プレイレポート
[プレイレポ]ホラーADV「パラノマサイト」は,蘇りを求める者たちの呪い呪われバトロワ。“PCを○○して○○する”などメタも多し
パラノマサイトは完全新規のタイトルで,価格はSwitch/PC版が1980円(税込),iOS/Android版が1900円(税込)となる。
プレイ時間も約10時間。週末を彩るのに手ごろなボリューム感だ。
開発面では,同社の「スクールガールストライカーズ」で肩を組んだ石山貴也氏がディレクター/シナリオを,小林 元氏がキャラクターデザインを担当している。現在運営中の「スクールガールストライカーズ2」では,本作とのコラボシナリオやクリエイター対談動画も公開中だ。
このほか,コンポーザーには「ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル」などで活動した岩﨑英則氏が起用されている。
【#パラノマ紹介】#パラノマサイト のプレイ時間は、じっくりプレイして完全クリアまで10時間程度になります。さらに、倍速モードもありますので、読むのが速ければ5〜6時間で終わらせることもできます。
— パラノマサイト FILE23 本所七不思議【公式】 @3/9(木)発売決定! (@PARANORMA_PR) March 2, 2023
休みが一日あればすべての要素を堪能できますので、あまり時間が取れない方にもおすすめです。 pic.twitter.com/mFcyzH9iSC
ホラーとしてのモチーフは,タイトルのとおり江戸時代から伝わっている怪談「本所(現代の東京・墨田区)七不思議」である。
この主題に伴い,360度ぐるりと見渡せるパノラマ背景には墨田区や墨田区観光協会も協力し,時代設定の監修なども行われたそうだ。
物語は大まかに“昭和世界の登場人物たちが,大切な人を蘇らせるために,ライバルたちを呪い殺していく”といったもの。
見出しで書いたように,呪い呪われのバトルロイヤルである。
これより本稿では,一足早くエンディグまでプレイしたPC(Steam)版のインプレッションを交えつつ,ネタバレを極力抑えながら本作のストーリーやホラー要素などを紹介していく。
ショッキングな画像は使っていないため,ホラーが得意ではない人や,どの程度の怖さかと参考にしたい人も安心して読んでほしい。
※本稿にはゲーム序盤のネタバレを含みます
「パラノマサイト FILE23 本所七不思議」公式サイト
「パラノマサイト FILE23 本所七不思議」ダウンロードページ
「パラノマサイト FILE23 本所七不思議」ダウンロードページ
「蘇りの秘術」を手に入れるため,呪い合う
舞台は昭和後期,東京都墨田区南部地域の「本所」だ。
こちらは実在の地域で,当時の連絡手段は黒電話や公衆電話,子供たちは駄菓子屋に通い,今とは比べ物にならないほどの環境汚染にさらされ,どっしりとしたブラウン管テレビに映し出されるのは,都市伝説や超能力などのオカルトばかり……といった隙の多い時代である。
そんな背景のなか,死者を蘇らせる“蘇りの秘術”の方法が書かれた古文書が発見されたと,世間でうわさになりつつあった。
そして,ごく一般的な会社員「興家彰吾」(おきいえ しょうご)も,オカルト好きの女性「福永葉子」(ふくなが ヨーコ)に巻き込まれて,蘇りの秘術を探すことになったひとりである。
葉子は,うわさの秘術に“本所七不思議”が絡んでいると推測し,2人はそのゆかりの地である「錦糸堀公園」を訪れた。
そこで,なにかを見てしまった葉子が,突然死する。それだけでも驚愕の事態だが,彰吾も本所七不思議の1つ「置いてけ堀」の呪いを受けて,“呪主”(かしりぬし)になってしまう。
さらに,呪いの怨念から「呪いで人を殺せば,その魂を糧に,蘇りの秘術が発現する」「ほかの呪主を殺せば,より大きな糧を得られる」と告げられ,彰吾は葉子のために秘術を成就させるべく行動に出る。
……といった場面から,ストーリーの幕が開ける。
このほかの登場人物もさまざま。連続変死事件を追う刑事「津詰徹生」(つつみ てつお),幼なじみの自殺が信じられずにいる女子高生「逆崎約子」(さかざき やっこ),ある事件で失った息子を蘇らせたい母親「志岐間春恵」(しぎま はるえ)といったキャラクターたちが次々と現れ,9人の男女それぞれの視点から秘術に迫っていく。
彰吾の夜になにが起きたのか? 蘇りの秘術とはなんなのか?
すべての答えは,“自分の手で”解き明かしていく。
あらゆる手段を講じて,呪主を出し抜け!
テキストアドベンチャーとしては,登場人物ごとに用意された“パートを選ぶ形式”となり,プレイヤーは好きな人物の話を選べる。
物語はキャラクター会話のほか,ポイント・アンド・クリック方式で画面内の気になる場所を調べ,ヒントを集めるなどして進めていく。
また,約子視点では手詰まりになった場面に,春恵視点の行動で影響を与えるなど,キャラクター視点を自由に切り替えられるからこそのギミックも存在し,複数ルートを並行して進めるのが大切だった。
作品の大きな特徴は,呪主となった登場人物たちの駆け引きだ。
呪主はそれぞれ“本所七不思議にまつわる呪い”を扱えるが,当の呪いは無差別に行使できるものではなく,「特定の条件下にある相手なら呪い殺せる」といった制約が課せられている。
また,呪主は必ず「呪詛珠」と呼ばれる根付(※)を所持しているが,それ以外に一般人と見分けがつく特徴は存在しない。
※江戸時代に使われていた留め具。小物を入れる,提げるための用具
そのため,いかに自身の手の内を見せずに,相手を追い詰められるかがストーリーのポイントとなるのだが……呪いのなかには“嘘やごまかしをトリガーに発動するもの”も存在している。
ゆえに「彼は本当に呪主なのか?」「彼女に呪主であると知られているのか?」「自分が呪主であると正直に明かすべきか?」など,緊迫感のある腹の探り合いが展開し,それが醍醐味となっている。
いかに呪いをかけられないように立ち回るかは,アドベンチャーパートで追っていくわけだが,呪いの発動条件も多種多様だ。
相手の呪主が本所七不思議のどれに由来しているのかがヒントになる場合もあれば,相手との会話によって引き出せることや,くまなく周辺を探索しておくことで呪いの回避手段を達成できるケースもある。
本作は,ただ話を読むだけでスルスルと進んでいけるゲームではないため,選択肢を誤れば,ダメなときはダメ。身も蓋もないが「一度あえて相手の呪いを受けて,ルートをやり直す」のも攻略法になる。
なにより,作中には「そんなことしていいの!?」とばかりに,システムやハードウェアを活用したメタい解法がチラホラあるのだ。
それらは言ってしまえば,往年の“ファミコンのコントローラ2を駆使するような裏技めいた操作”となるため,ゲーム内の攻略指南や資料をじっくりと読みこみ,さまざまな手段を試す必要がある。
ちなみに,呪主になった者は,本所七不思議の“怨みの記憶”を引き継ぐ。そこで明かされるのは,逸話にまつわる人物たちの,長い時間を経ていくうちに失われてしまった悲しみや怒りの記録だ。
例えば,“置いてけぼり・置いてきぼり”の語句の語源として有名な「置いてけ堀」はもともと,江戸本所の錦糸掘りと呼ばれる一角で,釣った魚を持ち帰ろうとすると,堀から「置いてけ……置いてけ……」と怪しげな声に引き止められるという怪談として伝わっていた。
しかしそこには,後年の語句に込められている,置き去りにされるの意や,孤独を思わせるの意といったストーリー性は存在しない。
だが,本作で置いてけ堀の恨みの記憶に触れると,両親に置いてけぼりにされた少女の悲しい出来事が明かされる……といった具合だ。
要するに,さまざまな角度で物語性が付加されている。
こうして徐々に明らかになっていく怨みの記憶も,作中のストーリーに関わっていく。これらも合わせて考察しながらゲームを進めていくと,物語の解像度がより増していくことだろう。
ホラーをより際立たせる,360度パノラマ背景
ポイント・アンド・クリックでの探索画面では,キャラクターの視線を動かすこともできる。とくに360度パノラマ背景のときは前方を見るだけでなく,ぐるりと後ろを振り返ることも可能だ。
そして,この操作が本領を発揮するのは……心霊表現である。
ホラー映画には「後ろからナニかの足音が聞こえ,登場人物がゆっくり振り返ると,そこには……!」なんてシチュエーションがよくあるが,本作の場合,まさにそれを自分の手でやらなくてはならない。
例として,目の前であからさまに背後を指さしされるとか,真っ暗闇を声だけを頼りに見渡さなければならないとか,もう明らかに「……いるよね?」と思うほかない状況に追いやられるわけだ。
ホラーが苦手な筆者は,事前予告があるだけまだマシと受け止められはしたが,己の操作で振り向かせる所業を恨みたくもなり,実に煩悶した。とはいえ,そうした場面でおびえ,焦り,悩み,ためらった時間のぶんだけ,この世界への臨場感が高まったことは間違いない。
ついでに伝えるが,本作にはホラー演出の一環として,見ている人を突然驚かせてくる類いの,いわゆる“ジャンプスケア”も存在する。
あくまで個人的な感覚だが,この演出により,今回のプレイ中に思わず「うわっ!」と声を上げてしまう場面があった。数回ほどあった。
ジャンプスケア自体の総数はあまり多くはないため,ややマイルドとも評せるが,その反面,不意打ちの確度が高まってよりドキドキもしたしと……どれくらいのホラー度なのかの参考になれば幸いだ。
謎の案内人に導かれ,“自身”で解決を目指す
さて,物語の立ち上がりでは主人公のように紹介していたサラリーマン彰吾だが,実は彼,ほどなくして呪いで死んでしまう。
このあたり「思いっきりネタバレじゃんか!」と思われるかもしれないが,なんとこれ,ゲーム開始から数分で訪れる展開である。
もはや,あらすじ相当のネタバレとしてご容赦いただきたい。
作中ではその直後,謎の人物「案内人」が現れ,我々プレイヤーに語りかけてくる。そしてそこから“ブラウン管に映し出された(作中での)出来事を,外側から眺めている”といった構図を目にする。
案内人は狂言回し的なストーリーテラーであり,プレイヤー自身に9人の男女の物語を見届けてほしいと,あれこれ説明してくるのだが……ひょんな流れで,物語の結末まであっさりとバラしてくる。
それを知ったところで,登場人物たちがどのような呪いで死んでしまうのかは分からないので,ストーリー展開は十分に楽しめる。
一方で,ミステリーと題する作品側からいきなりネタバレされたのが驚きなため,「どういうことなんだ!?」「なんかの叙述トリックか!?」とドンデン返しへの疑いが晴れず,そのせいで先が気になってしまい,どんどん進めてしまった。これが制作側の狙いなのかもしれない。
つまり本作は,結末からのスタートで過程を追う作品であると同時に,プレイヤーという見えざる神の視点と存在,いわば自分自身が呪いのバトロワを眺める主人公であるというメタな作りなのである。
ゆえに,システムやハードを駆使する仕掛けにも説得力がある。
しかも,ここまで説明してきた内容はほんの序盤にすぎず,ストーリーの核心には程遠い。むしろ彰吾が死んでからの物語が本番で,蘇りの秘術をめぐる状況はそこからますます混迷を極めていく。
主人公だと思っていた人物が序盤にあっさり死んでしまうのは,作劇としてはままあることだが。そこから興味関心をグッと引っぱってくれて,きちんと加速する面白さがあることは,この時点で約束しよう。
なお,プレイヤーの存在を認知しているのはあくまで案内人だけであり,登場人物たちは当然,我々の存在に気付いていない。
彼らはプレイヤーの意思により,知らずのうちに何度も失敗を重ねる。同時に,ある人物には知るよしもない,プレイヤーがほかのルートを進めたからこそ気付いた事実をまるで天啓のように授けられ,目の前の危機を回避していく。彼ら自身,「私はなんでこんなことを知っているんだ!?」と戸惑うものの,ピンチに陥っているからか意外とスムーズに受け入れる。こうしたキャラクターたちの動向もけっこう面白い。
そしてこの構造も,呪いの真実とあわせて,ストーリーに重大な意味づけがなされる。なぜプレイヤーの存在が必要なのかも後々明かされるわけだが,あれこれ想像を膨らませているうちに,自らが物語を眺めるだけではない介入者であることを自覚していき,没入していく。
つまるところパラノマサイトは,インディーズ界隈で再評価が進んだ,メタ的な視点と体験を備えたテキストアドベンチャーの作りに,ホラーを主題として真っ向から挑戦した作品なのである。
また,ここまでの解説がネタバレに見えた人もいるかもしれないが,断じておこう。本稿の記載情報はあくまで“物語導入のセットアップ”であり,冒頭のツカみでしかない(そのツカみを担うのは本来,初見プレイをさせるゲーム側であるべきなので,ツカみだろうがネタバレと言われればおっしゃるとおりとしか言いようがないのだが,そこはメディアの業ということで許してほしい……などと言い訳は置いてけぼりにして)。
ここまでの前提情報が面白さの頂点,などという出落ち作品でもない。期待すべきは,ここからはじまるホラーミステリーなのである。
映画1本分の約2000円というお手ごろ価格のため,遊ぶ前は3〜4時間くらいでサラッと終わるボリュームを予想していたが,実際にプレイしてみて,いい意味で大いに裏切られた本作。
本日から各プラットフォームのストアでは,配信記念の20%OFFセールも実施中なので,早めの購入がおトクである。
春になったら上京。新生活のスタート。せっかくだからと東京スカイツリー観光。塔のお膝元こそ墨田区,などといった連想に当てはまる人は,墨田区および墨田区観光協会のキモも入った本作を,本所七不思議の予習・復習がてらにプレイしてみるのはいかがだろう?
ただし,初めての一人暮らしでの真夜中プレイにはご注意を――。
「パラノマサイト FILE23 本所七不思議」公式サイト
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