インタビュー
[インタビュー]EPOSの新USBサウンドデバイス「GSX 1000 2nd Edition」は何が変わったのか。ブランドの現状と合わせて聞いてみた
それに先立つ2022年8月,旧Senn
Michal Tempczyk(ミハル・テンプチェック, |
James Tio(ジェイムズ・ティオ, |
Lalor McMahon(ロラー・マクマホン, |
荒川 啓(Commercial Manager, Japan, EPOS Japan Gaming Sales) |
GSX 1000 2ndは何が変わったのか
早速,新製品の話題から始めよう。
Michal Tempczyk(以下,Tempczyk)氏:
すでにオリジナル版については,よくご存じでしょうから,かいつまんでおさらいしましょう。本製品の哲学は,「ゲーマーにより優れたサウンドデバイスをご提供する」ということです。ターゲットは,オーディオ用のプレミアムゲーミングソリューションです。ヘッドセットはそのひとつですが,可能な限りベストな方法で音を聴くために,ゲーマーにはよいサウンドデバイス,よいソースも必要でしょう。
我々は,多くのゲーマーが,必ずしもベストではないオンボードサウンド機能を使っていることを知っています。GSX 1000は,スタンドアローンで動作するUSBサウンドデバイスです。プラグ&プレイで動作して,シームレスな方法でヘッドセットを使用して,よりよいオーディオ体験ができます。
「GSX 1000」レビュー。ゼンハイザー初のゲーマー向けUSBサウンドデバイスには,価格以上の価値があった
2017年1月に国内発売となった,ゼンハイザーブランド初のゲーマー向けUSBサウンドデバイス「GSX 1000」。税込で2万円台中後半という,強気な価格設定と,独自バーチャルサラウンドサウンド技術の採用がトピックだが,果たしてその実力は。サウンドデザイナーの榎本 涼氏が,今回も検証する。
GSX 1000 2ndにはそれ以外にも,オリジナル版と同じプリセットやイコライザを用意しています。また,フロントやリアに音声をフォーカスする機能もあります。
マイクロフォンフィードバック機能(サイドトーン)もあります。マイクを使っているときに,自分の声をどのくらいの音量でモニターするかを決められるのです。この機能は,とくに密閉式アコースティックヘッドセットを使用しているときに大変便利です。密閉式だと自分の声がよく聞こえませんからね。
それから,サウンドを広げる「リバーブ(残響)プロセッサ」機能もあります。とくにオープンワールド・ゲームに適しています。逆に,「Counter Strike: Global Offensive」のようにコンパクトなマップゲームだと,リバーブは不要なので使わないこともできますし,複数のプリセットを切り替えることも可能です。
PCとはUSBで接続します。円の部分にあるアイコンをタップすると,入力音源を切り替えられます。Windowsのサウンド出力設定を変更する代わりに,GSX 1000 2ndをタップすれば,本機に接続したスピーカーとヘッドセットを切り替えられる仕組みです。
4Gamer:
新バージョンで新しくなったのはどこでしょうか。
James Tio(以下,Tio)氏:
オリジナル版はUSB micro-B接続でしたが,それがUSB Type-C接続になりました。また,設定アプリとして「EPOS Setting」が利用できます。
Tio氏:
それ以外にオリジナル版との違いとしては,シルバーのリングがマットなブラックになりました。ルック&フィールの観点からのデザインです。
2つめの違いは,マイク入力の性能が向上しました。そのため,従来よりも,ずっと良い明瞭度と音場が得られます。
Tempczyk氏:
以前はGSX 1000を接続すると,「既定のデバイス」や「既定の通信デバイス」,あるいは7.1chサラウンドの設定など,Windows側でたくさんのサウンド設定を行わなければいけませんでした。GSX 1000 2ndでは,その必要がありません。この製品はプラグ&プレイで動作します。大変便利です。
Lalor McMahon(以下,McMahon氏)
GSX 1000 2ndは,EPOS Gaming Suiteと互換性があります。これを用いて,ファームウェアアップグレードも行えます。
4Gamer:
(サウンドの)アルゴリズムは変わりましたか?
Tempczyk氏:
いいえ。チップセットは変更しましたが,レンダリングアルゴリズムは同じです。大きな違いはマイクの解像度です。
4Gamer:
USB接続でありながら,高解像度のマイク入力に対応したのはいいですね。ご存じのとおり,多くのUSBサウンドデバイスにおけるマイクのサンプリングレートは8kHzや16kHzですが,それだと解像度が低い。これは良いニュースです。
Tio氏:
シンプルを維持しながらすごくパワフルな音響処理を行うことにフォーカスして,やたら機能を盛り込みすぎないようにしています。
Tempczyk氏:
市場価格は199ユーロ(約2万9100円)です。
荒川 啓(以下,荒川氏)
国内販売価格は税込2万6800円前後ですね。
Tempczyk氏:
今回お持ちしたサンプルは,まだ最初期のものです。製品ボックスも初期のものなので,このままかどうかは(インタビュー時点では)分かりません。
Tempczyk氏:
日本市場では,本製品が最初から大きな成功を上げていました。その後も,とくに米国でとても人気が出ましたが,米国を含めたほかの市場では,(成功まで)もっと時間がかかっていました。
日本の消費者は,本製品のターゲットとしてベストだと考えています。
Tio氏:
日本のオーディオファンは耳が肥えていて,サウンド品質に注意を払います。日本の消費者は,何が役に立つかよく理解しており,世界のどこよりも成功していると思います。また,4Gamerの素晴らしいレビューもこれに貢献していると思います。
製品に話を戻しますと,発表時のカラーバリエーションは黒一色ですが,2023年以降には,ほかのカラーバリエーションを用意するかもしれません。ですが,私はこのマットブラックが美しくて好みです。
4Gamer:
サイズがコンパクトなのはいいですよね。ゲーマーはみんな,机の上にスペースの余裕がありません。それなのに,USBサウンドデバイスは結構大型のものが多い。そのわりに軽量で,ケーブルに引っ張られてすぐ動いてしまうものも多い。
McMahon氏:
机に置いた時に「いいな」と思えます。この黒色仕上げといい。
Tio氏:
チカチカしないですよね。なお,バックライトは製品版で変更する予定です。
McMahon氏:
赤色と白色を,もっと抑えた感じになります。
Tempczyk氏:
それからフェーディングライト機能を備えています。
Tio氏:
我々はスタイリッシュであるよう心がけていますが,必要がないときは(LEDを)点灯させず,必要なときだけに点灯します。バックグラウンドで動作して,存在を意識しなくていいのです。とてもシンプルですが,いい仕事をします。
Sennheiser CommunicationsからEPOSになって変わったこと,変わらないこと
Tempczyk氏:
EPOS製品ラインナップは,ご存じのとおりヘッドセットが中心です。皆さんは,我々がSennheiser CommunicationsからEPOSになったのをご存じですが,「GAME ZERO」や「GAME ONE」(関連記事)といった旧世代製品がありました。GSPシリーズの密閉式ヘッドセット「GSP 600」も,日本では人気のある製品です。
そのほかにも,ストリーミング向けマイクの「B20」や,完全ワイヤレスイヤホン「GTW 270 Hybrid」もあります。
荒川:
3年くらい前の製品は,見た目がいかにも「ゲーミングヘッドセット」という感じだったと思います。一方,H6PROは,デザイン的にも柔らかみが増して,ブランドとともに少しずつ進化してきています。
Sennheiserブランドの時代は,GSP 600/500やGAME ONE/ZEROなどのハイエンド市場寄りで,価格も2万円後半〜3万円近いというハイエンドゲーマーがターゲットのブランドというイメージがあったかもしれません。
ですが,EPOSのブランドを立ち上げていく中で間口を広げるというか,松竹梅ではないですが,デザインと価格の範囲を含めて,初心者からハイエンドユーザーまで使っていただけるような,製品ラインナップになりました。ちょうど変革の時期,ということです。
4Gamer:
Sennheiserは,名高いオーディオブランドだから(ハイエンド向けに)差別化していたけれど,EPOSになったから,そこは気にしなくてよくなったということですか。
荒川:
そうですね。Sennheiserブランドは,放送機器とかプロオーディオ機器がメインで,オーディオ用ヘッドフォンも力を入れて投資をすることで,ブランドを広げてきました。日本でもハイエンドユーザーの方は,Sennheiserファンの方が多いです。
我々EPOSも,今後,もっと大きなブランドにしていくという責務があります。すでに「Sennheiserの〜」という謳い文句もあまり使えなくなってきているので,EPOSブランドで,いかに日本の市場を広げていくか。製品の認知も大事なのですが,どちらかというとブランドを認知していただく。
ただ,今はまだ「前はSennheiserだったよね」と言っていただけるので,そういう情報が広がっていって,EPOS製品を使っていただけるようになればいいかなと考えています。
Tio氏:
ここでもう一度,我々の歴史についても述べておきましょう。というのも,Sennheiserブランドの影響力からか,いまだに誤解があるからです。
約17年前,ドイツ企業であるSennheiser KGは,世界的企業になるため,ジョイントベンチャーを探しました。彼らはコペンハーゲンのWilliam Demant(以下,Demant)グループと組むことにして,(出資比率が)50:50のジョイント企業を立ち上げました。これがSennheiser Communicationsの生まれたいきさつです。
世界中でSennheiserがSennheiser Communicationsを運営していましたが,ゲーマー向けやエンタープライス向けなどの研究開発は,最初から現在まで,ずっとコペンハーゲンのDemantオフィスにあり,同じ人達が働いています。
4年前に,我々は分社化を決断しました。Sennheiser側がプロオーディオのような伝統的なファミリービジネスに注力することを望んだからです。Demantがゲーミングとエンタープライズ事業を引き継ぎ,Sennheiserはプロオーディオとコンシューマービジネスにフォーカスしました。しかし,我々の研究開発は,それまでと何も変わっていません。ビル名は変更しましたが(笑),それくらいです。
ゼンハイザーのゲーマー向け製品担当に新ヘッドセット「GSP 370」のポイントと同社のこれからについて聞いてみた
Sennheiser Communicationsは,去る2019年10月8日に,新型ワイヤレス接続型ヘッドセット「GSP 370」を世界市場へ向けて発表した。同社は2020年3月に,Sennheiser electronicからの企業分割を行う予定であるが,今年も来日したMichal Tempczyk氏などの同社メンバーに,分割後の体制から新製品の特徴を聞いたインタビューをお届けしよう。
Tempczyk氏:
ひとつ付け加えるなら,我々がジョイントベンチャーを立ち上げた理由は,Sennheiserが行っていることと,世界的な補聴器メーカーであるOpticonを有するDemantの研究開発に,多くの相乗効果があったからです。Opticonはアルゴリズムも開発しましたし,マイクの最適化も行いました。こういうことを一番うまくできる人達です。Demantの研究開発部門は,EPOSの研究開発部門と知識の共有を行っています。両社は同じグループ会社だからです。
Tio氏:
一方,Sennheiser Communicationsでは,セールスやマーケティング,流通とカスタマーサービスは,Sennheiserが行っていました。研究開発は同じですが,それ以外を自社で用意する必要がありました。そのため,(当時)新顔の私が雇われた,というわけです。
Tempczyk氏:
セールスとマーケティングがおそらくもっとも大きな変化でした。研究開発は同じマネージメントで,IP(知的財産)を有するラボも同じです。一方,セールスとマーケティングは,ゲーマー向けとエンタープライズ向けで別々の組織となっています。
荒川:
ところで,EPOSにはどのような印象をお持ちでしょうか。リクエストがあればお聞かせください。
4Gamer:
すでに良い製品を出していると思うんです。価格も,Sennheiserの頃と比較すれば安くなっています。Sennheiser時代は「やはり高いよね」という印象でしたが,今はそうでもない。
Tio氏:
すでに述べたとおり,研究開発は同じチーム,同じメンバーで,単にブランドを買ったわけではありません。同じ組織(Demant)です。
4Gamer:
Sennheiser時代は,(ゲーマー向け製品に)専任のセールス&マーケティングを有していなかったんですよね。
Tio氏:
そのとおりです。
Tempczyk氏:
しかし,製品が増えるとともに,自然と移行が進みました。最初はすべてが完全にSennheiserでした。その後EPOS|Sennheiserとなり,今はEPOSの製品を紹介しています。エンドユーザーからのユーザーレビューを拝見しますと,そこでも「前はSennheiserだったけど,今はEPOSだよ」と触れられていたりしますが,もちろんすべての人にそれを理解していただくのは不可能でしょう。ただ,あまりユーザーを混乱させるべきではないと思います。
Tio氏:
従って,今はEPOS。ただのEPOSでマーケティングしています。
Tempczyk氏:
これが我々の現在と未来です。
ほぼ3年ぶりとなったEPOSとのミーティングはリラックスしたものとなった。肝心の新製品であるGSX 1000 2ndは,内蔵するチップセットが変更されているので,たとえアルゴリズムに変更がなくても部品レベルで生じる旧機種との音質の違いはあるかもしれない。ここは,いずれレビューで確認したい。
仕様上,ゲーマーにとって一番大きな変更は,マイク入力の高解像度化だ。これは,しばらくの間,競合に対するアドバンテージとなるはずだ。また,実勢価格がSennheiser時代よりこなれてきて,多くのゲーマーになんとか手が届くものになっている。
一方で,やはりブランディングという面では,まだまだいろいろと苦労もあるようだと推測できる。とても良い製品を作るブランドだと思うので,引き続き頑張ってほしいところだ。
Amazon.co.jpでGSX 1000 2nd Editionを購入する(Amazonアソシエイト)
EPOSのGSX 1000 2nd Edition製品情報ページ
EPOSのゲーマー向け製品情報ページ
- 関連タイトル:
EPOS(EPOS | SENNHEISER)
- この記事のURL: