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意外なところにゲーム人 第8回:MRを使ったITソリューション開発に取り組むポケット・クエリーズ 社長 佐々木宣彦氏
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印刷2020/04/02 12:31

連載

意外なところにゲーム人 第8回:MRを使ったITソリューション開発に取り組むポケット・クエリーズ 社長 佐々木宣彦氏

画像集#011のサムネイル/意外なところにゲーム人 第8回:MRを使ったITソリューション開発に取り組むポケット・クエリーズ 社長 佐々木宣彦氏

 かつてナムコやコーエー(いずれも当時)でゲーム開発に携わり,現在はゲーミフィケーションデザイナーとして活躍している岸本好弘氏とともに,ゲーム作りのノウハウをゲーム以外の分野で活用している人を取材していく連載「意外なところにゲーム人」。

 連載第8回に登場いただくのは,ポケット・クエリーズの代表取締役社長 佐々木宣彦氏である。同社は2010年にスマートフォンアプリのデベロッパとして設立され,スマホゲームの開発を経て,現在はコンシューマゲームやアーケードゲーム,そして企業や官公庁の業務の中核を担うエンタープライズ系システムの開発に取り組んでいる。今回は佐々木氏に,同社の取り組みと今後の展望,エンタープライズ系システムの開発に応用できるゲーム開発上のポイントなどを聞いた。

ポケット・クエリーズ 代表取締役社長 佐々木宣彦
画像集#001のサムネイル/意外なところにゲーム人 第8回:MRを使ったITソリューション開発に取り組むポケット・クエリーズ 社長 佐々木宣彦氏


ゲームが好きでも自分で作ろうとは考えていなかった


 1970年生まれの佐々木氏は,小学校高学年のころに任天堂の「ブロック崩し」「ゲーム&ウオッチ」に触れ,中学1年生のときに発売されたファミコンでは「スーパーマリオブラザーズ」「ドラゴンクエスト」などで遊んでいたという。それらと並行して小学校6年生のとき,キャッチコピーに含まれていた“ゲーム”という文字に惹かれて,カシオのポケットコンピュータ「PB-100」を入手したことが,プログラミングを始めるきっかけとなったそうだ。

佐々木宣彦氏(以下,佐々木氏):
 そうなると,本当のPCが欲しくなるんですよ。それで中学校に入ったときに,日立の「ベーシックマスターレベル3マーク5」というマニアックなPCを親に買ってもらったんです。当時はNECのPC-9801やPC-8801が非常に高価な一方,ベーシックマスターは12万円台だったんですね。
 ただ,NECのPCと比べるとソフトが少なく,「デゼニランド」「サラダの国のトマト姫」を遊んだ以外は市販されていたゲームをプレイした記憶があまりありません。PCゲームといえば,マイコンBASICマガジンなどに掲載されたプログラムを打ち込んで遊んでいました。
 よく覚えているのは,上位機種の「MB/S1」に搭載されていたイメージジェネレータを使って,ゲームのキャラクターを差し替えるようなちょっと変わった方向にのめり込んでいたことです。そのときは自分でゲームを作る人になろうとはあまり考えていませんでしたし,ゲームを作る側の人達にも興味がありませんでした。

岸本氏:
 ちょうど,佐々木さんが少年の頃は,関数電卓が出てその次はPCと,理系男子がプログラミングに挑戦できるワクワクの時代でした。

カシオのポケットコンピュータ「PB-100」(佐々木氏の私物)
画像集#002のサムネイル/意外なところにゲーム人 第8回:MRを使ったITソリューション開発に取り組むポケット・クエリーズ 社長 佐々木宣彦氏

 中学3年生になると佐々木氏の関心は自転車やバイクに移っていく。ゲームで遊ぶことは継続していたものの,プログラミングからは遠ざかっていったという。そして機械に興味を持った佐々木氏は,大学にて船舶工学を専攻し機械設計を学んだ。卒業後には三菱自動車工業に入社し,トラック・バス部門で防衛庁(現防衛省)向けに大型トラックの設計を手がけていたという。そうした機械設計には計算やプログラムの知識も必要になるため,このころから再びプログラミングにも取り組み始めたそうだ。

 次に3D CADの会社に転職した佐々木氏は,機械設計のノウハウを活用したCAD導入の支援などをしつつ,システム開発に取り組むことに。その後は富士通に転職し,システムエンジニアとして企業の基幹システム開発,その中でもプログラミングの前段階となる上流工程を主に手がけることとなる。ようやく仕事としてプログラミングに取り組んだのは30代前半のことだったという。以降,ポケット・クエリーズ設立までは製造業のクライアント向けにソリューションの提供や支援,コンサルティングなどを行っていたとのことだ。


Unityとの出会いがきっかけでゲーム開発に転進


 2009年1月,佐々木氏は当時のiPhoneアプリブームを受け,自分でもスマホアプリ開発に取り組むことを新年の抱負に掲げた。実際にアプリを開発してみたところ予想以上にいろいろできると感心し,アプリ開発者として独立することも考えたのだという。ただ,自身に営業の経験がないことから当初は躊躇していた。
 しかしアプリ開発の勉強会でフリーランスのアプリ開発者から話を聞き,改めて独立を決意し,2010年にポケット・クエリーズを設立した。

佐々木氏:
 ポケット・クエリーズは,もともとスマホの実用アプリを開発する会社だったんです。“クエリー”はデータベースに情報を照会するという意味の用語で,それに“ポケット”を付けることで“いつでもどこでも情報にアクセスできる世界を作る”というような意味合いを社名に持たせています。
 実を言うと,設立時にはゲーム開発のことはまったく考えていませんでした。私自身も新しいハードが発売されたり,大作が出たりしたときくらいしかゲームは遊んでいませんでしたね。

 ツールなど実用アプリを受託メインで開発していたポケット・クエリーズだったが,2011年に3Dグラフィックスのスマホゲーム開発案件が舞い込んできた。ゲーム開発経験がなく,しかも3Dグラフィックスとなると大変そうだなと考えていた佐々木氏だったが,ここでUnityの存在を知る。3Dグラフィックスを簡単に表示できること,マルチプラットフォーム開発ができること,当たり判定を簡単に作れることなどから「これはすごい」と思ったそうだ。

画像集#005のサムネイル/意外なところにゲーム人 第8回:MRを使ったITソリューション開発に取り組むポケット・クエリーズ 社長 佐々木宣彦氏

佐々木氏:
 そこから,Unityを使ってゲーム開発にチャレンジしてみようと思いました。当時はユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの設立前でしたから日本語の情報も少なかったので,セミナーなどでUnityのセッションをしていました。すると,ゲーム開発の案件がたくさん来るようになったんです。そういった経緯もあり,2012年ごろにはゲーム開発をメインにした会社にしてしまおうと考えて,今に至っています。ある意味,Unityの存在が私自身の原動力になったと言えます。

岸本氏:
 Unityはすごかった。それまでゲーム開発会社が社内向けに独自開発していた3Dエンジンや開発環境を,プログラマーが誰でも使えるようにしたんです。それによってゲーム開発者の裾野が大きく広がりました。

 並行して,ゲーム開発のノウハウを実用ソリューションに応用してビジネスにできないかと考え始めていた佐々木氏は,シリアスゲーム開発が盛んなオランダにて開催されたUnityのカンファレンス「Unite 2012」に参加する。オランダでは小規模なデベロッパが受託開発でシリアスゲームを開発しており,B to CではなくB to Bでないとなかなかビジネスとして成立しづらいという状況があったのだという。

佐々木氏:
 そんな中オランダのデベロッパ,Ranj Serious Gamesは自前のゲームエンジンを開発して,よりビジネスライクにシリアスゲーム開発へ取り組んでいました。そのゲームエンジンをライセンス提供したり,自分達でもシリアスゲームを作ったりと,同じB to Bでも少し違ったアプローチでしたね。その後2015年に,セミナーで日本でもシリアスゲームについて研究している人達がいることを知り,より詳しくなりました。

岸本氏:
 2014年に「第1回シリアスゲームジャム」というイベントを主宰したのですが,その時に佐々木さん始め,ポケット・クエリーズの開発者に参加頂きました。それが最初の出会いでした。

 ゲーム開発に取り組み,社内に3Dグラフィックスのチームを設けたことにより,ポケット・クエリーズはコンシューマゲームやアーケードゲームの開発にも関わるようになる。代表的なものには「FINAL FANTASY XV オンライン拡張パック:戦友」や,バンダイナムコアミューズメントのVRタイトルなどで,今ではスマホゲームを扱うことはほとんどなくなったそうだ。
 また現在は,MRを使った設備保全などエンタープライズ系システムの開発も手がけており,こちらが全業務の7割を占めるほどに規模が拡大しているという。

佐々木氏:
 VRは当初,自社のオリジナル3Dキャラクター「クエリちゃん」を使ったゲームなど自社の取り組みとしてやっていました。2015年ごろに,近々Microsoftからヘッドマウントディスプレイ「HoloLens」が出るらしいという話を聞き,自分達でもビデオシースルー型のMRをやってみようと考えて作ったのが,MRロボットゲーム「くえりんロボ」です。このゲームでは,映像の遅延発生を解決するために画像解析を研究しました。最近ではディープラーニングを使って顔認証や物体認識などもできますから,それらの技術を自社のソリューションに積極的に採用していこうと考えています。
 あとはセンサーですね。マイコン経由でいろいろなものを動かしたり,クルマの自動運転に使われる「LiDAR」を体感型ゲームに使ったり。そうした現実との接点が増えることにより,MRの技術や考え方はさまざまなソリューションに転用できるんです。

岸本氏:
 ゲームの技術をゲーム以外にも活用する。その頃から,ポケット・クエリーズはゲームショウのみならず,実用ソリューション系のショウにも出展していました。色々面白いものを出展していたので,私もよく見に行ったものです。

クエリちゃん(公式サイト
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東京電力との取り組みでMRとゲーミフィケーションを用いた設備保全ソリューションを開発


 ポケット・クエリーズは2018年5月にMicrosoftのMRパートナーに認定され,さまざまなプロジェクトに取り組んでいる。その中でも最たるプロジェクトが,東京電力ホールディングスと共同で開発している「QuantuMR」(クァンタムアール)だ。
 このソリューションは,現実空間にデジタルデータを重ねて確認できるMRのメリットを生かし,発電所や工場などの現場業務をサポートしたり,作業の高度化を狙ったりするというものである。現在は,東京電力ホールディングスを含めた数社で実証実験を行っている段階だ。デバイスが高額なこともあり,普及するのに2〜3年はかかると佐々木氏は見込んでいる。

佐々木氏:
 設備保全ソリューションに取り組むようになったのは,東京電力さんからの問い合わせがきっかけでした。東京電力さんは,MR技術を自分達の業務に取り入れる研究に意欲的で,Unityを使ってソリューションを開発できる会社を探していたそうです。
 そのころは,弊社で「HoloLens」を研究してちょうど1年くらいが経とうとしていた時期で,まだMicrosoftのMRパートナーに認定される前でした。私達から「将来的に,このソリューションでビジネスすることも考えましょう」と提案したところ,東京電力さんも快諾してくださって。メディアでも大きく取り上げられたので,そこから設備保全の案件が一気に増えました。

岸本氏:
 ゲーム会社で,MicrosoftのMRパートナーになったのは,ポケット・クエリーズが最初でした。それだけ最先端を行っているということですね。

 佐々木氏によると東京電力ホールディングスはもともと,MR技術を発電所の中で活用することをイメージしていたという。現状,発電所内は中央管理室で監視・制御をしており,何か異常があると現場に出向いて点検を行っている。しかし,現場ではメーターが示す値などが分からず,いちいち電話を使って中央管理室で確認してもらっているのだという。このとき,MRデバイスを用いて,メーターをホログラムで表示できれば電話をかける手間を省け,効率化を図れるというわけである。
 さらに2人1組で点検に行っていたところを,1人は現場に行き,もう1人は映像を見ながら遠隔で作業するといった省人化も実現できる。また,手順どおりに進めなければならない点検において,次に何をすればいいのか分からないといったことを防ぐために,矢印などを表示して作業員を誘導するといったことも期待されている。現場には触れると感電してしまうような危険な場所もあるため,そういった場所に近づくと警告を出すなど未然に事故を防止することにも活用される予定だ。

佐々木氏:
 「QuantuMR」は,効率化と危険回避を軸としたソリューションです。また東京電力さんは30年後の2050年に向けた課題として「作業員人口の減少」を掲げていて,省人化と技能継承も重要です。つまり,素人でも作業ができるようになる環境を作り上げることがプロジェクトの大きな軸の1つになっているのです。
 また,昨今はデジタルトランスフォーメーションが進められる一方で,現場では未だ紙が使われています。そうした現状を変えるという意味でソリューションの提供は大きなチャンスだと捉えています。


 ポケット・クエリーズでは自社のソリューションを顧客にプレゼンするとき,「操作が直感的」「マニュアルを使わずに徐々に体験させる」「最初に難しいと挫折するので,段階的に難度を上げる」──すなわち,ゲーミフィケーションを採用していることが大きなメリットとなっていると説明するという。

岸本氏:
 ソリューションと言ってもいろいろありますが,佐々木さんとポケット・クエリーズの考えるそれは,ゲームの仕組みや考え方を応用した分かりやすく使いやすいものということですね。ゲームのようにステージごとに操作を学べて,段階的に応用操作にも対応できるようになると。これはゲーム開発者ならではの視点と言えるでしょう。

 とくに操作が直感的であることなどのユーザビリティについては,佐々木氏はポケット・クエリーズがゲーム開発を始める前,実用アプリ開発の時点から意識していたことだという。スマートフォンでは,フリックを筆頭にそれまでになかった新しい操作方法が登場したため,必然的に人間の特性について考えるようになったそうだ。
 その後もゲーム開発者の考え方を深く知るにつれ,普通にゲームをプレイしているだけでは見逃しがちな部分に,さまざまな工夫や配慮がなされていることに気づかされたと佐々木氏は語る。

画像集#006のサムネイル/意外なところにゲーム人 第8回:MRを使ったITソリューション開発に取り組むポケット・クエリーズ 社長 佐々木宣彦氏

佐々木氏:
 当時のスマホゲームのトレンドは,いかにしてプレイヤーにガチャを引かせるかというものでした。それを実現するために,ゲーム内には射幸心を煽るいろいろな仕掛けが施されていたんですよね(笑)。
 私達は「ソーシャルゲームは射幸心を煽って儲けを出していますが,ポケット・クエリーズでは知的好奇心を煽るようにしています」と言い換えてクライアントに説明しています。こう説明すると,「ゲーム会社にソリューションの開発を頼むのもいいんじゃないか」と思っていただけるんですよ。

岸本氏:
 「知的好奇心を煽る」いい言葉ですね。ほかの業界では,ゲームにネガティブなイメージを持つ方もいらっしゃいます。しかし,実際に体験していただくとその素晴らしさを分かってもらえるはずです。ほかの業界に売り込むとき,最初にゲームについてどう伝えるかは,注意が必要なんです。

 しかし,そうは言っても4〜5年前までは,なかなかソリューションにゲームの仕組みを採り入れることに理解を求めるのは難しかったと佐々木氏は言う。とくに会社の上層部からの「ゲームなんて遊びだろう」といった反発が大きかったそうで,最近になってようやく「今の若い人達はゲームで育っているから,ゲームっぽいほうが親しみやすいんじゃないか」という考え方に変わりつつあるそうだ。
 また保全設備ソリューションは現場で使われるだけでなく,現場作業のトレーニングにも活用するケースが増えているという。とくにここ1年は,360度カメラで撮影した映像ベースのVRを活用する案件が増えているそうだ。佐々木氏は,当面は映像ベースのVRソリューションの提供を続けていき,後々は3DグラフィックスベースのVRソリューションに移行し,最終的にMRソリューションへとクライアントを誘導していきたいと展望を語った。

佐々木氏:
 クライアントが映像ベースのVRを使いたい理由は,1つは作業の訓練をしたいから,そして遠隔で普段行けないような現場の様子を確認したいからの大きく2つに分けられます。
 例えば,東京電力さんの水力発電所には大きなトンネルがあり,そこは通常水が張られています。しかし,数年に1回だけ水を止めて内部に亀裂のある場所や大きさなどを記録していくという作業があるんです。
 ただ,作業は数年に1回しかないので,この現場を想定した訓練ができないという問題があったんです。そこで現場で撮影した画像や映像をVRツールに取り込んで,VRデバイスを使って皆で測定方法を学んだり情報を共有したりするんです。これなら自分達自身で想定される環境を撮影して使えますし,編集もコンテンツ作りも簡単にできます。「MRはまだハードルが高い」と考えているクライアントでも気軽に導入できるわけですね。

 このツールの製品版「iVoRi 360」(アイヴォリィ サンロクマル)は,2020年3月下旬より提供される。「iVoRi 360」では,複数のユーザーが写真や映像で構成されたVR空間の中で,レーザーポインター的に特定の場所を示したり,空間内に矢印や文字を書き込んだり,空間内を移動して特定の部分に近づいたりといったように情報を共有できる。
 もちろんユーザー同士の会話も可能で,佐々木氏は接客業などさまざまな業種の研修や社屋の避難経路確認,企業の遠隔会議やリモートワークに使えるのではないかと考えているそうだ。



プランナーは感性に訴えかけるUIの設計で実用ソリューションに寄与できる


 それでは,ゲーム開発者が佐々木氏やポケット・クエリーズがやろうとしていることにチャレンジするためには,どんな資質やスキルが必要だろうか。佐々木氏はプログラマーや3Dグラフィックスのデザイナーは基本的にゲーム開発とやることはほぼ変わらないという。またプランナーは実際に身体を動かして触るUIなどを設計するうえで,企画力を生かせるのではないかと語る。

佐々木氏:
 ゲームのプランナーは触っていて気持ちいい,楽しい,使って便利なUIを作ることに長けています。一方,従来の実用ソリューションは少ない手数で操作できるか,手順を間違えないかといったことが優先されており,例えばボタンが押しにくくてもそこを突き詰めて改善しようとはあまり考えません。
 見た目や音の演出もそうです。例えばVR空間では触覚がないので色が変わるなどのエフェクトと音で触覚を再現しますが,従来の実用ソリューションではそういった例をあまり見かけません。感性に訴えかけるUIを作れるプランナーが,今後の実用ソリューションには必要になってくるんじゃないでしょうか。

岸本氏:
 実用ソリューションの世界では,今まで取り入れてこなかった「ゲームならではの使いやすいUIや見た目や音の演出」が,ポケット・クエリーズの強みになっています。優れたゲームプランナーにこそ,実用ソリューションにも挑戦してほしいと思います。

 また現場で使われることの多い実用ソリューションの企画にあたっては,「現場を体験する」ことも重要だという。実際,佐々木氏も水力発電所のトンネル内を実際に見たことで「この状況なら,これとこれの組み合わせが使えるんじゃないか」といったアイデアが多数出てきたそうだ。

画像集#007のサムネイル/意外なところにゲーム人 第8回:MRを使ったITソリューション開発に取り組むポケット・クエリーズ 社長 佐々木宣彦氏

佐々木氏:
 例えば小さい操作パネルをホログラムで拡大表示させたとすると,今度はどこを拡大しているのか分からないという問題が生じます,そこで元の操作パネルとホログラムを線でつないで分かりやすくするというゲームっぽい演出を施すわけです。

 ポケット・クエリーズは“ゲームのちから”を経営理念に,人々の活動に寄与する“超人化技術”の実現を中期理念にそれぞれ掲げている。“ゲームのちから”とは,VRやAR,MRに関連する最新技術とゲーミフィケーションのノウハウなどのことだ。
 そして“超人化技術”は表現(3Dグラフィックス,VR,MRなど)や交流(オンライン),学習と判断(AI,画像認識など)の技術を介して,人の能力を拡張させるというものだ。これらを活用して,さまざまな分野で作業の効率化や自動化を図る“技脳継承”(技能継承)を行っていくというのがポケット・クエリーズのビジョンである。

佐々木氏:
 技能継承は人から人に継承するものと,それまで人がやっていたことを機械化できるものに分解できます。それらをうまく整理してソリューションやエンターテイメントを作っていこうという考え方が“技脳継承”です。
 世間がVRの可能性に気づきつつある昨今,弊社では昨今注目されているXR系のトレーニングや自動化ツールなどに取り組みつつ,“技脳継承”をテーマに掲げて訓練や遠隔をキーワードにMRにつながる提案を続けていきます。
 またゲームデベロッパの側面を消さないよう,エンターテイメント系ではセンサーや画像認識,VRを使った体感ゲームなどを通じて新しい技術領域の研究開発を進めていきます。そしてその結果を実用系にも応用していくわけです。

岸本氏:
 “技脳継承”とは,またまた新しく素晴らしい言葉を聞きました。“生まれついてのゲーム世代”という若い人たちは,学ぶことや現場で作業することも,ゲームみたいになればいいと思っているのではないでしょうか。
 現役のゲーム開発者,特にゲームプランナーの皆さんには,実用ソリューションにも挑戦してほしいですね。面白くするのはゲームだけではなく,学ぶことや現場での作業,そして世の中全てを楽しく分かりやすくすることだと気づいてもらえればと思います。

画像集#009のサムネイル/意外なところにゲーム人 第8回:MRを使ったITソリューション開発に取り組むポケット・クエリーズ 社長 佐々木宣彦氏

「ポケット・クエリーズ」公式サイト

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