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Access Accepted第868回:ホラー系農業ライフシムから考える,ゲームデザインの進化とその背景
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印刷2026/08/03 11:00

業界動向

Access Accepted第868回:ホラー系農業ライフシムから考える,ゲームデザインの進化とその背景

画像ギャラリー No.009のサムネイル画像 / Access Accepted第868回:ホラー系農業ライフシムから考える,ゲームデザインの進化とその背景

 当連載「第862回:音楽ゲームが再び過熱。海外インディーシーンに見られるジャンルの多様化」※リンク)では,アクションやRPGの要素が高められたリズムゲームの勃興について紹介したが,現在のインディーゲームシーンにはさらに新しい動きもある。欧米では“コジーゲーム”とも呼ばれる,ユルくてほんわかするはずのサブジャンルに多様性が生まれているようだ。


暗雲が垂れ込める田園地帯

台頭する「ファームホラー」


 インディーゲームシーンにおいて,異彩を放つ一大トレンドが目立つようになってきた。長らく「癒やし」の代名詞であり,海外では“コジー”(Cozy/心地よい)や“ホールサム”(Wholesome/心温まる)とも呼ばれる農業ライフシムに,サイコホラーやダークファンタジーのスパイスを色濃く利かせた「ホラー系農業ライフシム」(ファームホラー)というサブジャンルが台頭しているのだ。

 その潮流を象徴するのが,現在開発が進められている「Neverway」「Grave Seasons」「Crop」「Fractured Blooms」,そして墓地管理シムの続編「Graveyard Keeper 2」といったタイトル群だ。いずれも,従来の「のどかなスローライフ」という前提を鮮やかに覆している。

 注目すべきは,これらのタイトルに共通する象徴的なギミックだ。本来であれば無料であるはずの水や肥料の代わりに,「生贄の血で作物を育てる」「血で水やりをする」といった,凄惨なリソース管理が共通して描かれている。作物を青々と茂らせ,豊かな収穫を得るためには,家畜を殺し,自らの生命力を削り,あるいは誰かを捧げなければならない。


Neverway
発売:Outersloth / 開発:Coldblood
リリース予定:2026年10月

 都会を離れて脱サラ農家となった主人公が,夜には死せる神の使者として悪夢の世界を探索することになる。昼間は太陽の下で土を耕し,作物を育てるという穏やかなスローライフを送る一方,夜が訪れると不気味な任務と死の領域へ身を投じる。「生」の象徴である昼の農作業,「死」の象徴である夜の探索という対極的なルーティンを行き来することで,独特の没入感と世界観を生み出している。

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Grave Seasons
発売:Blumhouse Games / 開発:Perfect Garbage
リリース予定:2026年

 のどかな田舎町で農園を営みながら,住民の中に潜むシリアルキラーの正体を追う。プレイヤーは畑仕事や住民との交流といった穏やかなスローライフを楽しみながらも,連続殺人事件の真相に迫らなければならない。プレイするたびに殺人鬼となる人物がランダムで変化するため,笑顔で会話を交わした住民が明日の犠牲者,あるいは殺人鬼なのかもしれないという不気味な緊張感が漂う。

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Crop
発売:11 bit studios / 開発:Carbonara Games
リリース予定:未定

 嵐に見舞われ,外界から孤立し,飢餓に瀕する村を舞台に,生き残りをかけて農園を切り拓いていく。単なる作物の育成にとどまらず,過酷な環境下で「どの資源を優先し,何を犠牲にして生き延びるか」という切迫した選択を常に迫られる。収穫量が生死に直結するシビアなリソース管理と,町に隠された不穏な謎を解き明かす探索要素が融合し,死の危険と背中合わせになりながら,農園を拡大していくスリルが味わえる。

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Fractured Blooms
発売/開発:Serenity Forge
リリース予定:未定

 不可解なタイムループに閉じ込められた主人公が,狂気に侵食されながら庭を育てることになる。美しい花々を咲かせ,庭園を整える穏やかなルーティン作業の合間に,空間の歪みや不可解な怪異,主人公の精神を揺さぶる異常事態が忍び寄る。手入れの行き届いた完璧な箱庭という「平和な日常」が,徐々に不気味な惨劇や恐怖へとすり替わっていくコントラストと,主人公の心理描写が際立つタイトルだ。

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Graveyard Keeper 2
発売:tinyBuild / 開発:Lazy Bear Games
リリース予定:2026年

 世界的なヒットを記録した墓地管理シムの続編。墓地の経営や死体の解剖,不法投棄,カルト的な錬金術といったブラックユーモアの要素が,前作以上に重厚かつ広大なグラフィックスとシステムの進化によって強化されている。モラルを問われる背徳的なタスクの数々と,中毒性の高い作業のループが見事に組み合わさり,ホラー系農業ライフシムを代表する期待作といえるだろう。

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ゲームデザインの変化は

農耕史の隠せない事実に関係あり?


 マーベラスの「牧場物語」シリーズに影響を受け,2016年に登場した「Stardew Valley」は,朝に起きて畑に水やり,作物を収穫し,街の住民に挨拶をして,夜には眠るというルーティン作業の心地よさを前面に押し出した。予測可能な日常のループはプレイヤーに安心感をもたらし,累計販売数4100万本以上という桁外れの数字を叩き出した。

 以降も,Pathea Gamesの「きみのまち ポルティア」(2018年),累計120万本以上を販売した「きみのまち サンドロック」(2022年),さらに「Sun Haven」(2021年)や「ディズニー ドリームライトバレー」(2022年)といったヒット作が相次ぎ,農業の要素を備えたライフシムの枠組みを確立した。

「あまりにも予測可能すぎる日常」に少しの変化を与えたかったのか,「Stardew Valley」では2024年の大型アップデートに合わせて,“緑の雨”(Green Rain)という珍現象が導入された。大量の木材や希少素材が手に入るボーナス要素だ
画像ギャラリー No.007のサムネイル画像 / Access Accepted第868回:ホラー系農業ライフシムから考える,ゲームデザインの進化とその背景

 ホラー系農業ライフシムのメカニクス的なルーツを辿るうえで,絶対に避けて通れないタイトルが存在する。2018年にLazy Bear Gamesがリリースした「Graveyard Keeper」だ。
 同作は「Stardew Valley」のパロディのように見えながら,その根本的なゲームループに「死体の解剖」「不法投棄」「墓地の管理」といった背徳的な作業を組み込んだ。ここで重要だったのは,過激なヴィジュアルよりも「本来は不快であるはずの猟奇的作業が,ゲームを効率化するための淡々としたルーティンに昇華される」システムの妙だった。

 プレイヤーは作物を育てるために,死体から肉を切り出し,血を抜く。そこに介在するのは直接的な恐怖(ジャンプスケア)ではなく,システムに最適化されていくプレイヤー自身の倫理観の麻痺だ。日常の作業シミュレーションが持つ「タスクをこなす中毒性」に「不気味なテーマ」が見事に結合した。

 さらに,こうした作業の裏側で「不確定要素」としてプレイヤーを脅かすのが,高評価を得た「DREDGE」(2023年)のようなリソース管理型サバイバルの構造である。同作は漁業をテーマにしているが,日中の穏やかな釣りや採掘と,夜間に忍び寄る宇宙的恐怖を同居させた。プレイヤーは「もう少し作業を続けたい」という欲と,「夜の恐怖が訪れる前に拠点へ戻らなくては」という恐怖の板挟みになる。

 つまり,ホラー系農業ライフシムの第1段階は,「見た目を怖くした農業ゲーム」として始まったのではない。完成された農業シムのルーティン構造の中に,サバイバルホラーのリソース管理とリスク/リターンという「ゲーム的緊張感」を取り戻すための,メカニクス的な試行錯誤の結果として生み出されたものと思われる。

Podoba Interactiveの「Dread Fields」。都会の喧騒から逃れるように移り住んだ農村で,キノコ採取や釣り,ウシの乳搾りなどを楽しめるが,その穏やかな日常はやがて恐怖に染まる
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 ゲームメカニクスの土台が整うと,表現の領域においても古典的かつ根源的なテーマへと深化を遂げていく。それが「命の奪取と大地の豊穣」,人類の農耕史が抱える原罪的構造のシステム化だ。
 まだ化学肥料が存在しなかった時代,土壌に窒素やリン酸をもたらす資源として重宝されたのが,骨粉や血粉,そして死骸だった。古代アステカの生贄儀式や北欧神話のブロット(Blót),もしくは肉体から五穀が生まれたという記紀のオオゲツヒメに関する伝承に見られるように,人類は「血=大地を活性化させる触媒」として認識してきた歴史を持つ。

 こうした農業の1つの側面に,奇しくも多くのデベロッパが注目した。
 前述の「Grave Seasons」や「Crop」「Fractured Blooms」といった作品に共通するのは,単に恐怖演出を鑑賞させるのではなく,「プレイヤー自らに倫理的な一線を踏み越えさせる」ゲームデザインだ。畑を急速に成長させるためには,家畜を惨殺しなければならない。街の住民との親愛度を深める一方で,その住民が犠牲として利用されていることを知り,自らも大地に捧げる選択を迫られるかもしれない。

 ここでは,従来の農業シムに存在した「時間をかければ,誰でも豊かになれる」というリニアな達成感は否定される。プレイヤーが得る豊かな収穫の裏には,必ず「何らかの犠牲」が存在するのだ。「欲望(効率化)」と「罪悪感(倫理観)」のジレンマこそ,ホラー系農業ライフシムがプレイヤーを惹きつけている最大の要因といえる。

 外の世界の不気味さや狂気が増すほど,土を耕し,種を蒔き,血を注ぐというルーティン作業は怪しい没入感を帯び,本来であれば目を背けたくなる背徳的な作業すらも,日常の反復の中で「農園経営のためのタスク」として昇華される。
 「癒やしと狂気の表裏一体」ともいえる体験こそが,ホラー系農業ライフシムがもたらす独自の面白さだろう。それは農業シムという巨大なジャンルが成熟の果てに行き着いた「リスク管理の複雑化」であり,人類の農耕史が秘めていた「血と土のゲームデザイン的再発見」にほかならないのかもしれない。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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