インタビュー
伝説のアドベンチャー「シルバー事件」HDリメイク版発売記念。須田剛一,大岡まさひ,宮本 崇の三氏に聞く同窓会インタビュー
混沌とした世界観の設定や,難解な謎の数々,そして独特の語り口など,エッジの効いた作品であるだけに,発売当時のゲーマーからは戸惑いの声も上がっていたが,一方で,熱烈に支持するファンも生み出した。
そんな「シルバー事件」のHDリメイク版が先日配信された。今回はこれを記念して,ディレクター/シナリオを担当した須田剛一氏,裏シナリオを執筆した大岡まさひ氏,そしてキャラクターデザインを手がけた宮本 崇氏に集まっていただき,当時の思い出話などをたっぷり聞かせてもらった。
「シルバー事件」公式サイト
自分のゲームを作るためにヒューマンから独立
4Gamer:
今回はPC向けにHDリメイク版「シルバー事件」が発売されたことを記念して,こうしてお集まりいただきました。皆様,よろしくお願いいたします。
須田剛一氏(以下,須田氏):
よろしくお願いします。シルバー事件では,ディレクターとメインシナリオ[Transmitter]編を担当した須田です。
大岡まさひ氏(以下,大岡氏):
裏シナリオ[Placebo]編を書いた大岡です。
宮本 崇氏(以下,宮本氏):
キャラクターデザインの宮本です。
4Gamer:
本日は当時の思い出などをいろいろと聞かせていただければと思います。まずはオリジナル版のシルバー事件ですが,須田さんがヒューマンから独立してグラスホッパー・マニファクチュアを立ち上げた際の第1弾タイトルでしたね。
ええ。当時のチームはコアメンバーが5人くらいの小さなものだったので,自分達で何が作れるのかを考えてアドベンチャーで行こうと。ヒューマンから発売された「トワイライトシンドローム」「ムーンライトシンドローム」でアドベンチャーに片足を突っ込んだこともあって,自分なりの解釈の作品を作りたかったというのもあります。
4Gamer:
当時,ヒューマンから独立した理由はなんでしょうか。
須田氏:
自分のゲームが作りたかったんです。ある意味では「シルバー事件を作るために会社を興した」と言ってもいい状況ですね。
実際はそうしたきれいごとばかりでなく,当時のヒューマンは社長が脱税で捕まったり,給料の遅配があったりと,いろいろなことがあったのも事実です。そこで,知り合いだった宮ちゃん(宮本氏)達に声をかけて独立の準備をしました。
大岡氏:
直前に手がけた,ムーンライトシンドロームの続きを作ろうという考えは?
須田氏:
それはありませんでした。ただ,ムーンライトシンドロームのエンディングからつながる物語になっていたら面白いだろうなという構想はありました。この作品の発売当時には「酒鬼薔薇事件(神戸連続児童殺傷事件)」があり,自主規制を余儀なくされたところがあるので,改めて犯罪をちゃんと描こうという思いもあったんです。
4Gamer:
では,シルバー事件で何を表現しようと考えたのでしょうか。
須田氏:
犯罪を描くうえでは,それを捜査する刑事達とジャーナリストの目線が必要だろう,とイメージが固まっていきました。これが,それぞれ[Transmitter]編と[Placebo]編として結実したわけです。
寝ている間も問題の解決法を探し続ける。必死だった開発の日々
4Gamer:
シルバー事件では,画面内でたくさんのウインドウが動く「フィルム・ウィンドウ」という独特のシステムを採用していますが,それまで前例がないものを作るうえで,どのようにしてアイデアを共有していったのでしょうか。
須田氏:
すべて口頭で説明していきました。「常に画面が動いているアドベンチャーゲーム」にしたいと考え,まずは「Adobe Flash」でプロトタイプを作ってもらったんです。当時のバラエティ番組「ASAYAN」と,New Orderというバンドの「Regret」という曲のPVのイメージで。当時は少人数だったので,皆で話す時間は豊富にあったんです。
4Gamer:
なるほど。
プロトタイプにシナリオが組み込まれたとき,新しいモノを作れたという確信があり,そこから物事が加速した感じがありましたね。
4Gamer:
画面全体を動かすのではなく,その一部分だけを動かすフィルム・ウィンドウという形式を採ったのは,やはりメモリの問題も関係していたんでしょうか。
須田氏:
確かに,絵を綺麗に見せるためにインタレース表示を使っていて,メモリが不足してはいました。フィルム・ウィンドウだと描画領域が狭くなるので,結果的にメモリ問題が解決できたというところはあります。
4Gamer:
画面全体に一枚絵を表示するという手法を考えたりしましたか?
須田氏:
それは最初から考えていませんでした。
4Gamer:
ロード画面も,キャラクターの移動を地図上で見せたりといった工夫がありますよね。
須田氏:
あの地図は,プログラマーが勝手に作ってくれたんです。宮ちゃんを始めとする絵描きは全員手いっぱいでしたが,線だけで構成された地図ならプログラマーだけで作業が進められる。ある意味苦肉の策ですね。
大岡氏:
飲み屋の名刺なんかにある簡易マップのイメージですよね。当時のゲームで移動を表現する場合,リアルなマップを表示して,その上をミニキャラが歩いたりといった手法が採られていましたけど,あえてシンプルにするのがカッコイイなと思いました。
須田氏:
あのときは常にシルバー事件のことを考えてましたね。それこそ,寝ているときから車で移動しているときまで,ずっと問題の解決法を探していました。いつ答えが降りてくるか分からないけれど,それも楽しかったです。
仲間との濃いつながりの中,尖ったバンド的にモノを作り上げていく
4Gamer:
シルバー事件といえば,宮本さんのアートワークも印象的でした。
大岡氏:
絵を描くうえで,須田さんからはどんなオーダーがあったんですか?
シナリオ制作とキャラクターデザインは並行して進んでいたんですが,どんなオーダーがあったかは……記憶にないんです(笑)。須田さんからキャラクターの説明を受け,そこから僕がイメージを膨らませて描いていく感じでした。すごく珍しいことだと思うんですが,リテイクがなかったんです。
須田氏:
話し合いから生まれた設定をすぐにシナリオへ落とし込んだり,宮ちゃんの絵から刺激を受けて新たな設定が生まれたりもしていました。今考えると,キャラクター表のようなものもありませんでしたし,まさにライブ感覚ですね。
宮本氏:
キャラクターに厚みを付けるため,劇中で描かれない過去の設定なんかを作って須田さんに提案するようなこともやりました。
例えば,ゲーム冒頭に出てくるナツメという人物は,ハゲ頭に赤い鼻というコミカルな外見をしてるんですが,これは宮本さんのアイデアなんですよ。
宮本氏:
特殊部隊にいる人は,常にヘルメットを被っているので頭髪が抜けていくという設定で。そのスケッチを須田さんが面白がってくれて,そのまま採用になりました。でも,ここまで鼻が赤いとは思っていなかったので,実際のゲーム画面を見て驚きましたね(笑)。
4Gamer:
緊迫した展開の中,あのコミカルな顔が出てくるのがすごいと思いました。
宮本氏:
ノリと勢いを重視する,ある意味バンド的なやり取りをしていたから生まれたものなのかもしれませんね。
大岡氏:
今だと,できないやり方ですか?
須田氏:
できないですね。会議を開いて合議制で決めていきます。
4Gamer:
会議を重ねたうえで創作としての角が取れていくこともなく,衝動重視で作られたのがシルバー事件というわけですね。
須田氏:
本当に,よくあんなものを作ったなと思いますね。当時,シルバー事件について取材を受けたことは1回もありませんでしたが,リメイクが決まったら海外のゲームメディアからたくさんのインタビュー希望が寄せられて。改めて作品について考える,いい機会になりました。
業界外の熱量と殺気を受けるため,仲間を探す
4Gamer:
大岡さんが制作に参加されたきっかけは,どういったものだったのですか?
須田氏:
大岡さんが手がけた攻略本「ムーンライトシンドローム トゥルースファイル」に出会ったことですね。ゲームを攻略するだけでなく「本編で描かれた猟奇殺人事件を,裏側からジャーナリストの目線でなぞっていく」という読み物的なアプローチをされていたんです。この手法が面白く,シルバー事件でも同じようなことをやりたいと思ってコンタクトを取りました。
ムーンライトシンドロームは攻略要素の薄い作品でしたから,ある意味苦肉の策だったんです。攻略は6ページほどで,あとはジャーナリスト視点による物語が続くという,攻略本としては異色の構成になりましたね。
4Gamer:
須田さんから連絡が来たときはどう思われましたか?
大岡氏:
原作のディレクターである須田さんに評価してもらえたことが嬉しかったですね。
4Gamer:
実際に須田さんと会われての印象は?
大岡氏:
話を引き出すのがうまい人だなと思いました。本当は僕が須田さんから話を聞き出さないといけないのに,すごく気持ち良く話すことができたんですよ。
須田氏:
大岡さんの知っている世界を聞きたかったんです。ゲーム業界の人とはまったく異なるスキルや仕事への熱量,殺気から影響を受けたかった。あの頃は,開発スタッフだけではない“仲間”を集めることをすごく意識していたんです。シルバー事件のスタッフ達は皆,仲間でしたね。
4Gamer:
本編で語られていない部分を書くというのは難しかったのでは?
大岡氏:
一度はやったことがある手法なので,依頼を受けたときは楽勝だと思ってたんですが,実際に作業をしてみるとえらく大変でしたね。最初は,ゲームでよくある「作中で見つけた日記を読み進めることで,別視点から物語を見る」というようなものを考えていたんですが,制作を進めていくうち,もっとストーリー的なものにしたほうがいいんじゃないかということになり,現在の裏シナリオ的な体裁になっていったんです。
4Gamer:
サブテキストのつもりだったものが,番外編のアドベンチャーゲームになったわけですね。
大岡氏:
[Placebo]編の主人公であるモリシマも,ゲームシステムとしては最初はメールを読むくらいのことしかできなかったんですが,須田さん達が移動できるようにしてくれたり,「ジャックハマー」という行きつけのバーを設定してくれたりと,ゲーム的な体裁が整っていきました。
須田氏:
背景担当のスタッフは,仕事が増えるのでイヤがっていましたね(笑)。
4Gamer:
[Placebo]編の制作は,本編の完成後に進められたんですか?
須田氏:
同時進行ですね。本編が1章出来上がるたびに,大岡さんとブレインストーミングしたんです。そこで生まれた新たなネタが,あとに続く本編のシナリオに採用されたりといったこともありました。
4Gamer:
本編[Transmitter]と,裏シナリオ[Placebo]が互いに影響を与え合っていたと。では,本編の制作中は完成型が見えていない状態だったんでしょうか。
須田氏:
物語の決着がどこに行くのかは分かりませんでしたね。
大岡氏:
打ち合わせは,須田さんの頭の中をいかにして覗くかという,インタビューしているような感じの作業でしたね。もう,何を考えているのかが全然分からなくて,疑問だらけでした。
4Gamer:
作者の発想から探っていくような作業だったんですね。
大岡氏:
本編の3つめのシナリオ「parade」の裏シナリオにあたる「tsuki」をストーリー仕立てにしたとき,ようやくやり方をつかめた感があったんですが,須田さんからは続く「kamuidrome」でまったく違うものが出てきて,また新しいものを考えなければならなくなったときには頭を抱えました。
でも,kamuidromeの原稿を読んで,「この人は天才だ,ついていこう!」と思っちゃったんですよね(笑)。
時間を自分で制御し,その場に留まれるゲームの力
4Gamer:
ところで,先ほどゲーム業界以外からの刺激や仲間を求めていたというお話をされていましたが,共通の趣味を通じて互いに分かり合うことは,須田さんが仕事をしていくうえで重要なことなのでしょうか。
須田氏:
そうですね。ゲームを共通言語にして開発を進めていくと,生まれる作品がコピーやクローンになってしまう。自分の言葉で新しいゲームを生み出すというプロセスを丁寧にやっていきたいんです。ゲームとは違う刺激のあるものなら,映画,小説,一枚の写真など,なんでもいいんですよ。
4Gamer:
そうやって作るからこそ,ほかに例を見ない独特のゲームが生まれると。シルバー事件にしても,ほかのアドベンチャーゲームをお手本にしていたのなら,もっとゲーム的な仕掛けがあってもおかしくないところですが,基本的には物語を読むことで進めていく,今で言うビジュアルノベルに近いものになっていますね。
このゲームでは“潔さ”を貫きたいと思っていたんです。シルバー事件における最大の面白さは物語とその中で紡がれるものであり,これこそが商品である。だからゲーム的な分岐もないですし,作中に挿入されるミニゲームのパズルも説明書にヒントを書いてしまったくらいです。
4Gamer:
いっそのことパズル要素すら入れないという選択肢はなかったんでしょうか。
須田氏:
いえ,それはありませんでした。「パズルを誰かにやらされている」という状況を体験すること,それ自体もゲームにしてしまおうと思ったんです。そうしたインタラクションが入ることによって,ただ物語を読むだけとは別のエンターテイメントになりますから。
4Gamer:
シルバー事件では,自分の操作で3Dマップを移動するシステムも印象的でした。
須田氏:
トワイライトシンドロームを作っていた頃から,「歩くだけでもゲームになる」と思っていたんです。自分の操作で歩くことにより,今いる場所というものを感覚で掴む,それが楽しい。「アドベンチャーゲーム=コマンド総当たり」というパターンを壊したかったんです。だから,作中でもコンタクトすべきものの位置は分かりやすくなっていますし。
4Gamer:
謎解き要素をそこまで廃してでも,ゲームという表現にこだわった理由は何ですか。
須田氏:
その空間にずっと滞在するというのは,ゲームでしかできない体験ですからね。映画や小説のシーンは流れていくものなので,滞在することはできない。見返したり読み返したりすることはできますが,同じところをループするだけなんです。
4Gamer:
繰り返すだけで,そこには変化がないと。
須田氏:
ゲームでは時間の流れを自分でコントロールできるので,その空間に再び訪れて滞在し続けてもいいし,同じことを繰り返してもいい。これはすごい力だなと思いますね。こうした力は,シルバー事件のあとに出た「グランド・セフト・オート」などのオープンワールドゲームが証明してくれた気がします。
4Gamer:
確かに,オープンワールドのゲームではあえてシナリオを進行させずに,お気に入りの場所に留まって遊び続けることもありますね。では,物語の序盤で出てくる,カムイを追い詰めるために樹海を歩き続けるシーンなんかは,須田さんの中では今で言うところのオープンワールド的なものだったと。
須田氏:
空間を感じる,歩いているだけで情動が湧き起こるという意味ではそうですね。「花と太陽と雨と」も当初はオープンワールド構想だったんですが,スタッフから猛反対を食らって実現できなかったんです(笑)。
シナリオに漂う“夜中臭”,そしてチャーハンと餃子の日々
4Gamer:
制作当時の思い出のような部分をもう少し聞かせていただけますか。
大岡氏:
僕は昼夜逆転型なので,夜に執筆を進めていたんですが,須田さんは?
須田氏:
僕も夜中のテンションでないと書けないですね。確かに,大岡さんの[placebo]編からは“夜中臭”が漂ってきています。
大岡氏:
だからこそ,僕は未だに[placebo]編を恥ずかしくて読み返せないのかもしれませんね。リメイク版のシルバー事件もプレイしたんですが,当時のことを鮮明に思い出してしまって,途中でギブアップしました。17年も時間が空いていれば別人のはずなんですけどね。
4Gamer:
当時の自分というものが,それだけ色濃く反映されているわけですね。作品を通して,あの頃の風景を思い出したりしますか?
須田氏:
当時グラスホッパーがあった南阿佐ヶ谷の風景を思い出しますね。近くに老夫婦がやっている中華料理屋があって,ミーティングの合間に食事するのに重宝していました。10分もかからずに,すごくおいしいチャーハンを出してくれるから,30分もあればチャーハンと餃子を食べ終えられる。
確か,ラストオーダーが19時半だったので,それまでに行かないといけなくて。……チャーハンを食べまくっていたので,すごく太りましたね(笑)。
4Gamer:
なんだか部活の思い出をうかがっているような気分になってきました。どことなく,青春っぽいというか。
大岡氏:
オフィスの雰囲気がすごく良かったんですよ。今,社長室に置かれているテーブルも当時から使われていたもので,まさにこのテーブルの上でシルバー事件の打ち合わせをしていたんです。
須田氏:
当時はお金がない中で通販を使って家具を揃えたりしてました。グラスホッパーを立ち上げたときなんかは,仕事もせずに3日がかりで本棚を作ったりしてましたね。絵描きの宮ちゃんが手をケガしたら大変なので,重いものは僕らで持って(笑)。
巨大化する会社組織,そして任せるディレクションへ
4Gamer:
今,シルバー事件のような作品を一から作れますか?
作れないと思います。あのときは,「犯罪をえぐっていく」という明確な衝動がありましたから,あの環境,時代,コンディション,沸点じゃないと。
それに当時,まだ刑事ものが少なかったので,自分がやらなければという使命感のようなものもありました。結局,“ひとりヌーベルヴァーグ”みたいになって,誰もあとに続いてくれませんでしたが(笑)。今,俯瞰しても,シルバー事件のような描き方をしている作品はほかにないですね。
4Gamer:
シルバー事件から「NO MORE HEROES」あたりまでの一連の作品で,グラスホッパー・マニファクチュアの作風,言い換えれば“グラスホッパーらしさ”というものがユーザーに周知されたと思うのですが,須田さん自身はそれをどういうものだと考えていますか?
須田氏:
……難しいですね。僕の作品は“須田ゲー”と呼ばれることもありますが,その定義は皆さんにお任せしようと思います。
4Gamer:
グラスホッパー・マニファクチュアでは須田さん以外の方がディレクションを務めることも多いですね。
須田氏:
あの頃と比べると,組織も大きくなっていますから。自分一人で会社をやっているのではないということですね。ゲームを起動してからエンディングまで,すべてのフレームに目を通したい……とも思いますが,“任せるディレクション”も仕事の一つであるということです。
4Gamer:
その,任せるディレクションを意識されたのは,いつ頃からですか?
須田氏:
「シャイニング・ソウル」で上田君(上田 晃氏。現・アウディオ代表取締役)にディレクションを任せて,新たなチームを作ったときですね。自分とは違うエッセンスを持った作品を生み出していくのは会社にとっていい流れですし,若い人に任せていかないとそういうチャンスはなかなか生まれません。
4Gamer:
任せた結果,グラスホッパー・マニファクチュアのカラーとは違ったものが出てきた場合はどうされますか?
須田氏:
「任せたからには信じ切る」というのが僕の美学なので,ギリギリまでは我慢します。軽々しく口出しをして,自分の好きなゲームにしてしまうのも良くないですし。
4Gamer:
会社の規模が大きくなるにつれて,須田さん自身の立ち位置も変わってきたと。そう考えると,今ではシルバー事件のような作り方はできないというのも分かります。
須田氏:
立ち位置だけの問題ではなく,当時と同じメンバーを集めたとしても,今ならまったく違ったものが着想されるでしょうね。例えば,フィルム・ウィンドウとは逆の「まったく画面が動かないゲーム」とか。宮ちゃんが描いた1枚の絵をすごく大事にして,そこに何かうごめくモノがあるような。
大岡氏:
ああ,それは何かできそうですね。新しいアイデアが生まれた(笑)。じゃあ,もしやるとなったら,須田さんはシルバー事件クラスのシナリオをまた書けますか?
須田氏:
頑張ります。やるとしたら,きちんとした締め切りが必要でしょうね。シルバー事件のときに良かったのは,僕が書かないと,外部参加していただいている大岡さんの仕事も進まないので迷惑がかかるということでしたから(笑)。
4Gamer:
大岡さんの存在が,クリエイティブな刺激だけでなく,締め切りという点でもプラスになっていたわけですね。
須田氏:
会社もやっていたので,限られた時間で作品の純度を上げていかないといけなかったんですが,シルバー事件ではそこもすごくうまくいったと思います。僕がディレクションとマネージメントを同時にやったからこそ,できたのかもしれませんね。
今ならプロダクトマネージャーという専門職に任せるところですが,当時はそうした概念がなかったので,自然とプロジェクトのすべてを僕が見ることができたというわけです。
4Gamer:
では,専門職のある現在,あえて当時のやり方ができますか?
須田氏:
時代的にできないでしょうね。「スケジュールがない中でクオリティを上げるのは無理だ」と誰かが声を上げれば,制作期間を延ばして予算を増やすということになりますから。
予算もスケジュールもない中で良いものを作るというのは,コンパクトなチームでないとなかなかできないと思います。若さと無限の時間がないと。
リメイク版シルバー事件をきっかけに,その先の可能性へつなげたい
4Gamer:
まずはPCで配信されたリメイク版シルバー事件ですが,今後はPS4版が発売されるそうですね。
基本的にはPC版からの移植になりますが,ちょっとだけ手を加えたいと思っています。
4Gamer:
携帯電話向けアプリとして展開していた「シルバー事件25区」が収録されたりはしないんですか?
須田氏:
今回のプロジェクトの最終目的は,シルバー事件25区を復活させ,その先の可能性につなげていくようなものにすることです。具体的にはまだ決まっていないんですが,早く実現したいですね。
4Gamer:
今となってはシルバー事件25区を遊ぶ環境がありませんからね。
須田氏:
このリメイク版シルバー事件の売上が良ければ,シルバー事件25区もいけるかもしれません。その先には「シルバー事件VR」もあるかもしれませんね(笑)。
冗談はともかく,追加コンテンツという形で新作シナリオを出したいとは考えています。もちろん,ちゃんと当時のメンバーを揃えたうえでね。その先がどうなるのかは僕自身も楽しみです。
4Gamer:
こちらこそ楽しみにしています。
本日はありがとうございました。
フィルム・ウィンドウによる映画的な演出,「伝染する犯罪」をテーマとしたシナリオ。尖りに尖ったシルバー事件を生み出したのは,クリエイター同士の濃いつながりだった。あれから17年の時が流れ,人は変わっていく。1999年当時のような作り方はできないが,今だからこそ新たな発想が生まれることもあると,須田氏達は語り合う。そんなシルバー事件の新たなる展開を,今は心待ちにしたい。
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