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オンラインセミナー「ゲーム業界 スフィンクスの謎」をレポート。東洋証券のアナリスト・安田秀樹氏が,ゲーム業界の謎や迷信に迫る
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印刷2023/04/14 11:00

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オンラインセミナー「ゲーム業界 スフィンクスの謎」をレポート。東洋証券のアナリスト・安田秀樹氏が,ゲーム業界の謎や迷信に迫る

 東洋証券は2023年4月7日,オンラインセミナー「ゲーム業界 スフィンクスの謎」を開催した。本セミナーは,ゲーム分野を通じて投資に興味を持ってもらうという狙いがあるとのことで,同社のゲーム業界担当アナリスト 安田秀樹氏が,ゲーム業界の謎や迷信について解説した。

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安田秀樹氏
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司会を務めたVTuberの日向猫(ひなたね)めんまさん

ソニーグループ編 二枚のグラフが語る謎


 セミナーの冒頭では安田氏が,PS2以降に発売されたコンシューマゲーム機の発売日から250週目までの累計販売台数のグラフを示し,「だいたいPSPとWiiのあたりに境界があり,それより上のゲーム機と下のゲーム機では,少々動きが異なる」とコメントした。
 続いてもう1つのグラフを示し,販売台数の少なかったゲーム機の動きがあまりなかったことを指摘。「売れなかったゲーム機には,何か共通因子があると見ている」と持論を展開した。

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 安田氏は,2006年発売のPS3以降のPlayStationプラットフォームがことごとく販売台数の少ないグループに入っているとして,「ここ15年ほど,ソニーグループは日本市場で自社の強みを発揮できていない」と指摘。「最後にヒットしたのはPS2で,初動から60万台を記録し,そのあとも勢いを継続して売ることができた。しかしPS3以降は初動がうまく立ち上がらず,そのまま厳しい状況に陥っている」と解説を加えた。

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 最新のPlayStationプラットフォームであるPS5が日本市場で不調な理由もまた,初動の弱さにあると安田氏は指摘する。なぜそうなったのかについては,ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE) 社長兼CEOのジム・ライアン氏がたびたび公言していた「PS4を超える」という目標がよくなかったとのこと。「日本のゲーム市場はPS2時代より落ち込んでいるわけではなく,むしろ成長しているので,目標は高いほうがいい」とアナリストとしての観点を示し,「日本市場で成功したPS2を目標にしなかったのは,大きな謎だ」と語った。

 なぜそんな事態になったのかについて安田氏は,ソニーグループ 代表執行役会長兼社長CEO 吉田憲一郎氏のメディアに対する発言から,「ソニーグループ・SIEともに『コンシューマゲーム市場は,コアゲーマーだけしかいないニッチな市場』と定義しているのではないか」との仮説を示す。その結果,コアゲーマー向けとして展開したPS4が全世界で成功したので,PS5は「PS4を超える」ことを目標に掲げてしまったのではないか,というのが安田氏の見解である。
 また株式市場では,ハードルを低く設定したほうが評価が高まる傾向にあるとのことで,その影響もあるかもしれないと話していた。

 さらに安田氏は,「SIEがPS5の販売において日本市場を軽視しているのではないか」とし,その理由を4つ示した。

 1つめはPS5の初週供給台数が非常に少なかったことで,販売台数から逆算するとPS2のときの5分の1程度しかないことを指摘。「PS2は日本先行発売で,たくさん作って供給できたことは承知のうえで」と前置きしつつ,「初動はそのあとのゲーム機の販売動向を大きく左右する。日本市場に最初の供給が少なかったのは,米国市場を重視していたからではないか」と語った。

 理由の2つめは,独自の表現規制だ。安田氏は,アニメ系グラフィックスを用いたゲームの表現規制が日本市場では海外よりも厳しく,レーティング機関がOKを出したにもかかわらず,発売できなかったゲームの事例があることを紹介。「日本で好まれやすいゲームを出しにくくなったということは,結果として日本市場を軽視しているように見える」と話していた。

 理由の3つめはプレイヤーが取る行動の「決定」だ。日本ではPS4までのゲームで,これをコントローラの[○]ボタンに当てていたがPS5のゲームからは海外でスタンダードな[×]ボタンに変更された。安田氏は,「PS4のゲームをプレイできる互換機能が搭載されたPS5でそれをやってしまっては,グローバルスタンダードのほうが大事だと思われてもしかたがない」との見解を示した。

 理由の4つめは,2021年12月に週販1919台を記録したこと──つまり年末商戦期に販売台数が2000台に届かない数しか供給されなかったことである。そうした事態について,SIEは「コロナ禍とそれに伴うロックダウンによりPS5を生産できなかった」という旨のコメントをしたそうだが,安田氏は「そうした事情はユーザーにはよく分からない。ユーザーの視点が少し欠けているのではないか」と指摘した。

 以上をまとめて安田氏は,「PlayStationプラットフォーム次世代機の展開において,日本への供給台数が増えることは期待しにくい」とする。と言うのは,グローバルのPS5市場における日本市場の比率が10%にも満たないからだ。優れたゲーム機であるPS5を買ってもらえない日本市場は,SIEにとって魅力的ではないため,注力する可能性も低いというわけである。安田氏は「もう15年も低迷しているので,このままだとまた同じことを繰り返してしまうのではないかと,個人的には大変危惧している」と語っていた。
 また司会の日向猫めんまさんは,SIEのライアン氏に向けて,日本には多くのPlayStationファンがいることをアピールし,次世代機の展開では日本市場にも注力してほしいと呼びかけていた

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任天堂編 悪化するとリスタートになる謎


 続いて安田氏は,任天堂が2月7日に2023年3月期の通期業績を下方修正し,その理由が「第3四半期のSwitchのセルイン(着荷)台数は想定通りだが セルスルー(実売)が想定未達」「来期のSwitch販売は伸ばすことが難しい」だったことを紹介。さらにセルスルー悪化の理由が「リスタート(コロナ禍による巣ごもりから元の活動に復帰する動きのこと)によるゲーム購買の減少」であること──つまりコロナ禍に伴う巣ごもり需要が少なくなり,Switchも売れなくなると任天堂が予想していることを示した。

 しかし,安田氏はこのタイミングでリスタートを理由にするのはおかしいと指摘する。と言うのは,2022年の夏にソニーグループが,「リスタートの影響でPS5を含むPlayStationプラットフォームのゲーム販売が厳しくなった」と発表したからである。一方任天堂は,同じタイミングで「米国では一部影響を受けているように見える数字となったが,基本的にリスタートの影響はなかった」と発表したとのこと。
 さらにそのあと,ソニーグループはPS5の好調を受け,通期のPS5販売目標を1800万台から1900万台に上方修正し,リスタートの話題をしなくなったという。

 安田氏は,この事態について「販売が落ち込んだ時期にズレがあるので,社内に要因があると捉えたほうがいい。リスタートという外部要因のせいにするのはよくない」とコメント。と言うのは,外部要因のせいにしてしまうと責任の所在が不明確になり,それが常態化すると責任回避型組織になるからである。安田氏は「この原因で悪くなった,この原因でよくなったということをしっかり把握していないと,問題が多くなる」とし,任天堂の元代表取締役社長である岩田 聡氏もまた社内に要因があると考える人物であったことを紹介した。

「人はなぜ投資を始められないのか」ということを科学的に分析した事例も紹介された。それによると「人間はリスクに対して敏感な性質」を持つからで,ゲーマーがクソゲーを掴まされて大損をしたと思うのも同じ理由だという
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故山内氏の迷信が業界を束縛する謎


 セミナーの終盤には,任天堂の元代表取締役社長である山内 溥氏が,かつて「ゲーム機はソフトのために嫌々買われている」という旨の発言をしたことや,一般的に「ゲーム機はソフトがなければただの箱」と考えられていることが紹介された。
 しかし安田氏は,「それが事実であれば,『マリオ』シリーズや『ゼルダの伝説』シリーズ,『ポケットモンスター』シリーズといった世界的な人気を誇るIPを持つ任天堂のゲーム機の販売台数にバラつきが出るのはおかしい」と疑問を呈する。

 分かりやすい事例として安田氏は,Wii U版とSwitch版の双方が発売された「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」と「マリオカート8」を挙げ,「Wii U版もヒットしたが,Wii Uの販売は牽引できなかった」と指摘。また上記のとおり,PlayStationプラットフォームもヒットしているゲームがあるのに,日本では販売台数がそれほど伸びないことに言及した。

 任天堂の歴代ゲーム機と,PS4のグローバルにおける年間出荷台数のグラフも示された。それによると,基本的にはピークを過ぎて一度下り坂に入ると,そのまま右肩下がりになっていく。唯一動向が異なるのがゲームボーイで,8年め以降盛り返し,11年めには1700万台,12年めには1800万台を記録している。その理由は一般的に「ポケモンで盛り返した」とされているが,安田氏は「ポケットモンスター スカーレットバイオレット」が発売3か月で2000万本セールスを記録したことを示し,「セールスの大半は,数か月で販売される。初代ポケモンは売れるまでに時間がかかったと聞くが,それでも数字が一致しない」と,これまた疑問を呈した。

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 それではなぜゲームボーイだけが10年以上経っても販売台数を伸ばしたのかというと,安田氏はゲームボーイカラーの発売を挙げた。本来,ゲームボーイカラーの発売はゲームボーイとの世代交代にあたるはずなのだが,同世代のゲーム機として展開した任天堂の販売戦略だったというわけである。安田氏は「ゲーム業界が40年続く中で1回しか起きていないことを考えると,例外として処理するよりは,ゲーム機の販売戦略だったと捉えるのが適切」と持論を展開。さらに「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」の販売本数が過去最高になったにもかかわらず,Switchの販売台数は下がったことを挙げ,「ソフトがゲーム機を牽引するということには,はなはだ疑問である。多くの人は過去の言葉に引っ張られて,それが正しいかどうかきちんと検証できていない」と話していた。

 話題は,ソフトでなければ何がゲーム機の販売台数に影響を与えるのかということにもおよんだ。安田氏は,これまでの例から性能や価格ではないことを指摘。とくに価格については,ワンダースワンが発売当時かなり低価格だったにもかかわらず,販売台数が伸びなかったことが紹介された。なお安田氏個人は,人々がそのゲーム機に抱いている印象が販売台数に影響を与えていると考えているそうで,「マイナーな捉え方をされてしまうと,なかなか理解されない」と語っていた。

安田氏が予想する任天堂の次世代機も公開された
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次世代機の企画・開発にあたり,「後方互換性」「AAA」「逆ザヤ」が迷信であるとの説明も行われた
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 セミナーの最後には,ソニーグループと任天堂に対する経営の視点からの提案が示された。安田氏は「企業とは成長を目指すものである」とし,ソニーグループには目標のハードルの低さを変えてほしいと語った。また任天堂には外部要因のせいにしていては責任回避になってしまうので,なぜそうなったのかをハッキリさせてほしいと話していた。
 また自身の見解として,「経営とは因果関係のあるところにヒト・モノ・カネを配分する」──つまり因果関係がハッキリしているところにリソースを投入しないと意味がないことを示し,ゲーム業界が迷信ではなく科学的なエビデンスに基づいた,よりよい発展をしてほしいとして,セミナーをまとめていた。

次回のセミナー開催が決定したことも報告された
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セミナー資料に対する注意事項
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