インタビュー
実写映像で描かれるミステリアドベンチャーの魅力とは。「春ゆきてレトロチカ」のプロデューサー&ディレクターにインタビュー
今回,本作のディレクターである伊東幸一郎氏(代表作「428 封鎖された渋谷で」「TRICK×LOGIC」など)と,プロデューサーを務めるスクウェア・エニックスの江原純一氏(代表作「NieR: Automata」「BABYLON'S FALL」)に話を聞くことができたので,本作がどのような魅力を持つ“新本格”なゲームなのかをお伝えしていこう。
「選択肢を選べる映画やドラマ」ではなく,「実写映像を使ったゲーム」
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。実写映像を使ったアドベンチャーゲームがスクウェア・エニックスさんから出てきたというのは意外で驚いたのですが,どういったところから企画がスタートしたのでしょうか。
もともとは私と伊東さん,あとはNetflixのドラマ「全裸監督」でプロデューサーを務めた,たちばなやすひとさんの3人で始めた企画だったんです。表現媒体に実写を使おうと考えたのは,たちばなさんが実写映像専門であること,また伊東さんも実写を使った「428」のシナリオディレクターだったということで,実写に強いメンバーが揃ったからという部分が大きいです。
また海外では,「レイト・シフト」や「The Complex」といった,実写を使ったゲームが増えてきています。日本では90年代に多くの実写ゲームが発売されていましたが,最近は欧米のほうが元気という傾向があるので,ここで改めて日本でやってみるのもいいんじゃないかと考えました。
4Gamer:
最初から,実写ありきの企画だったんですね。
江原氏:
実写以外の方法も,検討はしました。開発の途中で緊急事態宣言になってしまっていたので,本当に撮影できるのかという課題が持ち上がったんです。そのとき3DCGに切り替えることも再検討したんですが,すでにできあがっていた物語が実写に適した仕上がりだったので,ここは初志貫徹して実写で行きましょうと。
4Gamer:
最初の緊急事態宣言ですよね,そうすると,開発期間はけっこう長いんですか?
江原氏:
プロジェクトの変遷がいくつかあるんですが,現行の体制になったのは2020年の1月末ですから,およそ2年強で発表に漕ぎ着けたことになります。
4Gamer:
ミステリにすることも,最初から考えていたのでしょうか。
江原氏:
そうです。初めからミステリでした。
伊東幸一郎氏(以下,伊東氏):
ゲームでミステリというとデスゲームが定番になっていますが,私自身はあまり得意ではないジャンルですし,すでに多くの競合タイトルがあります。そこで少し毛色の変わった犯人当てミステリ――パズラーと呼ばれる,論理を構築して推理していけば唯一の正解となる犯人に必ずたどり着くミステリを,日本から世界に発信したいと考えました。
そして江原さんと一緒に企画を揉んでいく中で,「100年という時代を経たミステリ」というキーワードが出てきました。本作は海外でも展開しますから,大正や昭和といった100年前,50年前の日本を舞台にすると,エキゾチックで楽しそうに見えるのではないかとも考えたんです。
江原氏:
確か最初に考えた案は,2018年に公開されたNetflixのインタラクションムービー「ブラック・ミラー:バンダースナッチ」を,よりゲーム的にしたらどうなるかというものでしたね。
伊東氏:
実際,ブラック・ミラーはすごくよくできていましたね。しかしスクウェア・エニックスはゲーム会社ですから,しっかりとゲームらしさを出したタイトルにしたいという話が,江原さんから出たんです。そのため本作は「選択肢を選べる映画やドラマ」ではなく,「実写映像を使ったゲーム」であることを明確に打ち出すことになりました。
「問題編」で事件を観察し「推理編」で立てた仮説を,「解決編」で犯人にぶつける
4Gamer:
実写映像を使ったミステリで,ゲーム性を重視して,というところがまだピンとこないのですが,どのようなゲームになるのか改めて教えてください。
伊東氏:
本作はエピソード形式のアドベンチャーゲームで,オープニングと本編数話,エンディングで構成されています。オープニングからエンディングまで全体で大きな1つの物語ですが,本編のエピソードはそれぞれ独立した犯人当てミステリになっています。各エピソードの舞台は現代,昭和,大正のいずれかです。
伊東氏:
そして各エピソードは,「問題編」「推理編」「解決編」の3パートで構成されています。問題編では,まず実写ドラマが流れます。その中に,事件の謎を解く鍵となる「手がかり」がたくさん出て来ます。そして,もちろん殺人事件も起こります。
続く推理編では,謎と問題編の映像から得た手がかりを組み合わせて,「仮説」を立てていきます。その過程で,プレイヤーを惑わすような仮説も出て来ますが,自分の頭で考えて「真相はこうなんじゃないか」という答えの道筋を探します。
「真相はこれだ」という答えを見つけたら,解決編に進みます。解決編では,容疑者の中から犯人を絞り込んでいきます。そのときに,推理編で立てたさまざまな仮説を容疑者に突きつけて追い込み,最終的に犯人に自白させるというのが,大まかな流れです。
4Gamer:
問題編で手がかりを集めるというのは,具体的にはどうするのでしょう。映像を見るんですよね?
伊東氏:
映像の中に,手がかりが表示されるんです。例えば死体を見つけたシーンでは,「首が切られている」「刃物で刺された痕」といったテキストが該当する部分に表示されます。
4Gamer:
そこで操作すると手がかりが集まるという感じですか?
伊東氏:
そうですが,本作ではそこをフレキシブルにしていまして,手がかりを入手してもしなくてもかまいません。集中して映像を見ているだけでも大丈夫なんです。問題編は映像を見て何が起きたのか,何が怪しいのかをつぶさに観察するパートです。その中で気になるものが出てきたら,ストックして詳細をいつでも確認できるようになります。ただし,推理編に入れば,見逃していたものや表示されなかったものも含めて,すべての手がかりが手に入ります。したがって,問題編で重要な手がかりを入手していなかったから詰むということはありません。
4Gamer:
つまり,問題編は手がかりを集めるパートではなく,推理編で扱う手がかりを示すパートという感じですか?
伊東氏:
そのとおりです。途中,選択肢が入ることもありますが,物語の要点を整理したり主人公とプレイヤーの心情をシンクロさせたりするもので,話の展開を大きく左右することはありません。マルチシナリオ・マルチエンディングを楽しむタイプのゲームではなく,唯一の真相を探していくタイプのゲームです。
4Gamer:
推理編では,どのように手がかりを使っていくのでしょうか。
伊東氏:
ゲームの冒頭で,主人公が「ミステリには必ず謎があり,それを解く手がかりも必ずある。それを組み合わせて仮説を作り,論理の道をつないでいく」という旨の発言をするのですが,プレイヤーは,まさにそのとおりのことを推理編で進めていきます。
問題編では,「あるはずのものがない」「刃物で殺されたのに,凶器が見つからない」といったように,いろんな疑問が浮かびます。その疑問が,推理編では謎として配置されていて,それらに対して手がかりを組み合わせると,「犯人は逃げようとしたが,不可能だったのかもしれない」「凶器はここに隠してあるかもしれない」といったような仮説が次々に生まれます。数々の仮説をもとに,「これは正しいんじゃないか」「これはおかしい」とプレイヤー自身が考えて判断し,唯一の真相を探っていくんです。
4Gamer:
組み合わせで仮説を作るとなると,けっこうなパターンがありそうですね。
伊東氏:
1つの謎に対して「こうかもしれない」「あるいは,こうかもしれない」と,いろんな考え方がありますから,なるべくそれらを網羅できるようにしました。中には,明らかに「これは笑いを取りに行ってるだろう」というものもありますけど。
ただし,推理編で組み立てられる仮説だけでは,真相にたどり着けません。仮説をバンバン立てていくと外堀は何となく埋まっていくんですが,コアとなる「犯人が仕掛けた最大のトリック」,あるいは「犯人がしでかした致命的なミス」は提示されません。ここだけは,プレイヤー自身の推理力を駆使して解いてもらいます。自分の頭で「これは,こうだからこうなったんだ」「それでこういう結果になったんだ」と考えて見出した真相を,解決編で犯人に「あなたがやったんですね」と突きつけるわけです。
4Gamer:
推理編の組み合わせだけで,システム的に事件が解決するわけではないんですね。
伊東氏:
はい。「何となくガチャガチャプレイしていたら,答えが見えてきた」とか,総当たりで答えが分かってしまうという感じにはしたくなかったんです。犯人当てミステリでは,「自分で解いた!」という快感が大事ですから。サポートはするけど,答えは言わない。そんなゲームに仕上がっています。
江原氏:
ただ,難解というわけではないです。「428」や「TRICK×LOGIC」を含めて,伊東さんが手がけてきたゲームはどれも斬新である半面,やや取っつきづらい側面もありました。そこで本作では,触った人が「何じゃこりゃ? わけ分からん」とならず,むしろ「全然シンプルじゃん」と思ってもらえるものを目指しています。
4Gamer:
映像を見て仮説を作る,という流れは確かにシンプルですね。
伊東氏:
仮説をたくさん作ると,推理を絞り込んでいくうえで有利なんですけど,作れば作るほど解決編で犯人に「こうだったんだろう」と突きつける選択肢も増えてしまうのが,本作の面白いところです。明確なハズレが増えるだけならいいんですが,微妙なハズレも正解と共に表示されます。システムに頼りすぎると,プレイヤーが迷うという仕組みは,今までのアドベンチャーゲームにはなかった試みだと思います。
江原氏:
仮説をみだりに作ってしまうと,バッドエンドルートも増えますね。バッドエンドになってしまっても,すぐ直前まで戻れるので「あ,間違ったか」くらいの感覚でやり直せますけど。
4Gamer:
つまり,仮説作りは途中で切り上げられるんですよね。推理編はどういう条件で終わるんですか?
江原氏:
一定のところまでいったら,いつ切り上げてもいいです。
伊東氏:
謎に対する一定数の仮説を作ったら,いつでも解決編に進めます。ただし,プレイヤーが作った仮説の中に正解があるかどうかは分かりません。そのタイミングで,プレイヤーは「オレが持っている武器で,解決編をクリアできるのか」と立ち戻って,「武器が足りない」と思えばもっと仮説を作ることになります。ああでもないこうでもないと,楽しく悩める作りにしました。
4Gamer:
問題編の映像は,見返せるんですよね。
伊東氏:
もちろんです。問題編まで戻らなくても,推理編の中に各シーンのサムネイルがDVDのサーチ画面のように表示されるので,それらを切り替えて内容を確認できます。
4Gamer:
問題編の映像のボリュームはどのくらいあるのでしょう。
伊東氏:
問題編だけで30〜40分程度です。当初は,登場人物や映像内で起きたことなどを忘れないうちに推理編に入ってほしかったので,15分程度にしようとしたんですが,情報量の密度を考えて今の長さになりました。
4Gamer:
本当にドラマを見ているようなボリュームなんですね。
伊東氏:
これでも,情報を絞りに絞って,シナリオも映像も編集でけっこう削ったんですよ。それでも密度が高くて,すべてのカットに手がかりがあるくらいの勢いになっています。密度が高いぶん,ダラダラ流れていましたという感じではなく,見ていて退屈しないと思いますよ。
江原氏:
実際,映像をくり返し見なければならないゲームでツラい体験をしたことがあるので,そこは気を付けました。再生時の5秒スキップ機能なども入っているので,快適に見ていただけると思います。
実写映像をゲームに採用したことのメリットとデメリット
4Gamer:
全カットに手がかりがある勢いというお話がありましたが,ゲームでの撮影だからこそ難しい部分はあるのでしょうか。
伊東氏:
事前準備に,すごく手間がかかります。小説や漫画,アニメ,あるいはCGで作った映像上では成立するトリックでも,実写映像で納得できるものになるかを事前に検証する必要がありました。検証時は2回テスト撮影をして,「こういう撮り方なら,どれが手がかりか誰にでも分かる」といったことを確認し,本撮影に臨んでいました。
4Gamer:
実写だからこそ,ごまかしが効かないわけですか。
伊東氏:
またゲーム中,手がかりが表示されると,それがクローズアップされるので,手がかりもきちんと撮る必要があります。選択肢が表示されるときにはタメを作らなければいけないし,選択肢の数だけパターンを撮らなければいけない。そのあたりは,事前に綿密な打ち合わせをしました。「ここは5秒タメをとって,ゲーム側で編集できるようにしておく」など,事細かに台本上に書き込んだりしながら撮影していましたね。
4Gamer:
実写だからというだけでなく,本作ならではの部分で苦労もされたんですね。
伊東氏:
これが3DCGだったら,トリックに合わせて場所も小道具も変えられるんですが,それができないので現場で対応することも少なくありませんでした。例えば,小道具のサイズ感がイメージと違ったので,その場でシナリオを変えたり。何も考えずにそのまま進めると,ロジックが成立しなくなる可能性があるんですよね。撮影には私が常に立ち会って,この変更はこれでいいのか,セリフが変わるけどこれでいいのか,みたいなことを全部その場で確認しながら進めていました。
4Gamer:
本作は,舞台となる時代によって同じ役者が違う人物を演じる仕組みですが,その点でも大変だったのでは?
伊東氏:
そうですね。本作は「マルチロールシステム」を採用していて,ある時代では被害者役だった役者さんが,別の時代では別の人物として,衣装を変えて登場します。大正編や昭和編といった過去を踏まえて,最終的に令和編で謎を解き明かす物語ですから,役者さん各自の演じる役がどう見えるかを念頭に置きつつ,過去編の配役を考えなければなりません。そこのパズルが難しかったです。
4Gamer:
ゲームの3DCGのクオリティが上がって,「もう実写でいいじゃん」という感想もよく出ますが,実写は実写で別の苦労がたくさんあるわけですね。
伊東氏:
どっちもどっちですね。
江原氏:
今回の大きな誤算は,実写ならバッドエンドのパターンを作りやすいんじゃないかと思っていたことです。「撮るだけじゃん」と。ところが全然そんなことはなく,1パターンごとに照明の再セットをしなければならなかったり,そもそも役者の皆さんがすべてのセリフを覚えなければいけなかったりと,パターンを1つ撮るのに50人が動くような状況になってしまったんです。「実写だから楽」ということは,まずないですね。
一番大変なのは,巻き戻しができないことです。3DCGだったら,開発後半に何かマズい部分が見つかったとしても直せますが,実写は撮影時のクオリティがすべてですから。
伊東氏:
今後は,ハイブリッドな作りも考えられるでしょうね。引きのショットだけCGでやるのはアリかもしれません。
4Gamer:
逆に,実写でゲームを作ってよかった点はありますか。
伊東氏:
マルチロールシステムは,3DCGやアニメのキャラクターでは,あまり効果が出ない手法だと思っています。同じキャラクターが,別の衣装を着て別の演技をして別のキャラクターですと言っても,違いが見えにくいというか。ただ別の衣装を着ているだけに見えてしまうんですよね。
江原氏:
結局,「同じモデルの使い回しでしょ」と。
伊東氏:
その意味で,マルチロールシステムは実写向きですよね。人がやることにより,衣装が違いセリフ回しも違う,別の人物になれるんです。
江原氏:
あとは初見でそこまでチェックしてもらえるかどうか分かりませんが,実写でしか表現できない微妙な表情の変化や,役者さん達の所作の美しさも見どころです。これら端々の表現の美しさは,3DCGやモーションキャプチャではまだ限界があるので,実写ならではと言えます。
伊東氏:
「そこでそういう表情しちゃうんだ」「そこでその演技?」というアドリブ感やライブ感も,モーションキャプチャである程度までは取り込めていると思いますが,まだまだ実写が強いですよね。
江原氏:
そういえば,撮影時の思い出なんですけど,実写ゲームには「428」や「街」といった名作がある一方で,タレント頼みと思えるような作品もたくさんありますし,私自身もゲーマーとしてそういった作品を遊んで残念に思った経験があります。その一因が実写畑の方がゲームを理解してくださらないことにあると先達から聞いていたので,私もそこで苦労するだろうと覚悟を決めていました。
しかしフタを開けて見たら,今回ご協力いただいた皆さんはものすごく積極的にゲームを理解しようとしてくださったんです。これはすごく強力な武器となりました。
4Gamer:
おお,いい話ですね。
江原氏:
「ゲーム的には,こう撮ったらいいんですかね」「ここの意図が分からないんで教えてください」と,自分から確認してくれるんですよ。そしてこちらの回答を受けて,さらにブラッシュアップをかけてくれる。それが本当に心強くて。そしてそれは,最終的に本作のクオリティに跳ね返りました。本作は,「日本人が作る実写ゲームって,このレベルだよね」というラインをはるかに上回っていると思っていますが,すべて撮影チームの力です。
4Gamer:
それは,たまたまチームに恵まれたという感じですか? それとも時代的なものでしょうか。
江原氏:
両方だと思います。空き時間に撮影チームの皆さんと雑談をしたときに,音響の方が「ゲームのスタッフロールに名前が載るのが嬉しい」と言っていました。「そんなの映像作品でさんざん経験してるでしょう」と返したら,「ゲームは世界展開するじゃないですか」と。なるほどと思いつつ,もうちょっと聞いてみたら「甥に自慢できる」とも言ってました(笑)。もう現場の人達がゲームが好き,ゲームがあって当たり前なんですよね。この音響さんの言葉は,心に残りました。
伊東氏:
役者さんも撮影チームの皆さんも,楽しんでくださいましたね。しんどいけど,ゲームの映像を撮るのが未知の体験なんで,乗ってくれるというか。それこそ「どうすれば,ゲームの映像として面白くなりますか」みたいに,前向きにやってくださったと思います。
100年続く,日本の犯人当てミステリの流れを汲んだ本格シナリオ
4Gamer:
かなり尖ったアドベンチャーになりそうですが,本作の魅力となる部分はどこになるのでしょうか。
伊東氏:
犯人を当てるミステリに特化したタイトルなので,その楽しさが好きだという人にはドンピシャだと思います。論理的に考えていけば,犯行を成し得る唯一の人物に到達できることが,犯人当ての醍醐味です。ロジックを組み立てていけば,必ず1つの真相が頭の中で閃く。そこがこのタイトルの一番楽しいところですね。
江原氏:
そうですね,「犯人当てが面白い」に尽きます。あとは,決して難しくない。「ドラマとして見たい」という人であっても,総当たりで攻略は何とかなります。もちろん,考えたほうが圧倒的に速くクリアできますから,推奨はしませんけれども(笑)。推理が苦手だという人も救えるシステムになっているので,「面白そうだ」と思ったのであれば,ぜひプレイしていただきたいです。
伊東氏:
それと,大正編は今から100年前の1922年が舞台ですが,江戸川乱歩はその翌年の1923年に「二銭銅貨」でミステリ作家としてデビューしました。そこから犯人当てミステリは日本で連綿と続き,1980年代には綾辻行人さんや我孫子武丸さんらが出てきて新本格ミステリブームが起きました。こうした,日本独特のものとして続いてきた犯人当てミステリの楽しさに,なるべく沿う形でゲームに仕立てました。
4Gamer:
Discordなどを使って,友達とああでもないこうでもないと言いながら推理するのも楽しそうですね。ただミステリの性質上,配信はダメですよね?
江原氏:
配信はNGです。ほかのプレイヤーの楽しみを奪ってしまいますから。
江原氏:
ミステリマニア向けの話になってしまうんですが,実を言うと本作のシナリオは,日本の有名なミス研(推理小説研究会)やそのOBとOGの協力があってできあがっています。京大然り,東大然り,早大然り。シナリオライターの中にもそれらミス研の出身者がいますし,シナリオを決定する前の査読をお願いしたりもしました。
伊東氏:
皆さんからは,本当に手厳しいご指摘をいただきましたね。「このロジックに穴がある」「これは余詰(よづめ。別解の余地がないように作ること)が足りてない」とか。これらのフィードバックが,とあるエピソードの撮影中にまとめて来まして,撮影しながらシナリオを修正していくみたいなこともやりました。
4Gamer:
それは相当しんどいですよね。
伊東氏:
撮影はほぼ丸一日続くわけですよ。それで宿に帰ってフィードバックを読み,これじゃダメだと直す部分を指定して,シナリオライターさんに修正を依頼するんです。それで翌日の朝までに直してもらい,私が撮影前にチェックして「これで行こう」となったら撮影が始まるなんてこともありました。
4Gamer:
査読に協力した皆さんは,完成したシナリオに目を通したんですか?
江原氏:
いえ,まだですね。
伊東氏:
あの方々は,完成したシナリオにもツッコむと思います(笑)。
江原氏:
ただ,査読をお願いした皆さんは,小説としてシナリオを読んだのでツッコんできましたが,指摘の中にはゲーム体験でカバーできるものもあるんです。かなり厳しい指摘があったのは確かですが,それもゲームとしてプレイすれば結構カバーできているんじゃないかと思います。
シナリオを映像化すると納得度は1段上がりますし,さらに伊東さんがゲームとして演出を加えているので,もう1段上がっているんですよね。最終的には,いい評価をしてくださると考えています。
伊東氏:
本作はゲームですから,自分で仮説を立てて推理を進めていくので,自分自身の信用を置きやすいんですよね。そこが犯人当てゲームの,ゲームとしてのよさだと捉えています。「自分で作った推理だから,これが正解でいい」とでも言うような。だからといって余詰を甘くするとか,ユルユルのロジックにするとかいうことはなく,しっかり作りましたけれども。
4Gamer:
そこまでシナリオを作り込んだと聞くと,期待が高まります。
江原氏:
シナリオの作成だけで,1年半くらいはかけましたから。ちょうど1年前の2021年2月頃は,シナリオのために何度も徹夜しました。
伊東氏:
シナリオができるまでは大変でしたね。ボリュームとスケジュール的に撮りきれないかもしれない,なんて話が出ていたのに,途中でエピソードを1つ追加したんですよ。そのほうが物語として綺麗にまとまるって指摘があって。この指摘は私からも,江原さんからも,シナリオライターからも,「これ以上は無理」と言っているたちばなさんからも出てきて,結果,満場一致で「やるしかない」となりました。
4Gamer:
それでは最後に,本作に注目している人に向けてメッセージをお願いします。
伊東氏:
仮説をたくさん立てることができる一方,犯人を突き止めるためのコアとなる真相──犯人の仕掛けた最大のトリック,または犯した痛恨のミスを暴くのはプレイヤー自身です。「分かった!」という瞬間を楽しんでいただければいいなと思っています。
また今回,キモノデザイナーの斉藤上太郎さんに衣装を提供していただきました。非常に綺麗な着物なので,ぜひ見て楽しんでいただきたいです。
江原氏:
私は大学時代に新本格ミステリにハマり,ゲーム業界に入ったきっかけも「逆転裁判」シリーズが好きだったからでした。最近,「逆転裁判」シリーズも「ダンガンロンパ」シリーズも続編が出ないので,推理もののゲームをプレイしたいなと思っていたところ,たまたまこういう機会に恵まれました。そういったジャンルのゲームに餓えている人に向けて,ただただまっすぐに作ったタイトルです。興味を持った方は,ぜひネタバレを食らう前に遊んでみてほしいです。
4Gamer:
ありがとうございました。
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