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ゲーム業界未経験の4人が「都市伝説解体センター」で世界を相手にできた舞台裏とは?[CEDEC+KYUSHU 2025]
2025年11月29日に開催された開発者向けカンファレンス「CEDEC+KYUSHU 2025」より,集英社ゲームズの林 真理氏が開発秘話を明かした講演「“『都市伝説解体センター』が生まれるまで”〜新興パブリッシャーの新規IPがヒットできた理由〜」の模様をお届けする。
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ゲーム業界未経験の4人が「都市伝説解体センター」で世界を相手にできた舞台裏とは?
講演のテーマである「都市伝説解体センター」は,インディースタジオ「墓場文庫」が制作し,集英社ゲームズがパブリッシングを担当したミステリーアドベンチャーゲームだ。
主人公であるあざみとセンター長の廻屋が,都市伝説絡みの依頼に挑むという内容で,ゲームはSteamで「非常に好調」の評価を獲得し,コミカライズやノベライズといった展開も行われるなど,盛り上がりを見せている。発売前から展開されていた様々な施策によってファンになった人も多いはずだ。
本作は,ゲーム業界未経験かつスタッフ4人の墓場文庫にとって3作目であり,集英社ゲームズは設立3年目という新鋭同士が組んでヒットを飛ばした作品となる。
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集英社ゲームズと墓場文庫が出会ったのは,4年前となる「Google Play Indie Games Festival 2021」だ。墓場文庫の「和階堂真の事件簿」が同フェスティバルの「集英社ゲームクリエイターズCAMP賞」を受賞したのがきっかけであった。
相性の良さを感じた林氏が次回作の話を持ち掛け,挙げられた企画の1つが「都市伝説解体センター」だ(当初は墓場文庫から小説家とともにゲームを作りたいというプランが出たものの,こちらはスケジュールの都合からお蔵入りになっている)。
ここでは流行に乗ったファンタジー風味の企画も出ているが,墓場文庫の作家性である「怪しい感じ」が一番出ているため,ミステリー+都市伝説の「都市伝説解体センター」に決定している。
もちろん,この判断はミステリーというジャンル自体に対する考察も行った上でのことだ。ミステリー自体はコアファンに向けてニッチになる傾向はあるものの,都市伝説という題材が持つ間口の広さや,昭和レトロの流行,小説「霊媒探偵 城塚翡翠」シリーズやコミック「ミステリと言う勿れ」といった作品が新たなミステリー像を提示している点,マーダーミステリー(マダミス)や脱出ゲームが人気を博している状況から,「まだミステリーの流行は続くだろう」と読み,GOサインを出したという。
ほかのエンタメも見渡した上で,作品が世に出る頃にジャンルの流行が続いているかどうかも判断基準となった。作品を広く届けようとする集英社ゲームズの考え方が現れた判断といえる。
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2022年は集英社ゲームズがスタートした年であり,同時に,「都市伝説解体センター」のプリプロダクションが進んだ年だ。墓場文庫の4人がゲーム業界未経験だったため,いろいろと詰め込むよりは,まずα版(初期段階のプロトタイプ)を制作し,プレイしてはダメ出しするの繰り返しを通じて,基本的なプレイヤー体験を作り上げた。
こうした取り組みの成果が,あざみが念視能力を発動させる際にかける眼鏡だ。α版の頃はモバイル機器のARアプリでスキャンするという設定だったが,実際にゲーム化してみたところ,操作性が良くなかったため現在の形になっている。
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この頃,第1話を本番に近い形で制作する取り組みも進められた(林氏は制作するなら第2話以降にしてほしいと反対したが,墓場文庫からはそれでも第1話を作りたいという希望があったという)。
この第1話は調査パートと解体パートしかなく,「あっちこっちに移動して調べるだけ」(林氏)で,娯楽性に欠けたものになったという。文字として見てみると,モバイル機器やARアプリというのは現在の時勢に沿った良いアイデアに思える。また,調査パート+解体パートという構成が企画書の時点で十分と感じられたのも理解できる。
しかし,ゲームにしてみるとテンポ感や娯楽性で問題が出た。どちらも実際にα版を作るプロトタイピングの重要性が分かる事例だ。
こうして完成したα版は,集英社ゲームズ内でも評判が良かったものの,「地味である」という意見も出た。プレイヤーへのサービスとして「某裁判ゲームの反論ポーズ」のようなものが欲しいという意見から,廻屋のトレードマークともなった「解体ポーズ」やSNS調査パートが生まれた。
なかでもSNSパートは,都市伝説の「口伝での拡散」が現代では「SNSでの口伝」となることから,作中に登場するSNSもしっかりと作り込まれた。手間がかかるため,ゲーム開発者としては省略したくなる部分だが,プレイヤーの満足度が優先されたという。
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なお,集英社ゲームズでは,他作品を担当するプロデューサーもゲームを見て感想を寄せる文化が存在している。「都市伝説解体センター」においては,法務部のスタッフからも意見を募ったとのことだ。多面的なものの見方が大切であることがうかがえる。
この年は,インディーゲームの展示会である「BitSummit X-Roads」にも出展した。ピクセルアートによるキービジュアルのみが展示されたものの,Steamのウィッシュリスト登録数も多く,手ごたえを感じたという。
ここで林氏は開発期間の延長を決断した。墓場文庫のスタッフからは反対意見も出たが,「1つ上の段階を目指してほしい」と要請している。
翌2023年は,「とにかく全6話を作り上げる」取り組みが進められた。素材は仮のものを用い,なかにはカタカナで「カベ」と書かれた素材さえあったという。しかし,作品全体の価値は理解できた,と林氏は語る。
小規模開発では,まずは雑素材でもいいので,とにかく作ることが大事であるという教訓を得たという。
「BitSummit Let's Go!!」では初のプレイアブル出展を行った。その際,日本語ラップの主題歌「奇々解体」を用いたPVが公開されて話題を呼んだが,ここにもドラマが存在している。
当初主題歌はドラマで流れるようなJ-POPをイメージしていたが,意図せず完成したのは日本語ラップで,林氏は大いに困惑したという。
しかし,集英社ゲームズの若いマーケターが「この曲はいける」と絶賛し,BitSummit Let's Go!!の会場で墓場文庫のスタッフに使用を直訴。OKを取ってすぐにPVを公開した。このPVや「奇々解体」への反応も良く,林氏も大いに反省したという。
しかし,PVの内容がホラー的であったため,「集英社ゲームズはホラーゲームを出すらしい」と認識されてしまった。本作はミステリーであることから,「ホラー」というアプローチを控えるなど,軌道修正を行った。
林氏いわく,ホラーとなると「もっと数字が伸びるかもしれない」との目算もあったが,正確な作品イメージを伝えることに注力したという。短期的に売り抜けるのではなく,中長期的な展開を目指す同社の姿勢がうかがえる。
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この年は,林氏が競合タイトルと見る「パラノマサイト FILE 23 本所七不思議」も発売され,高い評価を得ている。同系作品でヒットが出たことは心強いと同時に,プレッシャーでもあったという。
その後,α版は基本的なアセットを入れたものへと進化し,開発は後半戦に突入した。しかし,アドベンチャーゲーム的な要素が足りないのではないかという懸念から,9個のキーワードを用いたシステムが追加されている。開発後半ではあるが,市場価値を上げるためにリスクを承知で実装に踏み切ったという。
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2024年は制作を進めるため,外部にヘルプを頼んでいるが,墓場文庫のスタッフ4人がオーバーワークとなった。QA段階では1000を超えるバグが出てしまったが,エンジニア1人にそのまま頼むとメンタル面に多大な影響を及ぼすため,まずはゲームが進まなくなるバグから対応してもらう……といった気遣いも行われている。
作品を世界へ届けたいという思いから,12言語へのローカライズも行われたものの,右から左に読むアラビア語などの環境でバグも多発し,エンジニアには多大な負担がかかったという。インディースタジオは小規模なだけに,スタッフの健康や精神にもより配慮しなければならないのも難しい点だ,と林氏は語る。
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「東京ゲームショウ2024」の集英社ゲームズブースでは,本作の巨大なピラミッドが話題を呼んだ。
試遊版がプレイできなかった人にも楽しんでほしいという狙いから,ブースでは謎解きゲームも展開している。この謎解きゲームは,解けたと思わせつつ実はもう1つの謎が潜んでいるという仕掛けで,好評を博したという。
「Steam NEXT Fest」では体験版を配信し,第1話のちょうど気になるところで終わるようにした結果,ウィッシュリストの登録数も大きく増えた。
プロモーションにおいてはネットとリアルの両面が駆使された。リアルのヨドバシカメラマルチメディアAkiba店では謎解きイベントを開催し,ここではヨドバシ側のスタッフが積極的に演技をしてくれたという。
ネット施策としては「トシカイくん」によるSNSアカウントの運用に加え,YouTubeで「見ると呪われる」という触れ込みの動画を公開し,呪いを解くため廻屋に電話するというイベントも行われた(関連記事)。トシカイくんは本編以上にSNS上で活躍し,動画施策では声優と都市伝説の組み合わせで興味を持つ人も現れるなど,効果を上げた。
こうした事例から,林氏は「今のマーケティングは,お客様を楽しませることがすごく重要だ」「広告を押し付けるのではなく,楽しんでもらう,興味を引き出す施策が大事」という学びを得たという。
ピラミッドや謎解きゲーム,実際に電話を掛けるといった施策は,ユーザーの気持ちになった遊び心の発露であるといえる。マーケティング=マスコミからの上意下達であった頃からは,大きく時代が変わっているといえる。
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発売後はSteamでも高い評価を獲得し,ユーザーたちが自主的にネタバレへの配慮をして,盛り上がりを共有する環境ができあがった。6月にはチャプターセレクトや移動速度調整を実装したアップデートが行われた(関連記事)が,これは海外の「おすすめしない」レビューに対して地道に返信した結果が反映されたものだ。
外国語を使えるスタッフもいないため,翻訳ツールを使ってのコンタクトとなったが,その甲斐あってユーザーたちの本当のニーズが浮き彫りになった。
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結果として本作は,「日本ゲーム大賞2025」年間作品部門の優秀賞を獲得した(出席できる人数は限られていたが,墓場文庫の4人全員の席を用意して欲しいという交渉がされたという)。
関係各社に向けた慰労パーティーも開かれ,ここではマグロ解体ショーが行われた。もちろん本作のタイトル「都市伝説“解体”センター」にちなんだものだ。解体ポーズのバックにマグロが浮かぶ画像も作られた。
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林氏は,現在について「ゲーム自体を面白くするのはもちろんのこと,ゲーム単体で面白いという時代は終わりつつあり,ゲームを通してお客さんと一緒に楽しむ時代が来ている」と講演を締めくくった。
ここからは筆者の所感だ。ゲーム開発において,どんなにラフでもゲーム体験ができるものを仮組みする大切さは,様々な場所で指摘されている。
「都市伝説解体センター」では,ゲーム業界未経験である墓場文庫のスタッフたちが世界を相手にしたソフトを作ることができたが,これはα版を仮組みした甲斐あっての結果だ。
ARアプリでスキャンするテンポの悪さにしろ,アドベンチャーゲーム的な要素の不足にしろ,実際に動かしてみないと分からない点であり,仮組みの効果を示す(同作はコミカライズされているが,眼鏡の方が読者にも効果的だったはずだ)。
仮組みしたものを様々な観点から見てもらったのも,興味深い点の1つである。とくに廻屋の解体ポーズについては,アドベンチャーゲームというよりも,漫画に対するアイデアのように感じられる。あるとないとでは大違いで,当初存在していなかったと聞いても信じられないくらい,見事にはまっているのが面白い。外部の視点がいかに大切であるかを示している。
ゲーム内では解体ポーズ,ゲーム外では謎解きゲームや動画,特典として用意されたボードゲームや書籍など,「都市伝説解体センター」をアドベンチャーゲームとしてだけでなく,エンタメとして捉えた施策が印象的だ。今後も墓場文庫や集英社ゲームズの作品に注目したい。
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- ライター:箭本進一
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(C)Hakababunko / SHUEISHA, SHUEISHA GAMES
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