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世界が終わる21ナノ秒前,少女は電話越しの“最後の話し相手”になる。「シュレディンガーズ・コール」レビュー
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印刷2026/05/26 12:00

レビュー

世界が終わる21ナノ秒前,少女は電話越しの“最後の話し相手”になる。「シュレディンガーズ・コール」レビュー

 集英社ゲームズより2026年5月28日にリリースされるシュレディンガーズ・コール(PC / Nintendo Switch)は,日本のインディーゲーム開発チーム・Acrobatic Chirimenjako(アクロバティックチリメンジャコ)が制作するアドベンチャーゲームだ。

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 物語の舞台は,一台の電話機が置かれた不思議な部屋。月の落下によってこれから終わりを迎える世界で,少女・メアリは“世界最後の話し相手”として,死にきれない魂たちの声に耳を傾けていく。
 これまでにもさまざまなゲームイベントに出展され,2026年2月には体験版も配信されているので,すでにその独特の空気に触れた読者もいるだろう。

写真は5月22日から24日まで開催された「BitSummit PUNCH」の集英社ブース
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 本稿では,製品版同等のバージョンをエンディングまでプレイしたうえで,本作が持つ不思議な手触りと,電話越しに誰かの心へ触れていく感覚を紹介していきたい。

 もっとも「シュレディンガーズ・コール」は,プレイヤー自身が作品と出会ったときの印象がとても大切なゲームだ。本稿では物語の核心には触れず,できるだけ先入観を与えない形で紹介していくが,まっさらな状態で本作に触れたい人は,その点を踏まえて読み進めてほしい。

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 「シュレディンガーズ・コール」は,どんな人たちによって,どんな思いで作られたのか。開発チームのアクチリことアクロバティックチリメンジャコの3人と集英社ゲームズに,3人での制作のこと,開発中の迷いや工夫,作品の届け方について聞いた。

[2026/05/26 12:00]


終わりゆく世界で,少女は最後の話し相手になる


 空から月が落ちてきて,21ナノ秒が過ぎると,世界は終わりを迎える。1ナノとは10億分の1であり,つまり21ナノ秒とは,人間には認識できないほど短い時間だ。

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 そんな世界で,主人公の少女・メアリは,いずことも知れぬ空間で目を覚ます。そこにあるのは,古風な電話と,人語を操る黒猫・ハムレットだけ。ハムレットは言葉を話すものの,こちらの疑問には答えてくれない。

メアリ(上写真)と黒猫のハムレット(下写真)
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 わずかな後にすべてが終わる世界で,電話だけを渡されて,いったい何ができるのか。その答えは,電話を通じて,死にゆく者たちの最後の話し相手になることだ。
 心残りを抱えた無数の魂は,安らぎを求めてメアリに電話をかけてくる。メアリは彼らの話を聞き,その心を救うことができるのだろうか。

世界には月が落ち,すべてが破滅する
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 とはいえ,メアリが自分で部屋の外へ出て,聞き込みをすることはできない。
 探偵小説には,現場に行かず,自室や椅子に座ったまま謎を解く「安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)」というジャンルがあるが,確実に壊れていく世界で誰かの人生に残された心残りを掘り起こすメアリは,ある意味では少し変わった安楽椅子探偵といえるかもしれない。

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 頼りになるのは,不思議な力を持つ電話だ。心残りを抱えた魂たちは,この電話に連絡をしてくる。

心残りを抱えた魂には固有の電話番号があり,メアリから電話をかけることもできる。相手と関係のある人物には,「関係因子番号」を使って連絡を取れる
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 通話相手の話を聞いていくと,その人物と縁の深い相手につながる「関係因子番号」が明らかになる。関係因子番号があれば,相手が最後に交わした「未完了通話」を聞くことができる。

「未完了通話」は途切れ途切れの状態だ。通話相手が記憶を取り戻すと続きを聞けるようになるが,世界の破滅を迎えようとしていることには変わりはない
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 未完了通話には,通話相手の心残りが詰まっている。しかし,その通話は世界の破滅と同時に中断されており,肝心な部分が途切れてしまっているのだ。
 メアリは,相手との関係因子との通話を通して,どのようにして依頼者が人生最後の通話へと至ったのか,その過程と思いを知ることになる。
 どうすれば依頼者の心を安らかにできるのか,その方法を探りながら。

メアリは手帳にイラスト入りのメモを書き,聞いた話を整理していく。一目見ればキャラクター同士の関係性これまでの出来事を把握できる
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 ファンタジーとSFが入り混じった不思議な手触りがあるが,通話相手それぞれが抱えている後悔や悩みは,とても普遍的なものだ。

 自分一人で生きていけるのか,それとも誰かのために生きていたいのか。最も苦しいのは,友をねたむ気持ちなのか,自分を嫌う気持ちなのか。嘘をつくのは,人を幸せにするためなのか,自分を消すためなのか。
 そうした問いかけから,さまざまな物語が展開していく。最初は電話越しの誰かでしかなかった通話相手に,いつしか少しずつ心を寄せている自分に気付くはずだ。

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 本作を特徴的なものにしているのは,この電話という,身近でありながら不思議な距離感を生む存在だ。

登場人物の一人であるピーター。郵便配達人だが,好奇心に負けて他人の手紙を覗き見る常習犯でもある。もちろん許される行為ではないが,欲に負けてしまう弱さや後ろめたさには,どこか人間らしい共感を覚える
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自称名探偵のマックスは,殺人事件の謎を解かないことこそが,遺族に被害者を忘れさせない救いとなるのではないかと考える
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 好きな相手に電話をかけるときの期待感。心がつらくても,それでも電話をかけてしまうときの憂鬱。大きな決心をして番号を押し,呼び出し音が鳴り続ける中で,相手が出てくれることを祈る時間――。
 現代にはさまざまな通信手段があるが,電話のコールが鳴っているあの間に生まれる感情には,特有のものがある。そうした悲喜こもごもには,多くの人が何かしら覚えがあるのではないだろうか。

裕福なホテル経営者のジョンは,息子にあらゆる物を与えようとするのだが……
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 電話は親密なものでありながら,同時にどこか遠い。声は届くが,顔は見えない。近くにいるようで,決して同じ場所にはいない。そこには,電話ならではの距離感がある。

 人間関係において,顔を合わせて話すことだけが,いつも最善とは限らない。事情を抱えた者同士だからこそ,直接会うことではなく,電話越しの距離が必要になることもある。 本作に登場するさまざまな人々と向き合っていくうちに,電話越しだからこそ届くもの,電話越しだからこそ保たれるものがあるのだと思えてくる。

喜劇作家のチェホーには,苦楽を共にした友人がいる。しかし,時の流れは残酷だ。チェホーはヒットを飛ばせず,友人は裕福になっていく
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 最善という光と,最悪という闇の間にある,電話という“よりまし”な距離。そのほの暗さを丁寧に描いているところに,本作の大きな魅力があると感じた。

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 ビジュアル面も印象的だ。メアリや通話相手は,手描きのタッチを残したモノクロームのグラフィックスで描かれている。電話越しで顔が見えないためか,通話相手は猫やカエルなど,動物の頭を持つ姿で表現される。

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 静かな趣のあるそれらのビジュアルは児童書や昔の文庫本の挿絵のようでもあり,どこか懐かしさと不穏さが同居している。そこに不思議なエフェクトや演出が重なることで,静かな画面でありながら,見ていて飽きさせないものになっている。

メアリの思考や電話相手との間など,あらゆる場面で印象的なエフェクトや演出が入る
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 本作の公称ジャンルは「ノベルアドベンチャー」だ。ただ,ノベルゲームのように読むことへ完全に特化しているわけではなく,かといって,アドベンチャーゲームのように選択を誤ると即座にバッドエンドへ進むような謎解きが中心というわけでもない。

 印象的なのが,メアリの手帳の使われ方である。当初は真っ白だったページに,新たな事実が分かるたび,メアリがスケッチやメモを残していく。ときには,メモされた情報の中から正しいものを選ぶ場面もあり,読み進めるだけではない,ほどよい参加感がある。

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 相手に電話をかけるときには,番号を入力する必要がある。
 電話帳を見て,番号を確かめ,ダイヤルを回す。そのひと手間は,ダイヤル式の電話を知る世代には懐かしく,そうでない世代には,ダイヤルを回すという“誰かとつながるための行為そのもの”が新鮮に映るかもしれない。

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 本稿ではここまで,エンディングまでプレイしたうえで,できるだけネタバレを避けながら本作の魅力を紹介してきた。
 ただ「シュレディンガーズ・コール」は,冒頭でも伝えた通りプレイした人が自分の感覚で受け取る最初の印象がとても大事な作品でもある。こちらの言葉が,これから遊ぶ人の先入観になってしまう部分もあるだろう。

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 だからまず伝えておきたいのは,これまで公開されてきたイラストや映像,音楽,空気感に惹かれた人なら,その感覚を信じて手に取ってみてほしいということだ。
 手描きのイラストにエフェクトが重なる見せ方,電話越しの会話に生まれる間,声が届いているのに届ききらないような距離感。それらは,実際に触れてこそ強く伝わってくる。

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 ここから先は,プレイ後に読んでもらったほうがいい感想かもしれない。

 個人的に最後まで遊んで感じたのは,本作が,共感できる心残りを抱えた人々の話し相手となり,電話という不思議な距離感を通じて,彼らの人生に触れていく物語であるということだ。
 決して明るい物語ではない。だが,人の生死や後悔を,必要以上に突き放したり,痛みを見世物にしたりする作品でもない。暗さの中に,どこか人の弱さを受け止めるような優しさがある。

決して静かで重いだけの物語ではない。抑えた空気の中に不意に差し込まれるユーモアが,いいアクセントになっている。なおこの場面は一見シリアスだが,実は留守電に吹き込むジョークの度合いを考えているところだ
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 先ほど,メアリにできるのは「死にゆく者の話し相手になること」だと書いた。だが,本作ではもう一つ,重要な出来事が起こる。それが何なのかは,ぜひラストまでプレイして確かめてほしい。その先にある感情まで含めて,本作ならではのゲーム体験として受け取ってほしいからだ。

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