連載
【箭本進一】ゲームのご先祖様:「スーパーマリオ オデッセイ」のルーツを尋ねて
箭本進一 / ゲーム系ライター。最新作からレトロゲームまで幅広く遊ぶ
箭本進一「ゲームのご先祖様」 |
日々,無数の新作が発売されるゲーム業界ですが,「新しいもの」は突然変異的に現れるわけでなく,偉大な先人達が積み上げてきた工夫や試行錯誤がそこにはあります。この連載では,筆者が独自の見解で新作を分析。ルーツと思しきゲームを探ったり,新作の画期的な要素がこれまでのゲームでどのように取り上げられてきたのかを探っていこうと思っています。
第4回は任天堂の「スーパーマリオ オデッセイ」を取り上げてみましょう。
「スーパーマリオ オデッセイ」のルーツを尋ねて
「スーパーマリオ オデッセイ」は世界各地の箱庭マップを舞台に,濃密な探索を楽しめるアクションゲームだ。巧みに隠された無数の「パワームーン」が,プレイヤーの知的好奇心とチャレンジへの意欲を刺激する。
マリオの新しい旅を彩るのが「キャプチャー」と呼ばれるシステムだ。これはマリオが対象に帽子を被せると,それに乗り移って能力が使えるようになるというもので,相手が砲弾(キラー)ならば空を飛び,魚(プクプク)であれば息継ぎ無しで水中を泳げる。
いつもプレイヤーを苦しめてきた敵の能力が使えるようになる。これは痛快な体験だ。
敵を乗っ取り,その能力を利用する。ゲーム史において,繰り返し追求されてきたテーマだ。敵を捕らえるという表現から始まり,やがて敵そのものを操作できるようになっていった。
このテーマのハシリと言える「ギャプラス」(1984年)は,敵のエイリアンを捕らえると砲台にできるが,どの種族のエイリアンも同じ攻撃方法になる。その点,「フィールドコンバット」(1985年)では捕獲した敵の兵器に応じて,それぞれ異なる攻撃を行う味方として利用できた。
敵を乗っ取るゲームと聞いて,40代以上の読者諸兄が真っ先に思い浮かべるのは「レリクス」(1986年)だろう。亡霊の主人公が敵の身体に憑依していくアクションゲームだが,乗っ取りが可能な敵の種類が豊富で,プレイヤーによって操作できる点が斬新だ。さっきまで散々苦しめられた強敵の能力で,逆襲に転じていく面白さが生まれていた。
敵を乗っ取り,それを操る楽しさは,主人公が無個性かつ無力であるほどに対比が際立つ。「ファンタズム」(1991年)も「レリクス」と同様,主人公が亡霊であり,肉体の喪失が物語に大きな影響を与えている。乗っ取れる敵の種類や能力も多彩だ。
また,シューティングゲームに乗っ取りの要素を導入した「ブレイゾン」(1992年)も興味深い。個性的な攻撃方法を持つ敵のロボットを操作できることが,当時のゲーマーには画期的だったのだ。
カービィ以前の主人公は敵の能力を手に入れるため,敵の身体に入り,敵と同じ姿になっていた。しかし,カービィは敵を自分の口に吸い込むことで,自分の能力を保ちつつ,敵の意匠と能力を取りいれた姿に変身する。敵の能力を利用する楽しさと,主人公の個性が両立させたのだ。
カービィのシンプルなデザインに,さまざまな敵キャラクターの意匠と能力が加わる。あまりに違和感がないので,最初からコピーありきの主人公として生まれたと思われがちだが,「星のカービィ 夢の泉の物語」はシリーズ第2作にあたる。コピー能力は“後付け”だったところにも注目したい。
カービィのデザインはシンプルだが,敵を吸い込んだり,横スクロールアクションとしては珍しく空を飛べたりと,能力的には主張が強い。もし,「星のカービィ 夢の泉の物語」において「敵の中に入り,その身体を操る」という憑依の表現が採用されていたら,カービィ自身の姿が画面上から消えてしまっただろう。シリーズ第2作にもかかわらず,肝心のカービィが画面からいなくなったら問題だ。
だからこそ,「カービィの姿を保ったまま,敵の能力と意匠を取りいれる」という表現が生まれたのではないだろうか。
「スーパーマリオ オデッセイ」では,敵に憑依する表現が使われている。だが,どんな敵であっても,頭には必ずマリオの帽子が乗っかっている。憑依してもマリオのアイデンティティが消えないのは,キャラクターが持つキャリアが偉大であり,その代名詞として親しまれてきた帽子の力だろう。
帽子がトレードマークになった背景には,8bit時代の事情がある。宮本 茂氏は「New スーパーマリオブラザーズ Wii」のインタビューにおいて,限られたドット数で人間らしい顔を表現しなくてはならないがゆえに,帽子によってドット数を抑えたと当時を振り返っている。
グラフィックス表現にさまざまな制約があるなかで,印象に残るキャラクターを作らなければならない。そんな時代性が,一目で認識できる帽子というアイコンに結実したというわけだ。スーパーマリオ オデッセイはシリーズ30周年の歴史の結晶であると同時に,「敵を乗っ取り,その能力を利用する」というアイデアの進化形でもある。
筆者の考える「スーパーマリオ オデッセイ」
キャプチャーシステムのご先祖様 5選
「レリクス」
PCなど / ボーステック / 1986年
主人公の亡霊は,自分の肉体を取り戻すため,遺跡を徘徊する生物や兵士に乗り移って探索を進めていく。敵の能力を利用するアイデアに「乗り移り」という表現を使っている。
弱々しい小動物や武装した兵士など,さまざまな相手に乗り移って,その能力を使って戦える。小動物は噛みつくしかないが,兵士の銃は遠隔攻撃が可能(弾数に制限あり)。剣は無限に使えるものの攻撃範囲が短い。乗り移った相手によって,戦い方も変化する。
プレイヤーキャラクターの姿によって,兵士の振る舞いが変化する点も面白い。小動物なら襲われ,高官だと跪いて恭順の意を示す。乗り移りという表現が効果的に使われている。
ただし,強い相手に乗り移ったからといって,殺戮の限りを尽くしてはならない。プレイヤーには無用な戦闘を避けて,慈悲深く行動することが求められるからだ。無益な殺生を繰り返していると,自分の肉体を取り戻せたとしても,遺跡の地下に棲むドラゴンに憑依させられる(身体に閉じ込められる)バッドエンドになってしまう。
「ファンタズム」
アーケードなど / ジャレコ / 1991年
殺されて亡霊になった主人公は,恋人を助け出すため,敵の身体に憑依して戦う。銃器を持つ荒くれ者,空を飛べる修行僧,火を吐く竜など,多彩な能力を持つ20種類以上の敵に乗り移れる点が大きな特徴だ。
ライフが尽きると亡霊に戻ってしまうが,周囲に敵がいればその身体を手に入れてゲームを続けられる。このあたりは「乗り移りゲーム」ならではだろう。
エンディングでは恋人の身体を使ってボスを倒した主人公が天に召されていく。乗り移りというシステムが,物語にも影響を与えている。
「フィールドコンバット」
アーケードなど / ジャレコ / 1985年
「キャプチャービーム」で敵を捕らえると味方に加わり,自機を援護させることが可能になる。歩兵は移動速度が遅く,高射砲は射程が長いといった,敵の能力をそのまま利用する試みとしてはハシリと言える。
「敵を捕らえる」という表現は「トランキライザーガン」(1980年)にも登場していたが,味方にして連携しながら戦える点が新しかった。以降,敵のキャラクターを操作する,能力を自分自身に取り込むといった表現が見られるようになっていく。
「星のカービィ 夢の泉の物語」
ファミリーコンピュータ / 任天堂 / 1993年
カービィは敵を吸い込み,その能力をコピーする。「吸い込む」というフィーチャーは第1作にも存在したが,そこにコピーの新要素が加わったことで,カービィのアイデンティティを保ちつつ,プレイヤーの体験が大きく変わっている。
カービィがコピーできる能力は24種類。「アイス」なら身体が青くなり,「ソード」だと剣を持ち,「ユーフォー」では円盤に変身する。シンプルなカービィに,各能力にちなんだ意匠が加わることで,コピーというシステムの本質が一目で理解できるのもポイントだ。
「魔剣X」
ドリームキャスト / アトラス / 1999年
主人公は人間ではなく,意思を持つ魔剣。「ブレインジャック」と呼ばれる能力で重要人物を支配し,その技で戦えるが,このタイプのゲームには珍しく,ザコ敵を使うことができない。
基本的には乗っ取る相手を変えながら戦っていくことになるが,リメイク版の「魔剣爻」では育成要素が加わり,特定のキャラクターを使い続けられる。
支配できる相手は,心に異常を持つ殺し屋,神を信じ切れない宗教者,兄の復讐を恐れる男,死の病を患う少女といった,いずれもディープなドラマを持つ。新時代の乗り移り系ゲームと言えるだろう。
■■箭本進一■■ 宮城出身の大阪育ち。4Gamerを中心に活躍しているゲーム系ライター。アイデアや表現が優れている,勢いがすごいなど,一芸に秀でたゲームを愛する。著書に「超クソゲー」「超ファミコン」(共著/太田出版),「放課後、ゲームセンターで」(マイクロマガジン)などがある。 |
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