レビュー
AMD「Ryzen 9 3950X」レビュー。11月30日発売の16コアCPUは,抜群のマルチスレッド性能を有しながらゲームにも適する
サーバー向けやHEDT(High-End Desktop)向け以外では,史上初となる16コア32スレッド対応のCPUであり,R9 3950Xは高いマルチスレッド性能を有するだけでなく,ゲーム性能も優れるとAMDはアピールしている。
そんなR9 3950Xが気になっているゲーマーは多いだろう。定番のベンチマークテストを通じて,R9 3950Xのゲーム性能を中心にチェックしてみよう。
R9 3950XはSocket AM4互換だが,電源に注意が必要
R9 3950Xは,Ryzen 3000の最上位モデルとして,5ヵ月前の2019年6月に発表となったものだ。発表から半年近くの間に,AMDがさまざな情報を公表してきたため,本稿で明らかにすべきスペックや仕様の話題は,すでにほとんど出揃っているといっていい(関連記事1,関連記事2)。
CPUパッケージ上には,CPUダイに当たる「CPU Complex Die」(以下,CCD)が2基と,メモリコントローラやPCI Express(以下,PCIe)コントローラをまとめた「I/O Die」(以下,I/Oダイ)が1基あり,CCDの中には,最大4コア分のCPUを1つにまとめた「CPU Complex」(以下,CCX)が2基組み込まれているといった基本構造は,既存の「Ryzen 9 3900X」とまったく同じだ。
そんな事情もあって,今回,改めて触れる必要があることはそれほど多くないのだが,実際にR9 3950Xを使用するにあたって,注意すべき点があるので簡単にまとめておこう。
まず,既報のとおり,R9 3950Xの製品ボックスには,デスクトップPC向けのRyzenとしては初めて,リテールクーラーが付属しない。AMDが,R9 3950Xの冷却には一体型の簡易液冷クーラーを推奨しているためだ。
AMDは,R9 3950Xの発売に先立ち,本製品を十分に冷却できる検証済み簡易液冷クーラーのリストを公開している(関連リンク)。とはいえ,リストに名前のある簡易液冷クーラーでなければ動作しないというわけでもないようだが,AMDがテスト済みのクーラーであれば,安心感はある。R9 3950Xの購入を検討しているゲーマーは参考にすることをお勧めする。
なお,リストの公開以降も,名前が挙げられた製品は徐々に増えているので,自分の持っている液冷クーラーがリストに含まれていないという場合でも,今後,リストに追加される可能性はあるだろう。
そのため,マザーボードメーカーの互換リストにR9 3950Xの名前がないSocket AM4マザーボードでは,このCPUは使えないと考えていい。幸いなことに,最新のAMD X570チップセットを搭載するゲーマー向けマザーボードであれば,その多くがR9 3950Xに対応している。ただ,1世代前のAMD 400シリーズチップセットや,それ以前のチップセットを採用するマザーボードでは,R9 3950Xに対応できないものが多かったりするので,CPUの購入前に確認が必要だ。
この2点を除けば,基本的にR9 3950Xは,これまで発売されたRyzen 3000シリーズとまったく同じように使えると言っていいだろう。
比較対象は,既存のRyzen 3000上位モデルとCore i9-9900KS
それでは,テスト環境の構成をまとめていきたい。
今回は,同じRyzen 3000シリーズから,12コア24スレッド対応のR9 3900Xと,8コア16スレッド対応の「Ryzen 7 3800X」(以下,R7 3800X)を用意。それに加えて,Intel CPUから8コア16スレッドの「Core i9-9900KS」(以下,i9-9900KS)を用意して,性能や消費電力を検証してみた。
R9 3950Xの16コア32スレッドは,従来ならHEDT向けCPUに相当する規模なので,機能や性能を考慮すれば,HEDT向けプロセッサ――Ryzen ThreadripperやCore X――も比較対象の候補になるだろう。
ただ,HEDTではメモリアクセスチャネル数が4chと多いので,R9 3950Xと条件を揃えるのが難しいというかできないのが難点だ。また,マザーボードやメモリにコストがかかるHEDT向けプロセッサと,比較的手頃なコストで導入できるデスクトップPC向けマザーボードで利用できるR9 3950Xの購買層は,多少異なるだろう。なので,今回はHEDT向けのプロセッサを比較対象に加えることはしなかった。
一方,主役のR9 3950Xに関しては,今回も,BIOSデフォルト設定に加えて,自動クロックアップ機能「Precision Boost Overdrive」で電力制限を解除したテストを追加することにした。以降ではその設定を,「R9 3950X(PBO)」と表記する。
テストに使用した機材は表2のとおり。今回は,Socket AM4のマザーボードとして,R9 3950Xのレビュワー向けキットに含まれていたASUSTek Computer製の「ROG Crosshair VIII Hero(WI-FI)」を使用している。
また,簡易液冷クーラーには,これまでも4Gamerのテストで使ってきたCorsair製の簡易液冷クーラー「Hydro Series H150i PRO RGB」(以下,H150i PRO)を使用した。H150i PROは,検証済み簡易液冷クーラーリストに名前がある製品で,AMDが推奨している「ラジエータ長280mm以上」の基準を超える360mmサイズの大型ラジエータを備えているので,冷却能力は十分だろう。
メモリモジュールは,G.Skill International Enterprise製の「F4-3600
実行するテストは,いつものように大きく分けてゲーム系と一般アプリの2種類だ。
ゲームのテストでは,4Gamerベンチマークレギュレーション22.1から「3DMark」と「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」(以下,PUBG),「Fortnite」,「PROJECT CARS 2」の4タイトルを選択。それに加えて,次期ベンチマークレギュレーションを睨み,「Tom Clancy’s The Division 2」(以下,Division 2)と「Far Cry New Dawn」,および「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」(以下,FF XIV 漆黒のヴィランズ ベンチマーク)の3タイトルを加えた,合計7タイトルでのテストを実施した。
実ゲームの解像度は,CPU性能差が出やすい2560×1440ドット,1920×1024ドット,および1600×900ドットの3パターンだ。また,ゲーム録画性能のテストとして「OBS Studio」(Version 24.0.3,以下 OBS)を用いて,プレイ動画の録画テストも行った。
一方,ゲーム以外の一般的なPC利用における快適さを調べるために,以下のベンチマークプログラムおよびアプリケーションによるテストも実行している。
- PCMark 10(Version 2.0.2144)
- ffmpeg(Nightly Build Version 20181007-0a41a8b)
- CINEBENCH R20(Release 20.060)
- DxO PhotoLab 3(Version 3.0.0 Build 4210)
- 7-Zip(Version 1900)
マルチスレッドが効くテストならば,R9 3950Xは予想どおりの高性能
いつものように3DMarkの結果から見ていこう。DirectX 11テストである「Fire Strike」の総合スコアをまとめたものがグラフ1だ。
Fire Strikeは,グラフィックス性能の比重が大きいので,同じグラフィックスカードであれば,おおむね横並びになることが通例である。じっさい,4K解像度相当のFire Strike Ultraや,WQHD相当のFire Strike Extremeはおおむね横並びだが,グラフィックス負荷が相対的に軽いFire Strike無印では,R9 3950Xとそれ以外に,比較的大きな差がついた。
トップのR9 3950Xと,それに次ぐR9 3950X(PBO)のFire Strikeにおけるスコアは26000台で,それ以下の3製品とは明らかに違うということが見てとれる。どうしてこの差がついたのかは,個別のグラフから考察してみることにしよう。
グラフ2は,Fire StrikeのGPUテストである「Graphics test」のスコアを抜き出したものだ。GPU性能がスコアの主体になるので,おおむね横並びと称していい結果だが,3つのテストいずれも,i9-9900KSがトップになった。時点はR7 3800Xで,それにR9 3950Xが続くスコアとなっている。
Graphics testでは,GPU性能以外にも,GPUへコマンドを送る効率やPCIeのオーバーヘッドといった要素がスコアに反映される。これらは,CPUコア数が多ければ優れた結果が出るものではなく,むしろメモリバス帯域幅のボトルネックが,足を引っ張ることもあり得る。そのため,2つのCCDが1基のメモリコントローラを共有する構成をとるR9 3950Xが,8コア勢に及ばないことがあっても,それほど不思議ではないだろう。
次のグラフ3は,CPUベースの物理シミュレーションによってCPU性能を測る「Physics test」のスコアである。PBOの効果ははっきりしないものの,R9 3950Xのスコアは,おおむねR9 3900Xの約1.1倍,R7 3800Xの1.3〜1.4倍程度となった。コア数比には当然届かないものの,CPUコア数の差が,R9 3950Xの高いスコアにつながったことは明らかだろう。
この結果がグラフ1の総合スコアにも反映されているのは確かだ。
Fire Strikeで,GPUとCPUへ同時に負荷をかけて性能を見る「Combined test」の結果をまとめたのがグラフ4となる。Fire Strike Ultraと同Extremeは,例によってほぼ横並びだが,グラフィックス負荷が軽いFire Strikeは,R9 3950Xと同PBOが他を大きく引きはなしてトップになった。R9 3950Xのスコアは,R9 3900Xの約1.37倍で,R7 3800Xの約1.26倍,i9-9900KSの約1.3倍だ。
Fire Strikeでこれだけ大きな差がついたのは,解像度低いためにGPU側のフレームレートが頭打ちとなり,CPU側の性能がスコアに大きく反映されたためと思われる。結果的に,この「Combined test」の結果が総合スコアにも反映され,Fire StrikeでR9 3950Xの総合スコアが,他よりやや高めに出たということになりそうだ。
続いて,3DMarkのDirectX 12テストである「Time Spy」の結果を見ていこう。グラフ5は,Time Spyの総合スコアをまとめたものだ。ほとんど横並びといっていいほどだが,強いて言えば,Time Spy ExtremeではR9 3950X(PBO)が,またTime SpyではR9 3950Xがトップになった。目に付くのは,Time Spy Extremeにおいて,R9 3950X(PBO)のスコアはR9 3900Xと約1.02倍の差しかないにも関わらず,R7 3800Xに対しては1.08倍,i9-9900KSに対しても1.06倍と優位な差がついている点だろう。
Time SpyのGPUテストである「Graphics test」のスコアをまとめたのがグラフ6だ。スコアは,1%未満の差で横並びとなっており,CPU性能による差はほとんど表れていないという理解でいいだろう。
グラフ7は,Time Spyにおける「CPU test」の結果である。Time Spy ExtremeとTime SpyのどちらもR9 3950X(PBO)がトップとなり,僅差でR9 3950Xが続くという,ある意味で非常に妥当な結果になった。
Time Spy ExtremeのR9 3950X(PBO)のスコアは,R9 3950Xとにわずかな差しかつけていないが,R9 3900Xに対しては約1.25倍,R7 3800X比では約1.81倍,i9-9900KS比でも約1.57倍とほぼダントツだ。
一方,Time Spyでも,R9 3950X(PBO)とR9 3950Xの差は小さい。また,R9 3900X比は約1.05倍で,i9-9900KS比も約1.06倍と,こちらも差が小さくなっている。R9 3900Xは12コアCPUなので,8コアのi9-9900KSに対して好成績を収めていると評してもいいだろう。R7 3800Xは最下位となっている。
Graphics testはほぼ横並びだったので,このCPU testの結果が,総合スコアにも反映されたことが分かるだろう。
ここまでのテストでは,R9 3950Xは,マルチスレッドが効くFire StrikeのPhysics testやTime SpyのCPU testにおいて,予想を超えるとまではいかないが,予想どおりの好成績を収めている。一方,PBOの効果ははっきりしないが,既存のRyzen 3000シリーズでも,同じ傾向を確認しているので,驚くほどの話ではなかろう。
R9 3950Xにおけるマルチスレッド性能が,実ゲームに同反映されるのかが,以降のポイントとなってくる。
R9 3950Xはシリーズ中最高のゲーム性能を持つのか?
3DMarkの結果を踏まえたうえで,実ゲームにおけるR9 3950Xのテスト結果を見ていこう。まずはFar Cry New Dawnである。
Far Cry New Dawnはベンチマークモードを備えているので,今回のテストではそれを利用した。グラフィックスの設定は,高負荷よりの「ウルトラ」設定を用いている。プレイ可能な目安としては平均で60fps,最小フレームは50fpsを超えたいといったところになる。
結果はグラフ8〜10のとおり。フレームレートの傾向が,i9-9900KSのテスト時と比べて少し変わっているのだが,グラフィックスドライバのバージョンが変わったことや,Far Cry New Dawn自体のアップデートによる影響と思われる。
いずれにしても,3つの解像度のいずれも,トップに立ったのはi9-9900KSだった。Ryzen勢より平均フレームレートが20〜30fps程度は高く出ており,i9-9900KS有利の形は崩れない。
Ryzen勢だけで比べると,R9 3900Xが3つの解像度で良好な成績を収めた。一方で,R9 3950XとR9 3950X(PBO)のフレームレートは,R7 3800Xとほぼ横並びに近い。Far Cry New Dawnに関して言えば,AMDが主張するほどのゲーム性能は,R9 3950Xから確認できないとまとめてよさそうだ。
ちなみに,Far Cry New Dawnは,Threadripperシリーズでまともなフレームレートが出ないことが判明している。CPUが対応するコア/スレッド数が増えすぎると,Far Cry New Dawnは動作に異常を来すという。R9 3950Xのフレームレートは異常というものではないが,コア/スレッド数に応じたフレームレートの向上が得られないのは,ゲームエンジンの設計にも原因がありそうな気はする。
グラフ11〜13は,PUBGの「高」設定における結果をまとめたものだ。ベンチマークモードがなくオンライン専用のPUBGは,同時にログインしているプレイヤー数や,近くで暴れているプレイヤーの有無でスコアがブレやすいことを踏まえたうえで,結果を見てほしい。
その結果であるが,2560×1440ドットと1920×1080ドットでのトップはR9 3950X(PBO)で,2番手はR9 3900Xだった。R9 3950Xのフレームレートが振るわず,R9 3950X(PBO)に比べて不自然に低いが,これは前述のブレが影響した可能性がある。PBOの有無でここまでの差はつかないだろう。
一方,低解像度の1600×900ドットでは傾向が変わり,i9-9900KSがトップで,2番手にR7 3800Xが続いている。12コアや16コア勢はやや振るわないという結果だ。i9-9900KSのテストでも,この解像度では似たような傾向が見られたので,低解像度だと8コア以上があまり有利にならないというのが,PUBGの特徴ではあるようだ。
いずれにせよ,PUBGにおいてもR9 3950Xのゲーム性能が最も高いとは言い切れない結果ではあるが,他のCPUと遜色がないことは確かである。
続いてDivision 2の結果を見ていこう。Division 2もゲームにベンチマーク機能が組み込まれているので,テストにはそれを利用した。標準のテストでは,平均フレームレート,典型的なフレームレート,そしてスコアしか得られないのだが,フレームタイム(※フレームの描画時間)を記録したCSVファイルを出力できるので,フレームタイムからスクリプトを使って最小フレームレートを算出し,スコアとして利用している。
グラフィックス設定は,CPU性能差が出やすいDirectX 12モードを今回は使用し,描画負荷が最も高い「ウルトラ」プリセットを利用した。快適にDivision 2をプレイする目安としては,平均で60fps,最小でも50fpsは超えたいといったところになる。
結果はグラフ14〜16のとおり。2560×1440ドットの平均フレームレートは1〜2フレーム程度の差で,ほとんど横並びと見ていいだろう。
1920×1080ドットになると,トップがi9-9900KSで,2番手がR9 3900X。R9 3950XとR7 3800Xがほぼ同等という結果になった。しかし,トップとの差は4fps程度なので,それほど大きな性能差ではなかろう。
1600×900ドットもほぼ同傾向で,i9-9900KSがトップ,2番手がR9 3900X,R9 3950XとR7 3800Xが横並びというスコアだ。
DirectX 12は,スレッド数に応じてフレームレートを伸ばしやすいと言われているが,実際にそうなるか否かは,ゲームエンジンの設計次第であり,その点ではDirectX 11と異なるわけではない。Division 2でR9 3950Xが有利なスコアにはなっていないのは,つまり,エンジンの傾向ということだろう。
グラフ17〜19は,Fortniteにおけるエピック設定の結果だ。2560×1440ドットの平均フレームレートはほぼ横並び。1920×1080ドットもほぼ同様と言える。強いて言うなら,1920×1080ドットではi9-9900KSが2番手に3fps強の差をつけており,続いてR9 3950X,R9 3950X(PBO)の順となる。
1600×900ドットも傾向は変わらず,i9-9900KSがトップで,R9 3950X,R9 3950X(PBO)が並ぶ結果になった。
Ryzen勢だけを見れば,R9 3950Xが僅差でトップになるわけだ。R9 3950Xのブーストクロックが高いためか,コア数が多いためかは判然としないが,いずれにしてもFortniteでは,「R9 3950Xがシリーズ中最高のゲーム性能を有する」というAMDの主張を裏付けていると言えそうだ。
続くFFXIV漆黒のヴィランズベンチの「最高品質」における総合スコアをまとめたのがグラフ20である。
FFXIV漆黒のヴィランズベンチは,どうしてもIntel CPUが有利になりやすく,今回のR9 3950Xも,i9-9900KSのスコアを超えられなかった。だが,R9 3900XとR7 3800Xがほぼ横並びなのに対して,R9 3950Xと同PBOは,どの解像度でもに有意に高いスコアを出しているので,その点ではFortniteに近い傾向と言えそうだ。
グラフ21〜23には,FFXIV漆黒のヴィランズ ベンチの平均および最小フレームレートをまとめている。おおむね総合スコアどおりの傾向になっており,特筆すべきところは見当たらない。Ryzen勢ではR9 3950Xが健闘しているのも同様だ。
実ゲームによるテストの最後は,PROJECT CARS 2における高負荷設定の結果をまとめてみた(グラフ24〜26)。
2560×1440ドットでは,R7 3800Xの平均および最小フレームレートがわずかに落ち込んでいる以外,ほぼ横並びと言っていいだろう。
1920×1080ドットではトップがi9-9900KS,2番手にR9 3950X(PBO),約1フレーム差でR9 3950Xと続く形になった。
1600×900ドットではi9-9900KSが平均フレームレート120fpsを超えて有意にトップ。2番手はR9 3950X,3番手がR9 3950X(PBO)の順だ。R9 3950X(PBO)とR9 3950Xが入れ替わっている以外は1920×1080ドットの傾向に近い。
Ryzen勢だけを見ればR9 3950Xがトップであるので,Fortniteと同様に僅差ながらもAMDがいうシリーズ最高のゲーム性能という形を保ったといえるだろう。
以上,実ゲームを見てきたが,今回もi9-9900KSがトップを取るゲームが多かったものの,R9 3950Xは,それに次ぐ平均フレームレートを発揮するタイトルが多いのは確かなようだ。R9 3950Xがシリーズ最高のゲーム性能というAMDのアピールは,嘘ではなさそうであるとまとめていいのではなかろうか。
R9 3950Xはx264のmediumプリセットでもリアルタイム録画が可能
続いては,コア数の多さが生きるテストとして,OBSを使ったゲーム録画を見ていきたい。今回も,録画対象タイトルにはOverwatchを使用したが,テスト条件は変更した。
というのも,OBSでエンコーダーに「x264」を用いて解像度2560×1440ドットの12Mbps,「fastプリセット+animationチューニング」というリアルタイム録画としては非常に重い設定にしたところ,R9 3900Xならば,そこそこスムーズに録画できてしまうことが前回のテストで分かったためだ。
そこで今回は,大枠の設定は変えずにfastプリセットとmediumプリセットの2パターンをテストすることにした。重いプリセットほど録画画質が高くなるのだが,mediumプリセットは非リアルタイムエンコードでも多用されるほどの画質が得られる設定で,それだけにCPU負荷は極めて高い。
テストに用いたOBSの録画設定は,以下に示したスクリーンショットのとおりだ。fastとmiddleの2プリセットを使う以外は,これまでのテストで用いたものと変えていない。
まずは,fastプリセットの動画から見ていこう。例によって,8コア勢は全滅で,実用に耐えない録画データしか得られておらず,実用になるのは12コアのR9 3900XとR9 3950X,R9 3950X(PBO)だけだ。
R9 3900Xでは,おおむね実用レベルの録画データが得られているが,通して見ると,わずかにカクつきやフレーム落ちが確認できる。一方,R9 3950Xは,カクつきやフレーム落ちがほぼなく,非常にスムーズな映像を録画できていることを確認できるだろう。フレームレートはどちらも200fps前後だが,R9 3950Xでは,200fps後半までフレームレートが上昇する局面もあるなど,全般にR9 3950Xのほうがフレームレートが高めに出ている。
なお,R9 3950XとR9 3950X(PBO)の差は見られないと言ってしまっていい。ゲーム録画にPBOはほとんど関係ないようだ。
続いては,mediumプリセットの録画結果である。mediumプリセットだと,12コアのR9 3900Xでもスムーズな録画は難しくなり,たとえば室内から室外に出るなどシーンが大きく変わるところで,大きなフレーム落ちが発生した。
16コアのR9 3950Xでも,スムーズな録画とはいい難い結果になったが,シーンが変わる場面でも,R9 3900Xほど大きなフレーム落ちが生じない。明らかにR9 3900Xよりもスムーズさは上だ。
現実的には,1台のPCで録画と配信のエンコードも行う場合は,GPUのエンコーダを使うことが多いと思うので,純粋にCPUによるエンコードを行う本テストのようなことを,ゲーマーが行うことは稀だろう。だが,x264のmediumプリセットでもリアルタイム録画が可能なほどのCPUパワーがあるなら,ゲームを録画したデータの編集や再エンコードもスムーズに行えることは間違いない。また,エンコードはGPUで行うにしても,プリプロセスにCPUを使う場合でも,CPUパワーは必要になってくる。
その点で,R9 3950XのCPUパワーは,実況配信をメインにしているゲーマーにとって,やはり魅力的なはずだ。
デスクトップ向けCPUとしては最強のマルチスレッド性能を持つR9 3950X
非ゲーム用途におけるテスト結果をまとめていこう。
まずは,UL製の総合ベンチマーク「PCMark 10」である。今回はCPUの性能テストなので,すべてのテストを実行する「PCMark 10 Extended」を選択したうえで,OpenCLアクセラレーションとGPUビデオアクセラレーションを無効化してテストを実行した。カスタム実行となるため,総合スコアは得られず,テストグループ単位のスコアとなることをお断りしておく。
その結果はグラフ27のとおり。Webブラウジングやビデオ会議,アプリケーションの起動,終了といった日常作業の快適さを見る「Essentials」や,オフィスアプリケーションの快適さを見る「Productivity」の結果を見ると,R9 3950X,R9 3950X(PBO)のスコアは振るわない。i9-9900KSに及ばないどころか,Ryzen勢の中でも最下位という結果だ。これらのテストは,コア数が増えれば快適になるというものではないのだろう。
一方で,3Dレンダリングや写真の加工といったクリエイター系アプリケーションの快適さを見る「Digital Content Creation」では,R9 3950Xが7000台となり,デスクトップPC向けCPUでは筆者も初めて見たほどのスコアでトップになった。16コアの威力を見せた形だ。ただ,PBOは逆効果のようで,R9 3950X(PBO)のスコアは7000を切ってしまっている。
なお,3DMarkのFire Strikeをウインドウモードで実行する「Game」ワークロードは,前出の3DMarkにおける結果をほぼ踏襲しており,特質すべき点はない。
続いては,ffmpegを用いたCPUによる動画トランスコードの結果を見ていこう。いつものように,FFXIV紅蓮のリベレーターでゲームをプレイした「7分25秒,ビットレート437Mbps,解像度1920×1080ドット,Motion JPEG形式」の録画データをソースとして用意した。ソースの映像を「libx264」エンコーダによりH.264形式に変換するのに要した時間と,「libx265」エンコーダでH.265/HEVC形式に変換するのに要した時間を,それぞれスコアとして採用する。
使用したバッチファイルは以下のとおり。slowプリセットにanimationチューニングを加え,可能な限り画質の劣化を抑えた変換を行う。
del avc.mp4
del hevc.mp4
powershell -c measure-command {.\ffmpeg -i Diademe.avi -c:v libx264 -preset slow -tune animation -crf 18 -threads 0 avc.mp4} >MPEG4_score.txt
powershell -c measure-command {.\ffmpeg -i Diademe.avi -c:v libx265 -preset slow -crf 20 hevc.mp4} >HEVC_score.txt
結果はグラフ28のとおり。H.264,H.265ともにR9 3950Xがトップで,R9 3950X
R9 3950Xのエンコード時間は,R9 3900Xに対してH.264で約80%,H.265では約90%となっている。10〜20%はエンコード時間を短縮できるわけで,CPUによる動画エンコードをよく行うユーザーなら歓迎できる結果だ。
続いては,DxO PhotoLab 3を使ったRAW現像の所要時間を見てみよう。ここでは,ニコン製デジタルカメラ「D810」を用いて撮影した解像度7360×4912ドットのRAWファイル60枚に対して,ベンチマーク用のプリセットを適用しながらJPEGファイルとして出力し終えるまでの時間を計測し,スコアとして採用した。
グラフ29がその結果で,R9 3950Xは,デスクトップ向けのCPUとして初めて1000秒を切る時間でRAW現像を終えた。HEDT向けではないCPUで,これは画期的なスコアだ。ただ,R9 3950X(PBO)もほぼ横並びなので,PBOの効果は見えてこない。
マルチスレッド性能がスコアに大きな影響を与える3Dレンダリングベンチマーク「CINEBENCH R20」の結果は,グラフ30にまとめている。トップはR9
また,ここまでは判然としなかったPBOの効果が,しっかりと出ているのもCINEBENCH R20の特徴だろう。その理由は,電力リミッターを外すPBOでは,テスト時間が短いためにブースクロックを維持できるからと思われる。
R9 3950XのスコアはR9 3900Xの1.3倍と,おおむねコア数比に近いスコアになっている点も特筆できる。CINEBENCH R20は,もともとコア数でスコアが伸びるベンチマークだが,きっちりとコア数比近くを出してきたことは評価できそうだ。
非ゲームテストの最後は,マルチスレッドに最適化したファイルの圧縮・展開ツールである7-Zipのテストとなる。7-Zipの「7-Zip File Manager」にはベンチマーク機能があるので,7-Zip File Managerから「ツール」→「ベンチマーク」を開き,いったん[停止]ボタンを押してから「辞書サイズ」を「64MB」に設定。その後,[再開]ボタンをクリックして3分間連続実行し,その時点での総合評価をスコアとして採用する。
結果はグラフ31のとおりでR9 3950Xがトップになった。ただ,CINEBENCH R20とは異なり,PBOは逆効果になってしまっている。
R9 3950XのスコアはR9 3900Xの約1.2倍で,CINEBENCH R20のようにコア数比に近いとまでは行かなかったが,十分なスコアの伸びを確認できた。やはりマルチスレッドを回すテストなら,R9 3950XがデスクトップPC向けのCPUにおいては最強であることは疑いないようだ。
以上,非ゲーム用途におけるR9 3950Xの性能は,文句なしと言っていいだろう。とくにエンコードやRAW現像といった,一般的なPCユーザーも行うマルチスレッド性能が効く処理では,間違いなく歴代デスクトップPC向けCPUでは最強であると断言できる。
R9 3950Xの消費電力はそれなりに高いが,性能を考えれば妥当
最後に,CPUのコア温度と消費電力を調べた結果をまとめてみたい。
グラフ32は,ffmpeg実行時に「HWiNFO64」で記録したCPUのコア温度における最大値を比較したものだ。R9 3950Xが最も高く,約90℃までコア温度が上がっていた。その一方,3950X(PBO)は予想に反して2℃ほど低かった。
Ryzen系のコア温度は,シリコン上にあるサーマルダイオードの値なので,90℃でも,動作上限値からはかなりの余裕がある。熱の悪影響を心配しなくてはならない温度ではないので,大型のラジエータを持つ液冷クーラーと組みあわせれば,問題なく扱えるCPUと言っていいだろう。
続いては消費電力のチェックだ。4Gamerでは,ベンチマークレギュレーション20世代以降で,EPS12Vの電流を測り,12をかけて電力に換算する方法を採用している。この方法なら,CPU単体のおおよその消費電力が推測できるからだ。
ただ,電気代という現実的な運用コストに関わるシステム全体の消費電力も目安として知りたい読者は多いであろうから,システム全体の最大消費電力もあわせて掲載している。
グラフ33は,各テストにおけるEPS12Vの最大値と,無操作時にディスプレイ出力が無効化されないよう設定したうえで,OSの起動後30分放置した時点(以下,アイドル時)の計測結果をまとめたものだ。
R9 3950Xで最大を記録したのは,DxO Photolab 3でRAW現像を行っている最中に記録した216Wだった。この値は,R9 3950X(PBO)でCINEBENCH R20実行中に記録した207Wよりも高い。200W超はさすがに高いのだが,RAW現像で示した性能の高さを考えれば,致し方ないところだろう。
なお,i9-9900KSもCINEBENCH R20実行時に約212Wというピーク消費電力を記録しているので,それに比べると,R9 3950Xの消費電力あたり性能は高いと言えるかと思う。
次のグラフ34は,CPU単体の消費電力における中央値をまとめたものだ。「CPUでアプリケーションを実行したときの典型的な消費電力」と考えてもらっていいだろう。
R9 3950Xでもっとも大きな中央値を記録したのは,最大値と同じくRAW現像時の145Wだった。i9-9900KSでは,CINEBENCH R20時に129Wを記録しているが,それよりも高い。ただ,両CPUの性能比を考えれば,R9 3950Xの消費電力は,決して高いとは言えないだろう。
一方,R9 3950X(PBO)では,ffmpeg実行時の155Wがもっとも高い消費電力中央値だった。TDPを大きく超えてはいるが,PBOは電力リミッターを外してしまうので,消費電力が高くなるのはある意味で当然だ。
消費電力の最後に掲載するグラフ35は,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,各テスト実行時点におけるシステムの最大消費電力をまとめたものである。
CPUとGPUの双方が全力で動作するゲーム録画時が,最もシステムの消費電力が高くなり,R9 3950Xは455Wを,R9 3950X(PBO)は463Wを記録した。
ただ,i9-9900KSのゲーム録画時は494Wで,R9 3950Xよりも消費電力が高い。フレーム落ちでガクガクの録画しかできないi9-9900KSに対して,それよりも低い消費電力でスムーズな録画が可能なR9 3950Xの電力性能比は,極めて高いと言っていいのではなかろうか。
R9 3950Xは,動画作成や実況配信を行うクリエイター志向のゲーマーに最適
R9 3950Xほどのマルチスレッド性能は,少し前なら高価なHEDTに手を出さない限り手に入れることができなかった。ただ,HEDTはメモリチャンネルが大きい分だけメモリレイテンシも大きいという特性があり,ゲーム性能は決して高いものではない。
Ryzen 9 3000シリーズは,優れたゲーム性能を持つと同時に,極めて高いマルチスレッド性能を持つという,優秀なAMD製CPUと言えよう。このようなCPUの登場は,ゲームの実況配信やプレイ動画の公開をゲームの楽しみとしているゲーマーにとって朗報だろう。とくにR9 3950Xは,単にゲームプレイだけを目当てに導入するのは微妙かもしれないが,配信を含めてゲームの楽しみと考えているゲーマーにとって,最良かつ最強の選択肢になるはずだ。
AMDのRyzen 3950X製品情報ページ
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