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[GDC 2015]モバイル向けゲームを3か月でVR HMD向けに改修した開発者が語る「最適化のポイント」
本稿ではそんなVR関連セッションの中から,「Dead Secret」というモバイル端末向けのゲームをVRに対応させた事例を解説する「Designing for Mobile VR in Dead Secret」(Dead SecretにおけるMobile VR向けデザイン)についてレポートしてみたい。
VR対応のためにユーザーインタフェースは徹底改修
Dead Secretは,Robot Invaderがスマートフォンやタブレットといったモバイル端末向けとして開発を進めている殺人ミステリーで,2013年頃に開発がスタートしたのだという。
そんなDead Secretでは,2014年10月にOculus VRが「Oculus Mobile SDK」をリリースしたことを受けて(関連記事),モバイル端末+VR対応のヘッドマウントディスプレイ(以下,VR HMD)環境へ対応することを決めたのだそうだ。講演タイトルにある「Mobile VR」とは,この「モバイル端末+VR HMD」という組み合わせを示している。
VR対応に要した期間は3か月で,「VR化にあたって,ユーザーインタフェースやゲームコードなど全面的な再構築を行った」とPruett氏は述べていた。氏が語ったのは,「3か月間で何を行ったか」の要点である。
Pruett氏がまず解説したのは,ユーザーインタフェース面の対応だ。オリジナルのDead Secretはモバイル端末向けアプリケーションなので,タッチやピンチ,スワイプにシェイクといった操作でプレイするようになっていた。しかし,装着すると外が見えなくなる没入型ヘッドマウントディスプレイであるVR HMDの場合,この方法は使えない。
そこでPruett氏ら開発スタッフが考えたのは,操作をシンプルなものだけに絞り込むことだった。「VR HMDを装着していても,PCならキーボードやマウス,ゲームパッドが使える可能性はあるだろう。だが,Mobile VRでは,そうはいかない。最終的に我々は,タップだけに絞ってユーザーインタフェースを最適化した」(Pruett氏)。
たとえば,ドアの開閉操作の場合,モバイル端末版ではスワイプが割り当てられていた。これがVR版では,タップするだけで開くという具合に変更されたそうだ。
続いて課題になったのが,プレイヤーの移動である。Dead Secretは,邸宅内の各部屋を移動して,そこにある謎を解いていくゲームだ。そのため,プレイヤーは部屋と部屋の間を何度も移動しなくてはならない。
では,この問題をどう解決すべきか。
その説明に先立ってPruett氏は,既存のゲームを「移動の複雑さと空間の複雑さ」で分類したうえで,Dead Secretを「移動はシンプルだが,空間は割と複雑」という位置に置いたと述べていた。謎解きゲームという性質上,「これはどこかで見たような……」と感じさせるシチュエーションを多用しているため,マップはやや複雑になるように設計してあるわけだ。
そこでPruett氏らは,Dead SecretのVR HMD対応にあたって,「移動線の最適化」を行った。キャラクターが直線や単純なスプライン曲線で移動するようにマップ各部の移動線を再設計し,部屋の一角から特定のオブジェクトに向かって,キャラクターが単純な動きで移動するようにしたのだ。これによって,3D酔いの発生を低減しようというわけである。
Dead Secretはモバイル端末向けのゲームなので,VR HMDでプレイするときもゲームが動作しているのはタブレットやスマートフォンとなる。そこでPruett氏らは,Mobile VRの特徴である「ワイヤレスで使える」という利点をゲームでの移動にも応用したそうだ。
モバイル端末とVR HMDは映像伝送用のケーブルで結ばれているため,完全なワイヤレス環境ではないのだが,モバイル端末から伸びるケーブルは映像用だけであり,電源やらマウスやらにつながったケーブルは必要ない。つまり,「PCのVRでは,(プレイヤーが)360度回ったりできないが※1,Mobile VRならそれができる」(Pruett氏)のである。
※1 Oculus VRのVR HMD試作機「Crescent Bay」は,PCと接続した状態でも360度の回転を検出可能だ。ただし,PCとHMDを結ぶケーブルは必要なので,回転できる範囲には制限がある。Pruett氏が主張しているのは,Mobile VRであればその制限もないということである。
そこで,氏らは,プレイヤーが室内を見回したとき,視点が注目すべきオブジェクトの周囲に来ると,「移動を示すマーカー」を画面に表示するようにしたという。これでプレイヤーは,「周囲を見渡して,マーカーをタップする」ことにより,簡単に移動できるようになったわけだ。
ユーザーインタフェース変更の最後は,ゲーム中に出てくるメッセージやテキスト類の最適化だ。VR HMDは解像度が低いので,スマートフォンの感覚で文字を表示すると読みにくい場合がある。そのため,ゲーム中に手がかりとして出てくるテキストは,読みやすいよう工夫する必要があるということだった。
もう1つの大きなチャレンジは常時60fpsをキープすること
描画フレームレートが下がって60fpsで描画できなくなると,これまた3D酔いの原因になってしまう。そのため,VR対応のためにさまざまな最適化が行われることになった。
細かい最適化テクニックまでは解説されなかったのだが,一例として挙げられたのが,レンダリング負荷を減らすテクニックだ。
たとえば,Dead Secretではプレイヤーの移動範囲があらかじめ決まっているため,描画されない部分も事前に把握できる。であれば,プレイヤーから見えるものだけのポリゴンメッシュを生成するようにすれば,レンダリングの負荷を軽減できる。
ちなみに,実際のポリゴンメッシュは隣接する部屋も含んだパノラマ状のデータとして構成されており,プレイヤーが目を向けた部分だけがレンダリングされるような仕組みになっているそうだ。
以上が,Dead SecretにおけるVR HMD対応の要点である。
Mobile VR環境はおろか,VR HMDでゲームをプレイしたことがある人自体がまだ少ない現状では,説明を読んでもいまいちピンと来ないという人も多いだろう。だが,VR HMDに向けたユーザーインタフェース設計や,VR HMDに特化した3D酔い対策というのは,今後重要になってくる要素である。そうしたノウハウが講演で公開されるというのは,先進的なゲーム開発者が集まるGDCというイベントらしいところである。
Pruett氏は講演中に,ケーブルに束縛されないというMobile VRの利点を盛んに強調しており,それこそがMobile VRに注目が集まりつつある理由であると述べていた。その点は筆者も同意するところだ。
Mobile VRに関しては,Oculus VRのCTOである,あのJohn Carmack(ジョン・カーマック)氏も「The Dawn of Mobile VR」(Mobile VRの夜明け)と題した講演を予定している。Mobile VRというテーマは,VR HMD関連の中でも今後注目すべきものとなっていくのではないだろうか。
Dead Secret 公式Webサイト(英語)
GDC公式Webサイト
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