インタビュー
いよいよ「Microsoft Flight Simulator」がXbox Series X向けにローンチ。スタジオヘッドのヨーグ・ニューマン氏にインタビューを実施
2020年8月にローンチした「Microsoft Flight Simulator」(以下,Flight Simulator)については多くを説明する必要もないだろうが,プレイヤーがバーチャルパイロットとなって,セスナやジェット旅客機といった飛行機を使って,自由に世界中の空を飛び回るという,本格派シミュレーションゲームだ。
Microsoftの誇るクラウドサーバーに備蓄されている地形データをもとに,地球をまるごとシミュレートすることが可能で,地表においては航空写真の2Dデータを3D化することによって,地球上にあるほぼすべての都市や集落,河川や湖,そして約3万7000という民間空港をフィーチャー。空中ではリアルタイムの気象データを元に,風向きや風速,そして雲の様子や雨,湿度から夕陽の色までをAIによって表現するという,次世代感満載の体験を楽しめるゲームだ。
そんなFlight Simulator のXbox Series X版については,2020年9月に,「World Update I: Japan」のリリースに合わせて行った本誌とのインタビュー(関連記事)でも開発中であることがニューマン氏自身の発言で明言されていたように,新世代ハードウェアのローンチ以前から決まっていたことである。
Xbox Series X版は,同日のリリースが予定されている「Sim Update 5」をもって対応される予定になっているが,その詳細についてはすでに4Gamerの記事(記事リンク)でもお伝えしているとおり。PC版は現行と比較してフレームレートが30%も向上するなど,かなり大きな改善が見込まれる。
それでは以下,4Gamerでも10か月で3回もインタビューを実施しており,もはやお馴染みとなっているニューマン氏のインタビューをお届けしよう。
4Gamer:
よろしくお願いします。
Xbox Series Xの発売予定がアナウンスされたE3 2021があった6月は,ずいぶんとお忙しそうに活動されていましたね。
クレイジーですね。Xbox,Simp Update,World Updateと,本当に皆さんと共有したい情報が多くて,XboxとBethesda SoftworksのE3 2021ショーケースイベントにも顔を出しましたし,Twitch公式チャンネル(外部リンク)でコミュニティとのライブストリーミングQ&Aは3回も開いちゃいましたよ(笑)。
コミュニティが活発なのは我々としても本当にエキサイティングな気持ちになります。毎日何か新しいことがあります。今朝も有名な航空産業のCEOから電話があって「何でも協力するから言ってくれ」とかね。ビックリするようなことの連続ですよ。
4Gamer:
航空機モデルは,昔から多くのサードパーティが参加してゲーマーに販売していますが,Microsoftが公式でリリースするものの選定はどうやっているのでしょうか。
Neumann氏:
とくに決まりはないんですよ。これまで,もう40年もシリーズを開発している我々は,ファーストパーティとしてすでに驚くようなデータ量を保有しているんです。量的にも質的にも。「ファーストパーティとしかデータ共有はしない」なんていう企業もありますしね。
しかし,サードパーティも特定の分野で驚くほど精通していて,何十年にもわたって改良し,それが多くのゲーマーに支持されてきているわけです。だから,Microsoftからリリースされているものかどうかというのは,あまり大きな意味を持っていないんです。
4Gamer:
Flight Simulatorを中心にしたエコシステムができているというのが凄いところですね。
Neumann氏:
本当にその通りですよ。先月はPMDGからダグラスDC-6がリリースされたので私も買ってフライトしてみましたが,モデリングからアニメーション,それからさまざまなオプションまで選択できて,素晴らしいものでした。ああいう昔の名機を体験できるのは本当に面白いし,サードパーティの情熱を感じるのです。
4Gamer:
Xbox Series Xの話に戻りますが,これまでPC向けにリリースされているアップデートはすべて対応しているのでしょうか。
Neumann氏:
もちろん。我々は,正式にはXbox Series X対応版とは呼ばず,「Sim Update 5」と呼んでいるのですが,これはプラットフォームに分け隔てなく同じゲームを遊んでもらうことを目的にしているからです。
クロスプレイおよびクロスセーブにも対応していて,Windows 10でプレイしてきた皆さんでも,Xbox Series Xでもすべての業績などを同期します。すでにPC版を購入しているゲーマーは,当然Xbox版も無料でプレイできますし,スタンダード版だけですがXbox Game Passにも対応していますので,シミュレーターだから取っつきにくそうと敬遠するのではなく,より気軽にプレイしていただきたいですね。
4Gamer:
これまでフライトシムに見向きもしてこなかったような,より多くのカジュアルなプレイヤーも参加してくることを想定していますか。
Neumann氏:
ええ。とにかくFlight Simulatorでは昔から問題だった,取っつきにくさを解消して,新しいチュートリアルシステムを作っています。セスナ-152から始まり,それぞれの機体のコクピットの計器回りの操作を学び,離陸から着陸までの基本を習得していくことができるんです。
現実のパイロットは数機分のライセンスしか持っていませんが,ゲームであれば好きな機体に乗れます。初めて乗る機体はもちろん,操作を忘れてしまうほど久しぶりに搭乗する機体でも,チュートリアルを使って,思い出してもらえるようになっています。
あとは,新しくプレイする皆さんには「ディスカバリー・フライト」モードを利用すれば,最初から飛んでいる状態でプレイして,さまざまな地域の興味深い自然の情景や都市の景観を満喫していただけますよ。これだけでも楽しいですが,本格的にプレイしていくためのハードルも随分と下がっているはずです。
4Gamer:
レイトレーシングは,DirectX 12ベースのXbox Series X専用機能となるのでしょうか。
Neumann氏:
いえ,Xbox Series XでもDirectX 11ベースで,エクステンションによりレイトレーシングに対応するという仕組みです。将来的にDirectX 12に正式対応することもあり得ますが,今のところは開発チームの優先順位は高くないですね。
4Gamer:
他にXbox Series Xのハードウェア性能を活かしたことはありますか? ローディング時間とか。
Neumann氏:
ローディングは20秒以内。Xbox Series Xの認定を受けるには,これを実現しないといけないんです。
4Gamer:
20秒以内は凄いですね。
では,8月24日にローンチ予定の「World Update VI: Germany / Austria / Switzerland」について聞かせてください。
ようやく,Neumannさんの故郷ですね。どうしてこんなに時間がかかってしまったのでしょう?
Neumann氏:
発売日から想像できるかもしれないですが,オフラインで開催される予定だったgamescom 2021にリリースを合わせたんです。
4Gamer:
なるほど。当初,gamescom 2021はオフラインで開催される予定でしたね。
Neumann氏:
私も本当に楽しみにしていたんです。ドイツ国内にしかない結構レアなレシプロ機を会場までトラックで運んで,天井に吊るす予定もありました。ファンの反応が見られないのは本当に残念です。これまでずっとオンラインイベントだったから,本当にゲーマーの皆さんがプレイしている姿を見たくて楽しみにしてたのに。
4Gamer:
「World Update VI」の内容はどんなものになるのでしょう。
Neumann氏:
フォトグラメトリーで精密化されるのはウィーンなど,それぞれの国の3都市。それから空港はオーストリアのクラーゲンフルト空港,ドイツのハンブルクの北東にあるリューベック空港などですね。あと,景勝地(POI)は100種くらいになると思います。
4Gamer:
100種類とは! 過去最高じゃないですか?
Neumann氏:
提供してもらえるデータによりますけど,広い地域ですし,我々としてはいただいたデータはすべて利用したいんです。
「World Update III: UK & Ireland」のときは,アイルランドの精密化が十分ではなく,アイルランドのゲーマーたちを失望させてしまいました。
前回の「World Update V: Nordics」のときは「アイスランドはいつになる? 言ってくれれば過去10年間にわたって蓄積している航空データも提供したのに」って,現地の企業からお話しがありましたし,いろいろと反省する部分は多いですね。
先週はインドの企業からも連絡をいただきました。先ほども話したように,こうした連絡が毎日のように届いているんです。
4Gamer:
でも,世界はまだまだ広くてすべて実装しようとすると大変ですよね。ロシアとか地中海地域とか,南米やカリブ地域,オセアニアなど面白そうな景観のある地域もありますし。
Neumann氏:
そうなんです。World Updateは,やはり各地域の関連企業とどれだけ話を進められるかというのが基準になってしまいます。
今回の「World Update VI」についてはスイスのデータで手間取っていたのですけど,現地の企業から「スイス政府がデータをいっぱい持っている」という話を聞いたので,我々からアプローチしました。「スイス国民の税金で撮影した航空写真を,公開しないまま持っておくのは税金の無駄使いじゃないのか」って(笑)。そうしたら,実際にスイス政府は我々に無料でデータを渡してくれただけでなく,国家機関のサイトでも公開するようになったんです。提供してもらったデータは第2次世界大戦直後の航空写真データも膨大にあって,ビックリするほど価値があるものでした。
4Gamer:
国家レベルのデータの提供はすごいですね。第2次世界大戦直後の航空写真の使い道はあるのでしょうか。
Neumann氏:
分からないです(笑)。
重要なのは,そうやってデータを提供してくれるからこそ,ゲーマーにアピールできる地域になっていくということなんです。我々としては,なるべく世界中のゲーマーにFlight Simulatorを遊んでもらいたいですし,世界中の地域の精密化を怠らずに続けていこうと考えています。今のところは2か月に1回のペースで「World Update」をリリースしていますが,今後は1か月に早めていくかも知れません。
4Gamer:
その一方で,アメリカについては2回目のWorld Updateも2022年内に行うという話をしていますよね。
Neumann氏:
ストリーミングを見ていましたか(笑)。公式の発表ではなく,ちょっと口を滑らせちゃったんです。
カナダもアメリカも広いですからね。精密なデータはどんどんとわが社に蓄積されていて,フォトグラメトリーを作るための航空写真の精度が,「World Update III」のブリテン本島で15cmx15cmでしたが,今回のドイツは10cmx10cmになっています。1年ほど前のローンチ時には,「Microsoftには2ペタバイトのデータがある」と言いましたが,今ではその4倍くらいになっているので,今後はそれらのデータをもとに,さらにデータの精密化をしていく必要もあります。
4Gamer:
いずれ日本も再びアップデートされますか?
Neumann氏:
やはりどれだけのデータが手に入るかにかかっていますが,可能性は十分にありますね。「World Update I: Japan」をリリースしたときの皆さんの反応は,ちょっと言葉が悪いですけど,“ファッキン・グレート”でした。成田や福岡空港,東京のランドマークなどの精密化を行って販売している日本のグループも誕生するくらいで,我々としても頼もしいですし,コミュニティの広がりは本当にありがたく思っています。
あ,あとせっかくなのでここで発表させていただきますが,中国語,おそらく繁体字と簡体字へのローカライズも検討を進めることになりました。
※7月29日11:45追記。Neumann氏の指摘を受けて,繁体字と簡体字へのローカライズに関する表現を修正しました。
4Gamer:
つまり,東アジア地域のWorld Updateも来ると?
Neumann氏:
いやいや,それは分からないですけど,やり方はいろいろありますからね。
4Gamer:
では,次の機会を楽しみにしておきます。ありがとうございました。
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