プレイレポート
IGGがジャパン流におもてなす。日本スタジオ生まれの新作「ロストストーンズ」が狙っている世界
「ロストストーンズ」ダウンロードページ
日本から世界を狙うためのスタンス
まずはゲーム内容に触れておこう。本作は“都市育成パズルRPG”である。プレイヤーは一筆書き風のパズルで敵と戦い,物語を進めたり,世界100か国以上の人たちが参加するサーバーでランキング対戦を繰り広げたり,巨大モンスター相手に共闘バトルを楽しんだりする。
物語の舞台は,水面世界の上空に浮かぶ島々。プレイヤーは通称“ストーンハンター”として,創造の女神の力を宿した6つの石を集めに,8つの空島で冒険を繰り広げていく。同時に,空に浮かぶ基地をカスタマイズし,プレイの幅を広げていくのが主なゲームプレイとなる。
つまるところ,オーソドックスなパズルRPGにシミュレーション要素をかけ合わせつつ,対戦プレイや協力プレイも可能としたのが本作だが,ビジュアル面の雰囲気は珍しいことに“日本チック”だ。
ここに引っかかりがない人に補足しておくと,IGGはシンガポールの会社である。これまでは「ロードモバイル」をはじめ,昨年のTGS 2019で発表した作品群など,言ってしまえばグローバル系,もっと言えば(日本だけとは言えない)海外向きのテイストを主流としてきた。
そんな中での日本チック。キャラクターも世界観もジャパニメーションな方向性が強く出ている。これというのはなんでも,IGGの日本スタジオで作られているかららしい。思い返すと昨年,IGG Japanのカントリーマネージャーに話を聞いたときも,少しばかり触れられていた。
ローモバのIGG Japanが200メートル先にお引越し? 「インパクトを生み出す」ための拡充と展望は,日本育ちのモチベーターが握っている
2歳半になった「ロードモバイル」や,生まれたばかりの「モバイル・ロワイヤル」を抱え,約4年ほど日本でゲーム事業を続けてきたIGG Japanが,2018年末に新オフィスへと移転していた。“同じ新宿内の200メートル先へのお引越し”が意味するところは,どうやら日本育ちのモチベーターが握っているようだ。
ロスストを制作したのは,日本スタジオにいる20名ほどのコアメンバーで,アート面は外注しつつ,約1年の開発期間で完成にこぎつけた。超大型ゲーム,あるいはハイパーカジュアルの両極が叫ばれる昨今にあって,比較的軽くはないタイトルとしてはスピーディな仕上げである。
開発版を少し触らせてもらったが,操作,戦術,育成に複雑なことはなく,かといって考えるべきゲーム要素はありと,優等生な作りに見えた。おおよそ,ゲームをあまり遊ばない人でも気軽に楽しめる,などと評価しやすい。日本のゲームらしいマシマシ感も控えめのため。
一方で「世界的にもパズルRPGが豊富な日本市場を狙います」といった意気込みは感じられなかったのだが,狙いはなんなのだろう。
日本スタジオのミッションは,日本初のタイトルを,日本のみならず世界に届けること。日本だけを席巻することが目的ではないので,ここで作られるものは初めから世界市場を狙っている。本社からの要望もざっくりと大枠だけで,具体的な設計はすべて自分たちで形にする。
本作についてはその普遍性から説いてきたが,経験豊富なゲーマーならおそらく実感しているとおり,いまいちフックが弱いように感じる。パズルRPGの王者がウヨウヨといる,この島国だけに。
「誰でも遊べる」のマジックワードは,昨今では大盤振る舞いだ。最終的に他社と一線を画すため,「システムを凝りました」のスパイスを振りかけると,誰でも遊べる作りになっていても,誰でも遊びたいと思える作りになっていないことがしばしば。かといって,禁断の果実“ありふれた仕組み”に手をかけようとすると,その正当性と危険性は周知であるからに,どこからともなく取扱注意を下されるはずだろう。
そういった予想が誰でもできてしまうご時世にあって,ロスストは清々しいまでのストレートで勝負しにきた。しかし,これはIGGがこれまで一貫してきて,かつ成功してきた手法である。単に海外に輸出するといった観点ではなく,「世界共通規格のゲーム作り」とでも言うのか。
アジア,欧米,北米,さらに非ゲームユーザー層にも届くものをと考えると,同社の観点は理にかなっている。たとえばビジュアルだ。
本作のメインデザイナーは,フランスのクリエイターである。彼(か彼女)は故郷にいながら日本のゲームやアニメに心を奪われた,よく聞く話の人物像である。そのうえで「ガンダムはちょっと上の世代。私はマクロス」など,大系的にではなく,個別的な体験をしてきている。
ただ,このズレが重要なのか。海外に「日本の最新事情」をそのまま送ってもピンとくる人は多くない。とっかかりとなる原体験,そこに至るまでの変遷や文脈がないために。繊細な美少女イラストが,一般クラスタに「自分の範囲じゃない」と判断される体験などは,非ゲーム・アニメユーザーの知人,もしくは自身の両親でとおった人も少なくないだろう。抜きんでた魅力は,ときに毒になる。だから“ならす”必要がある。
ロスストのビジュアル面は,日本の文化をベースとしつつ,「世界から見たときの親しみある日本の印象」というフィルタをとおして,デザインに落とし込まれている。衣装は派手でも,目元は華美でなかったりと,フラットな印象で抑えられている。2020年に出す一例としては相応しくなくなっているかもしれないが,要は「フランスなら最新アニメよりグレンダイザー」など,地域ごとのカルチャーへの習熟や親しみの話だ。
だからいっそ,海外の実体験をもとに,日本側が受け止める。日本らしさを客観的に語れる日本人も数多いだろうが,頭に「海外から見るとね」とでも付け加えると,したり顔で伝聞口調になるのが関の山だろう。仮に説得力満点であっても,次に論旨自体の信用問題が立ち塞がる。
日本人の考える,日本的で海外ウケするデザイン制作とは根本からアプローチが異なる。しかしこうすると,我々にはピンとこなくてもグローバルで見たら成功している,なんて状況が生まれる可能性が高まるのやもしれない。立ち位置を逆にしての成功例も少なくはないはずだ。
とはいえ,やっぱり揉める。「胸はこんな大きくないから!」「振り袖を着るのは正月くらいだから!」。自国の文化と売れ線をよく見てきたデザイナー陣ゆえに,彼らは日々,国境を越えた電話で活発に議論(?)しているらしい。日本らしさを海外の人に委ね,それを信じて採用するのはなかなか大変そうだ。当然,塩梅は見極めているのだろうが,そのうえでさらに「いや日本ではね」ともっともらしく小言を口にしたくなりそうで。そして言えば言うほど,目標からズレていく,みたいな。
もう1点,ローカライズも注力している。といってもシナリオの翻訳ではない。日本スタジオでは文字サイズ,行間の詰め,フォントの雰囲気などを丁寧に見て,“アジアの怪しい日本感(ブレードランナーのような)”といった印象を持たせないよう,細部を詰めているという。
もちろん,ロスストは日本発であるため,上記を適用するのは日本語ではなく「日本以外の対象地域」である。それぞれの配信地域に馴染んでいない“どう見ても海外アプリ”といった違和感は,それも含めたデザインとしてでも成立していない限り,いい影響を望めないためだ。
UIひとつとっても,ダメージの表現はテキスト,ゲージ,アイコン,ポップアップ,それを伝えるのは数字であるべきか,パーセンテージであるべきかなど,世界中の人たちにより伝わりやすい表現を探している。ローカライズと聞くと,翻訳やマネタイズなどの大きなものに目が向きがちだが,本当に大切なのはこういうところにあるのかもしれない。
「海外市場を狙っています」と言うのは簡単だ。それを面白さや美しさをもって解決しようとするのも簡単だ。結果さえ問わなければ。こちらも事例は数多いのでここでは挙げないが,その点IGGのやり口はさすがグローバルゲームメーカーと言うべきなのか。狙い方を知っている。
システムもビジュアルも,ロスストに目新しすぎるところはない。馴染みあるものを組み合わせ,ゲームに仕上げている。端的に言えば「よく見るタイプ」と評せてしまうが,IGGによる世界を狙うゲーム作りというのは,世界中に漂う普遍性を見つけることなのだろう。それがあるのかないのかは分からなくても,それに限りなく近づこうとしている。
日本の現場ではあまり耳にしない方針。その中で耳にするものも「ポピュラーさで世界を狙います」といった意思表明が関の山であったが,なるほど。これが会社として立つ場所と見ている風景の差だとすれば,しっくりきた。そう言えるくらい,IGGは世界で成功を収めている。
そんな会社が送り出す,日本発の日本的なロススト。今後「IGGの日本スタジオ」が固有名詞となり得るのかは,これから決まること。