2026年7月1日,京都で開催中の「IVS 2026 KYOTO」で行われたセッション「BIG Exploding Giants! India & Africa's 3 Billion People Market Frontline(インドとアフリカ,30億人市場の最前線)」では,登壇したSGgrowの眞下 弘和氏(インド市場を概説)と,アフリカ投資を手がけるUNCOVERED FUNDの寺久保 拓摩氏は,そろってそう強調した。
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共通するのは,若い人口が一気に増える“人口ボーナス”と,オフラインのインフラが未整備な分をデジタルで一足飛びに埋めていく構造だ。
インド市場:数字で見る“いま最も注目される市場”
インドは世界第4位の経済大国であり,人口は14.6億人。「去年のIVSでは13億人くらいと話していたのに,もう14.6億人。自分でも驚きました」と眞下氏。
ネット人口だけで10億人。これは日本の実に10倍の人々がスマホに触れている計算になる。株式市場(ムンバイ)は世界5位規模で,IPOによって富が次々と生まれている。ユニコーンはすでに131社で,一人当たりGDPは2934ドルだ。
そして平均年齢は29歳。ここで挙がったキーワードが“マジックナンバー3000ドル”だ。一人当たりGDPが3000ドルを超えると消費が一気に加速する(ホッケースティック現象)とされ,インドはまさにその局面に入りつつある。
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象徴的なのがZ世代の消費規模で,10代後半から30代が1年間で使う額はおよそ8600億ドル,日本円で約100兆円。日本の国家予算並みの金額が消費に回る計算だ。
もう一つの主役がクイックコマースである。都市部では,注文して10分でトイレットペーパー1個が届く。「トイレ中に紙がないと気づいてタップすれば,10分後に届く。もうこれなしでは生活できない,という現地の投資家もいるほどです」市場規模は400億ドル,兆円級に育ちつつある。
テック人材の層も厚い。大学ではしのぎを削るように人材が輩出され,政府の後押しも強い。「AIは米中に先行されたが,インド固有のデータで独自のAIを進化させる」とモディ首相も号令をかける。テックIPOはパイプラインで230社が控えるという。
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続くパネルには,インドの投資家3名が登壇した。
コンシューマ領域を中心に150社超へ投資してきたAll In CapitalのKushal Bhagia氏,プレシード特化のEximius Ventures創業者Pearl Agarwal氏,そして金融サービスに長く携わり,The Fintech Meetupを主宰するAbhishant Pant氏である。
まず消費の激変を,Bhagia氏が実感を込めて語る。「昨年サンフランシスコで友人に“ダイエットコークがない”と言われて驚いた。インドではもう“切らした”とは言わない。スマホでタップすれば10分で届くから,そもそも買い置きの計画をしなくなったんです」
その土台を作ったのが,この10年の公共デジタルインフラだ。通信ではデータ料金が95%引き下げられ,即時決済,本人確認,口座普及,税の一本化が相次いで整備された。
オンラインで課金するユーザーは1億人未満から3億人超の規模へ増え,即時決済はいまや月200億件超と,Visaの取引数を上回るほどだ。
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スタートアップの世代交代も鮮やかだ。第1世代は“欧米のコピー”で,FlipkartはインドのAmazon,OlaはインドのUberだったが,第2世代はインド固有のモデルへ。
10分で届けるクイックコマースのZeptoやInstamart,ECのコストを下げたMeesho,移動のコストを下げたRapidoなどが台頭した。
その波に乗って伸びているのがインド発ブランドだ。
「昔は海外ブランドに憧れた。いまは靴も服も化粧品も鍋も,インドのブランドを買う。クイックコマースとInstagramの“レール”に乗せて,インド市場向けのマーケティングがとにかく上手い」
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フィンテックの変遷は,Pant氏が二つの時代に分けて整理した。
1994年から2010年前後までを,民間の金融機関が誕生した“基盤創造期”と述べた。
1994年に初の民間銀行が生まれ,InfosysのFinacleが世界の基幹バンキングソフトになった。2000年代後半にはUPIの土台となる即時決済網と本人確認が,2014〜15年には誰もが持てる口座が整った。
そして2014〜22年の“イノベーション優先”から,2022〜26年は“規制優先”の市場へと移行したという。
「今後5年で,大規模経済として世界で初めて,データの9割がオフラインからオンラインへ移る。決済のトランザクションは今の約8億件から2030年に約15億件へ。一人当たりGDPは3000ドルから5500〜7000ドルへ跳ねるでしょう。社会の底上げが起きるのは2028〜2030年です」と見通した。
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AIについて,Pearl Agarwal氏は「インドは出遅れていない」と断言する。
「LLMは米中が巨額を投じて基盤を築いた。インドが同じことをやる必要はない。代わりにインドには人口ボーナスがあり,9.5億人以上がスマホを持ち,日々膨大なデータを生む。ロボティクスやフィジカルAIの“データ生成ハブ”として勝てる」と続けた。
政府は応用AI向けに15億ドルのファンドを用意。農業(人口の3分の1が従事)や,人口の半分以上が十分にアクセスできない教育など,AIが価値を生む余地は大きい。
具体例も紹介された。AIで英語を練習できる「Supernova」はARR1200万ドル超,利用者100万人超。AIウェルネスコーチ「Super Living」は1年で評価額が10倍に。
「英語教師は対面なら月5000ルピー(約8500円)。SupernovaのAIなら月500ルピー(約850円),時には50ルピー(約85円)。人的サービスが一気に民主化されます」
Pant氏は金融領域のAI活用として,不正検知とサイバーセキュリティを挙げる。ゼロ知識証明を用いる投資先Pay Localは,12〜14か月で売上を300万ドルから1億ドルへ伸ばしたという。
IPO市場も“沸騰中”だとPearl Agarwal氏。2010年頃に始まったベンチャー投資が2020年頃に成熟したが,出口(流動性)が乏しかった。そこで規制側が,上場サイズの引き下げ,初日からの売却容認,赤字企業の上場容認という3つの緩和を実施した。
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この5年で50社超が上場。さらにインド独特なのが小型株向けの「Small Cap(SME)」市場で,利益が出ていれば急成長中でなくても上場できる。AIのGPUクラウドを手がけるE2E Networksは3年でSMEに上場し,のちにメインボードへ。投資家に期待の10倍超を返したという。
「パーティーは始まったばかりです」とPearl Agarwal氏は語った。
人材についても話が及んだ。多言語かつ多文化で新しい環境への適応が速く,STEM教育とIIT/BITSに代表される技術志向が強い。
「昔はFacebookやGoogleに入るのが夢だった。いまでは500万ドルを調達して起業するのが夢だ」
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アフリカ市場:世界最後の巨大市場と,そのデモグラフィック
ここでアフリカへ。ひとことで言えば「人口成長とともに伸びる,世界最後の巨大市場」だと,UNCOVERED FUNDの寺久保 拓摩氏は切り出す。
平均年齢は19歳。2050年には世界人口の約4分の1がアフリカ人になると言われ,人口ピラミッドは日本と正反対の“きれいな三角形”を描く。
アフリカは54か国から成るが,GDP上位10か国で全体の76%を占めるため,見るべき市場は自ずと絞られる。
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注目は3か国だ。
人口2.4億人でアフリカ最大,経済都市ラゴスが人口2000万人規模へ育つナイジェリア。
国土の4%に国民の94%が集中し,中東と北アフリカのゲートウェイでサウジやUAEのマネーも入る人口1.2億人のエジプト。
再エネ比率94%(地熱,風力,水力)で“脱炭素先進地域”とされ,クライメートテックが盛り上がるケニア。
この3か国だけで,アフリカ全体のスタートアップ投資の半分を占める。
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伸びの背景は“リープフロッグ”だ。モバイルのネット人口はこの10年で急拡大し,都市部は4G/5Gが普通につながる。Starlinkがへき地のネットワークを埋め,中国系TranssionのTecnoはアフリカ特化のスマホでシェア49%,メーカー世界5位に育った。
アフリカの妙味は「圧倒的な課題が,そのままビジネス機会になる」ことにある。銀行口座がないならデジタルで持つ。電力がないなら大型発電ではなく分散型ソーラーで家庭に届ける。住所がなく物が届かないなら,GPSベースで届ける仕組みを作る。
スタートアップ投資は過去10年で約14倍。決済のPaystack(ナイジェリア)がStripeに約2億ドルで買収されたことが世界の投資家を呼び込む転機となり,エコシステムが回り始めた。中でも中心はフィンテックで,ユニコーン9社の多くがナイジェリアのフィンテックだ。
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アフリカセッションのモデレーターも寺久保氏が務めた。壇上には,ビザ取得の壁を越えて来日したナイジェリアの起業家3名が並んだ。
コミュニティで一緒に貯めて,投資し,使う“お金の社会化”アプリを手がけるRankのFemi Iromini氏,アフリカ貿易の“取引デスク”を作るYala TechnologiesのBabatunde Adebajo氏,そして零細事業者へ融資するRegxtaのRukayat Bello氏だ。
なぜ今アフリカか。3人の答えは共通していた。人口16億人が2050年に25億人へ。世界の4人に1人がアフリカ人になり,平均19歳の若年層が消費と起業の担い手になる。
モバイル普及がインフラ整備を追い越し,ネット普及率は6割に達する。「アフリカは未来の市場ではない。“いまの市場”です。入るなら今」と3人は口をそろえた。
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Rankはこの土台の上で,家族や友人,コミュニティが一緒にお金を貯めて運用する仕組みをデジタル化した。「多くの金融サービスは“個人の送金”に閉じている。私たちは“一緒にお金を動かす”に振り切った」
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アフリカの対世界貿易は約1.3兆ドルと輸入依存が強い一方,外貨(米ドル)が不足し,決済遅延や通貨下落が慢性的に起きる。
同社はステーブルコインを使い,支払いの所要日数を3〜5日から即日へ,コストを100ドル超から20ドル未満へ圧縮するという。
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「信用履歴も口座もIDもなく,地方に住んでいたために融資を受けられず,事業が潰れた。私たちは彼らを“リスクの高い人”ではなく,“アフリカ最大の市場機会”と見ています」と力を込めた。
共通して指摘されたのが,アフリカの巨大な“信用ギャップ”だ。欧米やアジアのような成熟した信用システムがないこと自体が,フィンテックの最大の商機になっている。
日本への呼びかけも熱かった。「アフリカに投資を。しないと乗り遅れる」「日本の貿易実務の力と“忍耐強い資本”がアフリカには必要だ」「Regxtaに投資することは,金融包摂で貧困削減に投資すること」と,3人はそれぞれに訴えた。M-Pesaに象徴されるハイパーローカルな課題解決と,AfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)のような市場統合の追い風も,投資妙味を後押しする。
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インドとアフリカ。時差のように約10年ずれて見えるこの二つの市場だが,並べて聞くと,同じ景色が二度流れたような感覚になった。
オフラインの遅れをデジタルで飛び越え,決済とIDという“土台”が整った瞬間に,消費とスタートアップが一気に噴き出す。数字の桁は日本の常識を軽く超え,起業家の目線は最初からグローバルだった。
「まだ未来」だと思っているうちに,市場は静かに,しかし確実に動いている。そう突きつけられる講演だった。


















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