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「グルームヘイヴン」がデジタル版でも最高の冒険だったので,ボードゲームで散々遊び倒したプレイヤーがオススメする
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印刷2023/05/23 08:00

企画記事

「グルームヘイヴン」がデジタル版でも最高の冒険だったので,ボードゲームで散々遊び倒したプレイヤーがオススメする

 「グルームヘイヴン」があまりに楽しいんだわ。

 ……という話を2020年に書き,この超重量級のファンタジーボードゲームの良さをさんざん語ってきた筆者ではあるが,今回はデジタル版の話をさせてほしい。
 お値段3万円越えの高額ボードゲームでありながら,2020年の時点で日本語版は完売,現在に至るまで再販もされておらず,その面白さを体験できるのはごく一部のコアなボードゲーマーだけだったグルームヘイヴンだが,実はそのデジタル版が,2021年10月にPC向けに発売されている。しかし,デジタル版は日本語対応しておらず,テキスト量の多い本作は,日本人ゲーマーにとっては手の出しにくいタイトルだった。

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 2020年最高の冒険はボードゲームにあった。筆者はそう思い込んでいる。超重量級のファンタジーボードゲーム「グルームヘイヴン」が,あまりに面白かったからだ。お値段3万円,重量9キロというこの狂ったゲームの魅力を語りつつ,拡張や新作も紹介していこう。

[2020/12/29 00:40]

 そんな中,Steamワークショップで有志による「日本語化MOD」が制作され,公開されたのが2022年4月。これでデジタル版のグルームヘイヴンはぐっと遊びやすくなった。もう,MODをリリースしてくれた方には感謝しかない。
 これを知った当時,筆者はすでにアナログ版を一通り遊び終えていたわけだが,「面白いからもう一回やりたいな」と思い立ち,メンバーを集めて再度冒険を開始した。「せっかくだから,デジタル版もがっつり遊んでから記事を書くぞ」と思っていたのだが,ハマりすぎてさっぱり終わらず(なにせメンバーが揃うときしか進まない),アナログ版以上に遊びに遊んで,今に至っている。

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 そんなわけで,今回はAsmodee Digitalから販売されているデジタル版グルームヘイヴンである「Gloomhaven」の面白さを紹介していきたい。アナログ版,デジタル版ともに最大人数でしっかり遊んできた筆者なので,それぞれの良さなどにも触れつつ,この最高の冒険へ皆さんを誘いたいと思う。
 いや,デジタル版になっても,あまりに楽しいんだわ。

ワークショップの日本語化MODページ。Steam版なら,DLC「獅子のあぎと」も含めて日本語化できる
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アナログ版の遊びをそのまま再現


 デジタル版は,基本的に「アナログ版の遊びをそのままデジタル化したもの」だ。なので大まかな紹介はアナログ版の記事を参照してほしいが,改めて説明しておくと,ジャンルとしては,最大4人のプレイヤーでクエストをクリアしていく協力型のシミュレーションRPGである。プレイヤーたちは,グルームヘイヴンと呼ばれる街を拠点に,装備や能力(カード)の準備をして,さまざまなクエストへと出かけていく。
 各クエストには,敵を全滅させることやマップから脱出する,宝箱を奪取するなど,さまざまなクリア条件が定められている。これを達成するために協力して,マップ上に配置された強力な敵と死闘を繰り広げるのだ。

メインシナリオとなる「コアクエスト」と,横道にあたる「サイドクエスト」が用意されていて,どれを進めるかはプレイヤーの自由だ
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 プレイヤー側の取れる行動は,クエスト前に準備したカードによって決まる。マップ上で毎ターン,各プレイヤーはカードを2枚選ぶ。1枚のカードは上段と下段に分かれており,それぞれで違う内容が書いてある。主に上段が攻撃や回復,下段が移動だ。そして,2枚選んだカードのうち,片方は上段,片方は下段を組み合わせて使わなければならない。
 また,どちらかのカードには,そのターンの行動順を決めるイニシアチブが書いてあり,これが低いほうが早く行動できる。カードは敵味方含めて,全員一斉に公開するため,それまで行動順がどうなるかは分からない。早ければ得というわけではなく,状況によっては敵の行動後に動いたり,味方と連携を取って動いたりすることが望ましい場合もあるので,どのカードを組み合わせるか,どのぐらいの速さで動くかを考えるのが悩ましい。毎ターン,仲間同士であれをしようこれをしようと,(Discordなどの外部ボイスチャットをつないで)相談しながら進んでいくことになるのだ。

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 仕組み的に,毎ターン2枚のカードが手札から減っていくわけだが,これが尽きると,捨て札から1枚を除外してほかのカードを手札に戻せる。つまり,ダンジョンの奥に進むにつれ,除外されるカードが増えていくため,手札に戻ってきてくれるカードはだんだん少なくなり,選べる行動が減ってしまう。カードの中には,強力な代わりに捨て札にならず,直接除外されてしまうものもあるので,そうした行動を選んだ場合はなおさら消耗が早い。
 もし,除外できるカードがなくなったら,そのキャラクターはHPが0になったのと同様に,そのクエストから離脱してしまう。本作は,戦闘をせずに移動をするだけでもカードを消費するので,実質,すべてのクエストには時間制限(手札切れ)が設けられていることになる。

マップはへクス状のタイルで表現されている。1タイルにつき移動1が必要なので,戦わずに前に進むだけでも消耗していく
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 本作の敵は本当に強い。「これ間違ってない?」と言いたくなるような数や攻撃力で,容赦なくぶん殴ってくる。そのため,プレイヤー同士の協力は必須なのだが,なんと本作にはこの連携を乱す,いや己の意志で乱したくなる要素が用意されている。それが,各キャラクターが持つ「人生の目標」だ。
 この目標は,キャラクターたちが冒険に参加する理由であり,ランダムで決定される。特定の敵を自分で倒す,特定の場所のクエストをクリアする,たくさんのアイテムを集めるなど,さまざまな条件が用意され,これを達成すると,そのキャラクターは冒険者を引退し,その報酬として街が発展する。さらに,新たなキャラクターもアンロックされるので,基本的に「引退させれば新キャラで遊べる」というのが,プレイの大きなモチベーションになる仕組みだ。

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 そんなわけで,参加プレイヤーは全員,早く目標を達成して自分のキャラクターを引退させたくてたまらない。それはつまり,協力すべきシーンで自分勝手な行動を取りたくなるということだ。攻撃すべき相手をスルーしたり,戦ってほしいのに休憩したり,敵を無視してお金を拾いだしたり……。そんな仲間同士のトラブルが自然に発生し,「おい,こらー!」と盛り上がるのも,本作の面白いところと言える。

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アナログならではの体験はできない代わりに,格段に遊びやすい


 以上のように,基本的にはアナログ版そのままなのだが,デジタル版ならではの良さもたくさんある。
 まず分かりやすいのがグラフィックスだろう。アナログ版は,タイルを組み合わせてマップを作り,その上にコマを置いて手で動かす。デジタル版はこのあたり,「ボードゲームをそのまま画面上で再現する」のではなく,「デジタルゲームとして再構築する」方向に振っているので,マップはダンジョンらしく3Dで描かれ,キャラクターや敵もコマではなくしっかり動く。モーションやエフェクトもきっちり用意されており,このあたりは「ボードゲーム」ではなく「PC用シミュレーションRPG」に変わったと言ってもいい。

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 ボードゲームでないということは,セットアップに時間もかからないし,本来はカードを引いてダメージの補正値やファンブルなどを決める戦闘中の処理も,自動でやってくれるということだ。おかげでプレイングは非常にスムーズで,遊びやすい。難しいクエストに失敗して再挑戦するのも手軽だし,「それならゲームの難度も上げちゃえ!」なんて決断もしやすくなったのは嬉しいところだ。

ゲームの難度は「通常」が下から3番目。その上になんと3段階もある。筆者は今回,1段階だけ難しい「ハード」で冒険したが,それでもきついクエストはきつかった。「デッドリー」って……
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 これは筆者の卓の好みの問題かもしれないが,遊びやすくなったことによって,アナログ版よりもサイドクエストを選択しやすくなったのもポイントだ。アナログ版の場合,ボードゲーム会を開いて4人で集まらなければならない都合上,「全部のクエストを制覇してやるぜ」みたいなことは,なかなか難しい。サイドクエストが残っていても「そろそろコアクエスト進めるか」と放置してしまうこともあるし,そのまま最後のボスらしき相手を倒したら,じゃあ残りをやろうというテンションにもならない。
 それが,セットアップなどをせずに済むデジタル版だと,「せっかくあるんだからサイドクエストをやろう」に変わり,片っ端からクリアしたくなってしまうのだ。おかげで,アナログ版よりも手間がかからないのに,プレイ時間はデジタル版のほうが圧倒的に長くなってしまった。

 デジタル版では,一部ルールをあえてアナログ版から変更するハウスルールの設定も行える。クリティカルやファンブルの効果がマイルドになったり,召喚獣の挙動が変わったりと,地味ながらプレイ感に関わる調整が入るので,好みのルールを選べばいいだろう。

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 逆に,アナログ版のほうが良かった点も,もちろんある。
 例えば,アナログ版には,探索できる場所が増えると全体マップにシールを直接貼っていくなど,「一度きりの俺たちの冒険」という感覚を強めるコンポーネントが用意されていた。新キャラクターのアンロックも,シールで密封された箱を開けるという一度だけの体験で,とてもワクワクした。これらはアナログだからこその特別な体験であり,デジタル版で同じ体験は不可能だ。
 アナログ版だからこその隠し要素的なものも存在したが,それもデジタル版には入っていない。

箱が開けられない代わりに,新キャラクターをアンロックするとムービーが流れる演出は用意されている
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 また,遊びやすい反面,遊びすぎてしまって「キャラクターは全部アンロックしたし,レベルは最大だし,装備も揃ってるし,金も余ってる」みたいな状態にもなってしまった。こうなると,とくに引退させる理由もないので,気に入ったキャラクターを最強に育ててしまうのだが,それはそれで歯ごたえがないクエストも出てくる。無双するよりも,強敵にヒィヒィ言っているときのほうが楽しいので,強くなりすぎるのも困りものだ。

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 それと地味なことなのだが,各クエストのデザイナーが分からないのはちょっと寂しい。アナログ版では,そのクエストを誰が作ったのか,各クエストのページにデザイナー名が書かれているのだが,デジタル版ではそれがない。サイドクエストはゲストデザイナーが作っていることが多く,筆者の経験上,「このクエストの難度おかしいだろ!」と思うようなサイドクエストの制作者は,だいたい同じ人である。アナログ版をやっていたころ,「これ,絶対あいつだよ!」みたいな盛り上がりもあったので,こうした表記は残してほしかった。

 そのほか,バグっぽい挙動が多少はあったり,公式の日本語化ではないので,MOD環境では表現が気になるところがあったりもするが,正直,システム的な不満はほとんどない。「グルームヘイヴンのデジタル版」に求めているものは,きっちり用意されている。あえて言えば,前日譚を描く「獅子のあぎと」はDLCとして配信されているのに,高難度の拡張である「忘れられし輪」が実装されていないことぐらいだろうか。
 あと,大量に配置された敵が「移動も攻撃もせずに,自分を回復する」みたいな行動を取った場合,1体ずつモーション付きでそれを行うので,見ているのがだるい。

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 ゲームのデキにほぼ不満はないのだが,システム外での注意点として1つ挙げておきたいことがある。それは,デジタル版には「プレイヤー同士で行動を相談するときに,やりたいことや使用カードを直接的な表現で話してはいけない」というルールが“ない”ことだ。アナログ版ではこのルールが大前提となっていて,それゆえ最適解を取るためにほかのプレイヤーに指示をするような人が出現しづらかったり,ほかのプレイヤーの行動を読み違えてハプニングが起きたりと,ゲームがより楽しくなっていた。
 デジタル版の場合,外部で勝手にボイスチャットをつないでしゃべるので,当然,こうしたルールは明示されないのである。デジタル版では,ほかのキャラクターが持ち込んでいるカードがどれで,どのカードが捨て札にあるといった情報はいつでも閲覧できるため,結果的に,最適解は予想しやすい。それでも,具体的な行動を開示してしまうよりは,「俺はこのターン,速攻で目の前の敵をぶっ飛ばすから!」ぐらいのアバウトな意思疎通をしたほうが,進行はスムーズだし,楽しいように思える。

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プレイのハードルの低さはすべてに勝る

今すぐ冒険に繰り出そう


 長々と紹介してきたが,正直,最高に楽しかったグルームヘイヴンの冒険を,手軽に遊べるというだけで大満足である。もちろん,体験の濃さに関しては,やはりアナログ版に軍配が上がる。しかし,4人で集まって遊ぶ都合上,オンラインマルチプレイならではの集まるハードルの低さは,あまりに大きなメリットだ。アナログ版では「1か月に1回は集まりたいよね」みたいな冒険だったのが,1クエストが1〜2時間程度で終わるデジタル版なら,「平日仕事が終わったら1クエスト遊ぼう!」になるのだから。遊べる頻度が違いすぎるし,曜日を決めて遊ぶようにすれば,毎週の楽しみが増えて日々の活力になる。

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 仲間を誘って,ああだこうだ言いながら遊ぶ協力型のシミュレーションRPGが,面白くないわけがない。もちろん,誰にでもオススメできるようなジャンルではないが,歯ごたえのあるクエストに協力して挑むのが好きだという人には,ぜひ遊んでみてもらいたい。
 アナログ版のときは,「最高に面白いんだけど,もう売ってないんだわ……」と残念なことを言うしかなかったが,デジタル版なら今すぐ遊べる。3枚の1万円札も,広いプレイスペースも必要とせずに,こってりした冒険が楽しめる。もはや本作を遊ばない理由などないはずだ。
 なに? 人が集まらない? それだけは自分でどうにかしてほしい。デジタル版は,自分で複数キャラクターを動かす1人用のシミュレーションRPGとしても遊べるが,どう考えたってマルチプレイのほうが楽しい。できれば最大人数の4人でパーティを組んで,冒険に繰り出すのがオススメだ。

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