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[CEDEC 2023]NFTゲームの「Free to Play and Earn」を実現するために。ゲームとNFTを連携させるコンセプトやノウハウなどを紹介
このセッションには,プレイシンク エンジニア 金澤秀知氏,オルトプラス 技術部 テックリード 勝城裕貴氏が登壇し,NFTゲームを実際に開発・運用した経験をもとに,ゲームとNFTを連携させる際のポイントや,運用時の注意点などを解説した。
「Free to Play and Earn」の実現
セッションの冒頭,金澤氏らが手がけるNFTゲーム・タイトルAにて掲げたコンセプト「Free to Play and Earn」について説明が行われた。これは「ゲームを楽しみながらお金を稼ぐ」を意味する「Play to Earn」(P2E)と,スマートフォンゲームなどの「無料でプレイを始められるゲーム」を指す「Free to Play」(F2P)を組み合わせたものだという。
それでは,どのようにコンセプトを実現するのか。金澤氏らは,ユーザーがゲームを遊ぶときのモチベーションを次のように定義したそうだ。
まずユーザーは,最終的にゲームで勝ちたいという目標を持つ。その目標を達成するための手段として,自身が集めたユニットを使い,相手に勝てる編成を作る。その編成を作るための手段として,必要なユニットを手に入れて育成する。
一般的なF2Pタイトルの場合,ユーザーは必要なユニットを運営チームに課金して入手することになるが,金澤氏はこの部分をユーザー間取引(CtoC)にすることで,P2Eになると考えている。ゲームプレイに時間をかけられるユーザーがユニットを育成し,時間をかけずに勝ちたいユーザーがそのユニットを購入する。こうしたCtoCが加わることで,P2Eが組み合わさるという持論を展開した。
このようなCtoC取引だが,従来のゲーム内取引やRMT(リアルマネートレード)とは性質が異なるという。まずゲーム内取引はゲーム内資産が動くだけなので,ユーザー自身のEarnにはつながらない。また,RMTは運営チームが公認する取引ではないため,詐欺などのトラブルが発生しやすく,ひいては犯罪にもつながりかねない。
金澤氏が示すCtoC取引は,ブロックチェーン技術とNFTを用いて実現している。「ブロックチェーン技術を用いることで,すべての取引操作がログとして残ること」「ログを改ざんすることがかなり困難であり,不正改ざんの防止力が高いこと」「すでに信頼性のあるNFTマーケットで取引が可能になること」「ユーザー間の取引はすべてログに残るため,2次流通に伴う版権料も管理できること」を挙げ,ユーザーが安心・安全に取引できることを示した。
ブロックチェーンにはビットコインやイーサリアムなど,いくつものプラットフォームが存在するが,タイトルAではLINE BlockchainのFinschiaを採用しているとのこと。
Finschiaを採用するメリットとして,LINE IDを持っているユーザーであれば,LINEが提供するウォレットアプリ「DOSI Wallet」を利用できることが挙げられる。金澤氏は,NFTゲームで最もハードルになるのがユーザーにウォレットを作ってもらうところだと述べ,「LINE Blockchainなら,LINE IDを持っていれば自動的にウォレットも持つことになり,またユーザー自身がウォレットの秘密鍵などを管理する必要がない」と説明する。
さらにNFTゲームへのログインは,LINE Loginを用いて行うため,必然的にユーザーは全員LINE IDもウォレットも持っている状態を実現できると語った。
また,ユーザー側でNFTの生成や移動などを行った場合には,ガス代(手数料)が発生しユーザーの負担が増えることも,従来のNFTゲームの抱える課題だった。しかしLINE Blockchainでは,サービス提供者側のコストに含まれる形になるため,ユーザーが負担せずに済むという。
加えてLINE Blockchainでは,NFTを発行するためのスマートコントラクトを開発者が用意する必要がなく,LINE側が用意したコントラクトを利用できる。さらに,LINE NFTマーケットが用意され, 暗号資産を持っていないユーザーもLINE Payで決済可能であることもメリットとして挙げられた。
一方,LINE Blockchainにはデメリットもあり,EVM(Ethereum Virtual Machine)互換ではないため,イーサリアムなどのEVM互換のブロックチェーンへの移植などが難しい。また,OpenseaなどのパブリックなNFTマーケットでは扱えない点もデメリットになるそうだ。
タイトルAにおけるNFT利用のコンセプトは,「NFTを中心にして考えるのではなくて,あくまで一般的なゲームにNFT要素を入れる」とのこと。実際にゲームもそういったモデルとして設計されている。最終的な目標は「ブロックチェーンやNFT化が大衆化し,さまざまなゲームにNFTの要素が入っている」ことだという。
また,NFTを手に入れることが目的ではなく,ゲームで勝つという目的を達成する手段としてNFTが存在するように配慮をしている。具体的にユーザーは「育成したキャラクターをNFTに変換する」「NFT化されたキャラクターを育成済みの状態でゲーム内に取り込む」「ゲーム外のNFTマーケットで,NFTをユーザー間で売買する」ということが行える。
ゲーム内データのNFT化では,ユーザーが所有しているキャラクターデータからNFTを生成できる。ただ,キャラクターが複製されないように,NFT化されたキャラクターはゲーム内で使用できなくなる。NFT化の際には一旦キャラクターを使えない状態にするわけだ。
また,NFTはメタデータというデータ構造を持っており,その中にキャラクターのパラメータや,データベース上のデータに紐付けるためのIDが埋め込まれるとのこと。
さらにゲーム上の制約(ブロックチェーンの制約ではない)もあり,まず一定レベル以下のキャラクターはNFT化できない。これは「育成したキャラクターをNFTとして取引する」という本来のコンセプトに則ったものだ。
NFT化にはゲーム内の有償通貨を消費するが,これは1人のユーザーが複数のアカウントでゲームを始めて,それぞれで育成したキャラクターを1つのアカウントにまとめるような行為を防止する意図がある。加えて,NFT化が盛んになるとサービス提供者側が負担する手数料も大きくなるため,それを軽減する意味もあるという。
逆にNFTのゲーム内データ化では,NFT所有者に対してキャラクターを使用可能にする。その際,同じNFTが複数回取り込まれないように,NFTは削除される。そうしてデータ化されたキャラクターの性能は,NFTのメタデータに埋め込まれたシリアルIDを元にデータベースを参照し,NFT化が行われた時点のものとなる。
タイトルAにおける2次流通の実績も示された。なかでも取引の最高金額は,金澤氏らも驚くほど大きなものになったそうだ。
ゲームとNFTの連携
ゲームとNFTを連携させる際の運用とノウハウに関して,勝城氏は4つのポイントを指摘した。
1つめは「ユーザーの分かりやすい言葉を使う」だ。勝城氏はmintやburn,あるいは鋳造や償却といったブロックチェーンやNFTの関連用語を,ユーザーにとって馴染みがない言葉だと捉えているという。
タイトルAでは,mintを「NFT化」,burnを「ゲーム内データ化」,NFT一覧を「NFTキャラ一覧」といったように,NFT関連の専門用語を分かりやすい形に言い換えている。「NFT周りの専門用語をできるだけ,ゲーム側の言葉に寄せることは重要」と勝城氏は述べた。
また,チーム全体の理解度を揃えるために,ブロックチェーンの勉強会を開催したとのこと。サービスを提供する側の理解度が足りないとユーザーにも伝わらない,という考えから実施されたそうだ。実際にLINE NFTマーケット上でNFTを売買したり,ユーザー間のウォレットで転送したりして,ブロックチェーンの基礎知識の習得に努めたという。
2つめの「LINE Blockchain側のメンテナンス,障害時の対応」では,タイトルAのNFT機能に外部のシステムを使っていることが紹介された。LINE Blockchainにメンテナンスや障害が発生した場合,ゲーム内のNFT機能だけを部分メンテナンス(アクセス不可)できる仕組みを導入しているそうだ。
そのほか,LINE Blockchain側の緊急メンテナンスや障害を検知するために,ブロックチェーンの視覚監視を導入したことも紹介されている。
3つめは「ユーザーからのNFT機能に関する問い合わせ対応」。これは,NFT化やゲーム内データ化を行う際に発行されるblock_idやtx_hashを紐付けたユーザーIDを用いて行っている。LINE Blockchainでは,LINE Blockchain Explorerを使うとblock_idやtx_hashから該当の情報を調べることが可能だそうだ。
4つめは「NFTの価値を高めるためには」だが,NFTなどのデジタルアセットにはコレクション性があり,ゲーム内に取り込まずに集めるという楽しみ方が紹介された。そのため,タイトルAでは各NFTのメタデータにシリアルナンバーを付与して,コレクション性や価値を高めているという。シリアルナンバー1,いわゆるキリ番,あるいはキャラクターに関する数字だと,コレクション性や価値が上がりやすいそうだ。
なお,NFTをゲーム内データ化すると,本来はシリアルナンバーも失われるが,関連情報をオフチェーンで管理することにより,再NFT化したときに同じシリアルナンバーを付与する仕組みを導入している。
続いて,「ゲームとNFTを連携する際の注意点」に言及した。勝城氏によると「トークン生成/鋳造/焼却に時間を要する」ことであり,トークン1つあたりの生成には2〜3秒,鋳造および焼却は5秒ほどかかる。生成数が多かったり,ネットワークが混雑していたりすると,その時間は増加する。そのため,トークンの生成/鋳造/焼却時にはユーザーへのアプローチに工夫が必要となると指摘した。
セッションの終盤,「タイトル運営の課題と改善案」が提示された。タイトルAでは,登録ユーザーの2%程度しかCtoC取引を行っておらず,これは想定よりも少ないとのこと。運営チームは「ユーザーが所有しているキャラクターの価値をゲーム内に表示できていない」「NFT化にはゲーム内通貨が必要になるため,ハードルになっている」といった課題を認識している。
そこで各キャラクターの価格や相場を表示したり,直近の取引をグラフ化したりして,2次流通の情報を提示することでNFT化を促進していくとのことだ。また,初回のNFT化を「お試し」として,無料にすることでハードルを下げることを試みている。
そのほか,ミッション形式でウォレット登録やNFT化,ゲーム内データ化をそれぞれ達成すると,ゲーム内アイテムがもらえるといった,NFTを促進する施策も行っているそうだ。
勝城氏によると,ブロックチェーンやNFTはまだまだゲームに浸透し切れていないのが現状であり,「いかにたくさんのユーザーに使ってもらうかが課題。できることや改善案は多数あるので,1つひとつ取り組んでいく」と意欲を示していた。
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