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インディーゲーム展覧会「Dissonance #1『不穏』」レポート。恐怖の手前にある「気配」と,欠落の美学が紡ぐゲーム体験とは
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印刷2026/07/02 15:00

イベント

インディーゲーム展覧会「Dissonance #1『不穏』」レポート。恐怖の手前にある「気配」と,欠落の美学が紡ぐゲーム体験とは

 2026年6月20日と21日の2日間にわたり,東京都多摩市のパルテノン多摩 市民ギャラリーにて,TAMAインディゲーム展覧会「Dissonance #1『不穏』」が開催された。

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 本イベントは,多摩市を拠点に活動するインディーゲーム開発者の.iris氏と,フツララ(futurala)氏が共同で主催したもの。「不穏」を共通テーマに掲げ,個人や小規模チームが手がけた独自色の強いタイトルを集めた,一般的なゲーム展示会のような賑やかさとは一線を画す催しだ。
 照明と音響は抑え気味で,作品ごとのスペースも贅沢に確保されており,まるで現代アートのインスタレーションそのものと言える空間となっていた。

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「A Passing in the Night」
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 作者それぞれが惹かれる「不安」「違和感」などのかたちが,プレイヤーと出会うことでゲーム体験となる。会場には,そんな感覚を大切にしたゲームが15タイトルほど並んでいた。
 出展作のジャンルは,ホラーやディストピアもの,詩的表現,日常の違和感など多岐にわたる。例えば,主催のフツララ氏による「CultureHouse」は,終末を予感させる世界で生命体を培養する7日間を描くアドベンチャーであり,.iris氏の「A Passing in the Night」は,現実と悪夢が混ざり合う,多摩センターをモデルにした夜の住宅街を彷徨うアドベンチャーだ。

「CultureHouse」
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 そのほか,賽の河原を舞台にした石積みパズル&ADV「子どもたちの庭」宍倉志信氏)や,ゲームボーイ風のドット絵で描かれる深海ディストピア「鯨骨」MBDF氏),聖句を使って子供に取り憑いた悪魔をあぶり出す「Exorcist: Oldest Tongue」727 Not Hound氏)など,一癖も二癖もある作家性を持つタイトルが揃い,来場者はじっくりと作品世界に没入していた。

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「子どもたちの庭」
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「Exorcist: Oldest Tongue」
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「SOLASTALGIA」(ソラスタルジア)は,作者のFarfama氏とSivani氏によるポエムの朗読パフォーマンスも行われた


「不穏なゲーム」とはなんなのか。初日夜の座談会で見えたもの


 展覧会としても楽しめた本イベントだが,その根底にあるクリエイターたちの考えとはどのようなものだろうか。
 開催初日の夜に行われた座談会では,「そもそも不穏なゲームとは何なのか」「なぜ私たちは奇妙さや不穏さに惹かれるのか」といった,不穏のデザイン論が語り合われた。ここからは,その座談会で語られたエッセンスを要約して伝えていきたい。

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 座談会の冒頭,主催のフツララ氏はイベント立ち上げの経緯を振り返った。きっかけは,2025年7月に京都で開催された「BitSummit」の会場で,本展示会の共同主催である.iris氏と出会ったことだという。

 両者ともに「不穏な空間」を舞台にしたゲームを展示していたが,祝祭として賑わうBitSummitの会場では,自分たちの作品が持つ寂しさや不穏さはどうしても浮いてしまい,ある種のアウェイ感を抱いていた。
 また,多くのインディーゲームイベントが都市部で開催されるなかで,あえて「東京の郊外」というロケーションを選び,静かにゲームと対峙できる空間を作りたいと考えたのが,今回の計画のスタートだったと語る。

 当初はこれほど多くの人々が集まるとは予想しておらず,来場者が長い時間をかけて各ブースの作品をじっくりとプレイしていく様子に,大きな手応えを感じたとした。

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 トークのテーマは,参加者それぞれが魅力的だと感じる「不穏なゲーム」へと移った。クリエイターやインフルエンサーの口から出たタイトルは,その視点を色濃く反映したものとなった。

 POST COMMERCIALS: ALLIANCE主催であり,多ジャンルで記事を手掛けるライターでもある葛西 祝氏は「BLOOD+ ONE NIGHT KISS」を挙げる。グラスホッパー・マニファクチュアが手がけた本作は,S玉県式市のニュータウンを舞台に,郊外の暗闇をひたすら歩きながら物語が進んでいく。
 巨大な企業によって新しく作り変えられていく人工的な街と,そこで人間の精神が壊れていく描写は,多摩センターという人工都市が持つ独特の「地場」や違和感にも通じると指摘した。

 Studio非の高橋祐亮氏は,Chilla's Art(インディーホラーゲームの開発チーム)の初期作品を挙げる。配信者のリアクションによって世界観がガラリと変わる構造には,自身の作品も影響を受けているとのこと。高橋氏の過去作「P.I.」では自宅を完全にモデリングして再現したが,「見慣れているはずの自宅なのに,変な時間に目が覚めて廊下に出た瞬間に感じる違和感」という原体験が,不穏さのベースにあるとした。

 宍倉志信氏は「Russian Life Simulator」。一見するとファニートーンのバカゲーでありながら,その実態は「どれだけ年金を得られるか」を競うという,圧倒的な絶望感とディストピア感に包まれたクリッカーゲームだ。一見すると「プーチン推し」に見える雰囲気も含め,笑いのすぐ裏にある重苦しい空気に不穏さを感じると語った。

 727 Not Hound氏は,なんと「MOTHER2 ギーグの逆襲」だという。恐怖そのものであるホラー(「クロックタワー」など)の手前にある「予感」こそが不穏であるとし,子供時代にプレイした本作がトラウマ級のホラーだったと回想。冒頭でポーキーが激しく玄関のドアを叩くシーンなど,「何かが物を言いたげで,常に後ろに大人が立っているような感覚」に不穏さを感じたらしい。その大人とは糸井重里氏だったのではないか,というのが現在の見立てだ。

「MOTHER2 ギーグの逆襲」
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 奇妙なゲームを紹介するインフルエンサー・ごだか氏は,「ゼルダの伝説 ムジュラの仮面」「動物番長」などの任天堂作品を挙げる。
 「ムジュラの仮面」におけるギブド(ミイラのような魔物)化した父親が佇む恐怖や,異色作「動物番長」のBGMがなく環境音だけの中で動物を噛み殺し,交尾を繰り返すゲーム内容を提示する。さらに最近の海外インディー作からは,可愛いハムスターが料理を配るハートフルな世界で裏庭へ玉ねぎを取りに行った瞬間に世界が変貌する無料ゲーム「Go! Go! Hamster Chef!」を紹介した。

 フツララ氏の「誰も売れそうなゲームを作っていない」という冗談を皮切りに,議論はクリエイターたちの創作の原動力へと踏み込んでいく。

 葛西氏は,ワールドカップなどのマスメディア的な盛り上がりに生理的に乗れないという,いわゆる「世間の中央」に対する違和感を吐露する。最高のリプレイ性や競技性を持つゲームを,どこかで最高だと思い切れない気持ちがあり,その感覚がそのまま形になったゲームに出会うと逆にホッとするのだという。

 727 Not Hound氏は「売れ線を狙うことは,清掃業のようにノイズを消し去ってエッジをなくしていく作業だ」と評する。自分たちはあえてそのノイズを残し,その歪みに共鳴してくれるプレイヤーとの出会いに賭けているのだと語った。

 宍倉氏はかつて「遺品整理」のアルバイトをしていた経験を交えつつ語る。誰かがいた生活の痕跡を徹底的に消し去った結果,うっすらと生活の匂いだけが残ったモデルルームのような部屋が完成する。あの「日常と非日常の境界線」に漂う空気こそが,自身にとっての不穏のルーツかもしれないと振り返った。


シンタックスの不整合や情報の欠落が不穏を生む


 座談会の後半では,不穏さを生み出すためのテクニカルな手法(ゲームデザイン論)へと話が深まっていく。

 高橋氏は「シンタックス(統語論・語順)」を挙げて,「私はこの部屋に入った」と「この部屋に私は入った」では意味が同じでも受ける印象が変わるように,ゲームにおけるギミックの配置や,死んだ後に起こる出来事の順序をあえて入れ替えることで,日常の中に非日常(不穏さ)を演出できるのではと語る。画家エドワード・ホッパーが,何気ないアメリカの街並みを描きながらも,構図の妙でリミナルスペース的な不穏さを生み出した手法がその具体例だ。

 これを受けて727 Not Hound氏も,「ゲームデザインは文脈(シンタックス)の仕事」と同意する。あえて順番を入れ替えたり,必要なパーツを意図的に外したりすることで不穏さが生まれるとし,その最たる例として小島秀夫氏が手がけた「P.T.」を挙げた。

 「P.T.」は当初,大手メーカー(KONAMI)であることを隠し,わざとカメラ制御の作りを甘くするなどインディーゲーム風の粗さを見せていた。プレイヤーに無意識レベルで「作りが甘い(=情報が欠落している)」と感じさせることで,「こいつらは何をしてくるか分からない」という底知れない恐怖を生み出していたのだと分析した。


 座談会の後半,アートエキシビション「Art Bit」(インディーゲームの祭典「BitSummit」と連動し,現代アートとインディーゲームカルチャーをクロスオーバーさせて紹介する企画展)の監修を務めるゲーム史研究者・評論家の中川大地氏(代表作「現代ゲーム全史」)が登場し,美学・歴史的観点から話に加わっていった。

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 中川氏は,ホラー研究が人文系の批評理論で盛んであるのに対し,ホラーの一歩手前である「不穏」はまだ言語化・ジャンル化されていない未開拓の領域であると指摘。フロイトの精神分析における「不気味なもの(Das Unheimliche)」や,ハイデガーのいう「世界の崩れ」,あるいはAIやロボティクスにおける「不気味の谷現象」を系譜として挙げながら,以下のような定義を提示した。

「不穏とは,恐怖の対象がまだ現れていないにも関わらず,世界や空間,物語,身体,生のどこかに変調の兆しが感じられるような,情報的な雰囲気である」

 この「情報的な欠落」は,ゲームの歴史とも深く結びついているという。1990年代,初代プレイステーションが登場しゲームが2Dから3Dへと移行した黎明期,当時のローポリゴン表現は「現実に近づいたものの,圧倒的に情報が足りない」という状態だった。
 あの時代特有の不気味さは,まさに情報の欠落による「不気味の谷」であったとし,初期の「バイオハザード」シリーズのようなホラーゲームの流行の裏で,「MYST」のような「誰もいない空間をさまよい,手がかりを自己補完していく不穏な体験」が独自の系譜を作ってきたと語る。
 これを受けてフツララ氏も「バイオハザードよりもMYSTの方が圧倒的に怖かった。だが,その怖さが美しくもあった」と語る。

「MYST」
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 商業的な大作はプレイヤーに「絶対的な安心感と信頼感」を与えることが宿命づけられており,それは不穏とは相容れにくい。
 対してインディーゲームは,「どこの誰が作っているかも分からない,得体の知れない不確定性」を武器にできる。先が確定していないメディアだからこそ,プレイヤーを予期せぬ場所へと連れて行く「不穏」との相性が良いのだと締めくくった。

 商品やエンタメとしてのセオリーから外れ,個人の主観的な「不安」や「ノイズ」を形にしたかのような作品が集まった展覧会「Dissonance #1『不穏』」。主催者たちは,ハッシュタグ(#Dissonance #不穏)によって寄せられる反響次第で,来年以降の継続も視野に入れたいと展望を語っていた。

 「得体の知れない」インディーゲームだからこそ持ちえる「力」は,今後もゲーム表現の枠組みを静かに,だが確実に侵蝕し続けていくだろう。

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全展示作品

■子どもたちの庭 (Children's Garden)
作者:宍倉志信 (Shinobu Shishikura)
X / Steam

■瓶の中のサカナのために (For the Fish in the Bottle)
作者:makina game
X / Steam

■Exorcist: Oldest Tongue
作者:727 Not Hound
X / Steam

■Lull: Rest After Crying
作者:Tonkobitta
X / Steam

■HAUNTED STREAMER-呪われた配信者-
作者:Prank Maker
X / Steam

■鯨骨
作者:MBDF
X

■Work Life Balance
作者:LandUni Studio
X / Steam

■リアリティコントロール・フラグメンツ
作者:POST COMMERCIALS: ALLIANCE
X / itch

■SOLASTALGIA ソラスタルジア
作者:Farfama & Sivani
bluesky / itch

■Meet Me At Shinjuku Station
作者:Rinoaskyes
X / itch

■Re:Re:Re:Respawn
作者:Studio非
X / Steam

■蛙電話
作者:ACID HOUSE STUDIO(カリン)
X / Steam

■DEPERSON
作者:Error Thing
X / Steam

■CultureHouse
作者:futurala
X / Steam

■A Passing in the Night
作者:.iris
X / Steam

  • 関連タイトル:

    展示会/見本市

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