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大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?
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印刷2022/04/14 22:00

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12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

AMD Ryzen 7 5800X3D

Text by 米田 聡


 2022年4月22日,AMDは,デスクトップPC向けCPU「Ryzen Desktop 5000」シリーズの新製品「Ryzen 7 5800X3D」の国内発売する。税込のメーカー想定売価は6万5300円前後だ。

Ryzen 7 5800X3D
メーカー:AMD
税込メーカー想定売価:6万5300円前後(※2022年4月14日現在)
画像集#002のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 Ryzen 7 5800X3Dは,Zen 3アーキテクチャベースで8コア16スレッド対応のCPU「Ryzen 7 5800X」をベースに,容量64MBのL3キャッシュメモリ「3D Vertical Cache」(以下,3D V-Cache)を追加したCPUだ。AMDは,Ryzen 7 5800X3Dが「卓越したゲーム性能」を有するとアピールしており,ゲーマーにとって見逃せない新製品といえる。本稿では,そんなRyzen 7 5800X3Dのゲーム性能を中心にテストした結果をまとめてみたい。


他社に先駆けて高密度の3次元積層技術を取り入れたRyzen 7 5800X3D


Ryzen 7 5800X3Dの主な仕様
画像集#003のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 Ryzen 7 5800X3DのベースになっているRyzen 7 5800Xは,32MBのL3キャッシュメモリを内蔵している。それに64MBの容量を持つSRAMキャッシュのシリコンダイを「TSV」(Through Silicon Via,シリコン貫通ビア)技術を用いてCPUのダイ上に載せることで,キャッシュメモリの増量を行ったのがRyzen 7 5800X3Dだ。
 オンチップの32MBと追加の64MBを合わせて,ベースモデルの3倍にもなる合計96MBのL3キャッシュを搭載したのが,大きな特徴というわけだ。

 もっとも,シリコンの上に別のシリコンを積み重ねるLSIの実装方法は,それほど目新しいものでもない。実装面積の制限が大きい組み込み系プロセッサやモバイル分野では,CPUのシリコンダイにメインメモリ(DRAM)を積層した製品が以前から利用されている。近年,半導体の3次元化が改めて注目されているのは,半導体の集積度向上に限界が見えてきた一方で,3次元化の技術が進歩していることによる。
 AMDは,競合に先駆けて複数のダイを1つのパッケージに実装する「チップレットアーキテクチャ」をRyzenシリーズに採用したり,DRAMチップを積層してGPUの周囲に実装する「HBM」をRadeonシリーズに採用するなど(関連記事),先進的なパッケージング技術を採用してきた半導体企業だ。

AMDが採用するパッケージング技術の変遷
画像集#004のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 同社がRyzen 7 5800X3Dで採用した「Ryzen Stack Die」と呼んでいる技術も,その流れのひとつで,現時点でもっとも高度な3D化技術を採用した製品となっている。Ryzen 7 5800X3Dがどんな構造になっているのかを示したのが,次のスライドだ。

Ryzen 7 5800X3Dの積層ダイ構造
画像集#005のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 Ryzen Desktop 5000シリーズは,1つのシリコンダイ(CCD,CPU Complex Die)に8基のCPUコアと32MBの共有L3キャッシュを集積している。Ryzen 7 5800X3Dは,そのCCDの中央――32MB L3キャッシュの直上――に,64MBの3D V-Cache Dieを積み重ねたものだ。CCDの両サイドには,ダイ全体の高さを揃えるためのスペーサー(Structural silicon)が貼り付けられている。
 CCDと3D V-Cache Dieは,薄く削られていて,2枚を張り合わせてもRyzen Desktop 5000シリーズのCCDと同じ厚さになっていると,AMDは説明していた。そのため,Ryzen Desktop 5000シリーズと同じヒートスプレッダが使用できるうえ,パッケージ形状やサイズもRyzen Desktop 5000シリーズと完全な互換性が維持できたそうだ。

Ryzen 7 5800X3Dの表面(左)と裏面(右)。パッケージのサイズや形,ピン数などは既存のRyzen Desktop 5000シリーズと変わらない
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スペックを記したスライド。3D V-Cache DieもCCDと同じTSMC 7nmプロセスで製造されており,サイズは41mm2だそうだ
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 CCDと3D V-Cache Dieは,双方に設けられたTSVを介して接続される。次のスライドは,接合部分を拡大したものだ。CCDと3D V-Cache Die双方の誘電層(絶縁体の層)に銅のTSVが貫通していて,互いに接する構造になっているのが見てとれる。

左が2枚のダイを接合する部分を撮影した電子顕微鏡写真
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 写真を見ると,剥がれたり,接触不良を起こしたりすることはないのかと心配になる。AMDによると,TSVの接合部は,まずファンデルワールス力(※原子や分子の間に働く力)によって結合されたうえで,固相拡散接合により融着されるのだそうだ。
 固相拡散接合とは,金属同士を圧着することで互いの分子が融合するという,ある種の溶接のようなものである。そのため,剥がれたり接触不良を起こしたりする,ということはないらしい。

 3D V-Cacheの実装技術は「ハイブリッドボンディング」(Hybrid Bonding)と称するそうだ。利点は,従来の技術に比べて高密度な接合を可能にする点だ,とAMDは説明している。次のスライドは,シリコンダイの実装に使われている端子の間隔を示したものだ。

実装技術の違いによる端子密度の比較
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 左の「C4」(Controlled Collapse Chip Connection)は,シリコンダイを基板やサブストレートに接合する用途で広く使われている実装技術で,端子の間隔は130μmだ。中央の「Micro Bump」はAMDによると「競合が採用している高密実装技術」だそうで,端子の間隔は50μmという。それに対してRyzen 7 5800X3DのHybrid Bondingでは9μmと,桁違いに高密度なわけだ。

CPU-ZでRyzen 7 5800X3Dのスペックを確認してみた。16-WayのL3キャッシュ容量が96MBなのが確認できる
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 高密度に実装した大量の端子によってCCDと3D V-Cache Dieが密に結合しているので,キャッシュメモリの階層構造は,既存のRyzen Desktop 5000シリーズと変わらない。つまり,3D V-Cache Die側のキャッシュメモリは,L4キャッシュのような形で追加されたわけではなく,CCD側のL3キャッシュと合わせて96MBのL3キャッシュとして扱われるのだ。
 とはいえ,CCD上の32MBと3D V-Cache Die上の64MBには,性能面でなにか違いがあるのではないか,と疑問を持つのは当然のこと。そこで,ベンチマークソフト「Sandra 20/21」を使って,キャッシュの帯域幅とレイテンシを調べてみた。
 グラフ1がキャッシュおよびメモリの帯域幅で,グラフ2がキャッシュとメモリのレイテンシである。比較対象は,12コアの「Ryzen 9 5900X」だ。なお,Ryzen 9 5900XとRyzen 7 5800X3Dは,動作クロックが異なるほか,Ryzen 9 5900XはCCDを2基持つ構成なので,あくまで参考である。

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 ポイントは,CCD 1基あたり32MBのL3キャッシュを載せているという点だ。したがって,16〜32MBを超えたメモリブロックやメモリ範囲――グラフでは64MBのところ――で16〜32MBとほぼ同じ帯域幅やレイテンシが得られているのなら,3D V-Cacheの性能は,CCD側のL3キャッシュと同等と判断できる。

 それを押さえたうえでグラフ1を見ると,Ryzen 7 5800X3Dのメモリブロック16MBで約0.55TB/s,64MBで約0.54TB/sを記録した。わずかに落ちているものの,ほぼ同じ帯域幅が得られている。
 ちなみに,比較対象のRyzen 9 5900Xは,2基のCCDを実装してL3キャッシュが32MB+32MBの構成になっているため,32MBを超えるブロックだと内部インターコネクトが介在する。そのため,64MBのブロックでは,Ryzen 7 5800X3Dよりもわずかだが帯域幅が狭くなっていることが読み取れよう。

 グラフ2を見ると,32MBと64MBのメモリ範囲が48クロックで同じレイテンシとなっている。つまり32MBと64MBで帯域幅およびレイテンシが同等なので,CCD上のL3キャッシュと3D V-Cacheは一体として扱われており,性能面でも差がないと判断できるわけだ。
 少し気になるのは,Ryzen 9 5900XにおけるL3キャッシュのレイテンシが44クロックと,Ryzen 7 5800X3Dよりも4クロック速いことだ。これが3D V-Cacheの追加によるレイテンシの増加なのかは,同じ8コアのRyzen 7 5800Xと比較してみないことにはなんとも言えない。残念ながら,今回はRyzen 7 5800Xが用意できなかったので,ここは断言できない。


卓越したゲーム性能をアピールするAMD


 L3キャッシュが増えたといっても,それによってCPUの演算性能が直接向上するわけではない。しかしAMDは,「Ryzen 7 5800X3Dの大容量L3キャッシュが最も効くのは,ゲームである」とアピールしている。

Ryzen 7 5800X3Dの主要なゲームのフレームレートとCINEBENCH R23のシングルスレッドのスコアを,Ryzen 9 5900Xを基準として比較したスライド
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 スライドにあるとおり,CINEBENCH R23のシングルスレッドにおけるスコアは,Ryzen 9 5900Xよりやや低いが,ゲームのフレームレートになると,Ryzen 7 5800X3Dのほうがおおむね上回っている。ちなみに,Ryzen 7 5800X3Dの最大クロックは,Ryzen 9 5900X比で0.94倍ほどと低い。ベースクロックも低いので,CINEBENCH R23のスコアは,おおむねクロック比と同等と考えていいだろう。

 そしてAMDは,「Ryzen 7 5800X3Dのゲーム性能は,Intelの最上位モデル『Core i9-12900K』をも上回る」と豪語している。AMDの調べによると,解像度1920×1080ドットでのフレームレートを23タイトルで比較したところ,ほとんどのゲームでRyzen 7 5800X3Dのフレームレートが上回ったというのである。

23タイトルのゲームで,フルHD解像度のフレームレートをCore i9-12900Kと比較したスライド
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 この計測結果を根拠に,AMDは,「Ryzen 7 5800X3Dならば,250ドルも安い価格でCore i9-12900K以上のゲーム性能が得られる」と主張しているわけだ。
 もっとも,日本ではCore i9-12900Kの実勢価格がこなれてきており,4月中旬の時点で7万5000〜8万円弱なので,Ryzen 7 5800X3Dの想定価格に対して1万〜1万5000円ほど高いだけだ。AMDが言うほどの価格差はないのが実情である。
 いずれにしても,CPUコア数ではるかに勝るCore i9-12900K以上のゲーム性能を,Ryzen 7 5800X3Dは有するとAMDが主張している点は,押さえておきたいポイントだろう。


AMD 300シリーズチップセットを含む既存のSocket AM4マザーボードで利用可能


 以上のような特徴を持つRyzen 7 5800X3Dだが,既存のSocket AM4対応マザーボードならば,最新のBIOS(UEFI)を導入するだけで利用できる点は魅力だろう。AMDによると,BIOSに含まれるAMD製のファームウェアが「AGESA 1.2.0.6b」か,それ以降ならばRyzen 7 5800X3Dに対応しており,AMD 500/400シリーズチップセットに加えて,AMD 300シリーズチップセットを搭載する一部のマザーボードにも提供されるそうだ。
 AGESA 1.2.0.6b以降を組み込んだBIOSは,3月頃から主要マザーボードメーカーが提供を開始しているので,Ryzen 7 5800X3Dを狙っている読者はアップデートしておくといいだろう。

 なお,Ryzenユーザーなら覚えているかもしれないが,Socket AM4初のチップセットであるAMD 300シリーズは,Ryzen Desktop 5000シリーズに対応しないとされてきた。正確に言うと,ハード的に対応できないわけではなく,マザーボード買い替えを促すことでAMDのパートナーであるマザーボードメーカーの売上げを確保するために,AMD 300シリーズではRyzen Desktop 5000シリーズに対するロックが組み込まれていた。
 だが,2022年4月に発売されるRyzen 7 5700Xを始めとするRyzen Desktop 5000シリーズ3製品と,Ryzen 7 5800X3Dは,AMD 300シリーズチップセットでも利用できるようになると,AMDは発表している。
 つまり,長らくアップグレードの道が断たれていたAMD 300シリーズに,久しぶりに新たなCPUアップグレードが用意されたわけだ。AMD 300シリーズのマザーボードを持っているゲーマーにとっては朗報だろう。


ハイエンドCPU 2製品とRyzen 7 5800X3Dの性能を比較


 それでは,実製品のテストに進もう。
 今回は,AMDがRyzen 7 5800X3Dの競合製品と見なしているRyzen 9 5900Xと,Core i9-12900Kの2製品を比較対象として用意した(表1)。

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 Ryzen 7 5800X3Dは,デフォルトの動作クロックに加えて,若干のオーバークロック設定も試してみた。BIOSでブースト時のクロックを標準の4.5GHzから4.7GHzに引き上げるという設定を,本文ではRyzen 7 5800X3D(OC),グラフ内では文字数を考慮して「R7 5800X3D」と表記する。同様に,グラフ内ではRyzen 9 5900Xを「R9 5900X」,Core i9-12900Kと「12900K」と略表記することをお断りしておく。

BIOS設定でクロック倍率を47に設定したオーバークロックも試してみた
画像集#016のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 なお,Ryzen 7 5800X3Dのオーバークロックについては,若干の注意事項がある。AMDによると,現時点でRyzen 7 5800X3Dは,「Precision Boost Overdrive 2」(PBO2)に対応していないとのことだ。Ryzen Desktop 5000シリーズはPBO2に関連して,軽負荷時のコア電圧を下げる「アンダーボルテージオプティマイザー」をサポートしているが,この機能もRyzen 7 5800X3Dでは利用できないとのことである。
 AMDによると,これら機能の一部をRyzen 7 5800X3Dで利用できるよう検討してはいるが,提供時期は未定とのことだった。
 このような理由でRyzen 7 5800X3DではRyzen定番のPBO2が利用できないことから,クロック倍率の変更を試してみた次第だ。

 テストに使用した機材は表2のとおりだ。ASUSTeK Computer(以下,ASUS)製のAMD X570搭載マザーボード「ROG Crosshair VIII Hero(WI-FI)」は,テスト時点でAGESA 1.2.0.6bを含むBIOSバージョン「4006」がリリースされているので,Ryzen 7 5800X3Dを問題なく利用できる。

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 実行するテストは,4Gamerベンチマークレギュレーション25に準拠。ただ,主役のRyzen 7 5800X3Dが8コアCPUなので,CPUコア数がダイレクトに影響してしまうOBS Studioによるゲーム録画テストは省略した。
 実ゲームの解像度は,3840×2160ドット,2560×1440ドット,1920×1080ドットの3パターンを選択し,グラフィックス品質の設定は高負荷よりを採用している。


Ryzen 7 5800X3DがRyzen 9 5900Xを上回るゲーム性能を持つことを確認


 まずは,3DMark(version 2.22.7336)の結果から見ていこう。グラフ3は,3DMarkのDirectX 11テストである「Fire Strike」の総合スコアだ。

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 Fire Strike UltraやFire Strike ExtremeにおけるRyzen 7 5800X3Dのスコアは,AMDがアピールするほど高くはないように見える。一方で,フルHD解像度相当のFire Strikeになると,Ryzen 7 5800X3DのスコアがRyzen 9 5900Xを上回っている点に注目できるだろう。
 総合スコアには,CPU性能テストであるPhysics Scoreが反映される。Physics Scoreは,12コアのRyzen 9 5900Xが8コアのRyzen 7 5800X3Dよりも圧倒的に有利なはずなので,総合スコアでRyzen 7 5800X3Dが上回ったということは,それだけGraphics scoreが高かったのだろうと推測できる。そこを個別スコアで見ていくことにしよう。

 グラフ4は,Fire StrikeのGPUテストである「Graphics test」のスコアだ。

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 同じグラフィックスカードを使っているだけに,Graphics testのスコア差は小さいが,いずれのテストでも,わずかにRyzen 7 5800X3D(OC)やRyzen 7 5800X3Dのスコアが,他より高い。とくにフルHD解像度相当のFire Strikeでは,そこそこ有意な差が出ていると言える。Ryzen 7 5800X3Dの総合スコアが,Ryzen 9 5900Xを上回れた理由のひとつと見て良さそうだ。

 グラフ5は,Fire StrikeのCPU性能テストとなる「Physics test」のスコアである。

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 さすがにこのテストでは,CPUコア数が多いCore i9-12900Kが頭ひとつ抜けた結果を残しており,12コアのRyzen 9 5900Xのスコアも順当にRyzen 7 5800X3Dよりも高い。Ryzen 7 5800X3D(OC)の結果が思わしくないのは気になるところだが,先に述べてしまうと,200MHzのオーバークロックはあまり良い結果をもたらさなかったようだ。その理由については,後段で推測したい。
 なお,Ryzen 7 5800X3Dのスコアは,Ryzen 9 5900Xの約80%ほどにとどまっている。CPUコア数はRyzen 9 5900X比で67%であり,ブーストクロックもRyzen 7 5800X3Dのほうが300MHz低いということを考えると,Ryzen 7 5800X3DのPhysics testのスコアは,むしろ高いと言えよう。3D V-Cacheの効果が,ある程度見えているのかもしれない。

 グラフ6は,GPUとCPU両方に負荷をかけたときの性能を見る「Combined test」のスコアをまとめたものだ。

画像集#021のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 Fire Strike UltraやFire Strike Extremeの差は小さいが,Fire Strikeでは,Ryzen 7 5800X3Dが高スコアを記録した。Ryzen 7 5800X3Dのスコアは,Ryzen 9 5900Xを大きく上回り,Core i9-12900Kに対しても有意に高いスコアを記録している。ただし,オーバークロックはむしろ逆効果という結果だ。
 おそらく,Combined testは,キャッシュが効きやすいテストなのだろう。このスコアが,総合スコアにも影響を与えていることが想像できる。

 続いて,3DMarkのDirectX 12テストとなるTime Spyの総合スコアがグラフ7だ。

画像集#022のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 Time Spy Extreme,Time Spyともに,Ryzen 7 5800X3Dのスコアはあまり思わしくないというか,比較対象以下のスコアしか得られなかった。どうしてこうなったのかを個別スコアで見ていこう。

 グラフ8は,Time SpyのGPUテストとなるGraphics testのスコアだ。Fire Strikeで見られたような明確な差はなく,Time Spy Extreme,Time Spyともに横並びと評していいだろう。

画像集#023のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 一方,大きな差がついたのが,Time SpyのCPUベンチマークとなるCPU testである(グラフ9)。

画像集#024のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 Time Spy Extreme,Time Spyともに,おおむね動作クロックおよびCPUコア数順となった。ちなみに,描画負荷が高いTime Spy ExtremeにおけるRyzen 7 5800X3Dのスコアは,Ryzen 9 5900Xの約70%で,Time Spyは同87%となっている。この結果からだけでは断言できないが,データ量が大きくなる高解像度では,相対的にキャッシュの効果が小さくなることが考えられる。Time Spyのスコア傾向はそれを反映したものかもしれない。

 3DMarkの結果をまとめると,Ryzen 7 5800X3Dは,Fire Strikeでまずまず好成績を収めるが,Time Spyでは目立つスコアを残せなかった,となる。ただ,Fire StrikeもCombined testによるスコアの嵩上げがなければ,Ryzen 7 5800X3Dの成績は目立つものではない点は,押さえておいたほうがいいだろう。

 以上を踏まえたうえで,実ゲームでのテストを見ていこう。
 グラフ10〜12は,Far Cry 6におけるグラフィックス品質「最高」設定の結果である。

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画像集#026のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?
画像集#027のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 3840×2160の平均フレームレートは,ほぼ横並びだ。2560×1440ドットは,Ryzen 9 5900Xの平均フレームレートが5〜6fps程度,他より低いことが目立つ程度だろう。1920×1080ドットの平均フレームレートは,Ryzen 9 5900Xがもっとも低く,Ryzen 7 5800X3DとCore i9-12900Kは,約2fpsの差で並ぶという結果になっている。Ryzen 7 5800X3Dのオーバークロックは逆に足を引っ張っているようだ。
 Ryzen 7 5800X3DがCore i9-12900Kを上回るというAMDの主張は確認できないものの,ほとんど横並びの結果が得られていることは特筆できるだろう。少なくとも,Ryzen 9 5900Xを有意に上回るフレームレートは得られたわけだ。

 続いては,バイオハザード ヴィレッジのグラフィックス品質「限界突破」におけるフレームレートをグラフ13〜15にまとめている。

画像集#028のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?
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 3840×2160ドットと2560×1440ドットでは,有意と言うには微妙ながらもCore i9-12900Kが他よりわずかに高い。1920×1080ドットもCore i9-12900Kが数フレーム高いが,Ryzen 7 5800X3Dの平均フレームレートが有意にRyzen 9 5900Xを上回っている点は,目立つところだろう。バイオハザード ヴィレッジでも,Ryzen 7 5800X3DはCore i9-12900Kを上回ることはなかったものの,Ryzen 9 5900Xよりは有意に高いフレームレートを残したと言えそうだ。

 次のグラフ16〜18はCall of Duty: Warzone(以下,CoD Warzone) Season 2の高負荷設定におけるフレームレートだ。

画像集#031のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?
画像集#032のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?
画像集#033のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 おおむねバイオハザード ヴィレッジと似た傾向で,Ryzen 7 5800X3Dは,Ryzen 9 5900Xに対して低解像度で有意に高い平均フレームレートを記録した。Ryzen 7 5800X3Dは,Core i9-12900Kを上回ることはなかったものの,Ryzen 9 5900Xよりは有意に高いフレームレートを残したという,ここまでと同じ結果だ。

 グラフ19〜21は,Fortniteのグラフィックス品質「ウルトラ」設定におけるフレームレートをまとめたものだ。

画像集#034のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?
画像集#035のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?
画像集#036のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 Fortniteでは,3840×2160ドットと2560×1440ドットがほとんど横並び。1920×1080ドットも横並びだが,強いて言うなら,Core i9-12900Kがわずかに高い平均フレームレートを記録した。Ryzen 9 5900Xも高いフレームレートを記録したので,Ryzen 7 5800X3Dは,Fortniteでは有意な差をつけられなかったと言えようか。

 続いて,Borderlands 3における「ウルトラ」設定の結果をグラフ22〜24にまとめた。

画像集#037のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?
画像集#038のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?
画像集#039のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 3840×2160ドットと2560×1440ドットは,ほとんど横並びだが,1920×1080ドットでは,Ryzen 9 5900Xが平均,最小フレームともにやや低いフレームレートとなった。Ryzen 7 5800X3Dではオーバークロックが足を引っ張っているものの,オーバークロックなしのフレームレートは,Core i9-12900Kとほぼ互角と言っていいだろう。Ryzen 7 5800X3DがCore i9-12900Kを上回ることはなかったものの,並んだと評価できる結果だ。

 ここまでのRyzen 7 5800X3Dは,「AMDが言うほどでもないな」という印象だったが,飛び抜けた結果を残したのが,グラフ25の「ファイナルファンタジーXIV 暁月のフィナーレ ベンチマーク」(以下,FFXIV暁月のフィナーレ ベンチ)である。

画像集#040のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 総合スコアの結果を見ると,3840×2160ドットにおけるRyzen 7 5800X3Dのスコアはほぼ横並びであるものの,2560×1440ドットと1920×1080ドットではRyzen 9 5900Xはもちろん,Core i9-12900Kも圧倒するスコアを記録した。AMDの主張どおりというか,主張を超えるような結果がようやく得られたわけだ。
 なぜこうなるかはなんとも言えないところだが,FFXIV暁月のフィナーレ ベンチは,メモリ性能の影響も受けやすいので,キャッシュを含むメモリ周りの性能差が,高スコアにつながったと見るのが妥当かもしれない。

 グラフ26〜28には,FFXIV暁月のフィナーレ ベンチにおける平均および最小フレームレートをまとめておく。平均フレームレートは,おおむね総合スコアの結果どおりといえる。また,2560×1440ドットや1920×1080ドットでは,Ryzen 7 5800X3Dの最小フレームレートが比較対象よりも有意に高いことが注目できる点だ。

画像集#041のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?
画像集#042のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?
画像集#043のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 実ゲームの最後として,Project CARS 3の高負荷設定における結果をグラフ29〜31で見ていこう。

画像集#044のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?
画像集#045のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?
画像集#046のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 Project CARS 3の結果は,FFXIV暁月のフィナーレ ベンチを除く他のタイトルとほぼ同じで,低解像度においてRyzen 7 5800X3Dは,Ryzen 9 5900X以上の平均フレームレートを記録するものの,Core i9-12900Kにはわずかに届かないという結果になった。

 以上,実ゲームをまとめると,FFXIV暁月のフィナーレ ベンチという例外を除けば,残念ながらRyzen 7 5800X3DがCore i9-12900Kを上回るというAMDの主張は,確認できなかった。ただ,多くのタイトルでRyzen 9 5900Xを上回るフレームレートが得られるのは間違いなく,Ryzen 9 5900Xよりはゲーム向きのCPUであると言える。
 また,Core i9-12900Kを上回ることはほぼなかったとはいえ,肉薄する性能を確認できたことは,評価していいだろう。


ゲーム以外のテストでも,まずまず好成績なRyzen 7 5800X3D


 ゲーム以外のテストも見ていこう。
 先に述べておくと,ゲーム以外のテストの多くはCPUコア数や動作クロックの影響が大きく,今回の3製品の中で唯一の8コアCPUであるRyzen 7 5800X3Dは分が悪い。そのため,このパートでは比較対象に対するRyzen 7 5800X3Dのポジションを確認するだけにとどめたい。

 まず,グラフ32は,「PCMark 10」(version 2.1.2535)の「PCMark 10 Extended」から,Fire Strikeをウインドウモードで実行するGamingを除くスコアをまとめたものだ。なお,今回もGPUアクセラレーションが有効な状態でテストしている。

画像集#047のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 見どころは,オフィスソフトを含む一般アプリの性能を見るProductivityで,Ryzen 7 5800X3DがRyzen 9 5900Xを上回るスコアを残した点だろう。Productivityでは大容量キャッシュが有効に機能したようだ。
 それ以外のスコアに関しては,CPUコア数順の並びでおおむね妥当なところ。CPUコア数が効くDigital Content Creationで,Ryzen 7 5800X3Dのスコアが振るわないのは予想どおりというところだ。

 続いて,「FFmpeg」(Nightly Build Version 2021-10-14-git-c336c7a9d7-full_build)による動画のトランスコード時間をまとめたのがグラフ33だ。

画像集#048のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 CPUコア数が効くテストなので,Ryzen 7 5800X3Dのエンコード時間が,比較対象より長いのは当然だろう。Ryzen 7 5800X3Dは,H.264でRyzen 9 5900X比で約1.3倍,H.265では約1.2倍の時間がかかった。CPUコア数と動作クロックの差を考えるとまずまず優秀と言っていい。
 気になるのは,オーバークロックに効果がないどころか,むしろ逆効果になっている点だが,その理由は後ほど説明したい。

 次に,DxO PhotoLabシリーズの最新版「DxO PhotoLab 5」(Version 5.1.4 Build4728)を用いたRAW現像時間を比較しよう(グラフ34)。

画像集#049のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 おおむね,FFmpegと似た結果だ。Ryzen 7 5800X3Dは,Ryzen 9 5900Xと比べて約1.2倍強の時間がかかった。CPUコア数や動作クロックの差を考えると,優秀と言える結果だ。また,ここでもオーバークロックは逆効果となっている。

 グラフ35は,CPUによる3Dレンダリング性能を見る「CINEBENCH R23」の結果である。

画像集#050のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 Ryzen 7 5800X3Dは,AMDが目安としてレビュワーに説明したスコアと同じか,やや上回るスコアを記録した。マルチコアのスコアをRyzen 9 5900Xと比較すると,Ryzen 7 5800X3Dのスコアは約70%である。CPUコア数比よりは高く,動作クロックの差も考慮すると,Ryzen 7 5800X3Dはまずまず好成績と言える。多少は,L3キャッシュの効果が出ているのかもしれない。

 最後は,「7-Zip」(version 21.07)の結果である(グラフ36)。

画像集#051のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 Ryzen 7 5800X3Dのスコアは,Ryzen 9 5900Xの約73%で,やはりCPUコア数および動作クロックの差を考慮すると,なかなかの高スコアと言えよう。7-Zipも,キャッシュが効いているのだろう。

 以上,ゲーム以外のテストを見ると,Ryzen 7 5800X3Dは8コアとしては高性能なCPUとまとめていいのではないかと思う。キャッシュが効いていると思われるスコアが得られるので,Windowsは快適に使えるはずだ。


ゲームおける電力対性能比で他を圧倒するRyzen 7 5800X3D


 最後にRyzen 7 5800X3DのCPUコア温度や消費電力も見ておこう。
 グラフ37は,ffmpeg実行中にHWiNFO64を使って記録したCPUコア温度の最大値をまとめたものだ。

画像集#052のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 注目すべきは,Ryzen 7 5800X3D(OC)の温度が90℃に達している点だ。ここまでたびたび「オーバークロックが足を引っ張っている」と述べてきたが,原因はおそらくこれだろう。CPUのコア温度が上がるためにブーストクロックを維持できる時間が短くなり,結果として性能が伸びないわけだ。
 もしかすると,2枚のダイを重ねた構造ゆえに,CPUのコア温度が上がりやすいのだろうか。実際,Ryzen 7 5800X3DのCPUコア温度は,Ryzen 9 5900Xよりも3℃ほど高かった。

 いずれにしても,Ryzen 7 5800X3Dで単純にコアクロック倍率を引き上げるだけのオーバークロックは,おすすめできないようだ。AMDは,メモリのオーバークロックをアピールしていたので,そのほうが効果的なのかもしれない。メモリクロックを引き上げると,内部インターコネクトであるInfinity Fabricのクロックも上がるので,キャッシュの効果が上る可能性も期待できる。
 ただ,残念ながら今回は,試用期間が極めて短かったために,メモリのオーバークロックまでは試せなかった。

 続いて消費電力を見ていこう。ベンチマークレギュレーション25に準拠した方法で,アプリケーション実行中におけるCPU単体の最大消費電力と,無操作時にディスプレイ出力が無効化されないよう設定したうえで,OSの起動後30分放置した時点(以下,アイドル時)の計測結果をまとめたのが,グラフ38(ゲーム時)とグラフ39(ゲーム以外)だ。

画像集#053のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?
画像集#054のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 最大消費電力だと,瞬間的に許容できる最大電力(PL2)が251Wという桁外れのCore i9-12900Kが悪目立ちしてしまう。一方,主役であるRyzen 7 5800X3Dは,ゲーム時に最大約110W,ゲーム以外でも125W台に収まっており,比較対象に比べればおだやかだ。
 Ryzen 7 5800X3D(OC)も目立って消費電力が大きくなっていないものの,RAW現像時に136W台を記録するなど,多少消費電力が大きくなっている。最も異なるのはアイドル時で,オーバークロック時には20Wを超えてしまった。
 なお,Ryzen 7 5800X3Dのアイドル時12Wという値は,CCDが1基のRyzenとしては,やや大きめだ。やはり3D V-Cacheの分がやや上乗せされるようである。

 続くグラフ40には,ゲーム実行時の典型的な消費電力を示す消費電力中央値を,グラフ41には,ゲーム以外の実行時における消費電力中央値をまとめている。

画像集#055のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?
画像集#056のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 ゲーム実行時でRyzen 7 5800X3Dがもっとも大きな消費電力を記録したのは,Project CARS 3時で55.6Wだった。90W以上を記録するRyzen 9 5900XやCore i9-12900Kに比べれば低消費電力,と言えるだろう。この電力でRyzen 9 5900X以上,Core i9-12900Kに肉薄するフレームレートが得られるのだから,ゲームにおけるRyzen 7 5800X3Dの電力対性能比はとても高いといっていい。
 ゲーム以外の消費電力だと,Ryzen 7 5800X3Dは,RAW現像時に120W近い消費電力を記録した。公称TDPを超える消費電力を記録してしまったわけだが,Ryzen 9 5900XやCore i9-12900Kに比較すれば,まだ扱いやすいCPUと言っていいはずだ。

 消費電力テストの最後に,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,各テスト実行時点におけるシステムの最大消費電力をグラフ42グラフ43にまとめておこう。

画像集#057のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?
画像集#058のサムネイル/大容量L3キャッシュ搭載の「Ryzen 7 5800X3D」は,12〜16コアのハイエンドCPUと戦えるゲーム性能を有するのか?

 Ryzen 7 5800X3Dのシステム消費電力も,Ryzen 9 5900XやCore i9-12900Kに比べると低消費電力と言っていいだろう。とくにゲーム実行時は,おおむね550W以内に収まっていて,ざっくりRyzen 9 5900Xに比べて約40Wほど,Core i9-12900Kに比べると100Wほども消費電力が低い。この消費電力で高いフレームレートが得られるのだから,お得感は高いはずだ。


Socket AM4のアップグレード対象として価値がありそうなRyzen 7 5800X3D


 以上,Ryzen 7 5800X3Dの性能をチェックしてきた。AMDがアピールするほどのゲーム性能は確認できなかったものの,現時点での「ゲームキング」であるCore i9-12900Kに肉薄するフレームレートが得られた点は,評価できそうだ。それでいて,Core i9-12900Kに比べれば圧倒的に消費電力が低い点も高評価できる。

 もっとも,いまからRyzen 7 5800X3Dを目当てにSocket AM4プラットフォームを新規導入するゲーマーがいるかというと,少々考えにくい気もする。というのも,2022年末には,「Socket AM5」プラットフォームに入れ替わるZen 4世代のRyzenシリーズが登場すると予告されているからだ。Ryzen系の新PC導入を考えているゲーマーなら,次世代のRyzenを待つほうが費用対効果に優れるのではないだろうか。

 したがって,Ryzen 7 5800X3Dの購入目的は,既存のRyzenプラットフォームをアップグレードする目的になるだろう。そう考えると,AMDがここに来てAMD 300シリーズチップセットを改めて新CPUの対象に追加したことも納得できる。アップグレードの間口を広げられるからだ。
 Ryzen 7 5800X3Dがおすすめできるのは,第3世代やそれ以前のRyzenを利用しているゲーマーだ。これらのCPUからなら,Ryzen 7 5800X3Dへの変更で,かなりフレームレートの向上を実現できるはずだ。

 問題は価格だろうか。AMDが予告している6万5300円前後は,おおむねRyzen 9 5900Xの実勢価格と同等か,やや高い程度である。ゲームのフレームレートが最優先というRyzenユーザーなら,Ryzen 7 5800X3Dがおすすめだが,ゲーム性能と同時に高いCPU性能もほしいというゲーマーなら,同価格のRyzen 9 5900Xも選択肢に入ってくる。どちらの用途を重視するかで選ぶことになりそうだ。

AMDのRyzen 7 5800X3D製品情報ページ

  • 関連タイトル:

    Ryzen(Zen 3,Zen 3+)

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