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[GDC 2018]英語圏のゲーマー達を抱腹絶倒させたコメディRPG「West of Loathing」という奇作はどのようにして生まれたのか
「West of Loathing」は,まるで子供が描いた線画のようなグラフィックスが目を惹くRPGだ。日本語はサポートされていないものの,Steamでは日本からも1080円で購入できる。,Steam上のレビュー評価もかなり高く,IGF(Independent Games Festival)のゲーム大賞であるSeumas McNally Grand Prizeにノミネートされた。実は筆者もIGFで話題になるまでは知らなかったというのが正直なところだったりするが,見た目は2Dだがプレイフィールは自由度の高いオープンワールド風ということもあって,2017年8月のリリース以来,ゲーム実況者達の間で人気を呼んでいたらしい。
本作をユニークたらしめているのは,ゲーム内テキストの一言一句に至るまでジョークで構成されていることにある。ゲーム開始時に選択するクラスからして「カウパンチャー」(ウシ殴り),「ビーンスリンガー」(豆投げ),そして「スネークオイラー」(蛇油使い)という聞いたこともない職種だ。さらにゲームが始まって,自室の本棚にあった参考書から最初に学べるPERKS(パッシブスキル)が,主人公が子供の頃から憧れていたという「Stupid Walking」(馬鹿丸出しの歩き方)であり,以後主人公はさまざまな“おバカな歩き方”をプレイヤーに披露し続けてくれる。
開発元であるAsymmetric Publicationsは,2003年から続くオンラインブラウザゲーム「Kingdom of Loathing」の開発メンバー5人で構成されたチームだ。「West of Loathing」は,前作にあたるこの「Kingdom of Loathing」の世界観をベースに,シングルプレイヤー向けにアレンジしたタイトルで,まだ未開の地である王国の西部に,魔のウシ軍団の魔の手が迫っている,というのが物語の背景となっている。
そんなAsymmetric Publicationsの設立者であり,ディレクター的な役どころで活動するJohnson氏は,「West of Loathing Design Postmortem」(West of Loathingにおけるデザインの検証)と題したセッションの冒頭,「コメディについて,したり顔で語ることほど笑えないことはないのですが……」と,前置きしてから申し訳なさそうに語り始めた。
氏によれば,本作のそもそもの開発意図は「コメディゲームを作ることであり,コメディ要素のあるゲームを作ったわけではない」という。このため,少しでも隙があればゲーマーを笑わせようと,テキストを調整し続けたそうだ。そのこだわりはストーリーはもちろんのこと,グラフィックスオプションの説明にまでネタが仕込んであって侮れない。
シナリオを書いたのはJohnson氏と相棒のRiff Conner(リフ・コナー)氏の2人だそうで,Johnson氏は「2人の語り手が面白おかしい冒険をプレイヤーに聞かせるような,ゲーム内キャラクターそのものになりたかった」と話していた。またJohnson氏はターン制のバトルパートについて,時間と予算がなくじっくり作り込めなかったと言っていたが,「ゲームの中核にあるのはジョークを楽しむこと」なので,それもそこまで重要ではなかったのだろう。
そんなJohnson氏だが,すべての笑いを自分でコントロールできるとは思っていないという。ゲームプレイを易しめにし,ジョークに集中してもらうことを念頭に置いたが,ゲームイベントで本作を展示していると,本来の意図とは違う悪い倫理観でプレイし,ゲーム世界で悪さをすることに微笑むようなプレイヤー達が絶えなかったと語っていた。
最後にJohnson氏は,「ほかのゲームやエンターテイメントからジョークを借りたり,宗教ネタなどで,誰かを傷付けてしまったりする笑いには注意を払うべき。そうした安易なやり方は卑怯だと思う」と強く訴えつつ,「講演の締めくくり方としては最悪でしたね」と,謝罪で始まり自省で終わる,これまた奇妙なトークセッションで観衆を魅了していた。
「West of Loathing」公式サイト
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West of Loathing
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