インタビュー
[TGS2023]多くの人にSRPGの面白さを届けたい。アトラス×ヴァニラウェアの新作「ユニコーンオーバーロード」開発者インタビュー
独特のビジュアルやアートで,コアなゲームファンから支持を集めるヴァニラウェアが,シミュレーションRPGに本格的に挑む。先日実施された「Nintendo Direct 2023.9.14」でこの発表を受け,驚かされた人たちは少なくないだろう。なぜシミュレーションRPGだったのか,どのような思いを持って制作されたのか。開発のキーマンであるヴァニラウェアの野間崇史氏,中西 渉氏,アトラスの山本晃康氏に話を聞いた。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは,本作における各々の役割など自己紹介をお願いします。
野間崇史氏(以下,野間氏):
ディレクションを担当した野間です。元々はプログラマーなのですが,絵自体は前から描いていて,せっかくの機会なのでキャラクターも描きたいなと思っていました。それでキャラクターデザインやプログラム,スクリプト……と,いろいろやっています。
中西 渉氏(以下,中西氏):
プランナーの中西です。「ユニコーンオーバーロード」全体のシステム設計から,ステージやイベントといったゲーム内のコンテンツ制作に携わっています。
山本晃康氏(以下,山本氏):
アトラスの山本です。僕はパブリッシャとして,デベロッパであるヴァニラウェアさんとゲームの方向性やクオリティについて話し合ったり,本作の窓口としてゲームの魅力をお伝えしたりといった役割を担っています。
4Gamer:
本作の発表ですが,「急にきたなあ」という感じがあり驚かされました。
アトラス×ヴァニラウェアによる新作シミュレーションRPG「ユニコーンオーバーロード」,2024年3月8日発売
任天堂は本日配信した「Nintendo Direct 2023.9.14」にて,アトラスとヴァニラウェアによる新作シミュレーションRPG「ユニコーンオーバーロード」を発表した。発売は2024年3月8日とアナウンスされている。
野間氏:
ええ,確かにユーザーの皆さんにとっては,突然発表されたという印象があったかもしれませんね(笑)。私たちは黙々と作り続けていて,ついにこの日を迎えたという感じがありました。
4Gamer:
以前「匂わせかな?」みたいなアクションがあったものの,それすらも忘れていたところにというか。
山本氏:
約4年前「十三機兵防衛圏 プロローグ」に入っていた映像ですね。
野間氏:
今回の発表のあとにSNSの反応を見ると,覚えていらっしゃる方がちらほらいらっしゃいました。「誰も覚えていないよね?」という思いがあったので,話題にしていただけていたのはうれしかったですね。
4Gamer:
匂わせが4年ぐらい前ということで,その時点で開発は進んでいたのでしょうか。
中西氏:
企画立案まで戻ると,スタートは2014年なんです。先日,企画書の日付をあらためて確認したんですが,そこには2014年3月7日と記されていました。ゲームの発売予定日が2024年3月8日なので,ちょうど10年で発売になることに気づきました。
4Gamer:
奇しくも20周年記念タイトルであり,開発10年という作品になりましたね。
中西氏:
いえいえ(笑)。そうは言っても,間にほかの作品を作っていたので,10年間ずっと開発を続けていたわけではないです。本格的に取り掛かったのは,2016年頃だったと思います。
山本氏:
アトラスにお話をいただいたのもそれぐらいの頃でしたね。現在,ゲームのタイトル画面で使用されているイラストが企画書のトップにあしらわれていました。
4Gamer:
アトラスとして,企画の提案を受けたときの印象はどうでしたか。
山本氏:
「1990年代のシミュレーションRPGを掘り起こす」という明確なテーマがその頃からありました。「ドラゴンズクラウン」のときの「1980年代のベルトスクロールアクションを2010年代に出すとしたら」という考えに近いものを感じました。
なにより,「シミュレーションRPGというジャンルで新しいものを生み出したい」というご提案がすごくチャレンジングで,それにとても共感したというのが大きかったです。
4Gamer:
まさにそれが聞きたかったことなのですが,なぜシミュレーションRPGだったのかということを詳しく知りたいです。
1990年代のシミュレーションRPGというと,このジャンルの金字塔となった作品がいくつかありますよね。これは2023年9月20日に開催された「ATLUS TGS2023 MEDIA BRIEFING」でマフィア梶田さんが質問していたことに近いですが,そのシミュレーションRPGに挑むというのは相当なチャレンジだったのではないでしょうか。
山本氏:
おっしゃるとおりです。1990年代というのは同ジャンルの完成形,これ以上のものはないのではないかと思わされるようなマスターピースが生まれた時代です。
ただ,本作の1990年代のシミュレーションRPGを掘り起こすというテーマは,特定のタイトルだけをベンチマークにするものではないんです。その時代に出た,世界を神の視点で見下ろしたゲーム全般にワクワクしていた世代なので,そういった僕たちが魅了されたものを「今,遊びたい」と思える形にすることに真っ向から挑みました。語れば語るほど無謀な挑戦に聞こえてくるのですが(笑)。
4Gamer:
特定のタイトルではなく,1990年代の16-bitの2D見下ろし型ゲーム全般を掘り起こしているわけですね。
野間氏:
そうですね。そもそもこの企画を立てた理由というのが,私が昔遊んでいた思い入れのあるゲームをいまの時代に遊びたいという思いがあったことなんです。「自分が遊びたいゲームがあるけど,待っていてもなかなか出ないし,じゃあ作ってみよう」と。
もともと僕自身がシミュレーションRPGが好きで,山本さんと同じくいろいろな作品を遊んできたんです。振り返ってみると,そういったテーマとなった考えは自然と存在していたんだと感じますね。
4Gamer:
テーマをこうしようと話し合ってできたとかではなく,そもそも始まりがそれだったんですね。
野間氏:
ええ。といっても「自分が遊びたいゲームを作りたい」という考えは,シミュレーションRPGだけというわけではありません。マップを移動していると,そこで何かしらの出来事が起きて,それに関わるかどうかは自分次第という,自由度の高いゲーム性も特徴としてあります。
4Gamer:
野間さんの説明をうかがって,同じく1990年代に誕生した名作RPGシリーズが思い浮かびました。続いては自由度の高いゲーム性とストーリーの進行について知りたいです。
野間氏:
まず最初にお伝えしておきたいことが,ゲーム内の世界は,すべてが繋がったひとつの広大なフィールドとして描かれているということです。
世界は「ゼノイラ」という帝国に支配されており,プレイヤーはその支配から解放するために解放軍を率いて各地を巡ることになるんです。それは決められたストーリー進行に導かれてではなく,プレイヤー自身が自由にどこで何をするか,どこから攻略するかを選択できるのが特徴となっています。
4Gamer:
各地が繋がっていて自由に行き来できるフィールドを,このビジュアルの作り込みで表現するというのはものすごいことだと思います。なぜひとつの繋がった世界を描くことにしたのでしょうか。
野間氏:
本作で大事にした思いに,「移動が物語を紡ぐ」というのがあるんです。
プレイヤーが自由に,自分自身の物語を楽しめる。本作でやりたかったことを表現するうえで,自分自身が移動して,そこで起きるさまざまな出来事について自分で考えて対処できることって欠かせないなと。
4Gamer:
自由に冒険できるところは大きな魅力ですが,プレイヤーの中には「ある程度は導いてもらいたい」という人もいると思います。こういったゲームを普段遊ばない人には難しそうという印象を持つ人もいると思うのですが,そのあたりはいかがでしょうか。
中西氏:
自由度が高いといっても,決して何も分からないまま放り出されるということはないです。基本的には何かしらの目的となるものは提示されるので,そこはご安心ください。
野間氏:
大筋となるメインクエストが存在していて,それを目標にしつつ違うところにも行ってみて,そこで発生する出来事や探索を楽しみながら好きに進めていただく,という形かなと思います。
中西氏:
メインクエストを進める場合も,その目標地点にどういうルートでいくのか,道中で遭遇した出来事を攻略するのかスルーするのかといった,プレイヤー自身が選択する自由さを楽しめることがたくさんあります。
「ここを進みたいけど重装備の戦士がいて突破できない」という場面があるとしたら,「魔法使いを仲間にしてから戻ってこよう」もありですし「遠回りになるけど南のルートを行こう」みたいな考え方もできるといったイメージですね。
4Gamer:
遠回りのつもりがルートを外れて寄り道して,そこでメインクエストとは関係ない人助けのイベントが始まって……みたいなことも発生しそうですね。
野間氏:
ええ。そういう楽しみ方をしていただくうえでも,すべてのエリアが繋がっている世界という仕組みにしたことが本当に大きかったと思います。
広くて迷うとかではなくて,あちこち歩いていたらなにかしらが起きて楽しめる。僕たちが作りたい,遊びたいと思ったゲームをうまく表現できたと感じています。
4Gamer:
バトルについても教えてください。シミュレーションRPGと聞くと「難しそう」とイメージする人は少なくないのではと思うのですが。
中西氏:
そのあたりは特に気を遣っていまして,例えば難度の選択ができたり,先ほどご紹介したようにルートが自由ですので苦手なステージを後回しにしたりすることもできます。
山本氏:
本作に登場する兵種の相性は,屈強な鎧を着た戦士は剣や弓に強いけど魔法に弱いといった,ファンタジーゲームで馴染みのあるものになっています。難度を下げてその辺りの基本を踏まえてプレイしていただければ,シミュレーションRPGに慣れていない人でも問題なくゲームを進められると思います。
4Gamer:
シーフは回避率が高いとか,ハンターは遠距離から高い命中率を誇る矢を放つとか,そういったイメージですね。基本はじゃんけん的な分かりやすさはあるけど,難度設定やルートの選択で,プレイヤーのスタイルに合った遊びに変えられるということですね。
山本氏:
そうですね。いずれ戦うことになるかもしれないけど,いまの時点では強そうだと思ったら戦いを避けるという選択もありますし,負けてしまっても近くの拠点に戻ってすぐゲームを再開できます。
中西氏:
あと,ステージは基本的にリアルタイムで進みますが,何か指示を出すときは時間を止められるので,じっくり考えることができます。
また,ステージ上で敵軍と接触するとバトルになるんですが,仲間キャラは事前に個別に設定した「作戦」を元に行動します。詳細は今後公開していきますが,そのあたりでもこれまでシミュレーションRPGをプレイしたことがない人も楽しめると思います。
4Gamer:
さまざまな要素が盛りだくさんという感じですが,現在の形にまとめるまでは大変だったのではないでしょうか。
野間氏:
正直なところ,試行錯誤には相当な時間をかけています……(笑)。ただ,その甲斐あって遊びごたえのあるものになったと思います。
世界が繋がっているというところでも,いろいろと考えることはありましたね。
ゲーム内の世界には砂漠や雪原地帯などいろいろな地域がありますが,そのエリアならではの物語や遊びを用意して,プレイヤーが行ってみたくなるように作るのはなかなか大変でしたね。
4Gamer:
ビジュアル面もこれぞヴァニラウェアな,相当なこだわりを感じます。地域によってその風景や建物の雰囲気も異なりますし,マップの広さをみると,描くことはもちろんですがそれをどう配置するかもかなり気を遣いそうです。
中西氏:
地形に関しても調整に調整を重ねていますね。「こんなところに行けるの?」みたいなところを歩けて,その先に進むと宝があるとか,遊びの部分は大事に作っています。
4Gamer:
キャラクターはいかがでしょう。そもそも見下ろし視点の時点で今までにない雰囲気ですが,フィールドのデフォルメされたキャラクターは新鮮でした。
野間氏:
個人的な話になりますが,キャラクターデザインを担当したのは初めてでした。そのため,自分が描いたキャラクターがゲーム内で動いているのを見たときは,本当にうれしかったですね。
フィールドのアイコンはボードゲームのメタルフィギュアをイメージしました。結果的にフィギュアとはちょっと離れたものになりましたが,デザイナーが本作ならではの雰囲気に仕上げてくれたんです。発表されて間もないため,まだお話できないことがたくさんあるんですが,仲間になるキャラクターやユニットの見せ方もとてもこだわっているので,皆さんに早く届けたいですね。
4Gamer:
サイドビューのイベントシーンやバトルは馴染みのあるものという印象を受けました。今回もとてもアーティスティックで,そして動きも美しいですね。キャラクターごとに異なるアニメーションの細かさと,その種類の多さにも驚いています。
野間氏:
そうですね(笑)。たとえば「グリフォンナイト」のようになにかに騎乗しているキャラクターの場合,乗っているキャラ本人と乗せている生物,合わせて,実質2キャラ分のモーションがいるんですね。
その上,イベントで捕まっている人を助けるというシチュエーションがあったら,敵を倒したあと着地して,乗っている生物から降りて,捕まっている人の手錠を外してあげるといった一連の動きがあるわけです。つまり騎乗していない姿を加えると実質3キャラ分になるということで,「大変だぞ。デザイナーさんに怒られるかも……」と恐る恐る相談したり……(笑)。
4Gamer:
なるほど(笑)。大変な苦労がありそうですが,その辺りのこだわりがヴァニラウェアらしさというか,ファンがとても信頼をおいているところだと思います。
野間氏:
といっても,「大変でした」「苦労しました」という話をしたいわけではないんです。
試行錯誤はありましたが,この作品は作っていて本当に楽しかったので,“制作陣が楽しんで作ったゲーム”ということは皆様にお伝えしたいです。
山本氏:
さまざまな試行錯誤の結果,いままでお2人が話していたように,テーマとなっている部分のコアなところはしっかりと作り込みながら,幅広いユーザーがそれぞれの物語を楽しめる作品になっていますので,ぜひご期待ください。
4Gamer:
では,最後に本作に期待を寄せているゲームファンにメッセージをお願いします。
野間氏:
繰り返しにはなりますが,「ユニコーンオーバーロード」は,僕たちが面白いと思えるものを楽しみながら作っている作品です。発売はもう少し先ですが,最後まで手を抜かず,さらに良い作品へと仕上げていきたいと考えています。
中西氏:
野間さんと同じく,開発者である自分たちが遊んでいて本当に面白いものができていると思っています。これをゲームファンの皆さんに届けて,私たちと同じく楽しんでもらえるとうれしいです。
山本氏:
まだ詳しくお話できないところではあるのですが,バトルの作戦はカードゲームのデッキビルドのような遊びの要素もあります。このあたりも,トレーディングカードゲームが大流行した1990年代というキーワードに関していて,僕たち自身が「面白い」と感じていたものが具体化できているのではないかと思います。
「ユニコーンオーバーロード」は,ヴァニラウェアさんのゲームらしい,こだわりにあふれた作品です。刺さる人には刺さるコアな部分は大事にしながら,一方で遊びやすさもとても考えて制作されているので,「シミュレーションRPGって難しそう」という方にも興味を持っていただけるとうれしいです。
4Gamer:
今後の動向も楽しみにしています。ありがとうございました。
「ユニコーンオーバーロード」公式サイト
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