インタビュー
[TGS 2020]日本eスポーツ連合(JeSU)副会長 浜村弘一氏に聞く。「選手が食えるようになる」ために必要なもの
そして,eスポーツ大会の開催に関する法的整理について,このたび新たに風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風俗営業適正化法)の“ゲームセンター等営業”に該当しない参加料徴収型大会の範囲を明確化したことを明らかにしている。
さて,選手から参加料を徴収する大会が開催できるようになると,日本のeスポーツシーンにはどのような影響が出てくるのだろう。今回の発表会終了後,JeSU副会長 浜村弘一氏にインタビューをする機会を得たので,そんな疑問を皮切りにして,日本のeスポーツが抱える課題や展望についても話をうかがった。
[TGS 2020]JeSU活動発表会が実施。風営適正化法上の“ゲームセンター等営業”に該当しない参加料徴収型大会のガイドラインを公開へ
本日(2020年9月24日),日本eスポーツ連合(JeSU)は活動発表会を実施した。そのなかで,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営適正化法)の“ゲームセンター等営業”に該当しない参加料徴収型大会の範囲を明確化し,ガイドラインを設定したことを報告している。
日本eスポーツ連合(JeSU)公式サイト
「参加料徴収型大会ガイドライン」とは
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
さっそくですが,発表会で岡村会長から紹介されていた「参加料徴収型大会ガイドライン」についてお聞きしたいです。
浜村氏:
はい。JeSUは2018年2月の設立以来,日本のeスポーツの法的課題について検討を進めてきました。これまでに景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)と刑法賭博罪に関しては,法令に問題のない形でeスポーツ大会を開催する条件を整理することができました。
今回のガイドラインというのは,風俗営業適正化法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律。風営法とも言われる)に関する話です。
4Gamer:
警察庁と折衝を重ねて設定したということですが。
浜村氏:
賭博罪に関しては,「参加者からお金を集めて,それを賞金に充てると賭博だよね」という話だったわけですが,だったらどうすればいいのか。JeSUとしてはそのお金を大会の運営費にだけ充てて,賞金はスポンサーから出すという形であれば,賭博に該当しないという結論に至りました。
これと似たような仕組みで風営法に関しても整理することができたんです。ずっと風営法を統括する警察庁との間で話をしてきて,やっとここまで持ってこられました。以前から,参加者からお金を集めて大会を実施すると,それがイベント会場のような一時的な施設であっても「これはゲームセンター営業だよね」と言われる可能性がありました。ゲームをプレイする人からお金を集めて,施設でゲームを遊ばせたら,それはゲームセンターであると。
風営法における「ゲームセンター等営業」に該当すると,事前に営業許可を取得することが必要になるだけでなく,賞金を出せませんし,地域によっては条例により年齢による入場時間の制限もあります。住宅地や学校の付近では営業できない,という規制もありますね。
4Gamer:
選手から参加料を徴収する大会を開催するには,ゲームセンターに該当しない条件を明確にすることが必要だったというわけですね。
浜村氏:
例えば,EVO Japanのような大会では,幕張メッセのような大型の会場を借りて,かつ家庭用ゲーム機を使って行われる大会を複数日にわたって開催することになるため,ゲームセンター等営業にあたると言われないよう,選手から参加料を徴収していませんでした。それはつまり,観戦者の入場料と協賛等で回さないといけないということです。
水泳や陸上といったフィジカルスポーツの大会では,参加者から選手登録料や大会施設の利用料をいただいて,それによって運営費用を賄うこともできます。だから,黒字にしやすい。そうなると大会の数も増えることが期待できます。
4Gamer:
次回の大会を企画することもできますし,興行として成立する見込みがあれば,新たに参入する団体も増えますね。
浜村氏:
そうです。現在は「eスポーツは投資だからいい」と言って,赤字覚悟で開催されている大会もありますが,そんな状態では長く続かないですよ。これではダメだから,なんとかしなくてはいけないと。
ゲームセンター等営業として扱われずに選手から大会の参加料をいただく方法を確立できれば,参加料によって大会の収益を安定させることにつながりますし,ゲームセンター等営業では禁止されている賞金の提供も可能になります。そうして大会自体も増えていく。日本のeスポーツが産業構造として,うまく回っていくことが大事だと考えています。
今回,大会の開催日数に関係なく,参加料が運営費を上回らなければ良いという,ゲームセンター等営業にあたらない基準を打ち出すことができたのは大きいと思っています。
4Gamer:
今後,参加料徴収型大会を実施したい団体や個人に対して,JeSUはどのような立場になるのでしょうか。
浜村氏:
まずお伝えしたいことは,JeSUに申請してもらわなくても,今回のガイドラインの手法に則って参加料徴収型大会を開催すれば,風営法の規制を受けずに大会を開催することができます。今回のガイドラインでは,「どのような形で開催すれば,ゲームセンターに該当しないのか」ということを説明しています。
大会を実施したいという企業や団体,個人がガイドラインを確認のうえで開催するのであれば,JeSUに連絡する必要はまったくありません。
4Gamer:
では,運用予定の認証制度はどのような対象を想定しているのでしょうか。
浜村氏:
例えば,企業などで大会の企画が出てきたとしても,「法的な懸念が完全に払拭できないから承認できない」というケースが結構あります。グレーではなく,完全に真っ白でなければ,ゴーサインが出せないと。
ただ,各地の警察署に相談しても事前に証明書を発行してくれることはないでしょう。そんなときに「JeSUはこういうケースに対して,どうすれば問題がないのかを,きちんと警察庁と議論したうえで結論に至ったので,それをJeSUが証明します」という形で,JeSUからの適合認証を出すことができます。
このような認証を受けることよって,会社に企画を通しやすくしたり,地方公共団体の公認をとりやすくなったりするケースを想定しています。
今回のガイドラインの内容は警察庁とも協議のうえで作成しています。しかし,地域によってはその内容がうまく伝達されず,しばらくのあいだは間違った内容の指導を受ける可能性も否めません。そのため,ガイドラインには,もし各地の警察署からガイドラインの内容と異なる指導を受けた場合は,JeSUに相談することができるということを明記しています。
4Gamer:
JeSUとして参加料徴収型大会を実施していく考えはありますか。
浜村氏:
私達の場合,スポンサーの方々が「日本代表選手を応援しましょう」という形の大会が多いので,参加料徴収型大会は合わないですよね。プロライセンス保有選手を対象にした大会においても,同様です。
eスポーツ大会の興行を検討している一般企業やゲームコミュニティの大会主催者はもちろん,恒常的に大会を開催したいものの,ずっと販促費で賄うのは厳しいというゲームメーカーも,参加料徴収型大会を採用していくことになるのではないでしょうか。
eスポーツ練習施設の必要性
4Gamer:
発表会において岡村会長は,日本におけるeスポーツの発展には「裾野の拡大」と「トップアスリートの育成」が必要であり,そのためにeスポーツ練習施設を増やしたいと述べていました。
浜村氏:
ええ,eスポーツ練習施設を増やしたいと思っています。ただ,みんなが集まって大会に向けてゲームを練習するための施設において施設利用料などを徴収すると,その場所が風営法におけるゲームセンターと見なされてしまうんです。これでは一般の企業が参入しにくいですよね。
こうした現状を変えたいのですが,eスポーツ練習施設の運営が風営法のゲームセンター等営業に該当してしまうと,できないことが多すぎる。まずはこれをなんとかしたい,と考えています。
どんな競技でも同様ですが,みんなが集まって競い合い,練習できる場所があると,人に教えたり,人から教わったり,新しい学びを得る機会が生まれます。
e活研※のときにときどさんが話されていましたが,以前はあちこちにゲームセンターがあり,そこで知り合いができて,ゲームを教えたり教えられたりする関係があった。今はそうした場所が減っているけど,うまい人から教えてもらえる場があったら,もっとうまくなれると。
※e活研……経済産業省委託事業として開催した「eスポーツを活性化させるための方策に関する検討会」のこと。業界関係者や識者など,16名の委員によって実施された。
4Gamer:
その役割を果たすのが,eスポーツ練習施設ということですね。
浜村氏:
韓国のeスポーツ団体KeSPA(Korea e-Sports Association)の人から聞いた話ですが,韓国にはPCバンがものすごくたくさんあって,そこでみんなが腕を磨いています。その結果,世界屈指のスキルレベルになっているわけです。日本にも,みんなが集まってゲームをしっかりと競い合える場が全国各地に存在するようにしたいなと。
先ほどの話に戻りますが,今後はさまざまな大会が増えていくと思います。そうなれば,その大会を目指す人たちが集まって練習できる場所も必要になって,これが増えるとコミュニティの拠点となり,チームを組んで大会に参加するというケースも出てくるでしょう。参加者が増えれば,おのずと大会も増えていく。つまり,両輪が回り始めるんですね。
今回の発表(参加料徴収型大会ガイドライン)で片方の輪が回るようになったと思いますから,もう片方の輪もしっかりやっていきたいですね。
4Gamer:
eスポーツ練習施設というのは,既存のeスポーツカフェの形態ではカバーできないのでしょうか。
浜村氏:
もちろん,そうした施設もeスポーツ産業には欠かせない存在ですし,すでに練習施設として機能しているeスポーツカフェがあると思います。ただ,こういった施設では家庭用ゲーム機は十分サポートされていないですよね。そこに家庭用ゲーム機も置かれて,ちゃんとIPホルダーの許諾も得ている形で,みんなが集まって産業として回る場所を作りたい,ということです。
また,無料の施設というものもあります。この場合,風営法の届け出が必要ありませんが,誰かのボランティアに頼り続ける形では,どこかで無理が生じてしまうでしょう。ちゃんと営業できて,しかも風営法の届け出が必要ではない形にしないと,数が増えないと思っています。
どういう形にすればゲームセンターに該当しないのか。この点については,引き続き警察庁と話をしたいと考えているところです。
4Gamer:
発表会では,今後のロードマップとして「オリンピック」にも言及されていました。現時点の競技採用の見通しはいかがでしょうか。
浜村氏:
JeSUはIOCが主催している「Esports and Gaming Liaison Group」※に参加していて,オリンピックにおけるeスポーツのあり方を話し合っています。つまり,IOCがeスポーツのオリンピック採用を模索していることは間違いないわけです。あとは,それが何年の大会になるのかという話だと思います。
※Esports and Gaming Liaison Group……オリンピック基本理念とeスポーツおよびゲームコミュニティを結びつけ,デジタル世界におけるオリンピックとスポーツの価値を高めるために発足した検討会。
現在,IOCに加盟している国際的なeスポーツ団体が存在しないため,2024年のパリ大会の正式採用は難しいでしょうね。エキシビションや公開競技の可能性は残されていますが。
4Gamer:
ということは,2028年のロサンゼルス大会が視野に入っているということでしょうか。
浜村氏:
はい。我々としては,そのタイミングで採用していただけるように議論を進めているところです。ただ,Esports and Gaming Liaison Groupが発足したこと自体が,確実に前進であると認識しています。
また,アジアオリンピック評議会が2021年にタイで開催する国際総合競技大会「AIMAG」(アジアインドア&マーシャルアーツゲームス)では,eスポーツが正式競技となります。正式競技ということは,参加国の公式な獲得メダル数にeスポーツのものが含まれるということです。
まさにちょっとずつではありますが,階段を上がっている最中であると思ってください。
4Gamer:
今年8月時点で25の都道府県に地方支部が設立されているとのことですが,具体的にはどのような効果が生まれているのでしょうか。
浜村氏:
まずは人が集まってきますよね。例えば,自治体の行政がeスポーツのイベントをやりたいと考えたときに,JeSUの地方支部ということで,相談窓口として機能しています。また,信頼度が上がったことで,協賛が得られやすくなったということもありますし,コミュニティが作りやすくなっていると思います。
我々としても,どういったことで協力ができるのかについて,各支部と定期的に話しているところです。機材や人材の提供だったりと,できることがあれば,お互いにご相談しましょうと。今後,そうした関係性はより深くなっていくと思います。
4Gamer:
残る約半数の地方にも支部を設ける予定でしょうか。
浜村氏:
幸いなことに,現時点でほとんどの地方から応募をいただいています。実は複数の団体から応募があるところも多く,そうなると一つを選ぶということが難しいんですね。
これまでの実績を加味して決めているのですが,こちらとしては「まとまることができますか」といった話し合いをしているところもあり,そのために決まっていないケースも多いというのが実情です。
「選手が食えるようになる」には
4Gamer:
2018年2月の設立以来,約2年半が経ちました。これまでの活動をどのように総括されますか。
JeSU設立以前と比較したときに,eスポーツの産業的な構造は回るようになってきていると思いますし,そのためのきっかけづくりをしたという自負はあります。
さらに政府や行政への働きかけをすることで,経済産業省や内閣府が動いてくれたり,一般の企業がサポートしてくれたりするケースも出てきました。こうした環境があって初めて,選手の生活がeスポーツのみで成り立つ,つまり「選手が食えるようになる」と思うんですね。
eスポーツが産業として継続して回っていくためには,練習場も大会運営もお金を稼げるような構造が必要ですし,そのための知見の共有を図るために人と人とが出会う場も用意したい。そのための環境整備が僕らの大きな役割だと認識していて,これからも当たり前のように粛々と続けたいと思っています。
4Gamer:
「選手が食えるようになる」には,今後は何が必要になるのでしょうか。
浜村氏:
選手が健全に活躍できる場が増えることだと思っています。ほとんどの選手は賞金で生活しているわけではありませんよね。ほかのスポーツと同様,スポンサーの支援によって活動しています。
選手が活躍できる,注目を集める場があれば,支えてくれる人たちが手を挙げてくれるようになります。だから,そうした機会を増やしていきたいのですが,そのためには大会が経済的にも健全に回らなくてはいけない。そうでなければ大会が続きません。
4Gamer:
eスポーツが産業として成立するためには,社会的に健全であることも求められると思います。たとえば,先日にはプロeスポーツチームにおいて,給与の未払いなどが騒がれる事態になりました。こうしたチームや団体の運営上の問題が浮上したときに,JeSUとして是正を働きかけるといったことはあるのでしょうか。
浜村氏:
はい。その件は把握していて,現在は事情を調べているところです。
JeSUとしては,IPホルダーと相談のうえ,規約違反が確認された場合はライセンス資格を停止するという権利があります。ただ,それが困っている選手のためになるのかということを,慎重に判断する必要があるとも考えています。まずは選手の幸せ,それが一番大事なことです。
4Gamer:
選手人口の拡大には,セカンドキャリアのサポートも求められるところです。
浜村氏:
もちろんですね。先ほど申し上げたことにもつながっていますが,練習施設が増えれば,そこでゲームを教える側の需要が生まれます。専門学校に通ってプロを目指している人がそこで働くということもできるでしょうね。
大会が増えれば選手人口が拡大すると共に,配信事業やイベント運営会社に務めるという人も増えていくと思いますし,選手の引退後や選手を目指す人の受け皿になると考えています。
4Gamer:
なるほど。まずは「大会が増えること」が業界全体の発展につながるということですね。
浜村氏:
ええ。ただ,「どうすれば法的に問題のない形で大会を実施できるのか」といったことは,所轄官庁と調整を進めてきて,その内容を公開しているのですが,まだ正確な理解が十分には広まっていないようです。その周知にも努める必要があると考えています。
例えば,とあるeスポーツチームから「景品表示法に抵触するから,主催イベントでは賞金が出せないのでしょうか」という相談を受けたことがあります。当然,eスポーツチームはIPホルダーではありませんから,基本的には景品表示法の規制を心配する必要はありません。
こうした誤解を生まないように,現在は「eスポーツ大会かんたん開催マニュアル(仮題)」を作成していて,公開の準備を進めています。これをご覧いただければ,きっと「どうすれば法的に問題がなく,eスポーツ大会を開催できるか」といったことが,お分かりいただけると思います。
地味な作業ではありますが,これも今後の注力すべきポイントの一つですね。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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