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  • 発売日:2018/11/27
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印刷2018/11/24 12:00

インタビュー

【PR】世界観はゲームの楽しさを伝える手段――「イドラ ファンタシースターサーガ」の世界観作成に迫る

画像集 No.019のサムネイル画像 / 【PR】世界観はゲームの楽しさを伝える手段――「イドラ ファンタシースターサーガ」の世界観作成に迫る

 まもなくの2018年11月27日に配信を迎える,セガゲームスの新作「イドラ ファンタシースターサーガ」iOS / Android)は,ファンタシースターのシリーズ30周年記念作品である。

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 セガゲームスは2018年11月27日,新作スマホ向けRPG「イドラ ファンタシースターサーガ」の配信を開始する。本作は,人気RPG「ファンタシースター」の30周年を記念したシリーズ最新作であるが,今回はリリースに先駆けてゲームの冒頭をプレイする機会を得たので,その内容をインプレッションを交えて紹介していこう。

[2018/11/22 19:49]

 その特徴は,シリーズ原点に立ち返る“コマンド選択型RPG”,2つのパーティを切り替える“独自のバトルシステム”,キャラクターをロウとカオスに振り分ける“運命分岐”など,ユニークな要素の搭載であるが,本稿では「本作のRPGとしての根幹を成す世界観設定」に注目したい。

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 そのため,今回はプロデューサーの田中俊太郎氏に“山ほどの設定資料”を見せてもらいつつ,世界観や脚本やキャラクターなどの設定面について話を聞いてきた。世界観と言われると当たり前のように受け取っている気もするが,意外と聞き慣れない「世界観作成」という仕事は,どのような考えのもとで行われているのだろう。

「イドラ ファンタシースターサーガ」プロデューサー,脚本・世界観作成の田中俊太郎氏
―――――――――――――――――
「戦場のヴァルキュリア」(ディレクター,脚本・世界観作成)
「エターナルアルカディア」(脚本・世界観作成)
「サクラ大戦」「サクラ大戦2」(プランリーダー,シナリオテキスト作成)
「ファンタシースターオンライン2」(シニアディレクター)
「ファンタシースターオンライン2 es」(プロデューサー)
―――――――――――――――――
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「イドラ ファンタシースターサーガ」公式サイト



誰にでも分かりやすく


4Gamer:
 前回は東京ゲームショウの会場で,制作のきっかけやシステム面について聞かせてもらいましたが,今回は田中さんが担当する「世界観作成・脚本」について,詳しく教えてもらえればと思います。

田中俊太郎氏(田中氏):
 なるほど! よろしくお願いします。

4Gamer:
 はい,よろしくお願いします。まず本作における「世界観」ですが,これはどのような流れで作られていったのでしょう。

田中氏:
 ゲームにおいて「世界観が先か」「お話が先か」は,制作者や作品によって異なりますが,本作では脚本を書く前に世界観を用意しました。

4Gamer:
 最初は物語よりも設定,ということですか。

田中氏:
 脚本や設定よりもさらに前に「巨獣イドラと戦う」「自分がイドラになれる」「ロウとカオスの2大勢力が争う」など,“ゲームとしての遊びのためのコンセプト”を用意しています。そのうえで,なぜイドラがいるのか,なぜロウとカオスに分かれているのか,それらを“歴史として成立させる形”で世界観を構築していきました。

4Gamer:
 コンセプトから膨らませて,歴史を成立させていくと。

田中氏:
 「戦場のヴァルキュリア」や「エターナルアルカディア」もそうでしたが,私がこれまでゲームで構築してきた世界観は“リアルの歴史や事象に根差している”ものであることが多いです。過去の戦争,大航海時代,そういったものです。あと,歴史の教科書的な大きな概念だけではなく“身近によくありそうな世相や事件”も拾っていくようにしています。

4Gamer:
 よくありそうな世相ですか。

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田中氏:
 作中では長年にわたり,ロウとカオスの両勢力がそれぞれの主義主張のもと,苛烈な争いを繰り広げています。しかし,それぞれの勢力に所属するキャラクターの個人レベルの問題に目を向けると,「ロウは口うるさい!」「カオスはだらしない!」といった,些細な喧嘩も行われています。

4Gamer:
 うーん,リアルではありますが,壮大さに欠けませんか?

田中氏:
 ですが,我々の世界もそういうものです。大きな国や組織といった勢力同士の争いも,身近な個人レベルにまで目線を下げると,揚げ足取りや些末な論争なんかで言い争っていることが多いと思いませんか。

4Gamer:
 なるほど,たしかに。テレビやSNSなんかでよく見る光景です。

田中氏:
 ファンタジーなどの創作世界に登場するのも,結局は人間ですから。そうしたリアルな「世相」の実感を取り入れていこうと意識しています。歴史の大きな流れというのは肌身では感じづらいものですが,こうした身近な事象を一緒に描くことで,プレイヤーさんが体感しやすくなると考えているんです。ネットやSNSなどがまだ十分に発達していなかった戦ヴァルやアルカディアをやっていたころとは,多少切り口を変えている部分もありますね。

4Gamer:
 では,それらの世界観というものがゲームにおいてどのように必要とされるのか,田中さんの見解を教えてください。

田中氏:
 ゲームはチームで作る集団作業です。キャラクターや背景,武器やモンスターなど,さまざまな要素を作っていくわけですが,私は「その世界の種族はどうして生まれたのか」「彼らはどういう信念を持っているのか」など,その世界の歴史を作ることでチームメンバーに分かりやすく伝えたいと思っています。過去の歴史があって,今がそうなっている。その必然性は作品の説得力につながると思っています。

4Gamer:
 非常に分かりやすい。

田中氏:
 作中の時代を測れなければ,文明の発達度合いも分からない。金属が使われていても,ジッパーがあるのか分からない。燃料がないと乗り物が動かない。結局,仮想の世界というのは想像で作るにせよ,細部を具体的に決めていかないと実在感が出てきません。そして私がそれを考えついても,チームの人たちと共有できなければ意味がありません。ゲームはたくさんの人数で作るものですから。

4Gamer:
 世界観はフレーバーではなく,作品制作の土台なんですね。

田中氏:
 とはいえ,統制と言うほどの縛りではありません。キャラクターなどは世界観ありきで作ってもらいますが,「大体こんな感じの設定ですよ」と簡単に伝えられるキーワードを集めたあと,各リーダーやクリエイターさんに膨らませてもらうようにしています。

4Gamer:
 「理想により近づけるための指標」として役立てるべきだと。

田中氏:
 ええ。膨大な数のゲームが存在する現代では,それっぽい人物や背景などでガワだけ綺麗にしても,目の肥えたプレイヤーさんには満足してもらえないと思っています。実際にゲームには登場しないような設定も,重要なものは作るようにしています。内容に興味を持ってもらって,「これはなんでなんだろう?」と疑問を持ってもらったとき,答えがなければそれだけで世界は薄っぺらく見えてしまうと思うんですよね。

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4Gamer:
 ゲームもアニメも豊富すぎる時代ですものね。

田中氏:
 一例を挙げるなら,「新世紀エヴァンゲリオン」は単純に面白いだけでなく,アニメを見ているだけで「なんとなくそうなんだろう」と思わせ,その裏側に迫っても「そうなんだろうを埋める設定」が用意されています。はっきりと明言されてない場合も多いですが,とにかく考察したくなる。こういう衝動を生み出せる作品は強いです。

4Gamer:
 SFなんて,ジャンル自体がその極地に達していますしね。

田中氏:
 作品を考察するほどの人は,そもそも熱量が高い人にかぎられますが,そうだとしても本作も「ゲームとして面白い」の先に,疑問を持った人たちが納得できる世界観を用意していきたいと思っています。だから結論としては,世界観の存在はゲーム作りのためであり,同時にプレイヤーの皆さんのためにあるものと言えます。

4Gamer:
 田中さんが今のような考え方でゲームを作るようになったのは,いつごろの話なんでしょうか。

田中氏:
 セガサターンの「サクラ大戦」の制作からですね。世界観作成の基礎は,広井王子さんの率いるレッドカンパニーさん(現レッド・エンタテインメント)から学びました。

4Gamer:
 いろいろと逸話を耳にする作品です。

田中氏:
 あの作品はゲームの舞台である「太正」時代の銀座という世界観を構築するために,どんな地理になっていて,どんな建物があって,そこのお店でどんなメニューが提供されているのかなど,ゲームに出る出ないに関わらず,当時の文化や世相を想像し,資料として事細かに設定していました。それが世界に対するリアリティにつながっていて,プレイヤーはまるで“帝国華撃団本部の中で生活しているかのような没入感”を覚えたんじゃないかと思います。

4Gamer:
 そこが田中さんのきっかけになったんですね。

田中氏:
 ええ,私もそういうゲームを作りたいと思いました。

4Gamer:
 個人感情で構いませんが,田中さんは自身で手がけた世界観を「見てほしい」と思いますか。今の例のように,世界観って“プレイヤーには見えない知られない部分”もたくさんあるわけじゃないですか。

田中氏:
 うーん,見てほしいものと,そうじゃないものに分かれるかもしれません。ことさら「見て見て!」じゃないというか,感じ取っていただけても,いただけなくてもいい,みたいな気持ちです。もちろん,そんな世界での主人公たちの活躍や,イドラがなぜ生まれたのかの物語など,ゲームとして楽しんでもらいたい部分は見てほしいですが(笑)。

4Gamer:
 じゃあ,スマートフォンの小さな画面に,壮大な世界のすべてを映し出すのは困難であると考えたりはしませんでしたか。

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田中氏:
 それは,まったく思わなかったです。

 子供のころの私を魅了したファミコンの「ドラゴンクエスト」の画面は,ドット絵でしか描かれていなかったのに,夢中になって想像したくなる世界観が宿っていました。

 ファミコンの表現力でもそれほどの力があったのですから,スマートフォンでも同じような力を生み出せるはずでしょう?

4Gamer:
 そう言われると,そのとおりです。

田中氏:
 むしろ「スマホだからできること」が重要だろうと考えてきました。

4Gamer:
 理にかなっていると思います。

田中氏:
 そういえば,先ほど第1章を遊んでいただいたんですよね。

4Gamer:
 はい,第1章のクリアまでは。

田中氏:
 実際にプレイしてみてどうでしたか。

4Gamer:
 まず,バトルがめちゃくちゃ快適にプレイできました。モーションやシステムの作りも見どころになりそうですが,なにより「コマンドを選択してる感が強い」のがいいです。戦う or スキルの2択に留まらない組み合わせを考えられるのが,往年のRPGっぽくて。

田中氏:
 ありがとうございます。通常のバトルはサクサクと進められるようにしつつ,適切な手応えと爽快感のあるバランスを目指してきました。一方,イドラと戦うときはボス戦らしく,コマンド選択が悩ましくなるような,しっかりと考えて戦っていただくことを想定しています。

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4Gamer:
 物語に関しても聞き及んでいたとおり,王道風のボーイミーツガールを予感させるものでした。

田中氏:
 少し長めかもしれませんが,チュートリアルにあたる部分も丁寧に作り,しっかりと物語を見せながら進めるようにしました。私が作るお話はよく「ベタだ」「分かりやすい」「王道的だ」などと言われますが,それも自覚してやっているつもりです。私のゲーム作りは,私自身の方向性を大きく変えたサクラ大戦のように,誰にでも分かりやすく楽しんでもらえることを目指してきましたので。

4Gamer:
 ついでに背景が動いていたり,イベントスチルが多数あったり,フルボイス仕様だったりと,本気のリッチさも感じられました。

田中氏:
 イベントスチルもサクラ大戦を振り返ったとき「あっ,入れよう」と思った要素でした。ゲームのアドベンチャーパートと呼ばれるものは原則,バストアップのキャラクター同士が掛け合いをするものですが,ここぞというときに魅力的な絵があるほうが,やはりドラマチックに見えますよね。

4Gamer:
 導入されていないスマホゲームも多いですが,個人的には絶対に必要だと思います。

田中氏:
 数ワード分くらいしか表示されない絵も結構ありますが,キャラクターや物語への印象を強くしたかったので,無理を言って作ってもらいました。

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4Gamer:
 おそらく,章終わりで流される「次回予告」もその系譜ですよね。

田中氏:
 それもまさにサクラ大戦ですね(笑)。同作は“毎週放送されるアニメ”の体で作られていたので,章間ではアイキャッチが入り,章終わりには次章のダイジェストを次回予告として紹介していました。本作に収録しているのは次回予告だけですが,これによって「次章が早く見たい」と思ってもらえたらいいですね。

4Gamer:
 次に進ませるための導線としては,強力だと思います。

田中氏:
 先の展開を見せてしまうデメリットはありますが,戦ヴァルにしてもちゃんと見ると「あれ,先の展開が見えちゃうぞ」ってのが,実はたくさんありましたし。

4Gamer:
 ありましたね。エピソード選択が本の形だっただけに。

田中氏:
 でも,それが全部マイナスになるかというと,私はそうじゃないと思っています。「先を見たことで気になる」という感情も働くはずなので,個人的には“ネタバレは適切に用いれば有効な手段”になると考えています。

4Gamer:
 ストーリーはすでに完結まで考えているのでしょうか。

田中氏:
 はい。スケジュールは今後次第ですが,現時点でラストまでのプロットは用意していますので,ご安心ください。


ゲームとして楽しく遊んでもらうために


4Gamer:
 そうだ。戦ヴァルと言えば,本作では主人公たちが物語を体験していく視点のほかに,「ヴァンドール英雄記」として後世に語り継がれているかのような,戦記物の側面もありますよね。

田中氏:
 そうですね。ヴァンドール英雄記の名称のとおり,過去の物語として俯瞰して追っている視点も存在します。それとメインストーリーは主人公たちの視点ですが,キャラクターストーリーにあたる「列伝」は,各キャラクターのロウとカオスの運命分岐後に描かれる物語を,HISTORYとLEGENDという2種類に振り分けています。

4Gamer:
 それらはどのような意味合いなんですか。

田中氏:
 後世から見て「史実とされている姿」「噂で語られている姿」を振り分けたんです。実際の歴史上の人物も,視点によって姿や人となりが大きく変わりますよね。そういったことを表現してみたかった。基本的に物語の本筋とシステム的な運命分岐は切り分け,キャラクターごとの思い入れをより楽しんでもらいやすくするため,HISTORYとLEGENDのタグを用意しています。

4Gamer:
 それはよさそうですね。「このキャラは本編でロウだから,ロウにするのが正解」みたいな例が多いと,せっかくの運命分岐も型にハマりそうですし。

田中氏:
 ええ,そうならないよう気をつけた結果,英雄記とその列伝という後日談の形式に収めているわけです。それに実際の歴史もそうですが,史実と言われているHISTORYが絶対に正解とはかぎりません。むしろ,LEGENDのほうがありえそうなエピソードである場合もあります。ある種の曖昧さがあるからこそ,プレイヤーの皆さんにもキャラクターの行く末を自由に想像してもらいやすいと思っています。

4Gamer:
 当の運命分岐は大きな試みですよね。労力も半端じゃなさそうです。

田中氏:
 はい。キャラクターごとに分岐前,ロウ,カオスの計3種類,ビジュアルやステータスをそれぞれ用意するのは本当に大変でした。またロウとカオスの変化は,ゲーム面に関してはユニークと言えますが,物語においては普通は変えるべきではない要素でもあります。ヒロインがロウとカオスを行ったりきたりすると,展開が複雑になりますし。

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4Gamer:
 しかも,ゲームキャラクターにせよ,運命を分岐させるとなると結構重そうです。

田中氏:
 人間なら誰しも自身の運命を選択して生きています。どの会社に入るか,この会社やめようか,続けようか,それだけで運命なんて分かれます。私は当初から「運命って重いけど,選択自体は軽いこともある」と思っていました。ロウになるも,カオスになるも,ゲームを作るも,会社に入るも,どれもその先の人生に変化がありますから。

4Gamer:
 ちょっとした決断が,振り返ると人生を変えているってやつですね。

田中氏:
 リアルな決断は誰でもたくさん経験しているものです。そのうえで,誰もが逞しく生きているんです。ですが,本作ではゲームだからこそやり直せます(運命分岐は可逆的なシステムであることから)。リアルで「会社やめよう」と選択しても,元に戻れませんからね。作品の演出を除けば,小説も映画もこういったやり直しはできないので,これもまたゲームならではの可能性だと思います。

4Gamer:
 田中さんが担当する世界観と脚本は,いわば設定と物語ですが,「設定の都合で物語を動かす」「物語の都合で設定を動かす」といった相反に悩まされませんか。

田中氏:
 とくにありませんでした。世界観も脚本も大切なのはたしかですが,まずは「ゲームとして楽しく遊べること」を最優先としているので,どちらがどちらを乱すことはないです。

4Gamer:
 では,「キャラクターの都合で動かす物語」「物語の都合で動かすキャラクター」といった考え方になると,どうでしょう。

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田中氏:
 どちらかというと,キャラクターが先行しています。極論で言えば,キャラクターさえいればお話は作れるんです。本作ではとくにキャラクターの魅力を大事にしていきたいので,そこは注意しています。

4Gamer:
 良い物語を作るより,良いキャラクターを作るほうが大変って言いますしね。

田中氏:
 今どきはゲームやアニメや漫画など,人々の心をパッとつかむ魅力的なキャラクターがたくさんいます。本作をプレイした人にも,キャラクターが心に残るような存在感を感じてほしいと思っていて,どのキャラクターもなるべくメインストーリーに登場させて,世界観とのつながりを出せるよう心がけています。単なる「戦闘のコマ」ではないようにと,お話の中で存在感を持たせたいんです。

4Gamer:
 いいですね。イベントだけに登場とかだと,どうしても印象が薄くなってしまうので。ちなみにキャラクター制作に関しては,田中さんはどれくらい関わっているんですか。

田中氏:
 原案という形なら,ほとんど私が作らせてもらいました。

4Gamer:
 なんと。

田中氏:
 でも,先ほど言ったとおり,キャラクターの核になるキーワードとか,列伝の大まかな方向性とか,本当に大元の部分だけですよ。「弓が得意で,〜〜といった生い立ちの少女」みたいな。そのため,実際にできたときにイメージが変化したキャラクターも,予想を大きく上回ったキャラクターもたくさんいます。

4Gamer:
 それじゃあ,最も予想を上回ったキャラクターは誰でしょう。

田中氏:
 最もとなると「ジャスパー」でしょうか。彼は陸浦(アートディレクターの陸浦 昌氏)が大きく膨らませました。私は当初「ニヒルでクールな青年」のビジュアルを想像していたのですが,実際に描きあがったのは「ひょうひょうとして表情豊かな不良」でした。でもそれがすごく面白かったので,絵に合わせて性格すら変えています。

4Gamer:
 ジャスパーは表情だけで“濃さ”を感じますよね。

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田中氏:
 上半身が裸なのも想像していませんでした(笑)。

4Gamer:
 原案がクリエイターの手によって膨らまされる過程は,やはり大切ですか。

田中氏:
 そうですね。スタッフの創作に頼るのは,本作においては必要なことでした。あと良いキャラクターというのは,プレイヤーの皆さんが評価したり,弄ったりして,新たな味が追加されていったりします。だから,キャラクターの受け取られ方については期待しつつ,恐々としつつでもあります。

4Gamer:
 これまでの話を踏まえてですが,田中さんの手がけた世界観,脚本,キャラクターなどは「論理的に作ったのか」,あるいは「感覚的に作ったのか」,そしてそれらがどのように作用するのかを教えてもらってもいいですか。

田中氏:
 難しい質問ですね(笑)。創作には論理的な面も,感覚的な面もありますからね。ただそれに答えを出すのなら,私はプロデューサーや世界観作成といった職種である前に,「プランナー」としてゲームの企画を作りたいと考えて,業界の門戸を叩きました。だから世界観や脚本が作りたいの前に,今でも「ゲームを作りたい」からスタートします。

4Gamer:
 おっ,それはどういうことでしょう。

田中氏:
 例えばアクションゲームなら,ゲームがはじまって,主人公を操作できて,敵と戦って,やられてしまっても,前の経験を活かして乗り越えられるようにと……理詰めで作っていきます。そして世界観や脚本も実は似ていて,自分が誰で,どこに向かい,なにと出会い,新たな場所へと,少しずつ世界を広げていき,中身を充実させていきます。

4Gamer:
 勝手は違うのでしょうが,たしかに似てるかも。

田中氏:
 私は世界観作成も脚本も,いずれも本格的に学んでいた口ではありませんが,「ゲームを楽しく遊んでもらうための世界観と脚本作り」なら頑張って培ってきました。そして世界観も脚本もそれ単体で良し悪しを測るものではなく,あくまでゲームの楽しさを伝える手段であると考えています。

4Gamer:
 ふむふむ,素晴らしい世界観や脚本を立てられても,それを注ぎ込む器を想定していなければ資料集になってしまいますものね。話を聞くまで「世界観はそれ単体の創作分野」的に捉えていましたが,いろいろなシナジーを生み出すリソースなんですね。

田中氏:
 そうですね。だからあえて言うのなら,論理的に作ったわけでもなく,感覚的に作ったわけでもなく,“ゲーム的に作った”と言うのが正しいです。ゲームとしての感動を味わってほしいから,その魅力をより引き延ばしたいから,たとえ見えないところでも世界観を作り込んでおきます。

4Gamer:
 なるほど。

田中氏:
 それと私の場合はあくまで,「1ステージずつ,しっかりと段階を追って,クリアを目指してほしい」と考えているので,そのための設計をしています。だから,本作もプレイをとおして少しずつ分かっていく作りのゲームになっています。

4Gamer:
 その過程でゲームと世界観をすり合わせていくんですね。

田中氏:
 あと,私はRPGが「その世界の成り立ちに迫る体験」を最も色濃くできるゲームジャンルだと思っています。もちろんアクションゲームも,ゴールまでに出現する敵やステージのつながりが物語になっていますし,シューティングゲームだって,スタート時に出撃して,ラストで要塞に突入するなど,説明がなくてもそれ自体が物語になっていますけれども。

4Gamer:
 言わんとすることは分かります。そのうえでRPGが最適なんだと。

田中氏:
 ええ。RPGにはひとつの広大な世界が構成されており,それぞれのプレイヤーが自由に,その世界を冒険する楽しさがあります。個人的にはそこに自分が暮らしているかのような没入感があると,ものすごく楽しいんですよね。

4Gamer:
 私も憶えはあります。

田中氏:
 プレイヤーさんに一番言ってもらいたいのは昔から,その世界に没入してもらい,そこに暮らしている感覚で「ラスボス前だけど,もっと世界を回って冒険したい!」と言ってもらうことです。ラスボスに勝ってしまうと,この世界でもう冒険できなくなると考えて,ギリギリまでアイテムを探したり,レベルを上げたりしてもらいたいという,贅沢な願いです。ここまでゲームを楽しんでくださるプレイヤーさんがいれば,こんなに嬉しいことはないです。

4Gamer:
 それを肯定していただけると,ありがたいですね。あの「ラスボス前で辞めちゃって,クリアしなかった現象」は何本も記憶にありますので。

田中氏:
 いや,そこはクリアしてください(笑)。本作もラスボスまでの道中は長くなりそうですが,1人用のコンシューマRPGのようにじっくりと遊べる作りですので,その間に「白羊騎士団の一員になって暮らしたい」と思ってもらえるよう,これからも制作と運営を頑張ります。

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イドラの世界観設定に迫る


4Gamer:
 では,ここからは実際に公開されている情報から,本作の詳細な世界観設定について尋ねていきたいと思います。

田中氏:
 分かりました。

■特徴的なワード
・太古に封印された災神“ダークファルス”
・その眷属とされる巨獣で人類の敵“イドラ”
・剣と魔法が支配する戦乱の大地“ヴァンドール”
・イドラ討伐の急先鋒である武装旅団“白羊騎士団”

4Gamer:
 まずはゲームの舞台「ヴァンドール」について教えてください。ここは1200年前にダークファルスによって壊滅的な被害を受けたとのことですが。

田中氏:
 はい。その1200年後の世界が冒険の舞台となります。1200年前のことも物語の中で少しずつ明らかになっていきます。もちろん,すべてではありませんが。

4Gamer:
 ヴァンドールにはどのような種族が生活しているのですか。

田中氏:
 人間,エルフ,ライカン,ノーム,デモニック,マキナの計6種族です。シリーズ作品を遊んだことのある人だと,どの種族を見ても「あれっ?」と思うかもしれません。

4Gamer:
 エルフはどう見てもニューマンですね。

田中氏:
 マキナもどう見てもキャストですよね。つまり,まったく違う世界なのにどう見てもキャストのような存在がいて,これまでとは違う呼ばれ方をしています。ここも「なんちゃってファンタシースター」ではなく,皆さんを納得させられる理由を用意しています。まあ,ラッピーに関しては超時空エネミーなのでどこにでも出ますが(笑)。

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4Gamer:
 ヴァンドールは“剣と魔法の世界”とのことですが,あくまで「魔法」であって,「テクニック」ではないのですか。

田中氏:
 魔法とテクニックの概念は,シリーズ作品によって表現の仕方がさまざまですが,ヴァンドールにおいては「魔法」と呼ばれています。こちらもなんとなく超常的な力として存在しているだけではありませんので,根源や系統もひとつの謎としておいてください。

4Gamer:
 それでは,ロウとカオスがぶつかり合う世界にしようとしたのはなぜでしょう。

田中氏:
 前提として,誰もが当たり前のように争っている,そこに違和感がないような世界を用意したかったからです。正義,秩序,法律といったものを重んじるロウの人たちは,帝国を治めている体制側です。一方,歴史上でロウに迫害されてきたカオスの人たちは反体制側と言え,彼らなりの自由,立場,平等といったもののためにロウに抗います。また「ロウの語る正義は,ロウのためのものだろう」と反旗を翻す,反乱軍も存在します。

4Gamer:
 となると,登場人物たちはゲームシステム的な意味合いではなく,自分たちを「ロウである」「カオスである」と認識しているんですか。

田中氏:
 認識しています。

4Gamer:
 つまり,ロウとカオスの所属は「信条」とでも言うのでしょうか。彼らの生き方を左右するほどの概念として存在しているのですね。

田中氏:
 そうですね。ロウだけが所属する帝国は「我々ロウが正義だ」などと声を挙げ,各地に散在するカオスの人たちは「俺はカオスだ。自由に生きる」などと考え,それぞれの信条に基づいて生きています。ただ,双方の亀裂はハッキリしていますが,理性で付き合える人,顔を見ただけで険悪になる人など,相手方に対する反応はさまざまです。現実でもそうですが,「考え方が違うから殺し合う」それだけではないんです。

4Gamer:
 しかし,そうやって人類同士がいがみ合う中,巨獣や星獣と呼ばれる「イドラ」が人類に襲いかかると聞きます。イドラとはどのような存在なのでしょう。

田中氏:
 本作ではシリーズのお約束として「ダークファルスと最後に戦う」ことは決まっています。そして,イドラとはそのダークファルスの眷属とされる存在です。しかし,なぜイドラが存在するのかは謎に包まれています。

4Gamer:
 イドラという語句は,歴代シリーズにおいて重要なワードなんですよね。

田中氏:
 はい。ダークファルスを暗示する,シリーズのキーワードのひとつです。

4Gamer:
 なら,物語面におけるイドラはいかがでしょう。

田中氏:
 この世界には,災厄や天災とも言える「野良のイドラ」「人が変身するイドラ」が存在します。前者は人類全体の敵であるため,姿が発見されたときは,ロウもカオスも討伐にかかります。後者の,イドラになれる人がなぜ存在するのかもまた,物語をとおして追ってほしい部分です。

4Gamer:
 人型のアリエスやレオもカッコいいですが,怪獣好きな私は断然ケートスやルプスがいいですね。

田中氏:
 ケートスは一番最初に作ったイドラですね。好みに合致していただけたのなら作った甲斐もあります。

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4Gamer:
 主人公が属する「白羊騎士団」はどうでしょう。物語のキーとなるのでしょうが,彼らはどんなスタンスで活動しているのですか。

田中氏:
 白羊騎士団は,ロウもカオスも垣根を超えた「中立」を是とし,イドラ討伐を第一に掲げている武装集団です。ロウもカオスも受け入れる,この世界では珍しい組織です。

4Gamer:
 いろいろな人物,所属,信条などが入り混じるんですね。

田中氏:
 当然,固い信念を持つ者だけではなく,ロウだったけどカオスに寝返った,カオスだけど商売ができないからロウになった,そういう人たちもいたりします。

4Gamer:
 ロウとカオスに分かれた世界で,中立に位置するニュートラルという存在はどのように捉えられているのでしょう。

田中氏:
 前提として,ロウには「ルーン」,カオスには「フェスト」と呼ばれる,それぞれの勢力の力の源が存在します。これにより,ロウだけが使える魔法,カオスだけが使える技など,勢力に属することの恩恵を得られるんです。

4Gamer:
 ああ,恩恵があるとなると話が変わりますね。

田中氏:
 この世界の人たちの大半は「親がロウだから子供もロウに育てた」「年頃でちょっとグレたからカオスになった」など,各々が当たり前のようにスタンスを定めて,それぞれの恩恵を享受します。しかし,ニュートラルでいると恩恵にあずかれません。

4Gamer:
 生きづらいというわけですか。

田中氏:
 そうですね。あくまで所属や勢力なので,この世に生まれた瞬間からロウかカオスに決まっているわけではないです。それでもロウかカオスになったほうがよっぽど生きやすい世界です。仲間も多いですから。その点,ニュートラルは絶対的に少数で,自分の力だけで生きていかなければならない場面も多いので,ニュートラルでいることには意志や覚悟が求められます。そして,主人公「ユリィ」はまさにニュートラルの存在です。

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4Gamer:
 主人公についても,物語を描くために人格を深めたその理由を,あらためて教えてください。

田中氏:
 このあたりは前回のインタビューでも少し触れましたね。PSOシリーズでは「自分のアバターで冒険」しますが,本作では「決められた主人公で冒険」します。そしてキャラクター性の強い主人公で掛け合いをさせるほうが,相手キャラクターの性格や生い立ちを引き出すしやすくなると考えました。

4Gamer:
 よく分かります。個人的にではありますが,初代PSOは攻略や掘りに傾倒していて物語に興味が向かなかったのですが,PSU(ファンタシースターユニバース)は主人公イーサンのおかげで,物語の印象が強く残っています。

田中氏:
 本作で見せたい物語を考えたとき,主人公が男性か女性かも決まっていないキャラクタークリエイトを採用しては,どうしても踏み込んだ展開がしづらくなると思いました。そのため,「目的に合わせて主人公を設定した」というわけです。それに主人公が名前のある存在だとしても,プレイヤーはそこに感情移入できると考えています。それも「サクラ大戦」で学んだことのひとつです。

4Gamer:
 ですよね。そうじゃないと,人称を変えようがない小説とか映画とかは,そもそも感情移入が成り立ちませんしね。あれ,となると,キャラクタークリエイトができるゲームの体験って,エンタメとして考えると特殊なんですね。

田中氏:
 ゲームだからこそできる感情移入ですね。自分で自分を操作する楽しさは,それこそPSO2やPSO2esを遊んでいただくと体験しやすいかもしれません。もちろん,本作もそれとは違う切り口で楽しんでもらうゲームですから,一緒に遊んでみてください(笑)。

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4Gamer:
 それでは最後に,間もなくの配信に向けた意気込みをお願いします。

田中氏:
 これまでシリーズファンの方々から,「ファンタシースターだけどSFっぽくない」「なんで剣と魔法の世界なの?」と疑問をいただいてきましたが,遊んでもらえれば“ファンタシースターシリーズの作品”だと感じ取ってもらえるはずです。本作の方針とも言えますが,この時点になっても分かりやすい関連性を見せずにいるのは,プレイヤーの皆さんには最初からファンタシースターを意識したうえで遊んでもらいたいのではなく,物語を進めていくと出会う「あっ!」と思うことに,驚きを味わってもらいたいからです。

4Gamer:
 想像できてしまうと,驚きは生まれませんものね。

田中氏:
 手品はタネを明かすと,感動させられなくなります。違うと思っているものが,実はつながっているから,「そういうことだったのか!」と驚けます。そのため,これまでさまざまな場所で本作についての話をしましたが,「まだ言えません!」が多めになってしまい,「ファンタシースターっぽくない」が未だに解消されておらず……(笑)。

4Gamer:
 私もそう思ってしまっています。ただ,こうやってメインビジュアルを見ていたりすると,描いてあるものだけで“なんとなくそうなんじゃないか”の手がかりを掴めるんですよね。でも,条件反射で「ファンタシースターっぽくない」と思ってしまうという。

田中氏:
 ゲームをはじめたらすぐに分かることや,じっくりと描いていく根幹の部分などで,そういった疑問を解消していくつもりです。今はとにかく,疑問を浮かべつつも遊んでもらいたいと思っています。

4Gamer:
 「遊べば分かる」が結構たまっていそうですからね。

田中氏:
 いやほんと,早くお届けしたい気持ちでいっぱいです!

4Gamer:
 制作に約2年ほどかけて,やるだけはやってきたと。

田中氏:
 制作者である以上,100%の自信があるとは言いきれません。オンラインゲームらしく,プレイヤーの皆さんの声は真摯に受け止め,それを反映していく姿勢を保っていきたい,それも偽らざる本音です。より良いものになるよう努力は尽くしてきました。あとはどのように受け取ってもらえるか。まもなく配信日を迎えますので,シリーズファンはもちろん,シリーズを遊んだことのない人も,この機会に新しいファンタシースターを体験してくださると嬉しいです!

「イドラ ファンタシースターサーガ」公式サイト

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