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女性向けゲームの先駆者は,シリーズ18年ぶりの最新作で今の女性とどう向き合ったのか。「アンジェリーク ルミナライズ」開発者インタビュー

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 女性向けのゲーム,いわゆる“乙女ゲー”が人気ジャンルとなって久しい。コンシューマゲーム機やスマホ向けを中心に毎月多数のタイトルがリリースされ,その世界はアニメ化作品や“2.5次元”と呼ばれる舞台などにも広がり,SNSのトレンドを賑わせることも珍しくない。

 今や乙女ゲーのない世界など想像もできないが,その元祖となったのは光栄(現コーエーテクモゲームス)が女性向け恋愛シミュレーションゲームとして1994年9月23日に発売したスーパーファミコン用ソフト「アンジェリーク」だと言われている。
 光栄はその後も「遙かなる時空の中で」「金色のコルダ」といったタイトルをリリースし,「ネオロマンス」シリーズとして女性向けジャンルを確立。その動きは他社にも広がっていった。すべては“アンジェ”から始まったのだ。

 そのアンジェリークシリーズでは,18年ぶりの最新作となるNintendo Switch用ソフト「アンジェリーク ルミナライズ」(以下,アンミナ)が2021年5月20日に発売された。
 アンジェリーク(ネオロマンスシリーズ)は誕生から27年たった今もなお健在だが,その道のりはどんなものだったのか。そして,最新作では現在の女性たちにどう向き合ったのか。
 4Gamerは,ともに初期からネオロマンスに関わっている襟川芽衣氏伊藤亜紀子氏に,ネオロマンスシリーズの歴史と,アンミナから始まる新たな女性向けゲームへの思いを聞いた。

襟川芽衣氏(左)
コーエーテクモゲームス ルビーパーティーブランド長。入社前の大学生時代からネオロマンスゲームの開発に携わっている
伊藤亜紀子氏(右)
コーエーテクモゲームス「アンジェリーク ルミナライズ」プロデューサー。アンジェリークシリーズでは「アンジェリークSpecial2」の制作途中から開発に参加し,「アンジェリーク〜天空の鎮魂歌〜」「アンジェリーク トロワ」のメインシナリオを担当
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4Gamer:
 本日はお2人にネオロマンスシリーズの歴史と,最新作「アンジェリーク ルミナライズ」についてうかがえればと思います。そもそも,女性向けゲーム開発のきっかけは何だったのでしょうか。襟川恵子氏の発案だったというのは知られていますが,詳しくお聞かせください。

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襟川芽衣氏(以下,襟川氏):
 はい,ネオロマンスシリーズを立ち上げたのは,弊社の創設者の1人で,コーエーテクモホールディングス会長の襟川恵子,私の母です。私は当時高校生でしたが,立ち上げの話をよく母から聞いていました。アンジェリークは1994年に発売されましたが,女性向けのゲームを作るという構想は1980年代,ファミリーコンピュータが出るか出ないかの時期からあったんです。

4Gamer:
 少なくとも10年以上のプロジェクトだったわけですね。

襟川氏:
 ファミコンが普及する前ですから,家庭用ゲームといえばPCゲームでした。その頃のプレイヤーは男性がほとんどだったこともあって,ゲームジャンルはシューティングやアクションなどが中心でした。弊社も「信長の野望」や「三國志」など,男性をターゲットとした歴史シミュレーションゲームをメインにリリースしていたんです。
 そんな中で会長は,なぜゲームをプレイしているのは男性ばかりで女性がいないんだろうと疑問に思い「女性向けゲームを作ろう。そうすればきっと女性たちもゲームをやるはず」と提案したそうです。ですが当時は女性のプレイヤーが本当に少なかったので,「そんなの出しても売れません」とはねられてしまったと聞いています。

4Gamer:
 たしかに,ゲームをやっている女性は珍しがられる時代でした。

襟川氏:
 それでも会長は「人類の半分は女性なんだから,きっと売れる。誰もやらないなら自分がやる」と諦めず,ゲーム立ち上げの準備をしていたんですが……。そもそも女性のプレイヤーが少ない時代ですから女性の開発者も少なく,まずチームを作るのに苦労して,結果的に10年かかったようです。1990年代に入ったころからようやくゲームを作り始め,晴れて94年に「アンジェリーク」が発売されたという流れです。
 ですから,乙女ゲームが生まれたきっかけは,会長の「女性のためのゲームがないのなら,自分で作っちゃえ!」という思いに尽きますね。

4Gamer:
 何もない土地を切り拓いた,まさにパイオニアですね。ところで,女性向けゲームを作るにあたり,最初から「アンジェリーク」のような,主人公が素敵な男性たちに囲まれるといったイメージがあったのでしょうか。

襟川氏:
 はい。会長自身,そういったロマンスや恋愛ものの映画や小説が好きでしたし,やはり女性には恋愛やファッションの話が好きな方が多いですよね。女性が好きなものの中で,ゲームに適していて,かつみんなが熱中できるのが恋愛じゃないかと。ですので,「恋愛」という要素は最初から決まっていたようです。

4Gamer:
 初代アンジェは2人の少女が女王を目指して競うということで,いわゆる魔法少女アニメがモデルになっているとうかがったことがあります。

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伊藤亜紀子氏(以下,伊藤氏):
 「アンジェリーク」のキャラクター造形では,当時人気だったアニメや漫画などの作品をいろいろ参考にしたようです。それにギリシャ神話や星占いなど,女性たちが好む要素をいくつも取り入れて作られました。

襟川氏:
 そのときに女の子たちが好きだったものやトレンドを全部詰め込んでいて……時代が見えますよね。

4Gamer:
 初期のころの開発はどんな雰囲気でしたか。

伊藤氏:
 当時の開発チームは,プログラマーを含めて10人弱くらいだったでしょうか。CGは2〜3人で担当していましたね。

襟川氏:
 あのころは会社全体の社員数も少なかったので,アンジェを作るにあたってはチーム内だけでなく,当時あった出版部やサウンド部など,いろいろな部署に協力してもらいました。

4Gamer:
 当時学生だった芽衣さんもテストプレイをしたそうですね。

襟川氏: 
 会長から「ターゲットど真ん中だし,プレイしてレポート書いて!」と言われまして。それで開発中のゲームを何度もプレイして,そのたびにレポートを書いていました。「このキャラが全然かっこよくない」とか「ここが面白くない」とか……今考えるとかなり生意気なレポートだったと思います(笑)。今よりコンプライアンスが緩かったからできたことですね。

「アンジェリーク」のパッケージ
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4Gamer:
 アンジェの立ち上げ時期は,男性社員を中心に「あまり売れないんじゃないの?」という空気があったとも聞きました。

襟川氏:
 会長は「女性向け? 売れないでしょ」という雰囲気を,社内だけでなく世間の反応としても感じていたようで,実際に発売後も手応えはあまりなかったそうです。
 ただ,「女性向け」という新しいジャンルに興味を持つ方もいらっしゃいました。ゲーム雑誌ではない一般の女性誌から「ぜひ取材させてください」とお声がけいただいたり,もともと弊社のゲームをプレイしていた男性たちが「面白い!」と言ってくださったり。意外なところから評判になって,「じゃあ,ちょっとやってみようかしら」と手に取ってくださった方から,徐々に「ものすごくハマッた!」というお声をいただくようになりました。

4Gamer:
 プレイすれば魅力が分かるんですよね。

襟川氏:
 マンガやアニメだと一方通行でしかキャラクターに思いを向けられなかったのが,ゲームでは双方向になりますから。大好きなキャラが自分に向けて言葉を発してくれる。励ましてくれたり,時には怒られたり,告白してくれることもある。そういった関係性にのめりこんで,熱狂的なファンになってくださった方は多かったです。
 そんな状況を見て,「もしかしたら,このジャンルは可能性があるのでは?」という空気が,徐々に社内や世間にも浸透していったんだと思います。

伊藤氏:
 今でこそ当たり前ですが,当時は「反応が返ってくる」ということが,とても新鮮だったんです。「インタラクティブ性」という言葉も使われ始めていました。

「アンジェリーク」のプレイ画面
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4Gamer:
 社内や世間の反応が変わって,販売面でも手応えを感じたのはいつごろだったのでしょうか。

襟川氏:
 手応えを感じたのは,PC-FX向けの「アンジェリークSpecial」か,「アンジェリーク ヴォイス・ファンタジー」が出たあたりでしょうか。

4Gamer:
 ヴォイス・ファンタジーは衝撃的でした! 「ボイサーくん」(※)を使って,CDに入っているキャラクターのセリフを再生するという……。なかなか大がかりな仕掛けでしたけど,キャラクターの“声”というのは大切ですものね。

※スーパーファミコン専用の赤外線リモコンアダプター。「アンジェリーク ヴォイス・ファンタジー」では,これを使ってCDプレーヤーを制御し,ソフト同梱のCDに収録されているキャラクターのセリフをゲームに合わせて再生できた

襟川氏:
 キャラクターに声が付いたことで,また新たな展開ができました。守護聖別のキャラクターソングCDを出したり……。やはり会長の「歌! 歌よ!」という鶴の一声だったのですが(笑),CDはかなり多くのお客様に楽しんでいただきました。
 声優さんの歌手活動が今ほど当たり前ではなかった時代だったこともあって,「えーっ! 守護聖が歌うの?」と,みなさん驚きつつも,すごく喜んでくださっていて。

4Gamer:
 好きなキャラクターが歌ってくれるなら,それは聴きたいですよね。

伊藤氏:
 炎の守護聖・オスカーの歌とか,「突き抜けてるなあ!」と驚いたり。でも,思い切ってキャラの魅力を追求した歌を出したことで,自由に楽しんでいこうという空気ができたと思います。
 逆に控えめでおとなしいものだったら,あそこまで盛り上がらなかったかもしれません。

炎の守護聖・オスカー(画像は初代「アンジェリーク」のリメイク作品「アンジェリーク ルトゥール」より)
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4Gamer:
 キャラクターCDを出したら次はライブ……となって,声優さんが登場するネオロマンスイベントが生まれたのでしょうか。

襟川氏:
 はい。アンジェリークのさまざまな展開を考える中で,「イベントもやろう」となりました。それまではゲームの声優さんが出演するイベントはほぼなかったので,やっぱり最初はファンの方も「イベント……?」と半信半疑でしたし,会社の中では「イベントなんかやって大丈夫?」と不安の声が上がりました。それでも会長は「絶対にやる!」と。

伊藤氏:
 会長のそういうところ,本当に好きです(笑)。

襟川氏:
 最初のイベントは六本木にあったディスコのヴェルファーレで開催しました。社内外から「止めた方が良い」とか、「失敗するんじゃ…」なんて声がさんざん上がったようですが,多数のお客様にご来場いただきましたね。
 守護聖役の声優さんが出ていくと,もうほとんどキャラクターそのままとして迎え入れられて大歓声が上がりました。いきなり声援を浴びて,声優さんたちもびっくりされていましたね。
 もちろん声優さん自身もキャラクターの一部ですし,「こんなに熱い思いを向けてくれるファンがいるのであれば,また出演したい」と,その後もご協力いただきました。イベントの度にファンの方も「私も行く!」「私も行く!」と増えていったんです。
 会長は「ゲーム発信のメディアミックス展開を行ったのはアンジェリークが世界初」だとよく話しています。

4Gamer:
 乙女ゲームのCDやイベントは今や当たり前になっていますから,まさに先見の明ですね。当時アンジェリーク関連書籍を担当していた方にうかがったのですが,最初はアンジェのカラー本を作るのにもなかなか許可が下りなかったのに,だんだん流れが変わってきたと聞きました。アンジェのファンブックや占い本なども出ましたね。

襟川氏:
 メディアミックス展開には「アンジェリークのファンにもっと世界観やキャラクターを楽しんでほしい」という思いがあったようです。
 ゲームの場合,新しいタイトルを作るには時間がかかりますよね。なので会長は「キャラクターへの愛が深い方人たちが,その愛を向ける先があるべき。ゲーム開発は時間がかかるから,コミカライズ,アニメ化,CD,それにイベントやグッズをどんどん展開していくべきよ!」と。

4Gamer:
 アンジェリークの世界はそうやって広がっていったんですね。その後,「遙かなる時空の中で」「金色のコルダ」などの作品も生まれたわけですが,これらが立ち上がったきっかけは何だったのでしょうか。

襟川氏:
 それも会長の鶴の一声です。「アンジェで神様(守護聖)たちが出てくる西洋ファンタジーをやったんだから,次は和物よ!」「日本には神話とか陰陽師とか題材がいっぱいあるんだから」ということで,当時の企画者が考えたのが京を舞台にした「遙かなる時空の中で」です。

4Gamer:
 新しいシリーズの企画が通ったのは,アンジェが成功して会社的にも「この路線はありだ」という判断がなされたからでしょうか。

襟川氏:
 そうですね。ただ,成功と言っても女性向けゲームは100万本,200万本という単位で出るわけではなく,10万本ほどで“大ヒット”なんです。ですから,ゲーム自体がものすごく売れるわけではない。
 ですが,その周辺展開も含めてひとつのプロジェクトとして考えるなら,かなりいい売り上げを出していました。
 おそらくアンジェファンの皆様の熱量は,弊社で出していたいろいろなゲームの中でいちばん高かったと思います。そうした熱いファンの方が付いてくださったおかげで,プロジェクトも多岐にわたって展開できました。「信長の野望」のキャラソンCDやグッズで,同じような人気を得るのは難しいと思いますし。

4Gamer:
 新しいビジネスモデルができたと。

襟川氏:
 はい。ゲームだけでなく周辺展開込みで考えるビジネスもあるのだと,改めて社内で認められたというか。ですので,「アンジェリーク以外の女性向けコンテンツがあってもいいんじゃないか」ということで,「遙か」をリリースできました。これもまたヒットして,もう1シリーズとなったとき,会長が「音楽よ!」と。

4Gamer:
 「金色のコルダ」ですね。

襟川氏:
 はい。「音楽と言っても新しい音楽じゃなくて,クラシック音楽よ! 誰だって何かしらのクラシックを聴いたことがあるからなじみがあるし,かっこいいシーンにもロマンチックなシーンにも合うから!」ということで開発されたのが「コルダ」です。

4Gamer:
 「遙か」や「コルダ」も人気シリーズとなってプレイヤーの数も増え,最近では数え切れないほどの“乙女ゲー”がリリースされています。女性向けゲームを誕生から見続けてきたお2人は,こういった状況を見てどう思われますか。

襟川氏:
 先日も伊藤と話していたのですが,最初にアンジェリークをリリースしたときは,「男性に好かれるためにはどうしたらいい?」といったような,“女性は男性より少し下の立場”といった視点があったと思います。そこから30年近くが経って,女性の生き方や立場,価値観,女性だけでなく男性の恋愛観やセクシャリティへの感じ方といったものも大きく変わりましたよね。

4Gamer:
 その通りだと思います。

襟川氏:
 そういう多種多様な時代に,女性向けゲームがこれだけ支持されて広がり続けていることは,とても嬉しいことです。今後はもしかしたら“女性向けゲーム”というくくりも外れて,より限定されない,もっと幅広い層にお楽しみいただけるものに変わっていくのかなとも思っています。
 でも,この状況はすごく喜ばしいものではあるんですけれど,実はちょっと悔しい思いもあるんです。

4Gamer:
 と,おっしゃいますと?

襟川氏:
 当社は「女性向けゲームのパイオニア」と言われていますが,これだけ大きくなった市場の中でヒット作が出せているかというと,ここ数年はもうひとつだと感じますし,新しいシリーズも出せていません。ブランド全体として,少し歩みが遅いと感じているところです。ですので,もう一度花を咲かせるではないですけど,より多くのお客様にお楽しみいただけるようなものを作っていかなくてはいけないと考えています。

画像集#006のサムネイル/女性向けゲームの先駆者は,シリーズ18年ぶりの最新作で今の女性とどう向き合ったのか。「アンジェリーク ルミナライズ」開発者インタビュー

4Gamer:
 初代アンジェの主人公は17歳の女子高生でしたが,最新作のアンミナでは25歳の会社員になりました。主人公キャラの設定は,時代に合わせて変えていったところがあるのでしょうか。

襟川氏:
 基本的には主人公のキャラクターは自分を投影するものなので,性格や個性はあまり出さないようにしています。「アンジェリークSpecial2」のときは“無個性のキャラクター”だと自分を投影しきれないだろうということで,「やさしい」「勝ち気」「元気」の3パターンの主人公を用意しました。より自分を投影しやすくなるだろうという試みで,とても好評だったんですよ。

伊藤氏:
 最終的には“温和な主人公”に収束しました。ドラマCDで「この声,この話し方が主人公だ」と分かるようにする必要性があったからです。

4Gamer:
 「アンジェリークSpecial2」のリリース後,初代主人公の「アンジェリーク・リモージュ」と二代目「アンジェリーク・コレット」のファンが張り合うという現象が起きたそうですね。
 それぞれの守護聖のファン同士が「ジュリアスのほうがいい」「いやクラヴィスが」となるのは分かるのですが……。

伊藤氏:
 それはおそらく「2」で守護聖を入れ替えなかったからだと思います。初代の守護聖のところにコレットが来て,今までリモージュが好きだったはずの守護星たちがコレットに愛をささやき始めるじゃないですか。それを耐えがたいと思うお客様がいらしたのは,当然だと思います。

4Gamer:
 確かに……!!

襟川氏:
 ファンのみなさまは守護聖を愛してくださっているので,開発側としては引き続き登場させようとあの手この手を考えた末だったのですが,ファンの方を混乱させてしまいましたし,たくさんお叱りもいただきました。そうなって初めて,ファンの方たちが守護聖だけでなく,主人公にも特別な思いを持ってくれていたとわかったんです。

4Gamer:
 作り手が思う以上に深く愛されていたんですね。

襟川氏:
 はい。ファンのみなさまの愛には,学ばせていただくことがとても多いです。

伊藤氏:
 アンジェリークが歩き始めたあの頃は,新しいアイデアがどんどん実行される中にファンの方も一緒に入ってくださって,未踏の地をみんなでわーっと進んでいる感じがありました。楽しかったです。

画像集#007のサムネイル/女性向けゲームの先駆者は,シリーズ18年ぶりの最新作で今の女性とどう向き合ったのか。「アンジェリーク ルミナライズ」開発者インタビュー

4Gamer:
 初代アンジェリークのターゲットはどんな女性だったのでしょうか。

伊藤氏:
 ゲームをやっている女性自体が少なかったので,細かいターゲットではなく,ざっくりと“女性”という対象に向けて作っていたと思います。もちろん今は多くの女性がゲームをプレイするので,きちんとターゲットを決めないとぶれてしまいますが。

アンミナの主人公,アンジュは社会人3年めの25歳。日々頑張っているが限界も感じていて,帰宅後に一人反省会を行っているという設定
画像集#008のサムネイル/女性向けゲームの先駆者は,シリーズ18年ぶりの最新作で今の女性とどう向き合ったのか。「アンジェリーク ルミナライズ」開発者インタビュー
4Gamer:
 アンジェリークシリーズの主人公は,これまで女子高生の設定がほとんどでした。ですが,最新作のアンミナでは25歳の会社員,大人の女性になっています。この変更について聞かせてください。

伊藤氏:
 主人公はその時代を反映するものなので,大胆に変更したいと思いました。「主人公がどう生きたいか」には,時勢が反映されますから。先ほど襟川が申しましたように,27年前,初代アンジェのころは“素敵な男性に選ばれる人が勝ち組”という価値観がありましたよね。
 でも今はさまざまな価値観のなかで,自分らしい生き方を見つけなくてはなりません。それを表現するなら,高校生ではなく25歳くらいの社会人がちょうどいいと思いました。アンジェリークのゲームシステム自体が「自分が中心になって周りを動かしていく」ものなので,その点から考えても,大人を主人公にしたほうが説得力が出るとも思ったんです。

4Gamer:
 誰かに選んでもらうのではなく,自分でどうするかを決めなくてはいけないと。

画像集#017のサムネイル/女性向けゲームの先駆者は,シリーズ18年ぶりの最新作で今の女性とどう向き合ったのか。「アンジェリーク ルミナライズ」開発者インタビュー

伊藤氏:
 はい。なので,アンミナの開発当初はターゲットの年代の後輩たちに「どう生きたい?」とか「何が気になって生きてきた?」とか「何がいやだった?」とか,たくさんヒアリングしました。
 そして,そのなかで得られた共通点を見つけて,“25歳のアンジュ”という主人公を立てました。

4Gamer:
 それについて社内で「いやいや,やはりヒロインは10代の少女では?」という声はありませんでしたか。

襟川氏:
 主人公が25歳の社会人になったことを驚かれることはありました。
 ただ,そのときちょうどルビーパーティーが25周年を迎え,アンジェリークも25周年だったんですね。それが“25”という数字に説得力を持たせてくれたので,最終的には「なるほどね」と納得してもらえましたし,「社会人の主人公も面白そうだね」と期待をかけてもらいました。

4Gamer:
 ファンのみなさんの反応はいかがですか。

襟川氏:
 「私たちが知ってるアンジェじゃない」といった反応があるかもしれないと思っていましたが,ありがたいことに好意的に受け止めてくださった方が多かったです。見た目もすごく可愛いし,ゲーム内で徐々に成長していく姿にも共感していただけたようで,主人公に対するネガティブな意見はほとんどありませんでした。

伊藤氏:
 制作する中で「大変だな」と思ったのは,“無垢で元気で無鉄砲な女子高生”なら許されることが,25歳ではそうもいかないところでした。社会のなかでいろいろなことを経験していますし,それこそ生き方もさまざまです。
 また,一部の女性たちの意見だけを参考にすると,他の女性たちを置き去りにすることになってしまうので,なるべく幅広い層の言葉に耳を傾けました。仕事も立場もそれぞれという女性たちですが,「どう生きてきたか」「どうなりたいか」だけはあまりみんな変わらないですし,悩んでいることも似通ったものがありますので。

4Gamer:
 彼女たちは,どんなことを悩んでいるんでしょう?

伊藤氏:
 例えば……自分もそうだったんですが,若さが理由で意見を聞いてもらえない,などですね。同じことを言っても,若いという理由だけで尊重して扱ってもらえないことが,残念ながら今も多々あります。
 そういった鬱屈感というか,「どうして聞いてもらえないんだろう?」「こう生きたいのに」「自分の意見を認めてもらえなくて悔しい,悲しい」という気持ちはみんな変わらないと思うので,それをくみ上げて,各々がもっている学歴や職種といったバックボーンは外す感じで主人公像を作りました。

4Gamer:
 それで「25歳で仕事もがんばってるんだけど,日々の生活は不安だらけ」という設定になったんですね。

伊藤氏:
 そこはどんな環境にあってもだいたいみんな同じだと思うので。仕事でも家庭でも,結婚していてもしていなくても,「周りから期待される役割」ってあるじゃないですか。「その役割に応えるって『自分』で決められたのかな?」というところを,アンミナでは強く取り上げています。

4Gamer:
 「主人公がバーで女王候補としてスカウトされる」というスタートもユニークですね。

襟川氏:
 「あんなうかつな25歳はいない」や,「たまにはお酒を飲んで泣きたくなることもあるよね……」といったご意見があり,ファンの方の反応は分かれましたね。それぞれの捉え方に「確かになぁ」と思いました。

画像集#016のサムネイル/女性向けゲームの先駆者は,シリーズ18年ぶりの最新作で今の女性とどう向き合ったのか。「アンジェリーク ルミナライズ」開発者インタビュー

伊藤氏:
 ファンタジーの世界に飛び込む記号のような導入だと思っていたのですが,25歳の社会人としては駄目だとリアルに捉えられることも結構あって,いろいろな25歳像があるのだと分かりました。

襟川氏:
 ヒロインの設定が,社会人と学生,成人しているとしてないでは,お客様の求めるものに違いがあるんでしょうね。

4Gamer:
 アンミナでの大きな変化には,守護聖とハッピーエンドになっても女王試験が続けられるようになったこともありますね。

伊藤氏:
 さすがに,どちらかしか選べないのはこの時代に合っていないと思いました。

襟川氏:
 女王を取れば恋愛は取れない二律背反がアンジェリークのいいところでもあったとは思いますが,アンミナでは「両方取っても,うまくやれるじゃない!」となっています。

伊藤氏:
 恋愛して女王にもなってというのが最良エンド……最良という名前もベストな言い方ではないかもしれませんが,答えをひとつだけしか用意しないのは,われわれがやってはいけないことだと思いました。

4Gamer:
 多様性ですね。

襟川氏:
 はい。昔は結婚や出産を機に会社を辞める方も珍しくなく,職場によってはそうせざるを得ない状況だったと思います。
 今は結婚後も仕事を続けている方は多いですし,お子さんを産んだ後にバリバリ働く方もいて,それこそさまざまです。仕事と恋愛の両方を取れるし,もしくは仕事を取る,あるいは恋愛を取るでも正解というか,どれもができるような時代になったと思うんですよね。ですので,新しいアンジェリークは今の時代に合わせた形にしました。

4Gamer:
 確かに,両方を選べるほうが自然だと感じます。

伊藤氏:
 ただ,「最良エンディング」という名前を付けたことで,「恋愛をすることが最良だと思われているのは嫌だ」というご意見もいただき,なるほどと思いました。そういうご意見をいただけるようになったくらい,昔に比べて人生の選択肢が増えたんだと思います。

4Gamer:
 確かに,初代アンジェではまず来なかったご意見でしょうね。そういったさまざまな変化があるなかで,アンジェリークならではの魅力として残したものは何でしょうか。

伊藤氏:
 いつもお話しているのですが,ゲームシステムです。アンジェリークのゲームシステムは本当によくできていて,ゲームデザインは初代の時点で完成していると思っています。アンジェリークの主人公はパラメータを持っていないんですよ。主人公である“私”がまずそこにいて,“認められている”状態からお話がスタートするんです。
 ゲームの中にはひたすら孤独にパラメータを上げ続けて,ようやく認めてもらえるようになるものもありますよね。それはそれで楽しいんですが,アンジェは1日めから“女王候補”として認められているんです。
 神のような存在である守護聖が自分の話を丁寧に聞いてくれて,「今日は何がしたい?」とたずねてくれて……それが毎日続いていくと,“認められた”気持ちになって,すごく承認欲求が満たされる。そんなふうに気持ちを満たしてくれるデザインの女性ゲームって,ほかにないんですよ。

4Gamer:
 確かに,そこはアンジェリークの大きな特徴ですね。プレイしていると自己肯定感が高まります。

伊藤氏: 
 だから今回アンミナを作るときも「絶対にこのゲームデザインは残したい」と主張しました。「変更したら?」という意見もあったんですが,載せるものやキャラクター,価値観は変えても,ゲームデザイン自体にいじるところはないなと。
 絶対にそこは譲りたくなかったですし,今でも私はそこがアンジェリークのいちばん素晴らしいところ,特異性だと思っています。
 実生活で転職すると,自分を知ってもらうまでに時間がかかるものですが,アンジェリークでは1日目に「ようこそ,会いたかったよ! 今日は何をしたいですか」ってみんなが言ってくれるんですよ。ありえないですよね。夢の社会人だと思います(笑)。

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4Gamer:
 転職1日目から女王様待遇されることは,今の時代でもまずなさそうです(笑)。
 アンミナでは声優イベントが映像配信で行われました。これに対する反応はいかがでしたか。

襟川氏:
 やはり新型コロナの影響で,イベントのありかたも大きく変わりました。でも,イベントを開催できないままなのは悲しすぎますよね。ですので,昨年から配信イベントを採り入れ,現地に来られないお客様にもご覧いただけるようにしました。
 アンジェリークのファンには,40〜50代の方も多くいらっしゃるのですが,その年代だと家庭も仕事もあるので,特に地方の方はイベントに来ることが難しいんです。でも配信イベントが始まって,「ひさしぶりにネオロマンスのイベントを見ました!」というお声をたくさんいただきました。

伊藤氏:
 1人でゆっくりできる時間ができたときに,アーカイブで見ることもできますからね。

襟川氏:
 「昔はよく行ったけど,しばらく行けなかった」「今まで行きたかったけど,行けなかった」という方たちにご覧いただけるいい機会になったので,これはコロナ禍が収束したあとも続けようと思っています。
 ただ,やはりリアルに勝るものはありませんし,声優さんたちも目の前にお客様がいらしたほうが熱量が伝わるので,4月からのネオロマンスイベントは,ウィルス感染対策を十分行ったうえで,有観客と配信の両建てでイベントを開催しています。アンミナでは7月24日のイベントが,初めての有観客になりますので,すごく喜んでいただけると思います。

4Gamer:
 そういった面でも,アンジェリークをはじめとするネオロマンスゲームは時代に合わせて変わっていくんですね。今後,新たに作っていきたいのはどんなゲームでしょうか。

襟川氏:
 今までルビーパーティーは,“夢のような恋の世界”をテーマに女性向け恋愛ゲームを作ってきました。ですが,人の価値観や女性の生き方といったものが変化していく中で,私たちも少しずつ「恋愛」以外のジャンルにもチャレンジするようになってきました。もちろん恋愛ゲームでも今後新シリーズを立ち上げたいですが、それ以外のテーマで皆さんが楽しんでいただけるようなゲームを広く作っていきたいと考えています。

伊藤氏:
 女性向けゲームのテーマとしては,まだ“恋愛”が優位です。でもドラマに目を向けてみると,もうさまざまな作品が出ていますよね。ドラマを見る女性は普通に多様性を受け入れていると思うんですが,女性向けゲームだと急に“恋愛”になると感じています。
 それが求められているのかもしれませんが,恋愛に重きを置かない人にはリーチできません。ゲームのお客様にそういう方がどれだけいるのか,まだ読み切れてはいませんが,恋愛一本から変わってもいいだろうという気はします。

4Gamer:
 では最後に「アンジェリーク ルミナライズ」をまだ体験していない方に,メッセージをお願いします。

襟川氏: 
 みなさまにお伝えしたいのは,「まず体験版をやってみてください!」ということです(関連記事)。アンミナは,体験版から製品版への転換率がとても高いんです。
 「アンジェリークってやったことないけど,みんなが勧めるし,ちょっとやってみようかな?」というお気持ちそのままに,気軽にプレイしていただきたいです。普段ゲームをあまりプレイしない方にも分かりやすい設計になっていますので,安心してお楽しみいただけると思います。

伊藤氏:
 私も同じですね。体験版をプレイすることで,「ゲームってこんなに面白いんだ! “体験”ができるんだ!」という楽しみを味わっていただけると思います。私はゲームって“体験”だと思っていて,その楽しさには,アンジェをやったことのない人であればあるほど,びっくりすると思うんですよ。難しそうとか面倒そうという部分を極力なくして作ったので,ぜひ体験版だけでも,やってみていただけると嬉しいです。

4Gamer:
 ありがとうございました。

画像集#014のサムネイル/女性向けゲームの先駆者は,シリーズ18年ぶりの最新作で今の女性とどう向き合ったのか。「アンジェリーク ルミナライズ」開発者インタビュー

※2021年6月29日収録

「アンジェリーク ルミナライズ」公式サイト

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