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[GDC 2022]「ディアブロ II リザレクテッド」アートディレクション講演レポート。新規ビジュアルを獲得するまでの工程が示された
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新たなビジュアルをどのように達成したのか
Diablo IIをリマスターするにあたり,まず初めにしたことはVicarious Visionsのクラシックチームと提携できるかの打診だったという。ミーティングを行った結果,意気投合し協業することになったわけだが,この段階でアートスタイルを決める前に自分たちが何をするべきか理解する必要があったそうだ。
Diablo IIは世界で最も愛されたRPGの1つだ。その作品を最新の技術で作り直すにあたり,オリジナル版の「ダークでリアル」な雰囲気を表現するためのゲームエンジンやレンダラー(レンダリングをするためのソフトウェア)をどうするか,そもそも作り直すべきなのかといった多くの課題があったそうだ。
なかでもとくに重視されたのはデータ部分だという。Diablo IIは20年を経た現在でも新たな発見をもって人々を魅了しているゲームだ。アートチームはそのゲームデータを活用しつつ,新たな発見を詰め込めないかと考え,その目標に向けてハイエンドなアートディレクションを採用した。
オリジナル版では,リアルでダークな表現をするために,大げさなエフェクトなどは使われていない。これをリマスター版にするにあたり,フル3Dにするのかスプライトを維持するのかで激しい議論が行われたそうだ。最終的にフル3Dが理にかなっているということになったが,この時点でオリジナル版の映像で楽しめるレガシーモードの実装も決まっていたという。
また,レンダラーについては,新たに開発したものを使用したが,不具合出しのために初期段階から取り組まれていたという。フレームアニメーションが3Dアニメーションになることで不具合が発生したこともあったが,インベントリからアイテムを取り出す処理などは重さや慣性を考慮したものとなり,2Dとは違った表現も可能になったという。
2Dからの移行が難しかった場所として,Arcane Sanctuaryが紹介された。これはエッシャーの騙し絵にヒントを得たマップで,平面を歩いているのにいつのまにか2階に到達しているといった構成になっている。
これを3Dで実現するにはどうすればいいのか? リマスター版では,道は平面のまま,透視変換で正射影が行われていることを利用して,遠近感を無視した3Dの騙し絵のような手法で,平面なのに「2階に見える」配置が採用された。これにより特定の視点からだけは2階に見えるように作られたわけだ。
プリプロダクションでは,初期段階で納得できるまでコンセプトを練り直したという。ライティングの素材やポストプロセスでどのようにまとめるか決まっていったが,この過程が非常に重要だったと氏は語る。こちらでは一例として5章のParagraph Townの画像が紹介された。
この昼間のシーンをベースに,雪や泥などのディテールが追加されていく。初期段階でどのくらいの色がどこに使われているかを把握することが重要だという。
騙し絵でも使われた正射影カメラは初期から取り組まなければならない課題の1つだったという。ワールド構築のフローは非常に長期間にわたっており,正射影(平行投影)がうまくいかないと位置がずれるなどの不具合が予想されたからだ。
幸いパイプラインはうまく運用されだしたのだが,この時点で確認しておかなければならないことがあった。Blizzard Northが全焼したときにすべてのデータが失われてしまったという噂についてだ。これは部分的に真実ではなく,残っていたデータは存在した。しかし,低解像度データであるため,今回のプロジェクトで使えるものではなかったとのことだ。
キャラクターやクリーチャーが機能的デザインに
リマスター版ではキャラクターをより見てもらうためのズーム機能が追加されているが,これに伴い,新たなコンセプトが用意された。それはキャラクターの装備品――紐やバックルなどに機能的な意味を持たせるというもので,そのため装備品は縫い目などの細部に至るまで細かくモデリングされることになった。
以下はNatalyaの装備だが,オリジナル版ではよく分からなかった脚甲のディテールなどがしっかり表現されている。もちろん脚部だけではなく全身の装備品が細かくモデリングされている。
このコンセプトはキャラクターだけでなく,クリーチャーにおいても反映されている。以下のシーンで確認できる,入り口の柱の前に吊るされた緑色でぬるぬるしたものがなんなのかについては,Redditのスレッドで20年近くにわたって議論されていたそうだ。
リマスター版では,それが死んで腸の抜かれたLeeperであることが分かる。さらにディテールを上げて,バケツや血などの描写も加えられている。
70/30ルールとは何か
続いて,氏がクラッシュ・バンディクーを制作していたときに採用された70/30ルールが紹介された。このルールはアセットの7割は変えてはいけないが,3割までならアーティストが自由に変えてもいいというもので,アーティストにすばやくやりたいことを伝える方法として重宝しているという。
アセットの7割は大きさやシルエット,色などを同一に保つために必要なもので,3割はディテールアップに使える部分となる。例として挙げられたBerbarianでは,オリジナル版と同じシルエットを保ちつつディテールアップされた様子が紹介された。
70/30ルールはアニメーションにも有効で,12コマほどで動いていたアニメーションをディアブロ 2Rに適用すると,フレームが飛んでしまい非常に不満が残るものになったそうだ。ここでも70/30ルールが適用され,オリジナルの雰囲気を保ったままディテールアップを行うことで綺麗なアニメーションが実現したそうだ。
VFXチームの挑戦
アニメーション同様に制約が大きかったのがVFXだそうだ。オリジナルのスプライトに合わせてエフェクトが必要で,57発のミサイルが飛ぶと,同時に57個のエフェクトを出さなければならなかったという。それぞれのエフェクトは複数のパーティクルを含んでおり,ダイナミックライティングと絡むと複雑な状況になっていたそうだ。
そしてVFXチームには興味深い課題が待ち受けていた。レベル99のNecromancerは適切な装備を付けると100匹のペットを召喚できるのだが,実際に召喚すると画面はわけが分からないほど混沌とした状況に陥ってしまう。この課題はVFXチームが眠れなくなるほどの難問だったそうで,氏もいったどうやって彼らがこの難問をクリアしたのか不思議でならないと語っていた。
Tech α版でのプレイヤーからの評価で悩まされたことに宝石の光り方があったという。照明の位置と宝石のに違和感があったようで,VFXチームは最終的にリアルなライティングを行い,その上にハンドペイントでハイライトを描き加えるようにした。その結果,見慣れた宝石に見えると大好評になったという。
UIチームにも映像面の課題として,最大21:9の画面比と8Kに対応させるというものがあったそうだ。基本的には遊びやすいように中央にUIが寄せられているのだが,キャラクターパネルやアビリティパネルを開いた時には,中央部分が空けられ,キャラクターが見えるように変化している。これによりモンスターが近づいてきた場合などの対処が容易になっているそうだ。
映像が作られるまでのプロセス
リマスター版のワールドチームは制作チーム内では最大だったが,他社と比べれば小規模のチームだったそうだ。彼らは最初にグレーの物体で世界全体を構築し,続いて正射影のカメラを使って,必要なアセットを割り出していく。この工程では数十万個のアセットとしてにらめっこをしてチェックを行ったそうだ。
一通り埋め終わると,今度は複雑な地形部分の作業に移行する。この工程では,コンセプトチームと共に詳細な素材の定義を行っていったという。例えば氷の流れや溶岩,火の川などは流体力学をもって表現されている。
また,ラフコンセプトを元にどのように映像が作られていったかの一例が示された。こちらはラフコンセプトのなかで氏が気に入っているスクリーンショットの1枚だという。
この映像をもとに,最初のイメージに近づけるためにどうすればいいかをアーティストと相談して進めていく。なお,この時点でPBR(物理ベースライティング)の厳密な適用については諦めたとのこと。全体的にダークな本作ではPBRがうまく機能しないことが分かってきたそうだ。それを踏まえて,基本的なPBR要素だけで作成したのが以下の映像だ。
ほかにも例としてThe Durance of HateやWorldstone Chamberが示された。こちらは4:3の映像でラフコンセプトが制作されているが,コンセプトチームが作業しやすいようにフラットで拡張したものも同時に提出されている。
しかし,これではベースゲームから大きく逸脱しているということで,ライトアップされた石に焦点を当てたものが最終的に採用されることになった。
また,開発の終盤になるとライティングアレイと呼ばれる技術が活用されていたという。これはオリジナル版の映像と制作中の映像,別チームから提供された映像を並べて表示するもので,イメージが乖離しすぎないように作業するために必要だったという。
今回,リマスターを行ったうえで感じたのは,熱心なプレイヤーを参加させることのメリットだったという。そしてうまくいかないときは早めに切り捨てて次に進むこと。そして,このような特殊なプロジェクトでは,アーティストに理解しやすい用語を作ることが重要だと氏はまとめていた。
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