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[SPIEL’16]冷戦期のスパイ活動がテーマ。タイル22枚でプレイするゲーム「Undercover」を遊んでみた
「Undercover」は,たった22枚のタイル(+勝利得点トラック)を使ってプレイする作品だ。ゲームのメカニクスとしても,タイルを山から引いて場に付け足したり,場にあるタイルを別の場所に移動させたりするだけの,実にシンプルなゲームである。だが冷戦期のスパイ活動をモチーフとしたこの作品は,見た目に反し,かなり「詰まった」ゲームになっている。
やることは簡単,なのだが……
「Undercover」でのプレイヤーは,冷戦期における6つの国家のうち,いずれかのスパイマスター的な存在となる。タイルはそれぞれエージェントを表し,プレイヤーはエージェントを「接触させる」(=タイルを隣接させる)ことで情報を動かし,それが最終的に勝利得点へと変わっていく……というゲームだ。
本作において,手番が来たプレイヤーがやるべきことは至ってシンプル。
(1)山札(残っていれば)の1番上から新しいエージェントタイルを取り,場のタイルに連結する
(2)場に出ているエージェントタイルを移動させ,別のタイルに連結する
ズバリ,これだけである。
ただし(2)の追加要素として,「エージェントタイルを裏返して移動させる」というオプションもある。これについては後述する。
エージェントタイルを置くにあたって,1つだけルールがある。
エージェントタイルは6色で,それぞれ2枚ずつあり,また各色には「親和色」が設定されている(親和色はタイルに明示されている)。タイルを場のタイルと連結するには,そのタイルが接する辺すべてが,親和色(ないし未接触)でなくてはならないのだ。
例えば,緑のタイルを例にとろう。緑の親和色は,(タイルに表記されているように)黄と青だ。そのため,このタイルを置いたときに接するタイルは緑,黄,青のどれかでなくてはならない。
このようにして新たにタイルを場に配置すると,「勝利得点トラック」に配置する勝利得点コマを前進させられる。前進できる量は,自分が配置した(動かした)タイルが,新たにどんなタイルと接するかによって決まる。例えば緑のタイルを移動させて,新たに青と黄のタイルに接するように配置した場合,プレイヤーは青1点,黄1点,そして動かしたタイルの色である緑1点を得ることになり,それぞれの色のトラックに置かれたコマがポイント分だけ前進するわけだ。
勝利得点コマを移動させたからといって,すぐに得点できるわけではない。
勝利得点トラックには7マスめから得点が記されたトークンが置かれており,そのマスを踏み込んだプレイヤーは,そのトークンを取ることになる。得点のトークンは4〜8点とマチマチで,さらにランダムで配置されるため,勝つためにはただ闇雲に勝利得点トラックを進むだけではなく,ちょうど点数が高いマスに着地できるように,移動量を調整していかねばならない。ちなみに,すでにコマが置かれたマス目に止まった場合は,1つ先のマスに滑ることになる。ゲームは,このトークンを誰かが6枚獲得した時点を最終ターンとして得点の合計を競う。
なお,親和色に関係なく置ける黒タイル(いわゆるワイルドカード)を各プレイヤー(最大4人)は1枚ずつ所有している。黒は前進するためのポイントが得られないが(接したタイル色のポイントは獲得できる),うまく使えば移動量の調整に使えそうだ。
記憶と推理がゲームを支配する
以上が本作の基本ルールだが,「Undercover」を面白くなるのは,ここからだ。
エージェントタイルは,実は両面印刷になっている。そして表と裏では,タイルの色は異なる――まさに彼らは「アンダーカバー」として潜伏しているのである。
プレイヤーは自分の手番が来たとき,すでに場に出ているタイルを1つ選び,それを「裏返してから移動させる」ことができる。これによって,裏返したタイルから入る得点は2点となる(緑のタイルを裏返したら黄になり,それを場の緑のタイル1枚に連結させたなら,緑1点に黄2点分,勝利得点トラックを前進させられる)。
ちなみに本作のタイルは表と裏で絵柄が異なるが,この2点は「表から裏」だけでなく,「裏から表」に戻したときにも獲得できる。
さて,ここにおいて問題は,表面から(あるいは裏面から)では,そのタイルの裏側が何色かが分からないということだ。
エージェントタイルの裏面は,必ずそのタイルの親和色のどちらかになっている(緑の裏は青か黄)。タイルは1色につき2枚あるので,裏の色は1/2の確率ではあるものの,最初の段階ではどちらの親和色か推測できる材料はない。しかしゲームが進み,最初はギャンブル的にタイルを裏返していくことで,徐々に推測できる情報が増えていく。例えば緑のタイルを裏返してみたら青のタイルだった。それなら,もう1枚の「表向きの緑のタイル」の裏面は絶対に黄なのだ。
このようにして直接的,間接的に得られた情報を,場のタイルの位置と合わせて覚えていく。記憶力が確かであればあるほど,より有利にゲームを進められる。とはいえタイルはどんどん動くし,次々に裏返ったり表に戻ったりするので,完璧に覚え続けるのはなかなか困難だ。
ガチゲーマーが戦うなら砂時計必須
このほかにも若干細かなルールはあるが,「Undercover」の大筋はこのような構成である。いたって単純ながら,ゲームが進むにつれてどんどん場が煮詰まっていくのがご想像いただけるだろう。
筆者は2人でプレイしたが,2人プレイでもゲームは十分に楽しめた。人数が少ないと各種予測が容易なため,終盤は将棋の「詰めろ」的な展開になり,実に面白い。逆に人数が多ければより展開はカオスになり,「人間の思考こそが最高のランダマイザ」という言葉を噛みしめることになるだろう。
また本作には,発展版ルールも用意されている。
こちらのルールでは,勝利得点トラックを,各色でバランス良く前進させていくことが重要になる(あまり前に進めなかったコマはゲーム終了時に減点対象となる)。多人数でプレイする場合,「いつゲームを終わらせるか」が重要になるため,発展版の名が示すとおりコアなゲーマー向けと言えるだろう。
「Undercover」は,1ゲームせいぜい30分というところで,ルール説明から入っても1時間で最初の1ゲームがこなせる。プレイヤーがやるべきことは,あくまで「タイルを動かす」だけなので,ゲームの進行を「手が覚える」のも早い。
また本作は,子供が遊んでも独特の強さを発揮する。子供のほうが記憶力という面で勝っていることが多いため,終盤に入って大人が「もう忘れた,50%の賭けだ!」と叫びながらタイルを裏返すような局面でも,ごくナチュラルに「正解」を引き当てるのである。
本作は,技術と記憶力がものをいう側面も大きいが,運の要素もそれなりに無視できない(序盤の進行はわりと運に左右される)。そういうバランスの面でも,多くのボードゲーマーに強く推奨できる作品と言えるだろう。
……ただし,真のガチゲーマーが本作で戦う場合,「先の先の先を読む」展開は十分にあり得る。超長考を避けるためにも,砂時計を用意したほうがいいだろう。
「良いゲームは,プレイヤーとプレイヤーの間に存在する」
会場には,「Undercover」のデザイナーDaniel Danzer氏がいたので,簡単なインタビューをしてみた。
4Gamer:
「Undercover」を完成させるのに,どれくらい時間がかかりましたか?
Danzer氏:
6年……いや,5年かな? 正確な日数はBGG(BoardGameGeek)で確認してくれ(笑)。「Undercover」のForumにはデザイナーダイアリーがあるから,そこを見てもらえばいつ開発が始まったか分かるよ。遡るのは大変だと思うけどね!
4Gamer:
実質12枚のタイルでゲームを進めるというのは結構ユニークなデザインだと思います。発想のヒントとしては何がありましたか?
Danzer氏:
難しい質問だね。難しいんだが,こう言うしかない。ある日突然,ひらめいたんだよ。なんとなくキッチンに足を踏み入れたその瞬間,ひらめきが降りてきたんだ。
記憶力が重要になるゲームで……両面印刷された,しかも両面で色が違うタイルを使って。それをつなげたり分離させたりして,勝利得点はクニーツィアのスタイルで……これはいける! ってね。
完成させるまでには時間がかかったけど,その時間のほとんどは,いわゆる「調整」だったよ。基本システムは,あのときキッチンに入った瞬間にひらめいた,そのままだ。
4Gamer:
キッチンが鍵だったんでしょうかねえ?(笑)。ともあれ調整には長く時間がかかったようですが,何が一番難しかったですか?
Danzer氏:
そうだね,「これがとくに厄介だった」と言うのは,決めづらいかな。
例えば,初期のバージョンだと,「プレイヤーがタイルを動かすときは,必ず裏返してから移動させる」というルールだった。このほうがゲームのギミックを必ず体験してもらえるからね。
でも実際にテストプレイしてみると,「裏側が何だか忘れてしまったから,動かすのが嫌だ」という人が続出した。ゲームがエレガントではなくなってしまっていたんだね。
僕としては,このゲームをエレガントでシンプルなまま維持したかった。ルールを追加すれば何とかなるような問題はいくつもあったけど,そこで闇雲にルールを足せば,ゲームのエレガントさは損なわれてしまう。
そういう意味で,エレガントさやシンプルさを守るのが,とにかく大変だったよ。そのためにたくさんの難しい問題をクリアしてきた,という感じだね。
4Gamer:
「Undercover」は冷戦期の諜報活動がテーマですが,登場する勢力を選ぶ基準のようなものはありましたか?
Danzer氏:
それも難しい問題の1つだったね。実際,どんな勢力を出すのが良いか,その手の本を調べたこともあった(笑)。
ただそれとは別に,ゲーム側からの要請もあったんだ。「Undercover」は色を使ったゲームで,色は虹のスペクトラム順に並べたかった。その上で,各勢力の親和色にあたる勢力は,その勢力とある程度まで親密な関係でないと,イメージが壊れる。
かといって,そちらばかり優先した結果,アメリカやソビエトが出てこないというのでは本末転倒だしね!
4Gamer:
ところで,デザイナーにはDaniel DanzerさんとDoris Danzerさんがクレジットされていますが,Dorisさんは奥様ですか?
そうだよ。彼女とは普段からなんでも協力して生活している。ゲームをデザインするにあたっても,彼女とブレインストーミングするとかで,一緒にデザインしているんだ。
4Gamer:
ご夫婦でゲームデザイナーというのは,とても素敵ですね。では最後になりますが,4Gamerのボードゲームファンに一言,メッセージをお願いできますか?
Danzer氏:
そうだね……まず最初に,ボードゲームの素晴らしいところは,やはりこれが「モノ」であるというのを,もっと真剣に考えるべきだと思っている。「実際に存在しているモノ」を使ってゲームをするということこそが,ボードゲームの成功の根底にあるんだ。
でもね,「良いゲーム」ということを考えると,実はそれはテーブルの上に物体として存在しているわけじゃあない。良いゲームというのは,プレイヤーとプレイヤーの間に存在するんだ。そこもまた重要な点だね。
4Gamer:
と言いますと?
Danzer氏:
僕は,人間というのは,現実によって作られていると思っている。ボードゲームは,実際に存在しているモノと,実際に目の前にいるヒト,この2つでできているんだ。そのことが,とても大事なんだよ。
もちろん,確かにコンピュータゲームも良いものだと思う。
でもね,考えてみてほしい。例えば15年前なら,僕らは職場に行けば,そこにはわりとモノとヒトで溢れてた。紙の書類とか,訪問者とかだ。
でも今は,僕らは職場で1日中コンピュータと向かい合っている。日がな一日コンピュータ相手に仕事して,家に帰ってきてまたコンピュータ相手に遊ぶというのでは,本当にリラックスできると言えるかい?
4Gamer:
それに移動中もスマートフォンを見ていますから(苦笑)。
Danzer氏:
ああ,それから日本のゲームデザイナーに,一言だけ言わせてほしい。 僕は彼らの作るゲームはとても素晴らしいと思ってる。アイデアも斬新だ。でもねえ,あの妙にセクシーな学生服とかをあしらったグラフィックスデザインは,そういうのが好きな人がいるのも分かるんだけど,「not for me」なところがあるね。
僕としては,別にあんなグラフィックスじゃなくても,十分に面白いゲームだと思うんだけど(笑)。
4Gamer:
お忙しい中,ありがとうございました。
「Undercover」公式サイト
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