テストレポート
Huawei渾身のハイエンドスマートフォン「Mate 10 Pro」テストレポート。カメラだけでなくゲーム方面でも良好な1台だ
これら3製品のなかでも注目を集めているのは,ハイエンド市場向け端末のMate 10 Proだ。本製品が採用するHiSilicon Technologies製SoC(System-on-a-Chip)の「Kirin 970」は,QualcommのSnapdragonシリーズでいえば,最上位の「Snapdragon 835 Mobile Platform」(以下,Snapdragon 835)と競合する性能重視のプロセッサである。国内のSIMロックフリースマートフォン市場におけるHuawei製品の人気もあり,ゲーム用途においても気になる存在となるだろう。
通常の発表会であれば,時間やテストスペースの確保が難しく,長時間のテストを行うのは難しいところなのだが,今回は十分な時間と場所――ハンズオンエリアから離れたところで椅子を借りただけだが――を確保できたので,いつも以上に綿密なテストを行えた。そんなMate 10 Proのテストレポートをお送りしよう。
超縦長有機ELパネルを目立たせる狭額縁デザイン
まずはいつもどおり外観から。
Mate 10 Proは,今やハイエンド端末ではトレンドとさえ言える,アスペクト比9:18という超縦長タイプの有機ELパネルを採用しているのが特徴だ。パネルサイズは6インチで,解像度1080ドット×2160ドットとなっている。
超縦長パネルに合わせたデザインの筐体は,左右のベゼル部分がほとんどなく,上下のベゼルもギリギリまで絞り込んでいる。そのため,既存の超縦長パネル採用スマートフォンと同じく,前面は“ディスプレイだけ”という印象が強い。
正面をなるべくパネルだけにしたかったのか,[電源/スリープ]ボタンにもなる指紋認証センサーは,背面側のアウトカメラ下部にある。指紋認証センサーの配置は,横長のセンサーを本体正面に用意したり,あるいは側面に配置したりと,端末メーカー各社が苦労している部分だ。このあたりは好みや手の大きさによって意見が分かれるところなので,店頭でのチェックをお勧めする。
Mate 10 Proは,前面だけでなく背面にも強化ガラスを採用して,高級感を演出している。背面のガラスパネルは,多くの端末メーカーが採用している要素であるものの,Mate 10 Proの場合,強化ガラスの下にカラーフィルムの層を複数重ねることで,見た目にやや落ち着きを持たせて,ギラギラした印象を緩和しているのがポイントだ。アウトカメラ部分を目立たせる処理も,好ましいワンポイントになっていると思う。
NPUによるユーザー操作に合わせた最適化は使い込む必要あり
Mate 10 ProのプレインストールOSは,Android 8.0(Oreo)。ホームアプリやOSのカスタマイズに,目を惹くような独自の要素は見当たらない。むしろMate 10 Proで重要なのは,Kirin 970が搭載するAI処理専用プロセッサ「Neural-network Processing Unit」(以下,
NPUは,端末上で動作するAI(※エッジAI)の処理効率を向上させるプロセッサである。新製品発表会でHuaweiは,NPUの用途として,カメラアプリに組み込んだ被写体の自動識別機能や映像処理などを強くアピールしていた。ただ,こうした機能を持つスマートフォン用カメラアプリは,珍しいものではない。Mate 10 Proで重要なのは,そうした処理の速さであるという。
一方,ゲーマーにとって気になるのは,NPUを使った最適化によるアプリの応答性やバッテリー駆動時間への影響だ。Mate 10 Proは,NPUを利用してユーザーの操作を予測するアルゴリズムを搭載しており,これによってリソース配分を最適化してムダな処理を減らすことで,バッテリー駆動時間も長くなっているという。興味深い要素ではあるが,これが効果を発揮するのは,ある程度使い込んでからの話であろう。実際,今回のチェック中にはとくに最適化の効果を感じることはなかった。
ちなみに,NPUはサードパーティーアプリにも開放されているため,Kirin 970搭載機のシェアによっては,対応するゲームの登場もあり得るだろう。
そのほかの独自機能で面白いものとしては,「スマート解像度」というものがある。これは,表示解像度を低くすることで消費電力を抑えるというもので,ドットバイドットの表示である「2160×1080ドット」と,その3分の2解像度となる「1440×720ドット」の2種類から選択可能になっている。判断基準は不明だが,自動的に解像度を変更するモードもあるため,ゲームタイトルによっては解像度を落として,バッテリーライフを優先させるのもアリだろう。
解像度をあまり気にしなくてもいいゲームタイトルは意外に多いし,任意に変更できることを考えると,充電できない移動中のプレイ時に,解像度を低く設定するといった使い方が良さそうだ。
グラフィックス性能はSnapdragon 820並み?
ゲームのプレイはおおむね快適
AI機能がアピールポイントのMate 10 Proだが,肝心のゲームにおける性能はどうなのだろうか。ベンチマークテストとゲームのプレイで確認してみよう。
Mate 10 Proの具体的なスペックは,以下に示したとおりだが,ゲームの性能に関わる部分を抜き出してみる。
まず,SoCであるKirin 970は,ARM製のCPUコアである「Cortex-A73」と「Cortex-A53」をそれぞれ4基ずつのbig.LITTLE構成で搭載し,そこに12基のシェーダコアを備えるARM製GPU「Mali-G72」を統合するプロセッサだ。この
メインメモリ容量は6GBで,内蔵ストレージ容量は128GB。なお,前述のようにMate 10 ProにmicroSDカードスロットはないので,ストレージ増設はできない。
●Mate 10 Proの主なスペック
- メーカー:Huawei Technologies
- OS:Android 8.0(Oreo)
- ディスプレイパネル:6インチ有機EL,解像度1080×2160ドット(402ppi)
- プロセッサ:HiSilicon Technologies製「Kirin 970」(「Cortex-A73」CPUコア×4(最大動作クロック2.36GHz)+「Cortex-A53」CPUコア×4(最大動作クロック1.8GHz),「Mali-G72」GPU,AI処理プロセッサ「NPU」搭載)
- メインメモリ容量:6GB
- ストレージ:内蔵128GB
- アウトカメラ(モノクロ):有効画素数約2000万画素,F値1.6,光学式手振れ補正機能搭載
- アウトカメラ(RGB):有効画素数約1200万画素,F値1.6,光学式手振れ補正機能搭載
- フロントカメラ:有効画素数約800万画素,F値2.0
- バッテリー容量:4000mAh
- 対応LTEバンド:FDD LTE Band 1/2/3/4/5/7/8/9/12/17/19/20/26/28/32,TDD LTE Band 34/38/39/40/41
- 対応3Gバンド:W-CDMA Band 1/2/4/5/6/8/19,TD-SCDMA 34/39
- 無線LAN対応:IEEE802.11ac
- Bluetooth:4.2+LE
- USBポート:Type-C
- 本体公称サイズ:154.2mm×74.5mm×7.9mm
- 本体公称重量:178g
- 本体カラー:ミッドナイトブルー,チタニウムグレー
スペックで見る限り,SoCは高性能そうではある。メモリ容量の多さも,複数のゲームを並行してプレイしつつ,SNSもチェックする場合に重宝しそうで,期待が持てそうだ。ただ,既報でも触れたとおり,Mali-G72は,Mate 10 Proで初登場と言っていいほど新しいということもあり,GPU性能を推測するだけの情報がほとんどない。また,過去のKirinシリーズでは,3Dグラフィックスの表示が乱れるという問題もあった。ゲームでの実力はどんなものなのか,検証を進めるとしよう。
今回のテストは,3Dグラフィックスベンチマークアプリ「3DMark」の「Sling Shot Extreme Unlimited」プリセット,総合ベンチマークアプリ「PCMark for Android」の「Storage test」,CPUの動作クロックを見る「CPU-Z」,連打応答性を調べる「ぺしぺしIkina」といういつもの4点セットを使用したのだが,なぜかStorage testが正常に動作しなかったため,「A1 SD Bench」もテストしている。
ゲームのテストは,定番の「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」(以下,デレステ)に加えて,「アズールレーン」と「デスティニーチャイルド」でも行ってみた。
まずは3DMarkだが,Sling Shot Extreme Unlimitedの総合スコアは「3042」だ。Snapdragon 835搭載の「Galaxy Note8が「4004」だったので,その差は大きい。
筆者私物である「AXON 7」は,「Snapdragon 820」を搭載する2016年の製品だが,そのスコアは「2802」である。つまり,Sling Shot Extreme UnlimitedにおけるMate 10 Proは,Snapdragon 820搭載機並みの性能で,最新世代のSnapdragon 835搭載機には,かなりの差を付けられると言えよう。
なお,3Dグラフィックスの描写については,Sling Shot Extremeや後段のゲームアプリを見る限り問題なさそうであった。
次にPCMarkのStorage testだが,Mate 10 Proのスコアは「14543」と,今まで筆者がさまざまな端末で行ったテスト結果と比較して,異常なほど高い結果――過去に最速を記録した「Moto Z2 Play」のほぼ2倍――になった。ベンチマークテスト終了までの時間が極端に短いうえ,テストを2割ほどを消化した時点で,なぜか正しく終了したと判定されてしまっていたので,この挙動はどうもおかしい。
Kirin 970自体にストレージアクセスを高速化する機能でもあるのか,それともNPUによる最適化の効果なのかと検討してみたが,やはりテストを正常に完了できていないと考えるのが正解だろう。
続いて,CPU-Zで挙動を確認してみたところ,CPU 0〜3がLITTLE側のCortex-A53で,CPU 4〜7がbig側のCortex-A73であるようだ。CPU 0〜3は50MHz〜1.84GHzの間で動作し,CPU 4〜7は682MHz〜2.36GHzで動作するといった具合。軽く負荷をかけつつ様子を見ていると,CPU4〜7側は動作クロックが上がらず,CPU 0〜3が1402MHzまで上がるという動作を示していた。ときおり,CPU 4〜7がごく瞬間的に2GHz台に入ることもあったが,ほとんどは682MHzのままだ。CPUコアの制御は,Snapdragon搭載機と似た傾向であるように思える。
それではお待ちかねのゲームプレイのテストに入ろう。
まず,高負荷時の発熱傾向について触れておきたい。2017年のハイエンド端末は,背面全体から放熱して高温のスポットが生じるのを避ける傾向が目立ったが,Mate 10 Proの場合,縦画面時における右上の側面と背面に顕著な温度上昇を確認している。そのため,横画面のゲームをプレイする場合は,その部分を手で触れないようにしたほうがいい。
まずはデレステであるが,「3Dリッチ」に設定してのプレイは可能だったものの,曲の後半になると露骨なフレームレートの低下とタッチの取得漏れが発生した。「3D標準」に設定した場合は,良好なプレイ感を得られたので,3DリッチはMVだけとしておくのがよさそうだ。
入力の取得については,前述のとおり3Dリッチでこそ問題があったものの,それ以外の設定では取得漏れを起こすこともなく,安心してプレイできそうだ。
ただ,気になる点として,タイミング調整の値を大きくとる必要があったことは明記しておきたい。Mate 10 Pro付属のヘッドセットを使用した場合,+35〜38と大きな値を設定しないとキツく,スピーカーでサウンドを再生する状態でも+33前後は必要だった。推しのアイドルを眺めることに比重を置いているのであれば,適当な設定でもいいだろうが,ハイスコア重視でプレイする場合はきちんと調整する必要がある。
先述したとおり,Mate 10 Proは,3.5mmミニピンタイプのヘッドセット端子を備えていない。Mate 10 Proで有線接続のヘッドセットやヘッドフォンを使うには,USB Type-Cポートに接続するタイプの製品を使うか,USB Type-C〜3.5mmミニピンの変換アダプタを使う必要がある。
iPhoneが先鞭をつけた3.5mmミニピン端子の省略だが,最近ではAndroid端末でも,Motorola MobilityのMoto Zシリーズや,HTCの「U11」などのように,3.5mmミニピン端子を備えていない製品が増えつつある。Mate 10 Proもそうした端末というわけだが,幸いなことに変換アダプタが付属しているので,愛用するヘッドセットをMate 10 Proで使うことは可能だ。
そんなわけで,デレステのテストプレイ中は,付属ヘッドセットでプレイしていたのだが,わずかだが音声に遅延があることを体感できた。ただ,リズムゲームで高難易度の曲に挑戦するときは,気になることもあるだろうという程度。動画を見る場合や,タイミングにシビアな入力を要求されないゲームタイトルであれば,気にならないレベルの遅延だ。
残念ながら今回は,付属品の変換アダプタがデモ機には用意されていなかったため,そちらを使ったテストはできていない。使用する変換アダプタの種類によっては,遅延を減らせる(あるいは増える)可能性もあるので,この点が気になるゲーマーは,店頭や体験会でMate 10 Proを試用するときに,変換アダプタ経由での接続を試してみるといい。
さて,ゲームのテストに戻ろう。
アズールレーンのプレイフィールであるが,もともとミドルクラス市場向けの端末でも軽く動くアプリであるため,問題は感じなかった。またアスペクト比18:9の表示には対応していないが,左右両端が余白になるだけで,見栄えはともかく,プレイに支障はない。
最後のデスティニーチャイルドだが,プレイが始まるところまで,テスト時間内に辿り着けなかったので,タイトル画面でのチェックになるが,アスペクト比9:18での表示にもきちんと対応していたほか,Live2Dによるアニメーション表示がもたつくこともなかった。
なお,デスティニーチャイルドは細かい表示が多いゲームなので,性能面以上に,6インチサイズという大きな画面のほうが,プレイにおいては重要かもしれない。
ゲーム以外の用途も気になるのなら候補になり得る端末だ
ゲーマーにとって,Mate 10 Proはどのような位置づけの端末だろうか。
現時点で最高性能クラスのSnapdragon 835搭載端末に比べると,性能面では及ばないものの,実勢価格はやや安いというのが,Mate 10 Proのポイントだ。メーカー想定売価は税別で8万9800円(税込9万6984円)と安くないが,MVNOによっては,複数年の回線契約込みなら,一括払いで7万円台という価格を上げているところもある。
なるべく性能のいいスマートフォンを,そこそこ安い価格で手に入れたいというなら,Mate 10 Proは狙いめと言ってもいい製品だ。ただ,一年前に出たSnapdragon 820搭載端末と同程度のグラフィックス性能と考えれば,純粋にゲーム用途だけを見るなら,価格が下がった1年前のハイエンド端末を検討するのが無難かもしれない。
AIを生かしたカメラ機能やステレオスピーカー,アスペクト比9:18の有機ELパネルといった要素にも魅力を感じるのであれば,選択肢に含める価値のある1台となる。発売予定日は12月1日で,店頭でハンズオンできる試用機も並ぶであろうから,気になる人は実機をチェックしてから,判断を下すといいだろう。
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