかもしれない。AMDの発表で,Image SharpeningやAnti-Lagがうらやましいと思ったGeForceユーザーは,FreeStyleやレンダリング前最大フレーム数の設定をいじってみるといいだろう。

 そしてこれからも,赤と緑のケンカは仲良く続けてもらいたい。

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