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[インタビュー]「知能が人間だけのものでなくなっていくほど,人間であることは重要になる」―――EVE Onlineを作った男が見る,AIと人間と7つの大罪,そして20年後の世界
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印刷2026/08/05 07:30

インタビュー

[インタビュー]「知能が人間だけのものでなくなっていくほど,人間であることは重要になる」―――EVE Onlineを作った男が見る,AIと人間と7つの大罪,そして20年後の世界

2002年のE3で聞いたとき,一つの太陽系に1000人のプレイヤーキャラクターが存在でき,太陽系の数は実に5000にも及ぶと言っていた。単純計算1000×5000で「50万人が同一世界上に存在する」ことに,まず驚かされたものだ(関連記事
画像ギャラリー No.009のサムネイル画像 / [インタビュー]「知能が人間だけのものでなくなっていくほど,人間であることは重要になる」―――EVE Onlineを作った男が見る,AIと人間と7つの大罪,そして20年後の世界
 Death is a serious matter.
 (死は重大な問題である)

 というわずか5単語の文章から始まっているのは,1990年後半に書かれた「EVE Online」のゲームデザインドキュメントだ。そしてもちろんこれは,読んだままの意味ではない。
 死が重大でない世界は,すなわち何1つ重大ではない世界なのだ。そしてそれは,オンラインゲームにも適用される。

 「EverQuest」でダンジョンの最深部で死んでも,ボタン1つで街にフル装備で戻れたら? 「EVE Online」で自分の船が,戦闘に負けて破壊されてもすぐまたrespawnしたら?
 「絶対に失敗しない」「絶対に悪いことが起きない」のであれば,それはただの作業であって片手間の時間つぶしでしかない。ストレスもないが,成功もない。悲しみを生まないが,楽しくもない。行動に伴う結果は保証されるべきではなく,常に予測不可能なリスクがあって然るべきだ。


 そしてそれを23年間,揺らぐことなく体現しているのが「EVE Online」なのだ。

 「EVE Online」の世界では,勝つために人は嘘をつき,市場は大暴落して,同盟はお互いに裏切ることさえ厭わない。何年もかかって建造した艦船も,たった1度の戦闘で宇宙の藻屑となって,2度と戻ってこない。
 未来が保証されていないからこそ「成功」には大きな意味があり,それを成し得た者こそが勝者なのだ。

 そんな「EVE Online」がサービスを開始したのは,2003年のことだ。
 当時すでに4Gamerは存在していて,運営3年目のひよっこWebメディアだった。普通のMMORPG全盛のあの時代に「たった1つの宇宙に,世界中のプレイヤー全員が同居する」という売り文句を最初に見たときの,「こんなものを作ろうとする人がいるのか」という素朴な驚きを今でも覚えている。
 それから23年,その宇宙はいまだちゃんと動き続けている。

 そして2026年5月6日,宇宙のほうではなく,運営してきた会社のほうが劇的に変化を遂げた。開発元であるアイスランドのCCP Gamesが,Pearl Abyssからのマネジメントバイアウト(取引総額1億2000万ドル。発表時レート[1ドル=157円]換算で約188億円)によって再び独立し,社名を「Fenris Creations」へと変更したのだ。
 それと同時にGoogle DeepMindとの研究提携も発表され,Googleは少数株主として出資も行っている。提携のリリースに並んでいた研究テーマは,「長期的な計画」「記憶」「継続的な学習」―――どれも,いまのAIエージェントが苦手としている領域だ。

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 MMORPG「EVE Online」を開発・運営するCCP Gamesは本日,スタジオ名を「Fenris Creations」へ変更し,独立企業として新たな体制へ移行したことを発表した。あわせて,Google DeepMindとの研究提携締結も明らかにしている。

[2026/05/07 10:51]

 4Gamerと同社の付き合いは,意外と長い。2007年には,当時(今もだが)海外担当で色々飛ばされていた編集長noguchiが年に2度もアイスランドへ渡ってEVE Fanfestをレポートし,TGSで来日したCEOには日本版パッケージについて聞いている
 さらに2011年には日本展開のキーパーソンに話を聞き,2019年のG-STARではPearl Abyss傘下入りの経緯を,2020年にはメールインタビューで日本語版“再ローンチ”の狙いを聞いている
 そしてその多くに,CEOのヒルマー・V・ペトゥルセン(Hilmar V. Pétursson)氏本人が登場している。つまりこの記事は,20年近く続いている定点観測の,久しぶりの最新回ということになる。
 ……まぁそんな偉そうなことを書いている筆者も,2007年にはヒルマー氏と対面でインタビューをしているのに,それをすっかり忘れていてまるで初対面であるかのように名刺交換してしまった。ところが氏も同様だったので,20年も経てばお互い忘れてしまうということで許してもらおう。

※あの当時,年に2回もアイスランドに行った日本人はもしかしたらnoguchiだけかもしれないし,なんなら現地ではもうアイスランド人扱いだったと聞いている。

 本来はこのインタビューは,(編集部内部で)アイスランド担当として名高いnoguchiにお願いしようと思っていたのだが,今回は筆者がしゃしゃり出た。理由はシンプルで,独立・改名・DeepMindとの協業という一連の動きが,どう考えてもゲーム業界の中だけで完結する話には見えなかったからだ。
 そして最初に正直に白状しておくが,筆者はEVE Onlineを4回挫折している。「B-R5RBの大虐殺」の動画は目を輝かせて眺めていたのに,ゲーム本編には一度も定住できなかった人間である。そんな人間が聞き手でいいのかという話はあるが,聞きたいことだけは山ほどあった。

 そんなバックボーンを抱えながら,7月21日の猛暑の東京で,家族と3週間かけて京都・広島・大阪・下田・東京を回ってきたというヒルマー氏に,2時間以上にわたって話を聞いた。

 話はまず,1997年の設立当時に同社が作っていた紙のボードゲームから始まる。アイスランドの8世帯に1つが所有していたというそのゲームは,実は「EVE Online」のゲームデザインの試作品であり,その売り上げがEVEのシードマネーになったという話だ。
 そこから,23年間ひとつの世界を運営し続けることを「都市の運営」に例える“市長”論,そして社名Fenrisに込められたエントロピーなどを経て,話は本題に。

 ヒルマー氏とデミス・ハサビス氏が2017年初頭から温めてきたという「EVEはあらゆるゲームのラスボス」であり,ほとんどAGIの定義そのものに迫る存在になる,という話がそれだ。
 すでにDeepMind向けのプライベート版EVEが作られ,EVE Frontierではエージェントの行動にエネルギーコストを課す“デジタル物理”の実験が進んでいる。AIをいつ,どこまで,どう開示したうえで人間の世界に入れるのか。これはもう,EVEだけの問題ではない。

 話はその後紆余曲折を経て,7つの美徳と7つの大罪をどちらも許容するという設計思想へと移り,人口40万人の“おもちゃの国”アイスランドで育ったことの意味や,「知能が人間だけのものではなくなったとき,人間であることの重要性はむしろ上がる」という彼の予測へと流れていく。

 ゲームの話から離れていく瞬間は何度もあったが,そのすべてが最終的には「23年続く仮想世界を,これからどう運営するのか」に戻ってくる。それなりに長いインタビューだが,ぜひ最後まで読んでいただきたい。
 そしてこのインタビューでヒルマー氏と話した筆者が,5回目の挑戦をする日もそう遠くなさそうだ。

Fenris Creations CEO ヒルマー・V・ペトゥルセン氏(Hilmar V. Pétursson,以下ヒルマー氏)
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4Gamer:
 こないだお会いしたばかりですが,この暑い中ありがとうございます。よろしくお願いします。
 7月1日に京都でお会いして,今日は7月21日なわけですが,この微妙な期間は一体いずこに……? 1度帰ったとはちょっと思えないんですが。

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 「AIを使うこと」はもう差別化にならない――Zyngaの共同創業者,「EVE Online」開発元のCEO,ヘルステック投資家ら4人が,IVS2026で議論を交わした。ゲームの技術的負債刷新からヘルスケアのAIガバナンスまで,話は縦横に飛んだが,最後に浮かび上がったのは理論値と実装の落差という,答えの出ない宿題だ。

[2026/07/06 19:47]

ヒルマー氏:
 家族とずっと一緒でしたよ。京都,広島,大阪,下田,東京,ディズニー……と回って,ここまで来ました。素晴らしい日々ですね(笑)。

4Gamer:
 いや我々だって,そんなに日本中周りませんよ……。

(一同笑)

4Gamer:
 ところでいつもはアイスランドなんですか?

※Fenris Creations(旧CCP Games)は元々アイスランドの会社なのだ

ヒルマー氏:
 今はロンドンに住んでいます。Fenrisはロンドンにオフィスを構えて,実はもう10年が経ちます。そこでFPSの「EVE Vanguard」を作っているんです。
 私もロンドンに住んでいて,一緒に旅行に来ている家族も今からロンドンに戻るところです。一部はアイスランドに戻りますけどね。ともあれ,子ども4人を連れてきてたので,大所帯の移動ですよ(笑)。

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※EVE Onlineの世界観……というよりEVEユニバースを舞台にしたFPS。もう1つ「EVE Frontier」があり,そちらはEVEユニバースを舞台にした(乱暴に言うなら)サバイバルゲーム。現時点では,その3作で「EVE Universe」が構成されている。

4Gamer:
 いや,であればよかったです。いつもアイスランドにいるんだとしたら,今年の東京は暑すぎて死んじゃうんじゃないかと思って。

ヒルマー氏:
 いや本当にかなり暑いですね。でもだんだん慣れてきてます。汗をたくさんかくので,洗濯するのが大変ですけど(笑)。

4Gamer:
 京都も暑かったし東京も暑いですね……。
 さて,最初に正直に申し上げておきますが,僕自身はいまだにEVE Onlineを一度もちゃんと遊べていません。もう長いこと,すごく遊びたいのに。
 昔,超SF好きの4Gamerスタッフと一緒に3回も4回もチャレンジしたんですけど,毎回挫折してました。「一体これは何をすればいいのだ」。でも今でもやりたくてしょうがないですし,情報は追っかけてます。
 B-R5RBのときとかも,出てくる動画をワクワクしながら観てましたし,仕事辞めて隠居したら絶対遊ぶと決めているので,その時はぜひよろしくお願いします。

※かの有名な「B-R5RBの大虐殺」のことだ(関連記事

ヒルマー氏:
 そうだったんですね(笑)。

4Gamer:
 4Gamerは毎回noguchiがアイスランドに行かせてもらっていたので,インタビューも彼にお願いしようと思ってたんですが,最近のCCP周りの動きを見てたら,どうしても興味が湧いちゃってしゃしゃり出てきました……。
 まず経歴からお聞きしたいんですけど,あなたはCCPの初期メンバーですよね。会社を起こす前は何をやってた人なんですか?


ヒルマー氏:
 1996年8月……もう30年近く前ですが,アイスランドのOZ Interactiveという会社に入りました。そこはVRML(Virtual Reality Modeling Language)を使ってメタバースを作っていた会社です。いわば初期の3Dインターネット規格のようなものですね。

4Gamer:
 VRML懐かしいですね……その時代にすでにそんなことをしていたということは,かなり時代を先取りしてますよ。

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ヒルマー氏:
 そうなんです(笑)。1996年からそれをやってました。
 同時に,大学もほぼ卒業間近でした。大学ではコンピュータサイエンスを学んでいたんですが,大学から引っ張り出されてメタバース作りを手伝うことになったんです。両方を同時にやるのはかなり大変でしたが,なんとか卒業できました。
 でも結局,少なくともその当時は「メタバースなんて誰も必要としていない」と分かったんです。そこで何人かで新しい会社に移り,それがCCPとなり,僕は2000年にCTOとして加わりました。最初の数年は,メタバースから発展させたゲーム作りに費やしました。

4Gamer:
 でもCCPを作ったのが1997年で,EVE Onlineが出るのが2003年ですよね。その間の6年間って,どうやって会社を存続させてたんですか。

ヒルマー氏:
 あぁそれは簡単です。最初の3年間,1997年から2000年まで,会社は主に家庭用ボードゲームを作っていました。

4Gamer:
 ボードゲームというと,物理の?

ヒルマー氏:
 そう,紙の。その名も「Danger Game(原題:'Hættuspil)」というものです。アイスランドのティーンエイジャーが主人公で,「パーティーに行くか,勉強するか」そういうことを選択していくゲームです。

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4Gamer:
 それはまた「CCP」ぽくないゲームですね。

※CCP=Crowd Control Productions。EQなどの古いMMORPGプレイヤーであれば「CC」が通じると思うが,ゲームの文脈で一番最初にこの言葉を使ったのはおそらくCCP Gamesだ

ヒルマー氏:
 いやいや。実はこのゲームは,EVEのゲームデザインの試作でもあったんです。
 家庭用なのに「ほぼPVP」のボードゲームになってて,これがすごく売れたんです。1万本を売り上げました。「1万本か」と思うかもしれませんが,アイスランドには8万世帯しかないんですよ。

4Gamer:
 ということは……。

ヒルマー氏:
 そう,8世帯に1つがこのゲームを持っていた計算になります。
 その売り上げが,EVEプロトタイプのシードキャピタルになりました。そして2000年に,大きなチームを雇うための資金を調達しました。160万ドル(現在の基準で約2.6億円ほど)です。まぁ今の業界基準では大した額ではありませんが(笑),当時としては結構な額です。

4Gamer:
 なるほど。そのボードゲームが「EVEの試作デザイン」だったということは,2000年からは割とすんなり開発が始まった感じですか?

ヒルマー氏:
 そうですね。最初の3年で「EVE Online」のゲームデザインの資料を書いていて,2000年から本格的に開発が始まった感じです。


4Gamer:
 CCPという名前からしても,最初からMMOを作ろうとしていたと思うんですが,「EVE Online」の構想自体は会社を作る前からあったんですか? それとも会社を作ってから?

ヒルマー氏:
 最初の会社,OZ Interactiveでは,極めて一般的なやり方でメタバースを作っていました。その中で何人かが,VRMLブラウザにもっとゲーム的な要素を入れたいと思っていたんです。インベントリ機能を入れたり,ゲームにもうちょっと永続性を持てるようにしたり。
 ただその時,90年代半ばだとNVIDIAもまだロクに機能していないような時代で,3Dでグラフィックスを作るのは技術的にとても難しかったんです。

※1995年に,グラフィックスカード「EDGE 3D」に搭載されたNV1(NVIDIAの最初の3Dチップ)が登場したが,事実上PC版バーチャファイター専用チップみたいなものだった。NVIDIAの名を広く知らしめた「RIVA 128」が登場したのは,1997年のことだ。

4Gamer:
 NV1が確か1995年なので,ギリギリ「まだない」タイミングですね確かに。

ヒルマー氏:
 ええ。OZ Interactiveでは「Cosmos」という試作を作っていて,それはメタバースの中の宇宙体験のようなものでした。僕たちはこの試作を本物の製品にして,メタバースというより“ゲーム”にしたい,よりゲーム的な機能を持たせた世界にしたい,と強く思ってました。
 でも会社自体は,モバイルの方向へ進んでいきました。だからCCP Gamesが設立されたんです。そのときのプロトタイプの宇宙体験を完成品として作るために。

※ところで一番最初は1997年6月,Loki Margmiðlun(英語表記:Loki Multimedia)として創業されて,1998年にはFenrisのロゴが付いて最初の製品が世に出ている。つまり一番最初の名前も北欧神話から採られており,ヒルマー氏にとって「Fenris」という名前は,若き野望に満ちたころの名前の再掲であり,「初心に返る」という意味もあるのかもしれない。

4Gamer:
 なるほど。「作る前からあった」どころか,EVE Onlineを作るために会社が作られたんですね。

ヒルマー氏:
 そうです。なので構想は「最初から」ありました。「Elite」に強く影響を受け,後には「Ultima Online」にも大きく影響を受けて,そういう世界を作れる会社を立ち上げよう,と。


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[2023/10/30 12:00]

4Gamer:
 「Elite」懐かしいですね! そういえば2003年にはすでに4Gamerも存在していたので,「EVE Online」のリリースを初めて見たときに,「こんなの作ってる人がいたのか」という素直な驚きがありました。
 それにしても,あれからずっと,今の今までサービスが維持されるとは正直思っていなかったです。ご本人的にはどうですか?

ヒルマー氏:
 NEVER(いいや全然)。
 本格的にゲーム開発をしていた頃……大体2000年から2003年くらいですが,2000年の時点で僕は27歳でした。27歳にとっては,5年間はもう「すごく長い期間」です。5年後なんて,もう遠い遠い先の話だと思う年頃でした。

4Gamer:
 僕はそのとき30歳でしたけど,すごく分かります(笑)。

ヒルマー氏:
 だから僕らの中での一番長期の計画でも,「EVEは5年かけて成長し,その後の5年で下降し,それが終わったら次のゲームを作る」というものでした。
 そもそも永遠に続く世界を作った人なんて,それまで誰もいなかったですし。MMO自体は「Ultima Online」や「EverQuest」,それにNEXONの「風の王国」など,以前からあるにはありましたが,それらの多くは「一つのゲームが多くのシャード(サーバー)から作られる」ものであって,「一つの単体の世界」ではなかったです。

4Gamer:
 そうですね。友達とサーバーを合わせる相談をするのも楽しい時間です。

ヒルマー氏:
 「全員が同じ一つの大きな世界で遊ぶ」という発想は,誰もやったことがなく,少なくとも当時の僕らは体験したことがなかったんです。
 しかし実際に作り上げた「EVE Online」が世に出て,プレイヤーが世界を掌握し,世界の未来を形づくっていくのを見たとき,僕らは「EVE 2.0を作る」という計画をすぐに破棄しました。ずっと長く続けられる,という可能性が見えたからです。

4Gamer:
 なるほど。あとから決まったことなんですね。

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ヒルマー氏:
 ええ。2009年には実際に「EVE Forever」のロゴを作りました。EVEの文字を使った,無限大の記号のようなものです。これを“永遠に続くゲーム”として考えるようになりました。
 ……でもそれは2009年のことで,ゲーム発売から6年後のことです。

4Gamer:
 そこから23年ですよ。そんなにやっていれば,世界中にプレイヤーがいるでしょう?

ヒルマー氏:
 まぁ今日もこうやって(注:EVEのTシャツを着ていた)EVEのマーチャンダイズを身につけていますが,日本の街を歩いていると,ちょこちょこ声をかけられます。「EVE Onlineのプレイヤーですか!?」(笑)。

4Gamer:
 確かにそれを着ていればそうでしょう(笑)。

ヒルマー氏:
 もちろん彼らは,僕が誰なのか知るよしもないんですが,大事なことはEVEというゲームを知っていることです。
 日本ではEVEがすごく知られていて,土壌があります。皆さんの記事のおかげでもありますが,ここに大きなファンダムを作ってくれました。

4Gamer:
 身分を明かしたことはないんですか?

ヒルマー氏:
 ついこないだ京都で茶道を体験したとき,着物を着付けてくれた女性が,僕のTシャツを見て「あら,EVE Onlineをご存じなんですか?」と(笑)。「夫がこのゲームを大好きなんですよ」と言ってくれました。
 なもんで僕は気分よく「ありがとうございます,すごくうれしい話です。なぜなら僕がEVE Onlineを作ったんです」と答えました。「本当ですか! 夫は絶対に信じないでしょうから,ぜひ一緒に写真撮ってください」と言って,僕と一緒に自撮り写真を撮りました(笑)。

(一同笑)

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4Gamer:
 その人も,まさか自分の仕事中に「EVE Online」の制作者と会うとは思っていなかったでしょう(笑)。
 しかしさっきちょっと触れてましたけど,23年間単一シャード(単一サーバー)をずっとつらぬいてきたのがすごいですよね。昔も今も,技術的にもコスト的にもとても困難な話だと思うんですけど。

ヒルマー氏:
 最初にEVEをリリースしたとき,裏で動かすクラスターは,ほとんどスーパーコンピュータ級のものでした。実際,スーパーコンピュータのワールドトップ500のリストに載っていたくらいで,作るのにとてもお金がかかりました。
 でも長年かけてすごく効率化して最適化を重ねましたし,コンピュータ自体も格段にパワフルになりました。だから今日では,計算基盤を作ること自体はそこまで高価ではありません。一番コストがかかるのは,ゲームの継続的な開発と,そのチームです。コストの大半は開発陣の給料で,サーバー自体は,今やかなり効率的に動かせます。

※複数のコンピュータをネットワーク接続して,1台のコンピュータであるかのように動かす仕組み。クラスター(cluster)とは「葡萄の房」のこと。

4Gamer:
 そうですね。4Gamerも最初は物理サーバーを自前で調達して稼働してましたが,そのころから比べると値段もスペックも雲泥の差ですね。

ヒルマー氏:
 23年間ゲームを運営するということは,僕はよく「都市の運営」に例えます。
 東京のような都市を想像してみてください。都市が存在し続けるだけでも,ものすごく複雑ですよね。電車を走らせ,ゴミを回収し,幼稚園を運営し,新しい街区を作り,古い家を取り壊し,水道を直し……運営には膨大な作業が伴います。
 EVE Onlineを23年運営するというのは,それが一番よく分かる例えだと思います。東京ほど大きくはないかもしれません。東京はとても大きいので(笑)。うーん,たぶんロンドンくらいでしょうか。

4Gamer:
 ええ,すごく分かります。もはや「ゲームの運営」ではないですよね。

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ヒルマー氏:
 そう。そして国でもないんです。国はどちらかというと概念ですが,都市は実在するものでとてもリアルです。そこに人が住んでいるから。だからこそEVEのプレイヤーは,僕らに厳しく指摘し,時にとても攻撃的になってくるのは,たいてい些細なことについてなんです。
 東京はすごく立派で,電車は時間通りに来るし,道にゴミもなく,とてもよく運営されています。でも多くの都市はそうではありません。あなたにとっての都市の体験は,結局「そこで暮らすこと」そのものなんです。

4Gamer:
 僕は仕事柄,ゲームクリエイターと呼ばれる人たちとよく話をしますが,オンラインゲームを運営し続けている別の人もやっぱり「市長と市民の関係」って言ってましたよ。
 あなたもそうですが,そういう表現をする人の話は,ゲームと直接関係ない部分の話が多くてすごく面白いのが特徴です(笑)。

ヒルマー氏:
 お,その「市長みたいだ」と言ってた人,誰ですか?

4Gamer:
 「Sky」というゲームを作っているジェノヴァ(Jenova Chen)ですね。


ヒルマー氏:
 なるほど,彼か(微笑んで頷く)。
 素晴らしい人ですよね。僕も何回か会ったことがあります。

4Gamer:
 彼もSkyの運営を始めて3年後ぐらいにインタビューしたとき,「もう僕はクリエイターじゃなくて市長の気分だよ」って言ってましたから,きっと同じような感じなんだろうなって思います。

ヒルマー氏:
 いやまったくその通りです(笑)。

4Gamer:
 それで,そんな都市の運営のような複雑なことをするのに,独立して名前を変えましたよね。そもそも独立の本意はどこにあるんでしょうか。
 会社運営の部分だけ見れば,状況的にむしろ難しい方向にすら進んでるんじゃないかなという気がしてまして。なんらかの制約みたいなものを感じて,離れなければならない理由があったとか?

ヒルマー氏:
 いや,そういうわけでもないんです。
 知ってのとおり僕らは,7年前にPearl Abyssと提携しました。彼らの戦略は,他社への投資を通じて外部的に成長するというもので,それを推進する別のマネジメントチームもいました。ただ3〜4年前に彼らは戦略を大きく変え,マネジメントチームも替わりました。CEOとCFOが離れ,新しい人たちが引き継ぎました。
 皆とてもいい人たちですし,非常に立派な会社です。僕も「紅の砂漠」をプレイしていて,もう200時間以上遊んでます。難しいですが,並外れたゲームだと思います(笑)。

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 CCP GamesのMMORPG「EVE Online」が,韓国のゲームショウ「G-Star 2019」に出展された。CCP GamesはPearl Abyssの傘下に入っており,このタイミングで韓国語版の正式サービスを迎えたのだ。今回はCCP GamesのCEOに,EVE Online日本語版のリスタートの可能性を含む,さまざまな話を聞いてみた。

[2019/11/15 13:59]


4Gamer:
 難しいアクションゲームなのに!

ヒルマー氏:
 本当に(笑)。
 僕らはずっと一緒に何かをやろうと計画していたんですが,僕らはEVEで手一杯,彼らは紅の砂漠で手一杯でした。ある時点で,「別々になって,それぞれ自分のゲームに集中した方がいい」と合意したんです。
 いつかまた一緒にゲームを作るかもしれません。ただ,そのために設定した目標を何も実現できていなかったので,所有構造を変えて,僕らがEVEでやっていることに寄り添った形にして,明確さと自律性を高める方が良かったんです。
 双方にとって完全に合意の上の決定で,友人として袂を分かちました。今だって頻繁に話してますよ。もちろん,「紅の砂漠」のフィードバックも(笑)。

4Gamer:
 Google DeepMindとはそのタイミングで?

ヒルマー氏:
 袂を分かつと決めた後,パートナーを探して色々な人と話し始めました。デミス・ハサビスとは以前から知り合いで,しかもちょうどこの買収プロセスと同時にAIが発展し,世界的にもすごく重要になってきていたタイミングです。
 だからGoogle DeepMindと組むのは,僕らにとって非常に良い機会に思えたんです。僕らはSFゲームを作っていて,AI自体がまさにSFそのものですしね。だからほとんど運命のように,Pearl Abyssとは一度お別れをし,デミスと話して,そして今こうなりました。
 タイミングだけの話をするならそうなんですが,むしろ突然の巡り合わせでしたね。

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 2024年度のノーベル化学賞が2024年10月9日に発表され,元ゲームデザイナーで現在はGoogle DeepMindのCEOであるデミス・ハサビス氏が共同受賞した。ハサビス氏は,ピーター・モリニュー氏とともに「テーマパーク」をデザインし,その後も「Black & White」「Evil Genius」などの作品を生み出した人物だ。

[2024/10/10 12:30]

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[2025/11/24 11:00]

4Gamer:
 新しい会社の名前がFenrisなので,DeepMindでも飲み込むのかなと。

画像ギャラリー No.023のサムネイル画像 / [インタビュー]「知能が人間だけのものでなくなっていくほど,人間であることは重要になる」―――EVE Onlineを作った男が見る,AIと人間と7つの大罪,そして20年後の世界

※大体の場合「フェンリル」と書かれる(fenrisは所有格),北欧神話の巨大な狼。フェンリル,ヨルムンガルド,ヘルの3兄妹。終末の日ラグナロクで,戦争と死の神であるオーディンを飲み込んで倒した。なおフェンリルはその後,オーディンの息子によって倒されている。

ヒルマー氏:
 ふふふ。僕はアイスランド出身ですが,1000年前,フェンリスやトール,オーディンについての本の多くはアイスランドで書かれたんです。だから僕らは神話ととても深いつながりがあって,アイスランドでは北欧神話の研究も盛んです。

4Gamer:
 アイスランドで書かれてたんですか。不勉強で知りませんでした。

※Star Myths of the Vikings(Björn Jónsson)
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ヒルマー氏:
 アイスランド出身でカナダに移った医師(医学博士)が1998年に,北欧神話と星々の関係についての本を書きました。彼はずっと昔まで遡り,北欧神話の神々を空の星座に対応づけていったんです。
 そして,そこにフェンリスとおぼしきものを見つけました。「狼の口」と呼ばれるもので,空にあるV字のような形です。6月には,太陽が星座上でこのフェンリスの口の中に沈み,そして口から逃れ出る。だから北欧では6月21日,夏至に大きなお祝いをするんです。太陽がフェンリスの口から逃れたから。
 とても素敵な星座の由来ですし,僕らは宇宙のゲームを作っているので,この星とのつながりが大事だったんです。

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4Gamer:
 確かにちょっとワクワクしますね。

ヒルマー氏:
 そして北欧神話のラグナロクは,フェンリスの子が太陽を食べ,鎖が引きちぎられてロキやフェンリスが攻め込むことで起きます。でもそのあと,世界はより緑豊かな世界として生まれ変わるので,まさに生命の循環みたいなものです。
 僕は,ヴァイキングは“エントロピー(混沌)”について語っていたんだと思っています。フェンリスとは,熱力学のエントロピーの概念そのものなんです。「エントロピーは増え続ける」という熱力学第二法則ですね。だから会社の名前はFenris Creationsです。
 フェンリスはエントロピーで,創造するには破壊が必要です。EVE Foreverの無限記号でも,世界が永遠に生き続けるには創造と破壊の両方があるべきで,世界は自らを更新し続けなければなりません。

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※「エントロピー増大の法則」とも呼ばれる。外部から仕事などの影響を受けない断熱環境(孤立系)では,自発的に起こる変化においてエントロピーは必ず増大するか,一定である(減少することはない)というもの。

4Gamer:
 “破壊”なくして創造なし。

ヒルマー氏:
 経済も同じです。今の日本は経済的な課題に直面しているかもしれませんが,そこからしばしば新しいものが生まれます。確かに円は今とても安いけれど,だからこそ日本は革新でき,より良い新しい日本が立ち上がる。これが世界の循環です。
 だから,Fenris(破壊)とCreations(創造)が結びついて,無限になるというわけです。

4Gamer:
 DeepMindを飲み込むつもりではなかったんですね。

ヒルマー氏:
 うん,それもアリかもしれません。確証はありませんが(笑)。

4Gamer:
 しかしデミスとは結構長い付き合いですよね。

ヒルマー氏:
 そうですね。2016年8月にロンドンに引っ越してから,何度も会いました。ご存じのように彼もゲーム出身なので,共通の友人であるデビッド・ガードナー(David Gardner)が紹介してくれて,たくさん話しました。
 当時,彼らはちょうどStarCraftの“AlphaStar”を始めるところでした。僕とデミスは,振り返れば,2017年初めに極めて重要なミーティングをしています。「AlphaGoのようなもの。でも究極のもの」を作るのだ,と。AlphaEVEは,あらゆるゲームの“ラスボス”になるだろう,という話です。

4Gamer:
 「AlphaEVE」って,どの辺のものまでを含んだ話なんですか?

ヒルマー氏:
 とても広い言い方なんです。EVEをプレイできる何らかのAI,AGI(汎用人工知能)のような「最も賢いAI」という意味で使ってます。私はAlphaEVEを,ほとんど“AGIの定義”のように捉えています。


4Gamer:
 おお,そうなんですね。であればその「アルファ何とか」の「何とか」のところにゲーム名が入るのは,ゲーム業界人としてすごく嬉しいです。

ヒルマー氏:
 ええ。AlphaFold,AlphaGo……。それにデミスはピーター・モリニューとも仕事をしていたし,そこには“ゲームのDNA”が入っているんでしょうね。

4Gamer:
 ええ。彼がまさにピーター・モリニューの弟子だった頃に何回かお会いしたことがありますけど,若い頃からめちゃくちゃ頭のいい人でしたね。ピーターが当時「こいつは将来絶対大物になるよ」と言ってましたが,本当に世界に影響を与える大物になりました。

ヒルマー氏:
 いやホントそうです。



4Gamer:
 AlphaEVEというワードがかなり気になりますが,そこを深掘っていくと終わらなくなるので……。
 Google DeepMindは囲碁とかStarCraftとか,閉じた環境のゲームは今までいくつも制覇してきましたけど,それとEVEの本質的な違いはどこにあると思いますか?

ヒルマー氏:
 んー……DeepMindがやってきたことを振り返ると,彼らは最初古いAtariのゲームからプレイしましたよね。最初は「Pong」です。Pongはごく基本的な,とても単純なものですね。二つのバッドがあって,お互い打ったり打ち返したり。

4Gamer:
 はい。

ヒルマー氏:
 次が囲碁です。ここで彼らはAlphaGoを作りました。当時Deep Blueがすでにチェスをやっていたので,彼らはもっと難しいものをやりたかったわけで,囲碁はチェスより難しいですからね。
 最初のAlphaGoは人間のデータを使いました。過去の対局の人間のデータから囲碁の打ち方を学んで韓国に行ってイ・セドルと対局して,かの有名な“37手目”などを指して,彼を破りました。

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 GoogleのDeepMindチームによるコンピュータシステム「AlphaGo (アルファ碁)」が,二段のプロ棋士に続いて,今度は現役最強棋士と目される李 世乭(イ・セドル)氏(九段)破った。「Google DeepMind Challenge Match」における五番勝負の第1局を終えた段階ではあるが,かなりインパクトの強い出来事だ。

[2016/03/09 17:57]

4Gamer:
 あの5番勝負はかなり話題になりました。囲碁を知らない人でさえ当時話題にしてましたし。

ヒルマー氏:
 その後DeepMindは,人間のデータを使わずに囲碁を学ぶAlphaZeroを作りました。そこで彼らは,囲碁というゲーム自体を変えたわけではないけれど,新しい戦略を編み出したんです。アジア全域で2000年近く磨かれてきたゲームに対して,です。2000年にわたる人類のプレイの後でもなお革新できたのは,とても興味深いことでした。
 先ほどの話ですが,囲碁もPongもチェスも,すべて“完全情報”のゲームです。盤面が全部見えていて,それ以上何かが隠されているか考える必要はありません。相手の心の中には何かが隠されているかもしれませんが,フィールドの中にそれはありません。

4Gamer:
 そうですね。全部,すべて情報が明らかなゲームです。

ヒルマー氏:
 彼らがAlphaStarを作ったときには,隠された情報があるようになりました。“戦場の霧”があり,情報の非対称性が出てきます。あなたと僕とで持っている情報が違うわけです。これはとても難しく,しかもリアルタイムでやるのは大変だったので,この時点で彼らはすでにかなりのことを達成しています。
 でも,デミスと僕が話をしたのは「なぜEVEが究極のゲームになるのか」です。EVEは,囲碁やStarCraftよりずっとAIにとって難しいものである要素がいくつかあるんです。

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 GTC 2018では機械学習ベースのAIに関するセッションが多かったが,なかでも4Gamer読者の興味を惹きそうだったのが,「AlphaGo」のDeepMindが「StarCraft II」で人間のプレイヤーに挑んだ結果を語った講演だ。連載「西川善司の3Dエクスタシー」,今回はそんなゲームプレイAIとその将来について紹介したい。

[2018/04/06 00:00]

4Gamer:
 その「いくつか」とは?

ヒルマー氏:
 まず一つ目。ゲームが終わりません。
 EVE Onlineには終わりがありません。23年経った今も続いていて,勝利条件がありません。クリアするゲームというより“生きていく人生”に近いんです。勝利条件がなくて,クリアできるゲームではなく,終わりません。
 そしてこれはAIにとって,大変多くの複雑さを生み出します。というのもAIは,過去に起きたけど今はもう関係ないことも覚えていなければならないからです。EVEは,常に自らを更新していいます。同盟が興り,滅びます。フェンリスのように,創造と破壊が繰り返されるのです。
 常に新しい情報が入ってくるし,歴史を覚えつつ,歴史と現在を混同してはいけません。これは“記憶”にとって大きな挑戦です。今でいう“コンテキストウィンドウ”ですね。

4Gamer:
 あぁ……確かに記憶についてはそうですね。いままでのゲームとはまるっきり比較にならないかもしれない。

StarCraft II
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ヒルマー氏:
 二つ目ですが,人々が何をしているかについて,本当に見えない隠れた情報が大量にあります。
 EVEのクライアントでプレイしていても,その“状態”を覗くことはできません。ここが,StarCraftとは違うところです。StarCraftは情報を隠しているけれど,情報自体はそこにありますよね。DeepMindがAlphaStarをやったときは,ある意味で状態を覗き見る“チート”をしていたわけです。

4Gamer:
 なるほど,EVEだとそのチートすらできませんね。

ヒルマー氏:
 そう,EVEのクライアントは,世界の全体を持っていません。世界の全体は「謎」なんです。だから何が起きているのかを推論しなければならないし,しかも誤情報も多い。
 EVE Onlineでは,他人が常にあなたに嘘をつき,偽の情報を与えてきます。だから,情報がない状態,偽の情報,本当の情報を同時に扱わなければならないわけです。それには多くの“判断”が要るわけですが,判断はとても人間的な資質で,エージェントが本来得意ではない領域なんです。

4Gamer:
 うん,聞いてるだけでAIには大変そうなのが分かります。というかまぁ,人間でも大変ですけど。

ヒルマー氏:
 そして三つ目は,最初の話に関係することですが,ゲームが永続的なので行動に結果が伴うことです。
 ミスをすれば,プレイヤーであれAIであれ,名誉を失い,また稼ぎ直さなければなりません。つまり,ほとんど現実のような,とても複雑な人間シミュレーションなんです。でも逆に言うと,文明を終わらせずにミスができる環境でもある。
 だからEVEは,人工知能とは何かを理解するのに,そしてAIの利益を人間である僕らとうまく整合させるとはどういうことかを理解するのに,完璧な環境になるわけです。

4Gamer:
 AIと人間の「区別」を定義する場にもなりそうですね。

ヒルマー氏:
 そもそも人間同士ですら整合してないわけですからね。習近平には習近平の考えがあり,ドナルド・トランプには彼自身の考えがあり,それぞれがバラバラです。
 私の見方では,EVE Online,EVE Frontier,EVE Vanguardはユニークな場所なんです。SFであり,AIを能力面でより良くする方法を探せる場所であり,かつ私達が大切に思う世界でAIと共に生きるとはどういうことかを理解できるようになる。多くのものが関わる場所だと思います。

4Gamer:
 うーん,なるほど。
 僕が最初にDeepMindとの協業のリリースを見たとき,DeepMindがEVEに求めているのはプレイヤーの23年分の行動ログなのかな,実験環境としてのサーバーなのかな,と思ってたんですけど,もうそんなレベルの話じゃなかったですね。遥か上でした。

ヒルマー氏:
 はい,そのとおりです。

4Gamer:
 リリースには確か「長期的計画」とか,「記憶」「継続学習」みたいなワードが並んでたので,なるほど合点がいきます。
 そのまま今の話の続きで聞きたいんですけど,現在のAIエージェントで,EVE Onlineにあるような数か月単位の外交だったり,裏切りを伴うプレイだったり,そういうアクションはできると思いますか。できないのだとしたら,現時点で何が欠けてると思いますか?

ヒルマー氏:
 それをやるには,まだ多くのものが欠けていますね。そこが面白いところなんです。
 今日のエージェントは,たぶん数時間走れば道を見失いますよね。プログラミングならもう少し長く……4〜5時間ですかね。実際,プログラミング用にエージェントを8時間ぐらい走らせている人もいます。
 でもプログラミングは非常に構造化された活動で,評価がとても明確だし,世の中にもコードが山ほどあります。AIは世界中のコードを読み尽くしているわけです。

4Gamer:
 おっしゃるとおりです。

ヒルマー氏:
 ところが外交やプレイヤーの意図みたいなことになると,AIエージェントでは歯が立たないほど,ルートを見失ってしまいます。今日のこの手のゲームでは,人間がエージェントを簡単に出し抜けます。
 でもいずれエージェントはそれができるようになります。まだそこまでの距離が遠いだけです。

4Gamer:
 いつごろに「できるように」なりそうですか。

ヒルマー氏:
 EVE OnlineやEVE Frontierのような仮想環境があると,こうした問いにより良く答えられるようになります。「あとどれくらいで到達するのか」「本当に何が欠けているのか」「そしてその能力を獲得したとき,それは何を意味するのか」。
 今実際に,本物のEVEにはつながっていない“プライベート版のEVE”をGoogle DeepMind向けに作っています。ゲームの遊び方を学ぶための専用の遊び場で,エージェント同士がプレイする場所です。

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4Gamer:
 お,第一歩という感じですね。

ヒルマー氏:
 そして「EVE Frontier」という新しい世界も作っていて,そこではボット問題―――EVEやすべてのMMOにとって大きな問題ですね――について深く考えてきました。だから,たぶん最初はプライベートな環境で,次にFrontierに移して協調モードでより多くを検証し,そのうえで,EVE Onlineに一部の要素を導入するかもしれません。
 でもそれは,とても慎重にやらないといけません。さっき言ったように,「EVE Online」では私はただの“市長”ですから。

4Gamer:
 本丸である「EVE Online」にとっての良いことを考えないとならない,ということですか?

ヒルマー氏:
 そうですね。Frontierにおいては,私は「クリエーター」ですが,「EVE Online」では,おっしゃるように「EVEにとって本当に良いことは何か」を考慮しないといけません。
 しかしその一方,プライベート環境においては,思う存分“暴れる”ことができます。

4Gamer:
 ハッキリそうとは言ってませんが,今の話を聞いた感じでは,最終的に完成したAIエージェントを,人間のプレイヤーが遊んでいる世界に投入する計画がある……ということですよね?

ヒルマー氏:
 いずれは,Yes。
 ただ今日の時点では,それが具体的に何を意味するのかは,まだ分かりません。まずプライベートな遊び場でいろいろなことを解明して,次にFrontierで経済への応用を解明していきます。
 そしてそのすべてを通じて,囲碁やチェスでも起きたことと似た動きがEVEに起きるだろうと,僕自身は信じています。

4Gamer:
 その「起きたこと」とは何を指してますか。

画像ギャラリー No.029のサムネイル画像 / [インタビュー]「知能が人間だけのものでなくなっていくほど,人間であることは重要になる」―――EVE Onlineを作った男が見る,AIと人間と7つの大罪,そして20年後の世界
ヒルマー氏:
 Deep Blueがチェスでカスパロフを破ったとき,「もうチェスは終わりだ,これからはコンピュータしかチェスをプレイしないだろう」という風潮がありました。でも今やチェスには,かつてないほどの人気があります。chess.comに行けば,MAUがものすごく高いことが分かります。
 囲碁も同じです。“伝説の37手目”だけでなく,AlphaGoは囲碁そのものを再定義しました。そして囲碁は,今ほど人気だったことはありません。

4Gamer:
 なるほど。AIによるブレイクスルーが,EVE Onlineの世界をさらに深くて広いものにする?

ヒルマー氏:
 例えばEVEの市長としての私の仕事においても,私は自分が知るべきことを全部知れるほど賢くはないと思います。ちょうど,我々人間が囲碁について十分賢くなかったのと同じで。でも結果的には,囲碁の潜在能力を引き出すにはそれが必要でした。
 プライベートサーバーのFrontierをやることで,私も少しは賢くなるだろうし,「EVE Online」がその潜在能力を最大限発揮できるようにする力を得られると思います。でもそれが何なのかは,まだ本当には分かりません。なにせまだ十分賢くないので。ただ,これらすべてをやることで,十分賢くなれると信じています。

4Gamer:
 ちょっと話が大きいかもですが,AIが人類の大いなる助けになるということですね。

ヒルマー氏:
 そう。東京を運営することを想像してみてください,ものすごく複雑ですよね。東京の市長は,やるべきことを全部どうやって把握するんでしょう。予算をどう優先し,どこに注力するか……そういう非常に現実的な問題に,もしかしたらAIの助けが必要かもしれません。
 私には,自分を助けてくれる“スーパーブレイン”が必要で,プレイヤーたちには,EVEの潜在能力を引き出すのを助けてくれるものが必要なんです。

4Gamer:
 DeepMindとの協業を最初に聞いたとき,まず考えたのは「AIがEVE Onlineを学ぶんだろうな」ということでした。一方的にAIがEVEのデータを食うだけというか。
 でもお話を聞いてるとどうもそうじゃなくて,AIがEVEを学ぶだけじゃなくて,EVEのプレイヤーの集合知のようなものがAI研究そのものに貢献して,AIのレベルがより上がっていくという,双方向の絵になっているわけですよね。であればすごく素晴らしいです。

ヒルマー氏:
 ええ。そして,それはもう起きています。
 ご存じのようにEVEは戦争ゲームであって,戦争では,優位になれるのであれば何でも使います。すでに複数のEVEプレイヤーが,AIツールを使って情報を分析し,ミームを作り,プロパガンダを作り,動画や音楽を作り……EVEプレイヤーは,自分たちのコーポレーションの士気のために,あらゆることをやっています。
 さらに,コーディングエージェントを使ってソフトを書き,会社の情報を秘匿するといったことも,もうされています。サードパーティ開発の大きなエコシステムがあるんです。

4Gamer:
 そもそもAIとの本質的な相性がいい作品だと思ってましたが,やはり一歩進んでますねEVEは。

ヒルマー氏:
 そう,EVEプレイヤーは,すでにAIのスーパーユーザーなんです。好むと好まざるとにかかわらず,これは起きます。だったら私はその先頭に立って備えたいし,みんなを引き上げたいです。上げ潮は,すべての船を持ち上げるわけですから。
 それはまさに,ライフサークルのようになると思います。DeepMindのAIが学び,僕らがAIから学び,交互に学習していき……そしておそらく“シンギュラリティ”のようなものがそこから現れてくるんでしょう。

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4Gamer:
 繰り返しですが,「EVE Online」は基本的に数値とテキストがメインのゲームなので,すごくAIエージェント向きだと思うんですよね。自律判断するのに向いているというか。
 普通のMMOにありがちな,ドラゴンの攻撃をよけるとかそういうのもないですし。

ヒルマー氏:
 ああ,そういう意味で言うなら,EVEがAIに向いている理由は3つあると思います。

4Gamer:
 お,ぜひ全部聞きたいです。

ヒルマー氏:
 まず1つめは,単一シャードなので,情報,関連性,歴史の“ボリューム”がとにかく多いということです。
 2つめは,非常に複雑なゲームであることです。インタビュー前のあなた自身の話の通り,人間でもEVEをプレイするのが苦労するほど複雑です(笑)。

4Gamer:
 いや面目ありません……。

ヒルマー氏:
 そして3つめは,人々が深く愛している世界であることです。
 23年間ほぼ毎日プレイしているプレイヤーがいるような世界なので,結果(Consequence)がとても重いのです。

4Gamer:
 最後だけ急に抽象的になりましたが,確かに3つとも納得です。

ヒルマー氏:
 この3つが揃っているのはEVEだけであって,EVEだからこそ持っている特性だと思います。
 それによって,私たちと同じくらい,あるいはもしかしたらそれ以上に賢い“汎用的なエージェント的存在”と共に生きるとはどういうことなのかを探る,またとない機会がEVEにはあります。
 AIとの整合,共存とは何を意味するのか,これらが本当に深いレベルで考えられて,AIがこの惑星にとって何を意味するのかを解き明かすことに,私はとてもワクワクしています。

4Gamer:
 僕自身テックジャンキーなので,なんというか,聞いてるだけですごく楽しそうです。確かにワクワクします! 例えばですが,何年も一緒にプレイしてきたギルドの仲間が「実はAIだった」と判明したら,たぶん超感動して夜も寝られないかもしれません。
 ただまぁ一般論として,そこまでのレベルにAIエージェントが達すると,線引きをどうするかという問題が出てくると思うんですよね。例えば「EVE Online」で,もしAIエージェントがプレイヤーを騙して資産を奪い取ったとき,それは「EVEらしい出来事」として許容されると思いますか? もしくは,運営はそれを許容しますか?

ヒルマー氏:
 この先2年のうちに,それらは現実に全部起きると思いますよ。

4Gamer:
 AIエージェントが人を騙す?

ヒルマー氏:
 ええ。そういうことは必ず起きます。もしかしたら,人がエージェントを使ってそれをやるのかもしれませんが。
 そんなことが好きな人はまぁたぶんいないとは思いますが,どうであっても起きるでしょう。進歩は止められないのです。

4Gamer:
 ではその「必ず起きる」ことに対する備えはしてますか?

ヒルマー氏:
 僕らとしては,そういう“もっとクレイジーなこと”は,「EVE Frontier」で実験しています。そこではクリエーターとしての権限があるし,経済的なエージェンシーについてより深く考えてきましたから。
 「EVE Online」からは多くを学びましたが,EVE Onlineでは変えにくいこともあるので,その学びをFrontierに持ち込み,コストとエージェンシーをより強く結びつけました。

4Gamer:
 んん……コストとエージェンシーを強く結びつける,というのはなんでしょう。

ヒルマー氏:
 例えば現実世界では,私たちの“エージェンシー”は限られてますよね。私は同時に一つの場所にしかいられません。今は東京にいて,家族はロンドンへ向かうために空港に行ってます,同時に両方にはいられないわけです。
 でもMMOでは,人間としての自分より多くのエージェンシーを持てます。一人の人間が,多くのキャラクターを持てるんです。多くのEVE Onlineプレイヤーは“マルチボクシング”を―――同時に多数のクライアントをプレイしています。とある韓国のプレイヤーは,30以上のクライアントを同時に動かしてました。モニターもコンピュータもた―――くさん並べてマルチタスクです。

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4Gamer:
 あ,なんか分かってきました。制限なしにエージェントを使えないようにコストの制約をかけるんですね。

ヒルマー氏:
 そう。仮想世界のエージェンシーは,地球上のそれより遥かに複雑です。
 しかし地球には,物理法則があります。質量とエネルギーの保存や,熱力学のルールもあります。でもエージェントには,そういった物理法則による制約が一切かかりません。なので逆に制約をかけないとならないんです。

4Gamer:
 確かにそうですね。
 遠い昔,私がMMO廃人だったころにも,4アカとかでプレイしている人がいましたが,あれがほぼ無限に増やせるとなるとさすがに。

ヒルマー氏:
 非常に賢いエージェントがいるとき,それは仮想世界で人間の能力をはるかに超え得る,ということを深く考えないといけません。
 だから私たちは“デジタル物理”と呼ぶものを導入しました。これは熱力学と大いに関係があって,EVE Frontierではあらゆる行動がエネルギーを消費します。なので,自由にエージェントが持てないんです。

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4Gamer:
 現時点では,Frontierだけの話ですか?

ヒルマー氏:
 EVE Onlineではある程度,経済的コストのない行動,自由なエージェンシー活動が使えます。でもFrontierでは,それを修正しました。これはEVE Onlineからの教訓の一つです。
 これにより,どんな制限が必要かをテストできます。エージェントのエージェンシーが,ゲームをプレイする人間のエージェンシーを完全に凌駕してしまわないように。だからプライベートな環境でこれらを理解し,それからEVE Onlineでそれを解明していきます。

4Gamer:
 でもご多分に漏れず,EVE OnlineでもボットやAIボットはすでに跋扈してますよね。

ヒルマー氏:
 ええ。EVE OnlineプレイヤーはすでにボットやAIボットを作っていて,それらはもう戦争兵器になっています。だから,急いで解明しないとなりません。
 オープンウェイトのモデルもあるし,モデルは毎月のように出てきて,エージェントはどんどん良くなっています。もちろんEVEプレイヤーは,すでに使っています。だから私たちは急いでそれらを解明して,Frontierも,Vanguardも,EVE Onlineも,人間とAIがある程度対等に共存できる遊び場にしたいんです。
 ……思ったより複雑な回答になってしまいました(笑)。これで大丈夫ですか?

4Gamer:
 いえ,大丈夫です。ありがとうございます。でもこれらの話はすごくワクワクすると同時に,もう1つ大きな問題が顕在化する気がします。
 まだ世の中は,AIに関してはセンシティブな人がたくさんいるわけですし,それは一般的なゲームプレイヤーであっても,EVE Onlineプレイヤーであっても同じだと思います。
 そんな中プレイヤー側に,「AIと共存する世界で遊んでいる」ことを知らせる必要は感じますか? 逆にプレイヤーにはそれを知らされる権利があると思いますか?

ヒルマー氏:
 何が起きているのかを全員に知らせることは,常に必要だと思います。
 自分たちがやっていることについて,とても透明でなければなりません。信頼というのは,大部分が透明性と誠実さの関数ですから。だからプレイヤーには何が起きているのが明確にしないといけないです。

4Gamer:
 素敵な返答です。

ヒルマー氏:
 EVE Frontierについては,すでにブロックチェーンなどで実験していて,そこにはより多くの実験の自由があります。そしてもちろん,大半はオープンソースなので,人々はそれを見ようと思えば見ることができます。
 でも一番大事なのは,明確でかつ正直であることです。今年2月,EVE Onlineに「Aura Guidance」という改修を入れました。Geminiを使って新規プレイヤーを助けるものです。私たちは全員に対して,とても透明にした「これをやります」「これはやりません」を公表し,それを常にプレイヤーと共有し続けないといけません。
 それから「Council of Stellar Management」というものもあります。EVEで何かをやる前に,彼らと話し,フィードバックをもらっています。

※通称CSM。EVE Onlineのプレイヤーを代表する組織で,プレイヤーの意向をFenris Creationsとやり取りする役割を持っている。きちんとメンバーが公表され,ミーティング議事録も残されている(Historical CSM Summit Meeting Minutes
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 アイスランドのデベロッパであるCCP Gamesが手がけるSF MMOG「EVE Online」の日本語サービスが2012年3月末までに開始される。今回は日本での運営をサポートするネクソンと,開発元であるCCP Gamesのキーパーソンにインタビューし,ローカライズにまつわる話や,サービスにかける意気込みを語ってもらった。

[2011/10/27 00:00]

4Gamer:
 そういうルール付けにちゃんと取り組んでいる会社って,そこまで多くないですよね。もしかしたらEVEが,「仮想世界におけるAI開示の標準ルール」を作ることになるんじゃないでしょうか。責任重大です。

ヒルマー氏:
 責任重大……ではありますね確かに。
 ただFrontierは試行錯誤のコストが低いんです。なにしろ新しいゲームで,まだ生まれたばかりですから。それに対してEVE Onlineでミスをするコストは,遥かに高いです。
 だからまずFrontierでクレイジーなことをやって,人間とエージェントのエージェンシーの対等性のために必要なことを見極めて,それからEVE Onlineに移していけます。

4Gamer:
 AIであることの開示や,AIエージェントの扱いは,EVEの世界だけにとどまらず,これからのインターネット社会が直面する問題がそのままそこにあるような気がしますねえ。

ヒルマー氏:
 まったくそのとおりですね。

4Gamer:
 しかしお話を聞いてると,EVE Onlineはすでにある“成熟した文明社会の象徴”みたいなもので,対するEVE Frontierはその文明社会を“作っていく過程”の話,そしてEVE Vanguardは,“文明社会への個人の関与”みたいな感じで,ちゃんとレイヤーが全然違うものになっていて,宇宙全体の中で切り取った部分も段階を経て大きくなってます。
 この3部作は,最初から意図されたものなんですか? もしそうだとして,その次のステップはどこになるのか,すごく気になります。

ヒルマー氏:
 おっしゃるようにこれらは意図的で,究極のSF体験を作るように設計されています。
 SFについて考えるとき,たくさん例を出せるんですが,私は「スターシップ・トゥルーパーズ」を例に出すのが好きです。原作の小説もとても良いですし。もちろんほかにも良いSF小説はたくさんあって,「ハイペリオン」もすごくいいですね。あ,小説に限らず映画版の「スターシップ・トゥルーパーズ」もとても良いですね。あと私が好きなのは……

4Gamer:
 どんどん話が逸れていきそうです(笑)。

ヒルマー氏:
 失礼しました(笑)。
 さてSFの世界では,艦隊が空を飛び,海兵隊が地上で死んでいきます。宇宙にいる人,指揮や諜報などやる人がいて,地上で銃を持って走り,泥の中で虫と戦う人々もいます。この「大きな宇宙のSF」と「地上で地上のことをやるSF」を併せ持ってスケールの落差を生みます。
 例えば目の前にEVE Onlineのタイタン(超弩級戦艦)があるとして,そこに一発の銃弾を当てることができます。私はそれをとてもやりたいし,実際にEVE Vanguardではそれができます。あなたの次の一発が,一つの帝国を倒すかもしれません。
 いまあるシューターをプレイしても,それがTarkovでも,Call of Dutyでも,Battlefieldでも,あなたの一発が国を滅ぼすことはありません。でもVanguardでは,それが起こり得るのです。少なくとも「可能性ゼロ」ではありません。

左は小説「Starship Troopers」(1959),右は1997年の同名映画
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2005年にリリースしたFPS(関連記事)だが,今年も「Starship Troopers: Ultimate Bug War!」として新作が出ている
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 本日の「ほぼ日 インディーPick Up!」では,映画「スターシップ・トゥルーパーズ」の世界でバグの大群を撃ちまくるブーマーシューター「Starship Troopers: Ultimate Bug War!」を紹介。プレイヤーはモビル・インファントリーの兵士サミーとなり,連邦プロパガンダ全開のノリで銀河各地のバグ掃討に挑む。

[2026/03/25 07:00]

4Gamer:
 「世界観」としてつながってることはあっても,実際にゲームがつながってることはないですからね普通。

世界の1人当たり名目GDP 国別ランキングでは,アイスランドが6位,一方日本は38位(globalnote
画像ギャラリー No.008のサムネイル画像 / [インタビュー]「知能が人間だけのものでなくなっていくほど,人間であることは重要になる」―――EVE Onlineを作った男が見る,AIと人間と7つの大罪,そして20年後の世界
ヒルマー氏:
 Frontierでは,“オープンな経済”と“オープンなModding”を実験したかったんです。
 私はアイスランド出身ですが,アイスランドは約100年,自国の経済と,ISKという自国通貨を持ってました。最初の80年間,ISKは通貨管理下にあって自由ではなかったですが,この20年でようやくアイスランドは経済を開放しました。
 その最初はあまりに急速で,2008〜2009年に経済の崩壊も起きたぐらいです。でもそのあと本当にうまくやってまして,今では一人当たりGDPが世界最高水準です。かつてはヨーロッパでも最低水準だったのに! その理由は,経済を開放したことにあります。


4Gamer:
 同じことをEVEの世界でも?

ヒルマー氏:
 そう。Frontierでも,これを実験します。ここには世界があり,それが各国の経済とオープンにつながれる経済である,と。
 ブロックチェーン,そしてMiCA(EUの暗号資産規制)やアメリカの市場構造の法律,たぶん日本の暗号資産に関する法律なども関わってきます。さらにスマートコントラクトを使って“スマート・アセンブリー”を作り,人々がデジタル物理の枠内でゲームに機能を追加できるようにしています。
 そして先ほどの,ボットやAIといった大きな根底のテーマもあります。これらのクレイジーさは全部,意図的に“究極のSF体験”を作るためのものなんです。

4Gamer:
 ではもう1度聞きますが,「これらの次」には何がきますか?

ヒルマー氏:
 この次に来るものはなんなのかという質問に対しては……正直私はまだ分かりません。今はこれ全部を作るので手一杯だし(笑)。
 ただ,モバイルに何かがある気はしています。EVEはこれまでほぼすべてPCなので。スマホがこのすべてとどう関わるかというのは,少しずつその答えに近づいてきているところです。

4Gamer:
 確かにモバイルは,いっときカードゲームとかもありましたが,まだ未開拓ゾーンですよね。
 あとVanguardの話を聞いたときに,最初に思い出したのは「Dust 514」です。

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ヒルマー氏:
 まさに! それの精神的な後継作です。世界が前に進んだのでゲームプレイは違いますが,地上の人々と空の人々を併せ持つという,根っこの部分は同じです。
 私たちはとても頑固な人間なので,諦めないんです。Dustはうまくいかなかったかもしれませんが,今また戻ってきたというわけです。

4Gamer:
 あの頃,プレイヤーのみんなは単なるSFのFPSだと思ってたかもしれないけど,FPSの戦果が宇宙の政治を動かすっていう素晴らしいアイデアは,面白いことを考える人がいるなと当時から思っていました。
 それがようやく実現できる時代になりましたね。というか,ようやく時代がEVEに追いつきましたね。

ヒルマー氏:
 (日本語で)アリガト

4Gamer:
 でもそれ以外にも,例えばLegionだったり,Project Novaだったり,いくつも同じようなものにトライしてますけど,それらは何を表す“形跡”なんですか?

ヒルマー氏:
 よくご存じですね。Dustのあと,Phoenix,Legion,Nova,Atlas,そしてVanguardがあります。そしてそれらは,ビジョンを実現するための「チーム,製品,技術」の正しい組み合わせを,僕らが探し続けている過程なんです。

4Gamer:
 なるほど。文字どおり「挑戦の形跡」なんですね。

ヒルマー氏:
 YouTubeで2011年の「EVE: A Future Vision」を観てもらえれば分かりますが,私たちは今もまさにあの体験を作っています。ただ,それを届けられるようになるために,たくさんのことを学ばなければならなかったというわけです。誰もほかにやろうとしないのには理由があります。これはやるのが非常に複雑なんです(笑)。
 だからこれは,2011年のビジョントレーラーを現実にするための,僕らのこだわりでもあります。


4Gamer:
 Vanguardは地上の話なので,レイヤーとして比較的理解しやすいです。EVE Onlineもすごく大きな話なので,逆に理解しやすい。
 EVE Frontierがちょっと難しいなと思っているんですが,これは,EVE Vanguardの思想が先にあってその1個上にFrontierが置かれたのか,もしくはEVE Onlineの1個下にFrontierがデザインされたのか,もともとはどちらを基点にした話なんでしょう。

ヒルマー氏:
 Frontierは,宇宙から始まります。
 その舞台は,実はEVE Onlineよりずっと大きいんです。今は2万の星系がありますが,100万星系まで試したので,はるかに大きな世界にするつもりです。

4Gamer:
 ひゃ,100万?

ヒルマー氏:
 最初は,製品体験としてはより単純で,宇宙船を飛ばすことに非常に力を入れてきました。EVEはどちらかというとポイント&クリックのゲームですが,Frontierではコントローラ版を作ったので,ゲームコントローラで飛ばせます。宇宙船をどう飛ばすか,そのインタラクションにとても重点を置いています。

4Gamer:
 そうだったんですね。ということは,EVE Onlineとは全然違う体験のゲームになると。

ヒルマー氏:
 ええ。レベルデザインもコンテンツ体験も違ってきます。なにせ自分で飛べるので,隠れた情報がたくさんあって,陰に何かがあって見えないとしたら,飛び回って見なければならないです。また小惑星の間を飛ぶので,より小さなスケールで,EVEが戦艦同士の戦いだとすれば,こちらはドッグファイトに近いです。
 実際,ナビゲーションとコントローラ対応をテストするためにレースコースを作ったデモをEVE Festでやったんですが,「宇宙のゲームでこんな遊び方ができるのか」とみんな驚いていました。


4Gamer:
 なんというか「EVE Onlineで出来なかったこと」……というか「してこなかったこと」を全部入れるような?

ヒルマー氏:
 EVEではもう変えられない色々なことを試してますね。
 例えばEVEでは,ナビゲーションの仕組みを簡単には変えられません。いや変えられるけれど,非常にコストが高いので慎重にやらないといけないわけです。でもFrontierではより自由に実験できて,それがEVE Onlineに入っていくかもしれないし,Frontierだけに留まるかもしれません。

4Gamer:
 EVE Onlineでは「見えない」部分を体験する作品になりそうで楽しみです。

ヒルマー氏:
 “より大きな世界と,より小さなスケール”を目指している,と言えば伝わるでしょうか。
 ただ,最初は宇宙だけです。宇宙ありき。逆にVanguardがうまくいけば,Frontierにも地上要素を作るかもしれません。最初は“宇宙での在り方が違う”ものにとても力を入れていますが,それでもやっぱり最初は宇宙です。

4Gamer:
 しかしFrontierは,同じ宇宙とはいえ,なんというか聞いてると「すごくゲームっぽい」感じがします。
 とはいえ,Frontierの中のもの……例えばマーケットだったり,インフラだったり,法律だったり,そういうものも全部,運営サイドではなくてプレイヤーが作るものなんですよね。

ヒルマー氏:
 そのとおりです。私たちは,サバイバルゲームから大きなインスピレーションを得ています。
 EVEを作ったときも,初期には小さなサバイバル的アイデアがあちこちにあったと言えます。でも「Minecraft」や,今とても人気になった多くのサバイバルゲームから気づいたのは,実はサバイバルゲームは“何をすべきか”が遥かに明確だ,ということです。

4Gamer:
 あぁ……EVE Onlineで挫折してるので,その言い方はすごく理解できます。サバイバルゲームは,実はやることがとても明確なんですよね。

ヒルマー氏:
 そう。「Minecraft」なら,最初の夜を生き延びなければなりません。プログラミングなどまで入っていけばMinecraftもとても複雑になり得ますが,最初にやることは非常に明確です。穴を掘り,家を建て,夜を生き延びる。
 そこからインスピレーションを得たので,Frontierは,MMOというより“サバイバルゲーム”寄りであると言ってます。もちろんMMOでもありますが,永続的で,経済があって……といった要素があります。

4Gamer:
 その宇宙のサバイバルを生き延びるために必要はものはなんですか?

ヒルマー氏:
 宇宙でのサバイバルに焦点を当ててみて登場するのは,“燃料”のメカニクスです。言うならば,サバイバルゲームにおける食料のようなものです。
 Frontierでの最初の目標は「燃料を切らさないこと」で,それから拠点を築いていきます。

4Gamer:
 なるほど。やはり「身の周り」から始まりますね。

ヒルマー氏:
 そう,巨大な世界の中での小さなサバイバルとして始まるわけです。
 時間が経てば,プレイヤーが帝国や法律や種族間関係を築いていくでしょう。スマート・アセンブリーやModdingで自分たちをプログラムできるからです。なのでプレイヤーがそれを作ります。一方で僕らはゲーム体験を作ることに集中し,ルールや法律や領土の支配はプレイヤーに委ねます。

4Gamer:
 すごく楽しみです。バーチャル空間における「ルール」のありようは,個人的にもすごく興味ありますし。

ヒルマー氏:
 Moddingのおかげで,自分たちで作れるようになりますね。ハッカソンも何度もやっていて,3月にも大きなものをやったんですが,800人が123の異なるプロジェクトを作りました。その多くが,文明の統治や,同盟のためのOS(オペレーティングシステム)のようなものです。
 ……ええ,その顔,何が言いたいか分かりますよ。ちょっとクレイジーですよね(笑)。

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4Gamer:
 いや……クレイジーはそのとおりですが,社会制度がどうやって自発的に作られていくのかを観察するための社会実験みたいで,すごく興味深いです。

ヒルマー氏:
 そうです。しかも競争の中で,です。
 あるプレイヤーが一つの考えを持ち,別のプレイヤーが別の考えを持つ。そしてそれを戦争で決着させるんです。

4Gamer:
 これは愚問ですが念のため。
 もしプレイヤーたちが,運営も想像しなかったような悪い制度……例えば恒常的な独占状態だったり,一方的な搾取の構造だったり,そういうものを作り上げたとして,運営として介入しますか。それともしませんか。

ヒルマー氏:
 EVEではもう,この手のことをたくさん見てきました。一般的に,良いリーダーでなければ人は去っていきます。だから人々のリーダーである以上,常に自分の人々のために正しいことをやらなければならない。
 あなたが善良で,あなたの人々も善良なら,敵に対抗できるかもしれない。でもあなたが邪悪な暴君なら,人々はただ去り,あなたの敵に加わり,戻ってきてあなたを殺します。

4Gamer:
 詐欺も裏切りも,ゲームの一部として許容するのがEVEの世界観だと思いますけど,そういう「人の悪意を排除しない設計」が,20年以上続く世界を作ったというのが非常に興味深いですよね。
 さっき話に出たSkyですが,Skyを作ったJenovaはSkyで徹底的に悪意を排除して世界を作り上げて,すでに運営8年目です。どちらがいい・悪いという話ではないんでしょうけど。

ヒルマー氏:
 ええ。そしてもちろん,Skyは子どもが遊べるようにも作ってますよね。子どもが遊べるような安全なゲームを作るときは,プレイヤーに対する責任がずっと高くなります。

4Gamer:
 そうですね。制作側として「気をつけるべきこと」がとても増えるというか。

ヒルマー氏:
 一方で僕らは“大人向け”としてゲームを作っています。大人向けに作るなら,彼らに行動の自由を与えなければならないですが,彼らは自分自身に責任を負えます。だから,Skyがやっていることはとても重要です。
 私たちのゲームは,子どもにはプレイしてほしくないですね。私たちのゲームは,自分でミスができる人のためのものです。だからこの2つのゲームは,かなり違うものです。

4Gamer:
 人間の本質は,善意と悪意のどっちなんでしょう。

ヒルマー氏:
 私たちは,私たちのままなんです。
 人には7つの美徳と7つの大罪の両方があります。普通“ユートピア”を思い浮かべると,それは7つの美徳だけが存在する世界ですが,でもたいていの場合,そこは“人間でなくなる”ところなんです。だから,人が人であることを,傲慢,虚栄,欲望,憎しみといった7つの大罪を持つことを,許すのが大事だと思います。それらも私たちの一部だから。

4Gamer:
 なるほど。「善悪の区別に囚われない」仏教とはまたちょっと違いますね。

ヒルマー氏:
 そうですね。もし“悪”の部分を封じてしまえば,人は他者と共に生きる術を学べません。悪になれないなら,どうやって人と協力することを学ぶのでしょう?
 質問の答えに返りますが,だから私たちは,こういうことに対して常に“自由放任”に近い立場をとってきました。人が善でも悪でもいられるようにするし,何が善で何が悪であるかをプレイヤー自身が定義することさえ許します。誰かに「これが善,これが悪」と告げられるような“道徳的高み”に,私たちは立っていないのだから。世界とは,それを見つけ出していくためにあるんです。

4Gamer:
 いや,もう,なんというか素敵です。

ヒルマー氏:
 私たちはむしろ「あなたの行動には結果が伴う」という設計を築いてきました。
 私は,みんなが仲良く遊ぶように見張っている“遊び場の乳母”ではありません。道路や電車を直そうとする市長なのです。何が善で何が悪かは,この世界の上にいる人間たち自身で,互いに決着をつけないとなりません。

2011年のEVE Onlineイベントにて,ヒルマー氏
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4Gamer:
 すごくいいです。以前からずっと「EVE is real」って言い続けてましたもんね。

ヒルマー氏:
 まさにその通りです。

4Gamer:
 realつながりでちょっと気になったんですが,例えば20年後にEVE Onlineの世界がちゃんと残ってるとして,中のプレイヤーの割合……人間のプレイヤーとAIのプレイヤーの割合ってどれくらいになってると思いますか。

ヒルマー氏:
 うわ,20年後は―――さすがに予測不可能ですね。ただ,私はこう考えています。
 今,私たちは“知能”を,いわばホモ・サピエンスから切り離したものとして考えています。だから「人間であること」は,知能があることだけではないと思っています。もっと何か別の,人間であることの意味がある。
 AIを通じて,私たちは「人間であるとはどういうことか」を,今日知っている以上に学ぶことになると思います。だから今から20年後には,この手の問いについて,まったく違う考えを持っているでしょう。そして「人間であること」が,より重要になる。
 知能が人間だけのものではなくなったとき,むしろ重要性は下がるのではなく,上がりますね。

4Gamer:
 おお……あなたのような人が同じように考えていてとても嬉しいです。
 AIを知るということは,翻って人間について深く知るということですよね。それはどんな世界であれ,どんなAIであれ適用できることで,人間とは何か,何をもって人間とするのか,という定義の根本から揺るがされるときが来ると思っています。

ヒルマー氏:
 本当にそう思います。だから私は,その点で未来を怖がってはいません。何事もそうであるように,私たちはただ色々なことを学び,そして立ち上がっていくんです。

4Gamer:
 まぁ20年はちょっと遠いですが,近い将来においても,人がプレイヤーとして,善であれ悪であれ存在するところに,今度はAIエージェントが住人となって入ってきて,しかもブロックチェーンでスマートコントラクトが法になってくるようなそういう時代に,仮想と現実の境界線はこの後どういうふうに移動していくと思いますか。

ヒルマー氏:
 AIがなくても境界線がかなりぼやけているのは,もう分かりきっていますよね。
 人がオンラインで友達になり,現実でも友達になり,結婚し,子どもを持ちます。境界線は,とてもぼやけています。プレイヤーは20年もこのゲームをプレイしていて,Festに来ます。EVE Onlineでは,プレイヤーはもう通貨を実際のお金で取引しています。最初はeBayでそれが起き,今は主に香港のWebサイトで起きています。だから境界線は常にぼやけていって,その過程を止めるものは本当に何もありません。

4Gamer:
 世の流れであると。

ヒルマー氏:
 でも私は,人はやりたがることをやると信じています。EVEの場合,自分の持ち物を誰かに実際のお金で売りたい人がいて,それはRMT(Real Money Trade)と呼ばれます。
 私たちはEVEをそのために作ったわけではないし,そういう設計でもありません。それでもそれは起きるし,私はそれと戦わないといけません。実際,RMTやBOTなどと戦う大きなチームがあります。

4Gamer:
 でもFrontierでは「戦わない」んですよね?

ヒルマー氏:
 そうです。Frontierを作るときにこう考えました。こうしたことが“合法的に”,そして技術的なゲームデザインとして起こり得る形で世界を作ろう,と。
 全部を解明し,人々がそれを実行できる枠組みを作ります。だってプレイヤーは,私が好むと好まざるとにかかわらず,やるんですから(笑)。それを別の世界で解明しよう,と思ったんです。とても複雑で,解明が難しいから。

4Gamer:
 いっそ世界のシステムとして取り込んでしまうという,その発想が面白いです。

ヒルマー氏:
 色々学んだうえで,それがEVEワールドで意味を成すかどうかを考えればいいのです。EVEの中でその実験を走らせる代わりに,です。境界線のぼやけは本当に止められないもので,ただ事実としてそれは起きます。
 人は人です。善も悪も持ち込みます。ただそういうものなんです。私たちは,これらが生産的に混ざり合う方法を見つけないといけない。だから私たちはそれを実験しているし,それもあって境界線はますますぼやけていくんです。

4Gamer:
 ループしてるんですねそこは。

ヒルマー氏:
 インターネットで起きることと現実で起きることが,Facebookのような場所や,過去の選挙で,ぼやけて混ざり合っているのを私たちは見てきました。だからゲームともぼやけるし,SNSともぼやけるし,絶えずぼやけていきます。
 ……いや待ってください。よく考えたら,それらは本当に違うものなんでしょうか? 本気で考えてみましょう。

4Gamer:
 お,いいですね。どこからいきますか?

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ヒルマー氏:
 “国”という概念に戻ってみましょう。国とは何でしょう。
 都市が何かは分かります。僕は今東京にいて,建物があり,電車があり,リアルです。でも“日本”とは何でしょうか。それはほとんど,ただの“概念”です。
 言語があって,歴史や伝統もあるけれど,それは全部私たちの心の中にあって。“実在”するわけではありません。地面を指さして「これが日本だ」と言えるけれど,本当にそれが日本でしょうか? それはただの「日本という概念」です。

4Gamer:
 僕の好きな感じの話になってきました。

ヒルマー氏:
 たとえば“アイスランドという概念”も,全部私たちの脳の中にあるだけです。
 例えば銀行口座やスマホを見てみると,私が円をいくら持っているか,EVE OnlineでISKをいくら持っているか,アイスランドでISKをいくら持っているか。米ドルは? ビットコインは? それらは全部,スマホの中のただの数字です。
 それらは実在するものなのか,“実在”とは何か,“日本人であること”は一つのゲームなのか……私には本当のところは分からないです。それは持ってる円の大小というスコアであり,学歴やLinkedInのプロフィールという実績です。要するに,全部ぼやけているんですよ。

4Gamer:
 うん,すごく興味深いです。同じようなことを僕もよく考えますけど,でもあなたの話を聞いてより強く思ったのは,もしかして人口40万人という,決して大きくないアイスランドという国でのあなたの経験や知識が,そういう思想に反映しているのでは? と。

ヒルマー氏:
 いや,まさにそれが関係していると思います。アイスランドは“おもちゃの国”みたいなものなんです。

4Gamer:
 もちろん悪い意味じゃないと分かっていて同意しますが,「おもちゃの国」とは言い得て妙です。

ヒルマー氏:
 大統領もいるし,議会もあるし,全部揃ってます。でも私はその人たち全員と友達で,スマホには連絡先が入っていて,みんな知っています。だから小さなおもちゃの国みたいなんです。
 そして自国通貨であるISKです。まるでゲームのスコアみたいなもので,世界で一番“小さい”通貨です。アイスランドのお金を日本の誰かに渡すことは事実上できません。両替所に行ってアイスランドのお金を出しても,「これは何?」となります。まるでMONOPOLYのお金を渡すようなものです(笑)。

4Gamer:
 あぁ……40万人の国とはそういう感じなんですね。日本だと大体横須賀市くらいの規模ですし,僕自身横須賀に住んでたので分かるんですが,確かにそういう感じかもしれません。

ヒルマー氏:
 そういうおもちゃの国の出身だから,日本のような“本物の国”を見ると,とても大きい国に思えます。そして大きな国に住む人は,往々にして視点を失っています。何もかもが大きすぎるから。
 でも小さな経済の中で育つと,それが何でできているのかを,ただ眺めるだけでたくさん学べるんです。とにかくすべてが大きくないから,よく見えるんです。

4Gamer:
 確かにアメリカであれ日本であれイギリスであれ,イメージの中ではすごく強固な国なわけです。自分としては,それらの国がなくなることはまぁないだろうと思ってますし,大きく変わることもないだろう,たぶんこのまま続くだろう,と思ってます。
 でも,もし僕がアイスランドに生まれたら,きっとそうは思わない。かなり不安定な国で,全体が見渡せますから。そういう小さな国での経験が,こういう仮想世界の設計思想になるんだなと,改めて思いました。

ヒルマー氏:
 その考え方はとても正しいと思いますよ。

4Gamer:
 アイスランドという国のゲーム会社が,これほどまでに大きい仮想世界を20年以上運営しているのは,何かアイスランドという国に生まれたことが関係してるのかなとやんわり思ってたんですけど,今日やっとそれが聞けました。

ヒルマー氏:
 多くの人がFan Festでアイスランドに来てくれます。そこで初めてこの国を引いて見てみると,国そのものがとても過酷な環境だと気づきます。火山島で―――日本も火山島ではありますが―――アイスランドの場合は北国だから,木もなんにもありません。ただ溶岩だけ。
 そしてその地は,あなたを殺しにかかってきます。日本にも厳しい気候はあるでしょうが,アイスランドは本当に過酷です。文字通りあなたを殺しにきます。地震,溶岩,滝,間欠泉,暴風……生きるにしては,とても厳しい環境です。

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4Gamer:
 写真で見たことしかないんですが,確かにすごそうです。

ヒルマー氏:
 でもアイスランドの人々は,1000年ものあいだ,その過酷な環境で生きる術を見つけてきました。意味が分かりません。
 人々は,その環境との“終わりなき生存の闘い”を強いられているんです。だから,EVE OnlineやFrontierをプレイすると,ゲームが難しくて大変厳しく,プレイするには苦しくなってくるのは,私たちがアイスランドで育ったから……安全ではない環境をくぐり抜けてきたからだと思います。

4Gamer:
 なるほど環境さえもゲームに反映されているんですね。
 あと人の悪意すらも許容する仮想世界を作っているにもかかわらず,例えばProject Discoveryとかもそうですけど,“人の集合知”みたいなものも手厚く扱っていますよね。そういうのも,アイスランドの環境に関係しているかもしれないですね。。

※EVE Online内のミニゲームという形で,プレイヤーが実際の科学研究データの解析に参加できる市民科学(citizen science)の取り組み。スイスのMMOS(Massively Multiplayer Online Science)とFenris Creationsが共同で運営している。単なるミニゲームではなく,解析結果が「CONCORD議会」に提出されるという設定で,その正解率に応じてISK(アイスランドの通貨)やスキンなどの報酬がもらえるのがミソ。「太陽系外惑星」「COVID-19」などいくつかのフェーズを超えてきて,いまは「がん・免疫疾患」のフェーズ。まさに「知性のプール」だ。

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ヒルマー氏:
 なるほど。確かに,アイスランドで生き延びてきた人たちは,協力を知る人たちだと思います。協力しなかった人は,アイスランドで死んでます。アイスランドは,一人では生きられないから。
 食べ物も果物も,生えてるものが何もありません。そんな厳しい環境に対しては,集団で生き延びなければなりません。

4Gamer:
 そうでしょうね。

ヒルマー氏:
 EVEは複雑で,死のペナルティが高く,7つの大罪も全部揃っていて,あらゆるものが提供されています。そんなゲームで人は,時間をかけて,生産的になることを学んでいたと思います。
 私は,EVEプレイヤーにいつも本当に感心しています。彼らはものすごく賢いです。賢くないとEVEはプレイできないし,あるいはプレイすることで賢くなります。若い頃からEVEをやり始めて,実に多くの分野について,とても速く博識になっていくのを見てきました。

4Gamer:
 僕が挫折しているのは賢くないからですね……。

ヒルマー氏:
 さあ,どうでしょう(笑)。
 そしてこのEVEプレイヤーの集合知は,いわば“メガブレイン”です。これを本物の研究に使えないかと考えました。がん研究,系外惑星の発見,COVID,細胞質のマッピングなど,EVE Onlineに現実の問題を持ち込んで,プレイヤーの集合的メガブレインに現実の問題を解いてもらえないか,と。
 それが,Project Discoveryの生まれた理由です。そしてMMOS(Massively Multiplayer Online Science)という会社と協働してきて,今は色々なゲームで市民科学をやっています。彼らの頭脳で現実の問題を解かれていくのは,とてもやりがいのあることです。

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4Gamer:
 僕もメガブレインに協力したいですが,まずはEVE Onlineプレイヤーにならないと,ですね……。
 すみません,時間がずいぶん経ってしまったので。最後に,日本のプレイヤーにコメントをもらえますか。EVE Onlineそのものは4Gamer読者にはすごく有名なタイトルなので,今後のFenris Creationsという会社について,どうしていくのか,何を目指すのか,あたりをぜひ。

ヒルマー氏:
 私たちは日本のプレイヤーの皆さんに,いつも大きなインスピレーションをもらってきました。過去にも,どうすれば日本のプレイヤーにもっと良いサービスができるか,日本でもっと人気が出るかを考えてきました。だからEVEの日本語ローカライズ版を作りましたし,開発ブログやコミュニティの発信も日本語に訳そうとしています。
 日本のコミュニティはとても熱心で,「日本のプレイヤーにとって何がゲームを良くするか」という声を集めるのを手伝ってくれています。だから,日本のプレイヤーにもっと良いサービスをするために何が役立つか,皆さんにぜひ教えてほしいんです。

4Gamer:
 絶対こういうの日本人向きだと思うんですよね。自分が出来てないのに言うのもアレですが。

ヒルマー氏:
 それから,日本のプレイヤーによるEVE Onlineの様々な“アニメ的な扱い”にも,とてもインスピレーションをもらっています。コミックも作られているし,アニメには“艦娘(ship-girls)”みたいなジャンルがあって,私にはとても興味深いです。
 そして今回も子どもたちと一緒に日本に来て,訪れた街々で様々な文化に深く触れてきました。京都の漫画ミュージアムに行って,1920年頃からの漫画の歴史をすべて見たり。
 3週間の日本滞在で,「今いるプレイヤーにどうすればもっと良いサービスができるか」「どうやったらもう少しプレイヤーを増やせるか」を突き止めることへの,新たな熱意を持って帰ります。それについて日本のプレイヤー達が助けてくれることなら何でも,聞けたらとても嬉しいです。ぜひお気軽に,Xまたはコミュニティチャンネルを通じてご連絡ください。

4Gamer:
 じゃあ手始めに,エージェントAIで新規プレイヤーのための公式メンターを作ってください。新規プレイヤーがゲームに入ったら,それこそ手取り足取りいろんなことを教えてくれて,ゲームが進み出しても一緒にいてくれるような。

ヒルマー氏:
 ふふ。すでにゲーム内に「Aura Assistant」という小さなものがあって,少しは助けになります。でもきっと,それももっと役立つようになりますよ。


4Gamer:
 それが出来たら呼んでください! 5回目の挑戦をします。

ヒルマー氏:
 必ず教えますね(笑)。

4Gamer:
 長い時間ありがとうございました。

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―――2026年7月24日
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