インタビュー
ついに日本展開が始まる「少女前線」インタビュー。日本最重視の姿勢と「Pay to Win」ではないマネタイズ
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少女前線は,プレイヤーが指揮官となって,銃が擬人化された戦術少女(戦術人形)を「収集」「育成」「編成」し,敵を倒していくというシミュレーションゲーム。第3次世界大戦後の2062年という時代設定を背景としたストーリーの内容も,高い評価を獲得しているタイトルだ。
本作もいわゆる「艦隊これくしょん -艦これ-」にインスピレーションを受けたゲームだが,擬人化の題材が銃であることや,緻密に構築された世界観とシナリオのほか,陣形変更などの操作次第で戦況が左右するバトルシステムといった点から,従来の擬人化キャラクター収集ゲームとはひと味違うタイトルに仕上がっている。そして何より,日本のユーザーにとっては時間軸が後発なので勘違いしがちだが,スマホで猛威を振るっている,中国の「擬人化系ゲーム」ブームの口火を切ったのは,この「少女前線」なのだ。
日本進出が決まったようだ……という噂を聞いてから,いつかインタビューする機会はないものかと思っていたが,今回ようやく,プロデューサーである羽中氏にインタビューする機会を得られた。本家の中国大陸だけでなく,台湾や韓国,アメリカなど,ワールドワイドで展開している少女前線をどのような形で日本にリリースし,どこを目指していくのだろうか。その答えを探ってみよう。
わずか3人の同人サークルから始まった「少女前線」
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。上海散爆が日本で大きく取り上げられるのは,おそらくは今回のインタビューが初めてですよね?
羽中(ウチュウ)氏:
そうですね。Twitterも含めて正式に名前が出てきたのは今回が初めてです。
4Gamer:
なので今回のインタビューにあたって,僕なりに羽中さんのことをいろいろ調べたんですが,もともと同人サークル出身で,そのサークルは学生時代に作ったもので,そのときのチームがそのまま大きくなったのがいまの会社で,戦略ゲームが大好きな人で,実は今回の「少女前線」がまだ2作品めで……ということまでは分かりました。
そんなサクセスストーリーをまず紐解くために,作品の話の前に,羽中さんがどういった人なのかをお聞きしたいと思いました。学生のときにはどんな勉強をして,どういう経緯で同人サークルを立ち上げたんでしょうか。
羽中氏:
なるほど,いいですよ。
大学ではアニメーションを学んでいたんですが,2年生で中退してしまいました。
4Gamer:
中退した理由はなんでしょう?
羽中氏:
そうですね……学校で学べるものが少ないと思ったんです。これだったらマーケットに出て,プレイヤーの皆さんと直接やり取りしたほうが得るものも多いだろうと思って辞めました。
4Gamer:
ということは,当時からすでにゲームを作ろうと考えていたんですね。
羽中氏:
はい。大学を辞めて同人サークルを立ち上げたときすでに,「ゲームを作りたい」という夢はありましたが,とりあえず同人誌を描くところから始めました。
4Gamer:
まずは個人や少人数でもやりやすいところから……と。同人誌を描く活動をする中で,何をきっかけとして最初のゲーム「面包房少女」(パン屋の少女)を作ることになったんですか?
同じ志(こころざし)を持った仲間たちと一緒にイラストを描きながら,実際に本という形にするまでの過程を学んでいく中で,自然とそれが拡大されて「ゲームを作る」という方向に進むことになったんです。
4Gamer:
結構違うもののような気もしますが(笑)。その当時のサークルのメンバーは何人くらいで?
羽中氏:
「雲母組(mica team)」というサークルを立ち上げ,「面包房少女」を制作した時代は3人だけですね。当時は音楽を作ったり,プログラムを組んだりする人がいなかったので,協力関係にあったほかのサークルの皆さんにも手伝ってもらいました。でも主要メンバーは,当初から同じ志を抱いていた仲間たちでしたね。
4Gamer:
その記念すべき1作目のジャンルである「戦略育成シミュレーションゲーム」って,わりとマニアックなジャンルだと思うんですが,中国では一般的なんですか?
羽中氏:
いやいや,確かにジャンルとしてはそんなに多くないですよ(笑)。ただ中国でも昔から「Command & Conquer:Red Alert」(※)なんかは人気ですよ。
※1996年にリリースされたRTS(リアルタイムストラテジー)
4Gamer:
コマコンとはまた懐かしい名前が!
羽中氏:
戦略ゲームのプレイヤー人口はそんなに多くないかもしれませんが,その分1人1人の熱量がとても大きいんです。
4Gamer:
中国では,PCゲームをやっている人がそのままスマホゲームをプレイしているという話をよく聞きますが,それも熱量の高さの理由なんですかねえ。
羽中氏:
確かに最初のほうのコアプレイヤーは,PCゲームから流れてきた人たちでしたね。
4Gamer:
そういう情勢を鑑みて,最初の作品をミリタリー色の強い戦略育成ゲームにしたんでしょうか。
羽中氏:
いえいえ。単純に,サークルのみんなが好きなジャンルだったからです(笑)。
4Gamer:
意外とシンプルでした……。まぁでも好きじゃないと作れないですよね。
これは偏ったイメージかもしれませんが,イラストがメインだった同人サークルで最初のゲームを作るとなると,なんとなく「かわいい女の子が出てくるアクションゲーム」みたいなものを勝手に想像してしまうんですが,羽中さんのサークルときたらいきなりコアな戦略ゲームだったので……。
羽中氏:
私たちのゲームにもかわいい女の子は出てきますよ!(笑) でも正確に言うと彼女たちは,純粋な銃器の擬人化ではなく,「戦術少女」「戦術人形」という細かく定義された設定のもとで成立したキャラクターたちなんです。
実は「面包房少女」から「少女前線」に至るまでの世界観はすべてつながっていて,この世界観は「少女前線」で終わらせず,今後もいろいろな方向に広げていきたいと考えています。
4Gamer:
あれ,すみませんそこはよく分かってませんでした。「少女前線」は日本でも注目されているんですが,自分も含めて“銃器の擬人化ゲーム”というイメージだけが先行していてそれが強いかもしれません。
つまりええと……実は擬人化(美少女化)ではなく,世界観そのものをウリとしていて,世界観を同じくするさまざまなコンテンツを展開していく,というのが今後の方針なんでしょうか。
羽中氏:
はい。実はアメリカや韓国でも,最初は安易な擬人化ゲームだと思われていました。でもそれは悪いことだとは思ってません。どんなきっかけでもいいから,「少女前線」に興味を持ってもらいたい,遊んでもらいたいと考えていますから。遊び始めてから世界観や設定に引き込まれてくれると嬉しいですね。
4Gamer:
ということは,美少女擬人化というデザインを採用したことも,そのあたりに理由があるというわけですね。
羽中氏:
ええ,より多くの人に遊んでもらうための,ひとつの解答です。確かに擬人化というジャンルそのものも好きですけどね(笑)。もちろん「艦これ」は私たちも遊んでいましたし,「艦これ」の影響で中国でも,擬人化ゲームがブレイクしそうな空気がありましたし。
4Gamer:
プロモーションの面からみても合理的だと思います。
ところで開発チームの規模は,「面包房少女」と「少女前線」では結構変わりましたか? 言うならば,同人ゲームから商業ゲームへの移行を果たしたわけなので,そのあたりちょっと興味深いです。
羽中氏:
1作目と同様,私を含む数人のスタッフがコアメンバーとして関わっていますが,おっしゃるとおりインディーズゲームから商業ベースへの移行ということで,人は相当増えましたね。
4Gamer:
どれくらい?
羽中氏:
開発の初期は4人でしたけど,その後少しずつ増えていって,中国版の正式サービス開始時には35人になっていました。現在は会社全体で117人です。
4Gamer:
4人から117人!
羽中氏:
はい(笑)。そしてその半分が「少女前線」のチームです。もう半分はほかのプロジェクトですね。
4Gamer:
先日中国の配信で発表した「少女前線2」(※)ですか?
※現在,中国でのみ正式に発表されている新プロジェクト
羽中氏:
はい。1つは「少女前線2」ですが,これは開発コードネームなのでまだ仮タイトルです。ほかにもいくつかありますが,いずれも先ほど申し上げたように「少女前線」と世界観を共有するタイトルです。異なる時代の話かもしれませんし,まったく違うジャンルのゲームかもしれません。
4Gamer:
世界観が共通でまったく別なゲームが出たら,それはそれで楽しそうですね。戦略シムとRTSとアクションゲームと……みたいな。
羽中氏:
そうですね。でもまだ何も決まっていませんので,あまりプレッシャーを与えないでください(笑)。
莫大な利益こそ上がらないけど,Pay to Winにはしたくない
4Gamer:
「少女前線」のキャラクターは,デザイン的には銃を擬人化したものですが,題材が銃というのがまたちょっとマニアックですよね。
羽中氏:
銃に限らず,私たちの会社のメンバーは兵器類が好きな人間ばかりですよ。同人サークルで作っていたものも銃がテーマでしたし,何がウケるのかについての知見もあったんです。
4Gamer:
私はそこまで銃に詳しくないんですが,キャラクターの題材になりそうな銃ってどのくらいあるんですか。
羽中氏:
たぶんご想像より遥かに多いと思います。世界中のものを合わせると何千……いやもしかしたら万を超えるかもしれません。
4Gamer:
万!?
羽中氏:
少なくとも戦艦よりは多いと思いますよ(笑)。
4Gamer:
あぁ……であれば,戦艦ゲームより長期運営がしやすそうですね(笑)。
羽中氏:
まぁ真面目な話,開発当初,すでに市場には戦車や戦艦を題材にした擬人化ゲームがすでに存在していたので,そういうゲームとは被らない,かつ自分たちの好きなものを考えた結果,銃が残ったんです。男の子なら銃に興味を持つ機会も多いでしょうし,ワールドワイド展開にも適していると思います。
4Gamer:
確かに,銃の擬人化ゲームって見たことない気がしますね。ところで戦車や戦艦の場合,「ドイツのIII号戦車が1番美しい」とか「英国艦の渋さがたまらない」みたいな派閥(?)があったりしますけど,銃はどうなんですか?
羽中氏:
銃も国によって違いがありますし,製造工場によっても変わりますから,熱心な愛好家ほどそういう側面があるかもしれません。たとえばドイツにはH&Kというメーカーがあるんですが……。
4Gamer:
ヘッケラー&コックですね。
羽中氏:
十分詳しいじゃないですか(笑)。それでH&Kには,真っ黒でカッコいいコンパクトな銃が多いですし,例えばソ連のAK-47は結構じゃじゃ馬なところがあったりとか。銃に詳しい人は,国や製造工場などの好みで楽しむこともできますし,詳しくない人は純粋にキャラデザインの好みで楽しんでもらえればいいかなと思います。
4Gamer:
なるほど。銃をテーマに選んだ理由は分かりましたが,ゲームのシステム部分で,インディーズから商業に移行するにあたって気をつけた部分はありますか?
羽中氏:
たくさんありますね……。一般的に戦略ゲームはシステムが非常に複雑ですが,スマホゲームとしてさまざまな人に楽しんでいただくために,シンプルで分かりやすい形にブラッシュアップしました。
4Gamer:
「今のままじゃ売れないから一般向けにして作り直そう」ということになったはいいけど,「作りたかったものと違う!」と内部分裂を起こす話もたまに聞かれるんですが,そういったことはありませんでしたか。
羽中氏:
いやあ……衝突はたくさんありましたが,それはほとんど自分の心の中での葛藤でしたね。メンバーとは開発前に,削る部分や変更する箇所を話し合って決めていたので,開発過程での衝突はありませんでした。
4Gamer:
そんな苦労の甲斐あって完成した「少女前線」ですが,中国ではかなりのヒットを記録しました。ヒットの理由を,ご自分ではどう分析してますか?
羽中氏:
開発には1年をかけたんですが,最初から大好評だったわけではなくて,批判の声も多かったんです。イラストやビジュアル面では優位に立っていたと思いますが,ゲーム作りや運営の経験はまったくなかったので,最初はとにかく毎日が大変でした。
でもプレイヤーからの批判の中には「確かにそうだな」と思える意見もたくさんあったので,1年目はプレイヤーの意見を参考にしつつ,毎月のようにアップデートを重ねて問題点を改善していきました。
4Gamer:
それがオンラインゲームであれ,MMORPGであれ,格闘ゲームであれ,どんなゲームでもそうですが,プレイヤーの意見を聞きすぎてもダメじゃないですか。そこのバランスはどうやって取ったんでしょうか。
羽中氏:
おっしゃりたいことは分かります。
私たちはまずプレイヤーの意見をすべて収集して,1番多いのはこの意見,2番はこの意見……といった具合にデータを整理したあと,なぜその意見が多いのかを考え,そしてそれに対する反対意見を研究しました。それを踏まえて,どの意見が「ゲームにとってより良いか」をこちらで判断し,変更していきました。
4Gamer:
でもそれだと,ある仕様に対して「難しすぎる」「簡単すぎる」という対立意見が同じくらい目立ってしまうと,判断が難しそうです。
そういう場合はどちらか一方に立つわけではなくて,どちらも満足がいくような調整を模索するようにしています。
4Gamer:
何か具体例はありますか? 「そんな都合のいい解決あるのかな?」といま一瞬思ってしまったんですが。
羽中氏:
あぁ,そんなに難しく考えないでください。
例えばゲーム内のイベントなどは,前半は相対的に簡単にして,報酬は前半で全部取れるようにしました。その代わり後半は上級者向けにして,クリアした人には特別な勲章をあげるような形にしたところ,多くのプレイヤーが納得する結果を得られました。
4Gamer:
なるほど,そういうことでしたか。コアプレイヤーの感覚にすべてを委ねるのではなく,より多くの人にとってベターなゲームデザイン/バランスを心がけていると。
羽中氏:
どちらかの意見だけを優先するバランス調整を続けていくと,満足するプレイヤーがどんどん少なくなってしまいますからね。常により多くの人が満足できるような調整を心がけています。
4Gamer:
その方針は今後も変わらない?
羽中氏:
もちろんです。今までもそうやってここまできましたし,これからもそうします。
4Gamer:
PCゲーム全盛期のMMORPGが最たるものでしたが,上級者に向けたアップデートを実装しすぎてシステムが複雑化し,最初のほうのゾーンが置き去りになって新規プレイヤーが楽しめないゲームに変化してしまう……というケースは珍しくないですよね。「少女前線」はそうならないぞ,と。
羽中氏:
そうですね。そういう一部の上級者しかクリアできないようなステージを追加するつもりはないです。「少女前線」は“Pay to Win”のゲームではないですし,ゲームの進行度に合わせてプレイヤーが強くなっていって,最後は一緒にクリアできればいいなと思っています。
4Gamer:
理想的なお話ですね。でも一部のプレイヤーから「Pay to Winにしたほうがいいんじゃない?」「あの会社どこで儲けてるの?」という話もチラホラ出ています。ご存じですか?
羽中氏:
ええ(笑)。韓国でリリースしたときも,アメリカでリリースしたときも言われましたし,本日たったいま,リリース前の日本でも言われました(笑)。
韓国ではPay to Winのゲームが大流行しているので,とくに言われましたね。「本当に大丈夫?」って。韓国のメディアにインタビューを受けたときも「そんなやり方で儲かるの?」「続ける気あるの?」とずいぶん聞かれました。
4Gamer:
なんて答えたんですか?
羽中氏:
「少女前線」で楽しめる世界観は,私たちが考えている大きな世界観のほんの一端です。その世界観をさらに広げていくためにも,できるだけいろいろなプレイヤーに「少女前線」を遊んでいただいて,世界観やキャラクターを好きになってもらえたらと思っています。なので,現段階では「お金を搾り取ってやろう」という気持ちは生じてないんですよ。
4Gamer:
しかし会社である以上,利益は多くて困ることはないですよね。もうちょっとあとに世界観とIP全体で――キャラクターグッズを販売したり,映像作品を制作したり?――利益を上げればいい,ということでしょうか。
羽中さんの想いもよく分かるんですが,「少女前線」のファンも,作品を愛しているからこそお金を払いたいんだと思うんですよ。プレイヤーにとっての一番の不幸は,利益が上がらずに好きな作品のサービスが閉じられることなので。
羽中氏:
おっしゃることはとてもよく分かりますし,そう思っていただけるのはとてもありがたいことです。それでも私たちは「まだ集金のフェーズではない」と考えているんです。
そうですね……ゲーム内の有料ガチャと有料ショップでキャラクタースキンを販売しているので,世界観とキャラクターを愛してくれている人が,それを買ってくれれば十分です。Pay to WinならぬPay to Beauty……いえ,Pay to Lookとでも言いますか(笑)。
4Gamer:
いいですね。御社が大儲けできないだけで誰も不幸にならない(笑)。
羽中氏:
そうですね(笑)。Pay to Winではなくて,キャラクターのスキンや家具を買って,愛着を深めてもらえたらと。しかもスキン自体にステータスアップなどの特殊効果が付与されているわけでなく,完全に目で楽しむためのアイテムでしかないですが,このやり方で2年間,なんとかやりくりしてきました。
4Gamer:
日本でもPay to Winは否定的に受け取られがちですが,流行っているスマホゲームの多くはPay to Winです。そんな日本市場でも戦い方は変わりませんか。
羽中氏:
私たちは「日本の市場で高い売上を出したい!」と考えているわけでなく,「少女前線を日本に広めたい!」という想いで頑張っています。日本でPay to Winならいい結果が残せることが分かったとしても,だからといって日本だけそうしようとはせずに,他国のプレイヤーと同じように楽しんでほしいと思っています。もちろん,日本だけのイベントなども開催する予定ですが,ゲーム全体の体験はどこでも同じにしたいです。
日本だけは特別な運営体制
“完全体”に近い状態の作品で,日本での成功を目指す
4Gamer:
「少女前線」の日本でのローンチは少々遅れている印象を受けますが,それも,日本市場に対する想いの強さゆえですか。
おっしゃるとおりです。私たちのゲームは日本風なところがありますし,日本が非常に重要な市場だということが分かっていたので,質を高めた状態でリリースしなければなりません。ただ,韓国や台湾などいろいろなところに進出しすぎて,中国本社が人手不足に陥ってしまいました。
4Gamer:
意外とシンプルな理由でした……。
羽中氏:
先ほど申し上げたとおり,日本の市場は非常に重要視していますので,日本版を出すにあたって,本国のメンバーも加えて日本のチームを結成し,日本にオフィスも作り,日本専用の運営体制を整えています。
4Gamer:
ということはほかの国は違うんですか?
羽中氏:
はい,違います。専任の担当者が,いろいろな国を管理しています。ここまで万全の体制を整えたのは,日本だけです。日本のプレイヤーに受け入れてもらえなければ,「少女前線は成功した!」と自分自身を祝福できないんですよ。
4Gamer:
うーん,でもすでに2年間運営してるタイトルですし,そこまでセンシティブにならなくてもよいのでは? と思ってしまうんですが。
羽中氏:
確かにそうですね。でもそれでもなお,より完全を目指したいです。「少女前線」中国版のリリース時はコンテンツが少なく,さまざまな欠点もありましたが,中国で約2年間にわたって運営してきた現在は修正作業も落ち着き,ゲームは“完全体”に近い状態です。これをもって日本での成功を目指します。
4Gamer:
コンテンツが豊富で動作も安定した状態の「少女前線」を,日本のプレイヤーに遊んでもらいたかったわけですね。羽中さんにとって,日本はそんなに特殊な国だということですか。
羽中氏:
私は日本のアニメやゲームで育ってきた人間で,それは開発チームのメンバーも同じです。日本に対しては特別な感情を抱いてますね。小さい頃から日本のコンテンツで育ってきたので,今度は僕たちが作ったゲームで日本の皆さんを楽しませたい! という想いが強いんです。
4Gamer:
今おいくつですか?
羽中氏:
29歳です。
4Gamer:
お若いですね……。やっぱり30歳前後の中国黄金世代の方でしたか。今の中国のゲーム業界は大体30〜35歳ぐらいの方が頑張ってますよね。
羽中氏:
よくご存じで(笑)。日本のアニメやゲームに影響を受けたゲームを作っている人は25歳から30歳くらいの人が多く,三国志など,伝統的なテーマのゲームを作る人は30歳から40歳くらいの人が多いですね。最近の中国では前者をメインとする会社が増えてきて,そういう会社は平均年齢も低めです。
4Gamer:
ちなみに羽中さんがサークルを立ち上げたのは何歳なんですか?
羽中氏:
立ち上げたのが2008年なので,19歳のときですね。
4Gamer:
19歳……。
羽中氏:
そこからたくさんの時間を使ってアニメやゲームの知識を蓄えて,ゲームを作ったんです。
4Gamer:
日本にも10代でサークルを立ち上げる人はいますが,そこからゲーム会社を興してワールドワイドでサービスを展開するって,ものすごい成功体験だと思うんですよ。そのプロセスをどこかで本にしませんか(笑)。
羽中氏:
いやあ,書く時間がないですよ(笑)。自分ではまだまだだと思っていますし,もっといいコンテンツを作るためにこれからも頑張ります。
4Gamer:
ご謙遜を……。そんな羽中さんから見て,最近の日本のゲーム市場ってどんなふうに見えてますか?
羽中氏:
昔からずっと続いているゲームもあるし,よく分からないけどすごいゲームが突然出てくることもあるし,市場としての価値と魅力がとても大きいと感じています。競争も激しいですし,「少女前線」が日本である程度良い成績を出すためには,相当な努力が必要だと感じています。
4Gamer:
具体的にはどんな努力が必要だと思いますか?
羽中氏:
ゲーム内イベントと,オフラインイベントを頑張りたいと思っています。
4Gamer:
即答ですね。顧客満足度を上げる方向で頑張っていきたいということでしょうか。
羽中氏:
ええ。日本独自のイベントをやって,プレイヤーの皆さんに満足してもらいたいです。
4Gamer:
日本のプレイヤーは,ゲーム内イベントやオフラインイベントが好きなイメージがあるんでしょうか。まぁ確かに結構好きなんですけど。
羽中氏:
ありますね。なので秋葉原のショップとコラボして商品を売ったり,特典を配布したりということをやっていけたらいいな,と思っています。まだ何も決まってないですが。
4Gamer:
中国やほかのアジア圏の人もオフラインイベントは好きなんですか?
羽中氏:
中国はそこまで多くないですね。
4Gamer:
やっぱり(国が)広すぎるからでしょうか。
羽中氏:
かもしれませんね。中国のオフラインイベントは,同人即売会などの企業ブースでやることがほとんどなんです。
4Gamer:
ということは,台湾や韓国ではオフラインイベントは開催されている?
羽中氏:
はい。「少女前線」はほかのゲームに比べるとオフラインイベントをやっているほうだと思います。中国や韓国ではコラボカフェをやっていますし,韓国では「少女前線」のグッズショップも展開しています。
4Gamer:
国によってゲームの遊び方の違いとかはあったりしますか?
羽中氏:
そうですねえ……韓国のプレイヤーは一気にゲームを進めたがる印象で,日本は比較的長いスパンで,ゆっくり楽しんでくれるイメージがあります。中国はその中間ぐらいでしょうか。
あと,日本のプレイヤーは有志でWikiを作って,いろいろ調べて攻略情報を書いてくれます。この点も開発チームとしては嬉しいですね。中国だと攻略Wikiを有志で作るケースはそんなに多くないんです。
4Gamer:
日本でも最近は企業型の攻略Wikiが目立ってきましたが,やはり,ファンに攻略Wikiを作ってもらえるほうが嬉しいですか?
羽中氏:
もちろんです! その2つは全然別なものです。プレイする時にいろいろ調べてくれる過程で,ゲームに対する理解もより深まると思いますし,我々もそれを望んでいますので。
4Gamer:
Wikiなどの攻略情報が充実すると,コンテンツの寿命が縮まってしまうという見方もありますが,そのあたりはどうですか。
羽中氏:
おっしゃることはよく分かりますが,我々のタイトルに関して言うならそこは大丈夫です。「少女前線」のゲームデザインは,攻略Wikiを見てもコンテンツの寿命が縮まらない作りになっていますから。確かに,ときどき頭を悩ませなければいけないイベントもあるんですが,ほとんどのコンテンツは,Wikiを見てもつまらなくなることはないと思いますよ。
4Gamer:
なるほど,であれば大丈夫そうですね。
……ではそろそろお時間のようなので,最後の質問です。羽中さんは何をもって,日本展開を成功だと考えますか。数字的な目標でなく,気持ち的なものでも構わないのでお聞かせください。
羽中氏:
韓国,台湾,アメリカと,いずれのケースも実はうまくいくとは考えていなかったんですが,いざ蓋を開けてみたら良い結果が得られました。数字的な成功を考えずにやったほうがうまくいくこともあると思うので,日本でも,プレイヤーの皆さんが楽しく遊んでくれたなら,私たちの目標はそこで達成されるのかなと考えています。
4Gamer:
今日お話しをさせてもらって,羽中さんが「Storeランキングでの垂直立ち上げを目指しています」とか「事前登録20万人突破はマストです」などと言わないタイプの社長さんだということはハッキリと分かりました(笑)。自信を持って楽しいと思えるバージョンの「少女前線」を日本でリリースして,多くのプレイヤーにハマってもらって,たまに有料のスキンを買ってもらえればそれでOKじゃないか,と。
羽中氏:
おっしゃるとおりです。プレイヤーが楽しんでさえくれれば,ゲームの攻略に直接は役立たない家具やスキンを販売するだけでも,なんとかなると思います。お金を儲けるためにあれこれと施策を打ち立てる気は今はありません。どうすれば皆さんが「少女前線」を愛してくれるか。それだけを考えていれば,結果はついてくるものだと確信しています。
4Gamer:
ぜひその姿勢を崩さずに日本でも頑張ってください。本日はありがとうございました。
──2018年6月8日収録。
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ドールズフロントライン(旧名:少女前線)
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(C) SUNBORN Network Technology Co., Ltd. (C) SUNBORN Japan Co., Ltd.
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