インタビュー
ファミコン風ADV「伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠」の続編にかける思いとファミコン愛。プロデューサー関 純治氏インタビュー
本作は,“ファミコンのテイストを再現”することに非常に力を入れて作られており,キャラクターデザインにはファミコン用アドベンチャーゲームの名作「北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ」(以下,「オホーツクに消ゆ」)の荒井清和氏を起用し,容量やサウンド,グラフィックスなどをファミコンの仕様に準じて制作しているという徹底ぶりだ。
また,ファミコン時代のコマンド式アドベンチャーの“お約束”を盛り込みつつも,スマホを操る後輩刑事“ケン”をはじめとした現代的なキャラクターを取り入れていることも特徴で,単なる懐古主義には終わらない。
そんな「偽りの黒真珠」が,6月7日から7月29日まで「ミステリー案内」シリーズの続編を制作することを目的に,クラウドファンディングを実施した。結果,目標額300万をわずか数日で達成し,最終的には570万円以上の出資を集めた(関連記事)。
4Gamerでは,クラウドファンディングが成立したタイミングで,「偽りの黒真珠」のプロデューサーであり,ハッピーミール 代表取締役の関 純治氏にインタビューを実施している。「偽りの黒真珠」が作られた経緯や続編への思い,そして関氏のファミコン愛について話を聞いてきたのでお伝えしたい。
企画当初はガラケーのゲーム。時代の逆風と追い風を共に体験した作品
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まず「偽りの黒真珠」を開発するに至った経緯を教えてください。
関 純治氏(以下,関氏):
きっかけは,「オホーツクに消ゆ」でグラフィックスを手がけられた荒井清和さんから,「アドベンチャーゲームを作りたい!」とお話を持ち掛けられたことでした。
4Gamer:
もともとは荒井さんからのお話だったのですね。
関氏:
僕はもともとケイブに勤めていて,「怒首領蜂」や「忍者くん 阿修羅ノ章」などのガラケーで配信するサービスのプロデュースや開発をしていました。
その後ワンナップゲームズという会社を興し,ファミコン風の仮想8bitゲーム機をガラケー上で表現する「チョイスゴコンピュータ」というソフトを作っていました。チョイスゴコンピュータでは,RPGやシューティングなどいろいろなジャンルのソフトを出していて「このまま全ジャンルを制覇しよう」と思っていたんです。
そのときに,ちょうど荒井さんと知り合い,意気投合したのが始まりでした。「偽りの黒真珠」は最初,「チョイスゴコンピュータ」で遊べるアドベンチャーゲームという形で,ガラケーでリリースする予定だったんですよ。
4Gamer:
「偽りの黒真珠」の企画がスタートしたのはいつごろでしたか。
関氏:
2010年ですね。
4Gamer:
9年越しのプロジェクトだったんですか。
関氏:
はい。ただ開発に時間がかかったので,その分時代の変化にも揉まれました。開発途中で買い切りや月額課金モデルだったガラケー市場が終了し,基本プレイ無料が当たり前のスマートフォンゲームのムーブメントが起きてしまったんです。ソフトを販売して採算を取ることが難しくなったため,開発が一時中断してしまったこともありました。
4Gamer:
ビジネスモデルが変わった影響をモロに受けたといったところでしょうか。
はい。そうした状況の変化もあり,プロジェクトを4年ほど凍結することになってしまいました。しかし,その間も荒井さんは完成できなかったことをずっと悔やんでおられて,僕もこのままにしておきたくないという思いがずっとあったんです。
そこで,任天堂さんへニンテンドー3DS版の打診をして,2016年に企画が再始動したんです。
4Gamer:
当時小規模なソフトハウスがいきなり任天堂へ行くというのはハードルが高かったのではないでしょうか。
関氏:
実はそうでもなかったんです。
私自身,ドキドキしながら京都へ行ったんですが,あっさりと企画が通って驚きました。「皆さん身構えてこられますが,そこまで難しいものじゃないですよ」と窓口の人は言ってました(笑)。任天堂さんがニンテンドー3DSでダウンロード専用のゲームを展開されることに積極的になっておられたのも大きいのかもしれません。
4Gamer:
なるほど。ガラケーからスマートフォンの時代にゲームが基本無料となる逆風があり,次にはニンテンドー3DSでダウンロードゲームが流行するという追い風があり……世の中分からないものですね。
関氏:
その後は,Nintendo Switchが主流になりつつあることをはじめとした諸事情から,そちらを優先することになりました。また,パブリッシャであるフライハイワークスさんにも後押しをいただき,なんとか完成にこぎつけることができました。
今でこそレトロゲームがブームになっていますが,立ち上げ当時の2010年には,そうしたムーブメントもまだまだ小さいものでした。9年もプロジェクトを続けられたのは,企業として利益を追求するというよりは,「会社の宣伝になればいいか……」というくらいの心持ちで始めたからというのもあるかもしれませんね。
ファミコン愛から生まれた「チョイスゴコンピュータ」,そしてドット絵という表現形式への確信
4Gamer:
さて,先ほど「偽りの黒真珠」は,元々はチョイスゴコンピュータのソフトの1つだったという話がありましたね。
関氏:
はい。当時は「肥後連環殺人 迷宮のブロードウェイ」というタイトルでした。
チョイスゴコンピュータは会員制サイトのオマケゲームとして展開していたもので,単にファミコン風のゲームを出していたのではなく,“チョイスゴコンピュータという仮想ゲーム機と,そこでソフトを出したソフトハウスの栄枯盛衰”をバックボーンに置きながら展開していたんです。リリースしたゲームのジャンルはさまざまですが,基本的にはどのソフトも「闇」を抱えているのが特徴です。
4Gamer:
といいますと。
関氏:
例えば,チョイスゴコンピュータで遊べる「リバーシ」は,昔のゲーム機にあった,やたらと待たされる思考ルーチンを表現するため,わざと処理速度を遅くして思考時間を非常に長くしています。「トイレから戻ってきたのにまだ進んでないよ!」みたいな(笑)。
4Gamer:
そこなんですね(笑)。懐かしのジャンルやグラフィックスというだけでなく,メタな意味でレトロゲームを表現していたと。
関氏:
ほかにも「人気ソフトと抱き合わせで買わされるような,ボリュームは多いのに中身が薄いクソゲー」「人気コミックをゲーム化したけれど,原作者がデモの早送りを認めなかったからオープニングが飛ばせない版権モノ」「ローカライズが粗い海外の人気ゲーム」「コアスタッフの独立でクソゲーになった,売れたゲームの続編」といったファミコンのころにあったゲームソフトの“あるある”を表現しています。
4Gamer:
聞いているだけでも濃いですね(笑)
関氏:
あと,あるソフトでは“クオリティアップを銘打った発売延期”を再現したくて,実際に完成しているにもかかわらずソフトの配信日直前に延期したりもしました。また,当時のROMカートリッジの不安定さを表現するため,セーブデータが消えるという要素を入れたゲームもあります(笑)。
4Gamer:
何と言うか……ロックですね(笑)。ユーザーからの反応はいかがでしたか。
関氏:
一部のコアな方には喜んでいただけましたが,正直こだわりが充分に伝わらなかったところはあったと思います(苦笑)。
あと,印象的だったのは,東京ゲームショウに出展した際,お子さんが喜んで遊んでくれたことです。「ドット絵なんて古くさい!」と言われると思っていたんですが,そんなことなかったんですよね。「ドット絵は古いとか新しいとかではなく,表現形式の1つとして受け入れられているんだ」と。今思うとドット絵での新作ゲームを出すことに手ごたえを感じた瞬間だったかもしれません。
4Gamer:
インディーズゲームシーンでは,今やドット絵が1つのジャンルになっていますし,流行や懐古といったところを越えている印象があります。
今も少人数で,ファミコン風のゲームを開発しておられるのもそういう流れを実際に感じたからだと。
関氏:
あとは,自分自身がゲーム開発を行う中での経験も大きいと思います。
僕がゲーム業界に入った当時は,新たな技術がどんどん出てくる登り調子の時代で,3Dグラフィッカーとしてゲーム開発していた僕も「ファイナルファンタジーVII」のCG表現に驚愕しました。
ただ,ある時“リアリティを求めるのは自分の方向性ではない”ということに気づいたんですよ。ゲームを作るなら「テトリス」のようなアイデアが詰まった発明のようなものを作りたい!と思ったんです……いや,さすがに「テトリス」ぐらいのものを作るのは無理だと思いますけど(笑)。
少人数制作のいいところは,プログラミングからドット絵作りまでを自分1人でやれるし,スピード感も出せる,ちょうど良い規模感なんです。
4Gamer:
作家性を出せ,なおかつちょうどよい規模感で開発ができるのが関さんのスタイルに合ったということなんですね。
ファミコン風アドベンチャーを現代に蘇らせる。ついに世に出た「偽りの黒真珠」
4Gamer:
さて,紆余曲折あってリリースされた「偽りの黒真珠」ですが,発売後の反響はいかがでしたか。
関氏:
僕が思っている以上に皆さんに好評でしたし,続編を望まれるお声もたくさんいただけました。荒井さんが手がける,ファミコンライクなグラフィックスのアドベンチャーゲームなので,「オホーツクに消ゆ」と比較されてしまうんじゃないか……と発売前はドキドキしていたんですが。
4Gamer:
荒井氏のグラフィックスでファミコンライクでは,どうしても「オホーツクに消ゆ」が思い浮かんでしまうところではあります。
関氏:
やはりそうですよね。ただ,僕らが目指していたのは“「オホーツクに消ゆ」っぽいゲーム”や“「オホーツクに消ゆ」の劣化版”ではなく,あくまで“ファミコン時代の雰囲気を持つアドベンチャーゲーム”だったんです。
僕は1970年代や8bitゲーム機の時代を振り返るのではなく,もしファミコンのコマンド式アドベンチャーが現代で発売されたら……という前提でゲームを作っていたので,「偽りの黒真珠」の舞台は現代にしました。スマートフォンも登場させていますし,主人公の後輩・ケンをいわゆる“今どきの子”っぽく設定しているのはそのためです。
4Gamer:
チョイスゴコンピュータで8bit時代をリスペクトしたゲームを作った延長上にあるのが「偽りの黒真珠」であると。
関氏:
はい。ただ,そうは言っても荒井さんが描いたビジュアルが持つ力が,すごく大きいのも事実ですので,「オホーツクに消ゆ」を意識した部分はもちろんあります。
制作を始めてからこの力の大きさに気付き,「とんでもないことを引き受けてしまったのでは」とプレッシャーになっていた時期もありました。ただ,核にあるのはチョイスゴコンピュータから続く“8bitゲームあるある”をゲームで表現するというところは変えずに作りました。
4Gamer:
ビッグネームが参加したからこそのプレッシャーがあったわけですね。
ゲームを制作するうえで特に意識して大切にしていたことは何ですか。
関氏:
キャラクターに人間らしさを持たせることですね。完璧な人間なんていませんから,どこかに弱点を用意して親しみやすくしました。あと,舞台や演劇で見られる,日常とはかけ離れたしゃべり方はさせたくなかったので,口調1つとっても,日本語としては崩れていても,口語的でリアルであることを優先しています。
4Gamer:
本作は方言によるリアルな台詞回しも特徴です。これもそうした意識の表れなのでしょうか。
関氏:
方言は現地の方に監修していただいているんですが「できるだけ標準語に訳さないで,最近では使われていない方言のテイストを残してほしい」とお願いしました。プレイヤーの刑事の周りには方言を訳してくれる人もいませんし,自分で意味を読み取るしかありません。“いきなり地方へ放り込まれた”感を出したかったんです。
4Gamer:
メッセージの瞬間表示がないのも,こだわりの一環なのでしょうか。
関氏:
そうですね。直接的には「ダービースタリオン」を作られた薗部博之氏のこだわりに感銘を受けたのが理由です。「ダービースタリオン」では競馬の実況が自動送りで進むんですが,それはアナウンサーが実況しているライブ感を演出するためだというんです。
4Gamer:
なるほど。
関氏:
そういったこともあり,「偽りの黒真珠」でもメッセージを瞬間表示させないようにしています。本当は,早口の人なら文字も早く表示されるし,お年寄りだと話すのが遅いのでゆっくり出てくる……というところまでライブ感を追求したかったですね。“2時間サスペンス感”というか“見なくてもいい感”というか……いつもやっている番組を眺めていて,新基軸はないんだけど,最後まで見てしまった,というバランスを表現したかったんです。
4Gamer:
ある種の“お約束”として表現形式が確立されているうえでの安心感を感じてほしいということですね。
関氏:
なんでも手早く済ませようとする“時短の時代”の空気には逆行しているのかもしれません。けれど,義務や早解き的に消費するのではなく,ちゃんと楽しんでほしいという思いはあります。
4Gamer:
そうしたこだわりはプレイヤーに伝わりましたか。
関氏:
はい,おかげで好評をいただいてます。こちらから喧伝することでもないですが,ユーザーさんはしっかりと観察してくれていて嬉しかったです。思わず「そうそう! そうなんだよ!」って(笑)。
4Gamer:
特にプレイヤーから好評だったシーンはありますか。
関氏:
一日のシメとして主人公とケンが居酒屋へ行くシーンですね。サスペンスドラマ的な旅情感を大事にしたかったので,土地の名産を食べてもらっています。殺人事件の捜査中なのにのんびりと飯を食っているのは,少しやり過ぎかもしれないと思ったんですが,意外に好評でした。
4Gamer:
チョイスゴコンピュータのときは,自身のこだわりがユーザーになかなか伝わらなかったというお話がありましたが,チョイスゴコンピュータの反省が「偽りの黒真珠」で生かされたのでしょうか。
関氏:
明確に何か反省した……というわけではないんですが,チョイスゴコンピュータのときはちょっと卑屈になりすぎていたかもしれません。僕自身が物事のネガティブな側面を面白がっていましたし,マニアックなネタが一般の人を寄せ付けないということ自体を喜んでいたりもしました。
4Gamer:
「あー,これは分かんないだろうけど(ニヤニヤ)」みたいな。
関氏:
「偽りの黒真珠」では,そうした所を捨てて,もう少しを分かりやすくしました。“8bitゲームあるある”を取り入れるにしても,濃すぎるネタは避けたんです。
4Gamer:
あとは,「偽りの黒真珠」ではセーブスロットが1つしかないという点も指摘されていますが。これも何か意図があるのでしょうか。
関氏:
後戻りができない感覚を出したかったからですね。ゲームの終盤ではとある場所で緊迫のシーンがあるんです。それこそセーブしてゲームオーバーを回避したくなるようなところですね。しかし,大抵の人は温泉シーンの直前でセーブしているはずなので,もの凄いジレンマに陥るんです。「温泉を取るのか,安全を取るのか……!?」と,本当に切羽詰まってほしかったんですが,今から考えるとストイックすぎたかもしれません。
4Gamer:
そういえば,ゲーム内に実名のお店が出てきたりといったコラボが本作では“されていない”ようですが,珍しいですね。
関氏:
そうですね。実名は敢えて出していないんです。ゲームに現実と同じお店や場所を出すこともできるんですが,現地の方から「それはやらない方がいいよ」とアドバイスをいただきました。
4Gamer:
それは意外です。今ですと,実名を出してのコラボが当たり前になっていますから。
関氏:
実名でコラボをすると,聖地巡礼をされる方が自分で探すゲーム性がなくなってしまうんです。現地のプレイヤーからも「実名が出ていないのがいいね。ゲームを見て,モデルになった場所を当てるのが楽しいんだ」というお声をいただいていますし。
4Gamer:
聖地巡礼自体がアドベンチャーであると。そのあたりの“行間を読む”感じも8bitゲーム的ですね。
そういえば「オホーツクに消ゆ」の原作者である堀井雄二さんは「偽りの黒真珠」のことをご存じなんですか。
関氏:
堀井さんには一度ご挨拶させていただいています。「実はこういうものを作っているんです」とカタログをお見せしたら「画面数(シーン数)とテキスト量はどれくらいあるの?」と興味を示してくださって,「オホーツクに消ゆ」の制作当時のエピソードなどもお聞かせいただきました。
4Gamer:
ファミコン時代のアドベンチャーゲームは,画面数の多さがウリでしたからね。まずその話が出てくるあたりはさすが堀井さんです。
好調だったクラウドファンディング,そしてファンの“語りたい!”という気持ちに応える「ネタバレ雑談会」
4Gamer:
さて,2019年6月7日からは,続編のクラウドファンディング(関連リンク)がスタートしました。現在は目標額の300万円を越え,ストレッチゴールの500万円を達成するなど,かなり好調だったようですが。
※インタビュー収録は2019年7月4日
関氏:
はい。おかげさまで,2日ほどで目標額を達成することができました。
4Gamer:
今回,クラウドファンディングでの資金調達を行った理由をお聞かせください。
関氏:
目標額が300万円なのは,プロジェクトをスタートさせるのに必要な金額で,それを今回ご協力いただけないかと思い,クラウドファンディングを実施しました。
あと,続編を作るにあたって「偽りの黒真珠」の人気が本物かどうかを確かめる意味も込めています。ネットの盛り上がりを鵜呑みにせず,客観的に状況を把握したかったんです。
4Gamer:
ハッピーミールさんは,クラウドファンディングを行うのは初めてですよね。
関氏:
はい。なので,知人などからアドバイスをもらい,しっかりと調べて臨みました。そう甘いものではないですし,お金をいただくとなると責任も大きいですから。また,目標金額を達成するだけであれば,魅力的なリターンを出せばなんとかなるとは思いますが,その後にちゃんとゲームを完成させなければならない。
4Gamer:
ストレッチゴールの設定についても慎重でしたね。
関氏:
はい。あまりリターンを増やして開発に影響が出るのは本末転倒なので。
4Gamer:
特に人気のリターンはどれでしたか。
関氏:
ゲーム内への出演権ですね。「モブキャラとして登場」(5万円),「第2脇役キャラとして登場」(20万円),「脇役キャラとして登場」(30万円)といろいろご用意しましたが,一瞬でなくなりました。昔と違って作り手とユーザーさんの距離が縮まっていることを象徴した特典なのかなと。
4Gamer:
確かに,自分がゲームに出るというのはなかなかない機会ですからね。
ユーザーとの距離と言うと,「偽りの黒真珠」はオフラインイベント「ネタバレ雑談会」が定期的に開催されています。
関氏:
はい。アドベンチャーゲームは配信やSNSでのネタバレに弱いですので,「オープンな場所ではネタバレに配慮しないといけないけれど,作品について語りたい!」という方に向けたイベントを定期的に開催しています。
4Gamer:
ネタバレへの配慮というのは,動画配信やSNSの利用が当たり前になった現代ならではの悩みですね。動画配信はガイドラインを作るといったことはされていないんですか。
関氏:
一応公式に動画配信やネタバレへの配慮を呼びかけてはいます。ただ,我々ような小規模なチームが,厳格なガイドラインを打ち出して厳しくするのも……というのが正直なところです。
敢えて言うことではないかもしれませんが,結末まで実況するのは,漫画や映画を全てネットにアップすることと同様だと思いますので,そのあたりはご配慮いただければと思います。
4Gamer:
アドベンチャーゲームなら特にそのあたりはご苦労なさっていると思います。
関氏:
ネタバレへの配慮や作品を愛しているからこそ“本当は語りたいけど,語れない”というファンの方がいらっしゃるんです。また,僕らも「偽りの黒真珠」をもっと広めたいけれど,中身を見せすぎてもまずい。そうしたなかで,僕らがファンの気持ちに応えられる場として,ネタバレ雑談会を催しています。
今回クラウドファンディングに応援コメントをいただいた箕星太朗さんとの出会いもリアルイベントにお越しいただいたことがきっかけでした。こちらから招待したというわけではなく,純粋に一ファンとしていらしてくださったんです。嬉しかったですね。
目指すは47都道府県制覇。続編にかける意気込み
4Gamer:
さて,最後にこの度制作が決定した「偽りの黒真珠」の続編についてお聞きします。
舞台が“東北のどこか”ということですが,東北を選ばれた理由はなんでしょう。
僕は舞台を決めるときはまず,“海が近くにあるところ”を探すようにしています。ほら,“2時間サスペンス感”を出すためには,やはりラストは崖の上でないといけないですから。
前作も,「いい崖があるところはリアス式海岸だし,そうすると伊勢がいいだろう」と決めましたから。目標は47都道府県制覇ですね。
4Gamer:
内陸の県が舞台になったときはどうされるんですか。
関氏:
そういうときは山を舞台にして“谷”をラストに持っていくかもしれません。サスペンスでラストが崖なのって“犯人の追いつめられている心理状態”を表しているらしいんです。海でない場合はそういう心理が伝わる舞台を探していくつもりです。
4Gamer:
そういえば,今回のクラウドファンディングで続編の制作が決まる前から,ロケハンに行かれてましたよね。
関氏:
そうですね(笑)。あれは「続編を作るぞ!」という意思表明と,僕の趣味です。僕の趣味は旅行で,ゲーム関連の聖地巡礼もちょくちょくやっているんですよ。
4Gamer:
これまで,どこに行かれたんですか。
関氏:
「グラディウス」でモアイを知ったことからイースター島へ行ったり,「スーパーモナコグランプリ」をプレイした後にモナコ市街を走ったりもしましたね。
実際に走ってみて,傾斜の急さに驚きました。「スーパーモナコグランプリ」は,昔のゲームなので地面の起伏まで表現できていないんですよ。ヘアピンカーブと下り坂の難所なんかもあったりして,面白かったですね。
4Gamer:
実際に現地へ行ってみて,初めて分かることがあるわけですね。
関氏:
やっぱり,実体験は大事です。「偽りの黒真珠」でも伊勢志摩をロケハンした成果が生かされています。
例えば,伊勢市と聞くと海のイメージがありますけど,実は内陸にあるので海は見えないんです。なので,三重県で海を出すのであれば,鳥羽市や志摩市でなければならない。ほかにも,道にどれくらい人がいるのか,地元の人の交通手段は車なのか自転車なのか……といったところは,実際に行かなければ分かりません。
ウチのゲームはドット絵なので,違いを表現するにしても小さなものにはなるんですが,やはりそこはこだわりたいです。
4Gamer:
そういった実体験がドット絵の背景にも生かされていると。先ほどの“お店の実名が出ていないけど何となくあの店だと分かる”というお話にもつながるところですね。
関氏:
想像の余地があるのは大事ですね。小説の挿絵のように「全てを高精細に描写するのではない」という良さがある。ただ,現代の方向性はそうではありませんから,こうした乖離については悩むところではあります。
ただ,結局最終的には自分が“良い”と思っているものを出すしかないとは思います。なまじ迎合してしまうと,自分もユーザーさんも“良い”とは感じられませんから。
4Gamer:
今後も,取材によるリアリティ重視の姿勢と,ドット絵で想像力を刺激するという方向性は変わらないのでしょうか。
関氏:
変わりませんね。実際に調べないと,自信を持って描けません。旅情を描くうえでは,現地の方に違和感を覚えさせるようなことがあってはならないと思っています。
4Gamer:
そういえば気になっていたんですが,「偽りの黒真珠」同様,続編にも温泉のシーンはあるのでしょうか。
関氏:
もちろん,続編でも作る予定ですよ! しかも,「偽りの黒真珠」と同じようなタイミングで,同じような温泉シーンが出てくると思います。ほら,ああいうサスペンスの温泉シーンって,決まって同じようなタイミングに温泉シーンが出てくるじゃないですか(笑)。あと,できるだけ唐突な方がいいですよね。
4Gamer:
そのあたりも“2時間ドラマ感”ですね(笑)。
関氏:
唐突かつ,「お,そろそろ温泉じゃないの?」とプレイヤーが予想できてしまうようなタイミングで出せるとベストですね(笑)。
「偽りの黒真珠」では,温泉のシーンが事件に無関係なうえ,全体の10%くらいのボリュームを占めているのでお叱りを受けるかと思ったんですが,皆さんには好評でした(笑)。
4Gamer:
「偽りの黒真珠」から続投するキャラクターはいるのでしょうか。
関氏:
伊勢志摩の人たちは続編に出てきません。彼らは地元の人なので,やはり土地を離れるのはおかしいですから。荒井さんからは「えー! 出ないの?」と言われましたが(笑)。ただ,ルポライターの西沢といった,職業柄いろいろなところに行く人や,チンピラの浜月レイジは続編でも登場します。
4Gamer:
西沢は分かるのですが,チンピラの浜月レイジが続編に出てくるのはなぜでしょう。
関氏:
映画やドラマによくある“監督が特定の役者を気に入っていろいろな所に出してしまう”現象を表現したかったんです。浜月レイジの役者と監督が仲良くなってしまったけれど,役者は浜月レイジ的なチンピラ役しかできないから,いつもチンピラ役になってしまうというわけです。
4Gamer:
また水谷 豊さんが刑事役で出ているぞみたいな。こういうメタなところでも“2時間ドラマあるある”が表現されている(笑)。
さて,続編の発売時期はいつごろになる予定でしょうか。
関氏:
現時点ではシナリオの骨子が決まり,主題歌ができてきたというところです。2020年の4月には発売したいと思っています。
4Gamer:
期待しています。では,読者に向けてメッセージをお願いします。
関氏:
面白い仕掛けによって,前作とは違った楽しさを出せるんじゃないかと思います。完成すればきっと楽しめるものになっているので,温かく見守っていただければありがたいです。
「偽りの黒真珠」に触れていない方も,サスペンスものに興味のある方なら楽しんでいただけると思うので,ぜひ遊んでください。グラフィックス的にはドット絵で8bit風の表現をしていますが,システムは現在の視点から構築した遊びやすいものになっていますから。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
ガラケーからスマートフォン,そして現在へ。その時々の状況から逆風と追い風を受けつつ,「偽りの黒真珠」は遂に世に出た。配信後も,ニンテンドーeショップのダウンロード数ランキングに入るなど,作品は好調な滑り出しを見せている。関氏の“ファミコンゲーム”に対する思いとこだわりがユーザーの心に届いたとも言えるだろう。
次回作は果たしてどのようなものになるのか。関氏が言う“面白い仕掛け”とは何なのか。今は期待に胸を膨らませつつ,2020年の4月を待ちたい。
「伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠」公式サイト
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