インタビュー
天野喜孝氏が語る“役者創り”とは。「ETERNAL」のキャラクターデザインについて聞く
そうした話題の中心はハイクオリティな3Dグラフィックスや挑戦的なゲームシステムにあるが,「ファイナルファンタジー」シリーズで知られる天野喜孝氏がキャラクターデザインとして参加している点も見逃せない。
今回,天野氏に合同インタビューを行う機会を得られたので,本稿ではその様子をお届けしよう。「ETERNAL」の詳細を知りたい人は,CBTレポートやプロデューサー守田弘道氏へのインタビュー記事を合わせてチェックしてほしい。
見どころは“グラフィックスだけ”ではない。MMORPGの醍醐味が詰め込まれた「プロジェクト エターナル」プロデューサーインタビュー
アソビモが2019年秋に配信予定の「プロジェクト エターナル」は,ハイクオリティな3Dグラフィックスや,記憶に残るストーリー設計などをウリとしたスマホ向けMMORPGだ。4Gamerでは,“本格的なMMORPG”を標榜する本作がどのようなタイトルになっているか,プロデューサーの守田弘道氏に話を聞いた。
「ETERNAL」ティザーサイト
自由と創造性を尊重するデザイン術で
“存在してしまう”3Dに意外性を与える
――本日はよろしくお願いします。まず,天野さんが「ETERNAL」に参加した経緯を教えてください。
1年半くらい前にアソビモさんから「新しいゲームを作るので,キャラクターデザインをお願いしたい」と相談を受けまして。ファンタジー系ということもあり,ではやりましょうと。
――本作の企画を聞いた際の第一印象はいかがでしたか?
天野氏:
最初のうちは,まだ大きな話になるとは思っていませんでした。普段,こういったイラストを描く依頼を受けていますから,それと同じように考えていて,特別感はありませんでしたし。ただ,やりとりを続けていくなかでアソビモさんの“本気度”みたいなものが伝わってきて,これは凄いぞと。
――世界観についてはいかがでしょう。かなり広大な世界が描かれていて,力の入り具合が見て取れますよね。
天野氏:
複数のドームに分かれた世界というのが,手塚治虫の「火の鳥」のような神話的なイメージを感じました。神話は究極の物語の形で,同時にアートでもある。だからゲームに限らず,いろいろな世界に神話的な在り方は成立すると思っています。そういう意味では「ETERNAL」や「スター・ウォーズ」も神話なのかもしれません。
――設定や物語については,事前にしっかり読み込まれるタイプですか?
天野氏:
もちろん,僕なりに把握はしています。ただ,キャラクターの細かな設定をガッツリ読み込まないようにはしています。イメージが固まっちゃいますから。
――実際,どの程度の密着度で仕事をされていたのでしょう。
天野氏:
月に数回,仕上げたものを提出して確認をして……。という作業の繰り返しで,先程もお話ししたように実際の作業自体はほかと大きく違いません。ただ,話が具体的になるにしたがってコトの重大さが分かってきた,って感じです(笑)。
――今回の仕事に関して,とくに面白かった部分があれば教えてください。
天野氏:
結果的にキャラクターが3Dグラフィックスになることもあるんだけど,最初から3Dになることを想定してキャラクターを作る経験はあんまりなかったんです。「それができる!」ってだけで嬉しかったですね。
――天野さんのデザインと3Dモデルを見比べてみたいですね。
天野氏:
いやぁ,すごかったです。本当に(デザインと)まったく同じですよ。描いた側としても「やってよかったな」と思っています。
イラスト |
3Dモデル |
――デザインを3Dに起こすまでの間には,どういったやり取りが行われていたのでしょう。
天野氏:
具体的に説明するのは難しいんですが……。デザインにはリアリティを追求した部分と個性を追求した部分があって,それを3Dの世界にも取り入れることで面白くなるんじゃないかなと。
例えば,正面から見た姿と,横から見た姿って同じ生き物でも違うじゃないですか。それを絵では想像で補っていたんですが,3Dなら実際に形にできる。そういった意識が反映されるようにお願いしました。人にはそれぞれが持っている常識ってものがあると思うんですが,それをどう崩すかですよね。変な言い方になりますが,3Dって“存在してしまっている”ので。
――ゲーム内に出現するモンスターの姿にも,天野さんらしいデザインが見て取れました。主要キャラクターだけでなく,クリーチャーのデザインも手がけられていたり……?
天野氏:
ええ,僕がやっています。モンスターは好きなんですよ,滅茶苦茶できるから(笑)。
――独特の浮遊感というか,シルエットを見ただけで「もしかして天野さんのデザイン?」と思わせる存在感がありますよね。モンスターをデザインするにあたって,意識していることはありますか。
天野氏:
(モンスターは)存在しない生物を存在させ,いかにリアリティを与えられるかが大事なんです。3Dモデルを作るのはアソビモさんの領分ですから,僕の作ったキャラクターがどう物語の中で表現されるかはその後の話ですけどね。どこにも存在しない生き物を創るのは,やっぱり楽しいです。
――キャラクターデザインをする際は,どういった手順で行うんですか?
天野氏:
思いつくままですね(笑)。アニメーションをやっていた頃は,デザインを描いたあとに線を省略して整理し,色を決めて,今度は三面図を描いて表情を決めてと……。まぁ,かなり細かい作業が必要だったんです。
それが嫌でイラストを始めたので,それ以降にやっている“キャラクターデザイン”っていうのは,細かく決めたりはしません。デザインを受け取った人がそれを3Dに起こすときに,何かあればアドバイスすることはできますが,ある程度は任せてしまっています。
――イマジネーションを重視しながら,やり取りを重ねる中で形を作っていくと。
天野氏:
3Dを作る人だって,その人の個性や表現したいものがありますから。それを全面に出してコラボしたほうが,絶対に質が高いものができあがってくるだろうし,作る側もやりやすいと思うんですよね。あんまりカッチリ決められたら,単なる作業になってしまう。
――ちょっと具体性にかける質問になってしまうのですが,天野さんにとってキャラクターデザインとは,どういったものなのでしょう。
天野氏:
キャラクターデザインというのは,役者を創るってことかもしれません。物語の中でどんな立ち回りをするのかを想像しながら作っていて,こんな物語を表現するキャラクターならこんな顔立ちだろう,髪の毛はこうだろうと落とし込む。もちろん結果的には“創る”なんですが,どちらかというと(物語に)合ったものを描くんです。
――というと,けっこう理詰めで描いていらっしゃる?
天野氏:
ああ,ちょっとどうだろう。僕の場合は物語を読むというより,キャラクターの在り方からイメージを広げていくような感覚かもしれないな。結果的には理につながっていくのだけど,そこからスタートはしません。
仕事で「詩に合わせた絵を描く」経験をしたのですが……。文字どおり詩から絵を描くより,それ(詩)とは関係ないところから描いた絵をあてはめたほうが,本来はそこになかったプラスアルファが生まれるんです。
もちろん,ぜんぜん違うものを描いちゃダメですけどね。言われたとおりにやるより,少し誤解していたほうが良かったりするかもしれない。あくまで僕のやり方なんですが,設定を気にしすぎて描くことはありません。
――メインビジュアルなどに使用される1枚絵と,キャラクターデザイン用の絵には,描き手として感覚的な違いはあるのでしょうか。
天野氏:
これは僕の解釈ですが,ポスターなんかのイラストは“物語の中に登場している姿”を描くんですが,キャラクターデザインの絵はまだ“役者が舞台に立つ前の姿”……だと思って描いています。
――なるほど。今回のタイトルはスマホで遊べるゲームとなりますが,これまでとデザイン面で意識を変えた部分はありますか?
天野氏:
まったくないです(笑)。僕が最初に遊んだゲームのグラフィックスって,絵をドットでしか表現できなかったんですよ。それでも僕は普通に絵として描いていましたし,何に使われようが「自分の描いた絵」で完結しているというか……。どう使われているか気にはなるけども,絵を描く時点で気にはしません。
――そうなんですね。
天野氏:
自分の中にあるキャラクターは“役者”みたいなもので,デザインのルーツにもなっています。例えば,色っぽいお姉さんだったらドロンジョだったりして,辿っていけば原型が見えてきたりします。そういう部分も,見てみると面白いかもしれません。
――クリエイターの中には,自分の根源を形作るキャラクターや作品がありますよね。差し支えなければ,本作のデザインの“役者”になったキャラクターの例を教えてください。
天野氏:
それはもう,いっぱいいますよ。「昆虫物語 みなしごハッチ」のハッチはもうそのまんま出てきますし,「ヤッターマン」のドロンジョも出てきます。いろいろと探してみてください。
――いずれも,天野さんが関わられてきた作品ですね。タツノコプロを経て,その後はさまざまなゲームタイトルにイラストを提供されてきた天野さんですが,ご自身ではゲームを遊ばれますか?
天野氏:
えーっとですね。孫がNintendo Switchのゲームを買いにいくのに付いていったんですが,たまたま僕が「ファイナルファンタジー」のTシャツを着ていて。詳しい人だと思われると困るから,影に隠れてたんですよ。……それくらいの距離感です(笑)。
――ありがとうございます。では最後に,天野さんから見た本作の魅力を教えてください。
天野氏:
なによりも,すっごく格好いい。妖精の子には,殺伐とした世界の中でホッとする可愛らしさがあります。言葉でうまく表現するのはちょっと難しいんですけど,ぜひ見てください!
――ありがとうございました。
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