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[GDC 2010]一部の「Free-to-Play」型ゲームの制作者は詐欺師!?〜業界の重鎮が近年のトレンドを痛烈に批判
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印刷2010/03/15 19:41

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[GDC 2010]一部の「Free-to-Play」型ゲームの制作者は詐欺師!?〜業界の重鎮が近年のトレンドを痛烈に批判

GDCの“名物”ともいえる,アーネスト・W・アダムス(Ernest W. Adams)氏。今回の講演では非常に激しい口調で自論を展開していた
画像集#001のサムネイル/[GDC 2010]一部の「Free-to-Play」型ゲームの制作者は詐欺師!?〜業界の重鎮が近年のトレンドを痛烈に批判
 Game Developers Conferenceの最古参メンバーの一人,アーネスト・W・アダムス(Ernest W. Adams)氏による講演が開かれた。
 講演のタイトルは「Single-Player, Multi-Player, MMOG: Design Psychology for Different Social Contexts」(シングルプレイヤー,マルチプレイヤー,MMOG:異なる社会的コンテキストにおけるデザイン心理)で,来場者に対し,「ゲーム作りはどうあるべきか」を問う内容となっていた。

 アダムス氏といえば,Electronic Artsの主力タイトルの一つであるMadden NFLシリーズを手がけたことで有名だ。その後,Bullfrog Productionsに参加したり,コンサルタントとしてさまざまな作品の開発に携わったりした経歴を持つ。
 また彼は,IGDA(International Game Developers Association)のオリジナルメンバーの一人でもあり,現在はイギリスを拠点に,教育機関や開発者会議などで積極的に講義を行うなど,後進の育成に力を注いでいる。

 かねて「Player-Centric Game Design」(プレイヤーを中心に置いたゲームデザイン)を提唱してきたアダムス氏は,「ゲームデザイナーは,プレイヤーが何を望んでいるかを考えながらゲームを作り上げる必要があります」と切り出し,「往々にして失敗作は,建築家が誰のために,何のために造るかをよく吟味せずに設計した家のようなものです」と述べた。

 次にアダムス氏は,“Dao of Game Design”という考え方を披露。「日本において,敵を倒すためのテクニックとして磨かれた“柔術”が,人生の試練を乗り越えるための心得を含む“柔道”に変化していった」と説明し,これまでさまざまな方法論が議論されてきたゲーム開発に関しても,同様の変化が求められるのではないかと述べた。アダムス氏は,ゲーム業界が今後,さらに成熟していくには,一人一人の開発者が習得すべき“ゲーム開発道”を作り上げるべきだと主張したのだ。
 そしてアダムス氏は,「身の程をわきまえ,プレイヤーのことを第一に考える」ことこそ,その最も基本的な心得だと述べた。

(写真右)このところ,“太極図”(道教に見られる陰陽を表すマーク)を強く意識するようになったというアダムス氏。「ゲームの本質は,ゲームデザイナーとプレイヤーとの“陰と陽の関係”だ」と語っていた
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 次にアダムス氏は,ゲームデザインにおいて最重要であるという「公平さ」(Fairness)について,四つの側面から説明した。


○PvE/シングルプレイゲーム

 アダムス氏曰く,シングルプレイゲームを作る場合,ゲームデザイナーはアーティストのような存在であるべきで,市場の動向や,開発コストについてあれこれ考えるべきではない。
 またシングルプレイゲームにおいては,プレイヤーに与えられたチャレンジの難度が急激に変化したり,プレイヤーの予測不可能な形でキャラクターが倒されたりすることで,公平さが失われてしまうという。
 そのほか,ゲーム以外の知識がないと先に進めないときや,決断を下すための検討材料が不足しているといったときにも,同様に公平さが失われる。アダムス氏は,ゲームの想定プレイ時間が長いほど,これらについて十分注意する必要があると述べた。


○PvP/マルチプレイゲーム

 マルチプレイゲームを作るときは,ゲームデザイナーはアーキテクト(建築家)になるべきだという。これは,ゲームデザイナーというより,プレイヤー同士の関係を“構築”する役割を果たすという意味だ。
 マルチプレイゲームに求められる公平さとは,すべてのプレイヤーが,勝利するチャンスを平等に与えられていることや,不正な行為によって勝ち負けが決まらないことを指す。


○MMOG

 アダムス氏は,「私はMMOGに関わったことがありませんが,この会場には,私よりもMMOGに詳しい人がたくさんいることでしょう」と前置きしたうえで,MMOGのゲームデザイナーはソーシャルワーカー(社会福祉士)に近いと述べた。MMOGを作る場合,いずれかのプレイヤーが完全な勝利を収めるのではなく,あくまでもコミュニティが維持されることを念頭に置くためだ。

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 とはいえ現実的には,ほかのプレイヤーに嫌がらせして楽しむ“グリーファー”というタイプのプレイヤーも少なからず存在しており,いくら運営側が仲介に入っても,PKや略奪,通行妨害,言葉の暴力といった方法で迷惑をかけ続けているという。
 アダムス氏は,MMOGに詳しいラフ・コスター(Raph Koster)氏が述べた「敵対ギルドやゲームマスターに対する憎しみは,コミュニティの結束力を強化できる手段の一つで,必ずしも悪いとはいえない」とする発言を引用しつつ,「MMOGはサービスであり,世界であり,コミュニティであって,ゲームではないのだ」と述べていた。


○「Free-to-Play」型(=基本プレイ無料)のゲーム

 まずアダムス氏は,基本プレイ無料ゲームの現状について,「ゲームとして面白いかどうかより,サービスを維持することに重点が置かれている感がある」と説明したあと,Virtual Goods Summit 2009というイベントにおける,中国のコンサルティング会社GameVisionのZhan Ye(ザン・イ)氏による以下の発言を引用した。


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「基本プレイ無料ゲームでは,愛情や憎しみ,敵対といった感情が入り混じる,ダイナミックなオンラインコミュニティを形成することが重要です。ゲーム世界は現実世界を反映させたものであり,公平さを重視する必要はありません」

「中国でマネタイジングに成功している基本プレイ無料ゲームでは,プレミアム料金を支払っているプレイヤーに大きなアドバンテージが提供されています。
 基本プレイ無料ゲームが登場したばかりの頃は,有利なアイテムを購入したプレイヤーが,購入していないプレイヤーを倒すというのが一般的でしたが,ゲームバランスに問題が生じました。そこで編み出されたのが,料金を支払ったプレイヤーがリーダーとなり,支払っていないプレイヤー達のグループを率いて戦闘するという,革新的な仕組みです」

「グループ同士の対立は,ゲーム世界を活性化させ,プレイヤーにさまざまな感情を覚えさせます。感情が不安定になると,人々は衝動的にお金を使うものなのです」


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 これらの発言を紹介したあと,アダムス氏は,「これでは考え方がギャングと同じじゃありませんか! 中国のゲーマーは,社会的抑圧から逃れるために,抑圧的なバーチャル世界に幻想を見出しているというのでしょうか?」と語気を荒げた。
 普段は気さくな雰囲気でGDC会場を歩き回っているアダムス氏だが,この講演ではさらに辛らつに,先ほどの引用に対する批判を展開した。

「基本プレイ無料ゲームでは,どうして公平さが重要であってはならないのでしょうか。現実社会と同じような不公平が大事なのであれば,キャラクター作成時にランダムにハンデを与えるとか,いっそのことキャラにバーチャルな病気を仕込み,その治療薬を用意してプレイヤーに買わせればよいのです。これじゃ,詐欺師と変わらないじゃありませんか!」

 バーチャルな病気の治療薬を買わせるというのは,アダムス氏の強烈な皮肉である。それにしても,ここまで激しい口調でアダムス氏が熱弁をふるっているところを見たのは初めてだ。
 もちろん,基本プレイ無料ゲームの開発者全体を非難しているわけではなく,エンターテイメントを提供するゲーム開発者の“道”から外れた発言に対して,憤りを感じているのだろう。

アダムス氏曰く,「アーティストであり,アーキテクトであり,エンジニアでもあったレオナルド・ダ・ヴィンチは,ゲーム開発者のアイドルだ」
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 今回のGDCでは,「マネタイジング」など,ビジネス論に関する講演が目立った印象で,本来あるべき“ゲーム作り”に関する議論が少々なおざりにされていたことに,筆者自身失望していたところだった。
 同じような感想を持っていた人が多かったのか,アダムス氏が「人々の感情を揺さぶるゲームを作りたいのならば,良心を忘れてはいけません!」と述べて講演を締めくくったときには,立ち見が出るほど多くの聴衆から,惜しみない拍手がアダムス氏に贈られていた。

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