テストレポート
「Xbox One S」分解レポート。内部構造のシンプルさは維持しつつ,カスタムAPUの低消費電力効果を小型化に活かしたマシンだった
Xbox Oneは,従来モデルのXbox Oneと100%の互換性を保ちつつ,筐体サイズは従来モデルよりも40%小さく,かつ,新要素として4K(3840
日本市場ではかなりマニア向けの存在になってしまったXbox Oneシリーズだが,その最新モデルは,初代Xbox Oneからどのような進化を遂げているのか。4Gamerでは,発売日にXbox One Sを入手し,その分解を試みたので,今回はそのレポートをお届けしたい。
本稿では従来版Xbox Oneの内部構造へ適宜言及することになるので,Webブラウザの別タブでそちらの分解レポートを開いておくと,読み進めやすいだろう。
「Xbox One」分解レポート。これはシンプルさと合理性をとことん突き詰めたハードだ
なお,あらかじめお断りしておくと,Xbox One Sの「4K対応」は,PlayStation 4 Proのような「ゲームにおける4K対応」ではない。基本的に,「Netflix」のような動画配信サービスや,Ultra HD Blu-ray(UHD BD)の4Kビデオコンテンツを再生するためのものだ。つまり,ゲーム用途で何かを期待できるものではない。ただ,本体価格3万7778円(税込)のハードがUltra HD Blu-rayの再生に対応するのはトピックであり,その意味で,一部のビデオ好きには“刺さる”仕様と述べていいだろう。
一方のHDRは,(PlayStation 4プラットフォームと同様に)対応ゲームと対応ディスプレイデバイスがあれば利用できる。実際,11月29日発売予定のXbox One版「FINAL FANTASY XV」はHDR対応だ。
※注意
ゲーム機の分解はメーカー保証外の行為です。分解した時点でメーカー保証は受けられなくなりますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。分解によって何か問題が発生したとしても,メーカーはもちろんのこと,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回の分解結果は4Gamerが入手した個体についてのものであって,「すべての個体で共通であり,今後も変更はない」ことを保証するものではありません。
40%の小型化で,見るからに小さくなったボディ。電源ユニットも待望の内蔵化
分解に先立って,入手したXbox One Sの外観をチェックしていこう。
まず,最も気になるその筐体サイズは,296(W)
ちなみに,Xbox One Sを縦置きで設置する場合は,開口部を塞がないように別売りの専用スタンドを使う必要がある。今回は,撮影時にスタンドを用意できなかったので,そのまま立てて撮影してしまったが,くれぐれも真似しないようお願いしたい。
また,インタフェース面にも細かな違いがある。従来型Xbox Oneで本体向かって左側面にあったUSB 3.0ポートは,Xbox One Sで本体前面左下へと配置が変わった。USB 3.0ポートは前面にあったほうが使い勝手がいいので,改善点と言っていいだろう。
主要なインタフェースがまとまる本体正面向かって背面側における大きな変更点は,従来のXbox Oneにあった「Xbox One Kinect Sensor」(以下,
このXbox Kinect Adapterは,税込の直販価格で5378円なのだが,Microsoftの日本法人である日本マイクロソフトは,従来型のXbox OneとKinectを所有し,かつXbox One Sを購入したユーザーを対象として,無償で提供するプログラムを実施中だ。期間は2017年6月30日までとなっているので,該当する人は公式サポートページをチェックしてほしい。
一方の「Model 1681」は,調べた限り,公式の製品型番として使われているものではなさそうだった。Microsoft社内でXbox One Sに与えたモデル番号なのかもしれない。
パッと見では,色とグリップ部の質感が少し違う程度で,あまり変わったような気はしないが,左右グリップの間にある拡張端子の左側に,3.5mmミニピンのヘッドセット接続用端子を備えている点が,大きな違いだ。
Xbox One Sを分解し,その密度感を確認
従来のXbox Oneは,本体側板が填め込み式になっており,底面カバーを取り外すことで,本体内部の金属製シールド(≒シャシー)にアクセスすることができた。
Xbox One Sでもその基本構造は受け継いでおり,填め込み式の底面カバーを外すと,内部のシールドへアクセスできる点に違いはない。ただ,底面カバーは「ユーザーが外すこと」を想定したものになっていないため,ツメを折らずに外すのはかなり大変だ。
一方,SAMSUNGのほうは,よく分からない。スマートフォンやSSDで4Gamer読者にも知られた大手エレクトロニクス企業であるSamsung Electronics(以下,Samsung)のことを指しているのは疑いようがないものの,Samsungが製造請負をやっているという話はあまり聞かないからだ。
ひょっとすると,Xbox One Sの筐体設計にSamsungが何らかの形で協力しているという可能性はあるだろう。
シールドの底面にある緑色のトルクスビスを外していくと,本体上部カバーが外れ,内部の金属製シールドを引き出せるようになる。
というわけで金属製シールドだが,この「樹脂製外装の中に金属製シールドを組み込んである」構造それ自体は,従来型Xbox Oneと完全に同じだ。前段で冷却機構が変わっていない可能性を指摘したが,この時点で,設計の方向性は従来から継承している気配を強く感じられる。
ここで,シールドの天面側パネルを留めているトルクスビスを抜くと,上から分解作業を進められるようになるが,天板部を開けて最初に気付くのは,その密度感だ。とにかく空間が目立った従来型Xbox Oneと比べると,Xbox One Sの内部は,まるで別モノのようにみっちりとしている。
シールドの天面側を外した状態で確認できるのは,カスタムAPU用と思われるファンと電源ユニット,Ultra HD Blu-ray対応のBlu-ray Discドライブ(以下,BDドライブ),そして2.5インチHDDの4つだ。各部の樹脂製パーツ部分に,「HDD」や「FAN」といった名称や,組立工程において参照するためと思われる数字が入っているのは面白い。
また,BDドライブを覆う樹脂製パーツには,Xboxを代表するキャラクターであるMaster Chiefのデフォルメ像が刻印してあったりと,設計者の遊び心も感じられる。
前者のモジュール上に記された米国連邦通信委員会(以下,FCC)の認証ID「C3K1682」で調べたところ,これはMicrosoft製の「Dual-band Wireless Accessory Radio」で,5GHz帯の電波を使うらしい記述があった。
Xbox One Wireless Controllerは,無線LANやBluetoothと同じ2.4GHz帯だけでなく,5GHz帯の電波を使ってXbox One本体と通信する機能も持つ。それを踏まえるに,C3K1682は,2.4GHz帯と5GHz帯の両方を使ってゲームパッドと通信するための専用モジュールなのではなかろうか。
一方後者は,FCCの認証ID「C3K1683」から,IEEE 802.11ac対応の無線LANモジュールであることを確認できた。基板上には「MEDIATEK」のシルク印刷があるので,モジュールを含む基板自体が台湾MediaTek製なのだと思われる。
マザーボードにアクセスするには,数字の大きい順に構成部品を外していく……のかと思いきや,試した限りは,HDD(04)→BDドライブ(02)→電源ユニット(03)という順番で外していく流れになっていた。カスタムAPU用のファンはヒートシンクと一体になっていて,この段階では取り外せない。
続いては電源ユニットである。本稿の冒頭で,従来型Xbox Oneの場合は定格出力215Wの大型ACアダプターを外付けにしていたという話をしたが,Xbox One Sが内蔵する電源ユニットは,DC出力が12V 10Aの1系統のみで,定格出力は120Wという仕様になっている。電源ユニットレベルで100W近い省電力を実現したら,そりゃ小型化して内蔵もできるよなと,しみじみ納得させられた次第だ。
以上のパーツを取り外すと,ようやくマザーボードを金属製シールドから取り出せるようになる。
ここまで来ると,クーラーがカスタムAPU用である(=メモリチップまでは覆っていない)ことを確認できるが,このクーラー,基板裏にある十字型の金具で固定されていた。
この金具はネジ留めではなく,ヒートシンクから伸びたパイプに引っかけて,金属のテンションだけで圧着する構造だ。そのため,外すのはとても大変で,無理に外そうとすると,マザーボードを傷付けてしまう可能性が高い。今回は何とか外せたが,ユーザーが興味本位でやるべき作業でないのは明らかだ。
というわけで,おおまかな分解の流れを追ってみた。
モジュールの実装密度は,従来型Xbox Oneと比べてかなり高くなっているが,HDDやBDドライブがモジュール化されて樹脂パーツで固定されているといったあたりは,従来モデルを彷彿とさせる。やたらと込み入った構造を持つPlayStation 4と比べると,依然として小型PCに近い作りを維持した据え置き型ゲーム機と言っていい。
Xbox One SのマザーボードはPCを思わせるシンプルさ
それでは,Xbox One Sのマザーボードを細かく見ていこう。なお以下本稿では,カスタムAPUがある側を部品面,その裏側をパターン面と呼ぶことにする。
ダイサイズはデジタルノギスによる実測で約17.53mm
Microsoftは,Xbox One SのカスタムAPUをどのプロセス技術ベースで製造しているのか明らかにしていないのだが,従来モデルの28nmプロセス技術から,16nmもしくは14nmのFinFETプロセス技術へ切り換えた効果が出ているということなのだろう。仮に16nm FinFETだとすれば,単純なシュリンクでダイサイズはおおむね60%に小型化できると言われているので,妥当なところだとも思う。
そんなカスタムAPUのダイには,
後者は,AMD製APUやCPUにある文字列と似ているので,AMD側の型番なのだろう。そうすると,前者の文字列がMicrosoft側の型番なのではなかろうか。
ちなみに,従来版Xbox OneのカスタムAPUにおける「Microsoft側の型番と思しき文字列」は「X861949-005」だったので,かなり異なっている。
ちなみにPlayStation 4は,2015年6月発売のCUH-1200シリーズから,8GbitのGDDR5メモリチップを採用するようになった。それ以前の4Gbit GDDR5メモリチップから8Gbit品へと切り替えたことで,メモリチップの数が8個に減り,マザーボードの小型化も実現していたのは,憶えている読者もいることだろう。
それに対し,Xbox One Sでは,従来と同じように,16枚のDDR3メモリチップがやや遠巻きにカスタムAPUを取り囲むようなデザインを踏襲している。ソニー・インタラクティブエンタテインメントと異なり,Microsoftは,筐体の小型化にあたって,メモリ周りの設計刷新を選択しなかったということになるわけだ。
電源部の下側にあるON
こちらには,「X86
サウスブリッジの近くに,おそらくファームウェア格納用である記憶容量8GBのフラッシュメモリチップがあるのは従来型Xbox Oneと同じ。4Gamerで先に分解した従来型Xbox OneだとSK Hynix製チップを搭載していたが,今回入手したXbox One Sだと,Samsung製の「KLM8G1GEME」だったが,これは単純に,調達上の都合によるものではなかろうか。
ちなみに,従来型Xbox Oneだと,カスタムAPUからHDMIが直接出力されているようなデザインだったので,SN75DP159の採用は,Xbox One Sのマザーボードにおける大きな特徴と言っていい。
その一方で,従来型Xbox Oneでサブ基板上にあったNuvoton Technology製のビデオ&音声処理専用SoC
これを単に省略してしまっては,Xbox One SでKinectを使えなくなるだろうから,先述したXbox Kinect Adapter側に,ISD9160そのものか,相当する機能を組み込んだ可能性が高そうだ。
Kinect用のSoC省略により,Xbox One Sのマザーボードは,ますますPCのマザーボードに近づいた印象を受ける。スリープ時のシステム制御専用LSIがあったり,ローカルメモリを持つ特殊なサウスブリッジがあったりするPS4とは,設計の方向性がまったく異なるゲーム機なのだなと,あらためて感じた次第だ。
カスタムAPUの省電力化で小さくなったXbox One S。さて,Project Scorpioはどうなる?
マザーボードはカスタムAPUが小さくなり,Kinect用のコントローラがなくなった程度なので,電源部レベルで95Wもの省電力化を実現したのが,小型化を実現するための決定打だったということなのだろう。
eSRAMを統合するXbox OneのカスタムAPUは,従来,それだけ消費電力と発熱が大きく,一見無駄にも見えるほど,筐体内に冷却用のスペースを設けねばならなかった。それが,プロセスシュリンクによって大幅に改善し,各種コンポーネントを詰め込めるようになった結果がXbox One Sなのだという理解が,おそらく正解である。
ちなみにMicrosoftは,2017年に,Xbox Oneシリーズのハイエンドモデルとなる「Project Scorpio」(プロジェクトスコーピオ,開発コードネーム)を市場投入予定だ。Microsoftは,Project Scorpioの技術的な詳細を未だ明らかにしていないが,GPUコアの規模を引き上げるだけでなく,CPUのマクロアーキテクチャも刷新する可能性が高く(関連記事),その性能はPlayStation 4のハイエンドモデルであるPlayStation 4 Proをかなり上回るものになると見込まれている。そうなれば,カスタムAPUの消費電力も発熱も,再び大きなものになるはずだ。
そのときMicrosoftは,これまでの筐体デザインを踏襲しながら,従来型Xbox Oneのように,筐体内部のゆとりを確保しようとするのか,はたまた,Xbox One Sで培った高密度設計を応用することになるのだろうか。今から楽しみにしておきたい。
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Microsoftの「Xbox One S」特設ページ
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