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[インタビュー]ゲーミングハンドヘルドの先駆け「AYANEO」のCEOが語る,今までとこれから――「過去の製品の作り直しじゃ,何も挑戦がないから」
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印刷2024/06/14 07:30

インタビュー

[インタビュー]ゲーミングハンドヘルドの先駆け「AYANEO」のCEOが語る,今までとこれから――「過去の製品の作り直しじゃ,何も挑戦がないから」

画像集 No.006のサムネイル画像 / [インタビュー]ゲーミングハンドヘルドの先駆け「AYANEO」のCEOが語る,今までとこれから――「過去の製品の作り直しじゃ,何も挑戦がないから」
 国内で正規販売されている製品だけで見ても,Steam DeckやROG Ally,ONEXPLAYER,MSI Claw,Legion Go,Razer Edgeなど,ゲーム用途に特化されたPC/Androidはいまやいくつも登場しているが,その端緒を開いたのがAYANEOというブランドであることは,おそらく異論のないところだろう。
 2020年に設立された同社は,その1年後に最初のデバイスを発売してゲーミングモバイルPCの先駆けとなり,以後3年にわたってトップの座を走り続けている。

 今回はAndroidゲーミングマシンの発表会を日本で開催するとのことで,そのときにCEOのArthur Zhang氏が来日すると聞いたので,本人にインタビューオファーを出してみたら,ご快諾いただけた。
 AYANEO製品は一番最初からずっと見ているが,その製品サイクルの速さと性能,そしてデバイスのフォームファクタが特徴的すぎて(DS風の2画面とか8インチとかキーボード付きとか),いつも製品の話ばかりがクローズアップされている。
 それはそれでAYANEO的には本望だとは思うが,Arthur氏本人に焦点を当てたインタビュー記事がほとんど見当たらなかったので,自分で聞いてみようと考えた次第だ。

 発表会は無事終わり,ちょっと時間をあけて天空の会議室に集合だ。集合時間のちょっと前に行ったら会議室に案内されたのだが,なぜか天空の社長の山田氏がもぞもぞとずっと動き回っている。何をしてるのだろうと思ったら,歴代すべてのAYANEOを並べていた。

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 2024年5月30日,AYANEOと天空は,Android携帯ゲーム機「AYANEO Pocket S」を2024年7月上旬に発売すると発表した。6インチディスプレイとSnapdragon G3x Gen 2などを搭載して,ハイエンドスマホ並みのスペックを誇るゲーム機だ。税込価格は8万9800円から。

[2024/05/30 14:58]

AYANEO CEO Arthur Zhang氏
去年のTGSでインタビューに同席して,その日の終わりにホテルのロビーでぐったりしていたら,同じようにぐったりしている外国人の一団がいて,それがAYANEOの皆さんだった。そこでひとしきり雑談が盛り上がって以来,2度目の長時間ミーティングだ。信ずるものに突き進む皆さんはみんなそうだけど,会話がまったく終わらない。今回も,事前にこっそり「1時間だけですよ」と言われてなかったら,どこまでも話が弾んだ気がする
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4Gamer:
 おおすごい,これ全部ありそうですね。

Arthur Zhang氏:(以下,Zhang氏)
 そうです! あと……(カバンからおもむろに出して)Pocket Sも持ってきました(笑)。

4Gamer:
 僕もこれ,IGG(Indiegogo)で速攻オーダーしたんですけど,昨日から出荷始まりましたよね。僕の順番が早く来ることを願っています。

※インタビュー日は2024年5月30日。筆者がちょっと勘違いしていて,出荷が始まったのは2024年5月28日だった。

Zhang氏:
 言ってくれればハンドキャリーで持ってきたのに(笑)。

4Gamer:
 最初に言っておくんだった……!


Pocket DMGは,見かけとは裏腹の高スペックデバイス


4Gamer:
 さて去年TGSでお会いしたときにも伝えたかもしれないんですが,実はAYANEOのデバイスはほとんど買ってます。でもそんな僕でも,Slide(AYANEO Slide)の箱はちょっとびっくりしましたね。ハンドヘルドデバイスが入ってるとは思えないくらい大きくて,しかも凝ってる。

Slideの箱と550mlペットボトル。あれ,こうやって並べるとそんなに大きく見えないな……
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Zhang氏:
 あー(笑),うんそうですね。

4Gamer:
 家の中でどこに置いておこうかちょっと困ってます。

Zhang氏:
 箱を捨てない人ですか?

4Gamer:
 いやあ捨てませんね。全部置いてあります。

Zhang氏:
 僕もです! 全部置いてありますよ。
 なので,箱専用の部屋が一つあります。箱だけ積まれてる(笑)。

4Gamer:
 わかります。僕も家の倉庫の半分くらいは箱です。

Zhang氏:
 ハハハ,コストが高いですね(笑)。

4Gamer:
 AYANEOがそんな大きい箱を使うからです。

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Zhang氏:
 今回の(Pocket S)は小さいですよ。
 あと……(またカバンをゴソゴソして)これはもっと小さい(といってPocket MICROを出してきた)。

4Gamer:
 きた! 触ってもいいですか?

Zhang氏:
 もちろん。

4Gamer:
 うーんやっぱりいいですねこれ。しかし“マイクロ”と言っても,やはりこれくらいはあるんですね。

Zhang氏:
 そうですね。より良いビジュアル(画質)を提供しないといけないから,本物のGBM(Gameboy Micro:ゲームボーイミクロ)のように小さく作るわけにはいかないですね。本家の2.0インチに比べて,こっちは3.5インチの画面ですし。

2005年9月に発売された,ファミコンのコントローラーをモチーフにしたファミコンカラーのゲームボーイミクロ。1985年発売だったスーパーマリオの,20周年記念モデルでもある。この写真だと分からないが,横10cm×縦5cmしかない本物の「ミクロ」だ
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4Gamer:
 あなたがMICROも持ってくるとこっそり教えてくれたので,比較撮影用に持ってきました(といって本物のゲームボーイミクロを取り出す)。

Zhang氏:
 おお! 僕も一つ持ってます。同じカラーリングのやつ。

4Gamer:
 ファミコンカラーいいですよね。

Zhang氏:
 なので僕らのデザインでも,配色をちょっとオマージュした感じに……。

4Gamer:
 あぁ,そういえばリリースにもありましたね。

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 2024年5月18日,AYANEOは,携帯型ゲーム機「AYANEO Pocket DMG」と「AYANEO Pocket MICRO」に加えて,外付けGPUボックス「AYANEO Starship Graphics Dock AG01」など,新製品計5モデルを一挙に発表した。

[2024/05/19 00:00]

Zhang氏:
 配色が違う2台のMICROで,限定版ですよ。

4Gamer:
 買わなきゃ。いつ出ます?

Zhang氏:
 天空さんに聞いてください(笑)。
 んーでも……(ちょっと悩んだあとで)来月末ですね。6月末予定。いま準備中です。

公開されているMICROの写真から,いわゆる“ファミコンカラー”版の筐体がこれ。HelioG99を採用し,ボーダレスフルスクリーンにデュアルアナログスティックが光る
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4Gamer:
 カラーもですけど,MICROそのものもちょっといい感じですね。さすがに本家よりは大きいけど,十分に小さいし,雰囲気ありますし。

Zhang氏:
 これをデザインする時の原点は,いつでもどこでも気兼ねなく持ち運べることです。(AYANEOの)Windowsシリーズは,ちょっと大きすぎます。

4Gamer:
 小さいつながりで最近の新作に触れるならば,Pocket DMGもかなり目を引きました。

Zhang氏:
 あれは少し特別な製品です。レトロの雰囲気をまとっていますが,とてもハイスペックな性能を持っています。多くの人の想像を超えている製品だと思います。また,タッチパネルでコントローラーの操作を再現できるようになっています。

4Gamer:
 確かに見かけから想像するスペックはそこまでじゃないんですが,かなりのハイスペックでちょっとびっくりしました。

パッと見は,そこらによくある中華ゲーム機みたいに見えなくもないが,その実態はSnapdragon G3x Gen 2に有機EL採用,タッチパッドまで搭載したガチガチの最新鋭ゲーム機
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Zhang氏:
 AYANEOがいままでイノベーションを追求してきた,一つの着地点だと思います。それぞれの製品は,ユーザーに「お!」とか「Amazing!」とか思わせるものを出しています。

4Gamer:
 それは分かります。「DMG」という結構ベタな名称で来るとは思わなかったですが。

※「DMG」は初代ゲームボーイの型式で,「ドットマトリックスゲーム」(Dot Matrix Game)を意味している。

Zhang氏:
 そもそもゲームボーイのリメイクですしね。
 そうだ,ゲームボーイつながりで一つサプライズがあります。画像しかないんだけど,まだ誰にも見せたことないです。

4Gamer:
 お,なんでしょう。

Zhang氏:
 絶対人には教えないでください(笑)。

4Gamer:
 人に教えることが僕らの仕事なのに……(と言ってのぞき込む)。
 おお,なるほど。これはなかなかいいですね。

Zhang氏:
 次の発表会で出す予定です。

4Gamer:
 うん結構かっこいいですね。色もすごく雰囲気あります。

※Pocket DMGの話で「色もすごく雰囲気あります」というあたりで察してほしい

Zhang氏:
 でしょう? 次回をお楽しみに(笑)。

4Gamer:
 でも,さっき言ってたイノベーションの話にもつながるんですが,Pocket DMGもAnalogue Pocketみたいに本物のカートリッジを使えるようにしても面白かったのでは。

※Analogue社が発売している携帯型コンソール機。ゲームボーイ/ゲームボーイカラーの互換機で,カートリッジをそのまま使うことができる。別売りのアダプタによってPCエンジンやゲームギア,ネオジオポケットカラー,Atari Lynxなども使えるようになるという詰め込みっぷりがすごい。

Zhang氏:
 それも考えたことはあるんですけど,ちょっと現実味がないと思いました。いまの(市場にある)デバイスは,できる限りゲーム機とソフトウェアが一体化されたものになっています(編注:デジタルDLの時代になって,ゲーム機とゲームソフトが分離していないという意味だと思われる)。
 カートリッジの中にあるものはゲームコンテンツなわけですが,今時の我々が遊ぶゲームコンテンツはストレージに入れるものであって,カートリッジの検討はしていません。

あのころあんなに小さいと思っていたゲームボーイのカートリッジも,SwitchのカートリッジやmicroSDカードと比べると,当たり前だが隔世の感
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4Gamer:
 まぁ確かにゲームボーイのカートリッジにいま改めて触れると,結構大きくてびっくりしますよね。あれを挿せるようにするのは,物理的にもちょっと場所を取りそうです。

Zhang氏:
 でも確かに面白いと,僕も思います。どうやったら入れられるかを,考えたことはありますよ。
 例えば,任天堂自身がリメイクしている製品……SFCミニとかファミコンミニとかの製品は,昔のゲームがそのまま入ってる仕様になっています。1枚のカートリッジに複数のゲームを入れて,異なるカートリッジで複数のゲームパックみたいなことができたらいいですね。

※日本での正式名称は「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン」「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」。長い。


デザインのリメイクとは,そのデザインを模倣せずにオリジナリティを追求すること


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4Gamer:
 ええ。ちょっと前に,メーカーが公式に「昔のゲーム機のリメイク版を出す」のが流行りました。あれはあれで面白いし懐かしいし,つい買っちゃうんですけど,何かちょっと物足りないんですよね。

Zhang氏:
 リメイクの話をするならば,デザイン面では……(後ろに並んでいるAYANEO製品を見渡しながら)例えばSlideがいいサンプルかもしれません。
 僕たちのリメイクのコンセプトは,ユーザーが過去の美しい思い出を得られつつも,最新の技術でそれを実現するようにしたいんです。
 思い出にしか向かないことだってあると思うんですよ,今となっては。そのまま使えないというか。

4Gamer:
 そこはそうですね。

先ほどのSlideの箱は,中にさらに箱が入っていて,そのデザインも相まってビデオテープを取り出すかのような懐かしい感触にとらわれる
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Zhang氏:
 なので,AYANEOのリメイクシリーズの製品コンセプトは,皆さんが過去の記憶を呼び覚ますためのものなのです。
 例えばSlideなら本当にその当時のビデオテープを使うわけじゃないですし,Pocket DMGなら本当に当時のカートリッジを倉庫から出して使ってね……とはしないのです。

4Gamer:
 なるほど分かりやすいです。しかしOld Macデザイン(AYANEO Retro Mini PC AM01S)なんかもそうですが,どれもレトロでいい雰囲気なので,ここまで色々な種類があるのであれば,個人的には「PSP go」(PlayStation Portable go)とかにも期待したいんですが……。

Zhang氏:
 PSPはいいですね。PSPシリーズも,PSV(PlayStation Vita)も,とても素晴らしい製品です。これ(Pocket Sを見せながら)は,実はちょっとPSVの雰囲気があると思ってます,ボタンあたりとか。
 でも,もし本当に改めてPSP/PSVのリメイクをするのだとしたら,ちょっと難度が高い気もします。

4Gamer:
 それはどういう理由ですか?

Zhang氏:
 なぜかというと,リメイクなのに言葉上は矛盾があるかもしれませんが,AYANEOのデザインはいつもオリジナリティを追求しているからです。

4Gamer:
 具体的にどういうことを指してます?

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Zhang氏:
 例えば……そうですね,例えばGBMのリメイクを作るとき,僕が期待しているデザインは,GBMが持つ一部の要素を取り出して,その上にデザインをすることです。ただ単に“コピー”をするではありません。
 例えば今回発表したMICROでは,僕たちはこの(MICRO前面のSELECTとSTARTの二つの小さいボタンを指して)要素をピックしました。
 これがあるがために雰囲気が似てきますが,実際に2台(AYANEOのMICROとGBM)を並べて見れば,ほかのところは全然違うということが分かると思います。

4Gamer:
 なるほど,そういう意味ですか。理解しました。

Zhang氏:
 神似形不似というイメージを与えられればと思っています。それが僕らのデザインのコアです。

※「神似」は内に宿る精神まで似ることを意味する言葉で,「形似」は形式や外観が似ていることを意味する。つまり「形は似てないけど,とても雰囲気がある」という感じだ

4Gamer:
 それを踏まえてPSPの話なんですが,どういう意味で難度が高いんでしょう?

Zhang氏:
 PSPとかPSVの特徴は,とても鮮明な形で存在します。特にPSVが顕著ですが,四隅が美しくカーブしているんです。
 これをいざリメイクすると,どうしてもその雰囲気が外せないので採用するんですが,そうすると形的に似すぎてしまうんです。僕がデザインをするなら,いま言ったように「神髄は似ているけれど,形は似ていない」ができる方法を思い付けばやってみるかもしれません。パッと見で雰囲気があるとみんなが思うけど,コピーではないものを作らないと。

上からVita,PSP,PSP go。四隅の曲線はPlayStation携帯機の特徴で,確かにここを真似るだけで急に「それっぽくなる」かもしれない
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4Gamer:
 言われてみると,PSPに「似てないけど似てる」のを作るのは確かに難しそうです。

Zhang氏:
 もし僕らがやるんであれば,むしろ「ソニーがいまデザインするハンドデバイス」を作りたいですね。PSP/PSVの,形だけを再現したコピーではなく。

4Gamer:
 おおなるほど。最近のソニーで,PS Portal(PlayStation Portal リモートプレーヤー)はどうですか?

Zhang氏:
 あれは……ちょっと変かな(笑)。あまりソニーぽくない気がします。割と評判はいいですが,その見た目がちょっと意外でした。

4Gamer:
 ちょっとSF入ってますよね(笑)。
 しかし話を戻すんですが,さっき実機展示で見たときに思ったんですが,Pocket SってすごくVitaぽい感じがあるんですよね。

Zhang氏:
 おお,Vita! そう思われるのは,たぶん画面が理由じゃないかと。一枚の液晶画面で,まったくフレームがないので。PSV,特に初期型の特徴として,画面にフレームが入らないところがありますから。

4Gamer:
 全面ガラスでピカピカしてる感じも。

これは後期型だが,Vitaは液晶部分に段差も継ぎ目もなく1枚ガラスのようになっていて,ボタン類もクリアなカラーリングが多く,表面全体がピカピカしてるかのようなイメージを与えるデザインになっている
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Zhang氏:
 そうですそうです。それはたぶんみんなが(Pocket Sを)見たときの第一印象になると思います。

4Gamer:
 この手のAndroidゲーミングデバイスは,もちろん価格面から考えても何かしらのスペックが犠牲になっていて「ゲーミングスマホ」には勝てなかったことが多かったです。
 でもさっき発表会でデモを見たときに,原神のローディングがエラい速いなと思いました。

Zhang氏:
 そうです! 「Pocket S」が使っているチップは「G3x Gen 2」で,これはいま一番性能が高いハンドヘルドデバイスのチップとなります。僕らがQualcommと手を組んで,プレイヤーの皆さんにお出しする一つのサプライズでした。Wi-Fi 7を搭載しているので,自宅などでオンラインで遊ぶプレイヤーにとっても,とてもいい選択肢になるのではないかと思います。

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 2024年2月6日,AYANEOは,携帯型ゲーム機「AYANEO Pocket S」の詳細なスペックを公開した。搭載SoCにQualcomm製の「Snapdragon G3x Gen 2」を搭載するのに加えて,筐体のディスプレイ部分と筐体に段差が無くフラットな「ボーダレスフルスクリーン」デザインを採用したのが見どころだ。

[2024/02/06 22:00]

関連記事:Androidゲーム機向けSoC「Snapdragon G3x Gen 2」をQualcommが発表。AYANEOが搭載デバイスの開発を表明


4Gamer:
 同じく御社のAndroidゲーミングデバイスであるPocket Airが僕個人的に好きでいまでも使ってますが,それと比べたときに,スペックが上がったこと以外に,このコンセプトを決定的に変えた……というところは何がありますか?

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Zhang氏:
 デザイン言語において,大きく異なっています。Pocket Airの場合はその名のとおり,デザインはAYANEOのWindowsデバイスである“Airシリーズ”のデザインを借用しています。
 強調しているのは,使いやすさです。気持ちよく手持ちできるのか,握り心地を重視していました。
 一方のPocket Sは,外観や工芸においてもっと工夫して,ハイエンドなフラッグシップスマホのように作りました。デバイスの輪郭としてのPocket Sは,私たちがいま使っているスマホに似ていると思います。

※製品に通じて,デザイナーからのメッセージ伝達や個性の表現を果たす,視覚的/対話的な要素,または一貫とした原理原則

4Gamer:
 モックの時に比べると,ボディのサイドの処理とか全然違いますよね。

Zhang氏:
 そうですね。過去の製品の作り直しじゃ,何も挑戦がないから(ニヤリ)。しかしこんな異端児のようなPocket Sを作るときは,さすがに少し躊躇しました。ハンドデバイスでは,このような製品をほぼ見かけないので。
 最後の最後で「まぁトライしてみようぜ」と決まりましたけど。

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4Gamer:
 でもそのトライはちゃんと実を結びましたね。

Zhang氏:
 フタをあけてみたら,望んでいた結果を得られたのがすごく嬉しかったです。多くのユーザーが期待を語ってくれたし,「美しいデバイスだから,抱っこして寝たいわ〜」とコメントしてくれたユーザーもいます(笑)。
 しかもPocket Sは,CNC加工を利用して,とても金属感のあるデバイスになっています。触った感触は,プラスチックのケースなんかとは全然違うでしょう? 1枚の全面ガラスのデザインに加えて,全体的に柔らかくしなやかで穏やかで,滑らかな印象を与えると思います。
 そして手にしてみるとすごく軽く,350gまで極限に軽くするように工夫しました。なので,最終的に手放せないほど愛しい製品になったのではないかと思います。

※CNC(Computer Numerical Control):工作用機械における,ドリルなどの工具や工作物の移動量や回転速度を,事前にソフトウェアに入力しておいた数値によって制御すること。高精度で安定した品質の製品を大量生産できるのが特徴。

4Gamer:
 え,350gなんですかこれ。

Zhang氏:
 そうです。Switch OLEDは確か420gで,初代Switchでも400gくらいあります。Pocket Sは,6インチの液晶ディスプレイを採用することで,より軽くなっています。

※さすがにSwitch Liteは約275gと軽いが,あちらの液晶は5.5インチの1280×720ピクセルだ

4Gamer:
 Airより軽くなってません?

※Pocket Airは380g。余談だがAirのサイズは横224×縦89.5×厚さ17mmなので,Pocket Sのほうが小さくなって薄くなって軽くなっている(横213.9×縦85×厚さ14mm)

Zhang氏:
 Air……そうですね,Airよりも軽いです。でもAirのバッテリーはもうちょっと大きいですけど。

4Gamer:
 バッテリーはそうですね。あとAirはDimensityなので持ちがさらに良くなるかもしれませんし。

Zhang氏:
 なので,ユーザーにとってはちょっと意外に感じるかもしれません。美しい外観に加え,高速なチップと,あとこの液晶。この液晶画面は2Kの1440Pです。

4Gamer:
 あ,これ1440版ですか。

Zhang氏:
 そうです。ご存じのように1440Pと1080Pの2バージョンを出します。

4Gamer:
 1440なら,これが僕のところにも来るわけですね。これはキレイでいいですねえ。

Zhang氏:
 最近はモバイルのオンラインゲームも2K対応してくれるゲームがありますよね。「崩壊:スターレイル」なんかもそうです。あぁ……一つエクスクルーシブの情報を教えましょう(と自慢気に微笑みながら)。実は今,Pocket Sをほかのデバイスに偽装できる機能を開発しています。

4Gamer:
 え。

Zhang氏:
 ご存じのように一部のモバイルゲームは,デバイスのスペックを検知していて,特定のデバイスでしかハイクオリティグラフィックスに切り替えないようになっています。AYANEOは,その特定のデバイスに偽装することができるわけです。これまだ発表してないです(笑)。

4Gamer:
 書いていいですか?

Zhang氏:
 んー……いいですよ。完全にエクスクルーシブです。中国語で申し訳ないけど,画像も見せられます(といって見せてくれる)。

AYAHomeのセッティングから「デバイス偽装」というところに入ると,「Xiaomi 14」や「Huawei P70」などの機種名がずらりと並ぶ。それを選ぶだけで偽装終了だ。ただ,偽装することによってチートだと認識される可能性もあるので,リスクを承知の上で使いたい
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4Gamer:
 これは……あぁなるほど,リストになってるんですね。

Zhang氏:
 そう。好き勝手にデバイスを選べます。

4Gamer:
 ホントだ機種名が並んでる。ここから選ぶだけなんですね。

機種一覧の末尾にある「デバイスのカスタマイズ」に入れば,型式はもちろん,SoCやスマホのマザーボード,Androidのバージョンまで選び放題。もちろん偽装なのでその機能で動くわけはないのだが,弾かれるゲームが動くようになるかも?
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Zhang氏:
 カスタマイズもできますよ。

4Gamer:
 「Android Studio」(公式Androidエミュレータ)のバーチャルデバイスを選ぶみたいな感じですね。

Zhang氏:
 性能のいいハードウェアと,僕たちがアップデートし続けているソフトウェアと,それらが重なることにによって,大きくポテンシャルのあるデバイスを作り出せたと思います。

4Gamer:
 確かにこの機能があるハンドデバイスはすごい。初めて見たかも。

Zhang氏:
 すごく面白いでしょう?(笑) ハハハ!


今のZhang氏が形作られた基礎となったゲーム機は,任天堂の「ゲームボーイアドバンス」


4Gamer:
 ……いや,すみません違うんです。今日はですね,さっきの発表会はウチの別なスタッフが記事にするから製品のことはあまり聞かずに,せっかくのチャンスだからあなた本人のことをたくさん聞こうと思ってきたんです。
 でもデバイスを目の前にすると,ついこっちの話ばかりしちゃいますね(笑)。

Zhang氏:
 ははは! 僕も,製品の話をするのは楽しいです。
 あなたがとてもゲーム好きでガジェットマニアだと知ってますから,余計にね。(自分のTシャツを指しながら)Real Gamers!

4Gamer:
 ははは,ありがとうございます。

Zhang氏:
 きっとあなたも僕も,自分が好きなことをやって生きているんだと思います。

4Gamer:
 ここに来る前に昔のメールを探してたら,最初に僕がAYANEOにメールしたのは2021年2月でした。
 ずいぶん長いことやってるメーカーだと思ってたんですけど,実は最初の製品からまだ3年ぐらいしか経っていないことに改めて気づきました。びっくりです。

Zhang氏:
 4Gamerはスーパーアーリーバードですからね。

4Gamer:
 うん。展示されてた透明なAYANEOが,すごく懐かしかったですよ。

Zhang氏:
 おぉ! (スケルトンのFounder版を出してきて)ファウンダー!

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4Gamer:
 そうそう,ファンダーバージョン(笑)。

Zhang氏:
 時間が経つのは速いですねえ。

4Gamer:
 ちなみに,いま年齢おいくつなんですか?

Zhang氏:
 1984年生まれです(なぜか恥ずかしそうに笑う)。

4Gamer:
 子供のころってどんなものを見て育ちました?

インタビュー中にZhang氏が触れているのは,「小覇王学習機」のこと。主に1980年代後半から1990年代前半にかけて,アジア圏で一世を風靡したファミリーコンピュータの互換機(日本では俗に「パチファミ」と呼ばれるもの)。タイピングやプログラミングなどの学習ソフトを利用できるほか,ゲームカートリッジ(むろん海賊版を含む)も販売していた。1995年,ジャッキーチェンによるCM出演でより一層広く普及して,「学習機」という名の思い出深いゲーム機として,日本以外のアジア圏では幅広く知られている
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Zhang氏:
 中国なので,子供時代にはファミコンのコピー機しかプレイできなかったんです。

4Gamer:
 「小覇王」ですね。

Zhang氏:
 はい(笑)。親にプログラミングすると言って買ってもらって,BASICやってますよと言い張って,親が家を出たらすぐ違うカートリッジを差して,はい,楽しいゲームの時間です(笑)。

4Gamer:
 1本のカートリッジにゲームがたくさん入ってたりね(笑)。

Zhang氏:
 言うならば,世界のゲームの発展とはギャップがあったわけです。常に一歩遅かったんです。でも逆に僕たちは,ファミコンの次はもうPlayStationに飛んでました。本来は間にあるはずの,SFC(スーパーファミコン)やMD(メガドライブ)の時代は,実は経験していないんです。

4Gamer:
 あぁ……そういう感じだったんですね。確かに中国の人と話しても,スーファミネタはいまいち盛り上がらないことが多いかも。

Zhang氏:
 一方でハンドデバイスと言えば,子供の時は友達のゲームボーイを借りて遊んだことがあるけれど,実際に自分が買った最初のハンドデバイスはGBA(ゲームボーイアドバンス)でした。
 僕の,GBAに対する感情はとても深いです。最初のハンドデバイスがGBAであることもそうですし,僕はGBAを買ってから,ゲーム雑誌に記事を書いたりし始めました。そこでゲームライターになって,その後ゲームのウェブサイトを立ち上げて,ゲーム回りの通販やブランドを作って……。
 僕のキャリアはGBAから始まったんです。僕にとってはとてもとても意味が大きい,思い出深いデバイスです。

普通のゲームボーイアドバンスがすぐ出てこなかったので,魔改造もの。IPS液晶に加えてバッテリーをUSB-C化してあって,レンズも違うしサウンドアンプもカスタムもの。いまでも十分に遊べる
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4Gamer:
 あぁ……そういう「自分の中での1台」ってありますよね。僕もそれはGBAなんです。据え置き機が昔からあまり好きではなかったので。

Zhang氏:
 そうなんですね。ところで4Gamerって何年に始まったんですか?

4Gamer:
 2000年からです。でもどうして?

Zhang氏:
 なぜかって,僕はその時ウェブメディアの記事を書くとき,日本のメディアを参考にして書いてました。IT関係なら,ITmediaとかPC Watchとか,そしてゲーム関係だったら4Gamerを見た可能性も大きいですね(笑)。

4Gamer:
 参考になってたらいいんですけど。

Zhang氏:
 とても助かりました……。日本のメディアさんたちがいなければ(AYANEOの製品を示しながら)これらもなかったかもしれません。あ,いま昔の話をしていて一個思い出しました。「プレイやん」を知ってます?

※筆者所有の「PLAY-YAN micro」。ちなみに中国語の名前は「播放君(プレイ君)」。なるほど,ちゃんと意味を分かってる人がネーミングしたらしい
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4Gamer:
 もちろんです。まだ持ってますよ(笑)。

Zhang氏:
 カートリッジでビデオをプレイできるようになるやつ。まだ持ってるなんて!
 GBAはとても好きなデバイスなので,似たようなやつをちょっとやってみたいですね。あと今度,機会があったらGBA SPのリメイクもしてみたいと思ってます。

名機,ゲームボーイアドバンスSP。そのままカバンに突っ込んでも液晶が傷つかない素敵デザイン。フロントライトも搭載しており,薄暗かったオリジナルGBAより遥かにキレイな画面に見えたものだ
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4Gamer:
 SPはいいですねえ。

Zhang氏:
 ご存知だと思うんですけど,中国にはそういうものを作るレトロデバイスのメーカーはたくさんあります。ただスペックはローエンドで性能が全然ですし,デザインは単なるまるごとコピーです。
 僕はそのような製品は作りません。ちゃんとAYANEOらしい製品を作ります。

4Gamer:
 けっこう期待してますよ。

Zhang氏:
 ただですね……いまこれを「MICRO」と名付けたけれども,本物のGBMより大きいです。もし数年後,僕らが本物のGBMサイズのリメイクを作るとしたら,このミニサイズの新製品は何ていう名前をつければいいか悩みますね。

4Gamer:
 なんか贅沢な悩みを(笑)。ていうかGBMサイズのリメイク,すごく見てみたいです。

Zhang氏:
 GBA……GBM……(名前を考えながら)えーと……AYANEO Pocket nano?

4Gamer:
 iPodだ。意外としっくりきますね。


ガジェットが大好きで出る製品を全部買っていて,その流れでAYANEOを会社ごと買った


画像集 No.018のサムネイル画像 / [インタビュー]ゲーミングハンドヘルドの先駆け「AYANEO」のCEOが語る,今までとこれから――「過去の製品の作り直しじゃ,何も挑戦がないから」
4Gamer:
 さっき発表会で,AYANEOの前にはいろんなことをしてたと聞きましたけど,そもそもどういう経緯でAYANEOをやることになったんですか。

Zhang氏:
 AYANEOまではIT業界でメディアの仕事をやってました。4Gamerさんの同業者ですね(笑)。
 IT関連の情報を追ってるし,ずっとそういうガジェットが好きなので,出る製品出る製品,全部買います。その流れで,AYANEOを買いました。

4Gamer:
 ダイナミック。

Zhang氏:
 なので,4Gamerが最初に連絡してくれたのは僕じゃなかったんですよ。その時は別のチームでした。僕はこれ(AYANEO初代)を買って,悪くないと思って,ファウンダーに連絡しました。
 話し合ってみた結果,僕がこのブランド(AYANEO)を買収して,僕の人生をこのプロジェクトにAll-inしました。2021年からは僕のものです。

4Gamer:
 最初からいるわけじゃないんですね。AYANEOの顔と言ったらArthurなので,てっきり。

Zhang氏:
 ちょっと面白い裏話をしちゃいますが,天空さんは,元々のAYANEOチームに製品を発注してました。でもその間にも僕の買収話は進んでいたので,天空さんがある日AYANEOに連絡しようと思ったら,連絡が付かなくなってしまって,夜逃げしたのではと思ったそうです(笑)。
 最後に天空さんは無事に僕に連絡できて,今に至ります。知り合う紆余曲折がちょっと面白かったですね。
 
4Gamer:
 ちょっと間違えたら心証が悪いことになりそうな(笑)。
 あれ,じゃあ途中からジョインしたとして,Arthurはいつからがっつり噛んでます?

Zhang氏:
 クラウドファンディングの募集分だけは元のメンバーが作ってたんですけど,それを製品にするときからは僕ですね。つまりええと,2021年版から?
 うん,そうですね。ファウンダーバージョンの生産と出荷を前のチームが終わらせて,2021年からが僕です。デザインや開発も含めて,全部僕ですね。

4Gamer:
 あぁ……だから雰囲気変わったんですね。
 
Zhang氏:
 そうです。最初のAYANEOは,もうちょっとなんていうか,eスポーツ感があったと思います。プロモーションビデオもかっこよくクールな感じで,がっつりeスポーツスタイルでしたし,カラーも蛍光の緑だったり。
 2021年版からは,僕が作ってます。僕個人の美意識としては,もうちょっと日系的な,もしくは北欧的なデザインスタイルが好きです。

4Gamer:
 うん,そんな感じですね。

Zhang氏:
 僕は,見た目のデザインや質感を重視してるので。人に与える印象も,もうちょっとハイエンドな感じとか,エレガントなイメージを与えたいと思います。シェルに使っている素材も,当時僕らがつけた名前は「Baby Skin」でした。赤ちゃんの皮膚のようなサラサラ感。


4Gamer:
 そういえばそうでしたね。ちょっとゲーム機ぽくない感じの。

Zhang氏:
 ほらここに実機がありますが,3年経ってるのに,まだ触り心地がいいでしょう? デザイン工芸も,とても工夫しています。

4Gamer:
 あなたの好きな気持ちとこだわりは十分に理解できましたけど,でも当時すでに30代後半ですよね。All-inする恐怖とかなかったですか?
 そもそもハードウェアのインディメーカーは,ゲームというソフトウェアを作っているインディと違って,考えなくてはならないことが何倍も,もしかしたら何十倍も多いはずです。素人の私がちょっと考えるだけでも容易に想像できます。
 それなのに,あえてそれに打って出たその気持ちというか,勝算というか,そういうものはなんだったんでしょうか。

Zhang氏:
 いい質問です。答えは簡単で,失敗を考えたことがないからです。
 成功についても考えたことはないですけどね。ハハハ。

4Gamer:
 あぁ……なんか分かります。そんなことはあまり重要じゃないというか。

Zhang氏:
 そう! 好きなので,やるべきだと思いました。ハードは確かに難しいし,今でもいろんな問題が山積みです。僕の経験上ハードウェアを作ったことはなかったんですが,会社を立ち上げることの根本にあるのは,結局マネージメントの作業ではないかと思っています。

4Gamer:
 突き詰めていくとそこに帰結しますよね。

Zhang氏:
 プロジェクトマネージメント,製品管理,チームマネジメント……。あとはとにかく学ぶことですね。学んで,リソースを見つけて,プロジェクトをスケジュール通りに進ませて,よりハイレベルに進歩できるようにする。
 僕自身の性格は楽観的です。もちろんたまに感傷的になることもなくはないんですが,多くの場合は寝て起きたら気分転換できてます。たまに落ち込みますが,多くの時は,いかに問題解決ができるかを考えることに割り振っています。
 おっしゃるとおりハードウェアの開発において,問題点はてんこ盛りです。一個一個解決していくんです。

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4Gamer:
 なんかちょっと自分と似てて嬉しくなります(笑)。どんなに怒っても,どんなにイラついても,寝たら忘れますよね,大概のことは。

Zhang氏:
 そうそう!

4Gamer:
 あなたが就任したのは2021年ですけど,その前の2020年から2022年ぐらいまで,世界はとても大変な時期だったじゃないですか。ましてやハードウェアデバイスを作るのであれば,チップ不足とか,サプライチェーンの崩壊とか,いろんなことが重なっていて,それはたぶん気合なんかじゃ乗り越えられないことだと思います。
 そういう問題は,どうやって解決したんですか?

Zhang氏:
 いまこうやって言われてなければ,全部忘れてました(笑)。
 いやでも,本当に大変でした。一つには,こういう仕事にまだ慣れていなかったということもあります。経験も全然ないですし,あなたがおっしゃったように,とりまく状況もとても悪い時期でした。
 寝て起きて,今すぐ大学受験にいってらっしゃいと親に言われたような絶望感があります。でも僕はCEOなので,僕の立場で,ほかの人には「焦らないように」と伝えるしかありません。

4Gamer:
 あのときの大変さは僕にはちょっと想像できません……。

Zhang氏:
 具体的にどんな方法があるのかというと,実際にやったことが多すぎて全部は伝えられないのですが,根本的には自分の過去の経験や積み重ねで無理矢理押し切ることができたと思います。あとはまぁ,自分の性格がキーになったかと(笑)。
 それと,特にAYANEOが市場に出た時期は,この(ハンドデバイスの)業界の人がまだ全然少なかったので,ユーザーの皆さんも暖かく見守ってくれたと思います。いろんな人に助けられてましたね。

4Gamer:
 確かに,ちょっとくらい遅れても「まだかなー」って待ってた気がします。

Zhang氏:
 あともう一つのポイントは,僕がほんとに本件(AYANEO)にAll-inしてるということです。持ってるすべてのリソース,経験,人脈,時間をここに,本当に全部入れてます。

4Gamer:
 ご家族は何か言ってました?

Zhang氏:
 なにも。すごくサポーティブでした。

4Gamer:
 素晴らしいです。
 そういういろいろなことでCOVID-19を乗り越えて,いまがあるわけですよね。さっきの発表会でも見せてましたけど,AYANEOから遅れること1年の2022年にSteam Deckが発表されて,さらに1年経って2023年にはROG Allyが出て。
 AYANEOが作った「ハンドヘルドゲーミングデバイス」というデバイスは,もう完全に世の中に認知されました。

Zhang氏:
 そこについては,僕の人生の意味すら表してると思うんですよね。ほかの人に「これは僕が作ったんですよ」と言うときに,ちょっとすごいしかっこいいな,と思えます(笑)。

4Gamer:
 正直です(笑)。でも確かに,ValveやASUSといった巨大な会社より早くデバイスを作って世に送り出しているのは,意外と知られてないけど結構すごいことなんじゃないかと,今日改めて思いました。

Zhang氏:
 ありがとうございます(笑)。
 でもまだまだ頑張らないといけないです。規模は全然Valveと比べられるものじゃないし,僕らはそのような大きな会社にはなれないということが,運命として刻まれているんじゃないかと感じるときさえあります。
 でもそういうことはいったん置いておいて,彼らと違う道を歩まなければなりません。今のAYANEOの戦略設計は,ある程度発展できたあとのことを考えるようにしています。

4Gamer:
 発表会で自ら言ってましたが,AYANEOと言ったらとにかく製品が多いですよね。矢継ぎ早に次々と出てくるのが,かなり特徴的です。
 発表会では「ユーザーに多様な製品を届けたい」と言ってましたけど,最終的に行き着く先はどこなんですか?

Zhang氏:
 行き着く先,ですか。

4Gamer:
 というのも,同じく発表会で「開発はゲームみたいなことで,もしかしたらいずれエンディングを迎えるかもしれない」と言ってたので,もしかしたら,一つ最終的な「ベストゲーミングデバイス」を作ろうとしてるのかな,とちょっとだけ思ったんです。

Zhang氏:
 うん……なんて言おうかな(笑)。
 僕は,ゲームをプレイすることが好きなんですが,実は下手なんですよ。多くの場合は,どこかで引っ掛かって,ずーっと繰り返しプレイしています。本当にエンディングまでたどり着けたゲームは,そう多くありません。

4Gamer:
 そんなところまで似てます(笑)。

Zhang氏:
 やっぱり(笑) 。なので,いろんなデバイスが好きですし,いろんなゲームをプレイすること,面白いゲームを探すこと,そんな過程やゲームプレイの体験を,心から楽しんでいます。
 たぶんあなたなら同意してくれると思うんですけど,例えば紹介記事を見ていいゲームだと思ったり,心打たれるゲームを探していてそれをうまく見つけ出したりして,ダウンロード購入したりパッケージで買ったり,手にしてプレイする時のその感覚がすごく好きです。
 でもいざプレイしてみたら,序盤しかプレイしなかったりしますよね。

4Gamer:
 あぁ,ほんとに……(頷く)。

Zhang氏:
 なんでそんな話を持ち出したかというと,僕は本当にエンディングのようなもの……最終的にこれができていれば目標達成だ,というところを設けていないんです。過程を十分に楽しんでいるんです。
 いくら儲けたいとか,どんな会社になりたいとか,そういう目標は一切設けてなくて,多くの場合はその過程でエンジョイしていることが重要です。出している製品はすべて,自分が欲しいと思ったものです。

4Gamer:
 いいですね。すごくいいです。

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Zhang氏:
 ハンドデバイスを作っているから,Steamのように作れますか,と。いや難しいと思います。じゃあ,プチソニーになれますか? ソニーの規模には及ばないけど,ソニーが作りそうなものを出すとかなら。でも僕らもそんなに多くは作れません。
 僕らは,僕たちが作る製品を本当に,熱愛を持って好きなので,パッションもありますし,効率もあります。僕みたいな人たちを満たせるように,多くの製品を作ることができます。
 なので僕らの未来の方向性としては,そういう状態がベターだと思いますね。

4Gamer:
 分かります。会社の目的地はとくに設定しないですね。いまやるべきことを,やる。

Zhang氏:
 そうそう。ジョブズが言ったように,「Follow your heart」です。

※「Your time is limited, so don't waste it living someone else's life. Don't be trapped by dogma - which is living with the results of other people's thinking. And most important, have the courage to follow your heart and intuition.」スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学でのスピーチ(2005年)から。スタンフォード大学によってスピーチ動画をYouTubeで公開されているので,気になる方は「こちら」。

4Gamer:
 あれは何度聞いても名スピーチです。

Zhang氏:
 でもそれは意外と理解されないんですよね。いま会社は外部の投資を一切受けておらず,全部僕自身が独立経営しています。なので人の意見を聞く必要はありませんし問題はありません。

4Gamer:
 羨ましい……。

Zhang氏:
 (笑)

4Gamer:
 好きなものを好きなように作ると言いますが,AYANEOのすごいところは,出てくる新製品のほとんどがコンセプトとコアファクターが違うところですよね。
 ほかのゲーミングデバイスとか,よくご存知だと思いますが,中身が同じでガワだけ変えてるものとか山のようにありますが,AYANEOはそれをあんまりしない。

Zhang氏:
 ありがとうございます。まぁ僕たちもそういう製品がちょっとありますけど……Air 1sとか(笑)。

4Gamer:
 まぁほら,ちょっとだけなので(笑)。
 
Zhang氏:
 そういうプチアップグレードも必要だと思いますが,確かに僕らは世代を変える時にどういう製品を作るかをちゃんと考えます。
 いまAYANEOの製品マネジャーは,僕自身です。すべての製品をどう定義するのかを,僕が担当しています。なのでいまでも僕が,すべての製品をコントロールすることができます。


僕が好きで君も好きなら,これはもう「ベスト」。ベストハンドヘルドは,皆さんの心の中に


4Gamer:
 さっき発表会の資料にもちょっと出てましたけど,こういうゲーミングデバイスの話になると,どうしてもエミュレータの話題は外せないと思います。
 もちろん,ここでエミュレータがいいものなのか悪いものなのかを議論するつもりは全くありません。でも実際にそれは存在して,いろんな人がそれを楽しんでいるわけで,エミュレータを意識したデバイスを作っている側にいる人間として,コンピュータゲームのエミュレータについてどういう考えをお持ちなのか,もし聞けることがあればお聞きしたいなと。

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Zhang氏:
 うんなるほど。これはすべて個人的な観点だと思って聞いてください。
 もちろん僕も,一部のユーザーがエミュレータをプレイするためにAYANEOを買っていることは知っています。過去の歴史があるゲームは,仮にソフトを持っていても,そのコンソールのハードウェア自体を,健全な状態で入手するのが大変難しい。
 携帯ゲーム機はバッテリーの問題があるし,据え置き機なんかだとTV出力すらできませんよね普通は。なのでAYANEOは確かにそれらのユーザーに,レトロゲームを楽しむ,その時の思い出を再体験する方法を与えています。
 エミュレータにおいてのAYANEOのパフォーマンスをとても気にする方もいます。僕らも側面的な努力として,できる限りエミュレータがちゃんと動いて,いいパフォーマンスが出るように努力はします。
 でも,現行のコンソールにあるものはちゃんと現行コンソールで製品版をプレイすることをお勧めします。例えばSwitchがそうですね。いま問題なく遊べるのだから,ちゃんとSwitchで製品版をプレイしたほうがいいに決まっています。

4Gamer:
 なるほど。

Zhang氏:
 ビジネス上の考えとして,僕らはメーカーとして多くの人に僕らの製品を買ってほしいです。でも僕自身のポリシーとして,AYANEOはエミュレータパフォーマンスに重点を置いてオフィシャルに紹介することはしません。せいぜい「エミュレータもちゃんと動きますよ」と言うだけです。
 例えばエミュレータを使ってプロモーションビデオとかで宣伝したことは,いままで一度もないです。
 昔のゲームをプレイするためにエミュレータを使うのはまだ理由があると思っていますが,繰り返しですが現行機種はよくないと思います。僕のSwitchも,デジタル版を買って積んでるだけです。まぁ積んでるとは言わないですが(笑)。

4Gamer:
 僕はパッケージを買う人なので,文字どおり山積みです……。

Zhang氏:
 カートリッジなら中古販売できますけど,DL版はもうね……。

4Gamer:
 販売も譲渡もできませんからねえ。

Zhang氏:
 まぁそれらは,僕個人のアティチュード(編注:姿勢というか考え方というか)です。そんな勝手なこと言うなと言われるかもしれませんが,僕らの子供時代は,製品版が絶対に入手できなかったからパクリを遊ぶしかなかったんです。でもいまは違います。条件は整っていますし,ゲームもそんな高くはありません。これはもう正規版を応援するべきです。
 違う視点で言うと,例えばAYANEOの規模がどんどん大きくなって,プラットフォームをもって,ゲームパブリッシングをするようになったら,僕もユーザーに海賊版を遊ばせたくないと思います。

4Gamer:
 なるほど。姿勢はなんとなく分かりました。答えづらい質問かもしれないのにありがとうございます。
 さて……時間もだいぶ押してしまったので,最後の質問いいですか?

Zhang氏:
 もちろん。

4Gamer:
 あなたのXのアカウントを見ると,一番最初に「My dream is to design and manufacture the best handheld in the world.」と書いてあります。

Zhang氏:
 はい。よく見てますね(笑)。

4Gamer:
 あなたが考える「ベストハンドヘルド」って,どんなものなんでしょうか。

Zhang氏:
 哲学的に,物事には相対的概念と絶対的概念があります。僕らの製品を市場にあるほかの製品と比べた場合,なんらかのポイントで,僕らの製品が世界中のベストなハンドヘルドだと思っています。
 でも販売台数で言うと,全然ですよね。ユーザーから見ると,好きでいてくれるユーザーは「AYANEOはベストだ」と言ってくれますが,でもそのユーザーがその見解をパブリックな場に出すと,認めてくれない人だってきっと出てくるとおもいます。Xにポストしたら,SteamやSwitch,ROG Allyあたりをベストとして出してくる人だって多いでしょう。
 でもそれは,それぞれが正解だと思います。好きで使っている人なんだから,その人にとってはそれはベストなんです。評価の軸はさまざまです。販売台数で評価されたっていいわけですし。

画像集 No.022のサムネイル画像 / [インタビュー]ゲーミングハンドヘルドの先駆け「AYANEO」のCEOが語る,今までとこれから――「過去の製品の作り直しじゃ,何も挑戦がないから」

4Gamer:
 うん,そうですね。

Zhang氏:
 僕はちょっとロマン気質なので,だからこそこういうことをわがままなほどやり続けます。世界のベストハンドヘルドという定義については「唯心」なんだと思います。いま僕の定義は唯心ですが,実際は客観的に言うなら「唯物」じゃないとおかしいですよね。
 唯物なら売り上げ台数とかで決まるでしょうけど,でも唯心の評価であれば,僕が好きで君も好きなら,これはもう“ベスト”です。

※「唯心」は,真理が自分の心の内部にあるとする考え。「唯物」は,物質的なものを中心的なものとする考え

4Gamer:
 ふふふ。すごくよく分かります。僕はクルマが好きですが,クルマも似たようなものだと思います。

Zhang氏:
 ですよね。ベストハンドヘルドを追い続ける最終的な形は,僕が僕の世界の中に突き進んでいくだけだと思いますよ。それが僕の信念です(笑)。

4Gamer:
 この先もどんどんドラスティックな製品を作って,ベストを模索し続けてください。ありがとうございました!

―――2024年5月30日収録
  • 関連タイトル:

    AYA NEO

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