プレイレポート
[プレイレポ]シリーズ30周年作品「Winning Post 10」は,馬の個性を表現する新システムと,迫力のレースに注目
「WP9」は,2019年の発売以降も毎年アップデート版が発売されてきたとはいえ,熱心なシリーズファンの皆さんは「そろそろシステムを一新した新作をプレイしたいなあ」と思っていたのではないだろうか。発売に先駆けて3月16日に公開された体験版をダウンロードした人も多いと思うが,最初の1年間のみのプレイが可能という制限付きだったので,今日という日を心待ちにしていたことだろう。
なおWP10は,1993年に初代WPがリリースされてから30周年を記念する作品となる。思い返せば1作目発売当時の日本競馬界は,オグリキャップ,スーパークリーク,イナリワンの「平成3強」や,米国からやって来たサンデーサイレンスが種牡馬となり,その子供たちがデビューを飾ろうとしていた頃だ。そんな30年前から今までに数々の名馬が現れた。そして1作目のころには「今後の競馬界を牽引する若手世代」という立ち位置であった武豊氏,横山典弘氏,柴田善臣氏,江田照男氏,熊沢重文氏の各騎手が,2023年の今なお現役騎手として活躍していることを思うと,いち競馬ファンである筆者としても非常に感慨深いものがある。
この30年間で日本と世界の競馬界は大きく変動してきたが,WPシリーズもその変化と足並みを揃えるように着実に内容を充実させてきた。そんなシリーズ最新作WP10をリリース前にプレイする機会を得たので,ゲーム序盤の流れを中心に内容を紹介しよう。
「初代アイドルホース」ハイセイコー時代の新シナリオで,日本競馬史のシミュレーションとしての完成度はさらにアップ
さて,WP10のプレイレポートを書くにあたって,冒頭でシリーズと競馬の歴史をちょっとだけ振り返ってみたのには理由がある。それはWPシリーズの大きな魅力のひとつが,独自の競馬史を創る歴史シミュレーションだという点にあるからだ。
WP10でもその流れは継承されており,本作ならではの新要素として1973年開始の史実シナリオが用意されている。前作の「WP9 2022」では,トウショウボーイ,テンポイント,グリーングラスの三強に光を当てた1976年シナリオが登場し,プレイ可能な史実シナリオが遂に1970年代にまで遡ったことで話題を呼んだ。
一方,WP10での新シナリオの1973年といえば,地方競馬出身の「怪物」ハイセイコーが中央デビューを飾ったことが社会現象となったことが思い出される。いわばこの年は,現在まで続く競馬ブームが生まれた年なのだ。
また後に詳しく触れるが,WP10のゲームシステムは,過去のシリーズ作品と比較して1頭1頭の競走馬により焦点を当てるようになっている。その意味でも,ハイセイコーという初代アイドルホースが誕生した1973年シナリオは,本作のコンセプトにピッタリはまっていると言えるだろう。
史実シナリオとしては1973年以外にも,1984年,1991年,1998年,2005年,2012年の各年からゲームを開始できる。各シナリオにも競馬史を代表する名馬が揃っているので,特定の推し馬がいる場合にはぜひ各年代をピンポイントで選んでプレイしてほしい。
2023年現在までの史実に基づきつつ,これらからの競馬史をシミュレートしていくことに興味がある人は,2024年シナリオもおススメだ。
シリーズおなじみのゲーム展開の中でキラリと光る,WP10ならではの新要素
シナリオ選択後のプレイの流れは,前作までをプレイしたことのある人にはおなじみのものだ。
まずは,プレイヤーの分身となる馬主の情報,そして秘書や牧場長などのスタッフを決めていく。選択肢によってプレイの難度が大きく変わるわけではないので,自由に選ぼう。
ちなみに,前作では「30億円の借金を抱えた状態でゲームが始まり,その借金を毎年1億円ずつ返済していく」という設定だったが,本作ではそうした借金はなく,20億円を自己資金として持った状態で始まるようになっている。
莫大な借金を返すプレッシャーはなくなって嬉しい反面,初期に使える資金が10億円減ったことで,序盤に大量に有力馬を購入したり,牧場を一気に強化したりといったスタートダッシュが決めづらくなっているので,気をつけたい。
初期設定が終わったら,次は最初に所有する馬の選択だ。WPシリーズでは最初からかなり強い馬を譲ってもらえるのだが,WP10でもそのあたりは変わらない。
例えば1973年シナリオの場合で選べるのは,日本ダービーやオークスなどを目指す3歳クラシック戦線だとイチフジイサミ,4歳以上の古馬戦線だとストロングエイト。どちらも,史実では最高級のGIレースを勝っている名馬だ。
これだけ強い馬なのだから,初戦から連戦連勝できそう……と思いきや,なかなかそうはいかない。ほかの出走馬のレベルやそれぞれの馬の得意分野を見極めて,「これは勝てないだろう」というレースは避ける必要がある。
WPシリーズの競走馬や繁殖馬には細かいステータスが設定されているが,出走するレースを決めるうえで特に注意したいのは以下の5点だ。
・距離適性
相手にもよるが,200m程度の逸脱ならば関係なく好走してくれることもある。だが基本的には,距離適性範囲内のレースに出るようにしたい。なお,距離適性はその馬の「柔軟性」を強化することで広げられる。
・芝ダート適性
芝でしか走らない馬をダートに出しても,好成績は望めない……のはあたりまえなのだが,上の距離適性を意識しすぎるあまり,そのレースが芝かダートかを見落とすこともあるので気をつけよう。
・競馬場の坂の有無
東京競馬場などの最後の直線に坂があるコースでは,「パワー」のない馬は活躍できないことが多い。その場合は京都や小倉などの平坦な競馬場のレースを選びたい。
・負担斤量
このゲームでは一般に,斤量が60kgを超えるレースではパフォーマンスが大きく低下する。特に獲得賞金に応じて重量が増減するレース(それほど出走馬のレベルが高くないオープン・リステッド競走に多い)では,想定外の斤量が課せられるケースもあるので,出走させる場合には気をつけたい。
・調子と疲労
レースの条件とは別に,毎週変動する調子と疲労にも注意が必要だ。よほど強い馬でないかぎり,調子と疲労は〇か◎の時に出走させたい。
上記の項目のチェックは,半ば無意識のうちに行っているWPシリーズの経験者の人も多いだろう。しかし,1頭や2頭ならともかく十数頭もの所有馬のローテーションを組むのは,これまではなかなか骨が折れる作業だった。
しかしWP10では,レース番組表からレースを選ぶ際に,どのレースが適しているかがアイコンで分かるようになっている。このおかげで,所有馬それぞれに合ったレースを膨大な選択肢の中から選ぶのは,前作までよりもはるかに楽になった。
大レースで好成績を残すには,WP10の新要素である「ウマーソナリティ(略してウマソナ)」や「史実調教」を利用しながら,愛馬の能力を強化していくことも重要だ。
ウマソナは個々の馬の個性を表したもので,性格に由来するものだけでなく,好き・嫌い,得意・苦手など,馬の内面をより具体的にしたものになっている。例えば筆者が1973年で選んだイチフジイサミの場合は,初期状態で「スパルタ調教向き」「詰めが甘い」といったプラスとマイナスのウマソナを持っており,ゲームを進めることで新たにウマソナを獲得していくことも可能だ。
また,所有馬を預ける調教師やレースに乗る騎手にも,それぞれ得意とするウマソナがある。相性が最高でなくてもプレイに大きな支障が出るわけではないようだが,本作でパワーアップしたアニメーションによって生き生きと動く馬のステータス画面を見ながら,「この馬はスパルタ調教に強いけれどもちょっとわがままみたいだから,そんな馬の育成に長けた調教師や騎手に預けよう」などと考えるのは,WP10ならではの楽しみと言えるだろう。
なお,最近の競馬メディアに関して言えば,厩舎,牧場,競馬ファンのSNSを中心に,個々の馬のちょっとした(「人間くさい」とも言える)癖やしぐさなどの個性が話題になる機会が多くなっているように感じる。ウマソナは,そんな傾向ともシンクロしているようで面白い。
もうひとつの新要素「史実調教」は,「プール調教」や「シンザン鉄」といった実在の調教技術によって,通常よりも馬の能力を大きく伸ばしたり,追加で特性を上位特性へ進化させたりできるコマンドだ。
それぞれの史実調教は,特定のウマソナを持つ馬が実行することなどで大成功の確率がアップする。これにより,能力の上昇幅が増えるほか,馬との信頼レベルが上がり,マイナスのウマソナを克服できるようになっている。ここでもウマソナは存在感を発揮しているのだ。
ちなみに,個々の史実調教には,その調教が成立した年が表記されているが,これは必ずしもゲーム中でその年にならないと出現しないというわけではなく,ゲーム展開次第ではいわば「未来」の調教が利用可能になったりもする。
そしてWPシリーズを通してみた場合,この史実調教は「ゲーム内における馬主シミュレーションの要素と調教シミュレーションの要素のバランス」を考えさせてくれる興味深いシステムだ。
WPは第1作から基本的に(生産者を兼務する場合も)「馬主シミュレーション」であり,調教に関しては馬を管理する調教師に大まかに指示するシステムであることが多かった。だが本作では,より細かく調教を指示して所有馬の各ステータスを強化できるようになっている。1か月毎に行える史実調教の回数はごく限られているので,すべての馬を毎週に調教するというわけにはいかないが,史実調教という表現そのものが非常に具体的なこともあって,シリーズの過去作品よりも個々の馬の調教に深く関わっているという感覚を覚える。
さらに,「限られた回数の史実調教を,どの順番でどの馬に行うか?」を考えるのも楽しい。すでにGIレースを勝利している一流馬をさらに強くするか,それとも2歳,3歳の未来のエースを育てるかなど,馬主としてさまざまな戦略を立てられる。
このようにWP10は「調教シミュレーション」としての魅力も高まっているのだ。
本作では,ウマソナや史実調教を活かし苦労して育てた馬が走るレースシーンにも注目だ。
WP10の新しい観戦モードである「ドラマチックカメラ」の導入によって,レースシーンはこれまで以上に表現力が増しており,愛馬が走る度にスクリーンショットをつい何枚も撮ってしまう迫力ある映像が楽しめる。
百聞は一見に如かず。以下でご覧いただこう。
このドラマチックカメラは,普段私たちが競馬場やテレビで目にする実況中継のシーンの演出を超えた,ゲームならではの表現だ。
先日行われたドバイワールドカップデーなどの海外の競馬中継を見ていると,騎手のヘルメットに装着したカメラや,ヘリコプターによる上空からの撮影などを通じて,日本の競馬とは異なるアングルからの映像を駆使したレースシーンを楽しめるようになっている。
WP10のドラマチックカメラにおけるカメラワークも,こうした「別の世界のリアル」を再現するものになっていると言えるのではないだろうか。
余談だが,JRA(日本中央競馬会)も,今年春から新しいトラッキングシステムを利用して,レース中の馬の順位をリアルタイムで表示する計画を発表している。筆者も実験的にトラッキングシステムを利用したレース中継を見てみたのだが,その画面は競馬ゲームのレースそのものであり,「このシステムは競馬ゲームに影響を受けて生まれたのではないか?」とすら感じたものだ。実際には海外競馬の中継スタイルの影響が大きいと思うが,このトラッキングシステムは,実際の競馬と競馬ゲームの間のレース演出上の差異を埋める構想として,個人的にこれからも注目していきたいテーマになっている。
さて,プレイヤーの役割は競走馬のマネジメントだけではない。前作同様に,より優秀な馬を生産していくこともプレイヤーの大事な使命だ。
生産の鍵は,「配合評価」と「爆発力」,この2つの評価が高い配合を行うことだ。
史実の名馬を生産することもできるし(そのために,その祖先となる馬を前もって入手しておく作戦も有効だ),そうした史実馬に負けない強力な架空馬の生産を目指すことができるのも,シリーズ従来作と変わらない。
生産と並んで,牧場施設も忘れずに強化しておきたい。
デビュー前の幼駒を育てるトレーニング施設を優先するか,生産・売却できる競走馬の頭数を増やすかなど,さまざまな可能性が考えられるが,筆者のおススメは,温泉施設の拡張だ。温泉施設を建てておくと,馬を放牧させた際に競走寿命が回復するというメリットがある。史実では1年程度で引退してしまった有力馬も長期間活躍させ,その分賞金も多く獲得できるので,資金の乏しい序盤は特に役立ってくれるだろう。
まだまだ粗削りだが,新しいナンバリングタイトルにふさわしい意欲作
以上,新要素を中心に紹介してきたが,WP10はナンバリングが新しくなったことで粗削りな部分も散見されるのは確かだ。
特にUIは改善の余地が大いにあるように感じた。今回筆者がプレイしたのはPC版だったのだが,各種コマンドボタンの配置場所がそれぞれ画面隅に分散されているために,毎週のマウス操作が正直苦痛だった。
レースシーンの圧倒的な美しさ,セーブスロットの多さ(最大50件),観戦しないレース処理の速さ,そして史実馬の情報をnetkeiba.comですぐに検索できるオプションなど,PC版にしかない長所は多いだけに,コントローラへの対応も含めて,今後改善されてほしいと切に願う。
また,ツールチップへの対応にも改良の余地がある。一部の競馬専門用語はツールチップ化されており,マウスカーソルを合わせると意味を確認できる。だが,プレイしていると,特性やスキル,あるいは「瞬発力」「勝負根性」といった基本ステータスでさえ,「あれ,これはゲーム中でどんな効果や役割があるんだっけ?」と分からなくなることは非常に多い。極端に言えば,画面上のすべての用語についてツールチップが用意されていてもいいくらいだと感じた。
これらの操作や用語まわりの不満はあるものの,WP10は同シリーズが30年をかけて培ってきた「ウイポらしさ」をしっかり押さえつつ,ウマソナや史実調教,そして迫力を増したレースシーンなど,所有馬に対してさらに親近感を感じさせてくれる工夫を凝らした意欲的な作品になっている。
本文中でも触れてきたが,近年の競馬界における数々のトレンドをかなり意識した内容になっているので,ここ数年で競馬ファンになった人が最初にプレイする競馬ゲームとしてもおススメだ。本稿を読んで気になった人は,ぜひ遊んでほしい。
「Winning Post 10」公式サイト
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