インタビュー
始まりの物語を“再構築”した「劇場版アルゴナビス 流星のオブリガート」のこだわりを,村上一馬プロデューサーに聞く。作品レビューも掲載
ブシロードが展開中のボーイズバンドプロジェクト「ARGONAVIS from BanG Dream!」のアニメーション映画「劇場版アルゴナビス 流星のオブリガート」が,2021年11月19日より公開中だ。2020年春に放送されたTVアニメ版に新たなシーンや演出を追加,さらにキャラクターボイスも新規収録し,劇場版として“再構築”された本作。2022年には完全新作の「劇場版アルゴナビス(仮題)」2作目の公開も決定しており,ファンはもちろん,プロジェクトを知らない人もこれを機にぜひチェックしてもらいたい作品となっている。
今回4Gamerは,“再構築”された総集編となる本作へのこだわりや,ついに登場した“あのキャラクター”などについて,ARGONAVISプロジェクトのプロデューサーである村上一馬氏に話を聞く機会を得たので,本稿にてお届けしよう。最後には,筆者の作品レビューも掲載しているので,最後まで読み進めてもらいたい。
INTRODUCTION
函館の大学に通う、内気な性格の大学生・七星 蓮。
幼い頃に見たライブステージの熱狂を忘れられず、その正体を探す日々を送っていた。
そんなある日、一人カラオケで歌う蓮を、同じ大学に通う結人と航海が見つける。
ボーカルを探していた二人は、蓮の歌声に衝撃を受けた――
一方、札幌で絶大な人気を誇る実力主義若手バンド「GYROAXIA」。
そのボーカルであり、バンドの支配者である「旭 那由多」は自分の音楽だけを本物とし、バンドメンバーには演奏力のみを要求する。
そんな那由多は、蓮の歌に何かを感じ、次第に意識しだしていく――
※TVアニメのネタバレを含みますので未視聴の方はご注意ください
「劇場版アルゴナビス 流星のオブリガート」
村上プロデューサーインタビュー
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。村上さんにARGONAVISプロジェクトのお話を聞くのは初めてになりますね。まずは本プロジェクトにおける役割を教えてください。
村上一馬氏(以下,村上氏):
よろしくお願いします。私は基本的にプロジェクトにおけるキャラクター周りの全体を統括,管理しております。ブシロードミュージックが担当する音楽面とは別のアニメーションやコラボにおけるキャラクターの立ち位置や扱われ方なども見ていますね。
4Gamer:
村上さんは2020年春のTVアニメに続き,劇場版でもプロデューサーを務められています。具体的にはどのようなことをされたのでしょうか。
村上氏:
外部の方や他社さんと密に連絡をとって,プロダクトを制作するような役割です。今回の劇場版でいうと,TVアニメ版から引き続きサンジゲンさんにアニメーション制作を,毛利亘宏さんに脚本をお願いしました。監督は新たに森川 滋さんが担当してくださっています。劇場版はプロジェクト全体の大きな流れの一つなので,そのなかで大まかな方針を決めて舵を切っている感じです。
また,劇場版では制作以外に宣伝周りも見ておりまして,配給会社と一緒に,映画の特典やティザームービーの公開タイミングなども決めています。
4Gamer:
ではさっそく,劇場版について詳しくお聞きしていきましょう。本作は企画としていつごろから話があったのでしょうか。
村上氏:
企画自体の話が出たのは2020年夏の終わりくらい,TVアニメが終了するころです。当初から映画を2本作ろうと思っていたわけではなく,中身を詰めていくなかで“新作の前に総集編を作ろう”というアイデアが出て,スケジュールなどを決めていきました。
4Gamer:
なるほど。今回の「流星のオブリガート」は,内容的にはTVアニメ版の総集編ですが,試写会で拝見させていただいたところ,新しい演出などの新規カットが多くて驚きました。
村上氏:
2作目が新作というのが念頭にあって,逆算的にアイデアを出していきました。新作の内容がある程度固まったところで,1作目のTVアニメ総集編はどう見せるか考えた結果,総集編というより“再構築版”という形にし,それに相応しい作りにしようと思いました。
4Gamer:
具体的にはどのような案がありましたか。
村上氏:
TVアニメの最終話は,昏睡状態の万浬のためにArgonavisメンバーが「Pray」を演奏して終わっていました。ですが,今回から参加してくださった森川監督から「劇場版は1本の映画作品として完結する形にしたい」という意向がありまして,毛利さんがそのリクエストに応えた脚本になりましたね。
また,毛利さんからは「蓮だけでなく,那由多やほかのメンバーの視点でのセリフも入れていきたい」というご希望が当初からあり,監督もモノローグ的なシーンなどの演出を多くしてくださいました。今作は,そうしたお二方のオーダーがうまく噛み合った構成になっていると思います。
4Gamer:
たしかにTVアニメでストーリーは知っていても,新しい発見が多かったです。また,今回はボイスがすべて新録というのも驚きでした。録り直しを決めたのはなぜですか。
村上氏:
録り直し自体は最初からやろうと決めていたんです。TVアニメのアフレコはかなり前で,演技の経験があまりない状態だったキャストさんも多かったんですよね。客観的に「こうすれば良かった」というのもそれぞれあったはずですし,キャラクターとの付き合いも長くなってきて,自分なりの新たな演技プランもあるだろうなと感じていたので,やるなら全部アフレコし直そうと思いました。
4Gamer:
それもあって,作品全体の印象がTVアニメからガラッと変わったように思います。
村上氏:
そうですよね。TVアニメのアフレコをしたのは2019年の秋ごろでしたが,その後にアプリの収録やボイスドラマの収録などがあって,キャストさんたちがキャラクターと向き合う時間が長くなってきました。また,この劇場版のアフレコの直前には舞台(2021年6月「ARGONAVIS the Live Stage」)もあったので,そこで培ったものも演技に大きく影響したと思います。
4Gamer:
舞台の直後だったんですね! たしかにそれは影響が大きそうです。アフレコでのエピソードがあれば教えてください。
村上氏:
アニメーション制作では,原画レベルや絵コンテレベルのものを動かして声を当てることも多いんですが,今回は映像がほぼできあがっている状態で,キャラクターの口パクに合わせて声を当てるというのが変則的でしたね。キャストさん自身も,いったんは完成した自分の演技に対して,違うアプローチを持ってくる方も多かったです。制作側としても予想外の演技プランもあったりして,その新鮮さに場が沸くこともありました。
4Gamer:
それは気になりますね。具体的に教えていただけますか?
村上氏:
例えば秋谷啓斗さん演じる曙 涼のシーンです。七星 蓮と旭 那由多が「STARTING OVER」を歌う前の楽屋で,涼が界川深幸に「息する以外で口を開くなよ」と言われて深呼吸するシーンです(TVアニメでは第8話)。もともとコミカルな場面だったんですが,こうアプローチしたらより面白くなるんじゃないか,というのを秋谷さんが考えてくださったようで,劇場版ではそれがうまくハマったと思います。ほかのキャストさんも,いろいろと演技プランを考えてきてくださいましたね。
4Gamer:
そうなんですね。主演の2人についてはいかがでしょうか。
村上氏:
伊藤さん(七星 蓮役・伊藤昌弘さん)は,当然TVアニメで演じたときより蓮と向き合う時間も長くなってすごくなめらかになった印象です。演技自体ももちろんうまくなっていて,感情の昂ぶらせ方なども含め,より人間的になったように感じました。
小笠原さん(旭 那由多役・小笠原 仁さん)はもともとお上手でしたが,さらに演技が熱いものになったなと。とくに今回の劇場版で追加されたシーンにはまったく新しいセリフもあるので,そういうところでも変化を感じられる気がします。
※以降,劇場版未観劇の方はネタバレにご注意ください
新規カットを大量追加!
大きく印象が変わる劇場版
4Gamer:
この記事が出るのは公開後となりますので,さらに具体的なお話を聞いていきたいと思います。劇場版で村上さんがとくにこだわったシーンがあれば教えてください。
村上氏:
こだわったのは,オープニングで幼少期の蓮がフェスを見ているところの構成を変えたことですね。最初にTVアニメと同じ流れにしてしまうと,再構築版ではなく「やっぱり総集編じゃん」という印象を持ち続けながら観てしまう人が多いと思ったんです。ここで幼少期の蓮が見ているのが予知夢ではなく,ある人物のステージだとすることで,この物語はTVアニメとは別のものだということを意思表明したいなと。ここはキャラクターの表情もかわいく描けているので,注目してほしいです。
4Gamer:
その「ある人物」については後ほど詳しくお伺いするとして……劇場版で村上さんが好きなシーンはありますか?
村上氏:
蓮と那由多が「STARTING OVER」を歌うところで,ボイスオーバーでGYROAXIAのメンバーのセリフが入るんですよ。そのシーンが好きです。あれはぜひ聞いてほしいです。
4Gamer:
あれは良かったですね!
村上氏:
はい。あと,ArgonavisがGYROAXIAと対バンする前,札幌で的場航海と里塚賢汰が会って会話するところをArgonavisメンバーが盗み聞きするシーン(TVアニメ第7話)も。あそこで五稜結人たちが後ろでわちゃわちゃしゃべっていて,賢汰が気づくところに新規カットを入れています。わずかな場面なのですが,賢汰らしさが表れていて気に入っています。
4Gamer:
あれもいいですね。TVアニメを覚えている状態で観ていると,こうした新規カットの多さに驚きつつ,印象が変わったと感じる方は多いと思います。実は,私個人も今作であらためてグッと来て思わず涙したシーンがあったのですが……。
村上氏:
ぜひ教えてください(笑)。
4Gamer:
Argonavisからの脱退を考え始めた結人がメンバーと和解して,蓮と路上で「流星雨」を歌うまでの一連のシーンです。録り直されたボイスと,ちょくちょく入っていた新規カットの演出が相まって,結人が救われた流れがより胸に迫ってくる感じがしました。Argonavisの絆が本当に素晴らしいなと……。
村上氏:
僕もあのシーンは好きです。結人がみんなを集めて引っ張っているように見えて,結人自身も周りに支えてもらっていることがうまく描かれていると思います。
4Gamer:
メインではないキャラクターの視点もしっかり描いたというお話が先ほどもありましたが,この物語には悪人がいるわけではなく,みんながそれぞれに夢や目標を持っているからこそすれ違ってしまったやるせなさが,一番いい形で解決していてあらためて感動しました。劇場で,大きな画面といい音で没入できたのも大きかったと思います。
村上氏:
ありがとうございます。結人と航海のやりとりでも,セリフではなく表情でやりとりするようなシーンを新たに入れていて,そこも気に入ってますね。
4Gamer:
新規カットといえば,蓮が那由多のマンションに行って歌を歌うシーン(TVアニメ第8話)も少し演出が変わってましたよね? 那由多が驚く珍しいシーンですが,来るぞ来るぞと思っていたら,観ているこっちがびっくりしたという。
村上氏:
変わってますね! 今作はキャラクターの塗り方なども違うので,イラストのテイストも変わっていたりするんですよ。演出も含めていろいろと手を加えているので,TVアニメ版とは違う宇宙感になってますね(笑)。
あと,ディスフェスで蓮が那由多に呼ばれて登壇するシーン(TVアニメ第12話)も細かい演出を加えていて,那由多が蓮の手を取って引き寄せたときのカットも新規でインサートしています。
4Gamer:
あれはTVアニメ全13話のなかで,一番と言っていいくらいエモいシーンですよね。あと印象が変わったと言えば,最初にお話しいただいていたとおりエンディングの変化です。万浬が昏睡してそのあとどうなったか? というのはみんなが知りたかった場面じゃないですか。
村上氏:
そうですよね。LIVE内のボイスドラマでは万浬の快気祝いを描いていたんですが,事故と快気祝いの間を今回初めて描きました。万浬の“その後”を描いておかないと,1本の劇場版作品としてどうかなというのがあるので,そこを作れたのは良かったと思います。
それとエンディングの前,ArgonavisのライブMCシーンで蓮があるセリフを言うんですが,実はあれは最後の最後に決まったセリフだったんです。OPタイトルと本編が有機的につながっている感じを演出できればという想いがあったので,そこもぜひ注目してほしいですね。
4Gamer:
あれも感動的でした。ほかにもかなりの新しい演出が多く見られましたが,全体の新規カットはどのくらいになるのでしょうか。
村上氏:
時間で言うと,10分くらいです。
4Gamer:
そうなんですね! 体感的にはすごく多く感じました。
村上氏:
ボイスが新しくなっていることと合わせて,全体の印象の変化につながっているのかもしれませんね。
ついに登場した旭 那由多の父「伊龍恒河」と
完全新作の2作目について聞く
4Gamer:
驚きの多い今作ですが,やはりこの人のインパクトはすごかったですね。幼少期に蓮が観たステージに立っていたボーカリストであり,那由多の父である「伊龍恒河(いりゅうこうが)」です。コミカライズで存在は知ってはいましたが,劇場版にも登場したことには驚きました。
村上氏:
伊龍恒河は那由多の父であり,世界で初めて成功した日本人バンド「SYANA(シャナ)」のボーカルです。両親が離婚した那由多は母親のほうについていったので,今は父親と連絡を取っておらず,那由多にとっては“奥さんと子どもを捨てた父親”なんです。
コミカライズ版では恒河を軸としたストーリーが展開されているのですが,TVアニメやアプリには登場せず,立ち位置があまりきちんと描かれてはいなかったんですよね。
4Gamer:
今回の劇場版での登場の仕方を見るに,次回作にも出るんじゃないかというような感じもありますが……。
村上氏:
はい(笑)。意味深な登場でしたよね。
4Gamer:
恒河はラスボス感あふれる存在感ですが,声を担当したのが谷山紀章さんというのも「ついに来た!」と感じました。谷山さんを選ばれた経緯はどのようなものでしたか。
村上氏:
そもそも那由多がミュージシャンとして圧倒的なので,その父親であり世界でも成功した人間ということで,やはりキャスティングも説得力がある方にお願いしたいなと思っていました。小笠原さんもライブで素晴らしいパフォーマンスをされますし,そういうところも踏まえた上で適した方がいいなと。
声優としても音楽面でも活躍されている方となると自然と谷山さんが第一に浮かんだので,プロジェクトの他の人にも相談しました。「どう思います?」って聞いたら,もちろんみんな異論はないんですが,むしろ受けてもらえるの? くらいの反応で(笑)。「そりゃダメ元だけど……」と言いつつオファーをしたところご快諾いただけて。キャラクターの貫禄と説得力ある演技をしていただけたので,プロジェクト一同とてもうれしかったです。
4Gamer:
収録ではどんなご様子だったのでしょうか。
村上氏:
収録中は「こういう感じでいいですか?」ととても謙虚でした。谷山さんもなぜご自身がオファーされたかを自覚しながら演じてくださったと思いますが,それがまたスタッフ一同も「これが欲しかったんです!」という演技で。谷山さんの演技にはこちらもすごく衝撃を受けましたし,腰の低さに人柄の素晴らしさも感じました。
4Gamer:
そうだったんですね。いや本当に,実績や存在感すべて含めて,那由多の父役にはこれ以上ないくらいにイメージがピッタリだと思いました。しかし谷山さんがキャスティングされたとなると,「歌うよね?」と期待している人も多いと思いますが……。
村上氏:
そうなりますよね(笑)。まだ多くは語れませんが,次回作に期待していただけたらと。
4Gamer:
期待しています。コミカライズ版では恒河がストーリーにかなりガッツリと絡んでいますが,新作でもそれと近い話になるのでしょうか。
村上氏:
劇場版は,それとはまた別物となっています。コミカライズ版はディスフェスを中心に展開していますが,映画はそうではないので。実は,コミカライズ版と劇場版では恒河のキャラクター性が少し違うんですよ。コミカライズ版は,那由多の正当進化みたいな感じですよね。
4Gamer:
よく似ていますよね。シルエットもかなり近いですし。
村上氏:
劇場版では服装なども変わっています。キャラクターとしても,那由多ほど荒々しくはないけど傍若無人ぶりはあって,でも大人のスマートさと冷たさがさらにある……という感じになります。1〜2時間という尺の劇場版のなかで活躍するようなキャラクター感になっていると思います。コミカライズ版で描く恒河とは描き方が異なるので,その違いもぜひ楽しんでほしいですね。
4Gamer:
楽しみです。では,その完全新作となる2作目についてもお聞かせください。現状では来年の夏公開となっていますが,進捗はいかがですか。
村上氏:
実はもうアフレコも完了していまして,アニメーションを鋭意制作中です。
4Gamer:
えっ,そうなんですね! 内容はまだ言えないことも多いと思いますが,何かお話しできることがあればお聞きしたいです。
村上氏:
内容については,脚本の毛利さんやサンジゲンさんと,プロジェクトチーム全体とで「こういうものを描きたい」というのが抽象的にありまして,それを毛利さんのなかで膨らませて脚本に落とし込んでいただく……といった進め方でした。また,劇場版1作目に続き,監督は森川さんが継続して担当してくださっています。
1作目は森川監督による新規カットはありつつもそこまで割合は多くなかったですが,2作目で出てくるライブシーンはTVアニメとはまた違ったものになるので,そこも期待してほしいです。2作目は単体でも楽しめますが,1作目を観ていると「あのシーンってこれにつながるんだ!」というポイントがいくつかあるので,いろいろな楽しみ方ができるのではないかなと。
4Gamer:
期待がふくらみますね。では最後に,ファンに向けてメッセージをお願いします。
村上氏:
月並みな言葉ではありますが……ARGONAVISプロジェクトが発足して何年か経ちましたが,こうして劇場版を公開できるのは応援してくれる皆様がいてのことなので,非常にありがたく思っております。2作目となる新作も来年に控えているので,それを楽しみにしつつ,再構築版である1作目をぜひ多くの方に観ていただけたらうれしいです。
また,本編以外にも“鑑賞マナー動画”を上映期間中に週替わり計5種類観られるようになっています。キャラクター同士の絡みもあり,非常にかわいくて面白いものになっていますので,それも合わせて楽しんでほしいと思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました!
――2021年10月20日収録
「劇場版アルゴナビス 流星のオブリガート」
試写会レビュー
インタビューでも言及されていたように,今作は「総集編」ではなく「再構築版」という呼び方がしっくりくる作品だ。一人ぼっちで歌っていた七星 蓮が,かけがえのない仲間たちと出会い,Argonavisというバンドを組む。そしてGYROAXIAというライバルに出会い……というTVアニメで描かれた一連のストーリーが,およそ1時間半に凝縮されている。
もとはTVアニメ全13話分のボリュームがあったわけだが,劇場版にありがちなダイジェストっぽい薄味も感じさせず,みっちりときれいにまとまっていて感嘆させられた。そのうえ,各キャストによるキャラクターへの理解がさらに深まった完全録り下ろしボイスに,大量の新規カット追加によって,観る前の予想をはるかに(本当にはるかに)上回る感動があって驚いた。
筆者も何回かTVアニメを観ていたはずなのに,たくさんの新しい発見があったのだ。
面白いと思ったのが,自分がここまでARGONAVISプロジェクトを追いかけていて得た経験が,作中の数々のシーンと重なったことだ。例えば,蓮と那由多がはじめて「STARTING OVER」を一緒に歌うシーンは,いつか配信で行われたライブの一幕を思い出したし,ラストのディスフェスの野外ステージは,富士急で繰り広げられた景色と同じだ! と胸が熱くなった。
それに,アプリでは今やたくさんの物語が綴られているおかげで,観ているこちらもキャラクターに対する認識や解釈が増えている。だからこそ,劇中の彼らがそのとき何を感じていただとか,なぜそういう行動を起こしたかということが,より理解しやすくなっているように感じたのである。
また,TVアニメが“Argonavisという船”の船出を描くものだとしたら,この「流星のオブリガート」は,“ArgonavisとGYROAXIAの交差する運命の始まり”を描いているという印象が強かった。「オブリガート」とは音楽用語で,省略のできない必要不可欠なパート(主旋律とは別の“カウンターメロディ”)を指すが,もともとは「強制された」「義務付けられた」などの意味を持つ言葉だ。このタイトルは,ArgonavisとGYROAXIAはどちらも主人公であり,お互いが対旋律である……ということを現しているのかもしれない。来年に控えている2作目では,そうした印象がより強くなっていく気がしている。
そういう意味で,今作はTVアニメをすでに履修済みの人にこそ観てほしいと思う。そこには必ず,経験したことのなかった感動が生まれるはずだから。でも,あのすてきな物語をたった数時間で体験できるという意味では,ARGONAVISプロジェクトをまだよく知らない人におすすめしやすいのも事実だ。観る人ごとに違う楽しみ方ができる「流星のオブリガート」,ぜひ多くの人に観劇してほしいと思う。そして,2作目で描かれるであろう驚きや感動を,一緒に体験したい。
「劇場版アルゴナビス 流星のオブリガート」
全国の映画館にて上映中
CAST
Argonavis
七星 蓮 役 伊藤昌弘
五稜結人 役 日向大輔
的場航海 役 前田誠二
桔梗凛生 役 森嶋秀太
白石万浬 役 橋本祥平
GYROAXIA
旭 那由多 役 小笠原 仁
里塚賢汰 役 橋本真一
美園礼音 役 真野拓実
曙 涼 役 秋谷啓斗
界川深幸 役 宮内告典
OTHER
八甲田健三(マスター) 役 宮内敦士
摩周慎太郎 役 佐藤拓也
STAFF
監督 森川 滋
脚本 毛利亘宏
メインキャラクター原案 三好 輝
音楽 高橋 諒
アニメーション制作 サンジゲン
製作 ブシロード ウルトラスーパーピクチャーズ
配給 ブシロードムーブ
「劇場版アルゴナビス 流星のオブリガート」公式サイト
(C)ARGONAVIS project.
(C)DeNA Co., Ltd. All rights reserved.
(C)bushiroad All Rights Reserved.
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