連載
【山本一郎】無知を騙す仕組みになっちゃった「NFTゲーム」界隈の行方
最近だとその最たるものが「NFTゲーム」なわけです。
ついぞ先日も,宇宙へ跳んだおカネ配りおじさんと上場ゴール事件の人が黄金タッグを組んで,派手に打ち上げていたNFTゲーム「キャプテン翼 -RIVALS-」で,結構なやらかし事案が発生しました。本来の挙動制限を超える出金ができてしまう,“出金貫通”なる事故です。
キャプテン翼 -RIVALS- 公式サイト
しかし,今回の原稿の本筋はそこではありません。
キャプ翼にもありますが,ガチャに代表される海外事例でも割と話題になっていたNFTゲーム自体のギャンブル性がかなりの問題でありまして,これはもういわゆる「ガチャ(ルートボックス)はそもそも賭博なんじゃないか問題」も蒸し返される勢いで気になるところであります。
そもそも,NFT(Non-Fungible Token,非代替性トークン)とは何かというと,教科書的には“ブロックチェーンを基盤にして作成された代替不可能なデジタルデータ”という説明をされるはずです。これを素直にぼんやりと「複製不可能な,お前だけのオリジナルなデジタルデータ」と読む人が多いわけで,そんな誤解を前提にサービスを構築していることになります。
いつまで経っても「え,複製できないんじゃないの?」と思う人が多いので,これはもう誤解を呼ぶための景品表示法上の不実記載なんじゃないかと思います。
確かにNFT自体は複製不能ですが,その複製不可能な部分は,あくまでもデジタルデータなどにつけられるブロックチェーン上のタグみたいなものだけであって,そこに紐づけられたデジタルデータそのものは当然のことながら複製し放題です。
それどころか,別の第三者がやってきてそのデジタルデータを勝手にNFT化することだって可能なわけで,普通に考えれば「そんなのいちいちブロックチェーン使わなくてもいいじゃん」と思うわけですよ。だってデジタルデータが「複製不能」って完全に嘘なんだもの。
例えば今回のキャプテン翼について言えば,ゲームに紐づいているアニメなどでの名シーンがデジタルデータ化されてグレード分けされ,それにNFTがくっ付いて(そのゲームの中では)複製できませんよ,というだけのことです。
そんなの,ブロックチェーン使わなくたってサーバー側でルート管理しておけばいいじゃんか。ウルティマ オンライン全盛期のころも,アイテムdupeとかgp増殖とかあった気がするし。
しかし1997年当時のあのころは,まさかUOの土地取引がRMTで相場が決まってるうえに,地上げもできてテナント収入も得られていたので,実は金融商品取引法(当時は証券取引法)上の集団投資スキーム持分扱いじゃないかとか,思ってもいなかったんですよねー。その後,セカンドライフでオンライン地上げ事業なる事案もあったのは,記憶に新しいところです。
すなわち,「遊☆戯☆王オフィシャルカード」や「ポケモンカード」「マジック:ザ・ギャザリング」のように,トレーディングカードゲーム的な要素を入れることで,デジタル上での発行枚数を管理し,ゲーム内で流通しているカード資産をリアルマネーで売ったり買ったりできるようにしたれというのが,NFTゲームの本懐なわけですよ。
普通の紙に印刷されたカードであれば偽造もあり得るし,紙はあくまでも紙なんだからイラストでしかありませんが,NFTであるならばキャプテン翼のアニメ映像のように動画も扱えるし,音声も出せます。デジタルデータでさえあれば,どんな形式でもNFTと紐づけられて(そのゲームの中では)複製不可能だしええやんけ,というのが仕組みとして備わっていることになります。
ただ,リアルな現金でゲーム内のデジタル資産が売り買いできる,と言われてピンとくるのはRMT騒動(リアルマネートレード)に代表される,オンラインデジタル資産の賭博性※1です。これはもう,私もそこかしこで何度も記事にしているくらいには古典的な問題であるうえ,欧州ではガチャ(ルートボックス)規制や暗号資産規制の議論の根幹に来ている代物ですので,もういい加減にしろよというのが正直なところです。
※1:やや古いですが「スマホゲームに関する消費者問題についての意見〜注視すべき観点〜」(消費者委員会)。p.11以降が,電子くじに関する記述です
昨今のこれらの議論の下敷きにあるのは,全米バスケットボール協会公認のNFTゲーム「NBA Top Shot」にまつわる話です。ぶっちゃけ仮想通貨のブームが過ぎて,このNFTゲームもすでに下火ではあるんですが,日本円にして1000億円ぐらい売り上げたこともあり,スポーツ賭博(ベッティング)やNFTゲーム解禁に向けた議論が進もうとしていた面があります。
これらの産業の推進をしたい経済産業省では,まさにこの「NBA Top Shot」そのものの適法性を政策課題検討の中で議論をしていて,よりにもよって超ビッグな弁護士事務所の面々に意見書※2を出してもらったりしておるわけなんですが,これがまた“おい,ちょっと”という出来で,ゲーム業界系法務が頭を抱えたり椅子から落ちたりすることになります。
違法だって言ってんだろ。
※2:NBA Top Shot と類似したサービスの提供と賭博罪の成否について
もう文書としては「トークンが売買できるNFTゲームは適法です」と言いたいがための書面になっていてツッコミどころ満載なのですが,「希少性によって種類が分けられ」た「(バスケットボール)選手のプレー動画等のNFTを、無作為に複数抽出した上でパッケージに入れ、会員ユーザーに販売」し「ユーザーは、二次流通市場において、自身の保有するモーメントを転売し、換金することができる」という時点で,どう見ても賭博じゃないでしょうか。
希少性のあるデータがガチャによって輩出されるところまでは,通常のソシャゲでもまあ慣例上適法とされてるし仕方ないかなというところですが,これを換金できるでやんすという時点で,賭博の定義となる「偶然の勝敗により、財産上の利益の得喪を争う」であって,これを業としてサービスを提供した場合には賭博場開帳図利罪に,また運営に関わる事業者とプレイヤーすべてが常習賭博罪(刑法186条1項)の扱いになります。これもう,NFTとか関係ないわけですよ。
だから,ゲームで換金できる仕組みは地雷が多いからやめとけと御成敗式目にも明記されていましたし,メタバース全般でも最近は割と「それ,出資法違反じゃねえの。出直せや」とか「なるほどですね。でもその仕組みのことを僕たちは『ポンジ・スキーム型詐欺』と呼んでいます」などと反応せざるを得ない提案も増えているので,注意が必要です。
で,主にPCのオンラインゲーム業界は,そういうガチャによる賭博罪が成立しないように,日本書紀の時代から現金化しないよう細心の配慮をしてきました。ゲーム内アイテムを有償で販売することは認めないし,ゲームIDの売買も取り締まっているのは,ひとえにゲーム内での偶然の結果で,運営とプレイヤーとの間での利益の得喪が現金で発生しないようにするためです。
JOGAなどオンラインゲーム業界団体においても,ゲーム内世界でのアイテムやキャラクターなどはゲームを運営している企業からプレイヤーへの「貸与」であって,これの売買は規約で禁じ,破ったプレイヤーはIDを剥奪する権利を業者側に明確に担保しています。
ここで,デジタルで発行されたアイテムやキャラクターの資産性をプレイヤーに認めてしまうと,プレイヤーは仮に規約を破ったとしてもオンライン上の財産権を主張できることになり,違法な売買を行ったプレイヤーを,ゲーム会社は消費者契約だけでBANすることができなくなってしまいます。ひとたびゲーム内でのアイテムなどをデジタル資産にしてしまうと,その資産を保全したり,利用可能な状態に維持する義務が事業者側に発生するのです。
かつてのビックリマンチョコのシールなどと似ていますが,実はそこにあるでっかい問題は,「そもそもNFTを使う必要はない」こと,「オンラインゲームにおけるRMT問題と同じ賭博の構造である」こと,そして「後から参入した人が損をし,胴元だけが儲かるポンジ・スキームになりかねない」ことです。
しかもデジタル資産を持つ前提となっているため,NFTゲームは基本的に,資産性を持つ賭博機能を持つだけでなく為替取引にも該当する可能性が高くなります。ゲーム会社はプレイヤーの資産を管理する以上,供託金を積んだり信託契約をしたりする必要もあるでしょうし,不採算か何かでゲームから撤退する場合にはプレイヤーの財産を時価に応じて現金で戻さなければならなくなります。
そのうち,NFTゲームでプレイヤーは儲かるんだ,これはWeb3.0だし成長産業だし革命なんだと言い始めるんじゃないかと思いますが(編注:すでに言いはじめています),詐欺とまでは言えないものの,それはゲームとNFT市場を使った単なるオンラインカジノと同義であって,適法とは言えない仕組みになるでしょう。
EUではすでに,NFTなどを発行したりサービスに組み込む暗号資産企業各社に対して認可制とし,マネーロンダリングや詐欺(消費者保護)を目的としてすべてのNFT取引にIDチェックを課す新たな法律※3MiCA(Markets in Crypto Assets Regulation)を可決しています。
※3:EU経済委員会,仮想通貨法案MiCAを承認
そんなさなかに何を考えたのか,「一般社団法人ブロックチェーン推進協会」なる業界団体が,突然NFTによるガチャは適法だよという謎ガイドライン※4を策定し,ゲーム業界の法務関係者が頭を抱えたり椅子から落ちたり腹痛を催したりする事件が勃発しました。
※4:「NFTのランダム型販売に関するガイドライン」を共同公表 〜関係4団体と連携して策定〜
違法だって言ってんだろ。
これぞ正真正銘の賭博罪であり,賭場開帳図利罪※5がオンラインでも成立するので注意しましょうという話がオンラインカジノ界隈でもこれだけ話題になっている状態で,そのど真ん中を突っ切ってきたブロックチェーン推進協会の度胸には感服しきりですが,これが許されるならば,オンラインカジノも全部NFTかませばオッケー牧場になってしまいます。
ただでさえFATF勧告において日本は“マネーロンダリングにおける重点フォローアップ国”という赤点を食らう不名誉な状況に拍車がかかるので,ほんといい加減にしろと思うわけです。※6
※5:賭場開帳図利罪:賭博場を開設してそれによって利益を図った者を処罰する罪。ちなみに「ずりざい」ではなく「とりざい」
※6:コンテンツ関連企業へのヒアリングを通じたNFTビジネスの課題整理 一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブ
そこへさらに,今度はWeb3.0を成長戦略に掲げる自民党へ業界団体が微妙な提言書をもって陳情に行くという,オンラインゲーム業界で頑張る法務担当者がご家族ごと頭を抱えたり椅子から落ちる事案にまで発展してしまいます。
違法だって言ってんだろ。
NFT絡めればオンラインカジノが全部適法になっちゃうような,そんな仕組みが導入できるわけないのですが,ゲーム業界側がなんとか,辛うじてどうにかできる余地があるとするならば,消費者保護の仕組みとすべての取引(トランザクション)を管理できるeKYC※7があって,証券取引に準じた監理体制があれば,別の法律を作って許認可制のNFTゲーム業界的なものができるかもしれないなとは思います。
※7:eKYC:PCやスマホなどを使って,オンラインだけで本人認証を完結できる仕組みのこと。最近増えてきた,アカウント作成時に運転免許証などを撮影するのが,それ
でも,その辺の法的担保も満足にせず,換金ですでに貫通してしまうようなサービスが普通にローンチしてしまって消費者被害が出ている時点でお察しですし,そんな雑なゲームに担がれたキャプテン翼はさっさと版権引き揚げろという気持ちでいっぱいです。
世の中どうなっていくんですかね,これ。
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