インタビュー
「ヨッシー」シリーズの開発元グッド・フィール初の家庭用オリジナルタイトル「MONKEY BARRELS」。キーマンが語るゲームの魅力やこだわりとは
そんな同社が2019年11月7日,初の家庭用オリジナルタイトルとして,Nintendo Switch向けのダウンロード専用ソフト「MONKEY BARRELS」(モンキーバレルズ)をリリースする。
そこで今回,4Gamerでは本作のプロデューサーを務める蛭子悦延氏に「MONKEY BARRELS」について聞くと共に,同社のこれまでや今後の展望を語ってもらった。
「MONKEY BARRELS」公式サイト
「遊び」を中心に据えて,それを引き立たせるように周囲を作っていく
本日はよろしくお願いします。4Gamerでお話を聞くのは初めてですので,まずはグッド・フィールという会社について教えてください。
蛭子悦延氏(以下,蛭子氏):
グッド・フィールは2005年10月に設立した会社です。アクションゲームを中心に制作しており,そのほかに学習用ゲームなどの開発も手がけています。
4Gamer:
グッド・フィールという社名にも表れているように,こちらでは面白いゲームを作るために,まず自分達が「いいかんじ!」と思えるモノ作りを大事にしているそうですね。
蛭子氏:
ええ,僕を含めて設立時のスタッフは,ある大手メーカーで一緒にゲームの開発をしていました。しかし次第に,自分達はゲームのプロデュースを担当し,開発自体はデベロッパに任せるケースが増えていって,だんだん作り方が細分化していると感じるようになっていました。
そこで改めて自分達が何をしたいのかを考えたときに,ゲームを作ることをやりたいと。それで制作会社としてグッド・フィールを設立したんです。
4Gamer:
当時のスタッフは何名くらいでしたか。
蛭子氏:
4〜5名でしょうか。そこから知り合いに声をかけて,徐々に増えていきました。
4Gamer:
どんなゲームを作りたいといった,具体的な目標はあったんですか。
蛭子氏:
僕らとしては,何でもやりたいという気持ちでした。グッド・フィール以前は任天堂さんのプラットフォームでアクションゲームを多く作っていましたので,やはり最初はそこからという感じです。
4Gamer:
でも,グッド・フィールの第1作は,実は学習ゲームなんですよね。
蛭子氏:
そうなんです。大手学習塾さんから,「ゲームを作りたいけれど,作り方が分からない」という相談を受けたんです。僕達としても大手メーカーさんとの取り組みがある一方で,小さい規模で作れるゲームも手がけていきたいと考えていましたから,それなら一緒にやりましょうと。
4Gamer:
任天堂との取り組みにしろ,学習ゲームにしろ,あまりグッド・フィールの名前を前面に打ち出していないのには何か理由があるのでしょうか。
蛭子氏:
社名を出すことに,あまりこだわりがないんですよね。ゲームがしっかりしていればいいかなと。
4Gamer:
なるほど。では,グッド・フィールが得意としていることや,ゲーム開発におけるこだわりは何でしょうか。
蛭子氏:
他社さんからはアクションゲームが得意なデベロッパだと思われがちで,実際,アクションゲームのノウハウと実績を持っていますが,社内にはさまざまな経歴を持ったスタッフがいますから,僕達としてはいろんなゲームを作れることが強みですね。
また,一貫してこだわっているのは「遊び」です。どのゲームにおいても,遊びを中心に,グラフィックスなり,キャラクターの動きなりをまとめていくという作り方をしています。
4Gamer:
遊びというと,アクションの手触り感などでしょうか。
蛭子氏:
そのとおりです。ゲームを通して軸となる部分ですね。そして,それを引き立たせるにはどうすればいいかを常に考えながら,その周辺のゲーム要素を組み立てていくことに努めています。
4Gamer:
「MONKEY BARRELS」は,そんなグッド・フィール初の家庭用オリジナルタイトルとしてリリースされます。これまで,言わば裏方だった御社が,自社パブリッシングに踏み切った理由を教えてください。
蛭子氏:
裏方という意識はあまりなく,パブリッシャさんと一緒にゲームを作っている感覚でした。その一方で,これまでにもスマートフォンやFacebook向けのゲームを自社でパブリッシングしてきました。
ただ,やっぱりコンシューマゲーム出身なので,設立10年を過ぎたあたりから,そろそろオリジナルのコンシューマゲームもやろうという感じで,2タイトルの開発を並行して始めました。
4Gamer:
4〜5年前から構想があったと。
蛭子氏:
もともと,コンシューマゲームのパブリッシングをやりたいとは考えていたんです。その思いが強くなったのが,設立10年を過ぎたあたりということですね。Nintendo Switchの状況を見ていると,他社さんも数多くのダウンロード専用タイトルをリリースしているので,僕達も参入しましょうと。
4Gamer:
オリジナルゲームの企画は,どんな流れで行うのでしょうか。
蛭子氏:
オリジナルゲームに限らず,グッド・フィールではゲームのアイデアを思いついたら誰でも提案して構わないんです。
4Gamer:
若手でもベテランでも,アイデアがあれば提案して,それが面白そうなものであれば実際にチャレンジしてみると。
蛭子氏:
そうでないと,こういう会社はなかなか生き残れないですから。現場で働いているスタッフに聞いたら「忙しすぎて,そんなことをやっている暇がない」と返ってくるかもしれませんが,会社としてはそう考えています。
「マッドマックス」をリクエストしたら,なぜか「サルカニ合戦」に
4Gamer:
それでは「MONKEY BARRELS」について教えてください。
蛭子氏:
舞台となるのは,家電メーカー「カニダエレクトロ」の家電ロボット軍団によって,人類が滅びた世紀末の日本で,廃墟と化した街では動物達が人類の遺物を使って暮らしています。そして世界は,カニダエレクトロのCEO,蟹田越前によって支配されています。
ストーリーは,主人公である猿のマサルが,蟹田にさらわれた親友のコテツを救い出すべく仲間と一緒にカニダエレクトロと戦う旅に出る……という,サルカニ合戦をモチーフにしたものです。ゲームのジャンルとしては,見下ろし型の360度全方位シューティングですね。
4Gamer:
開発期間やスタッフはどのくらいの規模だったのでしょうか。
蛭子氏:
開発には2年以上かけています。スタート時のスタッフは1〜2名で,僕がディレクターを兼任していたんですが,割と早い段階で今のディレクターに任せました。
当初は「小粒でピリッと辛い」を掲げて,手触りがよく,気軽に遊べて「面白かった」と言ってもらえるゲームを1年以内に作ろうと考えていたんですが,ずるずると作っているうちに新しいスタッフがチームに入ったり,別のプロジェクトのために抜けたりを繰り返して,最終的には15人前後で仕上げました。
4Gamer:
当初は,任天堂タイトルの開発の隙間を使って有志が進めていたんですね。
蛭子氏:
そうです。受託案件が最優先で,案件外のスタッフがボチボチという感じでした。当時は本当にサクッと作ってしまおうと思っていたんです。けれど徐々に力が入っていって。
4Gamer:
作っているうちに,こだわりが強くなっていったと。
蛭子氏:
やっぱり,どんどんのめり込んでしまいますね。スタッフも予定以上に投入することになりましたし……。
4Gamer:
見下ろし型の全方位シューティングというジャンルには,何かこだわりがあったんですか。
蛭子氏:
僕自身が好きなジャンルなんです。グッド・フィールはずっと,全年齢対象で誰もが遊べる難度のアクションゲームを作ってきましたが,「MONKEY BARRELS」に関しては難度を上げて,敵をバンバン倒してバンバン進んでいくようなゲームにしようと。僕からの最初のリクエストは,映画の「マッドマックス」みたいなゲームでしたからね(笑)。ちょっとバカで,派手で,乗り物に乗れて……みたいなリクエストを次々に出していました。
4Gamer:
そこからサルカニ合戦をモチーフにした世界観に変えたのは,子どもから大人まで,誰でも親しみやすくするためだったのでしょうか。
蛭子氏:
僕からは,デザイナーに「マッドマックス」を踏まえつつデザインにこだわってほしいというリクエストも出していたんです。そうしたら,「あれ,サルカニ合戦?」「あれ,五反田を出発して東海道を進んでいくの?」というものが上がってきて。
4Gamer:
蛭子さん自身もそれを見て,初めて現在のような形になっていることを知ったんですね。
蛭子氏:
はい。ただ,ディレクターは「マッドマックス」だと言い張ってます(笑)。
4Gamer:
まあ,舞台はいちおう,人類が滅びた世紀末の日本ですから……。
蛭子氏:
僕は,無駄にたくさんのスピーカーを搭載したクルマや,火を吹くギターみたいなバカさ加減を入れてほしかったんですけどね。ディレクターいわく,「日本人が作るのだから,アメリカより日本を舞台にしたほうがいい」と。それでも,外国人が思い描く間違った日本像なら,おバカな感じが出るかなとも思ったんですが,そんなに間違っているわけでもなく(笑)。
4Gamer:
兵器に改造された家電製品がちょこまかと動いて襲ってくる絵面が面白いですね。
蛭子氏:
アクションは,攻撃したときの手応えでプレイヤーの気持ちよさが変わります。それを踏まえると,派手にバンッ! といったほうが気持ちいい。でも,攻撃する対象が人間や生き物だと嫌悪感を覚える人が少なからずいますので,メカなどが綺麗に爆発するほうがスカッとするかなと。あとは,グッド・フィールがこれまで手がけてきた作品のイメージを壊さないようにというのも理由の1つです。
4Gamer:
確かに「カービィ」や「ヨッシー」シリーズを手がけてきたデベロッパが,いきなり血しぶきが飛び散るようなゲームを作ったら,皆びっくりします。「MONKEY BARRELS」は明るいというか,笑える世紀末ですよね。
蛭子氏:
いつも「バカっぽくして」と言っています。あとは「いい感じ」ですね。会社が掲げている「いいかんじ!」とはまた違う意味で,昔のゲーム業界には「いい感じにしといて」「分かりました」というようなやり取りがちょくちょくあったんですよ。お互いにちゃんと共通の認識を持っているかどうかすら,分からないのに(笑)。
4Gamer:
今回の場合は,深刻な内容になりすぎないように,というぐらいの認識でいいでしょうか。
蛭子氏:
そういうことです。どちらかと言えばノリで作りたい。でも昨今は,それが難しい世の中にもなっていますから。
上達している感覚が得られる難しさと,アクションの手触り感がキモ
4Gamer:
ところで「MONKEY BARRELS」には,グッド・フィールが入っている東京・五反田のビルをモチーフにしたステージもあるそうですね。
蛭子氏:
ええ,チュートリアルを兼ねた最初のステージが,ここのビルをモチーフにしたものとなっています。もうバンバン壊してほしいですね(笑)。当初のメインターゲットは海外だったんですが,思いっきり日本風になってしまいました。
4Gamer:
世界的に見ると,見下ろし型シューティングは競争の激しいジャンルですが,競合タイトルとの差別化を図った点を教えてください。
蛭子氏:
さまざまな遊びを盛り込んで,飽きさせない作りにしています。海外の高難度ゲームのように,1つのことを突き詰める部分もあるんですが,そこに乗り物の要素なども加えてバリエーションを持たせることで,グッド・フィールならではの色を出しています。
あとは何と言っても,アクションゲームのキモとなる手触りです。プレイして気持ちよくないと,続けて遊んでもらえませんから,そこはとくにこだわりました。
4Gamer:
事前に軽くプレイさせていただきましたが,「MONKEY BARRELS」は本当に難しいゲームですね。
蛭子氏:
先ほども少しお話しましたが,今回はとにかく難しくしようと。これまでは全年齢対象ということで,誰でもある程度はうまくプレイできるゲームを作ってきたのですが,今回は正反対になっています。
4Gamer:
「MONKEY BARRELS」も全年齢対象ですが,このゲームでは難度の選択もできませんよね。
蛭子氏:
最近は難度を選べば誰でもクリアできるようにしつつ,上手な人にはやり込み要素でフォローするというゲームが多いですが,そういった要素は一切ありません。今回はもう,作ったそのままを味わっていただきたいので。ただ,何度もプレイしているうちに上達しているという感覚は得られると思います。
4Gamer:
グラフィックスはドット絵風ですが,よく見ると実は3Dで作られているんですね。
蛭子氏:
そこもこだわりの1つです。これはデザイナーから出たアイデアで,普通の3Dでは競合と差別化できないので,ドット絵風にしようと。
また,もともとは売り切りのシングルプレイゲームだったんですが,ゲーム要素としてはほかにも,最大6人が参加できるオンライン対戦モードがあります。
4Gamer:
ルールがシンプルで賑やかなゲームなので,オンライン対戦は盛り上がりそうですね。グッド・フィールの家庭用オリジナルタイトル第1弾として,満足のいく仕上がりになりましたか。
蛭子氏:
もちろんです。制作会社をやっているので,へたなものは出せないですからね。自分達が自信を持ったものしか出せない。その意味で,満足できるゲームになっています。
4Gamer:
あとは,どうやって売っていくかですね。
蛭子氏:
そこなんです。グッド・フィールでは初めての経験ですから。
4Gamer:
「ヨッシークラフトワールド」を作った会社だということを知らない人も少なくないと思います。
蛭子氏:
そうなんですよね……。デベロッパである僕達のほうから,ほかのパブリッシャさんでの実績を前面に打ち出して宣伝するわけにもいかないですから。ある程度,地道にやっていくしかないと考えています。実際に中身を見ていただいて,口コミで評判を広げていくしかないかなと。
スタッフの才能を活かし,「いいものを作るゲーム会社」を目指す
4Gamer:
それでは今後のグッド・フィールの展開についても教えてください。家庭用オリジナルタイトル第2弾以降の進捗はいかがでしょうか。
蛭子氏:
実を言うと「MONKEY BARRELS」は第2弾になる予定だったんです。現在は,本来第1弾にと考えていたタイトルを開発しています。中心になっているスタッフが「死ぬまでに1本,このジャンルを作りたい」ということから出発したタイトルで,今,頑張って制作中です。
4Gamer:
なるほど。お話から察するに,「MONKEY BARRELS」とは違うジャンルのゲームになりそうです。蛭子さんご自身が作ってみたいゲームはありますか。
蛭子氏:
いずれは時代劇アクションを作ってみたいですね。それまでに,もっといろんなジャンルに挑戦したいという思いもあります。
4Gamer:
時代劇アクションですか。
蛭子氏:
好きなんですよ。多人数で遊べたり,バラエティ要素があったりとワイワイできるところがいいんです。時代劇というより,ベタベタなお笑いアクションと言ったほうが近いかもしれません。そこに今のゲームならではの新しい要素を入れたものを作りたいですね。
4Gamer:
RPGやシューティングなどはどうでしょう。
蛭子氏:
確かに次はそのあたりかもしれません。とくにシューティングは作れる人とそうでない人が決まっていると昔から言われていますから。
4Gamer:
また少し個人的な話になりますが,もともと蛭子さんがゲーム業界に入ったきっかけは何だったのでしょうか。
蛭子氏:
僕は,ファミコン時代からずっとゲームが好きだったんです。とくにアクションゲームが好きでしたね。それで,ファミコン全盛期の1988年に新卒で大手メーカーに就職しました。あの時代の,いろんなジャンルのゲームを短いサイクルでちょっと作って売っていく空気がよかったんですよね。「MONKEY BARRELS」もサクッと作りたかったけれど,今は「ちょっと作る」なんてできません。1つのゲームを作るのに,人も時間も必要ですから。
4Gamer:
今のインディーズゲーム界隈が,ファミコン全盛期の熱気を再現しているように思います。
蛭子氏:
そうですね。皆さん,次々に新しいゲーム性を生み出していますし。
4Gamer:
「MONKEY BARRELS」にも同じような空気を感じます。まさに小粒でピリッとしていて。
蛭子氏:
それはよかったです。
4Gamer:
最近だと,大手でも社内インディー的な小規模プロジェクトに取り組む例が数多くありますね。
蛭子氏:
いろんな会社さんが,いろいろ作られているな,と参考にしています。正直,楽しそうですよね。大作がある一方で,小規模の実験的なゲームもあると,業界が活気づきます。受け手であるプレイヤーの住み分けもうまくできていますし。
4Gamer:
これからは,先ほどおっしゃっていたような,ノリでゲームを作ることも必要なのかもしれません。
蛭子氏:
実はグッド・フィールを立ち上げたとき,スタッフ一人ひとりの能力を活かせるような会社にしたいと考えていました。今もプロジェクトの内容と各自の適性を把握して,面白いスタッフを中心メンバーとしてピックアップするよう努めています。ジャンルにこだわらないと言っているのは,グッド・フィールにそういう側面があるからです。
4Gamer:
それでは改めて,今後グッド・フィールをどんな会社にしていきたいかを教えてください。
蛭子氏:
まずは「いいものを作るゲーム会社」にしたいです。それぞれの才能を活かし,社会に対してアピールできる会社を目指します。これまでデベロッパとしていろいろやってきましたが,今回は家庭用オリジナルタイトル第1弾ということで,培ってきたノウハウを活かした「MONKEY BARRELS」を作りました。今後はこれを足がかりに,ゲーム業界を引っ張っていけるような挑戦をしていきます。
グッド・フィールの特徴の1つは,昔のゲームを作った経験があるスタッフが現場にいることです。今,ゲームはさまざまな形に発展を遂げましたが,その本質は変わっていないと思います。長い経験を活かして,今の時代に提案できるゲームを作っていきたいと考えています。
4Gamer:
期待しています。本日はありがとうございました。
「MONKEY BARRELS」公式サイト
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