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AMDは新GPU「Radeon Pro」を,NVIDIAは360度ビデオ用SDKをアピール。プロセッサメーカーによる「SIGGRAPH 2016」の展示をレポート
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印刷2016/08/04 00:00

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AMDは新GPU「Radeon Pro」を,NVIDIAは360度ビデオ用SDKをアピール。プロセッサメーカーによる「SIGGRAPH 2016」の展示をレポート

Exhibition会場の様子。今年もIntelやNVIDIA,AMDといった常連企業ブースは元気がよかった
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 コンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術の学会である「SIGGRAPH 2016」には,提出した論文が採択されると出展できる先端技術展示会「Emerging Technologies」と,一般企業が出展料を支払ってブースを構える展示会「Exhibition」という2つの展示会を開くのが通例となっている。
 2016年のExhibition会場は,AMDとNVIDIAが向かい合わせでブースを構えていることが,参加者の間で話題になっていたりもした。しかし,それ以上に,長年出展していたCG映画制作スタジオであるPixar Animation Studios(以下,Pixar)が,今年は出展を取りやめたことのほうが大きな話題となっていたようだ。

新たに出展した企業のブースでは,Amazon.comのブースが注目されていた。メインの展示物は「CRYENGINE」から派生した独自のゲームエンジン「Lumberyard」だ(関連記事
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Pixarブースの土産物として,毎年無料配布されて来場者から人気だったゼンマイ仕かけのティーポット(写真はSIGGRAPH 2014時のもの)。2016年はPixarが出展しなかったので,当然これもナシ
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 Pixarは映画「トイストーリー」や「ファインディング・ニモ」といったCG映画制作スタジオとして名高い企業である。
 例年であれば,展示会場の中央付近にブースを構えて,同社が販売するレンダラー「RenderMan」の関連展示や商談を行ったり,Pixarのエンジニアがステージに登壇して,制作実演や技術セッションを行ったりといった具合に,SIGGRAPHでのアピールに積極的だった。
 ところが2016年は,SIGGRAPH 2016期間中に開催した自社イベントの「Pixar's RenderMan Art & Science Fair」に注力するためか,SIGGRAPH 2016への出展を取りやめている。この件について,映像制作業界の関係者に話を聞いたところ,「PixarによるExhibitionの出展は,RenderManの販売促進を狙って始めたものだった。しかし,最近ではその効果も薄れてきたため,出展の意義を見出せなくなったのではないか」ということだった。
 もっとも,Pixarが撤退したのはブース出展だけで,Pixarのエンジニアやアーティストによるセッションは,今回も精力的に行われている。

PixarでSenior Software Engineerを務めるDirk Van Gelder氏(左)は,Pixar社内におけるCG映画制作に導入されたリアルタイム技術を紹介した
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 Exhibitionへの参加を取りやめたのは,Pixarだけではない。たとえば,ARMアーキテクチャの組み込み向けCPUやGPUの設計を手がけるARMや,「PowerVR」ブランドで知られるモバイル向けGPUを専門とするImagination Technologiesも,2015年から2年続けてブース出展を行わなかった。2年連続不参加となると,2017年以降の出展も怪しいだろう。

 とはいえ,AMDやNVIDIA,QualcommにIntelといったプロセッサメーカーは,2016年もブースを出展しており,自社の製品や技術のアピールに余念がなかった。そこで本稿では,AMD,NVIDIA,Qualcommの順で,彼らのブースにおける注目の展示をレポートしていきたい。


Fire Proの後継ブランド「Radeon Pro」を発表したAMD

レンダラーの「FireRender」も「Radeon ProRender」に


AMDがSIGGRAPH 2016に合わせて発表した「Radeon Pro WX 7100」
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 まずはAMDブースから。
 既報のとおり,SIGGRAPH会期中の北米時間7月25日に,AMDは,コンテンツ制作向けGPUブランドだった「Fire Pro」の後継となる新ブランド「Radeon Pro」と,PolarisマクロアーキテクチャのGPUを採用する新型グラフィックスカードとなるRadeon Pro WXシリーズの3製品を発表した。

 2016年3月に開かれたGame Developers Conference 2016で,AMDは,FijiコアのGPU2基を1枚のグラフィックスカードに搭載した「Radeon Pro Duo」を発表している(関連記事)。
 この発表会に参加していた筆者は,AMDに「これはFire Proを置き換えるものか」と質問していたのだが,この時点では,「Radeon Proは,RadeonとFire Proの間に来るもの」という回答だった。それから今回までの4か月間に方針が変わったのか,それとも,あの場ではああ言うしかなかったのかは分からないが,いずれにせよRadeon Proというブランド名が一過性のものではなくなったのは確かだ。

Radeon Pro推しのAMDブース。Radeon Proブランドは青がイメージカラーなので,ブース内も青のイメージで統一していた
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 話を戻そう。SIGGRAPH 2016のAMDブースは,このRadeon Proブランドを前面に押した展示を行っていた。ただし,会場で配布されていたプロダクトラインナップカタログにはFire Proしか記載されておらず,新ブランドについての記述はなしという状態。それだけ極秘,あるいは急に決まったということなのだろうが,ブランドを浸透させるまでには,まだ時間がかかりそうだ。

 展示物の中からとくに興味深かったものを3つ紹介しよう。
 1つめは,無料で利用できるOpenCLベースのレイトレーシングエンジン「Radeon ProRender」(関連リンク,英語)である。これは元々「FireRender」と呼ばれていたもので,Radeon Proの発表に合わせて,こちらも改名したわけだ。

FireRender改め,Radeon ProRenderのデモコーナー。サンプルシーンをレイトレーシングで高速にレンダリングする様子を実演していた。なお,デモ機の搭載GPUは「Radeon Pro WX7100」とのこと
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 Radeon ProRenderは,CEDECにおける講演でも名高い日本人開発者の原田隆宏氏(Senior Member of Technical Staff,AMD)を中心に開発が進められているもの。AutodeskのCG制作ツール「3ds Max」と「Maya」を皮切りに,「Rhinoceros」「Blender」「CINEMA 4D」といったツールにも対応している。また,CG制作ツールだけでなく,3D CAD設計ソフトの「SOLIDWORKS」にも対応するなど,応用範囲を広げているところだ。

OpenCL対応のCPUやGPUで動作するのに加えて,CPU+GPUの同時使用モードも追加する予定
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 Radeon ProRenderでユニークな点は,OpenCLベースで開発されているため,OpenCL動作環境であれば,動作するハードウェアを選ばないというところ。Radeon ProRenderは,AMD製のレイトレーシングエンジンであるにもかかわらず,NVIDIAのGPUやIntelのCPU,あるいはIntel CPUの統合型グラフィックス機能でも動作するのだ。
 さらに,ブースの説明員に聞いてみたところ,現在のバージョンでは,レンダリングを行うハードウェアとして,CPUのみかGPUのみのいずれかしか選べないところを,CPUとGPUの両方を同時に使用するハイブリッド動作にも対応するべく,開発を進めているということだった。

 また,Radeon ProRenderは新機能として,ハイダイナミックレンジ(HDR)レンダリングへの対応を進めているという。AMDブースでは,HDRレンダリングを実装したα版を使って,レンダリングを実際に行う様子を公開していた。

Radeon ProRenderでHDRシーンを描画するデモ。写真では区別がつかないと思うが,左がHDR対応で,右が既存のSDRによる画像だ
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 2つめの見どころは,「Radeon Pro Duo」ベースのPCでVRのデモを体験できる展示だ。使用していたVR HMDは,HTC製の「Vive」で,VRコンテンツは「Earthlight」(公式Webサイト)というタイトルだ。

Earthlightの公式スクリーンショット
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 Earthlightとは,国際宇宙ステーションに配属された新米宇宙飛行士となったプレイヤーが,太陽電池パネルを修理するために船外宇宙活動をするというゲームである。ところが船外活動中に,SF映画「ゼロ・グラビティ」と同じように,スペースデブリとの接触事故にあってしまって,さあ大変という内容だ。
 筆者も体験してみたが,上下逆転が当たり前の宇宙空間を体験するVRコンテンツは酔いやすいといわれることもあるが,筆者は酔うこともなく,上質なVR体験が楽しめた。さすがはデュアルFijiカードであるRadeon Pro Duoの高性能,といったところか。

Earthlight体験中の筆者。写真左に見えるデモ機は,Radeon Pro Duoを搭載している
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 3つめ見どころ展示は,体感ゲームマシンのように稼動するコクピット筐体とVR HMDを使ったレースゲームのデモだ。
 デモで使っていたゲームは,リアル志向のレースゲーム「Assetto Corsa」。デモ機はRadeon Pro Duoを搭載したPCで,プレイヤーはOculus VRのVR HMD「Rift」を装着してプレイする。ゲームの映像は,コクピット筐体に取り付けられた40インチ級のディスプレイにも表示されるので,ギャラリーもレースの様子を観戦できるという贅沢な環境だった。

レースゲーム「Assetto Corsa」を稼動筐体でプレイするデモ機。この写真を見ると,プレイヤーは筐体前方のディスプレイを見てプレイしているように見えるが,実際には頭にかぶったRiftの映像を見ている。ディスプレイはあくまでもギャラリー用だ
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 筆者も実際に体験してみたが,常に正面を向いてプレイするディスプレイとは違って,VR HMDによるレースゲームのプレイは,敵車の動向を探ったり,コースの先の先を観察したりするときに,自然な動きで左右を見回すことが多い。プレイ中,左右に首を振っている自分に気づいて,実車を運転しているときと似たような感じに,なんとも不思議な気分がしたものだ。
 また,稼動するレーシング筐体は,左右の慣性G再現は「そこそこ」といった程度だが,ハードブレーキングしたときに前につんのめるような荷重の移動表現が,なかなかリアルに感じられた。


 ところで,AMDはRadeon Proの発表と同時に,容量1TBのM.2接続型SSDを大容量フレームバッファとして搭載するグラフィックスカード「Radeon Pro Solid State Graphics」も発表していたのだが,こちらの実機展示は行われなかった。


「Quadro P6000」を披露したNVIDIAブース

メインの展示は「VRWorks 360」の実演


Exhibition会場のNVIDIAブース
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 AMDに続いては,その真向かいにあるNVIDIAのブースを覗いてみた。
 NVIDIAは,SIGGRAPH開催直前の北米時間2016年7月22日に,「NVIDIA TITAN X」(以下,TITAN X)を発表した。Pascalアーキテクチャの新型GPUコアである「GP102」を採用したもので,単精度浮動小数点演算性能は11 TFLOPSに達するという。

 GP102コアは,GPGPU用として4月に発表された「Tesla P100」のGPUコアである「GP100」と仕様は似ているのだが,総トランジスタ数がGP100コアの約150億個に対して,GP102コアは約120億個と大きく異なるほか,メモリインターフェースが,GP100コアはHBM2,GP102はGDDR5Xといった違いもある。
 GP102コアの詳細は公表されていないのだが,GP100コアから倍精度浮動小数点演算機能やHBM2インタフェースを省略するなどして,リアルタイムグラフィックス用にリファインしたものではないだろうか。

 さらにSIGGRAPH会期中に,NVIDIAは,同じGP102コアを採用するワークステーション向けグラフィックスカード「Quadro P6000」を発表した(関連記事)。
 TITAN XのGP102コアは,“ミニGPU”的に機能する「Graphics Processing Cluster」(以下,GPC)を6基搭載し,各GPCは,128基のCUDA Coreを集積した演算ユニット「Streaming Multiprocessor」(以下,SM)を5基組み合わせたものであることが明らかになっている。ゆえに,本来ならばSMの総数は30基で,CUDA Core総数は3840基になるはずだ。しかし,TITAN XのGP102コアは,2基分のSMを歩留まり確保のため無効化しているので,実際のCUDA Core総数は3584基となっている。

実機の展示はあったものの,デモはなかったQuadro P6000。とはいえ,来場者の関心は高いようで,周りには人だかりが絶えないほど
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 一方のQuadro P6000が採用するGP102コアは,CUDA Core総数が3840基であることが明らかになっている。つまり,すべてのSMが有効になったフルスペック版GP102コアを搭載しているわけだ。SMが増えたことで,単精度浮動小数点演算性能は12 TFLOPSと,1 TFLOPS分増えた。
 そのほかにも,搭載するGDDR5Xのグラフィックスメモリ容量も,TITAN Xの12GBから24GBへと増量されたという違いもある。

 さて,NVIDIAは今回,Quadro P6000の実機をショーケース内で披露していたのだが,残念ながら実機によるデモはなかった。フルスペック版GP102のパワー溢れるデモを期待していた来場者にとっては,ちょっと肩すかしを食わされたといったところか。

 そんなNVIDIAブースで興味深かった展示は,超高解像度の360度ビデオを実現するための開発者向けキット「VRWorks 360 VIDEO SDK」(以下,VRWorks 360)の実機デモだ。

 NVIDIAの「VRWorks」といえば,VRコンテンツ開発者向けに提供されているVR対応ライブラリ(関連記事)のこと。これまでのVRWorkが実装していた機能は,低遅延の非同期タイムワープ処理や,VR向けに最適化したSLI「VR SLI」といった具合に,リアルタイムグラフィックス向けの機能が多かった。それに対してVRWorks 360は,360度ビデオのキャプチャからつなぎ合わせ,ストリーミングまでを行う機能をまとめたものとなっている。

NVIDIAブースにあった,VRWorks 360のデモコーナー
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VRWorks 360実演コーナー近くに設置されていた,広角撮影対応の4Kビデオカメラを3台組み合わせた撮影機材。プロ用の360度ビデオ撮影環境は,どれも似たような仕組みを利用している
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 「VRWorks 360とはなにか」の説明に入る前に,簡単に360度ビデオの作り方について説明しておく必要があるだろう。
 個人が360度ビデオを撮影するための機材としては,リコーの360度カメラであるThetaシリーズが有名だ。しかし,業務用途の360度ビデオカメラとして使うには,さすがに画質面で物足りない。プロの360度ビデオの撮影現場では,4K解像度で広角撮影が可能な小型ビデオカメラを複数台用意し,それらをブラケットに固定して,一度に全方位を撮影するスタイルが主流である。

 ここで面倒なのが,広角撮影された複数のビデオストリームを1つの360度ビデオデータとしてつなぎ合わせる工程「スティッチング」だ。4K解像度のカメラ4台で撮影した場合,4Kビデオを4本もつなぎ合わせる必要がある。多くの場合,各カメラで撮影した映像の外周部分は,別のカメラでも重複撮影しているので,ここをぴったり重ね合わせるようにしてつなぎ合わせるのだが,パズルのピースのようにはきれいに重なり合わないのだ。とはいえ,これを1フレームごとに手作業で調整していくのは,相当大変である。

 VRWorks 360は,その工程を支援する……どころか,ほぼ自動化してしまう開発者向けキットである。VRWorks 360を利用すると,複数のカメラで撮影された映像をリアルタイムでフレームごとに色補正し,隣接する映像とぴったり重なるするように変形加工してつなぎ合わせたうえで,360度ビデオとしてエンコードしてストリーミングすることまで可能だという。
 当然,NVIDIAが提供するものなので,ほとんどの処理はGPU上で行われる。しかも,同時入力可能なビデオストリームの数(≒同時入力可能なカメラの数)は32台というから,とてつもない。
 さらにVRWorks 360には,プロの撮影現場でよく利用されている360度ビデオ撮影用ブラケットの設定や,同様に利用頻度の高い広角レンズの光学プロファイルまでが収録されているとのこと。

 NVIDIAブースでは,広角撮影可能な4Kビデオカメラを3台使って撮影したリアルタイムのブース映像を,NVIDIA GPU搭載のDell製ノートPCに入力して,360度ビデオストリームとして合成し,それをRiftで見たり,魚眼レンズプロジェクタを内蔵する球状スクリーンに投影するといったデモを披露していた。このノートPCで動作していたアプリケーションが,VRWorks 360を利用して制作したサンプルアプリケーションであるという。
 筆者も合成された360度ビデオを見てみたが,ビデオの映像品質は良好であることを確認できた。とにかく,つなぎ合わせポイントがどこら辺なのか分かりにくく,うまくつなぎ合わせできている。じっくりと観察すれば分かる部分もあったが,リアルタイムで行っていると考えれば大したものだ。

実演コーナーでは,先に掲載したカメラの映像を合成した360度ビデオを,Riftをかぶって見回せるようにしたり,写真右の球体スクリーンに表示したりといったデモが披露された
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 3台の4Kカメラは,ブースの天井付近に設置されていたので,Riftで見ると,自分が幽体離脱して,天井から会場を見下ろしたように見えるのが新鮮である。当然,その映像には自分の姿も映っているので,手を振ってみたところ,手を振る様子が映像として表示されるまで,およそ1秒強の遅延が確認できた。スティッチ工程を含んだ360度ビデオのライブストリーミングとしては,この程度の遅延で済んでいるのは立派だ。
 こうした技術が活用されて,スポーツイベントなどのライブ放送が360度ビデオストリーミングになったりすると,スポーツ観戦のあり方も変わってくるかもしれない。


Adreno 530のパワーをアピールしたQualcommブース


Qualcommブース
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 ARMやImagination TechnologiesがSIGGRAPHへのブース出展を取りやめるなか,Qualcommだけは例年と同規模のブースを出展していた。
 そんなQualcommが最も力を入れていた展示は,同社のハイエンドSoC(System-on-a-Chip)である「Snapdragon 820」が採用した独自のGPUコア「Adreno 530」による実動デモだ。

 Adreno 530の性能についてQualcommは,Snapdragon 820の先代となる「Snapdragon 810」に統合されたGPUコア「Adreno 430」と比べて,消費電力は40%少なく,描画性能は40%も上回ると謳っている。
 メジャーなグラフィックスAPIの中では,「Vulkan」への対応を打ち出しているのもポイントだ。「OpenGL ES 3.2」への対応は謳っていないものの,ほぼ同等の機能を有する「OpenGL ES 3.1」+「Android Extension Pack」(AEP)には対応している。また,GPGPU向けAPIの最新版である「OpenCL 2.1」にも対応するとのこと。
 スマートフォン向けCPUコアは,もはや64bit対応が珍しくないが,GPUであるAdreno 530もこの流れに乗っている。具体的には,64bitメモリアドレッシングに対応しているのに加えて,「Shared Virtual Memory」(SVM)と呼ばれる仮想メモリ技術によって,CPUとの協調処理に対応するという。

 Qualcommブース内では,OpenGL ES 3.1+AEPを駆使したSnapdragon 820によるリアルタイムレンダリングデモを公開していた。
 このデモは,屋内シーンをカメラが動き回るだけのシンプルなものだが,シーン内の各所で事前に取得した全方位のキューブ環境マップを光源としてライティングを行う「イメージベースドライティング」(IBL)と,画面座標系の局所的なレイトレーシングを行ってリアルタイムの映り込みを表現する「スクリーンスペースリフレクション」(SSR)を駆使していることが,アピールポイントになっている。

Snapdragon 820によるデモ。屋内をカメラが巡回するシンプルなデモだ。写真下側に見えるタブレットでリアルタイムレンダリングした映像を,HDMI経由で上のディスプレイに映している
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 これらの手法はメモリアクセス量が多く,メモリバス帯域を大きく消費するレンダリング手法であるため,これまではモバイル系GPUで利用されることは少なかった。だが,「Snapdragon 820世代では,こうした手法も現実的に利用できますよ」とアピールするのが,このデモを披露した理由のようだ。
 現地で撮影したムービーを掲載しておくので,ぜひ見てほしい。


 このほかにもQualcommは,Snapdragon 820とAdreno 530の高性能をアピールするために,VR関連の展示も行っていた。Snapdragon 820搭載のスマートフォン試作機を,スマートフォンをはめ込んで使う簡易VR HMDに装着して,VRコンテンツを体験してもらうという内容だ。
 筆者は,VR対応の3Dシューティングゲーム「EVE Gunjack」をプレイしたのだが,据え置き型ゲーム機並みに見えるグラフィックスでも,まったくもたつくことなくプレイができた。

EVE Gunjackのスクリーンショット(左)。右写真はそれをプレイ中の筆者
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 そのほかにQualcommブースでは,中国企業のPicoが開発したVR HMD「Pico Neo」(関連リンク)も出展されていた。
 Pico Neoは,単体でアプリケーションを動作させられるVR HMDで,PCやスマートフォンは不要だ。片目あたりの解像度が1200×1080ドットの有機ELパネルを採用し,最大リフレッシュレートは90Hz,システム総遅延(Motion to Photon)は20ms以内で,説明員は「Riftと同等である」と主張していた。

単体で動作するVR HMDのPico Neo。OSはAndroid 6.0とのこと。残念ながら,筆者がブースを訪れたときは不具合を起こしており,デモは体験できなかった
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 Pico Neoで面白いのは,VR HMD部分と有線でつながった専用ゲームパッドの中に,コンピュータ部分を内蔵しているところだ。そして,このコンピュータ部分に使っているSoCがSnapdragon 820であるということで,Qualcommブースで展示されていたわけである。
 Pico Neoは,アメリカ国内での販売を予定しているそうで,価格は500〜600ドル程度になるだろうとのことだった。

 ハイエンドスマートフォン並みのSoCとディスプレイパネルを使っているので,それなりに高価なデバイスであるところが,商品としての成功を難しくしているのは疑いない。とはいえ,コンピュータ部分を統合したVR HMDは,ユーザーが自由に動き回る「モバイルVR」体験に適したスタイルでもある。
 同様の単体動作が可能なVR HMDとしては,中国企業のIdealensが,社名と同名のVR HMD「Idealens」を開発中とのこと(関連記事)。今後は,こうしたスタイルのVR HMDが,各社から登場してくる可能性は高そうだ。

SIGGRAPH 2016 Exhibition(英語)

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