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思春期男子の正統派ラブストーリー。「放課後ライトノベル」第120回は『友達からお願いします。』をお願いします
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印刷2012/12/01 10:00

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思春期男子の正統派ラブストーリー。「放課後ライトノベル」第120回は『友達からお願いします。』をお願いします



「友達からお願いします」

 これは,恋愛マニュアル本にて,告白された時に「もちろん返事はNOだけど,へたに断ったりすると今後の人間関係に差し障りありそうだし,っていうか大して会話したこともないくせに,いきなりコクってくるんじゃねーよ」みたいな場合に,相手の想いをやんわり断るのに最適なワードとして紹介される言葉です。この言葉を真に受けて今後の関係の発展を期待すると,さらに手痛い思いをすることになるので,主に男性諸君には注意が必要だ。

 ちなみに初代「ときめきメモリアル」では,ゲームの都合上,告白イベントが卒業式に発生するため,ここでこいつをこっぴどく振っても今後の人生には何の影響もないと判断した(?)ヒロインたちが「あなたとは幼馴染みだっていうだけでも嫌なのに。それじゃ,さよなら」とか「貴方,何様のつもり? 鏡をよく見て出直すことね」とか,言いたい放題言ってくれる
 確かにバッドエンディングを見るために爆弾を放置してたのは自分だけど,そこまで言わなくてもいいじゃないか……。

 話を戻して,そんなネガティブなワードをそのままタイトルに持ってきたのが,今回の「放課後ライトノベル」で紹介する『友達からお願いします。』だ。作者はMF文庫Jの最初期から活躍している清水マリコだが,MF文庫Jでの発刊は3年ぶり。以前の作品と比べて,いかにもMF文庫Jらしい表紙になっているが,その内容やいかに。

画像集#002のサムネイル/思春期男子の正統派ラブストーリー。「放課後ライトノベル」第120回は『友達からお願いします。』をお願いします
『友達からお願いします。』

著者:清水マリコ
イラストレーター:熊虎たつみ
出版社/レーベル:メディアファクトリー/MF文庫J
価格:609円(税込)
ISBN:978-4-8401-4853-5

→この書籍をAmazon.co.jpで購入する


●モノレールから見える風景が2人をつなぐ


 幼少期のいろいろな事情から,ひっそりと静かに暮らしていきたいと考えるようになった植物系高校生の山科楓(やましなかえで)。ある日,モノレールに乗って休日を満喫しているときに,楓はたまたまクラスメイトである田中木蓮(たなかもくれん)と遭遇する。この木蓮さん,見た目は黒髪ロングの美少女だが,性格にちょっと難あり。真面目すぎるあまり,正しくないと思ったら,そのことをズバズバ口にして注意するため,クラスメイト,とくに男子との軋轢が絶えないのだ。

 そんな木蓮にバレないようにそっと降車する楓だったが,あっさり見つかって,わざわざ駅の外まで追いかけてきた彼女に,急にモノレールから降りたのはなぜかと問い詰められてしまう。やだ,この子めんどくさい……。

 しかし見た目は美少女だし,武士っぽい言葉づかいで,自分がモノレールに乗っていたせいで楓の気分を損ねて申し訳ないなどと謝られては,冷たくあしらうわけにもいかない。楓は仕方なく,モノレールの窓から見える幽霊のような人影,「横顔さん」を眺めたかったのだとカミングアウトする。すると,実は木蓮も楓と同じ理由でモノレールに乗っていたのだという。かくして2人は窓の向こうに見えた「横顔さん」の正体を求めて歩き出す。


●思春期男子による超正統派ラブストーリー


 これまでの清水マリコ作品には,少年少女の交流を中心に,ちょっぴり不思議な要素が加えられていることが多かったが,本作には超常現象もSF要素もない。主人公の性癖が偏っているわけでもなければ,「ヒロインが人肉大好きの連続殺人鬼だった!」みたいなサプライズもなく,なんというか“凄く普通のラブコメ”である。

 月に100冊以上出版されるライトノベル業界において,何かこれという目立った特徴がないと埋もれてしまうんじゃないか? ヒロインの右腕がドリルになっているぐらいのキャラ付けも有りなんじゃないか? と多少不安にもなってしまうが,普通であるということは,裏を返せば「そんな奇をてらった設定がなくても読者を楽しませることができる」という自信の表れともいえる。
 そして作者はそうした期待に応えるがごとく,一人称と三人称を織り交ぜながら,自意識過剰な思春期の童貞マインドを赤裸々に描き出している。

 主人公の楓は,たまたま外で木蓮と出くわしただけで,「おれと田中が噂になったら――おれの地味キャラで田中の価値が下落する」と心配し,友人の加賀涼太(かがりょうた)と木蓮が一緒にリレーに参加するとなれば「もしも田中が涼太をす――好きになったら……」と心配し,さらに自分がちょっと女子の視線を感じたからといって,体育祭でこの子に告白されたらどうしようなどと,とにかくいらぬ心配ばかりしている。しかも最後の心配は単なる勘違いであることが判明し,その後,ものすごく落ち込む羽目になるし……。

 だが,そういう気持ちはよく分かる。普段はマンガとゲームのことぐらいしか考えてないのに,ちょっと女子が絡むだけで,いろいろなことに思いを巡らしてしまうのが高校生男子という生き物だ。そして,清水マリコは女性作家であるにも関わらず,そうした高校生男子の思考を見事にトレースしてみせる。何だか作者の掌の上で踊らされているような気さえするほどだ。


●もどかしい2人の独特な距離感


 そんな楓に対して,木蓮は一見すると凛としたクールビューティな少女で,物怖じしない性格のように思える。だが,そうした周囲からのイメージに反して,怖いものが苦手で風の音に怯えたり,楓の過去を聞いてボロボロ泣いたりと,さまざまな一面を見せてくれる。さらに普段は言いたいことを言っているように見える彼女も,実際には友達に本音が言えないことを悩んでいたりもする。なぜ友達に本音を言えないのかと楓に訊かれて,木蓮はこう答える。

本当のことというのは、めんどくさいからだ
めんどくさいを押しつけられるのは誰でもいやだ

 木蓮らしい真っ直ぐで筋の通った考えではあるが,彼女はこうした本音を,自分のことを嫌っている楓にしか明かせない。もちろん楓が木蓮を嫌っているというのは,木蓮の勘違いなのだが,楓は「きらいじゃないが、きらいの反対かといえばそうではない。しかし、どうでもいい、なんとも思ってないというわけでもない。まとめられるかこんな気持ち!」などと思春期特有のこじらせかたをしているせいで,その勘違いをうまく訂正できない。この男もめんどくさいな!

 この,すれ違っているような,噛み合っているような,独特の関係が心地よい。また,2人の名前に関する共通の秘密や,木蓮が周りに隠している変わった趣味など,小さなエピソードを積み重ねて,互いの距離感をゆっくり縮めていく過程が微笑ましい。

 とくに派手なわけでもケレン味があるわけでもないが,本作は「こういうのも,いいじゃないか」と言いたくなるような,恋愛純度100パーセントのラブコメである。また,一冊完結が多い清水マリコ作品には珍しく,本作は続編が前提となっている。そうだよね,「友達から」ってことはその先があって当然だよね!
 微妙に伏線らしい要素もあるし,出番こそ少ないがブルマ姿の挿絵が大変エロかったサブヒロインの水森彩香(みずもりあやか)ちゃんのことも気になるし,続きもぜひ早めにお願いします。

■友達になれなくても分かる,清水マリコ作品

『ネペンテス』(著者:清水マリコ,イラスト:toi8/MF文庫ダ・ヴィンチ)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#001のサムネイル/思春期男子の正統派ラブストーリー。「放課後ライトノベル」第120回は『友達からお願いします。』をお願いします
 清水マリコは,2002年にMF文庫Jから発売された『嘘つきは妹にしておく』でライトノベル界にデビュー。本作はその後の『君の嘘、伝説の君』『侵略する少女と嘘の庭』の2作と合わせて「嘘」シリーズと呼ばれている。これらの作品は舞台となる町は共通しているものの,ストーリーはそれぞれ独立しているので,どれから読み始めても問題ない。ほかにもMF文庫Jからは「ゼロヨン」シリーズや, 『HURTLESS/HURTFUL』を出している。
 また,ビーンズ文庫から少女向けの作品を発表していたり,一般向けのラブストーリーとして小学館文庫で『日曜日のアイスが溶けるまで』を書いていたり,劇団「少女童話」を主宰していたり,さらに美少女ゲームのノベライズを多く手がけ,現在アニメ放映中の「リトルバスターズ!」のノベライズも執筆予定だったりと,幅広い分野で活躍している。
 多数の作品の中で,どれから手に取ればいいか分からないという人がいるかもしれない。そんな人にお勧めしたいのが『ネペンテス』。心が動揺すると周囲に不幸が起こる西村祐胡と,彼への復讐をたくらむ遠山トオを中心にした連作短編集だ。ゲームに勝つと願いを叶えてくれるおじさんの話。片目だけ色彩が薄れる病気の話。奇妙な植物ばかりが集められた温室の話。日常の中に紛れ込んだ不思議な世界を舞台に描かれる物語の結末は,どれも少しシニカルで読者に苦いものを残す。

■■柿崎憲(衝撃を受けやすいライター)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。今度ドラマ化される『ビブリア古書堂の事件手帖』のキャスティングに衝撃を受けたり,新米婦警のキルコさんが可愛すぎて衝撃を受けたりしているうちに,いつの間にか今年も残り1か月になっていたという柿崎氏。「来年から本気出すので,引き続きよろしくお願いします」と,一足早い2013年の抱負を述べておりました。そのセリフ,去年も聞いた覚えがあります!
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