インタビュー
「龍が如く7 光と闇の行方」総合監督・名越稔洋氏インタビュー。アクションゲームではなく,RPGだからこそ描けるドラマとは
「龍が如く7」のジャンルが“RPG”だと発表されたのは,約4か月前のこと。シリーズのスピンオフではなく,正統なナンバリングタイトルが舞台や主人公はおろか,ゲームシステムまで大きく変化を遂げる。それは「龍が如く」シリーズのファンだけではなく,あらゆるゲーマーに大きなインパクトを与えた。
今回,龍が如くスタジオの総合監督を務める名越稔洋氏を訪ねて,「龍が如く7」の発売を間近に控えた心境や作品に対する手応えを聞いた。
「龍が如く7 光と闇の行方」公式サイト
本日はよろしくお願いします。さっそくですが,「龍が如く7」の発売まで1か月を切りました。今の心境はいかがですか※。
※インタビューは2019年12月24日に実施。
名越稔洋氏(以下,名越氏):
今回は新しいチャレンジをしたので,それが受け入れられてほしいという“願い”にも近い心境ですね。ゲームに触れてくれたら,きっと新しい楽しさを発見すると思います。そんな人たちの反応を受けて,「じゃあ俺も触ってみようかな」という人がどんどん増えてくれればいいなと。
4Gamer:
前作「龍が如く6 命の詩。」では桐生一馬の物語が完結して,シリーズとして大きな区切りを迎えました。新主人公・春日一番を迎える「龍が如く7」では,大きく舵を切ることを早い段階に決めていたのでしょうか。
名越氏:
前もって決めていたわけではないですね。ただ,シリーズを十数年作ってきて,アクションゲームとしての伸びしろがまだあるとしても,もし別のジャンルでさらに大きな伸びしろがあるなら,それを求めたいという考えはありました。
そして桐生一馬という主人公,神室町という舞台を変えるのであれば,ゲームシステムがそのままというのは中途半端に思えたんです。シリーズの新たな出発なのだから,目一杯変えていこうじゃないかと。
その方針のもとで取捨選択と試行錯誤を重ねて,最終的にRPGに落ち着いたわけです。
4Gamer:
すると,RPGではなかった可能性もあるということですか。
名越氏:
ええ。アクションとRPGのハイブリッドな感じにする案もあったし,アクションを常人離れしたものにするアイデアもありました。ただ,あまりにも度を越したものになると,プレイヤーを選ぶとも思ったんですね。「龍が如く」シリーズのファンは,決してゲームマニアばかりではありませんから。
例えば高難度のアクションだったり,超人的な動きを楽しむタイプのアクションだったりも作ろうと思えば作れますが,それをやるとドラマとのバランスが崩れてしまうでしょう。
4Gamer:
RPGであれば,「龍が如く」のドラマと合うだろうと。
名越氏:
RPGは一つのスタイルなので,合わないドラマやテーマはあまりないんですよ。「どこまでゲームのネタや設定に寄り添って作るか」という部分が重要であり,それはうまくやれると感じていました。
ただ,これまでとはジャンルが変わるわけですから,少なからずファンの反発があることも分かっていた。でも,そこは恐れずに勇気を持って,前に進んでいくことにしたんです。
4Gamer:
ファンの反応を探るためにエイプリルフールの映像を公開したんですね※。
※関連記事は「こちら」。現在,映像は非公開。
名越氏:
実は……あのときにはまだ決まっていなかったんですよ(笑)。もちろん,RPGの案は出てはいましたが,あの映像を公開した時点では全部でっち上げ。実際,その後も迷走し続けていました。
ゲームが背負っている「宿命」
4Gamer:
2019年11月から全国で店頭体験会を行っていますが,ファンの反応はいかがでしたか。
「直前まで迷っていたけど,会場で実際に触れて予約しました」という人が結構いらっしゃって。実際に遊んだ人には「ちゃんと伝わってるな」と,嬉しくなりました。
「RPGが好きだからやってみよう」という人は少ないと思うんですよ。このゲームの立ち位置として,実際に触れてみないと分かりにくいものであることを,あらためて実感しました。ただ,それはゲームが元来,背負っている宿命というか,仕方がない部分なのかなと。
でも,どこかのタイミングで攻めていかないと,いつかは次が無くなります。その意味では,今回のチャレンジに大きな達成感がありますね。そもそも「龍が如く」というシリーズ自体,そうした経緯があって世に出てきたわけですから。
4Gamer:
製品版に近いビルドをプレイしたのですが,RPGになったとはいえ完全にアクションの面白さから離れたわけではなく,ボタンを押す気持ちよさをしっかりと感じました。
名越氏:
やっぱりバトルには,アクションゲームに近い手触りが欲しかったんです。コマンド式RPGの静的な時間の流れと,アクションゲームのキレ感。そのせめぎ合いの中で行ったり来たりを繰り返し,最後の最後まで「作っては直し」の連続でしたよ。もう流れを思い出せないほどの試行錯誤だったんです(笑)。
最初は1ターンの時間を短くするところからスタートしたものの,これでは何が起こっているのかが分からない。では,分かるようにしたら,今度はかったるくなってしまう。シリーズ作品のバトルを調べて,敵を倒すまでの平均時間を比較したりもしました。
理想は「アクションゲームに近いテンポ感がありながら,コマンドRPG的な良さもあるバトル」。でも,それはトンチのような話で,本来は相反するものをどうやって並び立たせるか,という戦いだったわけです。
4Gamer:
それは相当な難題ですね。
名越氏:
実際,「作れ」と言われた側にとっては「そんなの無理ですよ」と返したくなる話でしょう(笑)。ただ,「RPGだからまったりした感じになっても仕方がない」という作り方をしたら,「龍が如く」らしさが消えてしまう。また僕自身,昔のRPGは好きなんですけど,昨今の映像が凝ったタイプの作品は遊んでいると疲れてしまうところがあるんですよ。
4Gamer:
従来のRPGとは異なるものを作ろうとしたわけですね。
名越氏:
ええ。プレイヤーに飽きずに遊んでもらうために,振り切ったネタを入れることにも躊躇はありませんでした。そうやってネタで惹きつけたり,システムをブラッシュアップしたりして,いろいろな要素の合わせ技で「テンポよく遊べる」と感じさせればOKですから。
4Gamer:
シリーズ初のRPGということで,ほかに苦戦した部分はありますか。
名越氏:
レベルの上がり方と敵の強さのバランス調整は,「つらい」ということは知っていたんですけど想像以上でした。ちょっとしたことで,いとも簡単にバランスが崩壊するんです。実際に作ってみて,あらためてRPGを作ってる人は「すげえな」と感じました(笑)。
ただ,僕らも「RPGを作る」と決めたからにはスクウェア・エニックスさんにきちんと筋を通しました。単なる「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」のパロディでは終わらず,パロディの笑いがありつつ,ネタ元に対するリスペクトも込めたかったので,土台となる部分をおろそかにするわけにはいかなかったんです。そこに関しては,少しだけプレッシャーがありましたね。
4Gamer:
新しい場所で受け入れてもらい,居場所を作っていく心構えに通じますね。「龍が如く7」における春日一番の境遇にも近いと思います。
名越氏:
一番の成り上がりのドラマと,成長して強くなるRPGらしい並走感。そのシンクロ感が遊ぶ人にも生じてくれたら最高ですね。
4Gamer:
ちなみに,2018年12月には「JUDGE EYES:死神の遺言」がリリースされました。アクションアドベンチャーの集大成のようなタイトルでしたから,「龍が如く7」はRPGとして最大限に振り切ることができた面もあるのでしょうか。
名越氏:
その影響はあったと思いますね。おかげで「龍が如く7」では作りたかったものに対して,妥協することなく突き進めた感があります。
敵味方のAIがとても賢いことをやっていたり,攻撃の巻き込みも微妙なところまで調整していたりと,地味なところにもだいぶ手をかけています。「よくできている」と認識できる部分より,快適に遊べるがゆえに認識できない部分にこそ,より大きなコストをかけた作品かもしれない。そこはキャリアのあるプログラマーが背負ってくれた部分で,本当にいい仕事をしてくれたと思います。
アクションではなく,RPGだからこそ描けるドラマ
4Gamer:
「龍が如く7」はそれぞれのプレイヤーに,異なる“春日一番像”ができあがっていくゲームだと感じました。
名越氏:
それはRPGならではというか,従来のスタイルでは成立しにくい部分かもしれません。そして春日一番というキャラクターだからこそ,許されることもあると思います。例えば,今回の物語にそのまま桐生一馬を乗せたとしたら,相当おかしなことになるわけですよ。
ただ,それは最初から狙っていたのではなく,結果的にたどり着けたものです。主人公の人格がゲームに与えるもの,その大きさをこの歳になってあたらめて学びました。
4Gamer:
一番は完璧とはほど遠いですが,どんなときも人の力になろうとして,それでいてしっかりと人に頼ることができるキャラクターですよね。
名越氏:
ええ。今回のドラマは一番を軸とするものですが,“仲間”の要素も大きいんです。最初にプロットや骨子はかっちり用意するんですが,「RPGにしよう」と決めたところで,仲間のバックボーンも深堀りしないと面白くならないことに気づいてしまった。「この仲間は元刑事で,こういうパラメータで,こういう特殊能力があって……」というだけでは,仲間と一緒に行動するRPGとして物足りなくなると。
RPGのシステムを作り込んでいく一方で,仲間達のドラマも膨らませているんですが,それが結果的に全体のうち,結構な割合を占めています。
本筋の物語と仲間が背負っている物語。これらがしっかり絡んで,しかも結末を迎えたときには,それぞれのドラマも決着する。そうすることで,初めて仲間の存在感が確固たるものになってくる。当たり前のことかもしれませんが,これを実現するのは大変でした。仲間のドラマを作っている最中,少しだけ後悔もしました(笑)。
4Gamer:
RPGへと舵を切ったことで,そうした部分にも変化が現れていたんですね。
作り始めは何であっても,楽しいものなんですよ。RPGのシステムもドラマも。でも,行き詰まってどうしたらいいのか,分からなく瞬間が何回も訪れる。ただ,そこでは「ああ,新しいものを作っているんだな」とも思うんです。これまでも新しいゲームを作るときには,必ずその感覚がありました。
近年はそういう気持ちになっていなかったから,「そうそう,こんな感じだな」と思い出しました。ただ,若手のスタッフにとっては初めてブチ当たる大きな壁であり,絶望感だったでしょう。いい経験になったんじゃないかと思います。
4Gamer:
ドラマと言えば,中井貴一さんや堤 真一さん,安田 顕さんの存在感も抜群だったと思います。
当初は5人くらいの俳優陣に出演していただく予定だったんですが,中井さん,堤さん,安田さんがすごく理想的な形で収まりました。親父,兄貴分,仲間。もう満願成就というか,これがベストなんじゃないかと。“3人”という数字はシリーズ最少になりますが,だからといって人数を稼ごうというのはおかしな話でしょう。
4Gamer:
俳優陣と声優陣の演技が互いの良さを引き出していましたね。
名越氏:
ええ。皆さん,ほかの人の芝居をしっかりチェックされるんですよ。だから,1人目の芝居が基準になるところがあります。
今回は中井貴一さんが1人目だったんですけど,さすがに俳優らしい芝居に徹していただきました。だからゲームの絵作りもそちらに寄せましたし,作品全体のリアリティの軸になったと思います。
4Gamer:
新主人公・春日一番役を務めた中谷一博さんの演技も堂々としていて,とても魅力的でした。
名越氏:
そう! 今回は中谷さんの気合がすごくて,それこそ全力投球の見本ですよ。中谷さんに一番が憑依していたかのようで,見事に演じきってくれました。いろいろな部分で,ご自身と重なるところがあったのかな……それくらいハマり役でした。
作れそうなものを作るではなく,高い理想に近づけていく
4Gamer:
昨年8月,名越さんは心臓の手術をされたそうですが,「龍が如く7」の開発には影響があったのでしょうか。
名越氏:
東京ゲームショウが目の前まで近づいていましたし,プロジェクトとしては各自がやるべきことをやっていく段階に入っていたので,基本的にはスタッフに任せていましたよ。もちろん心配は心配でしたけど,普通に死にかけていたので(笑)。
ただ,主題歌の打ち合わせは入院中に行いました。もしその前に死んでいたら,今回は主題歌が無しになっていたかもしれません。
4Gamer:
湘南乃風と中田ヤスタカさんの共作曲「一番歌」ですね。
名越氏:
中田ヤスタカ君とは,以前から仕事をしてみたかったんですよ。ただ,彼はコンポーザーとして参加するわけで,ボーカルをどうしたものだろうかと悩みに悩みました。
そこで歌い手も僕と初顔合わせだと,制御不能になってしまう心配があるので,普段から親交がある湘南乃風にお願いしてみようと。「ちょっと違和感がすごいけど,実際どう?」と持ちかけたら,お互いに乗り気になってくれました。
4Gamer:
主題歌のオファーにおいて,どのようなディレクションをしているのでしょうか。
名越氏:
ストーリーや主人公の情報,とくに大事にしたいワードを伝えたりします。そのうえで今回は「8bitゲーム風の音源もできれば入れてほしい」と伝えました。つまり,ファミコン時代の「ドラゴンクエスト」に通じる雰囲気ですね。
主題歌の打ち合わせが終わったときは,「これで楽曲は世に出るだろう。じゃあ,いよいよ死んでもいいか……」とちょっとだけ思いました(笑)。
4Gamer:
いやいや,そんなこと思わないでください(笑)。
さて,そろそろお時間が迫ってきました。まずは「龍が如く7」の反響が楽しみですね。
そうですね。今回は一個一個,本当に細かいところまで手探りで作っていて,RPGの作り方にセオリーがあるとしたら,僕らはかなり外れたことをやっている自覚があります(笑)。そこは反省する部分も多いので,自慢ばかりではないですけど。
でも,「高い理想に近づけるためにどうすればいいのか?」を考える作り方が僕のスタイルです。「できることを集めたら,こんなものができました」というのはあまり好きじゃない。難しい作り方かもしれないが,達成すればすごく新しいものが完成する。
これは鈴木 裕さんの作り方がそうだったんです。そのイズムが僕にも継承されている。当時は僕が無茶を言われる側だったけれど,今は若いスタッフに無茶を言うのが僕の役割になりましたね。
4Gamer:
確かに「龍が如く」としても,RPGとしても,新しいゲームだと感じました。
最後に少々気が早いかもしれませんが,「龍が如く」シリーズの展望をお聞きしてもいいですか。
名越氏:
「龍が如く7」はRPGとして,大きなチャレンジをしました。この面白さをさらに昇華させていくのか,次はアクションでいくのか,はたまたもっとハイブリッドなものにするのか。いずれの可能性もあります。
個人的な希望としては,ここまでしっかり作った以上,今回の路線を掘り下げていきたいと思っています。例えば,地形に応じた攻防をさらに楽しいものにできるんじゃないかとか,会社運営をもっと強化するとか。ただ,今はまだ考えたくないかな(笑)。
4Gamer:
分かりました(笑)。どうもありがとうございました。
今回の取材中,名越氏の顔には妥協なきものづくりを終えたあとの充実感が浮かんでいて,それはどこか春日一番の笑顔とイメージが重なるところがあった。
名越氏やスタッフが考える「龍が如く」らしさやその魅力とは,桐生一馬や神室町といったアイコンに限ったものではなく,より根源的な部分にあるのだろう。それらをこれからもファンに届けるために,「龍が如く7」では新しいチャレンジを選ぶ必要があったと思われる。
RPGとして構築された「龍が如く7」をファンはどのように受け止めるのか。プレイした人は,ぜひ感想をまわりにも伝えてほしい。
「龍が如く7 光と闇の行方」公式サイト
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