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ドイツのボードゲームイベント「SPIEL’16」で見かけた新作サッカーゲームをいくつか紹介
また,サッカーの試合ではなく,選手個人やチームに焦点を当てた作品を作ることも可能だ。
言うまでもなく,サッカーは世界中の人々に親しまれており,オフサイドやペナルティキックなど,ルールについて細かく説明する必要が(それほど)ないというのもポイントだ。この点は,サッカー文化が生活に深く根付いているヨーロッパにおいてとくによく当てはまる。
テーブルサッカーを筆頭に,数多くのサッカーゲームがこれまで作られてきたのもこうした理由による。ドイツ・エッセンで2016年10月上旬に開催されたボードゲームのイベント「SPIEL’16」でも,こうしたサッカーゲームが多数展示されていた。というわけで,簡単に紹介したい。
クラシックなサッカーゲームの流れをくむ「Super11」
「Super11」公式サイト:http://www.super11.co.uk/
イギリスのPremium Worldが制作した「Super11」は,マス目状に分割されたピッチに選手やボールの駒が置かれ,ゴールや観客席が用意されるという,サッカーのボードゲームとしては定番のアプローチになっている。
このようにサッカーをストレートにボードゲーム化した場合,サッカーの持つダイナミズムをどう落とし込むか? という点が難しくなる。交互に選手の駒を動かしていくだけでは単調だし,チェスや将棋などと違い,とくに個性があるわけでもない11個の駒を動かすのはときに苦痛になるはずだ。といって駒の数を減らすと,サッカーの醍醐味である戦術性が損なわれてしまう。
また,ダイスの目が1でも悲観する必要はない。「Super11」では,この目が出た場合,任意の選手を「S11」と書かれたグリッドに移動させられる。このため,通常のダイスの目では不可能な距離を移動させることも可能になるのだ。
このほか,得点の方法やディフェンダーによるボールカットなどもよく練られており,サッカーの試合を構成するエッセンスがほぼすべて詰め込まれている。
対象年齢が“3歳以上”であるにもかかわらず,筆者のようにいい年をしたサッカーファンも唸らせる。誰でも楽しめる,良質のファミリーゲームといえるだろう。
使うのはダイスのみというシンプルさが特徴の
「GooaAAAal!」
「GooaAAAal!」公式サイト:http://www.gooaaaaal.com/
まず,得点が入ったかどうかは,9個のダイスを振って出たボールの数と相手のキーパーグローブの数との差し引きで決まる。こうしたダイスロールを前半後半,それぞれ3回ずつ,計6回繰り返して得点が多かったほうが勝ちだ。
こう書くと,ありえないくらい得点が入る試合になるのではないかと心配になるが,思ったよりも現実の試合に近い熱い展開が楽しめるというのが,実際にプレイしてみての感想だ。理由は,ボールとキーパーグローブ以外のダイスの面がさまざまな効果を持っており,全体のゲームバランスがうまく調整されているためだろう。
例えば,オフサイドフラッグの目は相手が出したボールの目を1つ打ち消すことができ,グローブと同じ効果を持つ。また,ホイッスルの目はフリーキックを意味しており,そのダイスを振り直すことができる,といった具合だ。
ルールはごく単純で,4つのダイスをひたすら振り続け,ボールを先に揃えて「GooaAAAal!」と叫んだほうに1点が入る。ペナルティという,試合ではしばしば決定的な役割を演じる要素を盛り込んだあたりに,制作者のこだわりが強く感じられる。
「GooaAAAal!」は,ダイスの各面にサッカーの要素を当てはめることで,選手とは無関係に,サッカーゲームとして成り立っている。ある意味,驚くべき作品といえるだろう。
クラブチームを運営する醍醐味が味わえる
「The Football Game」
London Board Games Companyの「The Football Game」は,サッカーの試合ではなくクラブチームの運営をテーマにしたゲームだ。デジタルゲームでは「サカつく」や「Football Manager」などが代表的な作品として挙げられるが,「The Football Game」の方向性はこれらにかなり近い。
ブースでスタッフの人に思わず「The Football Managerを思わせる」と伝えたところ,「そうだろう,(プレイ時間が膨大になることで有名な)あのゲームをやる暇がないことが,これを制作する大きな動機になったんだよ」と言われた。
ちなみに本作は,「SPIEL’16」終了後,Kickstarterのクラウドファンディングに成功し,現在,2017年の発売に向けて準備中だ。
プレイヤーはまず,自分の分身となる監督を選ぶ。監督の能力は「戦術力」と「資金力」に分かれており,戦術力が高いとプレイ中に使える戦術カードの数が多くなり,資金力が高いとその分,選手獲得に使える予算が多くなる。
こうしてオリジナルチームを作ったら,いよいよプレイ開始だ。ゲームにはプレマッチとシーズンマッチがあり,プレマッチはチームのトレーニング期間にあたる。ここでは,戦術カードを使って自チームの選手の能力を強化したり,相手チームの妨害を行ったりする。
シーズンマッチでは,各ターンで6面ダイスと12面ダイスをそれぞれ2個ずつ振る。このうち,さまざまな色のボールが描かれた6面ダイスは,そのターンにおける自分のチームの成績を判定し,出た色と同じ選手カードの能力値が得点になる。これによってチームの順位が変動するのだが,つまり,能力値がいくら高くてもダイスの目が悪ければ意味がなく,このあたりで,「高額で獲得した選手が鳴かず飛ばずだった」という,割とよくある事態を再現している。
12面ダイスのほうは,選手の身に起こる出来事を記したイベントカードに対応しており,これも長いシーズン中に起こりうる,さまざまな出来事をうまく表現したシステムになっている。
本作では,プレイヤーが開始時に作った選手の能力値に応じてクラブチームのランクが設定され,ランクが低い場合は,リーグ戦で善戦することで高ランクチームよりも高いポイントが獲得できるのだ。このため,最初に十分な戦力を持てなかったクラブチームでもゲームの勝者となることは十分可能だし,監督選択の時点で戦術力の高い人物を選ぶメリットもこの点にある。
現有戦力で予想できる成績以上の結果を出してファンを満足させる,というのは実際のクラブチームの監督に求められる手腕だ。「The Football Game」でプレイヤーが目指すのも,まさにそれなのだ。
サッカーゲームの多様性を再確認させられた新作たち
以上のように,「SPIEL’16」に出展された新作サッカーゲームは,どれも個性的なものばかりで,サッカーゲームというジャンルの多様性を改めて感じさせてくれた。作品によってサッカーの表現方法は異なっているが,実際の試合がもたらしてくれる面白さを卓上でも味わってほしいという意図はどの作品にも共通している。
冬が近づき,屋外でサッカーをするのが大変になりつつある今日この頃,部屋の中でこれらのゲームをプレイしてみるのもいいだろう。
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