イベント
[GDC 2015]IGFの学生部門で日本人初のノミネートを果たした「Downwell」の麓 旺二郎氏に直撃インタビュー
既報のとおり,惜しくも大賞は獲得できなかったものの,ノミネート作品の中でも完成度が高く,ゲームの分かりやすさもあってか,会場内の展示ブースでは足を止めて見入っている人が最も多い印象を受けた。すでに,Serious Samシリーズや「Hotline Miami」といった硬派なインディーズゲームを専門に扱うDevolver Digitalとのパブリッシング契約が結ばれ,7月頃のリリースを目指して開発が進められているという。
Downwellを開発した麓 旺二郎(ふもと おうじろう)氏は,幼少期をニュージーランドで過ごしていたこともあってバイリンガルで,展示ブースに集まった同業者と笑顔で語り合っていた。大賞を受賞しようがしまいが,同じ志を持った開発者と意見交換できる喜びのほうが有用であるといった,この場にいることを本当に楽しんでいる雰囲気だった。
今回,そんな麓氏に直撃インタビューを敢行し,Downwellの開発秘話や開発者としてのスタンスなどを聞いてきたので,お伝えしたい。
「Downwell」紹介ページ(Indie Stream公式サイト)
「Downwell」紹介ページ(Devolver Digital公式サイト)
初めて制作したゲームがIGFのファイナリストに選出
4Gamer:
どうぞよろしくお願いします。
今回,GDC 2015の会場でDownwellを出展したわけですが,反響はいかがですか。
「Downwell」を開発した麓 旺二郎氏 |
日本では少人数の仲間にテスターとして協力してもらって,フィードバックを得ているのですが,こうして多くの人にプレイしてもらうのは初めてなんです。今のところ,プレイしていただいた人のほぼ全員がポジティブな意見をくれて,自分のモチベーションになっていますね。
実は,ここに来るまでにどうしても修正しておきたかったところが完成しなくて,「クソゲーだと評価されたらどうしよう」なんて悩んでいたんです。それが来てみたら皆,楽しんでくれているのが分かって,ここに来て本当に良かったと感じています。
4Gamer:
Downwellは,どのような経緯で作り始めたのでしょうか。
麓氏:
Downwellを作り始めたのは,昨年の6月頃でした。現在,東京芸術大学に在籍しているんですが,大学ではゲーム開発を学んでいるのではなく,声楽科に所属しています。でも将来,何をしたいかを考えたときに,やっぱり自分の好きなゲームを作ってみたいという思いが強くて,「GameMaker: Studio」※でゲームを作り始めたのがきっかけでした。だから,プログラムの知識も経験もありません。
※YoYo Gamesのゲーム開発用ツール
4Gamer:
なるほど。
それでは,当初からシューティングゲームを作りたいと思っていたのですか。
Downwellは,モンスターやクリーチャーが巣食う井戸の中で,銃を仕込んだ「ガンブーツ」を駆使してひたすら降りていくという2Dアクションゲーム。銃を発砲すると,その反動によって降下速度がスロー(≒ホバリング)状態になる。個人的には,Twitchなどの実況受けするゲームになりそうな印象だ |
いえ。僕はダンジョンを探索していく「Spelunky」というゲームが好きで,もともとはあのようなゲームにしたいと考えていました。でもゲームをデザインしていくうちに,パワーアップアイテムの1つとして考えていた「ガンブーツ」(銃を仕込んだ靴)がすごく爽快感があり,それだけでも十分に面白いと感じたんです。
そこから,左右にスクロールするのではなく,縦に落ちていくデザインになっていきました。
4Gamer:
Downwellはエンドレスに楽しめるのでしょうか。
麓氏:
最終的にはそうしたいと考えています。今はまだエンドレスにはなっていなくて,ある地点まで到達すると底があり,そこからまた落ちていくという仕組みになっていますが。
難度は高く,なかなか最後まで到達できないけれども,何度でもチャレンジしてみたくなるようなゲームを目指しています。日本ではプレイヤーを選ぶタイプのゲームだと思っていたので,メニュー周りは最初から英語で作っていました。
4Gamer:
そもそも,今回のIGFコンペに応募してみようと考えた理由は何でしょうか。
麓氏:
難度の高いゲームは海外で良く評価されると考えたからですが,ダメもとでやってみた感じです。まさか学生部門のファイナリストに残れるとは夢にも思っていませんでした。
4Gamer:
パブリッシャには自分からコンタクトを取ったとか?
いえ,そうではないですね。Downwellでは,開発の早い段階から映像をGIFアニメにして,Twitterで公開していたりしたのですが,それが巡り巡ってDevolver Digitalの目に止まったようです。彼らの公式アカウントから直接メッセージが届いたときは,「あのDevolver Digitalから?」と,連絡してもらっただけで感動しましたね。
それで,必死に自分のゲームを説明してプロトタイプを送ったら,しばらくして「面白いからパブリッシャ契約を結びたい」と。自分で販売までやるかどうか,ちょっと悩みましたけど,ほぼ即決に近い状態で契約しました。だって,あのHotline Miamiをリリースしているパブリッシャですよ。あのゲームも大好きなんです(笑)。
4Gamer:
インディーズゲームの開発者がパブリッシャと契約するメリットとは何でしょうか。
麓氏:
うーん。やっぱり海外でやってみたかったし,いろいろなサポートを受けられるという意味で,(経験豊富な)Devolver Digitalは良いパブリッシャだと思います。
実は,週末(3月6日〜8日)にボストンで開かれるPAX Eastにも出展するのですが,Downwellの試遊台のスペースが相当広いそうです。僕は「1台でいい」と言ったんですけど,かなりの規模になるみたいで,ちょっと心の準備ができていません。
4Gamer:
PAXはコアゲーマー向けのイベントだから,露出が高いのはいいことじゃないですか。もしかしたら,「Hotline Miami 2: Wrong Number」の隣りに展示されているかもしれないですよ(笑)。
麓氏:
あー,いやいやいや。うーん,どうしよう(笑)。
4Gamer:
ところで,Downwellは売り切り型を予定しているのですか。
麓氏:
ええ。たとえば,マシンガンを2.99ドルで販売するといったアイテム課金制にもできたかもしれませんが,お金を払えばゲームが簡単になるというのは,ゲームを作る側として誠実じゃないと思います。ゲームは完成したものを売るべきだというのは,自分のポリシーとして持っていたいです。
4Gamer:
そうなるとコミュニティを形成することが難しく,また継続的な収入を期待できないという側面もありますね。Downwellの完成後は,“個人商店”として頑張っていくつもりですか。
麓氏:
ええ。確かに,この1作で楽に暮らせるとは思っていません。あと1〜2年は暮らせて,次の作品につなげられるのであれば,自分の中では成功だと考えようと。まあ,頑張って自分なりの作品を作ってみて,ダメだったらどこかに就職するような感じでもいいんじゃないですかね。
英語圏では,「挑戦者」の比喩として「first penguin」(最初のペンギン)という言い回しがある。南極に棲むペンギンの群れは,海に飛び込んで餌を捕らなければ餓えてしまう。しかし,海の中にはサメやシャチが潜んでいるかもしれない。それでも,誰かが勇気を振り絞って最初に飛び込まなければ,ペンギンの群れに未来はないのである。
近年,日本でもインディーズゲーム開発の輪が広がってきているとはいえ,麓氏のように自分から海外のコンペに挑戦したり,実際にそれが評価されてパブリッシャ契約まで結んでしまったりする人は稀だろう。だが,たった23歳の麓氏は単身,大海に飛び込み,成果を残しつつある。そんな彼からは,first penguinとしての勇気さえ感じられ,今後の活躍を期待してやまない。
「Downwell」紹介ページ(Indie Stream公式サイト)
「Downwell」紹介ページ(Devolver Digital公式サイト)
GDC公式Webサイト
4GamerのGDC 2015関連記事一覧
キーワード
(C) 2015 Ojiro Fumoto. All Rights Reserved.