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[CEDEC+KYUSHU]意外と知らない(?)ビジュアルエフェクトの役割やVFXアーティストのお仕事。「CC2流!ビジュアルエフェクトアーティスト入門講座」講演レポート
ゲームをより魅力的にするものとして欠かせないビジュアルエフェクトだが,どのような役割を担っているのか,それを制作するビジュアルエフェクトアーティストはどのような仕事をしているのか。そんな,意外と語られていないゲームのビジュアルエフェクトについて,サイバーコネクトツーの開発部シニアアーティスト大塚航輝氏が,自身の経験や知識を踏まえて説明した。
そもそも,ビジュアルエフェクトとは?
大塚氏はまず,“そもそもビジュアルエフェクトとはどういうものなのか”を説明した。
ビジュアルエフェクトは,ゲーム内で特定のアクションやイベントがリアルタイムで発生した際,視覚的に表現される効果や演出のことで,爆発や煙,火花や魔法の光などがそれにあたる。
サーベルによる斬撃,ビームの射撃といったプレイヤーの行動選択によって変化する現象を,リアルタイムに対応してその行動にあったエフェクトを表示する。ゲームへの没入感や楽しさを高める役割として欠かせないものだ。
そんなビジュアルエフェクトには,大きく分けて3つの役割があると大塚氏は話す。1つめは「ゲーム内で起こっていることを分かりやすくする」こと。バトルを例にすると,斬撃の斬りつけられた表現や,炎と氷といった属性攻撃の燃えたり凍り付いたりする表現により,攻撃がヒットしたこと,それがどのようなダメージを与えたかをプレイヤーに伝えるという役割だ。
2つめは「ゲーム画面を派手に・にぎやかにする」こと。攻撃がヒットしたとき,その演出が控えめだとプレイヤーのやり応えや楽しさが感じられない。ヒット時のインパクトや表現をできる限り派手に,そしてにぎやかにすることでプレイヤーの気持ちを高めるというわけだ。
そして3つめは「ゲームを触った際の気持ちよさ・楽しさの向上」。2つめにも近いものがあるが,これは「ゲームを操作する人にどう感じてもらいたいか」を考えて設定されるもの。たとえば高速移動のアクションの場合,ブラーやモーショントレイルで残像を入れたり,操作のタイミングやリズムといったものに合わせた演出を入れたりといった形で,スピード感と爽快感,直感的な操作感覚を向上させるという役割だ。
これらを踏まえて,大塚氏はビジュアルエフェクト制作の基本について話を続けた。
サイバーコネクトツーの場合,現在は主にUnreal Engine 5でゲームを開発しており,ビジュアルエフェクトは同ゲームエンジンのパーティクルシステムをメインに,プロジェクトによっては一部を自社ツールを使用して制作しているとのこと。
具体的な例だと,素材となるメッシュやテクスチャはDCC(Digital Content Creation)ツールで,マテリアルはゲームエンジンでそれぞれ作成するが,単純な表示だけではなく,ノードベースでのシェーダーの編集作業を求められることもある。
キャラクターがテクスチャとメッシュを組み合わせて作成されるのと同様に,ビジュアルエフェクトもテクスチャとメッシュを組み合わせて作られるわけだが,キャラクター制作とは異なる部分はもちろんある。
それは,パーティクルシステムでアニメーションを付加する点だ。また,エフェクトとそれに付加されるサウンドなどの表示時間,複数を同時に表示した場合のバランスなども,ビジュアルエフェクトを作るうえで注意すべき点だ。なお,エフェクトを制作するときは,のちのちの修正作業を少しでも減らすため,本番想定の背景を使用することが多いのだとか。
さて,ビジュアルエフェクトとは言っても,どの程度の範囲までをビジュアルエフェクトアーティストが担当するのだろうか。それについて大塚氏は,会社やチームによって異なり,また別チームと分担することもあるとしつつ,「基本的に,ゲーム内で目立たせたいようなものはすべて担当している」と語った。いわゆる“ゲームの手触り”に関するものは,エフェクト制作チームが担当することが多いそうだ。
背景の滝や焚き火,UIにおけるボタンなどの明滅やフィールドマーカーなど,担当する範囲はなかなか広い |
理想的な機能に近づけつつ,用意しやすい,管理しやすいデータになるよう他セクションと協力することが重要だという。中でもモーションアーティスト,背景アーティスト,テクニカルアーティスト,プログラマーとは常に協力をしながら作業をしているとのことだった |
魅力的なエフェクトの作成方法とは?
続いて「魅力的なエフェクトの作成方法」をテーマに,球状の爆発エフェクトを例とした解説が行われた。エフェクトを魅力的に見せるには3つの要素に分けて考えることが重要だとし,それらは「メイン」「サブ」「賑やかし」と表現された。
「メイン」は,その名のとおりエフェクトの中で一番見せたい,必要不可欠な要素だ。「サブ」はメインの次に見せたい,それがないと物足りないと感じてしまうものが該当する。最後の「賑やかし」は,それがなくてもエフェクトとして成立するものの,画面をにぎやかに,そして情報量を上げたいというときに効果があるもので,この3つのバランス取りが大事だという。
球状の爆発エフェクトのメインとなる爆発本体の部分。凝縮された膨大なエネルギーが一気に広がるイメージで作られている。なお,色は多過ぎるとバランスが取りにくくなるため,多くても4階調程度が良いとのこと |
サブはメインの邪魔にならないように作成することが重要で,マスクは少なめに,またディテールが細かい素材は使わないようにするのがポイント |
賑やかしとして,細かい粒子を散らすようなものを足すと,より精細さを表現できて雰囲気作りにも役立つ。前述したように,なくても成立する部分でもあるため,処理負荷軽減での対象になりやすい部分でもある |
それぞれのバランスを調整し,完成したものを動画で紹介していた |
「メイン」「サブ」「賑やかし」は,発生させる順番も重要だ。一斉のタイミングで発生したり消滅したりしても,それは単調なものになる。例として挙げられた球状の爆発は,メインの発動からサブ,そして賑やかしの順で発動と消滅が発生していた。これにより,コアの爆発から周辺へと散り,そして消滅するという自然な見え方になっていた。
こうした3つの要素のほかにも,どのエフェクトにも言える共通のルールとして,「統一感を意識した素材の組み合わせ」と「アニメーションのメリハリ」を挙げた。
「統一感を意識した素材の組み合わせ」の説明では,先ほども少し触れていた通り,色が4種類以上に増えるとまとまりがなくなることを指摘。できるだけ近い色相に合わせることで自然な仕上がりになると話した。なお,先の例の爆発エフェクトの場合は,6〜7割ほどがベースのカラーとなる黄色系,残りの2〜3割がオレンジ系で,アクセントとして黒系の色が少し入っているとのこと。
「アニメーションのメリハリ」は,緩急をつけた演出が重要とのことで,「特別な場合を除き,基本的には緩急を付けたほうがメリハリのある好印象なエフェクトに仕上がる」と話した。
次に大塚氏は,サイバーコネクトツーでよく使用される“アニメ的な表現方法”を,いくつかの実例を挙げて紹介した。
アニメならではの表現にレンズフレアがあるが,これも作品によって見せ方は異なる。これを制作する際は,いろいろなアニメや映像作品を参考に,そのゲームにはどのようなエフェクトが合うのかを探ることが重要だと話した。また,現実にはないような誇張した表現も,派手さや威力の高さなどをプレイヤーに伝えるうえでも必要とのこと。
高速移動を表現するために使用される“お化けブラー”と呼ばれる手法は,アニメでもよく使われる手法だ。これは,キャラクターに指向性を持たせて形を崩すブラーをかけたもので,崩れの度合いが高いほど,スピード感を出すうえで効果的なエフェクトになる。だが,崩れすぎるとマイナスの印象にもなるため,そのあたりの調整は注意深く行わなければならない。
高速回転をしているような表現のメッシュは,メッシュ自体を回転させるのではなく,テクスチャ自体を回転させるほうが,より高速に動いているような見せ方ができるとして,そちらを多く利用していると大塚氏は話していた。また2階調化も,アニメ調でありながらリアルな動きのエフェクトを作成するうえで使用できる方法だと話す。
では,そういったビジュアルエフェクトの技法や表現方法はどのように学べばいいのか。それについて大塚氏は,「現状,ビジュアルエフェクトアーティスト自体,その数が少ない。(それだけに)世の中に出回っているエフェクトに関する情報は限られている」と述べた。一方,ゲーム全体のグラフィックスの表現の進化に合わせて,ビジュアルエフェクトアーティストが覚えるべきこと,仕事に必要なスキルも上昇傾向にあり,自ら積極的に情報を集める必要があるという。
なお,ビジュアルエフェクトアーティストの数が少ないことについては,サイバーコネクトツーの代表取締役社長である松山 洋氏が自身のセッションにて,“なり手”も少なく,これからゲーム開発者を目指す人に薦めたい一つの道であることが語られている(関連記事)。
[CEDEC+KYUSHU]松山 洋氏がゲームクリエイター採用のリアルを語った「ゲーム業界大解剖! 〜ゲーム制作の基礎知識と攻略法について〜」をレポート
2023年11月25日に行われた開発者向けカンファレンス「CEDEC+KYUSHU 2023」で,サイバーコネクトツーの松山 洋氏によるセッション「ゲーム業界大解剖! 〜ゲーム制作の基礎知識と攻略法について〜」が実施された。“面接で選ばれるクリエイター志望者”など,採用についてのリアルな事情が語られた。
大塚氏は,サイバーコネクトツーの研修課題として使用している焚火を例に,ビジュアルエフェクトを学習し,実際に制作するうえでの必要な考えを語った。
まずは「分解,分析,再構築」。これは,焚火がどのような要素(炎,火の粉,煙など)で構成されているかを考え(分解)る。それらの要素がどういう理屈(焚火の下から上昇気流で酸素が送り込まれ,燃え上がっている)で動いているのかを理解する(分析)。分解,分析で得た要素をビジュアルエフェクトとして落とし込む(再構築)ことである。この基本を踏まえたうえで,煙の濃さや蜃気楼のような歪みといった,“リアリティを持たせるための誇張”を行っていくとのこと。
次は,「エフェクトの素材」について。エフェクトは,マテリアル,メッシュ,エミッター,テクスチャなどさまざまな要素で構成されているが,複雑にしてしまうと制作に時間がかかり,完成が遅れる可能性もあるほか,付加処理にも大きな影響を与えかねない。そのため,作成時は可能な限りシンプルにさせていくような意識が大事だという。なお,明確なコンセプトやゴール,制作時間などが定まっていれば,“複雑にすることも作成方法”の1つになる”と大塚氏は付け加えていた。
最後は「トライ&エラーの繰り返し」だ。
エフェクトを学ぶ一番の近道は,多くの作品を見ること。そして,魅力的に感じたエフェクトの要素を分解し,さらに自分なりに組み合わせてエフェクトを完成させてみることことが大事だと大塚氏は話す。そういった試行錯誤を繰り返すことで,自分が表現したいエフェクトが作れるようになっていくとのこと。
サイバーコネクトツーの研修内容についても具体的に説明された。
サイバーコネクトツーでは,入社後すぐにプロジェクトにアサインされるわけではなく,3か月ほどの研修期間に入ることになる。ビジュアルエフェクトは,先ほど例として取り上げられた焚火にはじまり,落雷,氷,炎の竜巻と段階的に課題制作に取り組み,開発現場で求められる技術を習得していく。
焚火の課題では,分解・分析・再構築の考え方と流れというエフェクト作成の基礎を学ぶ |
落雷の課題では,アニメーションの長さも考慮し,その中で派手さやインパクトの強さ,目にしたときの気持ち良さといった演出面を学ぶ。流れとしては,5日間ほどでコンセプトやイメージを決め,その後の5日間ほどで仮エフェクトの作成を行い,残りの10日間ほどでクオリティのフィックスとブラッシュアップを行うとのこと |
3か月の研修で,テクスチャやメッシュ作成の基礎はもちろん,マテリアル,シェーダー,アニメーションの基礎も学べ,物理演算の理解も深められる。
といっても研修は技術一辺倒ではなく,コミュニケーションも重視されているとのこと。作業者と指導者の完成イメージ,目指すべきクオリティラインなどの意識共有を密に行うことで,プロジェクトのメンバーとして活躍できるよう,コミュニケーション能力を養うことにも重きを置いているとのことだった。
講演の最後に大塚氏は,「ビジュアルエフェクトは正解のない曖昧な表現であり,自分で実現したいことをいかに言語化し,伝えることが最も重要」と,ビジュアルエフェクト制作に関わるうえで重要なことを語った。そして,「それができるようになると,自分の作品を客観的に判断でき,より成長できる」と続けて話し,セッションを締めくくった。
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