インタビュー
「スーパーマリオ オデッセイ」で行われたさまざまな変革は何を意図したものなのか。小泉歓晃プロデューサーに聞いた
今回は“旅”をテーマに,マリオがさまざまな国を巡るという設定で,大きな話題を呼んでいる。8頭身の住人とマリオが共演したり,クリボーからティラノサウルス,街のマンホールに至るまで,大小さまざまな敵やモノに乗り移れたりするうえに,音楽面ではシリーズ初となるボーカル曲が物語を彩ったりと,さまざまな変革が行われているのだ。
この大胆な変革には,どんな思いや狙いが込められているのだろうか。同作のプロデューサーであり,Nintendo Switchの総合プロデューサーでもある任天堂の小泉歓晃氏に話を聞いた。
「スーパーマリオ オデッセイ」公式サイト
“人の心に刺さり続ける,新しいマリオ”を求めて
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
初報の段階から各方面で話題となっているスーパーマリオ オデッセイですが,まずは“旅”をテーマに据えた理由について聞かせてください。
実はこのテーマは,制作の最初から存在していたのではなく,最終的に落ち着いたものなんです。最初のコンセプトは“人の心に刺さり続ける,新しいマリオ”で,それに沿う形で従来のマリオには入れられないようなさまざまな要素のアイデアが生まれてきました。
そうして生まれたもろもろを,うまくまとめられる概念が“旅”だったんです。
4Gamer:
それは意外でした。てっきり旅というテーマが最初にあって,そこからいろいろな国を巡ったり,写真を撮影したりといった要素が盛り込まれていったと思っていたので。
では,“人の心に刺さり続ける,新しいマリオ”というコンセプトを追求した理由はどこにあるのでしょう?
小泉氏:
ここ何作かの3Dマリオでテーマにしていたのは“共感”でした。我々のチームはさまざまな側面でこのテーマに配慮できるようになってきていたので,そろそろ新たなものを据えようと考えたんです。
4Gamer:
そこで,テーマから何から新しくしてしまおう,と。
小泉氏:
ええ。まずはディレクター達に「今のマリオには,人の心に刺さる驚きが必要なんじゃないか」という話をしました。最初は彼らも悩んだようですが,「どうすれば違和感ではなく,遊ぶ人に受け入れられる驚きを創れるか」ということを考えるきっかけになったようです。
4Gamer:
実際に試遊させて頂いたときも,新しいマリオとして,何かが心に刺さるような感覚がありました。まさに狙いどおりの反応をしてしまったわけですね(笑)。
テーマである旅に話を戻しますが,これまでのマリオも旅はしてきたと思います。今までとは何が違うんでしょう?
小泉氏:
「スーパーマリオ64」や「スーパーマリオギャラクシー」は、「ピーチ姫を助けるために城から様々なステージに行き,そして戻って来る」という内容が基本で,これは安心できる場所へ帰還するショートトリップといえます。
スーパーマリオ オデッセイだと,飛行船「オデッセイ号」でクッパを追い,行った先で腰を落ち着け,起こることをその場で受け止めていきます。つまり,安心だけでなく,不安もある旅を表現しているんです。
4Gamer:
バラエティに富んだ国で,不安を含めた色々な体験をするということが,スーパーマリオ オデッセイにおける旅であると。
小泉氏:
そうですね。
4Gamer:
そういえば,敵やモノに乗り移るキャプチャーシステムで新たな体験を生み出していますし,ビジュアル面では8頭身のキャラクターと2.5頭身のマリオが共演しているうえ,初めてボーカル曲を取り入れるなどサウンド面でも……旅,いや冒険をしているように感じました。
こうした新たなアイデアは,どのようにして生まれたんでしょうか。
小泉氏:
マリオを作るにあたっては,たくさんのアイデアを出し,これを検証するためにたくさんの試作を行います。そのうえで,面白いものとそうでないものを選別していくんです。
今回は,今までのマリオには乗せられないようなアイデアもたくさん出てきましたが,それらもゲームの中に取り入れているんです。
4Gamer:
「今までのマリオには乗せられないようなアイデア」とは?
小泉氏:
例えば,ティラノサウルスを操作できるというのもその一つです。今までの考え方だと「マリオの世界にティラノサウルスはないだろう。やっぱりヨッシーにしないと」となっていました。
これをあえてマリオに入れるために,「今までのマリオとは少し違う世界を旅している」という説明をすれば通るのではないかと考えたんです。
4Gamer:
確かに,それならばマリオがティラノサウルスを操作できることも納得できますね。
小泉氏:
従来の形でも,まとまりはすると思うんです。ただ,ティラノサウルスを操作するような,今までのマリオだと除外していたアイデアを救うことができたのは,今回凄く大きな出来事だったんじゃないかと思います。
4Gamer:
旅という説明によって,マリオの世界にいろいろなアイデアを取り入れられるようになった,と。
小泉氏:
もちろん“面白さを諦めなかった”のも大きいですね。バラエティと面白さは両方ともマリオに必要なものです。そうしたたくさんの面白さを成立させるために必要なシチュエーションが,今回の場合は“旅”だったんです。
4Gamer:
面白さを成立させるためのシチュエーションとしての,旅なんですね。単純に,さまざまな国へ行くということではなく。
小泉氏:
ええ。私達自身も,実際に旅をしたことがありますよね。その記憶の中でも,観光スポットそのものより,「ホテルで水が出なかった」などのハプニングのほうが心に刺さっていたりすることがあるでしょう。
つまり,目的地へ行くまでの道のりや,そこで出会った人,ハプニングなどもひっくるめて,“旅”であると考えたんです。それを表現することを今回は目指しました。
10年後に忘れられないために,心に刺さるものを追求
4Gamer:
試遊させていただいた中では,やはりマリオのトレードマークである帽子を投げるアクションが印象的でした。敵をやっつけるのに加え,敵やモノに帽子を被せて乗り移るキャプチャーという新機能が付与されていますよね。
帽子投げとキャプチャーはどちらが先に生まれたのでしょう。まず帽子投げのアクションがあって,これを活かすためにキャプチャーが考案されたのでしょうか。それとも,キャプチャーのアイデアが先だったんでしょうか。
小泉氏:
帽子投げとキャプチャーは,並行して作られていた複数の要素を融合したものです。“敵に乗り移るというアイデアは出たものの,マリオというキャラクターでどうやって表現しようかと悩んでいるグループ”と,“帽子を投げる新アクションを作っているグループ”,そして“乗り移りをテーマに,別のゲームで使えそうなアクションを研究しているグループ”がいました。
いろいろと試作を繰り返しているうちに,乗り移ることを表現するのに帽子が使えるのではないか……となり,マリオとして使えそうなアクションを加えて現在の形になったんです。
4Gamer:
マリオを作りつつも,別のゲームで使えそうなアクションを研究するグループがあるというのはすごいですね。マリオの開発をしつつ,マリオで使えないであろうものも作るというのは,もしかしたら徒労に終わってしまうこともありそうですが。
小泉氏:
そこは先ほどの繰り返しになりますが,今までのマリオの枠ではない何かをやってみよう,という意識でスタートしたからなんですよ。
今,自分達の心に刺さりそうなゲームとは何だろう? ということで,今までの“マリオというルール”に乗せることをいったんやめて,さまざまな形で試作を進めていました。
4Gamer:
ということは,従来作はマリオの世界にふさわしいアイデアであることを重視して開発が進められていたということですか?
小泉氏:
そうですね。我々とお客さんの両方がそうした点を意識していたと思います。ゲームとしての手応え,マリオというIPが持つ親しみやすさや可愛らしさを考えたうえでのネタ出しをしてきましたから。
4Gamer:
そうした意識をいったん取り払ったのが,スーパーマリオ オデッセイであると。
小泉氏:
マリオの世界にふさわしいことを意識しているスタッフに,「もうちょっと,何か新しいことができないか」というムチャ振りをしたんですよ(笑)。
「お客さんが驚くようなことをしないといけない。今は面白いと言ってもらえても,5年後,10年後に忘れられてしまったら,自分達も寂しんじゃないだろうか?」という話をして,「心に刺さる○○」というテーマでアイデア出しを進めました。
4Gamer:
マリオという伝統のあるIPでそれをするというのも,なかなかすごいことだと思います。
小泉氏:
現場は戸惑ったと思いますね(笑)。今までは「マリオらしく作れ!」と言われてきたのに,突然「マリオらしくなくてもいいから!」と言われるわけですから。
それはつまり,今まで自分達が正しいと思っていたのとは別のやり方で作ってみようということでもあるので,心の拠り所すら変わったはずです。きっと困ったと思いますよ。
ただ,その結果として都市の国「ニュードンク・シティ」も生まれました。心に刺さるビジュアルになっているでしょう?
4Gamer:
ええ。とにかく驚きました。これまでファンタジー要素にあふれていたマリオの世界に,高層ビルが建ち並び,道路にタクシーやバイクが走る都市が出てきたんですから。
小泉氏:
これまでのシリーズでは作れていなかった都市に,8頭身の住人と2.5頭身のマリオが共存していれば,いい意味での違和感が心に刺さるんじゃないか? というところを狙ったんですよ。
新しいものを作るだけじゃなくて,世界中の人に受け入れてもらえるような工夫をするところまでやっていこうと。
4Gamer:
つまり,新しいものが違和感で終わるのではなく,フックになるところまで洗練させよう,と。
小泉氏:
Nintendo Switchというハードウェアがゲームを遊ぶ人を増やしていったとき,そこにはマリオのことを知らない人も出てくるはずです。初めて目にするマリオがどんなものだったら驚いてくれるんだろうか……ということも意識はしていました。
4Gamer:
マリオといえばビデオゲーム文化を代表するIPですし,認知度も非常に高いと思います。昨年のリオオリンピックの閉会式で安倍晋三首相がマリオに扮装をしたくらいですし。
それでいてなお,マリオを知らない人のことを意識して開発をしているんですね。
小泉氏:
確かに世界中で知られているとは思うんですが,自分達の感触だと,すべての方に知っていただけているというわけではありません。名前は知っているけれど,ゲームキャラであることを知らない人がいたり,ゲームキャラであることは知っていても,ジャンプゲームであることを知らなかったりと,認識はさまざまなんです。
そんな中で,「マリオというキャラクターは今のままでいいんだ」と何もしないでいると,本質を伝えることができないままになってしまうんじゃないだろうか……という危惧がありました。
4Gamer:
有名ではあるけれど,必ずしもきちんと認知されているとは限らない,と。
小泉氏:
我々としては,ゲームを通じてマリオというキャラクターを知っていただくのが一番嬉しいんです。楽しい体験を伝えるのがゲームですし。その点,最近では「スーパーマリオ ラン」(iOS / Android)で初めてマリオに触れた方もたくさんいらっしゃるようで,まだまだマリオが知られる機会を作っていかなければと思っています。
4Gamer:
こういう仕事をしているとついつい忘れてしまいがちですが,マリオの存在やゲームのキャラクターであることを知っていても,遊ぶ機会のなかった人がいるのも当然のことではあるんですよね。
小泉氏:
ええ。まだまだ知られていないということを認識し,覚悟をしたうえで伝えていくことが大事なんです。
4Gamer:
そうした覚悟があるからこそ,「スーパーマリオブラザーズ」シリーズが32年間も第一線を張っていられるのかもしれません。
小泉氏:
そこはゲーム機も同じですね。我々はゲーム機とはどういうものなのかを当たり前に知っていますが,世の中全体からするとその当たり前は当たり前ではないんです。今の人々の生活の仕方,興味のある物事。そして,その人達が有効に活用できていない時間帯を割いてもらうことはできないか……ということを考えるのも大事だと思っています。
マリオも,広い層の人々に遊んでいただくために,バラエティ豊かな“気になる要素”をたくさん作ろう,驚きを発信しようというところに集約されているんです。
4Gamer:
そう考えると,人々の興味や関心の対象が移り変わる中で,常に変化しつつ驚きを提供し続ける必要があるんですね。
小泉氏:
シリーズとしてはスーパーマリオ64で初めて2D横スクロールから3Dゲームに挑戦したわけですが,当時のことをご存じの方は,今もスーパーマリオ64のことを語ってくださいます。「スーパーマリオサンシャイン」やスーパーマリオギャラクシーも同様です。
つまり,その時々にマリオが新しいアクションやこれまでと違った冒険をしたことを覚えてくださっている方がいるんです。
4Gamer:
どの作品も大きな話題を呼びましたし。
小泉氏:
こうした現象は,チャレンジをしないと起こらなかったものです。つまり,マリオは立ち止まってしまってはダメなんですよ。そして,こうしたチャレンジをこれまで以上に意識的に行ったのがスーパーマリオ オデッセイなんです。
4Gamer:
そうした苦労の甲斐があってこそ,世界中のファンを驚かせることもできたんでしょうね。E3で公開されたトレイラーはティラノサウルスが草原を走るシーンからスタートしますが,あれを見た瞬間,マリオであることに気付いた人は少なかったんじゃないでしょうか。
小泉氏:
ええ。心の中で舌を出していましたね(笑)。
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